ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)(米)

2018年8月9日掲載。

ワンポイント:15年前の2003年3月24日(56歳?)、研究公正局は、コネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授・医師のラドルフにデータねつ造・改ざんがあったと発表した。締め出し期間が5年間と長期間だったが、ラドルフは同じ大学の同じポストで研究職を続けられた。研究公正局がクロと発表した研究者で研究職を続けられた少ない例。なお、ラドルフはコネチカット大学の副学長などの3人を被告にネカト事件の損害賠償を求める裁判を起こした。また、珍しいことだが、研究公正局の報告書にラドルフの反省文が掲載されている。国民の損害額の総額(推定)は1億3500万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf、写真出典)は、米国のコネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授・医師で、専門は感染症(ダニ媒介感染症)。

2001年7月26日(48歳?)、発覚の経緯は不明だが、コネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・調査委員会(Special Review Board of the UCHC)は、ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)が農務省とコネチカット・イノベーション社(Connecticut Innovations, Inc)に提出した2つの研究費申請書にデータ改ざんがあったと発表した。

2003年3月24日(50歳?)、研究公正局は、ラドルフにデータねつ造・改ざんがあったと発表した。5年間の締め出し期間を科した。

締め出し期間が5年間もあったが、ラドルフは同じ大学の同じポストで研究職を続けられた。研究公正局がクロと発表した研究者で研究職を続けられた少ない例。

2005年(52歳?)、ラドルフはコネチカット大学の副学長などの3人を被告に、コネチカット州連邦地方裁判所にネカト事件の損害賠償を求める裁判を起こしていたが、結局、敗訴した。

2018年8月8日現在(65歳?)、コネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授・医師に在職している。

コネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))。写真出典:https://today.uconn.edu/2009/11/health-center-faculty-vote-to-unionize-in-tight-election/

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:カリフォルニア大学サンフランシスコ校
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1953年1月1日生まれとする。1975年の大学卒業時を22歳とした
  • 現在の年齢:65 歳?
  • 分野:感染症
  • 最初の不正:2001年(48歳?)(推定)
  • 発覚年:2001年(48歳?)
  • 発覚時地位:コネチカット大学健康センター・教授・医師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は同じ大学の同僚教授(推定)
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①コネチカット大学健康センター・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:データねつ造・改ざん
  • 不正論文数:論文での不正ではなく研究費申請書での不正
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分: NIHから5年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億3500万円。内訳 ↓

  • ①研究者になるまで5千万円。研究者を辞めていないので損害額は0円。
  • ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費など)は年間4500万円。研究者を辞めていないので損害額は0円。
  • ③外部研究費。実際に受給していても、判明しないので0円とした。
  • ④調査経費。第一次追及の調査費用は100万円。大学・研究機関の調査費用は1件1,200万円、研究公正局など公的機関は1件200万円。小計で1,500万円。
  • ⑤裁判経費は2千万円。
  • ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は0報なので損害額は0円。
  • ⑦研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
  • ⑧健康被害:不明なので損害額は0円とした。

●2.【経歴と経過】

出典:Lab Members | Spirochete Research Labs

  • 生年月日:不明。仮に1953年1月1日生まれとする。1975年の大学卒業時を22歳とした
  • 1975年(22歳?):イェール大学(Yale University)で学士号取得:生物学
  • 1979年(26歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California San Francisco)で医師免許(MD)取得(1999年卒とあるが、間違いだろう → Dr. Justin Radolf, Infectious Disease – Farmington , CT | Sharecare
  • 1979-1982年(26-29歳?):ペンシルベニア大学・病院(Hospital of the University of Pennsylvania)・研修医
  • 1982-1986年(29-33歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)・研究員
  • 1986-1999年(33-46歳?):テキサス大学南西医療センター(University of Texas Southwestern Medical Center)・助教授、準教授
  • 1999年(46歳?):コネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・教授
  • 2003年3月24日(50歳?):研究公正局がネカトでクロと発表。締め出し期間は5年間
  • 2018年8月8日現在(65歳?):コネチカット大学健康センター・正教授:http://facultydirectory.uchc.edu/profile?profileId=Radolf-Justin

