リネア・テイラー(Linnéa Taylor)(スウェーデン)

2021年1月31日掲載

ワンポイント:【長文注意】。ルンド大学(Lund University)・研究助手のテイラーは25歳で博士号を取得した秀才である。ところが、2017年(29歳)、指導下の院生にネカトと告発され、翌年、大学を解雇された。無実と裁判所に訴え、2020年4月22日(32歳)、勝訴した。ところが、大学は判決に従わない挙に出た。また、結婚し子供がいる自宅に「殺すぞ!」との脅迫状が送付され、ネカト冤罪騒動で大変な目にあった。しかし、裏のストーリーもある。現在も紛糾中。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

リネア・テイラー(Linnéa Taylor、ORCID iD:?、写真出典)は、スウェーデンのルンド大学(Lund University)・研究助手で医師ではない。25歳で博士号を取得し、優秀だとメディアで報じられた。専門は失明の治療につながる眼の基礎医学である。

2017年8月4日(29歳)、テイラーは指導下の院生にネカトと告発された。

2018年11月15日(30歳)、ルンド大学は調査の結果、テイラーがネカトをしたと結論、翌年、大学を解雇した。

テイラーは不当解雇だと、裁判所に訴え、2020年4月22日(32歳)、裁判で勝訴し、裁判所は大学に復職を命じた。

しかし、なんということか、ルンド大学は裁判所の判決に従わなかった。

2020年5月(32歳)、ルンド大学はテイラーを復職させず、200万クローナ(約2500万円)の和解金を支払った。

なお、ネカト騒動中、結婚し子供がいるテイラーの自宅に「殺すぞ!」との脅迫状が送付された。

ここまでは表のストーリーで、裏のストーリーもある。

ネカト騒動の裏面が浮き彫りになった事件である。現在も紛糾中。

ルンド大学(Lund University)。写真出典

  • 国:スウェーデン
  • 成長国:スウェーデン
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ルンド大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1988年1月1日生まれとする。2013年9月に25歳と報道されたので → 2013年9月25日記事:25 år och snart doktor – Lundagard.se
  • 現在の年齢:36 歳
  • 分野:眼科学
  • 不正論文発表:2013~2017年(25~29歳)
  • 発覚年:2017年(29歳)
  • 発覚時地位:ルンド大学・研究助手
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は指導下の院生・オスカー・マヌシェリアン(Oscar Manouchehrian)で大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「Times Higher Education」、「Aftonbladet」、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ルンド大学・調査委員会。②労働裁判所。③欧州人権裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:大学のウェブ公表なし(△)、大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:パブピアで5報にコメント
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:解雇
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

出典:Linnéa TAYLOR | Postdoctoral researcher | PhD | Lund University, Lund | LU | Department of Ophthalmology

  • 生年月日:不明。仮に1988年1月1日生まれとする。2013年9月に25歳と報道されたので → 2013年9月25日記事:25 år och snart doktor – Lundagard.se
  • 2007年8月 – 2011年4月(19 – 23歳):ルンド大学(Lund University)で学士号取得:分子生物学
  • 2011年(23歳):同大学の大学院・入学
  • 2012年1月(24歳):ルンド大学(Lund University)・研究助手
  • 2013年9月(25歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得
  • 2016年(28歳):出産し、産休
  • 2017年8月4日(29歳):博士院生にネカト犯と告発された
  • 2017 – 2018年(29 -30歳):40~50回も脅迫された
  • 2018年11月15日(30歳):ルンド大学はテイラーがネカト犯と結論
  • 2019年2月2日(31歳):ルンド大学はテイラーを解雇
  • 2020年4月22日(32歳):労働裁判所は、テイラーのネカトをルンド大学が証明できなかったとし、テイラーを復職させ損害賠償を支払うように命じた
  • 2020年5月(32歳):ルンド大学はテイラーを復職させず、200万クローナ(約2500万円)の和解金を支払った
  • 2020年x月(32歳):テイラーは欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)にルンド大学を訴えた

