ポール・マクロリー(Paul McCrory)(豪)

2022年4月30日掲載 

ワンポイント:マクロリーはオーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)・準教授で脳震とうのスポーツ医学では、ここ10年、オーストラリアでは最も影響力のある人だった。学術誌「British Journal of Sports Medicine」の編集長をしていたが、2022年(52歳?)、17年前の論文が盗用だと指摘された。マクロリーは間違いだったと弁解した。しかし、2002~2015年(32~45歳?)の13年間の10論文にも盗用が見つかり、どうやら盗用常習者だったようだ。学外の委員・会長・編集長を辞任したが、準教授職は維持している。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ポール・マクロリー(Paul McCrory、ORCID iD:?、写真出典保存版)は、オーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)・準教授で医師である。専門はスポーツ医学(脳震とう)で、オーストラリア・スポーツ界の脳震とう問題では、ここ10年、最も影響力のある人物だった。

被盗用者であるスティーブ・ハーケ教授(Steve Haake)が10年以上前からマクロリーの「2005年10月のBritish Journal of Sports Medicine」論文は、ハーケの「2000年9月のPhysics World」論文の盗用だと指摘していたが、対応されなかった。

2021年12月、ハーケ教授は学術誌「British Journal of Sports Medicine」に伝え、ようやく盗用と認められた。2022年1月、マクロリーの「2005年10月のBritish Journal of Sports Medicine」論文が撤回された。

マクロリーは意図的な盗用ではなく、間違いだったと謝罪した。

ハーケ教授は、マクロリーの論文撤回を、2022年2月28日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事で公表した。

それで、ネカト界が動いた。

ネカトハンターのニック・ブラウン(Nick Brown)が、マクロリー の10論文は盗用だと、証拠と共にウェブサイトで指摘した。

これで、2002~2015年(32~45歳?)の13年間もマクロリーは盗用していた盗用常習者だということがハッキリした。

盗用発覚後にマクロリーは、学外の役職を辞任したが、メルボルン大学(University of Melbourne)・準教授の職は維持している。 → 2022年4月29日保存版:Associate Professor Paul McCrory

2022年4月29日現在、メルボルン大学がネカト調査を始めたかどうか不明である。

メルボルン大学(University of Melbourne)。写真出典

メルボルン大学(University of Melbourne)構内。入口に門が見つからなかった。

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:オーストラリア
  • 医師免許(MD)取得:あり
  • 研究博士号(PhD)取得:?
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。見た目から
  • 現在の年齢:54 歳?
  • 分野:スポーツ医学(脳震とう)
  • 不正論文発表:2002~2015年(32~45歳?)の13年間
  • 発覚年:今回明確になったネカトは2022年(52歳?)
  • 発覚時地位:メルボルン大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者のスティーブ・ハーケ教授(Steve Haake、英国のシェフィールド・ハラム大学)
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Nick Brown’s blog」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②メルボルン大学・調査委員会は調査していない?
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない?
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:10報以上
  • 盗用ページ率:
  • 盗用文字率:1報は50.7%
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けたが、学外の役職を辞任(▽)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明

  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。見た目から
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で医師免許(MD)を取得
  • xxxx年(xx歳):オーストラリアのフットボールチームであるコリンウッドクラブ(Collingwood Football Club)の医師
  • xxxx年(xx歳):オーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)・準教授
  • 2002年(32歳?):最初の盗用論文発表
  • 2010年(40歳?):デューク賞・受賞 :The Duke of Edinburgh’s Award – Wikipedia
  • xxxx年(xx歳):国際サッカー連盟などが支援するスポーツ脳震とうグループ(Concussion in Sport Group (CISG))・会長に選出された
  • 2021年1月(51歳?):オーストラリアン・フットボール・リーグ(AFL)・脳震とう科学委員会(Concussion Scientific Committee)・委員に選出された
  • 2022年2月(52歳?):盗用が公表
  • 2022年3月(52歳?):スポーツ脳震とうグループ(Concussion in Sport Group (CISG))・会長、オーストラリアン・フットボール・リーグ(AFL)・脳震とう科学委員会・委員を辞任
  • 2022年4月29日(52歳?)現在:メルボルン大学・準教授の職を維持している → 2022年4月29日保存版:Associate Professor Paul McCrory

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
講演動画:「”The Concussion “Crisis” – Media, Myths and Medicine” – Associate Professor Paul McCrory – YouTube」(英語)43分46秒。
The Florey Institute of Neuroscience and Mental Healthチャンネル登録者数 4400人が2016/04/08 に公開

【動画2】
マクロリーは登場しないが、脳震とうについての講演で、話がとても上手い。
講演動画:キム・ゴーゴンズ「脳震盪を防ぐための脳の保護術」(英語、日本語字幕付き)9分5秒。

