2016年12月26日掲載。
ワンポイント:ヴロニプラーク・ウィキの1番目。著名な政治家の娘。2008年(31歳)に法学の博士号を取得したが、2011年(34歳)、盗博がバレ、博士号がはく奪された。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.事件後の人生
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
ヴェロニカ・サス(Veronica Saß、Veronica Sass、写真出典)はドイツの著名な政治家・エドムント・シュトイバー(Edmund Rudiger Stoiber)の娘で、2008年にコンスタンツ大学(Universität Konstanz)で法学の博士号を取得した。
2011年3月28日(34歳)、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が盗博を告発した。
→ 1‐4‐10.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
2011年5月11日(34歳)、コンスタンツ大学は2008年にヴェロニカ・サスに授与した博士号をはく奪した。この時、ヴェロニカ・サスはドイツでは有名な女性だが、大学教員や議員などの公職に就いていなかった。
このヴェロニカ・サス事件は「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」で最初に告発した盗博事件だが、告発サイトの名称の一部「ヴロニ(Vroni)」は、ヴェロニカ・サスの「ヴェロニカ(Veronica)」のドイツでの愛称である。つまり、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」はヴェロニカ・サス事件にちなんで、命名された。
コンスタンツ大学(Universität Konstanz)。写真出典
- 不正:盗博(盗用博士論文)
- 国:ドイツ
- 成長国:ドイツ
- 研究博士号(PhD)取得年月日:2008年10月29日(31歳)
- 盗博発覚年:2011年3月28日(34歳)
- 盗用ページ率:53.98%
- 研究博士号(PhD)はく奪状況:2011年5月11日、はく奪
- 男女:女性
- 生年月日:1977年月日
- 現在の年齢:47 歳?
- 発覚時地位:
- ステップ1(発覚):第一次追及者はヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の人(詳細不明)
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①コンスタンツ大学・調査委員会。②ミラノ裁判所
- 結末:博士号はく奪。裁判敗訴
★ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)からの情報
ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の盗博の全体像(【主要情報源】①)。
- 博士論文タイトル: Regulierung im Mobilfunk (携帯電話の規制)
- 研究博士号(PhD)取得大学:コンスタンツ大学
- 分野:法学
- 論文審査員: ジョージ・ヨッフム・助教授・博士、ケイ ・ハイルブロナー・教授・博士・・・ apl. Prof. Dr. Georg Jochum, Prof. Dr. Kay Hailbronner
- ドイツ国立図書館の論文情報と論文公開: ベルリン 2009 年 → ドイツ国立図書館の論文記録(クリックすると論文情報がでる)→ 論文が出版されていて、クリックするとGoogle の ISBN 978-3-8258-1976-7のブックサイトがでる・・・ Berlin 2009. → Nachweis Deutsche Nationalbibliothek → Voransicht Google Books → ISBN 978-3-8258-1976-7.
- 博士号はく奪: 2011年5 月11 日 → フライブルク行政裁判所、1 K 58/12、2012 年 5 月 23 日判決・・・Bekanntgabe Aberkennung des Doktorgrades: 11. Mai 2011. → Urteil des Verwaltungsgerichts Freiburg, 1 K 58/12, 23. Mai 2012.