●3.【動画】

【動画1】
以下の記事に動画(スウェーデン語)2分36秒がある。涙ぐんでインタビューに答えるリネア・テイラー(Linnéa Taylor)。 → 2020年12月28日のオイシン・キャントウェル(Oisín Cantwell)記者の「Aftonbladet」記事:CANTWELL: Historien om Linnéa Taylor och Lunds universitet | Aftonbladet

●5.【不正発覚の経緯と内容】

事件の表のストーリー

★全体像:悲劇の冤罪

リネア・テイラー(Linnéa Taylor)は英国系スウェーデン人の研究者で、専門は眼の基礎医学である。25歳でルンド大学(Lund University)の研究博士号(PhD)を取得した優秀な女性である。

ボスはルンド大学はえ抜きのフレドリク・ゴーシュ教授(Fredrik Ghosh 、写真出典)である。

テイラーは、ルンド大学(Lund University)のゴーシュ研究室で院生・研究助手として、2012~2018年の7年間に15論文を出版した。

ところが、2017年(28歳)、テイラーは指導下の院生にネカトと告発され、2019年2月(30歳)に大学を解雇された。

テイラーは、ネカトは冤罪と裁判所に復職を訴え、2020年4月(31歳)、裁判所はネカトの証拠がないと、ルンド大学の結論を覆し、ルンド大学に復職を命じた。

しかし、驚いたことに、ルンド大学は裁判所の判決に従わない行動に出た。それで、現在、テイラーは欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)にルンド大学を訴えている。

他方、ネカト騒動でルンド大学がネカト調査をしていた最中の2017~2018年、テイラーに 40〜45通の脅迫状が送付された。中には、結婚し子供がいるテイラーの自宅に「殺すぞ!」との脅迫状が送付された。

これが、表のストーリーである。

ネカトで大学を解雇されたが、裁判所が無実と判定し、復職を命じた。それのに、ルンド大学は裁判所の判決に従わないという乱暴な行動をしている。

★発覚

リセットして、もう一度、最初から話を始めよう。

リネア・テイラー(Linnéa Taylor、写真出典)はルンド大学(Lund University)のゴーシュ研究室で院生・研究助手として、2012~2018年の7年間に15論文を出版した。

2017年8月4日(29歳)、博士院生からテイラーに電話がかかってきた。

博士院生は動揺していて、言葉が首尾一貫しなかったが、結局、「私の分析であなたの誤りを発見した」とテイラーに言った。

研究室ではマウスとブタを用いた2つの実験を行なっていたが、どういうわけか、博士院生とテイラーは異なる実験結果を得ていたのだ。

後になって、その博士院生は6か月間、テイラーがネカト行為をしていたという証拠・資料を集めていたことが判明した。

彼女は数時間後にボスから、「大学がネカト行為の調査を開始する」という電子メールを受け取った。

この日、2017年8月4日(29歳)、テイラーは、指導下の博士院生にネカト犯として大学に告発されたのである。

博士院生が告発したネカト論文は2つで、1つは「Neuroscience 2017」の学会発表、もう1つは学術誌「Journal of Neuroinflammation」の投稿原稿だった。前者は公表されているが、後者は投稿原稿なので未公表である。

その2論文に記載されたブタとマウスの網膜組織の変化の実験結果のいくつかを、博士院生は再現できなかった。それで、ネカトではないかと疑念を抱いたのだった。

★調査

ルンド大学は眼の研究で著名な外国の教授2人に調査を依頼した。

1人は、英国のリバプール大学(University of Liverpool)のサラ・クープランド教授(Sarah Coupland – Wikipedia、写真左、出典同)。

もう1人は、デンマークのコペンハーゲン大学(Copenhagen University)のシュテフェン・ヒーガード教授(Steffen Heegaard、写真右、出典)だった。

