2015年1月12日掲載、2023年2月28日更新
ワンポイント:2012年12月23日(54歳)、研究公正局は、オハイオ州立大学(Ohio State University)・教授のエルトンの2004~2010年の6論文にねつ造・改ざんがあったと発表した。2012年1 1月26日(53歳)から3年間の締め出し処分を科した。オハイオ州立大学はエルトンに軽い処分を科しただけで解雇しなかった。オハイオ州立大学の処分は大甘だと批判された。2023年2月27日(64歳)現在も、教授職を維持している。なお、オハイオ州立大学は1回目のネカト調査でシロと結論したが、研究公正局の行政指導を受け、再調査し、一転してクロとした。つまり、この事件は「大学のネカト調査不正」事件でもある。撤回論文は7報。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
テリー・エルトン(Terry Elton、Terry S. Elton、Terry Scott Elton、写真出典)は米国・オハイオ州立大学(Ohio State University)薬学部・教授で、専門は生化学である。
2010年7月(51歳)、エルトンの論文にねつ造・改ざんがあると、米国・研究公正局に匿名の公益通報があった。
研究公正局は、エルトンの所属大学であるオハイオ州立大学に伝えた。オハイオ州立大学・薬学部は調査委員会を発足し、調査を開始した。
1年後の2011年7月(52歳)、オハイオ州立大学・薬学部・ネカト調査委員会は調査の結果、「シロ」とした。
4か月後の2011年11月(52歳)、研究公正局の代理所長・ジョン・ダールバーグ(John Dahlberg)は、「もっとチャンと調査するように」とオハイオ州立大学・薬学部に行政指導を行なった。
1年1か月後の2012年12月23日(54歳)、研究公正局は、テリー・エルトンの2004~2010年(46~52歳)の7年間の6論文にねつ造・改ざんがあった と発表した。
2012年11月26日(53歳)から3年間の締め出し(Debarment Regulations)処分をエルトン に科した。3年間の締め出し(Debarment Regulations)処分は普通の処分である。
一方、オハイオ州立大学はエルトンに軽い処分を科しただけで解雇しなかった。
2023年2月27日(64歳)現在、エルトンは教授職を維持している:Terry Elton | The Ohio State University College of Pharmacy、(保存版)
オハイオ州立大学(Ohio State University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 博士号取得:米国・ワシントン州立大学
- 男女:男性
- 生年月日:1958年12月4日
- 現在の年齢:66 歳
- 分野:生化学
- 不正論文発表:2004~2010年(45~51歳)の7年間の7論文
- ネカト行為時の地位:オハイオ州立大学・教授
- 発覚年:2010年(51歳)
- 発覚時地位:米国・オハイオ州立大学薬学部・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。研究公正局に公益通報
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Columbus Dispatch」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①オハイオ州立大学薬学部・調査委員会。2010年7月~2011年7月。1年間。「シロ」と結論。②米国・研究公正局の要請でオハイオ州立大学薬学部・調査委員会が再調査(①のメンバーと同じかどうか不明。多分別だろう)。2011年11月~2012年12月。1年間。「クロ」と結論。③ 米国・研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2004~2010年(45~51歳)の7年間の7論文が撤回
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
- 処分: NIHから 3年間の締め出し処分。大学からの処分は甘く、解雇(辞職)されなかった
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1958年12月4日:米国で生まれる
- 1981年(22歳):米国・ユタ州にあるウィーバー州立大学(Weber State University)の化学専攻を卒業。
- 1981年(22歳):A.C.グレンキング賞(A.C. Glen King Award)を受賞。
- 1986年(27歳):米国・ワシントン州立大学(Washington State University)で研究博士号(PhD)を取得:生化学
- 1986~87年(27~28歳):米国・ワシントン州立大学・ポスドク
- 1987~88年(28~29歳):米国・アラバマ大学・ポスドク
- 1988年(29歳):米国・アラバマ大学・助教授
- 2003年(44歳)(?):米国・オハイオ州立大学(Ohio State University)・薬学部・準教授、その後、正教授