●5.【不正発覚の経緯と内容】

ネカト事件の詳細は不明である。ネカト行為を犯した状況、発覚の経緯、ネカトの具体的内容、処分、処分のその後、どれも不明である。

ただ、ラドルフは研究公正局からクロと発表された後、自分の所属大学に対して裁判を起こしている。

また、同じ大学の同じポストで研究職を続けられた。

★大学

2001年7月26日(48歳?)、コネチカット大学健康センター(University of Connecticut Health Center (UCHC))・調査委員会(Special Review Board of the UCHC)は、ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf、写真出典)が農務省とコネチカット・イノベーション社(Connecticut Innovations, Inc)に提出した2つの研究費申請書にデータ改ざんがあったと発表した。

この調査が行なわれた経緯は不明である。しかし、研究費申請書のネカトなので、同じ大学の同僚教授または研究費申請書の審査員が気が付いたと思われる。ここでは、前者としておく。

大学は3年間の謹慎処分を科した。

★研究公正局

2001年10月(48歳?)、コネチカット大学の報告を受け、研究公正局はジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)のネカト疑惑について調査を開始した。

2003年3月24日(50歳?)、研究公正局は、ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)のNIH・国立アレルギー・感染症研究所((NIAID)の研究費申請書「R01 AI29735-11」及び農務省(United States Department of Agriculture (USDA))の研究費申請書「ダニの止血阻害剤:新規治療薬および抗ダニ・ワクチン(Tick Inhibitors of Hemostatis:Novel Therapeutic Agents and an Anti-Tick Vaccine)」にねつ造・改ざんがあったと発表した。

白楽は、研究公正局がなぜ農務省(USDA)の研究費申請書のネカトに言及しているのか理解できない。研究公正局には農務省(USDA)のネカトを調査する権限はないハズだ。

研究公正局は、NIHの締め出し期間を2003年3月10日からの5年間とした。

ジャスティン・ラドルフ自身はねつ造・改ざんを認めている。

彼の見つけた遺伝子がダニの唾液腺に特異的に発現しているようにデータをねつ造・改ざんした。実験をしていないのに、その遺伝子のmRNAが陽性に発現しているとねつ造・改ざんした。

単離した遺伝子クローンはダニの唾液腺に特異的に発現するタンパク質の遺伝子で、ダニが媒介する感染症のワクチン製造のターゲットになる。それで、ロッキー山紅斑熱(ロッキーさんこうはんねつ、Rocky Mountain spotted fever)などダニが媒介する感染症の研究開発を間違った方向に向けてしまう恐れが強かった。

研究公正局の報告書には、ジャスティン・ラドルフ自身が書いた反省文が掲載されている。一部、引用してみよう。

私は、実際には実験していない遺伝子の発現を示すデータをねつ造しました。農務省とコネチカット・イノベーション社(Connecticut Innovations, Inc)に申請準備をしていた2つの研究費申請書に、このねつ造データを記載し関連の記述をしました。私たちは実際には実験していないのですが、ダニの摂食を妨げる可能性のある唾液腺タンパク質の特徴を明らかにすることで、抗ダニワクチンの開発が間もなくできると思ってもらいたかったのです。

研究記録の信頼性、データの正確な記録、真実の提示は、すべての科学研究の基盤です。2つの研究費申請書に意図的な虚偽を記載した私の行動はこの基本的教訓に違反し、研究公正を損ない、私の20年の研究キャリアを危険にさらしました。私の行動はまた、私と一緒に研究していた個人、私を信頼していた部下たち、の公正とキャリアを損なう可能性がありました。私はこの悪行に対してすべての責任を負います。私は自分の行動に対して深く反省しており、再びネカト行為を犯さないことを研究公正局に強く誓います。

なお、研究公正局の他の報告書では、白楽はこのような反省文を見たことがない。2003年頃の1つのスタイルだったのだろうか? ラドルフ事件だけなのだろうか?