実験結果を確認するためにテイラー指導下の院生とポスドクがネカト調査に協力を依頼され、調査に参加した。

2人の専門家はテイラーの実験ノートを調査した。すると、テイラーの測定値と論文に記載された測定値の間に説明のつかない違いがあることを発見した。これらの不一致は意図的な操作の結果であると判断した。

また、論文に記載した重要な結果の元データが実験ノートに見つからなかったこともあった。

それで、テイラーが報告した実験結果はデータねつ造だった、と結論付けた。

しかし、テイラーは、組織サンプルでは、指摘された実験結果の不一致は正常な振れの範囲内である。しかるに、院生とポスドクは研究経験が浅いため、組織サンプルの実験結果を正当に解釈できないのだと、抗弁した。

2人の外部調査委員は、結局、データねつ造・改ざんだと断定こそしなかったが、重大な過失があり、研究結果をゆがめたと結論し、有罪と勧告した。

以下は2017年10月26日のネカト調査関係の手紙の冒頭部分(出典:同)。全文2頁は → https://academicrightswatch.se/wp-content/uploads/2020/05/Uppdrag-full-invest-P2017_3660-eng-fr%C3%A5n-LU.pdf

★解雇

2018年11月15日(30歳)、ルンド大学は、外国の調査委員の勧告に従って、テイラーがネカトで有罪と結論した。

2019年2月2日(31歳)、ルンド大学は、テイラーを解雇した。

テイラーはネカトしていないと、上訴したが、ルンド大学は却下した。

テイラーはスウェーデン大学教員研究者協会(Swedish Confederation of Professional Associations :SULF)の支援を受けて、この事件を労働裁判所(Labour Court)に訴え、不当解雇されたと主張した。

2020年4月22日(32歳)、ナント、労働裁判所はテイラーの主張を認め、ルンド大学の判断を否定したのだ。

29ページの裁判記録(白楽は未入手)によると、裁判所は、ネカト論文とされた2つの論文を調査した。その結果、大学のネカトと結論した主張に十分な根拠がなく、テイラーを解雇した法的理由にならないとし、ルンド大学に復職を命じた。

★ルンド大学の反抗

ルンド大学の医療倫理学のニルス=エリック・サーリン教授(Nils-Eric Sahlin Nils-Eric Sahlin – Wikipedia、写真出典:Av Vogler – Eget arbete, CC BY-SA 4.0 )は、激怒した。

2020年5月4日(32歳)、「スヴェンスカ・ダグブラデット(Svenska Dagbladet)」紙で次のように労働裁判所を批判した。

「労働裁判所の裁判官は何をしているのでしょうか? 彼らは、ネカト行為を犯した科学者を解雇すると判断した大学に反対しているのです。

非常に有能な科学者がネカト行為の申し立てを調査し、ネカトが行なわれたと結論付けました。裁判官は自分たちが科学の専門家の結論に疑問を呈するほど科学的に有能であると見なしているのでしょうか? 本当に本当でしょうか?」

サーリン氏は次のように結論付けている。

「優れた研究活動からの逸脱が実際にどれほど深刻であるかを、裁判官は学ぶ必要があります。ネカト行為は許容できません」

Torbjörn von Schantz 06

2020年5月5日(32歳)、トルビョルン・フォン・シャンツ学長(Torbjörn von Schantz – Wikipedia、写真出典)は次のように述べた。

「大学に関する限り、問題の研究者がルンド大学で研究キャリアを継続することは不可能です」

「労働裁判所の判決は、研究ネカトで有罪判決を受けた研究者は、解雇と引き換えに、労働裁判所を通して、多額の損害賠償を受け取ることができるという危険なサインを発しています」

「科学への信頼を失わないために、政府と議会は、ネカト行為を決定する権限を持つ人を明確にし、より透明にする必要があります」

フォン・シャンツ学長の見解では、労働裁判所は科学的問題を決定できる科学的能力を持っていない。

ルンド大学は、重大なネカト行為の証拠がないという労働裁判所の「非常に “鋭い” 定式化」にもかかわらず、労働裁判所の復職命令に従わず、テイラーの復職を認めなかった。

