法学:チャンドラ・クリシュナムーティ(Chandra Krishnamurthy)(インド)

2017年7月29日掲載。

ワンポイント:インド第10位の名門大学・ポンディチェリー大学の学長(女性)が、2014年(64歳)、論文盗用(盗用率は72%)だけでなく、著書も盗用(盗用率は95%以上)、博士号取得もデタラメ、出版していない架空の論文や著書を履歴書に記載、などの激しい経歴詐称が発覚した。学生と教職員は学長罷免を激しく要求した。5日間もストを打ち、インドのメディアは大騒ぎしたにもかかわらず、学長を辞任しなかったが、2016 年(66歳)、大統領が乗り出して、ようやく解任になった。多くの情報がウェブに残されている。損害額の総額(推定)は有名大学・学長のネカト事件だから100億円(あてずっぽう)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

チャンドラ・クリシュナムーティ(Chandra Krishnamurthy、写真出典)は、インドのポンディチェリー大学(Pondicherry University)・学長(Vice-Chancellor、VC)で、専門は法学だった。

ポンディチェリー大学は、インド東海岸のポンディチェリーに1985年に創立された国立大学で学生数は5万人である。事件発覚前年の2013年、大学ランキングでインドで第10位に入る名門大学だった。

2014年(64歳)、同じ大学のアバッシ教授(S.A. Abbasi)がクリシュナムーティ学長の論文盗用を見つけ、学術誌に報告した。

その後の調査で、クリシュナムーティ学長には、論文盗用だけでなく、著書も盗用、博士号取得もデタラメ、出版していない架空の論文や著書を履歴書に記載、などの激しい経歴詐称が発覚した。

学生と教職員は学長罷免を激しく要求し、インドのメディアは大騒ぎした。

2016年(66歳)、インド大統領の命令で、学長を解任させられた。

インドのポンディチェリー大学(Pondicherry University)。写真出典

インドのポンディチェリー大学(Pondicherry University)。写真出典

  • 国:インド
  • 成長国:インド
  • 研究博士号(PhD)取得:スリランカの大学・・・後に、ねつ造だと発覚
  • 男女:女性
  • 生年月日:1950年8月15日
  • 現在の年齢:74 歳
  • 分野:法学
  • 最初の不正論文発表:1998年(40歳)
  • 発覚年:2014年(64歳)
  • 発覚時地位:ポンディチェリー大学・学長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ大学のアバッシ教授(S.A. Abbasi)で、クリシュナムーティ学長の論文盗用を見つけ、学術誌に報告した。
  • ステップ2(メディア): インドの多数のメディア、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌「IJLI」誌編集長のマーク・エングスバーグ(Mark Engsberg)。②ポンディチェリー大学教員協会(Pondicherry University Teachers’ Association:PUTA)。③インド政府の人材開発省(Ministry of Human Resource Development HRD)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり
  • 不正:盗用、業績ねつ造、経歴ねつ造
  • 不正論文数:
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は100億円(あてずっぽう)。学長の大ネカト事件なので
  • 結末:解雇

●2.【経歴と経過】

  • 1950年8月15日:インドに生まれる
  • 19xx年(xx歳):インドのxx大学を卒業
  •  xxxx年(xx歳):??
  • 2006年(56歳):国立オリッサ法科大学(National Law University Orissa)・学長
  • 2012年11月(62歳):ポンディチェリー大学(Pondicherry University)・学長
  • 2014年(64歳):ネカトが発覚
  • 2016年(66歳):学長を解任

●3.【動画】

【動画1】
事件ニュース:「ポンディチェリー大学のチャンドラ・クリシュナムーティ博士の盗用(Pondicherry University Dr.Chandra Krishnamurthy Plagiarism) 」(英語)2分28秒
Sange Muzhangu が2014/11/24 に公開
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●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ネカト発覚の発端と経緯

2014年、ポンディチェリー大学・環境工学専攻のアバッシ教授(S.A. Abbasi、写真出典)が同じ大学のクリシュナムーティ学長の論文盗用を見つけ、学術誌「IJLI」誌・編集部に報告した。

