7-23.世界の理工医学(STM)学術出版の全体像

2018年12月16日掲載

白楽の意図:捕食論文を調べているが、全論文に占める割合はどの程度だろう? 数年前は25%と聞いたが、今や半分程度は捕食論文なのか? 学術出版の世界市場は1兆円と聞いたが、半分の5千億円は捕食学術社が得ているのか? ロブ・ジョンソン(Rob Johnson)らが執筆した国際理工医学出版社協会(International Association of Scientific, Technical & Medical Publishers、STM)の2018年10月の理工医学(STM)レポート(214頁もある)を読んだので、つまみ読みしたので、紹介しよう。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
ーーーーーーー
【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

「理工医学(STM)レポート」は概要を数行で書いていない。それで、白楽の本記事も、「論文概要」はなし。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:An overview of scientific and scholarly publishing  Fifth edition
    日本語訳:科学・学術出版の概要。第5版
  • 著者:Rob Johnson, Anthony Watkinson, Michael Mabe
  • ページ数:214
  • 出版社: International Association of Scientific, Technical and Medical Publishers
    Prins Willem Alexanderhof 5, The Hague, 2595BE, The Netherlands
  • 発行年月日:2018年10月
  • DOI:
  • ウェブ:
  • PDF:https://www.stm-assoc.org/2018_10_04_STM_Report_2018.pdf

★著者

  • 第1著者:ロブ・ジョンソン(Rob Johnson)
  • 写真: https://arma.ac.uk/speaker/rob-johnson/
  • 履歴:https://www.linkedin.com/in/robjohnsonresearchconsulting/
  • 国:英国
  • 学歴:英国・ノッティンガム大学(University of Nottingham)・学士号・英語学(2001年)、英国・ラフバラー大学(Loughborough University)・修士号・経営学(2013年)
  • 分野:研究コンサルティング、オープンサイエンス
  • 論文出版時の地位・所属:研究コンサルティング社・社長(Director at Research Consulting Limited.)

●3.【論文内容】

【日本語の紹介】

★20xx年。ワイリー・ジャパン:Wiley-JAPAN::STM出版の概要と研究成果に与える付加価値

同じレポートではない。同じ団体の10年前のレポートの日本語訳。参考までに。参考にならない? そーかも。

理工医学(STM)分野の出版社による国際的な団体STM (International Association of Scientific, Technical & Medical Publishers)は、STM出版社の活動が科学研究の発展に果たしている役割について、出版界を代表して見解を表明する文書 Overview of STM Publishing Value to Research を2008年4月に発表しました。ワイリー・ジャパンでは、この文書を日本の科学界・図書館界の皆さまにも広くご参考としていただけるものと考え、STMの許諾を得て他の出版社と共同して日本語に翻訳いたしました。下のリンク先からダウンロードのうえ、ご高覧いただければ幸いです。

ダウンロード:STM出版の概要と研究成果に与える付加価値

★2008年04月08日:英国:STM出版の展望と付加価値(報告) | 科学技術情報プラットフォーム

国際科学工学医学出版社協会(International Association of Scientific, Technical & Medical Publishers、STM)は、4月7日、報告書「STM出版の展望と研究成果への付加価値」“An Overview of Scientific, Technical and Medical Publishing and the Value it adds to Research Outputs”を公表した。

STM出版社の役割や、無料出版はあり得ないこと、オープンアクセスという目標、業界の規模などが採り上げられている。

【0.はじめに】

「理工医学(STM)レポート」は、一応、全分野の学術出版を対象にしているが、理工医学(Scientific, Technical and Medical Publishing)を中心に分析している。

国際理工医学出版社協会(International Association of Scientific, Technical & Medical Publishers)が出版した。全部で214頁ある。要約は38項目ある。

記事では、38項目の要約の内、ポイントとなる要約を日本語で解説し、本文中の図表を加えた。なお、最初の番号は要約の番号で、38項目の要約に対応している。

学術出版には、2大別すると、学術誌と書籍があるが、本記事では学術誌を中心に記載し、断らない限り、書籍を省いた。

【1.学術コミュニケーションと理工医学(STM)出版】

省略。

【2.理工医学・学術誌の市場】

3.理工医学(STM)の英語学術誌の出版で得られる年間収入は、2017年に約100億ドル(約1兆円)と推定される。理工医学出版を広範にとらえると257億ドル(約2兆5700億円)である。世界の理工医学出版の収益(学術誌以外の理工医学製品を含む)は、約41%が米国、27%がヨーロッパ/中東、26%がアジア太平洋、6%が残りの地域からである(22ページ)。