なお、従業員を復職させよという労働裁判所の命令に従わない特殊な方法がスウェーデンにはある。

その規則は、雇用保護法の雇用保護法の第39条である。

雇用保護法の第39条は、労働裁判所が従業員に在職・復職という有利な判決を下しても、雇用主は従業員を解雇できる。ただし、この場合、高額な和解金を払う必要がある。それで、ウェーデンではこの数十年間、第39条を適用したケースは一度もなかった。非常にまれなケースなのだ。

2020年5月7日(32歳?)、スウェーデ大学教員研究者協会(SULF)の弁護士であるアニカ・ワルストロム(Annika Wahlström、写真出典)は、SULF誌「Universitätsläraren」で、ルンド大学が労働裁判所の判決に従わず、代わりに200万クローナ(約2500万円)の補償金を支払うことを選んだことは注目に値すると報じた。 → 2020年5月7日記事:Lunds universitet trotsar dom i Arbetsdomstolen – Universitetsläraren

ワルストロム弁護士は次のようにルンド大学を批判した。

ルンド大学が納税者の多額のお金を使って、研究者の解雇を正当化する合理的な理由がありません。

労働裁判所の判決に反対する代わりにルンド大学は何をすべきだったかは明らかです。そうです、ルンド大学は労働裁判所の決定を遵守し、研究者を雇用すべきだったのです。

★激しい議論

議論は2つに分かれている。

1つは、テイラーがネカト行為をしたと信じ、スウェーデン大学教員研究者協会(SULF)に批判的な人々である。

もう1つは、ルンド大学に批判的な人々で、ルンド大学の調査委員会は、テイラーが研究規範にどのように違反しているかを明確に説明していないと信じている人々である。

社交メディアで、両者は激しい議論をしている。

ルンド大学医学部のマティアス・コリン準教授(Mattias Collin、写真出典)は、数年間地元のスウェーデン大学教員研究者協会(SULF)代表を務めていた。

しかし、「労働裁判所の裁判官にはネカトを判断できる専門的能力がないので、判決は妥当と思えません。スウェーデン大学教員研究者協会(SULF)は、法的な問題の判断では訴訟に勝ったが、研究倫理の問題では間違いを犯しました」と述べた。

★脅迫

2017~2018年にルンド大学がネカト調査している間、テイラーは殺害を意味した多数の脅迫状を受け取った。また、彼女を「売春婦」と呼んだり、夫と息子も含めて脅迫する手紙を受け取った。