★ねつ造・改ざんの具体例

ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)のネカトは研究費申請書であって、出版論文ではない。

それで、ねつ造・改ざんの具体例は、白楽には、上記以上はわからない。

★裁判

ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)は、このネカト事件に関して、コネチカット大学健康センターのネカト調査委員と険悪な関係になった。

そして、コネチカット州連邦地方裁判所(United States District Court for the District of Connecticut)に、金銭的損害賠償を求める裁判を起こした。

被告は、ネカト事件を担当したコネチカット大学健康センター・副学長で医学部長だったピーター・デッカーズ(Peter J. Deckers、写真出典)ら3人の役職教授だった。

2005年3月30日、ラドルフは裁判で敗訴した。裁判記録は、「学者の争いを裁判所に持ち込むな」的な裁判長の説教から始まっている。

この事件は、コネチカット大学健康センター(UCHC)およびコネチカット大学医科大学院の教授であるジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf、M.D.)と、同僚との間の激しい論争から生じたものである。この紛争が司法上の解決を必要としていることは残念です。

しかし、当事者はこの苦い戦いに閉じ込められているので、裁判所の答えが現時点では利用できる唯一のものと思われます。

ただ、率直に申し上げて、両当事者間の関係は非常に悪化しており、当事者たちの傷を癒し、関係者のすべてが満足する救済策を裁判所が提供することはできません。

結局、裁判所は、ラドルフの主張を却下した。

以下の裁判記録(の一部)をクリックすると、全文のPDFファイル(164 KB、45ページ)が別窓で開く。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年8月8日現在、パブメド(PubMed)で、ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf)の論文を「Justin D. Radolf [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1996年の1論文と2002年~2018年の17年間の91論文がヒットした。1996年の1論文はなんかヘンである。

「Radolf JD[Author]」で検索すると、1984~2018年の35年間の207論文がヒットした。

2018年8月8日現在、「Radolf JD[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★締め出し期間中の論文

研究公正局がジャスティン・ラドルフを締め出した期間は2003年3月10日から2008年3月9日の5年間だった。

前後を含め論文数を調べると、処分の効果が出る2004年から2008年は明らかに論文出版数が減っていた(2007年は減っていない)。

2002年:8報
2003年:8報
2004年:4報
2005年:4報
2006年:1報
2007年:10報
2008年:3報
2009年:9報
2010年:7報

締め出した期間中の出版論文数は前後の半数程度である。

締め出し期間中の研究費をどこから調達したのかわからないが、そこそこ研究活動ができていた。思いのほか頑張って論文を出版していた。

裁判を起こすほど大学上層部と険悪な関係だったので、大学はラドルフを支援したと思えない。どう乗り切ったのだろう?

★パブピア(PubPeer)

省略

●7.【白楽の感想】

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

2003年頃の事件は新聞記事になったような大きな事件を除いて詳細は不明である。15年も経過しているので当時の資料は簡単には見つからない。ましてや、インターネットは今ほど発達していなかったので、ネット上の情報はそもそも少なかったハズだ。

ネカト防止策は、この事件からは学べない。

《2》ネカト者が研究を続けた

締め出し期間が5年間もあったが、ジャスティン・ラドルフ(Justin D. Radolf、写真出典)は、同じ大学の同じポストで研究職を続けられた。研究公正局がクロと発表した研究者で研究職を続けられた少ない例である。
→ 研究ネカト者が研究を続けた | 研究倫理(ネカト)

2018年現在の視点では、研究公正局がクロと発表した研究者は、ほぼ100%、研究者を続けられない。

しかし、15年前頃は事情が少し違うようだ。以下の研究者は研究公正局がクロと発表した後、研究者を続けられた。

その頃と、現在はどう違うのだろう?

なお、研究公正局でクロ判定された研究者の約半分の人が、研究を続けていた、という報告がある。
→ 2017年2月24日の「Science」記事: U.S. researchers guilty of misconduct later won more than $100 million in NIH grants, study finds | Science | AAAS

少なくとも24人が研究職に戻っている、という報告もある。
→ 2016年10月28日のジェフリー・マーヴィス(Jeffrey Mervis)の「Science 」記事:After the fall | Science)。

但し、上記の記事では実名が出ていないので誰だか不明である。

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●8.【主要情報源】

① 2003年3月24日、研究公正局の報告:NIH Guide: FINDINGS OF SCIENTIFIC MISCONDUCT
② 2005年3月30日の裁判記録:http://www.ctd.uscourts.gov/sites/default/files/opinions/033005.MRK_.Radolf.pdf
③ 2009年11月17日、研究紹介記事:How Ticks Transmit Lyme Disease to Humans
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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