大学:コロンビア大学の「ミラクル」研究(Columbia University ‘Miracle’ Study)(米)

ワンポイント:祈ると生殖医療の成功率が高くなるという非科学的データねつ造・改ざん論文

【概略】
キャプチャ米国・ニューヨークの名門大学であるコロンビア大学・産婦人科(Obstetrics and Gynecology Department at Columbia University)で起こった研究データねつ造・改ざん事件である。

無題2001年、韓国人の不妊医学の医師・グァンヨル・チャ(Kwang-Yul Cha)がコロンビア大学・産婦人科で研究し論文を発表した。

チャ医師が第1著者、超常現象研究者で弁護士のダニエル・ワース(Daniel P. Wirth)が第2著者、コロンビア大学・産婦人科のロゲリオ・ロボ教授(Rogerio Lobo)が最後著者の、JRM(Journal of Reproductive Medicine)誌の以下の論文である。

論文タイトルを日本語にすると「祈りは体外受精・胚移植の成功率に影響するか?」である。

祈りと精子・卵子レベルの生命現象はどう考えても無縁である。

2002年、カリフォルニア大学アーバイン校(university of California, Irvine)のブルース・フラム産婦人科教授・医師(Bruce L. Flamm)が、上記の「2001年のJRM」論文がトンデモない非科学的論文であることを暴いた。

事件のその後は、第1著者の韓国人・グァンヨル・チャ医師は韓国で巨大な医科大学長・病院長として活躍している。第2著者のダニエル・ワース(Daniel P. Wirth)は、別件で事件を起こした。最後著者のコロンビア大学のロゲリオ・ロボ教授は、2004年10月、論文著者から自分の名前を除いた。2016年2月14日現在、コロンビア大学の教授であり研究論文を発表している。

なお、JRM誌は1968年創刊の隔月学術誌で、一流ではないが、いい加減な学術誌でもない。2016年2月13日現在、生殖医療(Reproductive Medicine)分野の66学術誌のランキング33位保存版)である。(保存版)

この事件は、2012年2月27日の「大学の10大研究不正」ランキングの第7位になった(2012年ランキング | 研究倫理)。

Scientist using microscope in lab
コロンビア大学・産婦人科(Obstetrics and Gynecology Department at Columbia University)の実験室で研究者が顕微鏡で観察実験をしている。写真出典Department of Obstetrics and Gynecology –
  • 国:米国
  • 集団名:コロンビア大学・産婦人科
  • 集団名(英語):Obstetrics and Gynecology Department, Columbia University
  • 事件人数:3人
  • 分野:生命科学(産婦人科)
  • 不正年:2001年
  • 発覚年:2002年
  • 発覚:同じ分野の研究者
  • 調査:
  • 不正:データねつ造・改ざん。錯誤
  • 不正論文数:1報
  • 被害:健康被害者は0人。研究費は?ドル
  • 結末:辞職なし。1人は学科長を辞任。

【事件の内容】

★論文著者

2001年、韓国人の不妊医学の医師・グァンヨル・チャ(Kwang-Yul Cha)がコロンビア大学・産婦人科で研究し、コロンビア大学・産婦人科・教授のロゲリオ・ロボ(Rogerio Lobo)を最後著者に以下の論文をJRM(Journal of Reproductive Medicine)に発表した。

論文タイトルを日本語にすると「祈りは体外受精・胚移植(IVF-ET)」の成功率に影響するか?」である。

論文の著者は以下の3人である。

無題★(1)グァンヨル・チャ(Cha, Kwang-Yul) (1952年 12月 23日生まれ)。履歴 出典:Kwang-Yul Chaの紹介保存版

韓国人の医師。韓国のポチョンチャ医科大学(Pochon Cha University)・学長で江南チャ病院(CHA General hospital)・病院長。海外施設として、米国・ニューヨークやロサンゼルスにチャ生殖医療センター(CHA Fertility Center)を運営している。