2014年11月22日、インドの新聞「インディアン・エクスプレス(Indian Express)」は、クリシュナムーティの著書に盗用が見つかったと発表した。

ムンバイ大学(Mumbai University)のカリキュラムの一部であったクリシュナムーティの著書「インドの法学教育(Legal Education in India)」は、文章の95%以上が、ベンガルール国立法科大学の創設者であるパドマ・シュリ・マドハヴァ・メノン(Padma Shri N R Madhava Menon)ら著名な法学者によって書かれた論文から盗用していた。

さらに、ポンディチェリー大学教員協会(Pondicherry University Teachers’ Association:PUTA)の教授グループは、文字認識の最近の技術と盗作ソフトを使って、20ページの履歴書の経歴詐称を突き止めた。

クリシュナムーティの履歴書に記載されている法律や憲法の研究に関する25報の論文・出版物のうち24報は実在していなかったのだ。出版したハズの2冊の著書も架空で、ねつ造だった。

彼らはまた、クリシュナムーティの履歴書にスリランカ大学(Sri Lankan University)(1978年に解体)で博士号(D.Litt)を取得したとの記載も、虚偽だと突き止めた。

ポンディチェリー大学教員協会(PUTA)、インド学生連盟(Students Federation of India: SFI)、ポンディチェリー地区の元国会議員で元・大学理事長のラムダダス(M. Ramadass)は、インド政府の人材育成省にクリシュナムーティの追放を求めた。

ポンディチェリー大学教員協会(PUTA)の書記局長のダスタギリ・レディー(N. Dastagiri Reddy、写真出典)は、クマウン大学(Kumaun University)のバルワン・ラージプット学長(B S Rajput)が盗用で辞任したように、クリシュナムーティは辞任すべきだと主張した。
→ 物理学:バルワン・ラージプット(Balwant Singh Rajput)(インド)

「私たち研究者の多くは、盗用は学問上の窃盗行為で、学術的極刑に相当するとみなしています。 学長は即刻辞任すべきで、政府・人材育成省はクリシュナムーティの学術業績を徹底的に調査すべきです」と述べた。

★2015年9月8日のボスコ・ドミニク(Bosco Dominique)記者の「Times of India」記事から

以下のクリシュナムーティの単著の「2008年のIJLI」論文は盗用だった。

IJLI誌編集長でエモリー大学・助教授のマーク・エングスバーグ(Mark Engsberg、写真出典)は、次のように述べている。

もう10年も編集長を務めていますが、盗用事件に遭遇したのは初めてです。50年近い歴史を持つIJLI誌にとっても初めての経験です。調査には9か月もかかりましたが、Turnitinで解析すると、少なくとも72%が盗用でした。ポンディチェリー大学(Pondicherry University)の学長の上司はインド大統領なので、盗用の件をプラナブ・ムカルジー(Pranab Mukherjee)インド大統領にも伝えました。

以前にも述べましたが、このようなネカトに対処しなければならないのはとても残念です。特に学術界の有名なメンバーが不正をしたので動転しました。彼(女)らは本来、学者の模範となるべき人なのです」。

★学生と教職員は激しく辞任を要求

2015年8月1日、ポンディチェリー大学の学生と教職員はクリシュナムーティ学長の辞任を求めて、5日間もストライキを打った。下の写真はそのストライキを排除する官憲。 → 2015年8月1日の新聞記事(含・上の写真):Pondicherry Central University strike enters Day 5, cops step in | The Indian Express

【動画】
事件ニュース「ポンディチェリー大学での抗議(Protests at Pondicherry University)」(英語)5分29秒
India Progressing が2015/08/03 に公開
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★解任

結局、プラナブ・ムカルジー大統領も乗り出した。大統領はクリシュナムーティ学長の解任で決着を図ることにした。

2016年4月7日、インド人材育成省は、インド大統領の命を受け、クリシュナムーティ学長の解任を要請する書類を関係者に伝えた(手紙の出典)。

【動画】
事件ニュース:「プラナブ・ムカルジー大統領が人材育成省大臣にポンディチェリー大学のチャンドラ・クリシュナムーティ学長の解任を要求(Pranab Mukherjee Asks HRD Ministry to sack Pondicherry V-C Chandra Krishnamurthy) 」(英語)3分39秒
TIMES NOW が2016/06/29 に公開
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