英文学:ムスターファ・マロウチ(Mustapha Marrouchi)(米)

ワンポイント:スター教授の約23著作物が盗用

【概略】
marrouchiムスターファ・マロウチ(Mustapha Marrouchi、写真出典)は、米国・ネバダ大学ラスベガス校(University of Nevada, Las Vegas)・教授で、専門は英文学(植民地独立後文学)だった。ネバダ大学ラスベガス校のスター教授だった。

2014年8月(54歳?)、米国の新聞「Chronicle of Higher Education」が盗用を指摘した。

2014年11月(54歳?)、ネバダ大学ラスベガス校は調査の結果、26著作物のうち約23著作物に盗用があったと発表し、マロウチ教授を解雇した。

この事件は、「iThenticate」誌の2014年のトップ「盗用」スキャンダルの第9位である(2014年ランキング | 研究倫理

D66426-32ネバダ大学ラスベガス校(University of Nevada, Las Vegas)・コンプライアンス棟。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:フランス、カナダ
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのトロント大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日とする。
  • 現在の年齢:64歳?
  • 分野:英文学
  • 最初の不正論文発表:1985-1990年(25-30歳?)の院生の時
  • 発覚年:2014年(54歳?)
  • 発覚時地位:ネバダ大学ラスベガス校・教授
  • 発覚:米国の新聞社が盗用検出ソフト
  • 調査:①米国の新聞社。~2014年8月。②ネバダ大学ラスベガス校・調査委員会。~2014年11月
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:23報。少なくとも3報は撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:解雇

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【経歴と経過】
出典:

  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日とする。
  • 1982年(22歳?):フランスのプロヴァンス大学(Université de Provence I)を卒業。免許(License)取得。英文学専攻
  • 1983年(23歳?):フランスのプロヴァンス大学(Université de Provence I)で、英文学の修士号(Maîtrise)取得
  • 1985年(25歳?):フランスのプロヴァンス大学(Université de Provence I)で、英文学のD.E.A(どういう資格?)取得
  • 1990年(30歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)で研究博士号(PhD)取得。比較文学(Comparative Literature)
  • 1990/92年(30/32歳?):カナダのレスブリッジ大学(University of Lethbridge)・助教授
  • 1992/00年(32/40歳?):チュニジアのチュニス大学(University of Tunis)・訪問助教授
  • 1993/94年(33/34歳?):ドイツのハノーファー大学(Hannover Universität)・訪問教授
  • 2000/04年(40/44歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)・講師
  • 2004/06年(44/46歳?):米国・ルイジアナ州立大学(Louisiana State University)・準教授
  • 2006/08年(46/48歳?):米国・ルイジアナ州立大学(Louisiana State University)・教授
  • 2008年(48歳?):米国・ネバダ大学ラスベガス校(University of Nevada, Las Vegas)・教授。植民地独立後文学(post-colonial literature)
  • 2014年8月(54歳?):盗用が発覚する
  • 2014年11月(54歳?):ネバダ大学ラスベガス校を解雇

★賞と助成金。英語のママですみません。

2012-13 UNLV Travel Grant
2011-12 UNLV Sabbatical Award (Fall Semester Only)
2010-11 Horizon Award (College Literature Spring 2010)
2008-09 Winner of the James L. Kinneavy Award
2008-12 Rogers Fellowship
2006-07 Winner of the James L. Kinneavy Award
2006-07 Regents Research Grantsocialmedia-11
2005-06 Manship Summer Research Fellowship
2005-06 Certificate of Appreciation [Honors College]
2005-06 Regents Research Grant
2004-05 LSU Summer Stipend
2004-05 The Antigonish Honorarium for Best Essay
2003-04 The Kololian Foudation Grant for Peace
2003-04 DSP [Pakistan] Award
1991-92 University of Lethbridge Research Fund
1991-92 University of Lethbridge SSHRC Grant
1990-91 F. P. Walshe High School Award
1988-89 Ontario Graduate Scholarship
1987-88 University of Toronto Open Doctoral Fellowship
1986-87 Mary H. Beatty Award for Excellence

【研究内容】

【動画】
2011年9月29日にマロウチ教授が数人とセミナーしている動画:「Mustapha Marrouchi: “Journey Through a Seismic Arab World」(英語)1時間0分7秒。
Claremont Graduate University が2012/06/04 に公開

【不正発覚の経緯】

2014年8月、高等教育向けのニュースを報道する米国の新聞「Chronicle of Higher Education」が、発覚の発端はわからないが、ムスターファ・マロウチ(Mustapha Marrouchi)の各種の作品(論文・著書・エッセイ、コメントなど)が盗用だと非難する記事を掲載した。

olafsonネバダ大学ラスベガス校(University of Nevada, Las Vegas)は、研究公正局長(executive director of research integrity)のロリ・オラフソン教授(Lori Olafson、教育心理学、写真出典)が調査委員長になり、盗用検出ソフト「ターンイットイン(Turnitin)」で調査した。

2014年11月、調査委員会は調査の結果、2008- 2013年にマロウチ教授が発表した 26著作物のうち約23著作物に盗用があると結論した。委員会の5人の委員の投票し、マロウチ教授の解雇に賛成が4人で反対が1人だった。