- xxxx ~xxxx年( xx~ xx歳):オハイオ州のドロシー ・デイビス心肺研究所(Dorothy M. Davis Heart and Lung Research Institute)・研究員を兼任
- 2010年(51歳):ねつ造・改ざん疑惑が米国・研究公正局に通報される
- 2011年7月(52歳):オハイオ州立大学・薬学部・調査委員会は「シロ」と結論
- 2011年11月(52歳):米国・研究公正局の要請で、オハイオ州立大学・薬学部・調査委員会は再調査に入る
- 2012年12月(54歳):オハイオ州立大学・調査委員会と米国・研究公正局が「クロ」と結論した。
- 2023年2月27日(64歳)現在:米国・オハイオ州立大学(Ohio State University)・薬学部・教授職を維持:Terry Elton | The Ohio State University College of Pharmacy、(保存版)
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究テーマ
テリー・エルトン(Terry Elton)の研究テーマは、心疾患でのmiRNA(マイクロ・アールエヌエー)遺伝子発現である。
最初にmiRNA(マイクロ・アールエヌエーと読む)の説明。
miRNA(micro-RNA)とは、細胞内に存在する長さ20から25塩基ほどのRNAをいい、他の遺伝子の発現を調節する機能を有すると考えられているncRNA(ノンコーディングRNA:タンパク質への翻訳はされない)の一種である(miRNA – Wikipedia)
miRNA遺伝子は、心臓タンパク質の発現の3分の1以上を制御していると想定される。エルトンは、心臓の発達と病気にmiRNAが重要な因子だと考え、miRNA遺伝子の発現と心臓疾患との関係を研究していた。
★研究費
1995~2011年の17年間に25件、8年間空いて、2019~2021年の3年間に3件、計28件、NIHの研究費を獲得している。以下出典 → Grantome: Search:Terry S. Elton
★ネカト調査のやり直し
2010年7月(51歳)、エルトンの論文にねつ造・改ざん画像があると、米国・研究公正局に匿名の通報があった。研究公正局は、エルトンの所属大学であるオハイオ州立大学に伝えた
オハイオ州立大学・薬学部はネカト調査委員会を発足し、調査を開始した。
1年後の2011年7月(52歳)、オハイオ州立大学・薬学部・ネカト調査委員会は調査の結果を発表した。
論文に「不規則な」画像はあるが、「意図的な不正行為」ではなくエルトンのズサンさのためであるとし、「シロ」とした。
4か月後の2011年11月(52歳)、米国・研究公正局の代理所長・ジョン・ダールバーグ(John Dahlberg)は、行政指導を行なった。
「チャンと調べれば、エルトンの画像のねつ造・改ざんは明白である。エルトンは長年、ウェスタン・ブロット・バンドの画像を加工し、再使用していた。加工がばれないように、バンドをコピーした後、リサイズ/伸ばす/縮める/暗くする/回転(水平に、垂直に)などの「意図的な不正行為」を行なっている」と、オハイオ州立大学に再調査を要請した。
約1年後の2012年12月23日(54歳)、オハイオ州立大学・薬学部・調査委員会と米国・研究公正局が、今度は、「クロ」と結論した。
ダウン症患者の重要な脳タンパク質を同定するウェスタン・ブロット画像で、画像のねつ造・改ざんがあったと結論した。
なお、エルトンは、テクニシャンのミッキー・マーチン(Mickey M. Martin、女性)が画像をねつ造・改ざんしていたと公表し、マーチンを解雇した。
オハイオ州立大学・薬学部・調査委員会は上記の情報を考慮し、2回目の調査ではマーチンも調査した。しかし、マーチンが画像ねつ造・改ざんをしたのではなく、エルトンが単独でネカトをしたと結論した。
エルトンは6論文を撤回することを了承した。
オハイオ州立大学は、政府からエルトン関連の研究費を160万ドル(約1億6千万円)も受領していた。しかし、エルトンの不正論文だけに使用したのではなく、もっといろいろな研究に使用したと主張し、返納しなかった。
一方、エルトンは、「オハイオ州立大学・薬学部・調査委員会の調査結果とペナルティに、私は同意できません。強く否定します。しかし、論文の図の異常には私にも責任があります」との声明を発表した。この声明では自分がネカト犯ではないという意味を匂わせていた。
ねつ造・改ざん で6論文も撤回されていれば、通常、ネカト教授は、研究界に生き残れない。大学を辞職するケースが多い。
ところが、オハイオ州立大学は、エルトンに対して次のような大甘な処分を科しただけで、教授職を維持することを許容した。とはいえ、エルトンは何年もNIH研究費を獲得できなかった。
エルトンに対する処分は、学部生または院生を 3 年間監督することを禁止、5 年間はすべての論文と助成金申請書を大学に提出してから 審査を進めること、ネカト行為に関するカウンセリングを受けること、研究倫理に関する研修を受講すること、の4点だった。
ただ、この処分が過酷だと評する人もいた。
オハイオ州立大学の研究コミュニケーション担当上級部長(senior director of research communications)のジェフ・グラブマイヤー(Jeff Grabmeier、写真出典) は「エルトン研究室は実質的に閉鎖されたので、処分は過酷だった」と述べている。[白楽注:大学側の人の発言なので、素直に受けとめない方が良い。後述する]