日にちを思い出すために再掲すると、2017年8月4日(29歳)に、テイラーは、指導下の博士院生にネカト犯として告発された。

ネカト疑惑は研究者に致命的なダメージを与える告発である。テイラーは、普通の人にとって、殺人やレイプと告発されたようなものだと述べている。

告発されてから、しばらくして、最初の脅迫があった。職場の掲示板に、彼女の名前の近くに、「売春婦を黙らせろ」と書きこまれた。

テイラーは、「気分は良くありませんでしたが、自分に向けられているのかどうかは定かではありませんでした」と述べた。

その後、頻繁に脅迫状が見つかった。テイラーの研究室のドアの下に置かれていたり、大学のメールボックスに脅迫状が放り込まれていた。

テイラーそれらを集めコンピューターに保存した。以下は数例である。
「ごまかす者は死ぬ」
「娼婦、死ぬまで塩酸を飲むべきだ」
「戻るか死ぬか」

合計40〜45通の脅迫状だった。

大学のメールボックスへの投函、テイラーの研究室のドアの下に置かれていたことなどからも、脅迫者は内部の人であるのは間違いない。

脅迫状のいくつかは、進行中のネカト調査に関する内部情報に詳しい人で、ネカト調査に対応して脅迫しているように思えた。このことも、大学内の人が犯人だと思えた。

そして、大学の研究棟へのアクセスカードを持つ人は約20名しかいない。

また、小麦粉や砂糖が入った封書が送付され、「次回は炭疽菌を送る」と脅された。

それで、ある時点で、大学はボディーガードを雇い、テイラーが大学で働いている間、彼女の研究室のドアをロックした。

結局、脅迫のストレスによりテイラーは病気休暇を取ることを余儀なくされたが、今度は、手書きの脅迫メモが週に数回、彼女のアパートに投稿され続けた。

ある日、テイラーに手紙が届いた。大きな人間2体と小さな人間1体、つまり、母父子の3体の✕されていた(以下の写真出典)。家族が脅迫されたのだ。

警察はどの脅迫メモにも指紋やDNAの痕跡を発見できなかった。

また、スウェーデンの厳格なプライバシー法により、監視カメラをアパートの外に設置することはできなかった。それで、監視カメラで犯人を割り出すことはできなかった。

州は彼女の安全のために、彼女と彼女の家族を追跡不可能な新しい住所に引っ越させた。テイラーは脅迫から家族とともに逃げるしかなかったのだ。

2021年1月30日現在、3年に及ぶ秘密生活が続いている。

事件の裏のストーリー

★事件の裏のストーリー

ここまで読まれた方は、テイラーは25歳で博士号を取得した優秀な研究者なのに、ルンド大学で彼女を嫉妬する人からネカトと告発された。その騒動の間、変質狂から身の危険を感じる異常な脅迫状が送り続けられている。冤罪なのに、かわいそうな人、と受け取った読者は多いだろう。

しかも、裁判所からネカトの証拠がないと判定され、復職の命令が出たのにルンド大学は裁判所の判定に従わない。ルンド大学は相当乱暴な大学だ、とも思っただろう。

ところが、よくよく調べていくと、別の面が見えてくる。

まず、テイラーの二の腕の刺青である(写真出典)。かなり強烈な刺青である。

裸体像がないので不明だが、身体の他の部分にも大きな刺青があるだろうと、想像される。

白楽は自分の偏見を認めるが、まともな研究者がこんな刺青をするだろうか? 

まー、どんな刺青をしようが、個人の自由である。ネカトと関係ないでしょ? ハイ、そうですね。

脅迫状の項で、テイラーを「売春婦」と呼んでいる脅迫状があった。どうして、ネカトと関係ないのに、そういう性的な侮蔑をするのだろうかと、白楽は気になっていた。

上記の刺青が1つの原因だと思っていた。しかし、テイラーの肌の露出が多い画像(写真出典)がウェブ上にみつかった。それで、これも関係ありそうだと思った。

再度、白楽は自分の偏見を認めるが、まともな研究者がこんな画像をツイーッター画像に使うだろうか?

まあ、若気の至りということはあるので、肌の露出が多い画像も刺青も、無視しましょう。

★教授は夫

では、すこし、ネカトと関係する話をしよう。

テイラーのボスはフレドリク・ゴーシュ教授(Fredrik Ghosh、写真前出)と最初に書いたが、実は、ゴーシュ教授はテイラーの夫なのである。

ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が以下のツイッターで指摘している。

テイラーは、2012~2018年(24~30歳)の7年間に16論文発表しているが、内15論文はゴーシュ教授が共著者である。

25歳で博士号を取得した優秀な研究者と書いたが、その博士論文の内容(執筆も審査も?)はもちろん、ゴーシュ教授が大きく関与しているハズだ。

28歳で出産とあるので、博士号を取得した時点で、恋愛中か既に結婚していたのだろう。

モチロン、研究室の教授と結婚していけないことはない。ただ、ゴーシュ教授がテイラーの夫だという事実が、テイラーを「売春婦」と呼んだ脅迫状と絡んでいる気もする(推測です)。

★嫉妬で告発?