神経心理学者のキム・ゴーゴンズが、子供達のヘルメット着用を強調する話で、脳震盪の危険性と脳の保護術を講演している。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★スポーツ界に影響力のある脳震とう研究者

ポール・マクロリー(Paul McCrory、写真出典)はスポーツにおける脳震とう研究者として著名でかつ重要人物だった。過去10年間、スポーツにおける脳震盪で最も大きな声を上げてきました。

国際オリンピック委員会(International Olympic Committee)や国際サッカー連盟(FIFA)が資金援助しているスポーツ脳震とうグループ(Concussion in Sport Group (CISG))・会長に選出されていた。

2021年1月(51歳?)、オーストラリアン・フットボール・リーグ(AFL)・脳震とう科学委員会(Concussion Scientific Committee)・委員にも選出された。

マクロリーはまた、学術誌「British Journal of Sports Medicine」の編集長だった。

★発覚の経緯

被盗用者であるスティーブ・ハーケ教授(Steve Haake、写真出典)は、英国のシェフィールド・ハラム大学(Sheffield Hallam University)のスポーツ工学の教授である。

マクロリーの「2005年10月のBritish Journal of Sports Medicine」論文は、ハーケの「2000年9月のPhysics World」論文の盗用で、ハーケ教授の計算では盗用文字率は50.7%だった。

ハーケ教授は10年以上前に学術誌「Physics World」に警告したが、学術誌・編集部は何もしなかった。それで、仕方なしに、自分の「対処困難」箱に入れていたが、ずっと、悩ませされ続けた。

ハーケ教授が指導する院生が、博士論文でハーケの論文を引用しないでマクロリーの論文を引用するということも起こった。

2021年6月(51歳?)、ハーケ教授に自己盗用絡みの事が起こり、ハーケ教授はマクロリーの盗用を、今度こそ何とかしようと再度思い始めた。

学術誌「British Journal of Sports Medicine」の盗用があると通報された学術誌「British Journal of Sports Medicine」は、ようやくマクロリーの盗用調査を始めた。

2021年12月(51歳?)、学術誌は盗用があると認め、2022年1月に撤回すると、ハーケ教授に通知した。

論文撤回を知った「撤回監視(Retraction Watch)」は、スティーブ・ハーケ教授(Steve Haake)に盗用事件の顛末を執筆するよう誘った。

2022年2月28日(52歳?)、ハーケ教授は、ポール・マクロリー(Paul McCrory)の盗用を「撤回監視(Retraction Watch)」で指摘した。 → 2022年2月28日のスティーブ・ハーケ(Steve Haake)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘This is frankly insulting’: An author plagiarized by a journal editor speaks – Retraction Watch

マクロリーは論文盗用の指摘を受け、「撤回監視(Retraction Watch)」に長文の説明と謝罪を述べている。

長文の説明を短かくすると、以下のようだ。

どちらの場合も、私が意図的に盗用したものではなく、原稿作成と出版までの間に起こった間違い(my error)です。しかし、公開された論文は盗用になっているので是正しなければなりません。再度、間違い(my error)をお詫び申し上げます。そして、論文の撤回を要請しました。

2022年3月7日(52歳?)、ところが、ネカトハンターのニック・ブラウン(Nick Brown)がマクロリーの10論文に盗用があると指摘した。 → ニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ「Nick Brown’s blog」記事:Nick Brown’s blog: Some examples of apparent plagiarism and text recycling in the work of Dr Paul McCrory

盗用した10論文は2002~2015年(32~45歳?)の13年間に出版されていた。

これで、マクロリーの盗用は、たまたま引用をし忘れたという「間違い」レベルの話しではなく、長年にわたる盗用の常習者であることがハッキリした。

★その後

2022年3月(52歳?)、マクロリーは国際サッカー連盟などが支援するスポーツ脳震とうグループ(Concussion in Sport Group (CISG))・会長だったが辞任した。

1年前に委員に就任していたオーストラリアン・フットボール・リーグ(AFL)・脳震とう科学委員会(Concussion Scientific Committee)・委員も辞任した。

メルボルン大学(University of Melbourne)はネカト調査を開始したのかどうか不明だが、2022年4月29日現在、準教授の職を維持している。 → 2022年4月29日保存版:Associate Professor Paul McCrory

【盗用の具体例】

★「2005年10月のBritish Journal of Sports Medicine」論文

マクロリーの「2005年10月のBritish Journal of Sports Medicine」論文
The time lords – measurement and performance in sprintingが、ハーケの「2000年9月のPhysics World」論文の盗用だった。

ネカトハンターのニック・ブラウン(Nick Brown)が彼のブログ「Nick Brown’s blog」で盗用部分を以下のようにピンク色で示した。 → 2022年3月7日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ「Nick Brown’s blog」記事:Nick Brown’s blog: Some examples of apparent plagiarism and text recycling in the work of Dr Paul McCrory

