ジュン・フゥ(Jun Fu)(米)

2025年7月30日掲載

ワンポイント:2014年8月1日(30歳?)、研究公正局は、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・ポスドクだったジュン・フゥの1報の発表論文にねつ造・改ざんがあったと発表した。2014年7月15日から2年間の締め出し処分を科した。この事件の詳細は不明である。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

ジュン・フゥ(Jun Fu、写真出典)は、米国のテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・ポスドクで、専門はがん治療薬だった。

ネカト発覚の経緯は不明だが、内容から判断して同じ研究室の上司または同僚が見つけ、告発したと思われる。

発覚時期は、2014年6月頃(30歳?)と推定した。

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターがネカト調査を終え、クロと判定し研究公正局に報告した。

2014年7月頃(30歳?)、ジュン・フゥはテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターを辞職した(させられた)。

2014年8月1日(30歳?)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・ポスドクだったジュン・フゥの1報の発表論文にねつ造・改ざんがあったと発表した。

2014年7月15日(30歳?)から2年間の締め出し処分を科した。2年間の締め出し処分は少し軽い処分である。

2014年頃の米国のネカト調査はどれも迅速だったわけではないが、ジュン・フゥ事件では、大学のネカト調査、その後の研究公正局の認定が発覚から数か月で終わっていて、とても速い。

ジュン・フゥのその後の消息および2025年現在の状況は不明である。

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:不明
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:不明
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2012年にポスドクとして論文発表した時を28歳とした
  • 現在の年齢:41歳?
  • 分野:がん治療薬
  • 不正論文発表:2013年(29歳?)
  • ネカト行為時の地位:テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター・ポスドク
  • 発覚年:2014年(30歳?)
  • 発覚時地位:テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明だが、同じ研究室の上司または同僚と推定
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:1報の出版論文
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)(推定)
  • 処分:NIHから 2年間の締め出し処分
  • 対処問題:
  • 特徴:状況はほとんど不明
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明。

  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2012年にポスドクとして論文発表した時を28歳とした
  • xxxx年(xx歳):xxのxx大学で学士号を取得
  • xxxx年(xx歳):xxのxx大学で研究博士号(PhD)を取得:xx学
  • 2012~2014年(28~30歳?):米国のテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)・ポスドク
  • 2014年5月12日(30歳?):キャロライン・ロス基金フェローシップ(Caroline Ross Endowment Fellowship)・受賞
  • 2014年6月(30歳?)(推定):不正が発覚
  • 2014年8月1日(30歳?)以前:テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターを辞職(解雇?)
  • 2014年8月1日(30歳?):研究公正局がネカトと発表
  • 2025年7月29日(41歳?)現在:研究職に就いているかどうか不明。居住国と所属も不明

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

顔と姓名から、ジュン・フゥ(Jun Fu、右写真出典)は中国で生まれ育ったと思われが、生まれ育ちは不明である。

2012年(28歳?)、米国のテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)のポスドクとして論文を発表している。ボスはアルフレッド・ヤング教授(W K Alfred Yung、左写真出典)だった。

ネカト発覚の経緯は不明だが、内容から判断して同じ研究室の上司または同僚が見つけて告発したと思われる。

発覚時期は、2014年6月頃と思われる。というのは、研究公正局は2014年8月1日にクロと認定したが、その3か月前の5月、ジュン・フゥは以下のキャロライン・ロス基金フェローシップを受賞している。受賞前にネカトが発覚した場合、大学はそういうポスドクを賞の候補者に推薦しない。受賞決定直後に発覚したなら受賞を辞退させるだろう。受賞取り消しが難しいタイミングに発覚したのだろう。

2014年5月12日(30歳?)、キャロライン・ロス基金フェローシップ(Caroline Ross Endowment Fellowship)の受賞者の一人に選ばれた。 → Today Dr. Raymond Sawaya, Director of… – MD Anderson Brain and Spine

★研究公正局

2014年8月1日(30歳?)、研究公正局はNIHグラントのCA56041と CA127001でアルフレッド・ヤング教授に助成した1報の発表論文で、ジュン・フゥがねつ造・改ざんしていたと発表した。

2014年7月15日(30歳?)から2年間の締め出し処分を科した。2年間の締め出し処分は少し軽い処分である。

1報の発表論文は以下の通り。「2013年5月のCancer Res」論文である。

図8Aを故意にねつ造・改ざんしたことをジュン・フゥが認めた。

なお、この論文は、ノバルティス社(Novartis)の化合物NVP-HSP990がマウスの脳腫瘍を抑えるのに効果があるとする内容だった。

少し専門的になるが、NVP-HSP990はHSP90 阻害剤である。→ NVP-HSP990:Drug Details

そして、第一相臨床試験が行われていた。第一相臨床試験:Search for: Other terms: hsp990 | List Results | ClinicalTrials.gov