学歴】:入学年度 卒業年度 出身校及び専攻】
1968 /1971 テグァン高等学校
1971 /1973 延世大学校
1973 /1977 延世大学校医学学士
1980 /1982 延世大学校大学院医学修士

職歴】:期間 機関
1977/1978.延世大医科大学付属セブランス病院解剖病理学助手
1979/1983.延世大医科大学付属セブランス病院レジデント修了
1983/1984.延世大医科大学付属セブランス病院産婦人科学教室研究員
1984/1986.米国 USC大学付属病院 Post Doctral Fellowship
1984/1984. チャ病院産婦人科・医師
1984/1984. チャ病院院女性医学研究所・副院長
1984/1984.延世大医科大学付属セブランス病院外来教授
1984:ポチョンチャ医科大学校江南チャ病院・副院長
1984:ポチョンチャ医科大学校江南チャ病院女性医学研究所・所長
1984/1984. ポチョンチャ医科大学校医学科産婦人科学教室・教授
1997/1997.12 ポチョンチャ医科大学校初代総長
1998:米国コロンビア大学医科大医学科三婦人科学教室・交換教授
1999: [現]第1代 C.C不妊治療センター・所長(米国ニューヨーク)
2016:[現] ポチョンチャ医科大学・学院長

★(2)ダニエル・ワース(Daniel P. Wirth)(顔写真未発見)は、弁護士(J.D.)。超常現象屋でもある。

ralobo(3)ロゲリオ・ロボ教授(Rogerio Lobo、写真出典は、コロンビア大学(Columbia University)・産婦人科・教授。論文発表時点では学科長。

【事件解説の日本語文章】

日本語の解説を引用する。

★2006年12月 4日の「Kumicit」氏の記事

出典:“Intercessory Prayer”動向(3/7) — 詐欺師登場: 忘却からの帰還保存版

この日本語文章には事件の全体が詳細に記述されている。長いが、取捨引用する。写真は白楽が加えた。

「2001年のJRM」論文は、

人工受精について次のような結果を得たと主張した:
祈られたグループの妊娠率は、祈られなかったグループよりも高かった(50% 対 26%で P= 0.0013)。着床率も祈られたグループが高かった(16.3% 対 8%で P=0.0005)。
初期的な結果ではあるが、人工授精の結果について祈りの効果に、統計的に有意な違いがあることわかった。

flamm人工授精の成功率に祈りが影響するなんて、どう考えても正気の沙汰とは思えない論文である。

2002年、カリフォルニア大学アーバイン校(university of California, Irvine)・産婦人科教授のブルース・フラム医師(Bruce L. Flamm、写真出典)が、以下のように問題点を指摘した(Flamm BL. Faith healing by prayer: Review of Cha, KY, Wirth, DP, Lobo, RA. Does prayer influence the success of in vitro fertilization-embryo transfer?  The Scientific Review of Alternative Medicine. 2002; 6(1):47-50)。なお、この出典論文がウェブでは見つからなかった。

==以下は引用(「Kumicit」氏の記事

  • 219名の患者のうち20名が”fragmentary e-mail transmission”による除外されたとある。しかし、どういう障害が起きたのか記載がない。==> データ改ざんの疑いがある。
  • 効果がないことと判明すると期待して実験を始めたとあるが、ダニエル・ワース(Daniel P. Wirth)は超常現象屋であり、超常現象を主張する著作が多くある[Wirth and Cram ,1994; Wirth and Cram, 1993; Wirth and Marrett, 1994; Wirth 1995; Wirth et al., 1996; Wirth et al., 1997; Wirth and Cram, 1997]。==>嘘つきの疑いがある。
  • バイアスを排除したと言うが、ボランティアとして祈りに参加した人々の多くは宗教団体に所属しているはずであり、そこにバイアスの可能性がある。にもかかわらず、何らの記載もない。さらに、祈った人々の大半は、著者のひとりに知られている、とある。==> 何らかのコンタクトがあり、二重盲検が破れているかもしれない。
  • 慎重なデータのマスキングをしたと言うが、方法の記載がない。==>データ改ざんの可能性を否定できない。
  • 患者たちに対して他の者が祈りを捧げたかどうかについて言及していない。

