犯罪「毒物」:化学:ユカイ・ヤン、楊宇凱(Yukai Yang)(米)

2019年9月12日掲載 

ワンポイント:化学科学生の毒物事件なので、てっきり研究絡みの事件だと思ったが、そうではなかった。ヤンは中国からの留学生で、米国のリーハイ大学(Lehigh University)・化学科の4年生。2018年4月(22歳)、寮のルームメートの飲み物・食べ物に数か月間、毒物のタリウム(ネットで購入)を入れた。殺人未遂で逮捕された。現在、裁判中で刑期は未定。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

【追記】
・2020年11月30日の記事:Former chemistry student pleads guilty to poisoning roommate

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ユカイ・ヤン、楊宇凱(Yukai Yang、写真出典)は、中国の高校を卒業後、2014年(18歳)、米国のリーハイ大学(Lehigh University)に留学した。事件を起こしたときは化学科の学部4年生だった。

この事件は、自然科学/工学の事件一覧表にも記載した。

2018年4月(22歳)、寮のルームメートの飲み物・食べ物に数か月間、毒物のタリウムを入れたことで、殺人未遂で逮捕された。

毒物は研究室から持ち出したと白楽は思っていたが、実際は、ネットで購入したそうだ。購入理由? 試験に失敗した時の自殺用と弁明している。でも、即効毒性はない。

2019年9月11日(23歳)現在、もう事件は片付いていると思って記事にしたが、イヤイヤ、裁判中で刑期は未定とのことだ。

リーハイ大学(Lehigh University)。Photo: Lehigh University。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1995年12月26日
  • 現在の年齢:25 歳
  • 分野:化学
  • 最初の不正:2018年(22歳)
  • 発覚年:2018年(22歳)
  • 発覚時地位:リーハイ大学・学部4年生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はルームメイトで被害者のジュワン・ロイヤル(Juwan Royal、22歳、男性)
  • ステップ2(メディア):米国と中国の多数の新聞
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ペンシルベニア州ノーザンプトン郡検察。②裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:毒物混入
  • 不正数:数か月にわたり何度も
  • 時期:研究キャリア以前
  • 職:事件後に学生を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:逮捕。裁判中で刑期未定
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1995年12月26日:中国で生まれる
  • 2014年(18歳):中国の高校を卒業
  • 2014年(18歳):米国のリーハイ大学(Lehigh University)・化学科・入学
  • 2018年4月(22歳):人種差別罪で逮捕
  • 2018年12月(22歳):毒物混入で逮捕
  • 2019年9月11日(23歳)現在:裁判中で刑期は未定

●3.【動画】

【動画1】
ニュース動画:「元リーハイ大学中国留学生がルームメイトに毒を盛り告発された(Former Lehigh University Student From China Accused Of Poisoning Roommate) – YouTube」(英語)53秒。

●4.【日本語の解説】

以下の記事が詳しい。白楽が加えて書くことはないほどだ。選択引用。

★2018年12月29日:エキサイトニュース:中国人留学生、同室の黒人学生にタリウムを盛る 「黒人は出ていけ」(米)

出典 → ココ、(保存版

米ペンシルベニア州ベスヘレムにあるリーハイ大学を今年卒業したジュワン・ロイヤルさん(Juwan Royal、22)は、かつて住んでいた大学の宿舎でとんでもない目にあった。アフリカ系アメリカ人のジュワンさんは当時、ルームメイトの中国人留学生ユカイ・ヤン(Yukai Yang、22)と同じ部屋に住んでいた。

ジュワンさんに起こった最初の異変は、今年2月のことだった。ジュワンさんが自分専用のボトルに入った飲み物を飲んだところ、口の中が燃えるような感覚に襲われた。その時、寝ていたユカイを起こしてトイレまで連れて行ったもらったという。

奇妙な出来事はそれだけではなかった。翌月の3月18日にジュワンさんは気分が優れず、気絶寸前でふらふらになる状態に陥った。ジュワンさんはこの時に何が起きたのか知る由も無かったが、誰かが自分の飲み物に何かを入れたと確信していたため警察に通報した。