図4.
Figure 4: Global spending on academic and scientific content in 2016 by region and product (in € million,
of total) (Source: OC&C, cited in SpringerNature 2018)

4.理工医学出版業界は、世界で約11万人を雇用している。うち約40%が欧州で雇用されている。 さらに、理工医学出版業界の間接的な業務として約2万〜3万人のフルタイム相当の人が雇用されている(46ページ)。

6.学術出版社は世界中で5桁(10,000)のオーダーの数がある。Scopusデータベースは約5,000社を対象としている。英語の専門学術誌の主要な出版社は約650社で、この約650社が合計約11,500誌の学術誌(全体の半分。つまり、全体は23,000誌)を発行している。このうち、約480出版社(73%)の約2,300学術誌(20%)は非営利である(40ページ)。

表1.英語の発行学術誌が多い学術出版社:上位10社。7.2018年中頃、査読・英語・活動中の学術誌は約33,100誌あった(6の23,000誌と不一致)。英語以外の査読・活動中の学術誌は9,400誌あった。合わせて、年に300万報以上の論文を出版している。2世紀以上にわたって、論文数は年約3%、学術誌は年5%、増えてきた。しかし、近年、論文の年間増加率は4%、学術誌は5%以上になった。 その理由は、研究開発費の継続的な増加と、研究者数の増加で、研究者は7〜800万人である。7〜800万人の約20%が複数回論文を発表している(25ページ)。

【3.ビジネスモデルと出版費用】

14.論文あたりの平均出版費用は、拒否率(査読費用を高める)、論文の長さ・種類、編集サービスのレベルなどでかなり大きく異なる。 印刷版と電子版を発行する購読学術誌の2010年の平均出版費用は£3095(約4,000ドル)(約40万円)だった。 ほとんどすべてのケースにおいて、編集活動などの無形のコストが、生産、販売、流通などの有形のものよりもはるかに高額で、論文出版経費の主要な要因になっている(ページ73)。

15.ヒンダウィ出版社(Hindawi)やピア―ジェイ(PeerJ)などのオープンアクセス出版社は、論文出版費用が数百ドル(数万円)の低さだと主張している。一方、プロス(PLOS)の1論文あたりの出版費用は最近1,500ドル(約15万円)に上昇した。また、選択的オープンアクセス学術誌eLifeでは1論文あたりの出版費用は3,000ポンド(4,000ドル)(約40万円)以上となり、オープンアクセス論文は大幅な経費削減になるという主張に疑問がもたれ始めている。論文数が年4%増なのに学術誌の収入増は2%なので、1論文あたりの出版費用を削減しなければならないという圧力は高まっている(74ページ)。
→ 企業:学術業(academic business):ヒンダウィ出版社(Hindawi Publishing Corporation)(エジプト)。2018年12月22日掲載予定

【4.研究行動とモチベーション】

19.研究者1人あたりが読む論文数はここ数十年間増加してきたが、現在、安定しているように見える。医学と自然科学では読む論文数が多く、人文科学や社会科学では少ないが、全部をならすと年平均250報である。1つの論文あたりに費やす時間は、1990年代半ばは45-50分だったのが、2012年には30分にまで減少した。論文へのアクセスは、拾い読み(ブラウジング)ではなく検索が増加している。研究者は論文を見つけるために複数のルートを使っている。 ソーシャルメディアはすべての分野で重要性を増しているが、自然科学分野での使用はピークに達している。研究者は、出版社のウェブサイトを短時間しかアクセスしないが、後で参照するために必要な情報を収集している(57ページ)。

図23.生命科学系の研究者は年間430報も論文を読んでいるのに、美術の研究者は年間約10報しか読んでいない。

21.研究倫理および出版倫理への関心は維持されている。出版規範委員会(Committee on Publication Ethics (COPE))などの組織への関心は維持されている。また、盗用検出手法の開発が行なわれている。 過去10年間に論文撤回数が大幅に増加したが、この原因はネカトの増加ではなく、規範意識が高まったことによるというのか共通理解である(80ページ)。