●2.【経歴と経過】
- 1977年月日:ドイツで生まれる。有力政治家の娘で、3人兄妹の2番目で長女
- 2008年10月29日(31歳):コンスタンツ大学(Universität Konstanz)で法学・博士号取得
- 2011年3月28日(34歳):盗博が発覚
- 2011年5月11日(34歳):コンスタンツ大学が博士号はく奪
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)は著名な政治家・エドムント・シュトイバー(Edmund Rudiger Stoiber、写真中央、左は母、右は本人。出典)の娘で、2008年(31歳)にコンスタンツ大学で法学の博士号を取得した。
エドムント・シュトイバー(Edmund Rudiger Stoiber、1941年9月28日 – )は、ドイツの政治家、法学博士。1993年から2007年までバイエルン州首相、1998年から2007年までキリスト教社会同盟(CSU)党首(議長)を務めた。2002年のドイツ連邦議会選挙では連邦首相候補として現職のゲアハルト・シュレーダーに挑んだが、僅差で敗れた。(エドムント・シュトイバー – Wikipedia)
2011 年 2 月 14 日(34歳)、コンスタンツ大学は、ヴェロニカ・サスの盗博調査を始めた。
2011年3月28日(34歳)、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」がヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の博士論文が盗用だと告発した。
2011年5月11日(34歳)、コンスタンツ大学のウルリッヒ ・ リュディガー学長(Ulrich Rüdiger、物理学者、写真同)は、博士論文の30%以上が盗用と判定し、2008年にヴェロニカ・サスに授与した博士号を取り消した。
→ Stoibertochter Veronica Saß unterliegt in Plagiatsfall vor Gericht – SPIEGEL ONLINE
→ Veronica Saß – Stoiber-Tochter verliert Doktor-Titel – Politik Inland – Bild.de
★ ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の盗用解析
以下の文章の一部は、「1‐4‐10.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」から借用した。
盗用分析図は以下の5色のバーコードである。博士論文は数百ページの及ぶ長文なので、左から右に、論文全体の解析作業と盗用の程度を5色のバーコードで示している。
以下、黒色部分の盗用は6ページ目、真赤色部分の盗用は18 – 30ページ目を、代表として示す。
【6ページ目】
6ページ目は盗用分析図では黒色で盗用率が50%以下のページである。左側がサスの博士論文で右が被盗用論文である。着色部分が同一である。
【18 – 30ページ目】
18 – 30ページ目は盗用分析図では真赤色で盗用文字率が75%以上のページである。被盗用論文の文章と一字一句同じなので、上の6ページ目に示したような比較はない。
被盗用論文はKoenig/Loetz/Neumann著の2004年出版の教科書『Telekommunikationsrecht』である(写真出典)。
★裁判
ヴェロニカ・サスは裁判で、博士論文の約30%に他人の文章を使用したと盗用を認めたが、大学が論文の書き方を教育してくれなかったと大学のせいにした。
2012年5月24日、フライブルグ行政裁判所(Verwaltungsgericht Freiburg)はサスの主張を却下し、コンスタンツ大学の決定を支持した。
→ Stoibertochter Veronica Saß unterliegt in Plagiatsfall vor Gericht – SPIEGEL ONLINE
→ Debora Weber-Wulff教授のCopy, Shake, and Paste: Veronica Saß loses court case
●6.【事件後の人生】
●7.【白楽の感想】
《1》特殊なケース?
サス事件を調べると、ヴェロニカ・サスが著名な政治家の娘で、写真を見ると(Getty Images【主要情報源】②)、ドイツの有名人で、金持ちで、社交界の花形女性という印象を受ける。
ドイツの金持ちの娘がどのような倫理観をもった育ち方をするのか、白楽は実態を知らない。韓国の「ナッツリターン」の趙顕娥(チョ・ヒョナ)や朴槿恵大統領がらみの崔順実(チェ・スンシル)の娘のような、育ち方をするのだろうか?
そういう人だと、「論文の盗用はイケマセン」と言っても、盗用防止に有効な気がしない。
リビアのカダフィ大佐の次男のサイフ・アル=イスラーム・カッザーフィー(Saif al-Islam Gaddafi、1972年生まれ)の博士論文は、代筆でしかも盗博だった。こういう人にも、「盗用はイケマセン」と言っても、通用しないだろう。
→ 4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 研究倫理(研究ネカト)
《2》防ぐ方法
ヴェロニカ・サスの盗博を防ぐには、どうするとよかったのか?
博士論文指導教授による博士論文のチェックは必要だろうが、指導教授は通常、論文に示された研究成果の質と論文の構成や文章をチェックする。しかし、博士論文の内容や文章が盗用かどうかはチェックしない。盗用していないという前提で読む。指導教授が、院生の論文を自分で盗用検出ソフトにかけることはない(だろう)。
以上の前提であっても、指導教授、あるいは、大学院として、院生に盗用してはいけないことと、提出された論文の盗用をチェックすることを伝えておくと、いくらかの抑止力になるだろう。