さらに、ジュン・フゥとは別の研究グループが、2013年に学会でも発表していた。Program Guide – ASCO Meeting Program Guide

研究不正が発覚し、NVP-HSP990は医薬品としての開発は中止された。

なお、NVP-HSP990はリストされていないが、世の中には開発が中止された医薬品はたくさんある。 → Category:Abandoned drugs – Wikipedia

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2013年5月のCancer Res」論文

「2013年5月のCancer Res」論文の書誌情報を以下に示す。2014年11月15日、撤回された。 → 撤回公告

研究公正局は図8A(以下:出典は原著論文)がねつ造・改ざんされていたと述べている。図8Aはマウスの脳の組織化学染色像である。

しかし、画像を見てもどこがどうねつ造・改ざんされたのか、白楽はわからない。

研究公正局の報告書をよく読むと、画像そのもののねつ造・改ざんと言うより、マウスの生存日数を偽造したとある。

NVP-HSP990が神経膠腫腫瘍を持つマウスの生存日数を延長した不正だった。これは、NVP-HSP990にがん治療効果があることを示すために、マウスの延命を画策したと思われる。

治療効果があるというデータがねつ造・改ざんされていれば、臨床試験は失敗する。無駄にカネがかかるし、治験者の献身的な行為も無駄にある。

★ズサンな調査

「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメント欄にネカトハンターのポール・ブルックス教授(Paul S. Brookes)が他にもネカト疑惑箇所が4点あると「August 1, 2014 at 10:11 am」に指摘している。

ブルックス教授は有名なネカトハンターである。 → 7-177 ブルックス教授の研究不正摘発(ネカトハンティング)指南 | 白楽の研究者倫理

7-177 ブルックス教授の研究不正摘発(ネカトハンティング)指南

ネカト疑惑箇所4点のうち、1点を示すと、図3Cでは薬剤50nM処理とあるが、補足図2Bは、同じブロット画像なのに薬剤20nM 処理とある、とブルックス教授は指摘した。

研究公正局がもっと時間をかけて調査すべきだった稀なケースだと述べている(「稀な」は皮肉?)。

ねつ造・改ざんが1件ではなく5件なら、処罰は5倍になるはずで、2年間ではなく、10 年間の締め出し処分が妥当と、ブルックス教授は述べている。[白楽の感想:10年間は長すぎる。3~4年間?]

白楽が思うに、「マウスの生存日数の延長」という改ざんは、出版された論文の内容・図表を見ても、第3者は見つけられない。生データにアクセスできる内部者でなければ、ジュン・フゥのデータねつ造・改ざんを見つけられない。

ということは、ネカトを見つけた人は研究室の上司または同僚だろう。

ジュン・フゥの別の論文でもこのタイプの研究不正をしている可能性は高い。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2025年7月29日現在、パブメド(PubMed)で、ジュン・フゥ(Jun Fu)の論文を「Jun Fu [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2025年の24年間の750論文がヒットした。

同姓同名の別人の論文が多数含まれていると思われる。

2025年7月29日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。

同姓同名の別人の撤回論文が含まれていると思われる。

それで、ボスはアルフレッド・ヤング教授(W K Alfred Yung)と共著の論文を「Jun Fu [Author] AND W K Alfred Yung[Author]」で検索した。すると、2012~2014年の3年間の4論文がヒットした。

2025年7月29日現在、ボスと共著の論文の論文に関して「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2013年5月のCancer Res.」論文・1論文が2014年11月15日に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2025年7月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジュン・フゥ(Jun Fu)を「Jun Fu」で検索すると、「2013年5月のCancer Res.」論文を含む9論文が撤回されていた。

同姓同名の別人の論文が多数含まれていると思われる。

★パブピア(PubPeer)

2025年7月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジュン・フゥ(Jun Fu)の論文のコメントを「”Jun Fu”」で検索すると、本記事で問題にした「2013年5月のCancer Res.」論文を含む15論文にコメントがあった。

同姓同名の別人の論文が多数含まれていると思われる。

●7.【白楽の感想】

《1》事件記録 

11年前の2014年のネカト事件だけど、研究公正局がクロと発表し、官報に記載された事件である。

事件の状況に関して、ウェブ上には骨子しか残っておらず、既に、事件を的確に理解するのは難しい。

過去の事件から何をどう学ぶか、学べるか、学ぶ人の力量もあるけど、11年前の米国のジュン・フゥ事件は、もう、骨子しかわからない。血や肉の記録は見当たらない。

こうなると、学ぶことよりも先に事実として、研究不正事件の記録をそれなりに残すことが重要である。

今となっては、当時でも情報は少なかったのか、当時情報はそれなりにあったけど、この11年間でドンドン消えていったのか、もわからない。

《2》小さな事件でも命取り 

研究者の事件を解説していて、「マズイ」と思うことがいくつかある。例えば、以下の投稿を読んで、「マズイ」と思った。

上記の発言のように、「研究不正実例集」は「ぶっ飛んだ」事件しか扱わない。「あぁ、これは全く自分該当しませんわ・・・」という「ありふれた」事件はつまらないからである。