【5.オープンアクセス】

22.学術誌の出版は多様化し、新しいビジネスモデルと競合している。 オープンアクセスにより、オリジナル研究を著作権フリー・再利用無制限で、ウェブ上で自由にアクセスできるようになった。閲覧は3種類ある。①オープンアクセス出版(「ゴールド」モデルには、完全オープンアクセスとハイブリッド・オープンアクセス学術誌がある)、②一定期間後の無料アクセス(ディレイド・アクセス)、③自己アーカイブ(「グリーン」モデル)(97ページ)。

23.オープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals)にリストされた完全オープンアクセスの学術誌は約11,811誌(9,172誌が英語版)ある。年間に300万報ほどの論文が出版される(7では全部で300万報とある。マーいいけど)。(133ページ)。

24.2016年、学術文献のおよそ3分の1は真正なオープンアクセス学術誌が提供している。最近の試算では、論文はオープンアクセス学術誌が15-20%(学術誌数は全学術誌の約26〜29%)で、10〜15%はディレイド・アクセス(出版社のウェブサイトまたは自己アーカイブ)である(134ページ)。

25.ゴールドオープンアクセスは、論文掲載料(APC:article publication charge)を課すビジネスモデルと同義語として解釈されるが、厳密に言えば原稿をすぐに論文として掲載する学術誌を指す。かなりの数のゴールドオープンアクセス論文は、Scopusに索引付けされている。論文掲載料取得モデルは複雑で、変動制(例えば、論文の長さに基づく)、割引、大学・研究機関の会員制による前払い、ハイブリッド出版の相殺およびバンドル手配(白楽、理解不能。ゴメン)、読んで出版(read-and-publish deals:投稿者だけは無料で論文を読める)、その他、がある(97ページ)。

27.オープンアクセス出版は、いわゆるメガ学術誌(メガジャーナル)という新しいタイプの学術誌の出現をもたらした。 「プロス・ワン(PLOS ONE)」誌に典型的にみられるメガ学術誌の3つの特徴は、①比較的安い論文掲載料で完全オープンアクセス、 ②迅速な “非選択的”査読、言い換えると、「健全性は重要ではない」という査読(すなわち、査読者の価値観や特定の分野での重要性ではなく、研究が行われたことは保証するという査読)、③研究分野が非常に広い、の3つである。なお、メガ学術誌に掲載された論文数は増え続けている。「Scientific Reports」誌は「プロス・ワン(PLOS ONE)」誌を抜いて第一位になった。(111ページ)。

★2017年04月13日:科学技術情報プラットフォーム:PLOS ONE、首位の座をScientific Reportに譲る(記事紹介)
https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=9616

Scholarly Kitchenが報じるところによると、シュプリンガー・ネイチャー社のScientific Reportsの出版論文数が PLOS ONEを超え、PLOS ONEはもはや世界最大のジャーナルではなくなった。

2017年第一四半期における出版論文数はScientific Reportsが6,214本に対しPLOS ONEは5,541本であった。PLOS ONEの論文数は2013年をピークに減少を続けていた(小欄記事)。PLOS ONEに新たに着任した編集長Joerg Heber氏によると、このような論文数の減少は、50%程度に下がった受理率によるという。

ビジネスの観点から言うと、PLOSの収益は論文掲載料(APC)に完全に依存しており、著者の出版先の選択態度の変化には非常に脆弱である。商業出版社に市場を譲ることになると、PLOSの将来展望を損なうことになる。

[ニュースソース] Scientific Reports Overtakes PLOS ONE As Largest Megajournal - Scholarly Kitchen 2017/4/6

【6.技術】

30.実質上、すべての理工医学(STM)学術誌は現在オンラインで閲覧可能である。その結果、学術誌を電子的に閲覧できる。

33.モバイル機器(スマートフォンとタブレット)が急速に普及してきたが、まだ、ほとんどの研究者がモバイル機器で学術誌にアクセスする、という状況にはなっていない。モバイル機器からのアクセスは2014年時点で10%未満である。ただし、臨床医学など一部の分野ではかなり高い。