そして、ネカトを告発した博士院生はイランからの留学生のオスカー・マヌシェリアン(Oscar Manouchehrian、写真出典)である。

イランからの留学生なので、テイラーをねたむような状況ではない。

むしろ、テイラーを告発すれば前門の虎、告発しなければ後門の狼で、指導者のネカトを見つけたら、にっちもサッチモ行かない立場である。

マヌシェリアンはこの騒動で研究室を変えた。研究上のブランクが生じたに違いない。

だから、テイラーを告発した理由が嫉妬だとは、とても、思えない。

★本記事の約2週間前にネカトの証拠

そして、ネカトと関係するまともな話をすると、次節の【ねつ造・改ざんの具体例】で示すが、テイラーの2013~2017年(25~29歳)の5論文にパブピア(PubPeer)でコメントが付いている。全部、テイラーが第一著者である。

コメントはどれも、画像のねつ造を指摘している。内2論文にテイラーが回答しているが、ねつ造を否定できる回答ではない。

5論文の内、4論文は2021年1月15日(本記事の約2週間前)に、1論文は2020年10月1日にコメントされた。

つまり、つい最近までネカトの証拠がハッキリ示されていなかった。ルンド大学のネカト調査は、告発された「Neuroscience 2017」の学会発表と学術誌「Journal of Neuroinflammation」についてしか調査していない。ルンド大学がネカト調査している時、パブピア(PubPeer)でネカトは指摘されていなかった。

事件がメディアで報道され注目を集めたために、ネカトハンターが論文を精査し、パブピア(PubPeer)で指摘したと思われる。

要するに当初、テイラーのネカトは冤罪と思われたが、ルンド大学の調査は告発された「Neuroscience 2017」の学会発表と学術誌「Journal of Neuroinflammation」についてしか調査していない。調査報告書はその2論文のデータねつ造箇所を具体的に示していなかった。

それで、多くの人はテイラーのネカト行為を確認できなかった。

テイラーの全論文を精査すればネカトがボコボコ見つかったとも思われるが、そうしていなかった。

しかし、パブピア(PubPeer)の指摘を見れば、テイラーの画像のねつ造は明白である。さらに、パブピア(PubPeer)とは別に、2019年に、1論文が訂正されている。

これが事件の裏のストーリーである。

労働裁判所はネカト行為を判断できる知識・能力がないと反抗し、多額の和解金を払ってでもテイラーを復職させなかったルンド大学のツッパリは正しかったのだ。

とはいえ、ツッパッたフォン・シャンツ学長(Torbjörn von Schantz – Wikipedia)は2020年12月に退職し、2021年1月からシャルロッタ・ジョンソン(Charlotta Johnsson)が学長を務めている。 → Meet Charlotta Johnsson, the new rector of Campus Helsingborg | The Department of Service Management and Service Studies

フォン・シャンツ学長はこの事件で解雇された?

 フォン・シャンツ学長 は2015年から学長で、ルンド大学は6年ごとに体制を変えている(らしい)。2020年12月に学長の任期が来たので退任しただけで、この事件で解雇されたわけではなさそうだ。 → New University management 2021-2026 | Staff Pages

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2016年9月のJ Neuroimmunol」論文

「2016年9月のJ Neuroimmunol」論文の書誌情報を以下に示す。2021年1月30日現在、撤回されていない。

2020年10月1日、Arundinaria Qingchengshanensisは、図3と図6の組織図が処理が異なるのに同じ図が使われていると指摘した「Arundinaria Qingchengshanensis (commented October 1st, 2020 12:09 AM and accepted October 1st, 2020 6:17 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/803A701175F5F12CA158D992C8A093

★「2013年3月のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文

「2013年3月のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文の書誌情報を以下に示す。2021年1月30日現在、撤回されていない。