★研究公正局
2012年12月23日(54歳)、研究公正局は、テリー・エルトンの2004~2010年(46~52歳)の7年間の6論文にねつ造・改ざん画像があったと発表した。
2012年11月26日(53歳)から3年間の締め出し(Debarment Regulations)処分をエルトン に科した。3年間の締め出し(Debarment Regulations)処分は普通の処分である。
研究公正局の発表を以下、そのまま貼り付ける。
テリー・エルトンはNIHの5研究所から7件の研究費を獲得していた。
- National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI), grants R01 HL048848, R01 HL084498, and P01 HL70294
- National Institute of Child Health and Human Development (NICHD), NIH, grant R21 HD058997
- National Institute on Aging (NIA), NIH, grant R01 AG021912
- National Institute of Allergy and Infectious Diseases (NIAID), NIH, grant R01 AI39963,
- National Eye Institute (NEI), NIH, grant R01 ES012241
その内、以下の研究費でネカトがあった。
- 1 R21 HD058997-01・・・上記の2番目
- 1 R21 HD058997-01A1 ・・・上記の2番目
- 1 R21 HD058997-01A2 ・・・上記の2番目
- 1 RC1 HL100298-01 ・・・上記に該当なし? ヘン?
6報の論文は以下の通り。2004~2010年(46~52歳)の7年間の6論文である。全部、ミッキー・マーチン(Mickey M. Martin、女性)が共著者である。
- Kuhn, D.E., Nuovo, G.J., Terry, A.V. Jr., Martin, M.M., Malana, G.E., Sansom, SE., Pleister, A.P., Beck, W.D., Head, E., Feldman, D.S., & Elton, T.S. “Chromosome 21-derived microRNAs provide an etiological basis for aberrant protein expression in human Down syndrome brains.’ J Biol Chem 285(2):1529-43, 2010 Jan 8.
- Kuhn, D.E., Nuovo, G.J., Martin, M.M., Malana, G.E., Pleister, A.P., Jiang, J., Schmittgen, T.D., Terry, A.V. Jr., Gardiner, K., Head, E., Feldman, D.S., & Elton, T.S. “Human chromosome 21-derived miRNAs are overexpressed in Down syndrome brains and hearts.’ Biochem Biophys Res Commun 370(3):473-7, 2008 Jun 6.
- Martin, M.M., Buckenberger, J.A., Jiang, J., Malana, G.E., Knoell, D.L., Feldman, D.S., & Elton, T.S. ” TGFß1 stimulates human AT1 receptor expression in lung fibroblasts by cross talk between the Smad, p38 MAPK, JNK, and PI3K signaling pathways.’ Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol. 293(3):L790-9, 2007 Sept. (Retracted: Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol. 302(7):L719, 2012 Apr.)
- Martin, M.M., Buckenberger, J.A., Jiang, J., Malana, G.E., Nuovo, G.J., Chotani, M., Feldman, D.S., Schmittgen, T.D., & Elton, T.S. “The human angiotensin II type 1 receptor +1166 A/C polymorphism attenuates microRNA-155 binding.’ J Biol Chem 282(33):24262-9, 2007, Aug 17.