なお、サス事件で、指導教授、あるいは、大学院がどのような盗用防止対策をしていたのか、白楽は把握していない。
ドイツ大学院連合会(あるかどうか知りません)などの半公的機関、あるいはドイツ連邦政府の連邦教育研究省(Bundesministerium für Bildung und Forschung; BMBF)(日本の文部科学省に相当)が、博士号の管理をし、その一環として盗博を強力に取り締るのはどうだろう。
次項に示すように、ドイツでは「学術称号の不正使用は1年の懲役刑か厳しい罰金刑に処させることがある」。盗博したら、博士号はく奪だけでなく、学術称号の不正使用とみなし、「1年の懲役刑か厳しい罰金刑」を科す。そして、院生にそのように周知すれば、かなりの盗博は防げるだろう。
しかし、実際はそうなっていない。それで、盗博がはびこった。
憂えた多くの大学教授・研究者が集団となって、盗博を取り締る活動をはじめ、2011年、「ヴロニプラーク・ウィキ」の設立にたどり着いた。
結局、盗用検出ソフトを利用した学者集団のボランティア活動がステップ1「第一次追及者」になり、ステップ2「マスメディア」で盗博を大々的に報道した。このことで、ドイツの盗博は現在は減少していると思われる。
→ 1‐5‐3.研究ネカト事件対処の4ステップ説 | 研究倫理(研究ネカト)
ただ、ステップ3「当局(オーソリティ)」のドイツ当局は「厳罰」を科していない。盗博が明白でも、博士号をはく奪しないケースがそこそこある。
また、ドイツの博士論文不正の指摘は、3年グレース、5年で時効というルールがあると聞いている(十分調べていない)。時効ルールに一理あると思うが、盗博の抑止力を弱めてしまう。
《3》ドイツの博士号
ヴェロニカ・サスの盗博は、ヴロニプラーク・ウィキが最初に指摘した盗博である。そして、ドイツでは、2016年12月25日現在、ヴロニプラーク・ウィキが178人指摘し、その他を含め全部で、既に180人以上の盗博が指摘されている。
→ ドイツの盗用博士論文の事件一覧(主にヴロニプラーク・ウィキ) | 研究倫理(研究ネカト)
上記の指摘は、主に、2000年以降の博士論文が分析対象になっているが、それ以前の19世紀・20世紀の論文を分析したら(方法は至難?)、もっと多くの盗博が見つかるだろう。つまり、ドイツの博士号や論文に対する文化風習に盗博をもたらす要因があるに違いない。
2016年11月18日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」記事によると、ドイツでの博士号への感覚が日本とは大きく異なる(博士尊ぶドイツ、「偽物」は許さない – グノシー)。
ドイツでは博士の称号が重視されている。アンゲラ・メルケル首相も博士号を取得しているし、国会議員の約5人に1人、それに企業幹部の半数近くが博士号を持っている。ドイツの大手食品会社は「ドクター・エトカー」の名前を冠している。フランクフルトには「ドクター・ミューラー」というポルノショップもある。
称号へのこだわりは奇妙な規則や慣習を生み出した。例えばドイツでは、学術称号の不正使用は1年の懲役刑か厳しい罰金刑に処させることがある。さらには、学歴詐称や学術論文での剽窃行為など学問の世界の不届き者を探し回る匿名の自警団も誕生した。
・・・中略・・・
職場で博士号の称号をどう扱うかについては厳しい規則がある。ドイツの連邦労働裁判所は1984年、従業員の学術称号を間違えたり、正式な肩書を使用しなかった場合、従業員の人格権の侵害に当たるとの判断を下した。
「The Impostor」(詐欺師)の芸名で活動するフランクフルトのマジシャン、シュテファン・スプレンジャーさんは2012年、グルーポンで売られている肩書で「一番ばかばかしい」と思った「不死に関する名誉博士」という学位を購入した。「誰も本気にはしないだろう」と思ったそうだ。
しかし2人の警察官が捜索令状を持ってやってきた。捜査関係者は既に、スプレンジャーさんがマジシャンとしての自己紹介にこの肩書を掲載したソーシャルネットワークサイトを徹底的に調べていたという。
スプレンジャーさんは「名誉博士号」の証明書を引き渡し、結局、約1000ユーロを支払って和解した。検察官のユラ・ヒンスト氏によると、警察の捜査を受けた人のうち、スプレンジャーさんの他におよそ70人が和解金を支払って法的手続きを終わらせた。
ドイツでは、博士号という称号が大事にされ、違反者を厳格に取り締まっている。だから、逆に、ズルしてでも博士号を得ようとするのだろう。
ドイツではないが、「(Dr.は)英語圏において、博士号保持者および医師に対して用いられる敬称。名前の前に置かれる。博士号保持者に対してMr.やMs./Miss/Mrs.を用いるのは不適当とされる(ドクター – Wikipedia)。」
一方、日本では、博士号保持者に対して、一般的には白楽博士などと呼ばない。呼ばれるのは、冗談・軽口の場合だけだ。
医者の意味のドクターだと思うが、日本の街では、博士号保持者でも医師でもないドクターを見ることがそこそこある。一例をあげると、「Dr.Drive(ドクタードライブ)」だ。言葉の乱用を取り締まってほしい。
●8.【主要情報源】
① ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のヴェロニカ・サス(Veronica Saß)サイト:Vs | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
② ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の画像 | Getty Images:Veronica Sass ストックフォトと画像 | Getty Images
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