ところが3月29日早朝に、また同じ事態が起きた。全身に大きな痛みが走り約45分間嘔吐が止まらず、警察が再び呼ばれ、ジュワンさんは救急車で病院に搬送された。どうやら冷蔵庫に保管していた牛乳とマウスウォッシュに原因があったようで、それらは普通の色とは違う色に変色していたとのことだ。

そして4月5日の午後12時半頃のこと、今度はジュワンさんのテレビやベッドが何者かによって壊され、破損した。彼の机には、黒人を差別する「ニガー」という言葉を用いて「黒人は出て行け」とマーカーペンで落書きされていた。

警察はルームメイトのユカイに疑いの目を向けた。調べにより落書きの筆跡とユカイの筆跡が一致することが判明、ユカイはジュワンさんが口にする飲み物などにタリウムを密かに入れていたことを認めた。

その後の検査で、ジュワンさんの血中から有害な金属タリウムが安全基準を大きく上回る1リットルにつき3.6マイクログラムという値で検出された。これにより12月20日、ユカイは殺人未遂と加重暴行の罪などで起訴された。ノーサンプトン郡地方検事のジョン・モーガネリ氏(John Morganelli)は、「短い間にタリウムを大量に摂取すると、人の神経系や肺、心臓、肝臓や腎臓などに影響を及ぼす。また一時的に髪の毛が抜けたり、吐き気、下痢が起こり、最悪の場合は死に至る」と説明していた。

ユカイはタリウムや他の化学薬品をオンライン上で購入し、密かに冷蔵庫に保管していたジュワンさんの食べ物や飲み物に混ぜていた。ユカイは「これからある試験でいい点が取れなかったら、自分でタリウムを飲もうと思っていた」と供述している。

ユカイは逮捕直後に大学を停学処分となっていたが、その後学生としての登録は抹消、学生ビザも取り消され現在は刑務所に勾留中である。被害にあったジュワンさんは今年、無事に大学を卒業しているが、体には後遺症が残っているという。

画像は『Heavy.com 2018年12月21日付「Yukai Yang: 5 Fast Facts You Need to Know」(Facebook)』のスクリーンショット(TechinsightJapan編集部 MasumiMaher)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ユカイ・ヤン(Yukai Yang)

ユカイ・ヤン(Yukai Yang)は中国の重慶市の高校を卒業し、米国ペンシルベニア州のリーハイ大学に国際留学生として渡米した。事件を起こしたときは、22歳、化学科の4年生だったが、2018年5月(22歳)に卒業後、リーハイ大学の大学院に進学予定だった。

2015年、2016年、2017年と毎年学業優秀で奨学金をもらっていた(Yukai Yang保存版)。

被害者のジュワン・ロイヤル(Juwan Royal、黒人)とは4年間、宿舎のルームメイトで、仲は良かったとのことだ。

★発覚

2018年4月(22歳)、リーハイ大学の学生・ユカイ・ヤン(Yukai Yang、22歳)は、ルームメイトのジュワン・ロイヤル(Juwan Royal、黒人、以下の写真)の持ち物に人種差別的なことを書いた容疑で逮捕された。大学は、ヤンを停学処分にした。中国から母親が米国に来て、釈放されたヤンと一緒に、ペンシルベニア州イーストン(Easton, Pennsylvania)に住んだ。

ジュワン・ロイヤル(Juwan Royal)。写真出典

2018年5月(22歳)、ジュワン・ロイヤルはリーハイ大学を卒業した。しかし、その後、数か月間、気分が悪く、警察に何かヘンなことが起こっていたに違いないと訴えた。

それで、警察が調べ、ロイヤルの飲み物にヤンが毒物(タリウム、thallium)を混入していたことを突き止めた。

2018年12月(22歳)、ユカイ・ヤン(Yukai Yang、22歳)は、ルームメイトのミルクなどの飲み物に毒物を混入したことで、ペンシルベニア州で、殺人未遂罪(attempted murder)、加重暴行罪(aggravated assault)などで逮捕された。

ペンシルベニア州ノーザンプトン郡地方検事ジョン・モルガネリ(John Morganelli)は、「一回の行為ではなく、一定期間にわたって、冷蔵庫の食べ物や飲み物に少量の毒物を混入させていた」と述べている。