- Martin, M.M., Buckenberger, J.A., Knoell, D.L., Strauch, A.R., & Elton, T.S. “TGF-beta(1) regulation of human AT1 receptor mRNA splice variants harboring exon 2.’ Mol Cell Endocrinol 249(1-2):21-31, 2006 Apr 25.
- Duffy, A.A., Martin, M.M., & Elton, T.S. “Transcriptional regulation of the AT1 receptor gene in immortalized human trophoblast cells.’ Biochim. Biophys. Acta. 1680(3):158-70, 2004 Nov 5.
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2012年12月23日の研究公正局の発表では、ねつ造・改ざんされた具体的な論文と図が示されている。研究公正局の発表はウェブから削除されているので、以下は、2013年1月16日の記録「NOT-OD-13-023: Findings of Research Misconduct」を使用した。
- Figures 2C, 2D, 2F, 3C, 3E, 4G, 5C, 5F: J Biol Chem 285(2):1529-43, 2010 Jan 8
- Figures 3B, 3C, 3F, 3H, 3I, 3J: Biochem Biophys Res Commun 370(3):473-7, 2008 Jun 6
- Figures 2, 3, 4B, 5B, 6, 7B, 8A, 9B: Am. J. Physiol. Lung Cell. Mol. Physiol. 293(3):L790-9, 2007 Sept
- Figure 6: J Biol Chem 282(33):24262-9, 2007 Aug 17
- Figure 6: Mol Cell Endocrinol 249(1-2):21-31, 2006 Apr 25
- Figures 5, 6B, 7B, 9B: Biochim. Biophys. Acta 1680(3):158-70, 2004 Nov 5.
また、ねつ造・改ざんされた具体的なNIH 研究費申請書と図も示されている。
- Figures 4, 7, 11C: 1 R21 HD058997-01
- Figures 7B, 7E, 8B: 1 R21 HD058997-01A1
- Figures 3C, 3F, 6C: 1 R21 HD058997-01A2
- Figure 6 in grant application 1 RC1 HL100298-01.
★「2010年1月のJ Biol Chem」論文
上記論文リストの1番目の「2010年1月のJ Biol Chem」論文を見ていこう。書誌情報を以下に示す。2013年2月8日に撤回された。
- Chromosome 21-derived microRNAs provide an etiological basis for aberrant protein expression in human Down syndrome brains.
Kuhn DE, Nuovo GJ, Terry AV Jr, Martin MM, Malana GE, Sansom SE, Pleister AP, Beck WD, Head E, Feldman DS, Elton TS.
J Biol Chem. 2010 Jan 8;285(2):1529-43. doi: 10.1074/jbc.M109.033407. Epub 2009 Nov 6.
不正画像 は図2C, 2D, 2F, 3C, 3E, 4G, 5C, 5Fだとある。
ーーーー以下は、不正画像(図2C、2D)である(出典は原著)。
ウェスタン・ブロット画像で、「CON」はコントロール、「DS」はダウン症患者である。ウェスタン・ブロットのバンドの濃さが発現の強さを示している。
皆さん、これを見て、画像のどの部分がねつ造・改ざんされたのかわかりますか?
白楽は全くわかりません。
もちろん、ここに示していない他のバンドと比較しないとわからない面もあるけれど、「このバンド、ナンカおかしくない?」と感じなければ、精査しません。
「このバンド、ナンカおかしくない?」という不信感を微塵も抱かせない出来栄えです。それを見破った告発者の能力の高さに敬服します。
研究公正局は、バンドをリサイズ/伸ばす/縮める/暗くする/回転(水平に、垂直に)などしているという。となると、加工操作を肉眼で見破るのは難しかっただろう。
ーーーー以下は、不正画像(図2F)である(出典は原著)。
画像が小さいので拡大した。
白楽は、画像のどの部分がねつ造・改ざんされたのかわかりません。
ーーーー以下は、不正画像(図3Cと3E)である(出典は原著)。
画像が小さいので拡大した。
白楽は、画像のどの部分がねつ造・改ざんされたのかわかりません。
不正画像の図4G, 5C, 5Fは省略した。
★「2008年6月のBiochem Biophys Res Commun」論文
上記論文リストの2番目の「2008年6月のBiochem Biophys Res Commun」論文を見ていこう。書誌情報を以下に示す。2013年7月5日に撤回された。
- Chromosome 21-derived microRNAs provide an etiological basis for aberrant protein Human chromosome 21-derived miRNAs are overexpressed in down syndrome brains and hearts.Biochem Biophys Res Commun. 2008 Jun 6;370(3):473-7. doi: 10.1016/j.bbrc.2008.03.120. Epub 2008 Apr 1.