==ここまで引用

そして、「2001年のJRM」論文は研究のデザインが無駄に複雑である(白楽が内容を略)。

==以下は引用

そもそも論文の記述自体からも、研究に疑問点が多すぎた。そして…

第2著者のダニエル・ワース(Daniel P. Wirth)はかなりあやしい人物である

ワースは医学の学位を持っていないが、超常現象の存在を支持すると主張する多くの研究を発表している。ワースは”超心理学”というあやしい分野の修士と法学博士の学位を持っている。特に、祈りの効果などを中心に著作を書いている。

さらに、ワースは、2004年に本件とは無関係の詐欺事件の共謀罪を認めている。

2002年10月に、ワースは元の研究仲間のジョセフ・ホルバート(Joseph Horvath, またの名をJoseph Hessler)とともに、連邦大陪審により起訴された。両名は、ケーブルテレビ会社アデルフィア(Adelphia)に入り込んで、承認されていないコンサルティングに210万ドルを支出させたとして告発された。警察はワースが、ジョンウェイン・トルーラブ(John Wayne Truelove)という名を持っていることを見つけた。FBI捜査官は、ワースが1980年代半ばにパスポート取得のために1959年に5歳で死亡したニューヨークの子供トルーラブ(Truelove)の名前を使ったことを明らかにした。ワースと共犯者は、13件のメール詐欺、12件の盗んだ金の州を越えた移送、ローンについて誤った申告、5件のその他の詐欺で訴えられた。連邦大陪審はワースとホルバートの関係が20年以上に及び、偽った身分証明によって、340万ドル以上の収入を得ていたと結論した。アデルフィア(Adelphia)社の件以外に、ワースはジュリウス・ワース(Julius Wirth)の名義で1994~2003年に合計103,178ドルの社会保障を連邦政府から騙し取った。この名義はおそらく1994年に死亡した父親のもので、死後も年金が銀行口座に振り込まれ続けた。

ワースとホルバートは始めは無罪を主張した。そして、18ヶ月にわたって、6回も裁判が延期された。しかし、2004年5月18日に、連邦政府 vs ワース & ホルバートの裁判が始まった時、両名はメール詐欺と銀行詐欺についての共謀を認めた。両名は、連邦刑務所で最長5年の懲役の可能性があり、詐欺によって得た100万ドル以上の資産を失うことに同意した。しかし、ホルバートは2004年7月13日に独房で自殺と見られる死体で発見された。

第3著者であるロゲリオ・ロボ教授(Rogerio Lobo)と所属するコロンビア大学(Columbia University)は論文発表当初は、ロボ教授の役割を強調していた

慎重にバイアスを除外するようにデザインされた研究による驚くべき結果によれば、祈りは妊娠につながる体外受精の成功率をほぼ2倍にするかもしれない。2001年9月のJRM誌で公表される発見は、祈られたグループの女性の妊娠率が50%であるのに対して、祈られなかったグループの妊娠率は26%だった。コロンビア大学・医科大学院・産婦人科・学科長であるロボ教授に指導された研究者たちは、結果が信じられないものだと認めている。しかし、研究者たちはこの結果が再現可能かどうかの確認、そして再現できたなら、祈りを受けた女性たちの妊娠率の向上に何が効いているのか特定ができるように、発見を公表することにした。

ところが、共著者で超常現象屋のワースの詐欺がばれたら:

ロボ教授の秘書であるレバ・ノソフ(Reba Nosoff)は「チャ医師は客員教授であり、その研究をロボ教授の援助なしに完成しました」と説明した。

その研究では、米国人・オーストラリア人・カナダ人が、実験に参加していることを知らされていない韓国の女性のために祈った。ノソフ秘書は「チャ医師はこの結果が信じがたいものだったので、ロボ教授に再検討してもらうために、この研究をロボ教授に持ち込んだものです。ロボ教授はこれがよい研究であり、適切であると言いました。それなので、彼は承認のスタンプを押しました。それだけです。」と言った。

ノソフ秘書の説明は、米保健社会福祉省の担当者からコロンビア大学の健康科学担当副学長へ2001年12月の手紙の内容と、おおよそ一致する。この研究では、参加者に目的が知らされていなかったので、当局はコロンビア大学の研究を調査した。当局は手紙の中で、「ロボ教授が研究のことをチャ医師から知らされたのが、研究完了から6~12ヶ月後だったので、本件について追求しない。ロボ教授は主として、論文のチェックと出版の手伝いをした」と書いている。

まとめると、コロンビア大学のチャ医師/ワース/ロボ教授の研究の著者のひとり(チャ医師)はコロンビア大学を去っていて、コメントを拒否。もう一人(ロボ教授)は、研究結果を6~12ヶ月後に知っただけだと主張し、コメントを拒否。残りの一人(ワース)は、詐欺罪で刑務所行き。詐欺はまだ残っている。実際、コロンビア大学の研究は戸惑うようなデザインに基づいていて、エラーの要因を多く含んでいた。しかし、上述の衝撃的な情報を考えれば、欠陥よりさらに悪く、そもそも実験がまったく行われなかったという嘆かわしい可能性も考慮しなければならない。

==ここまで引用

この日本語解説にあるように、論文のデータと結論は全く信用できない。実験の意図そのものが非科学的である。本ブログでは、データねつ造・改ざん事件として扱う。

【事件のその後】

★論文

2016年2月14日現在、パブメド(PubMed)では以下の当該論文は撤回されていない。

2004年10月、最後著者のコロンビア大学のロゲリオ・ロボ教授は論文著者から自分の名前を除いた。

★ロゲリオ・ロボ教授

事件後、コロンビア大学・産婦人科の学科長は辞任したが、教授職はキープした。

2016年2月14日現在、コロンビア大学の教授保存版)であり研究論文保存版)を発表している。

しかし、2013年6月、インフォームド・コンセント違反など臨床研究で問題を起こした。

2014年4月18日、食品医薬品(FDA)は、ロボ教授に警告書を発している。①2014 > Rogerio Lobo, M.D. 4/18/14保存版)、② FDA Warning Letter – Failure to ensure proper monitoring of investigation

【白楽の感想】

《1》トンデモ科学をどうして信じる?

こういう事件があるたびに、人々はどうしてトンデモない科学を信じるのだろうか? と疑問に思う。

トンデモない科学=疑似科学(ぎじかがく、英: pseudo science)、ニセ科学

cha_2《2》韓国大丈夫?

こんな事件を起こしたグァンヨル・チャ(Cha, Kwang-Yul、写真出典)は韓国では大学の学長であり病院長である。こういう人をその立場に認めてしまう韓国って、研究公正は大丈夫なのだろうか?

大丈夫なわけないですね。「2001年のJRM」論文が問題視された3年後の2005年末、ウソク・ファン事件が勃発している。

日本も同類ですけど、どうして、抜本的に改善しようとしないのか? 一般的には、利権構造と怠慢構造ですね。

【主要情報源】
① ウィキ「WikiCU, the Columbia University wiki encyclopedia」記事:Miracle study – WikiCU, the Columbia University wiki encyclopedia保存版
② 2004年9-10月のブルース・フラム(Bruce Flamm)の「CSI」記事:The Columbia University ‘Miracle’ Study: Flawed and Fraud – CSI
③ 資料サイトColumbia University ‘Miracle’ Story:Columbia Miracle Study保存版
④ 2004年11月のブルース・フラム(Bruce Flamm)の「Freethought Today」記事:Freethought Today, November 2004保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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