2020年5月24日掲載
ワンポイント:2020年5月11日(48歳?)、研究公正局は、メリーランド大学(University of Maryland)・助教授だった韓国出身のキム(女性)の2件の研究費申請書、2013-2016年(41-44歳?)の4年間の7論文に、画像とデータのねつ造・改ざんがあったと発表した。2020年3月27日から3年間の締め出し処分を科した。記事執筆時点では、撤回論文は1報。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
シンヒー・キム(Shin-Hee Kim、女性、ORCID iD:、顔写真は見つからなかった)は、韓国の釜慶(プギョン)大学(Pukyung National University)で修士号(MS)を取得後、米国で研究博士号(PhD)を取得。その後、メリーランド大学カレッジパーク校(University of Maryland, College Park)・助教授になった。専門は獣医学(鳥のニューカッスル病ウイルス)である。
ネカト発覚の経緯は不明であるが、告発者は同じ研究室の研究者と思われる。
「2016年6月のJ Gen Virol.」論文のネカトが指摘されている。発覚時期は、それ以降の早い時期、つまり2016年(44歳?)下半期と推定される。
メリーランド大学がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に報告した。
シンヒー・キムは、メリーランド大学を辞職した(させられた)。
2020年5月11日(48歳?)、発覚から4年後(遅いですね)、研究公正局は、メリーランド大学(University of Maryland)・助教授だったキムの2件の研究費申請書、2013-2016年(41-44歳?)の4年間の7論文に、画像とデータのねつ造・改ざんがあったと発表した。
2020年3月27日(48歳?)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は平均的な処分である。
メリーランド大学カレッジパーク校(University of Maryland, College Park)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:韓国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:オレゴン州立大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。
- 仮に1972年1月1日生まれとする。1996年に修士号(MS)を取得した時を24歳とした
- 現在の年齢:52 歳?
- 分野:獣医学
- 最初の不正論文発表:2013年(41歳?)
- 不正論文発表:2013-2016年(41-44歳?)の4年間の7論文
- 発覚年:2016年(44歳?)
- 発覚時地位:メリーランド大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。同じ研究室の研究者
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①メリーランド大学・調査委員会。②研究公正局
- 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2件の研究費申請書。2013-2016年(41-44歳?)の4年間の7論文。2020年5月23日現在、撤回論文は1報
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: NIHから3年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:①Shin-Hee Kim – Research Assistant Professor – University of Maryland | LinkedIn、②Kim Shin-Hee | Department of Veterinary Medicine
- 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1996年に修士号(MS)を取得した時を24歳とした
- 1996年(24歳?):韓国の釜慶(プギョン)大学(Pukyung National University)で修士号(MS)を取得:食品科学
- 1998 – 2001年(26 – 29歳?):オレゴン州立大学(Oregon State University)で研究博士号(PhD)を取得:食品科学
- 2001年(29歳?):オーバーン大学(Auburn University)・ポスドク
- 2003年(31歳?):オクラホマ州立大学(Oklahoma State University)・研究員2006年(34歳?):メリーランド大学(University of Maryland)・研究助教授
- 2016年(44歳?)頃:不正研究が発覚(推定)
- 20xx年(xx歳):メリーランド大学(University of Maryland)・研究助教授を辞職
- 2020年5月11日(48歳?):研究公正局がネカトと発表
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ネカトの発覚
シンヒー・キム(Shin-Hee Kim)のネカト発覚の経緯は不明であるが、ネカトは、第三者が見てもわからない画像やウイルス力価データのねつ造・改ざんである。そのため、パブピア(PubPeer)はネカトを指摘していない。
上記のことから、告発者は研究室内部の人と思われる。
シンヒー・キムの上司にあたる人はインド出身のシバ・サマル教授(Siba Samal、写真出典)で、撤回されたシンヒー・キムの「2014年のJ Virol.」論文では最後著者になっている。
ところがサマル教授自身、ネカト疑惑にまみれていて、シンヒー・キムが共著者になっていない論文で数報の撤回がある。
従って、サマル教授が告発者とは考えにくい。サマル研究室の別の人が告発したと思われる。
最も新しいネカト論文は「2016年6月のJ Gen Virol.」論文なので、ネカト発覚時期は、それ以降の早い時期、つまり2016年(44歳?)下半期と推定される。一応、発覚を2016年(44歳?)とした。
2020年5月11日(48歳?)、発覚から4年後(遅いですね)、研究公正局はキムが2件の研究費申請書、7報の発表論文で、画像とデータをねつ造・改ざんしていたと発表した。
2020年3月27日から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は平均的な処分である。
2件の研究費申請書は以下の通り(研究公正局の発表をそのまま流用)。
- R01 AI118879-01, “Avian paramyxovirus vectored vaccines for Norovirus infection,” submitted to NIAID, NIH, on October 3, 2014.
- R01 AI118879-01A1, “Avian paramyxovirus vectored vaccines for Norovirus infection,” submitted to NIAID, NIH, on November 5, 2015.
7報の発表論文は以下の通り(研究公正局の発表をそのまま流用)。2013-2016年(41-44歳?)の4年間の7論文である。
- Mutations in the fusion protein cleavage site of avian paramyxovirus serotype 4 confer increased replication and syncytium formation in vitro but not increased replication and pathogenicity in chickens and ducks. PLoS One 2013;8(1):e50598 (hereafter referred to as “PLoS One 2013A”).