不正画像 は図 3B, 3C, 3F, 3H, 3I, 3Jだとある。
ーーーー以下は図3で、不正画像(図 3B, 3C, 3F, 3H, 3I, 3 J )を含んでいる(出典は原著)。
ヒト胚海馬でのインサイチュー・ハイブリダイゼーション(in situ hybridization)像で、色の濃い部分にmRNAが合成されている。「Control」はコントロール、「Down Syndrome」はダウン症患者である。
単なる画像と考え、生命科学の専門的なことがわからなくてもかまわない。
皆さん、こちらはどうでしょう。
どの画像のどの部分がねつ造・改ざんされたかわかりますか? 「コレ、ナンカおかしくない?」と感じる部分があります?
白楽は「似ている画像がある気がしますが、わかりません」。
告発者の能力の高さに敬服します。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2023年2月27日現在、パブメド(PubMed)で、テリー・エルトン(Terry Elton、Terry S. Elton、Terry Scott Elton)の論文を「Terry S. Elton[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の53論文(保存版)がヒットした。
「Elton TS」で検索すると、1985年~2023年の39年間の93論文(保存版)がヒットした。
エルトンがネカト者だと指摘したテクニシャンのミッキー・マーチン(Mickey M. Martin)は、80論文の内の36論文(1992~2016年)で共著者になっている。
内14報はマーチンが第一著者である。
ということは、テクニシャンとあるが、マーチンはただのテクニシャンではなく、研究能力が高い人で、研究室では研究者レベルに扱われていただろう。
2012年12月に研究公正局にクロと結論され、ネカト犯はミッキー・マーチンだとエルトンは言っているのに、その後の2013年に3報、2016年に1報、ミッキー・マーチンと共著の論文を発表している。
この人間関係を白楽は理解できない。
無理に理解すると、研究能力が高い人は貴重なので、過去の非難的やり取りを飲み込んで、損得勘定を優先して再雇用したのだろう。
2023年2月27日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2004~2010年の 7論文が撤回されていた。
ミッキー・マーチンは7撤回論文ですべて共著者になっている。7撤回論文の内4論文は、マーチンが第一著者である。
★撤回監視データベース
2023年2月27日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでテリー・エルトン(Terry Elton、Terry S. Elton、Terr y Scott Elton)を「Terry S. Elton」で検索すると、2004~2010年の7論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年2月27日現在、「パブピア(PubPeer)」では、テリー・エルトン(Terry Elton、Terry S. Elton、Terry Scott Elton)の論文のコメントを「”Terry S. Elton”」で検索すると、2論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》「大学のネカト調査不正」事件
オハイオ州立大学は1回目のネカト調査でシロと結論したが、研究公正局の行政指導を受けた。
再調査後、一転してクロと判定した。
エルトン事件は「大学のネカト調査不正」事件でもある。
研究公正局から行政指導されて、大学が結論を変えた事実が、メディアで報道されるのは、良くあることなのか、珍しいのか、白楽は判断できない。
ただ、オハイオ州立大学は、以前にも似たようなことをしている。 → ミンジュン・ジャン(Mingjun Zhang、张明君)(米) | 白楽の研究者倫理
オハイオ州立大学は、ネカト対処での問題が多い大学で、他のネカト事件でも異常は判定をしている。例えば、クロと思われるクローチェ事件でシロと結論している。 → カルロ・クローチェ(Carlo Croce)(米) | 白楽の研究者倫理
なお、通常、大学の調査不備は公表されないで再調査されることが多い、と白楽は思う。公表されない事案なので、「大学の調査不備で再調査」数のデータは見つからない。
日本では「大学のネカト調査不正」があっても、政府は行政指導をしない。
「5C 長崎大学の盗用事件」で、文部科学省と日本医療研究開発機構(AMED)に「長崎大学のネカト調査不正」を指摘しても、文部科学省は指摘を無視し不作為だった。
日本医療研究開発機構(AMED)は「研究者が所属する研究機関において責任をもって対応することが定められております」と行政指導しない旨の返事が来た。
日本を世界と比較できるデータはないが、日本は「大学のネカト調査不正」大国だと思う。
「大学のネカト調査不正」が頻発し許容されていることが、研究不正大国の一因になっていると思う。
《2》いい加減過ぎる