でも、日本も諸外国も、実際は「ありふれた」研究不正事件の方が多い。そう、「ありふれている」ほど多い。

そして、ジュン・フゥ事件のような「ありふれた」事件で、研究者は解雇(辞職?)され、研究キャリアを失う。米国だと、その上、官報に不正者として、永遠に実名が残る

大きな「事件」でも小さな「事件」でも、とにかくメディアが報じていない研究不正「行為」はたくさんある。メディアが報じれば研究不正「行為」は研究不正「事件」として扱われるが、メディアが報じていない「あぁ、これは全く自分該当しませんわ・・・」レベルの研究不正「行為」は、日本では、「事件」の数10~100倍(ラフな推定)も起こっている。

研究不正「行為」が「事件」として報じられないのは、単なる「偶然」でしかない。日本ではネカトハンターがいないので、研究不正「行為」が発覚しても、ほんの少ししか告発されない。 → ●白楽の卓見・浅見24 【日本の研究不正疑惑を10件告発・2件深堀して思う】 | 白楽の研究者倫理

とにかく、「あぁ、これは全く自分該当しませんわ・・・」レベルの研究不正「行為」を決してしないように。

11年前のジュン・フゥ(Jun Fu)事件を記事にしたのは、《1》《3》《4》もあるけど日本人のあなたが「ありふれた」小さな研究不正「行為」をしないよう警告したかったからである。

《3》ズサンな調査 

ネカトハンターのポール・ブルックス教授(Paul S. Brookes)が他にもネカト疑惑箇所が4点あると指摘している。

もっと時間をかけて調査すべきだったと批判している。

テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターが行なった調査、その後の研究公正局の調査がズサンだったのだ。

米国の調査にもズサンな場合を何度も目にしているが、米国に比べると、残念ながら、日本の大学・研究所のネカト調査はかなりヒドイ場合が多い。

大きな理由は研究不正調査委員会の委員に研究不正や研究倫理の専門家(あるいはその能力がある人)がいないためだと思われる。

多くの場合、研究不正調査委員なのに、委員は、疑惑研究者の論文を調査しない・できない。

告発された論文の告発箇所を不正だったと「認めるか・認めないか」を「調査」と称している。これは調査じゃない。そして、専門知識がないために、不適切な判定をしてしまう。→ 【日本の研究疑惑:通報と対処一覧】

《4》米国、どうなる 

2025年7月29日現在、2025年に入って7か月が経過した。この7か月間で、研究公正局がクロと認定した事件は2025年3月19日のリピン・ジャン事件・1件しかない。 → リピン・ジャン(Liping Zhang)(米) | 白楽の研究者倫理

本記事のジュン・フゥ事件を認定した2014年は14件も認定している。2014年も含め、数十年間に認定してきた平均の認定件数は、大雑把に年平均10件である。

トランプ政権下で、研究公正局は機能不全に陥っているようだ。

このままいくと、2025年はせいぜいもう1件、つまり総計2件の認定になる?

以下の文章は、再掲である。

リピン・ジャン(Liping Zhang)の事件が発表される4日前の2025年3月15日の記事を修正引用した。 → デボラ・ケリー(Deborah Kelly)(米) | 白楽の研究者倫理

ーー以下修正引用ーー

研究公正局は、2024年10月8日にブレット・ラザフォード(Bret Rutherford)のネカト行為を発表して以来、2025年7月29日現在までの10か月間、新たなネカト犯を2025年3月19日のリピン・ジャン事件・1件しか発表していない。

トランプ政権下で研究公正局の職員が減っている。現在、どうなっているのだろう? そして、今後どうなるのだろう?

「撤回監視(Retraction Watch)」もリピン・ジャン(Liping Zhang)の記事で白楽と同じようなことを書いている。

つまり、毎年、10件程度発表しているのに、このペースだと、今年(2025年)は、あと2件?

ーー再掲、ここまでーー

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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●9.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2014年8月1日:Case Summary: Jun Fu | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2014年8月1日の連邦官報の連邦官報:2014-18173.pdf。(3)2014年8月1日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2014年8月7日:NOT-OD-14-116: Findings of Research Misconduct
② 研究公正局の現在の処分者リスト:PHS Administrative Action Report
③ 2014年8月1日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:MD Anderson postdoc faked results of Novartis anti-cancer compound study – Retraction Watch
④ 2014年8月1日のジェシカ・ウィルソン(Jessica Wilson)記者の「BioSpace」記事:MD Anderson Cancer Center Postdoc Faked Results Of Novartis AG Brain Tumor Study – BioSpace
⑤ 2014年11月7日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Retraction appears for faked study of Novartis anti-cancer compound – Retraction Watch