神学:トーマス・ロジーカ(Thomas Rosica)(カナダ)

2019年12月17日掲載 

ワンポイント:本ブログは基本的に宗教界のネカトを扱わないが、撤回論文ランキングにローマ・カトリックのロジーカ司祭が世界第28位(撤回論文数は23報)に登場したので記事にした。2019年2月(59歳)、盗用研究者のマイケル・ドハティ(Michael Dougherty)らが、ロジーカ司祭が長年にわたりスピーチやコラムでたくさんの盗用をしていたことを指摘した。指摘されただけでも、盗用は1990年-2018年8月(31-58歳)の27年間に渡っていた。ロジーカは不注意だったと盗用を認め、いくつかの役職を辞任した。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

【追記】
・2022年10月18日記事:Father Thomas Rosica Accused of Plagiarism in New Article on Vatican II| National Catholic Register
・2020年8月27日記事:ロジーカ司祭は前・法王候補者のマーク・ウレット枢機卿(Cardinal Marc Ouellet)の代筆でも盗用していた。Toronto priest plagiarized when ghostwriting for Canada’s most senior Vatican figure: new book | National Post

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

トーマス・ロジーカ(トマス・ロシカ、Thomas Rosica、写真出典)は、カナダのトロントを拠点に活動するローマ・カトリックの司祭である。カナダのアサンプション大学(Assumption University in Windsor, Ontario)・学長の後、カナダのセント・マイケルズ大学(University of St. Michael’s College)・理事だった。専門は神学である。

本ブログは基本的には宗教界のネカトを扱わないが、撤回論文ランキング世界第28位(撤回論文数は23報)にロジーカ司祭が登場したので記事にした。 → 2019年12月7日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 研究倫理(ネカト、研究規範) → 2019年12月11日保存: The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch

盗用文は礼拝文やコラムだが、本ブログでの統一性を保つために、論文と表記した。

2019年2月20日(59歳)、盗用研究者のマイケル・ドハティ(Michael Dougherty)らが、ロジーカは長年にわたり論文(礼拝文やコラム)でたくさんの盗用をしていたと指摘した。

ロジーカは、結局、1990年-2018年8月(31-58歳)の27年間に渡り、常習的に論文を盗用していたのである。撤回論文数は発覚しただけで23報にのぼった。

2019年2月-6月(59-60歳)、盗用の非を認め、いくつかの役職を辞任し、23論文を撤回した。

セント・マイケルズ大学(University of St. Michael’s College)。写真出典

  • 国:カナダ
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1959年3月3日
  • 現在の年齢:65 歳
  • 分野:神学
  • 最初の不正論文発表:1990年(31歳)
  • 不正論文発表:1990年-2018年8月(31-58歳)の27年間
  • 発覚年:2019年(59歳)
  • 発覚時地位:ローマ・カトリックの司祭、セント・マイケルズ大学・理事
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は盗用研究者のマイケル・ドハティ(Michael Dougherty)らで、学術誌・編集部に通報した
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・「Worship」誌・編集部。②カナダのカトリック司教会議(Canadian Conference of Catholic Bishops)・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:23報が撤回
  • 盗用ページ率:
  • 盗用文字率:1例では約30%
  • 時期:キャリアの初期から
  • 職:事件後にいくつかの役職をやめた・続けられなかったが、司祭は続けている(▽)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1959年3月3日:米国のニューヨーク州ロチェスターで生まれる
  • 19xx年(23歳):米国のセント・ジョン・フィッシャー大学(St. John Fisher College)で学士号取得:フランス語・イタリア語
  • 19xx年(xx歳):聖バジル会衆(Congregation of St. Basil)に入会
  • xxxx年(xx歳):カナダのトロント大学の神学大学院であるレジスカレッジ(Regis College)入学:神学と聖書
  • xxxx年(xx歳):イタリアのエコール・ビブリケ(Pontifical Biblical Institute in Rome)
  • xxxx年(xx歳):イスラエルのアルケオロギアー・フランセーズ・ド・ジェルサレム(École Biblique et Archéologiaue Française de Jérusalem)
  • 2011年(52歳):カナダのアサンプション大学(Assumption University in Windsor, Ontario)・学長
  • 201x年(5x歳):カナダのセント・マイケルズ大学(University of St. Michael’s College)・理事
  • 2019年2月(59歳):盗用が発覚
  • 2019年2月-6月(59-60歳):いくつかの役職を辞任