2021年1月15日、約2週間前、Neoliodes Ionicusは、図2の組織図の2か所に「2014年4月のInvest Ophthalmol Vis Sci.」論文の図が使われていると指摘した。「#1 Neoliodes Ionicus (commented January 15th, 2021 1:22 AM and accepted January 15th, 2021 7:47 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/5C9C86776F2A5D9106965A12C529EA

★「2017年1月のExp Eye Res.」論文

「2017年1月のExp Eye Res.」論文の書誌情報を以下に示す。2021年1月30日現在、撤回されていない。

2021年1月15日、約2週間前、Neoliodes Ionicusは、図2の組織図の1か所に「2016年7月のExp Eye Res.」論文の図が使われていると指摘した。「#1 Neoliodes Ionicus (commented January 15th, 2021 7:17 AM and accepted January 15th, 2021 7:55 AM)」。

以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/803A701175F5F12CA158D992C8A093

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年1月30日現在、パブメド( PubMed )で、リネア・テイラー(Linnéa Taylor)の論文を「Linnéa Taylor」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2012~2019年の8年間の17論文がヒットした。

1論文は訂正告知なので、論文の数に入れないと、16論文になる。

16論文中の15論文はボスのフレドリク・ゴーシュ教授(Fredrik Ghosh)が共著者である。

2021年1月30日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年1月30日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでリネア・テイラー(Linnéa Taylor)を「Linnéa Taylor」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年1月30日現在、「パブピア(PubPeer)」では、リネア・テイラー(Linnéa Taylor)の論文のコメントを「Linnéa Taylor」で検索すると、5論文にコメントがあった。

全部、ボスのフレドリク・ゴーシュ教授(Fredrik Ghosh)が最後著者になっている。

5論文の内、4論文は2021年1月15日に、1論文は2020年10月1日にコメントされた。つまり、事件がメディアで報道され注目を集めたために、論文を精査し、ネカトをパブピア(PubPeer)で指摘したと思われる。

●7.【白楽の感想】

《1》大学と裁判所 

白楽は、現状の裁判所がネカトの判定をするのはオカシイと常々思っている。理由は、裁判官にはネカト行為に対処できる知識・能力がない上、紛争を「法律」に基づいて判断するのであって、「正義」に基づいて判断していない。

日本の知的財産高等裁判所が守備はをネカトに拡張すれば、知識・能力は合格かもしれないが、姿勢はどうだろうか。

スウェーデンでも日欧米でも、ネカト対処の法整備が遅れているので、ある程度ネカト行為に対処できる知識・能力があっても、現在の法律で判断すると「正義」「研究倫理」がゆがめられてしまう。

日本での実例はたくさんあるが、1件挙げると、信州大学の池田修一事件である。どう見てもデータねつ造と思っていたので、東京地裁(男沢聡子裁判長)と東京高裁(秋吉仁美裁判長)の判決に、白楽は、とっても驚いた。 → 2019年10月31日記事:HPVワクチン捏造報道 二審も「名誉棄損」認定 | NEXT MEDIA “Japan In-depth”[ジャパン・インデプス]

白楽は、池田修一事件で裁判長はデータねつ造の問題点をわかっていないと思った。「法律」上は正しいのかもしれないが、これは、「正義」「研究倫理」がゆがめられた判決だと思った。しかし、たとえそうだとしても、日本では裁判所の判決が研究倫理学者の判断の上位にあるので、社会は裁判所の判決に従う。

ところが、今回、ルンド大学は裁判所の判決に従わなかった。

ルンド大学の医療倫理学教授であるニルス=エリック・サーリン(Nils-Eric Sahlin Nils-Eric Sahlin – Wikipedia)が述べた言葉を再掲する。

「労働裁判所の裁判官は何をしているのでしょうか? 彼らは、ネカト行為を犯した科学者を解雇すると判断した大学に反対しているのです。

非常に有能な科学者がネカト行為の申し立てを調査し、ネカトが行なわれたと結論付けました。裁判官は自分たちが科学の専門家の結論に疑問を呈するほど科学的に有能であると見なしているのでしょうか? 本当に本当でしょうか?」