エルトンは、年俸13万146ドル(約1,301万円)の教授だが、オハイオ州立大学の処分は、3年間、学部生・大学院生・ポスドク・テクニシャンの主要な指導教員になれないというものだった。
「撤回監視(Retraction Watch)」のオランスキーは、「他の同程度の不正研究では、解雇されている。このレベルの不正研究で早期退職させないのは、普通ではありえない」と述べている。
オハイオ州立大学のキャロライン・ウィタクレ研究担当副学長(Caroline Whitacre、写真出典)は、エルトンの処分は「厳しい」と述べ、過剰過ぎる自大学の保護と不正研究の大甘な処分が、批判されている。
ウィタクレ研究担当副学長は、エルトン事件での大学の対応を次のように弁解した。
「不正研究のそれぞれはとても多様で、2つとして同じものはないし、少しも似ていない。私たちは、不正研究に対するチェック機能と均衡機能をもっています。研究公正局から再調査を要請されたのは今回が始めてです」
オランスキーは次のように批判している。「自分たちが初めて見逃してしまった言い訳を探すより、不正研究に対してできる限り完全な仕事をすることが必要です。「不正研究でしょ」と研究公正局にヒジでつつかれる必要があるような、そんな無責任な大学に、税金が使われるべきではないでしょう」、と。
《3》故意犯
エルトンのねつ造・改ざんは、どう見ても、「悪いと充分知っている」ので「見つからないよう工夫した不正研究」という故意犯である。
最初の撤回論文の発表が2004年(45歳)なので、キャリアの中盤から不正をしたと、一応、書いたが、こういう故意犯は、多分、キャリアの初期から不正をしている。見つからないよう工夫しているので、見つからないだけだろう。
オハイオ州立大学は、自分の大学に所属する以前の論文には責任はないと考え、2003年(44歳)以前(その頃から在籍と推定した)の論文を調査していない。
テリー・エルトン(Terry Elton):Terry Elton | The Ohio State University College of Pharmacy、(保存版)
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2012年12月23日:研究公正局の発表(削除された)。(2)2012年12月26日の連邦官報:2012-30866.pdf。(3)2012年12月26日の連邦官報:Federal Register, Volume 77 Issue 247 (Wednesday, December 26, 2012) 。(4)2013年1月16日:NOT-OD-13-023: Findings of Research Misconduct。
② ウィキペディア:Terry Elton – Wikipedia, the free encyclopedia
③ 2012年12月23日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:ORI: Ohio State researcher manipulated two dozen figures in NIH grants, papers – Retraction Watch at Retraction Watch
④ ◎ 2013年1月6日のベン・サザーリ(Ben Sutherly)記者の「Columbus Dispatch」記事: Probe by OSU missed fraud | The Columbus Dispatch
⑤ 2013年2月1日のジェッス・ジェンキンス(Jesse Jenkins)記者の「BioTechniques」記事:BioTechniques – MicroRNA Researcher Manipulated Data (リンク切れ)
⑥ 2016年8月24日のダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:7th retraction for Ohio researcher who manipulated dozens of figures – Retraction Watch
⑦ 2013年1月7日のアブドゥルラフマン・アルルワイシャン(Abdulrahman Al-Ruwaishan)記者の「Lantern」記事:Ohio State pharmacy professor tampered with research data, hit with ‘severe’ federal sanctions – Campus – The Lantern – Ohio State University
⑧ 2011年12月21日のベン・サザーリ(Ben Sutherly)記者の「Columbus Dispatch」記事:OSU professor to retract research over data-falsification finding | The Columbus Dispatch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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