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「トーマス・ロジーカ」と自己紹介。説明動画:「Protection of Minors Summit – Fr. Thomas Rosica , CSB Opening Report – YouTube」(英語)4分39秒。
Salt and Light Media が2019/02/21 に公開

https://www.youtube.com/watch?v=ZTi4wQ70YeI

【動画2】
「トーマス・ロジーカ」と紹介。講演動画:「Fr. Thomas Rosica, CSB: “An Inside Look into the Papal Transition” – YouTube」(英語)58分02秒。
Salt and Light Media が2014/02/26 に公開

https://www.youtube.com/watch?v=0m1tnWGW-4o

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀な司祭

トーマス・ロジーカ(Thomas Rosica)は、カナダのトロントを拠点に活動するローマ・カトリックの有力な司祭である。

カナダのアサンプション大学(Assumption University in Windsor, Ontario)・学長の後、カナダのセント・マイケルズ大学(University of St. Michael’s College)・理事など複数の大学の理事を務め、ローマ・カトリックの英語担当の広報役を務めていた。宗教団体である「地の塩、世の光(Salt and Light)」のCEOでもあった。

聖バジル会神父・トーマス・ロジーカ(Thomas Rosica)。2019年1月15日撮影 (CNS photo/Gregory A. Shemitz) 。出典:http://thedialog.org/international-news/salt-and-light-media-ceo-father-thomas-rosica-resigns-amid-plagiarism-accusations/

★発覚の経緯

2019年2月20日(59歳)、盗用研究者のマイケル・ドハティ(Michael Dougherty)らは、ロジーカが長年にわたりスピーチやコラム記事でたくさんの盗用をしていたこと見つけ、「Worship」誌・編集部に通報した。

以下に通報の最初のページ上部を示す。全体は → ココ

2019年2月23日、ジョシュ・ホッホシルト(Josh Hochschild)もツイッターで盗用を指摘した。

★長期の盗用、撤回論文ランキング世界第28位

撤回論文数は23報にのぼった。

最古の論文は1990年で、最新は2018年8月23日出版である。これら盗用論文は、2019年2月-3月、そして、2019年6月に撤回された。

つまり、1990年-2018年8月(31-58歳)の27年間に渡り、スピーチやコラムで常習的に盗用していたのである。

2012年の1論文以外、22論文は単著である。

23撤回論文は、2019年12月16日現在、撤回論文ランキング世界第28位である。 → 2019年12月7日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 研究倫理(ネカト、研究規範) → 2019年12月11日保存: The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch

★盗用発覚後

2019年2月(59歳)、スキャンダルが発覚したとき、ロジーカ神父は故意に盗用したことは決してないと弁明した。

ロジーカは、「論文は、ボランティア仲間が送ってくれた文章を基に作ることが多かった。しかし、情報源のチェックを怠りました。私は、不注意なことに、盗用について警戒していませんでした。今後は十分に注意します。盗用は、私の不注意に全責任があります。私以外の他の誰にも責任はありません」と、不注意による盗用を認めている。

2019年2月-3月、ロジーカ神父はカナダのトロントのセント・マイケルズ大学(University of St. Michael’s College)、ニューヨークのセント・ジョン・フィッシャー大学(St. John Fisher College in New York)、ヒューストンのセント・トーマス大学(St. Thomas in Houston)の理事を辞任した。

2019年3月(59歳)、ロジーカ神父は、「数か月の休息とリフレッシュ」のためにサバティカルを取ることにした。

2019年6月17日(60歳)、「地の塩、世の光(Salt and Light)」のCEOを辞任した。

2019年6月21日(60歳)、カナダのカトリック司教会議(Canadian Conference of Catholic Bishops)は、カトリック司教会議が発行したロジーカの12論文を撤回した。

【盗用の具体例】

マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)らが、ロジーカの長年にわたる盗用を指摘した。以下、1例を示す。

★「1994年のWorship」論文

「1994年のWorship」論文の書誌情報を以下に示す。2019年3月1日、撤回された。

  • “The Road to Emmaus and the Road to Gaza: Luke 24:13-35 and Acts 8:26-40”
    Thomas Rosica
    Worship 68.2 (1994):117-131.