2014年11月7日、ネバダ大学ラスベガス校は調査委員会の結論を受け、マロウチ教授(年俸125,835ドル、約1,258万円)を解雇した。なお、マロウチ教授を特別聴聞会で弁明する機会を用意したが、本人は欠席したとのことである。

なお、事件が明るみに出ると、マロウチ教授にはネバ大学以前に、2回、計160件の盗用があった、と公表された。

1回目は、トロント大学・博士院生の時の盗用で、London Review of Booksにおいて、W.J.T.ミッチェルのエッセイから盗用した。

2回目は、ルイジアナ州立大学・教員の時に盗用していた。

【盗用の具体例】

★2003年の“Of Algeria: Childhood and Fear”

出典:http://libguides.brown.edu/c.php?g=294022&p=1957646

黄色い部分が同じ単語。左が原典(1982年)で右がマロウチ教授(2003年)。
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★2011年の“The Fabric of Subcultures: Networks, Ethnic Force Fields, and Peoples Without Power”

出典:【主要情報源】④

2か所から盗用し組み合わせた例。緑・赤字部分がマロウチ教授の2001年の文章(右)と同じ。
盗用2
【論文数と撤回論文】

2016年2月19日現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)で、ムスターファ・マロウチ(Mustapha Marrouchi)の撤回論文を「(retraction OR retracted) author:” Mustapha Marrouchi”」で検索すると、7撤回論文がヒットした。ヒット論文のうちマロウチが著者なのは、最初の3論文だけである。

論文撤回監視(Retraction Watch)(【主要情報源】②)では、2010年と2011年の「College Literature」誌の以下の3論文が撤回とある。

  1. Introduction: Embargoed Literature: Arabic
  2. A Passion for Excess or Just Another Way of Telling
  3. Cry No More For Me, Palestine—Mahmoud Darwish

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【白楽の感想】

《1》所属組織の調査の限界

ネバダ大学ラスベガス校は、2008- 2013年にマロウチ教授が発表した 26著作物のうち約23著作物に盗用があることを見つけた。

これはいい。しかし、2008年は、ネバダ大学ラスベガス校がマロウチ教授を採用した年だ。ということは、マロウチ教授がそれ以前に盗用していたかどうかを調べていない。というか、所属前の行為を調査する権限はないし、義務もない。調査方法もない。

他の記事には、トロント大学・博士院生の時とルイジアナ州立大学・教員の時の盗用も少し触れているが、トロント大学とルイジアナ州立大学はしっかり調査した気配がない。

たまたま、検査の厳しいところで発覚し、研究界から排除されるが、甘いところでは研究ネカトがまかり通る。おかしい。

研究者の著作物は連続なので、所属がどこであれ、所属の切れ目なく、その研究者の研究ネカトの全貌を調査・解明する仕組みを作るべきだろう。そうでなければ、十分な予防法を組み立てにくい。

《2》学問分野としての文学での盗用

文学(文芸作品)は芸術作品であって、十数単語の文章にも芸術的な独創性がある(ない場合もあるが・・・)。しかし、英文学は研究分野としての文学(学問)だから、研究成果の文章は十数単語の文章に芸術的な独創性を認める必要がないと、白楽は考える。

十数単語より多い文章が類似していてもかまわない。研究では新しい発見が重要であって、文章の類似性は重要ではないと、白楽は考える。

しかし、上記の白楽の考え方は盗用の世界ではマイナーである。だから、研究分野としての文学(学問)でも、十数単語の文章を流用し、それを引用しなければ、盗用とみなされる。

そうなると、英文学でも国文学でも文学系の研究論文は、盗用が多いだろうなあと、思っていた。だから、今まで、あえて、文学系の論文の研究ネカトを取り上げなかった。

学問分野としての文学を研究する研究者は現在の盗用ルールで困らないのだろうか?

《3》根っからの盗用学者

最初の盗用は、トロント大学・博士院生(25-30歳?)の時である。この盗用がいつ発覚したのか明確ではないが、博士院生(25-30歳?)の時に矯正されるべきだった。マロウチは才能があるのだから、それ以降は盗用せずに素晴らしい論文を発表しただろうに。

あるいは、発覚時点で博士号を授与せず、もし、既に授与していたなら、はく奪し、研究界から排除すべきだった。

さらに、ルイジアナ州立大学・教員の時にも盗用していた。この時の盗用でも、ここで排除すべきだった。

今回、ネバダ大学ラスベガス校が2014年11月になって排除したが、54歳(?)である。博士院生(25-30歳?)の時から24-28年間も、盗用を続けたことになる。弊害が大きすぎる。研究界の癌なのだから早期発見・早期治療をすべきだった。

photo_53853_landscape_650x433出典

【主要情報源】
① 2014年12月2日のフランシス・マクケイブ(Francis McCabe)の「Las Vegas Review-Journal」記事:UNLV fires professor accused of ‘serial plagiarism’ | Las Vegas Review-Journal
② ムスターファ・マロウチ(Mustapha Marrouchi)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Mustapha Marrouchi – Retraction Watch at Retraction Watch
③ 2014年12月3日のアーロン・バーカー(Aaron Barker)の「FOX5 Vegas」記事:UNLV professor fired after accusations of plagiarism – FOX5 Vegas – KVVU
④ 2014年8月21日のブロック・リード(Brock Read)の「Chronicle of Higher Education」記事:Anatomy of a Serial-Plagiarism Charge – The Chronicle of Higher Education (保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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