ハーケ教授の計算では盗用文字率は50.7%だったと述べている。

★上記以外の9論文

ニック・ブラウン(Nick Brown)は上記以外にマクロリーの9論文について、その盗用箇所を着色して示している。 → 2022年3月7日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ「Nick Brown’s blog」記事:Nick Brown’s blog: Some examples of apparent plagiarism and text recycling in the work of Dr Paul McCrory

ニック・ブラウンは、結局、マクロリーの計10論文の盗用箇所を示したが、マクロリーの盗用論文はこの計10論以上あるだろうと述べている。

しかし、白楽が思うに、数日の作業でこれまで盗用を見つけるなんて、ニック・ブラウンは、スゴイ男だ。

9論文の内、2論文を以下に示す(図の出典は上記)。

――――――――――論文2

――――――――――論文3

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年4月29日現在、パブメド(PubMed)で、ポール・マクロリー(Paul McCrory)の論文を「Paul McCrory[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の144論文がヒットした。

2022年4月29日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2022年4月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでポール・マクロリー(Paul McCrory)を「Paul McCrory」で検索すると、本記事で問題にした「2005年10月のBritish Journal of Sports Medicine」論文・1論文が2022年2月28日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年4月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ポール・マクロリー(Paul McCrory)の論文のコメントをPaul McCrory」で検索すると、1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》身体検査 

ネカトを調べていると、ネカト者に教員や院生が多い。マー、教員や院生の数が多いからだ。

ネカトを追求する側の学術誌の編集者・編集長にもネカト者がみつかる。

そして、驚くかもしれないが、ネカト調査をするネカト調査委員、さらに、ネカト者を処分する学長・副学長にもネカト者がみつかる。

人がいるところネカトあり。

本来なら、学術誌の編集者・編集長、ネカト調査委員、学長・副学長の選出にあたり、ネカトを含めた不正や品行のチェックをすべきなのだが、日本も世界もそういうチェックをしていない。

日本の場合だけでなく、世界のどこでも、むしろ、人を欺くのが上手く、品行怪しい人が、偉くなる傾向がある。ゴメン、言い方を間違えた、公式な言い方をすると、「指導力がある」「リーダーシップがある」人が、要職に就く傾向がある。

だから、スポーツ脳震とうグループ(Concussion in Sport Group (CISG))・会長で、しかも、学術誌の編集長だったポール・マクロリー(Paul McCrory)が盗用していたと言われても驚かない。

驚くのは、2005年の盗用が17年後の2022年になって明るみに出たことだ。

そして、2002~2015年(32~45歳?)の13年間も盗用していたのにハーケ教授以外、誰も盗用と指摘していないことだ。学術誌や大学は、もっと早く気がつくべきで、もっと早く対処すべきだった。

まあ、ニック・ブラウン(Nick Brown)が短日で10論文の盗用を検出したことも驚いたけど。

《2》盗用常習者

ニック・ブラウンはマクロリーの計10論文の盗用を指摘したが、マクロリーは盗用常習者なので、もっと盗用していたに違いない。

メルボルン大学(University of Melbourne)はマクロリーの全論文・全文書をチャンと調査し、チャンと処分してくださいね。

ポール・マクロリー(Paul McCrory、写真出典

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●9.【主要情報源】

① ◎2022年2月28日のスティーブ・ハーケ(Steve Haake)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘This is frankly insulting’: An author plagiarized by a journal editor speaks – Retraction Watch
② 2022年3月2日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Was leading sports medicine researcher’s plagiarism ‘an isolated and unfortunate incident?’ – Retraction Watch
③ 2022年3月4日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Sports medicine researcher Paul McCrory requests another retraction – Retraction Watch
④ 2022年3月5日のキーラン・ギル(Kieran Gill)記者の「Daily Mail」記事:Head injury expert resigns, leaving integrity of sport’s concussion protocols under severe scrutiny | Daily Mail Online
⑤ ◎2022年3月7日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者のブログ「Nick Brown’s blog」記事:Nick Brown’s blog: Some examples of apparent plagiarism and text recycling in the work of Dr Paul McCrory、データはココ → http://nickbrown.fr/blog/mccrory
⑥ 2022年3月7日のアマンダ・ハイト(Amanda Heidt)記者の「Scientist」記事:Neurologist Paul McCrory Resigns Amid Plagiarism Allegations | The Scientist Magazine®
⑦ 2022年3月16日のメリッサ・デイビー(Melissa Davey)記者のブログ「Guardian」記事:AFL says it no longer works with concussion expert Dr Paul McCrory | AFL | The Guardian
⑧ 2022年3月21日のエメット(Emet)記者のブログ「Balkan Travellers」記事:Concussion doctor under examination in plagiarism scandal
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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