教育学:ナタリー・ペリー(Natalie Perry)(米)

2025年2月15日掲載 

ワンポイント:ペリーはカリフォルニア大学ロサンゼルス校・医科大学院のDEIのトップオフィサーで、2014年(32歳?)にバージニア大学(University of Virginia)で研究博士号(PhD)を取得した。10年後の2024年4月12日(42歳?)、博士論文の盗用を「City Journal」新聞と「Daily Wire」新聞で指摘された。現在、バージニア大学が調査中。カリフォルニア大学の職は維持している。盗用ページ率と盗用文字率はかなり多い(推定)。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

ナタリー・ペリー(Natalie Perry、Natalie J. Perry、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)・医科大学院(David Geffen School of Medicine at UCLA)・DEIのトップオフィサーで、専門は教育学である。

「DEI」はトランプ大統領が否定的なので、最近、話題に取り上げられているその「DEI」である。

「DEI」はダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(diversity, equity, and inclusion)で、ウィキペディア日本語では「多様性・公平性・包括性 – Wikipedia」と訳されている。以下「DEI」のまま使用する。

2014年(32歳?)、ナタリー・ペリー(Natalie Perry)は、バージニア大学(University of Virginia)で研究博士号(PhD)を取得した。博士論文のタイトルは“Faculty Perceptions of Diversity at a Highly Selective Research-Intensive University”(高度研究集約型大学の教員の多様性認識)だった。

2024年4月12日(42歳?)、博士号を取得してから10年後、バージニア大学に提出した博士論文に、数人の著者から盗用(数千単語)があると「City Journal」新聞と「Daily Wire」新聞で指摘された。

2025年2月14日(43歳?)現在、バージニア大学は調査中である。UCLA医科大学院はこの件に対してメディアに回答せず、ペリーは従来職に在職したままである。

image19米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles:UCLA)正門前の筆者(白楽)

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:バージニア大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2000年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 現在の年齢:43 歳?
  • 分野:教育学
  • 不正論文発表:2014年(32歳?)
  • ネカト行為時の地位:バージニア大学・院生
  • 発覚年:2024年(42歳?)
  • 発覚時地位:UCLA医科大学院・DEIのトップオフィサー
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は「Daily Wire」新聞のルーク・ロシアック(Luke Rosiak)記者と「City Journal」新聞のクリストファー・ルーフォ(Christopher F. Rufo)記者。各新聞に記事を掲載
  • ステップ2(メディア):「City Journal」、「Daily Wire」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①バージニア大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中
  • 大学の透明性:調査中(ー)
  • 不正:盗博
  • 不正論文数:1報
  • 盗用ページ率:不明だがかなり多い
  • 盗用文字率:不明だがかなり多い
  • 時期:キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。クロと判定後、失職すると思われる
  • 処分:なし。クロと判定後、何らかの処分があると思われる
  • 対処問題:
  • 特徴:10年前の博士論文の盗用。新聞記者が発見
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:(1):Natalie J. Perry, PhD | UCLA Medical School、(2):Natalie Perry, PhD | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2000年に大学・学部に入学した時を18歳とした
  • 2000~2003年(18~21歳?):オハイオ州立大学(Ohio State University)で学士号取得:アフリカ系アメリカ人とアフリカ学
  • 2005~2006年(23~24歳?):ハーバード大学(Harvard University)で修士号取得:教育学
  • 2008~2014年(26~32歳?):バージニア大学(University of Virginia)で研究博士号(PhD)を取得:高等教育学。博士論文のタイトルは“Faculty Perceptions of Diversity at a Highly Selective Research-Intensive University”
  • 2014~2021年(32~39歳?):省略。研究職ではない
  • 2021年6月(39歳?):UCLA医科大学院(David Geffen School of Medicine at UCLA)のDEIのトップオフィサー
  • 2024年4月(42歳?):盗博が発覚
  • 2025年2月14日(43歳?)現在:バージニア大学は調査中。UCLA医科大学院の従来の職を維持

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★人生

2014年(32歳?)、ナタリー・ペリー(Natalie Perry)は、バージニア大学(University of Virginia)で研究博士号(PhD)を取得した。分野は高等教育学で、博士論文のタイトルは“Faculty Perceptions of Diversity at a Highly Selective Research-Intensive University”(高度研究集約型大学の教員の多様性認識)だった。 → Faculty Perceptions of Diversity at a Highly Selective Research-Intensive University

指導教授はヘザー・ワシントン(Heather Wathington、写真出典)だった。

2021年6月(39歳?)、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)・医科大学院(David Geffen School of Medicine at UCLA)のダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン(diversity, equity, and inclusion:DEI)のトップオフィサーに就任した。

UCLAには「Cultural North Star」というDEIプログラムがあり、医学部のDEIプログラムはナタリー・ペリーが主導している。

日本の大学にはDEI職がなく、なじみはないが、大学の「文化」を形成する任務を負っている。

ナタリー・ペリー(Natalie Perry)。https://www.dailywire.com/news/dei-official-at-ucla-school-of-medicine-massively-plagiarized-her-dissertation-on-dei