白楽はサーリン教授の意見に賛同する。

ネカト事件で、裁判所の指示に反する行動をした大学の学長や教授陣は世界的に珍しい。

ただ、スウェーデンは研究者の自尊心が高いのか、別の事件でも、裁判所の指示に反する行動をした研究者がいた。 → クリストファー・ギルバーグ(Christopher Gillberg)(スウェーデン) | 白楽の研究者倫理

この場合はもちろん、白楽はギルバーグ教授の言動に反対である。

《2》脅迫

ネカト騒動では、被告発者(とその関係者、及び愉快犯)が告発者を脅迫するケースが、昔から、日本を含め世界中で頻繁に起こっている。

告発者を保護する方策を実施している国もある。しかし、保護策は十分ではない。それで、告発者は、(大げさに言うと)命がけで告発している。

院生だと研究室から追い出される、学位取得ができない、研究者になるのをあきらめる、就職できない、などがある。研究者でもいろいろなイジワルをされる。

それで、匿名で告発する人も多い。しかし、匿名を暴かれる人も多い。例えば、有名なネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)が暴かれた:1‐5‐11 サイエンス・フラウド(Science Fraud) | 白楽の研究者倫理

今回のテイラー事件では、 2020年5月8日の「universityworldnews」記事でも、テイラーの名前が出てこない。2017年8月に告発があったので、メディアは3年間もテイラーの名前を記事にしなかった。

それでもルンド大学内ではかなりの人が知っていたのだろう。外部からアクセスできない研究室やメールボックスに脅迫状が置かれた。また、結婚し子供がいるテイラーの自宅に「殺すぞ!」との脅迫状が送付された。

このような脅迫がどれほどあるのか、調べた論文はないと思うが、事実としてかなり「ある」のが現実だろう。

米国では、ネカト処理を担当した学部長がネカト犯から銃弾を浴びた事件もあった。 → 「ネカト」と犯罪「殺人未遂」:ヘンジュン・チャオ、晁恒軍(Hengjung Chao)(米) | 白楽の研究者倫理

ネカトではないが、自分と意見を異にする同僚を脅迫した研究者もいた。 → 犯罪「脅迫」:ギデオン・コレン(Gideon Koren)(カナダ) | 白楽の研究者倫理

なお、白楽も、「裁判に訴える」「大学に訴える」と何度も脅迫されている。

白楽はネカトハンターではなく、ネカトウオッチャーである。他の誰かが見つけ公表したネカトを解説しているだけである。それに、定年退職しているし、そもそも、あまり名声・富がない。

それに、脅迫しなくても、連絡してくれれば、白楽は、間違いを訂正する。それでも、白楽を脅迫してくるのである。

白楽は、「自分が法を犯していたら、それなりの処罰を受けようとも思っている」。裁判になれば、ネカトが社会に注目され、日本のネカト問題の改善につながるだろう。だからメディアで騒がれるのも歓迎という、歪んだ気持ちが少しある。

というわけで、日本での裁判に従う。ただ、米国から「裁判に訴える」というメールを受け取った時、米国に出頭させられるのは「面倒だなあ~」とは思った。

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●9.【主要情報源】

① Facebook英語版:Lunds Doktorandkår – Publications | Facebook
② 2020年5月8日のジャン・ペーター・ミクルブスト(Jan Petter Myklebust)記者の「universityworldnews」記事:Labour court overrules Lund University firing of scientist
③ 2020年12月11日のデイヴィッド・マシューズ(David Matthews)記者の「Times Higher Education」記事:Swedish research misconduct case raises issues of fairness to the accused
④ ◎2020年12月28日のオイシン・キャントウェル(Oisín Cantwell)記者の「Aftonbladet」記事:CANTWELL: Historien om Linnéa Taylor och Lunds universitet | Aftonbladet
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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