6件の文献から盗用しているが、以下に貼り付けた122頁は1件の文献(1989年のBruceの論文)から盗用している。着色部分が盗用個所である。以下の盗用図の出典:
https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2019/03/Request_for_Retraction_Worship_Liturgical_Press.pdf

見事な盗用である。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

トーマス・ロジーカ(Thomas Rosica)の論文数を調べていない。

★パブメド(PubMed)

省略.

★撤回論文データベース

2019年12月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでトーマス・ロジーカ(Thomas Rosica)を「Rosica, Thomas M」で検索すると、23論文がヒットし、23論文が撤回されていた。

2012年の1論文以外、22論文は単著である。最古の論文は1990年で、最新は2018年8月23日出版である。これらの論文は、2019年2月-2019年2月、そして、2019年6月に撤回された。

★パブピア(PubPeer)

2019年12月16日現在、「パブピア(PubPeer)」では、トーマス・ロジーカ(Thomas Rosica)の論文のコメントを「Rosica」で検索すると0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》宗教界 

本記事では盗用事件だが、性不正でもローマ・カトリックは問題を起こしている。

白楽は、宗教界の性不正や盗用を不思議に思わない。日本の宗教界にも同じ不正があるだろう。一般に、権威に保護されればされるほど、人間は不正を犯す傾向が高くなる。

防ぐには、①透明性、②批判可能な状況、そして、③強い批判、④真っ当な規則・厳罰である。

残念ながら日本ではこの4者がとても弱い。

だから、権威に保護されている組織で不正が多い。

防ぐ方法? 

ですから、上記4つですって。個人でできるのは③だけですが。

《2》氷山の一角 

ロジーカは、ローマ・カトリックの司祭だから、27年間に23報しか論文を発表しただけではないはずだ。数百、イヤ、数千の論文を発表しているだろう。

そして、基本的に盗用に不注意だったのだから、ほぼ、全部の論文に盗用があるだろう。

例えば、2018年12月11日のロジーカの論文「Shout for Joy, O Daughter Zion! | Salt and Light Catholic Media Foundation (2018年12月11日保存)」は撤回騒動直前に公表されている。そして、2019年12月16日現在、サイトから削除されている。

この論文は23報の盗用論文にリストされていないが、盗用なのでしょうか? 盗用でないなら、なぜ削除したのでしょう?

つまり、盗用論文と認定された23報は氷山の一角なのだろう。

誰かが、全貌を調査中?

《3》宗派間の争い 

宗教界の盗用事件は、宗教間の争い、またはローマ・カトリック内の権力闘争が絡むのか?

ロジーカの盗用事件を調べていると、新聞やウェブの記事では宗教間・宗派間・宗派内の争いに触れた記事はない。

しかし、研究者のネカト事件ではしばしば、その背景に、人種差別、大学内の政治抗争、大学間の政治抗争がある(と感じる)。ただ、新聞やウェブの記事はそのような背景を記述しない(できない?)。

ロジーカの盗用事件の発覚・糾弾は、宗教間・宗派間・宗派内の闘争がどこまで絡んでいるのだろう。

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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2009年撮影。By Peter J. Thompson/National Post/File  https://nationalpost.com/news/canada/after-plagiarism-scandal-fr-thomas-rosica-resigns-as-ceo-of-catholic-tv-network

●9.【主要情報源】

①  ウィキペディア英語版:Thomas Rosica – Wikipedia
②  2019年2月25日のミッキー・コンロン(Mickey Conlon)記者の「CATHOLIC REGISTER」記事:Fr. Rosica resigns from St. Mike’s following plagiarism revelations
③  2019年3月4日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Plagiarism prompts retraction of 25-year-old article by prominent priest – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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