★発覚の経緯

2024年4月12日(42歳?)、デイリー・ワイヤー新聞とシティ・ジャーナルがナタリー・ペリー(Natalie Perry)の博士論文に、数人の著者の文章から、引用なしの盗用(数千単語)があると指摘した。盗用の規模は、ペリーが倫理と独創性の両方に欠陥があることを示しているとある。

新聞記者は盗用の証拠を示す14ページの文書をUCLA医科大学院に送付したが、UCLA医科大学院からの回答を得られていない。

被盗用者の1人であるアリゾナ州立大学ビジネススクール(Arizona State University)のアンジェロ・キニッキ教授(Angelo Kinicki、写真出典)は、盗用告発に対するUCLA医科大学院の対応を問題視している。

ペリーの論文の32~35ページが、キニッキと他の2人の著者、チャド・ハートネル(Chad Hartnell)とエイミー・オウ(Amy Ou)の論文と実質的に同じなのだ。

「そんなに多くの文章を引用なしで流用するなんて、前代未聞です。信じられない。ペリーの博士論文には何か独創的な考えの記述がありますか?」

「文化の担い手であるはずの彼女が、他人の論文を盗用している。彼女はどのような文化を創り出しているのでしょう? それは間違った種類の文化です。そして、大学はなぜ応答しないのでしょうか? 職員としての採用時に博士号所持が評価されているはずなので、資格を持っていない場合、採用自体がおかしいでしょう」とキニッキ教授は述べた。

新聞記者は、盗用論文に対してペリーに教育学の博士号を与えたバージニア大学にもUCLA医科大学院に送付した告発文書と同じ文書を送付した。

バージニア大学の名誉委員会(Honor Committee)は、違反の発生から2年以内のケースしか受理しないが(ペリーの論文は2014年に発表なので、10年前)、研究公正官(Research Integrity Officer)のデイヴィッド・ハドソン(David J. Hudson)は、調査すると述べた。

バージニア大学のブライアン・コイ広報官(Brian Coy、写真出典)は、「私たちは、規則に従って調査を開始しています」と述べた。「大学は、盗用やその他の不正行為を特定し、証明した場合、学位を取り消します」と付け加えた。

2025年2月14日現在、発覚から約10か月が経過したが、バージニア大学は調査結果を発表していない。まだ調査中と思われる。ペリーはUCLA医科大学院の従来職に在職したままである。

【盗博の具体例】

博士論文のタイトルは“Faculty Perceptions of Diversity at a Highly Selective Research-Intensive University”(高度研究集約型大学の教員の多様性認識)だった。 → Faculty Perceptions of Diversity at a Highly Selective Research-Intensive University

―――盗用証拠①―――――

ペリーはミシガン州立大学(Michigan State University)のルーベン・マルティネス教授(Rubén Martinez、写真出典)の文書から4つの段落を盗用した。

左が被盗用文、右が盗用文。以下の図の出典:2024年4月26日のルーク・ロシアックとクリストファー・ルーフォ(Luke Rosiak and Christopher F. Rufo)記者の「Daily Wire」記事:‘Unheard Of’: Plagiarism Victims Sound Off As UCLA Remains Silent On Academic Scandal

―――盗用証拠②:3連の① ――――

以下のテキストの各色付きの部分は、異なる著者から盗用。

左が被盗用文、右が盗用文。以下の図の出典:2024年4月22日のクリストファー・ルーフォとルーク・ロシアック(Christopher F. Rufo and Luke Rosiak)記者の「City Journal」記事:DEI Meets Plagiarism at UCLA | City Journal

―――盗用証拠③:3連の② ―――

―――盗用証拠④:3連の③ ―――

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★スコーパス(Scopus)

2025年2月14日現在、スコーパス(Scopus)で、ナタリー・ペリー(Natalie Perry、Natalie J. Perry)の論文を「Natalie Perry」で検索した。0論文がヒットした。

★撤回監視データベース

2025年2月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでナタリー・ペリー(Natalie Perry、Natalie J. Perry)を「Natalie Perry」で検索すると、 0論文が撤回されていた。「Natalie J. Perry」で検索しても、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2025年2月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ナタリー・ペリー(Natalie Perry、Natalie J. Perry)の論文のコメントを「”Natalie Perry”」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》現所属の対処 

2014年(32歳?)、ナタリー・ペリー(Natalie Perry、写真出典)は、バージニア大学(University of Virginia)で研究博士号(PhD)を取得した。

その10年後の2024年、博士論文に多量の盗用が見つかった。

その時、ペリーはUCLA医科大学院・DEIのトップオフィサーに就任していた。

「Daily Wire」新聞の記事は、バージニア大学は盗博の調査を始めたが、UCLA医科大学院は対処していないと非難している。ペリーは現在もUCLA医科大学院・DEIのトップオフィサー職を維持している。