★タリウム(thallium)

ウィキペディアによると以下のようだ。

タリウム(thallium)は原子番号81の元素。

水と反応して強塩基の水酸化タリウムを作り、体内に入るとカリウムイオンと置き換わることで毒性を示すなど、化学的挙動は他の第13族元素よりもカリウムに近い。

毒性
皮膚、気道からも良く吸収される。毒性は、評価を行った機関により様々な数値が存在している。

単体タリウム
ヒトの中毒量は、最小中毒量 5714μg/kg(男性)

酢酸タリウム
ヒト致死量は、最小致死量 12 mg/kg

硫酸タリウム、酢酸タリウム及び硝酸タリウムは毒物及び劇物取締法で劇物に指定されている。

中毒
特徴的な症状は脱毛で、摂取後数日で現れる。また、外見的な異常として皮膚炎、脱毛、神経障害(失明、下半身不随など)、爪の異常(ミーズ線)を起こす。

タリウムがカリウムと置き換わり細胞毒として作用するほか、細胞骨格を構成するタンパク質であるケラチンのメルカプト基架橋結合を遮断することで毒性を表している。(出典:タリウム – Wikipedia

★経緯

2018年2月(22歳)、最初に毒物を盛られたのは、この頃、らしい。ジュワン・ロイヤル(Juwan Royal、黒人)は、朝、冷蔵庫のボトル入り水を飲むと口が焼けるように感じた。

ルームメイトのヤンを起こし、何が起こったのかを彼に伝えた。2人は一緒にトイレに行き、ロイヤルは口をすすいだ。 その時、ヤンはロイヤルに、「あなたの飲み物に入れられた物質は無色・無臭で、水に溶ける」と言った。ロイヤルは数日間、口と舌が痛かったと警察に述べている。

経緯は「4.【日本語の解説】」記事に詳しいので、そちらを読んでください。

★裁判

殺人未遂罪(attempted murder)が確定すれば、ユカイ・ヤン(Yukai Yang、22歳)は、終身刑が科される可能性がある。

2019年1月5日(23歳)、裁判官は、ヤンは、起訴を逃れて中国に逃亡しようとしたので、保釈なしで拘束するとした。なお、当初保釈金は21万ドル(約2,100万円)だった。しかし、保釈金を払って、国外逃亡する可能性があった。これで、刑事告発が解決するまでノーザンプトン郡刑務所に留まらなければならないとした。
 → 2019年1月5日の「South China Morning Post」記事:Bail revoked: former chemistry student Yukai Yang is jailed for ‘trying to flee to China to evade US poisoning case’ | South China Morning Post

検察は、ヤンの被害者として2人目の同級生がいる可能性を調べている。

2019年2月8日(23歳)、裁判官は、保釈金額の21万ドル(約2,100万円)を10倍以上の250万ドル(約2億5000万円)に引き上げた。なお、GPS監視装置を付けるなら、10分の1の保釈金でも良しとした。
 → 2019年2月8日の「South China Morning Post」記事:Yukai Yang – The Brown and White

2019年9月11日(23歳)現在、裁判中で、刑期は未定である。無罪になることはないと思われる。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》不思議

ユカイ・ヤン事件は不思議な点が多い。

卒業間近になって、それまで4年近く仲が良かったルームメイトに、毒を盛ったのはどうしてだろう?

このことで、ヤンは何も得しない。

ヤンは中国の重慶から、18歳の時、米国に留学し、22歳になっていた。

いつから、人種差別的言動を始めたのか? 米国東部の大学にいれば、人種差別的思想はむしろ抑制されると思うのだが、どうなっているのだろう。

そして、最も不思議に思うのは、仲が良かったルームメイトに危害を加えていることだ。仲が良ければ普通は危害を加えない。

逆に、もし、仲が悪ければ、危害を加える前に、ルームメイトを解消すればいいだけだ。

青春時代は狂気の振幅も大きい。バカなこと、不思議なことを、本人は実行してしまう。ヤンは、狂気でこんな事件を起こしてしまったのだろうか?