- Newcastle disease virus fusion protein is the major contributor to protective immunity of genotype-matched vaccine. PLoS One 2013;8(8):e74022 (hereafter referred to as “PLoS One 2013B”).
- Role of C596 in the C-terminal extension of the haemagglutinin-neuraminidase protein in replication and pathogenicity of a highly virulent Indonesian strain of Newcastle disease virus. J Gen Virol. 2014;95(Pt 2):331-6 (hereafter referred to as “J Gen Virol. 2014”).
- Newcastle disease virus vector producing human norovirus-like particles induces serum, cellular, and mucosal immune responses in mice. J Virol. 2014;88(17):9718-27 (hereafter referred to as “J Virol. 2014”).
- Modified Newcastle disease virus vectors expressing the H5 hemagglutinin induce enhanced protection against highly pathogenic H5N1 avian influenza virus in chickens. Vaccine 2014;32(35):4428-35 (hereafter referred to as “Vaccine 2014”).
- Immunogenicity of Newcastle disease virus vectors expressing Norwalk virus capsid protein in the presence or absence of VP2 protein. Virology 2015;484:163-9 (hereafter referred to as “Virology 2015”).
- LaSota fusion (F) cleavage motif-mediated fusion activity is affected by other regions of the F protein from different genotype Newcastle disease virus in a chimeric virus: implication for virulence attenuation. J Gen Virol. 2016;97(6):1297-1303 (hereafter referred to as “J Gen Virol. 2016”).
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2020年5月11日(48歳?)の研究公正局は、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。
同じ実験結果であるウエスタンブロット画像、顕微鏡画像、ウイルス力価データ、マウス免疫応答データを変更、再利用、表示付け替えをし、故意に、ねつ造・改ざんした。
しかし、言葉で説明されてもわかりにく。撤回された1論文を選んで研究公正局の指摘箇所の一部を以下に詳しく見よう。
★「2014年のJ Virol.」論文
「2014年のJ Virol.」論文の書誌情報を以下に示す。2020年2月に撤回された。
- Newcastle disease virus vector producing human norovirus-like particles induces serum, cellular, and mucosal immune responses in mice.
Kim SH, Chen S, Jiang X, Green KY, Samal SK.
J Virol. 2014 Sep 1;88(17):9718-27. doi: 10.1128/JVI.01570-14. Epub 2014 Jun 11. Retraction in: J Virol. 2020 Feb 28;94(6):
研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見よう(図の出典は原著)。以下は、指摘の全部ではない。
【図1B】
以下の図1Bの上列(VP1)の4ブロットはねつ造・改変したものだった。最初の2つは、空白のバックグラウンドを使用し、最後の2つのブロットは異なるウイルス(BC/NV101)のバンド由来だが、表示を変えて使用した。
【図3A】
以下の図3Aの3列目(modified rNDV- VP1 in DF1 cell lysates)の4ブロットは改変rNDVウイルス株(modified rNDV)と表示されているが、別のウイルス株(BC / NV101)での4ブロットを改ざんした画像だった。
【図5~図8】
以下の図5~図8のデータは存在していない。つまり、架空の数値であり、データねつ造である。
以下、図5から図8を順に並べた。全部、ウイルス力価データ、マウス免疫応答データなどである。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年5月23日現在、パブメド(PubMed)で、シンヒー・キム(Shin-Hee Kim)の論文を「Shin-Hee Kim [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2013~2020年の18年間の78論文がヒットした。
「Kim SH[Author]」で検索すると、 18,487論文がヒットした。
所属をメリーランド大学(University of Maryland)に限定した「(Kim SH[Author]) AND University of Maryland[Affiliation] 」で検索すると、 59論文がヒットした。
2020年5月23日現在、「(Kim SH[Author]) AND University of Maryland[Affiliation] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2014年のJ Virol.」論文・1論文が2020年2月に撤回されていた。
★撤回監視データベース
2020年5月23日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでシンヒー・キム(Shin-Hee Kim)を「Kim, Shin Hee」で検索すると、本記事で問題にした「2014年のJ Virol.」論文・1論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年5月23日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シンヒー・キム(Shin-Hee Kim)の論文のコメントを「”Shin-Hee Kim”」で検索すると、本記事で問題にした「2014年のJ Virol.」論文を含め3論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》不明
シンヒー・キム事件は「どのような状況で、どうしてネカトをしたのか」、まったく不明である。
この部分を解明しないと、ネカト防止策を立てられない。
韓国の釜慶(プギョン)大学(Pukyung National University)で修士号(MS)を取得し、米国の研究助教授になった。それが、ネカトである。女性だが、結婚し子供がいるのか、米国では不遇だったのか、事件後、韓国に帰国したのか、分からない。顔写真もみつからない。
研究公正局は調査に時間がかかる。結論が発表される前に、ウェブ上の情報はほとんど削除されたようだ。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2020年5月11日:Case Summary: Kim, Shin-Hee | ORI – The Office of Research Integrity(2023年5月にリンク切れる)。(2)2020年5月13日の連邦官報:Federal Register Notice 2020-10253 – Dr. Kim.pdf 。(3)2020年5月13日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。
② 2020年5月13日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former U Maryland researcher faked data in seven papers, two Federal grants: ORI – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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