38.学術出版のインフラでの最大の変化は、プレプリント・サーバの発展である。生物学や化学の分野でプレプリントの利用が拡大している。

●4.【関連情報】

① 2014年5月のSPARC Japan OA(オープンアクセス)ジャーナルへの投稿に関する調査ワーキンググループ:オープンアクセスジャーナルによる論文公表に関する調査https://www.nii.ac.jp/sparc/publications/report/pdf/apc_wg_report.pdf
② 2016年。佐藤 翔:査読の抱える問題とその対応策、情報の科学と技術 66巻 3号,115~121(2016)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/66/3/66_115/_pdf

●5.【白楽の感想】

《1》捕食論文

白楽は、当初、学術論文全体に占める捕食論文の割合の経年変化を知りたかったが、答えは見つからなかった。

そもそも、「理工医学(STM)レポート」では、捕食学術誌を全部把握していない。オープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals)など、それなりに信用のおける組織に登録しているオープンアクセス学術誌しか対象にしていない。

また、「捕食」学術誌と断定すると大きな反感を買うから、理工医学(STM)レポートのような、ある意味まともなレポートは特定の学術誌を、ビールのように、「捕食」学術誌と断定しない(できない)。

一方、ビールは、それなりに信用のおける組織に登録してあるオープンアクセス学術誌の中にも捕食学術誌があると指摘している。

学術誌がJournal Citation Reports、オープンアクセス学術誌要覧(Directory of Open Access Journals)、Scopusなどにホワイトリストされてから、捕食学術誌となり、富を得るのを促進している。(7-20.ビールのライフワーク:捕食出版社との闘い

《2》日本

日本の学術出版の全体像はどうなっているのだろう? 理工医学(STM)レポートの日本版はないのだろうか?

日本出版学会(http://www.shuppan.jp/)の部会の1つに学術出版研究部会(http://www.shuppan.jp/bukai1.html)がある。しかし、「理工医学(STM)レポート」の日本版を発表していない。

検索すると以下の文章がヒットしたが、白楽は満足できない。

2003年とデータは古いが、学術誌に日本の全国立大学が払った額は138億円とある。その他に、推察するに、論文掲載料を100億円以上払っているだろう。計・238億円以上。
→ 2009年、星野雅英:国立大学図書館における資料費の推移一大学図書館実態調査結果報告から

2018年現在、理工医学(STM)の英語学術誌の年間収入は1兆円とある。米国・科学庁の2018年レポートでは世界の全論文の内、2016年に日本は4.2%出版していた。1兆円の4.2%である420億円程度、日本は外国の学術出版社に払っていると思う(推定)。
→ Report – S&E Indicators 2018 | NSF – National Science Foundation

2017年の科研費の総額は2,117億円だった(平成29年度科学研究費助成事業の配分について:文部科学省)ことを考慮すると、420億円は科研費の2割に相当し、かなりの額である。

《3》会議の費用

日本の学会は毎年1回は会議をしている。別途、たくさんの国際会議もある。

捕食学術社は学術誌の出版だけでなく、国際会議も開催している。会議では、会議への参加費だけでなく、参加者の交通費・宿泊費。食費・観光費がかかる。国内でも千人規模の3日間の学会なら、研究費から1人平均5万円の出費として、5千万円である。日本で毎年数千回の研究集会が開催されている。仮に6千回として、3千億円になる。

交通費・宿泊費は研究費で払われるから、毎年、3千億円の研究費が研究集会に使われている。アレ? 科研費総額の2,117億円を超えてしまう。イヤイヤ、別の研究費がある。国立大学には運営費交付金(教員の給料が大半だが、研究費もある)が2017年に1兆971億円支給されている。
→ グラフの例:国立大学運営費交付金

一般に、会議の経費は滅多に公表されないが、2006年3月にメキシコで開催し、7日間に2万人が参加した「第4回世界水フォーラム(4th World Water Forum)」の経費は1億5千万ポンド(約210億円)と推定された。
→  2017年8月30日記事:Expensive academic conferences give us old ideas and no new faces | Education | The Guardian

「world cost of academic conferences」で検索しても見つからないが、世界の学術集会ビジネスは数十兆円規模だろう。このうち捕食学術社はどれほど関与しているのだろうか?

ーーーーーー
日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

コメントは承認待ちです。表示されるまでしばらく時間がかかるかもしれません。