しかし、ルールとして、バージニア大学がネカト調査し、その結論がクロと出れば、UCLA医科大学院は解雇などの処分を科せるが、UCLA医科大学院は自分の大学が審査していない博士論文を調査する権限も義務もない。もし、盗博と認定したとしても、博士号を授与していないので、博士号を剥奪できない。

だから、現時点では、UCLA医科大学院はバージニア大学の結果が出るまで待つのが、正解である。

でも、UCLA医科大学院は対処していないと非難するのも、一理ある。

それは、盗博が明白だからだ。

UCLA医科大学院・DEIの職責に支障があると思うがどうだろう。DEIのトップオフィサー職を一時保留にするなど、対処すべきだろう。

大学は問題点を把握しておきながら対処しないケースはかなり多い。この問題は、米国も日本も改善すべきである。

《2》盗用の調査

ペリー事件でも明白なように、盗用の調査はねつ造・改ざんの調査と異なり、第三者が調査し判定するのは比較的容易である。というか、当該大学が調査に有利な点はほぼない。

もちろん、盗用調査に関する知識と能力は必要だが、調査する対象は基本的に発表された論文・文書なので、データねつ造・改ざんと異なり、当該大学しか調査できない生データなどのチェックは必要ない。

だから、ドイツで盗博を摘発しているヴロニプラーク・ウィキも外部の人が調査している。

米国も日本もネカト調査(ねつ造・改ざん・盗用)は当該大学がすることになっているが、当該大学は調査拒否や調査結果の歪曲・隠蔽など調査に絡む不正がとても多い。

盗用の調査はねつ造・改ざんの調査とは異なる方式、つまり、当該大学ではなく、ネカト調査機関や外部調査員に調査を任せてもよいのではないだろうか。

いや、むしろ、積極的にネカト調査機関や外部調査員に調査してもらう方が公正が保てる。

日本には公式のネカト調査機関がないので、文部科学省・研究公正推進室が委員を数人委嘱し、調査を任せたらどうだろう。航空機などの事故を調査する航空・鉄道事故調査委員会のような組織もいいですね。権限が強化された運輸安全委員会の方がもっといいけど。

《3》盗博の問題

2024年4月23日の記事・「With Plagiarism, the Problem is Not DEI, But Academia – Plagiarism Today」によると、盗用問題の専門家であるジョナサン・ベイリー(Jonathan Bailey)は、盗用(盗博)に関して、次の問題点を指摘している。

  1. 米国では、学部生には多くの時間と労力を費やしてネカト教育をし、かつ、注意もするけど、その教育を受けてきたと見なされる院生は、知識・スキルを既に身につけているとされ、さほど注意されない。これが盲点になっている。
     → 白楽が思うに、日本は学部生に研究公正の教育をほとんどしていないので、この解釈は日本には当てはまらない。ただ、日本は小中高生と大学・学部生に研究公正の教育をすべきだと思う。 → 2024年11月6日記事:(中高生も探究活動で不正、急務の「研究倫理教育」 「自分の研究は問題ない」勘違いで起こる不正も(東洋経済education×ICT) – Yahoo!ニュース
  2. 多くの博士論文、修士論文、そして研究論文、研究文書を調べると、完全な盗用、不十分な言い換え、引用の問題、など驚くほど多くの盗用が見つかる。これは、大学院教育や学術界のシステム上の問題である。
  3. 盗用指摘の武器化。
    ハーバード大学のクローディン・ゲイ学長の盗用が発覚し批判された。
     → 政治学:クローディン・ゲイ(Claudine Gay)(米) | 白楽の研究者倫理
    特定の個人の盗用を見つけるのは比較的簡単である。調べて何も見つからなければ、それで済むが、見つかると盗用者のキャリアは致命的な損傷を受ける。それで、盗用指摘を武器に、政治家を含め有名人の盗用を調べることが盛んである。
    しかし、武器化した盗用指摘は学問の発展に健全だろうか?

白楽はジョナサン・ベイリーの指摘にほぼ同意する。

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●9.【主要情報源】

① 2024年4月22日のルーク・ロシアック(Luke Rosiak)記者の「Daily Wire」記事:DEI Official At UCLA School of Medicine Massively Plagiarized Her Dissertation On DEI
② 2024年4月22日のクリストファー・ルーフォとルーク・ロシアック(Christopher F. Rufo and Luke Rosiak)記者の「City Journal」記事:DEI Meets Plagiarism at UCLA | City Journal
③ 2024年4月26日のルーク・ロシアックとクリストファー・ルーフォ(Luke Rosiak and Christopher F. Rufo)記者の「Daily Wire」記事:‘Unheard Of’: Plagiarism Victims Sound Off As UCLA Remains Silent On Academic Scandal
④ 2024年5月30日のメアリー・モブレー記者(Mary Mobley)の「College Fix」記事:UCLA med school DEI leader accused of major plagiarism refuses to address allegations | The College Fix
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