青春時代に白楽もバカなことをしてきた。そして、困ったことに、老人になった今でも、自分の中の狂気のトラを鎮めるのに精神力がいる。

そして、10数年前のことを思いだす。白楽は、オーストラリアのヒッピー風インテリ中年男を自宅に数日間泊めたことがある。国際的な相互宿泊クラブに入っていたからだ。ある晩、このインテリ・オージーが「人間はみな狂気を持って生きている」と話し始めた。なかなか説得力のある話で、今でも、「そうだ!」と同意する自分がいる。

《2》毒物事件 

ユカイ・ヤン事件の少し前、米国ではなくカナダで似たような事件が起こっている。

中国人留学生でクイーンズ大学・化学科の院生ワン(26歳)が同じ研究室のポスドクの飲食物に毒物を入れたことが発覚し、2018年、逮捕された。2018年12月11日(26歳)、7年間の刑務所刑が下された。
 → 犯罪「毒物」:化学:ジージー・ワン、王子杰、王子傑(Zijie Wang)(カナダ)

院生ワンは、  2018年1月に毒物混入で逮捕された。そして、今回の事件のユカイ・ヤンは、その1か月後の 2018年2月から毒物を入れた。白楽の推定だが、ユカイ・ヤンは、院生ワンの毒物混入事件を真似たと思われる。

《3》日本での類似事件

院生ワン事件の記事の「白楽の感想」に世界の類似事件を書いた。日本での類似事件だけ、加筆して、以下に再掲する。

タリウム事件で記憶に新しいのが、名古屋大学の女性学部生である(出典:名古屋大学女子学生殺人事件 – Wikipedia)。

この女性学部生は、 2014年12月7日(19歳)、「子供のころから人を殺してみたかった」という理由で、名古屋大学の女性学部生が、宗教で知り合った77歳の女性を殺害した。

それ以前の高校時代の2012年(17歳)、同級生の男性及び中学時代の女性同級生に硫酸タリウムを飲ませた。

タリウムを含め、日本の大学・研究機関で毒物混入事件が2桁数(多分)、起こっている。以下、2例。

  • 1999年6月、理研・脳科学総合研究センターの研究室のポットに毒物であるアジ化ナトリウムが入れられ、お茶を飲んだ研究員が救急車で運ばれた。警察は、犯人を特定せず(できず)、逮捕していない。
  • 2008年 6月、岡山大学・薬学部の男性教授(50代)が午前7時ころ、研究室でコーヒーを入れて飲んだところ、意識もうろうとなりしゃがみ込んだ。教授の胃からはアジ化物が、研究室の飲み物からアジ化ナトリウムが検出された。警察は、犯人を特定せず(できず)、逮捕していない。

2例しか示さないが、2例とも、犯人を特定せず(できず)、逮捕していない。院生ワン(26歳)は7年間の刑務所刑が下されたのに比べると極端な差である。
 → 犯罪「毒物」:化学:ジージー・ワン、王子杰、王子傑(Zijie Wang)(カナダ)

食べ物・飲み物の毒物を入れる行為は、殺人(未遂)事件である。そして、大量殺人事件に簡単になりやすい。研究者ではないが1998年7月に起こった「和歌山毒物カレー事件 – Wikipedia」が良い例だ。

研究者の毒物混入事件は、もっと、徹底的な捜査をし、犯人を逮捕し、厳罰を科さないと、通常の研究室生活が脅かされる。模倣犯も防止できない。事件をそのように把握していない日本の危機管理の甘さが怖い。

研究者・医師が毒物・病原菌を入れた50年以上前の有名な事件3例。

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●8.【主要情報源】

①  2018年12月20日のトム・クリアリー(Tom Cleary)記者の「Heavy」記事:Yukai Yang: 5 Fast Facts You Need to Know | Heavy.com 
② 2018年12月21日の「South China Morning Post」記事:Chinese chemistry student Yukai Yang accused of slowly poisoning black roommate Juwan Royal at Pennsylvania’s Lehigh University | South China Morning Post
③ 2018年12月24日のジャニス・ラム(Janice Lam)記者の「SBS」記事:中國留學生涉嫌慢性毒害室友被捕、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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