物理学:アラン・カロエロス(Alain Kaloyeros)(米)

2018年8月17日掲載。

ワンポイント:カロエロスは、レバノンのベイルートに生まれ育ち、1980年(24歳)、米国のマイアミ大学(University of Miami)・大学院に入学した。2016年(60歳)、ニューヨーク州立工科大学(SUNY Polytechnic Institute)・初代学長の時に談合で逮捕され、2018年7月12日(62歳)、「通信詐欺(Wire Fraud)」と「共謀罪(conspiracy)」で有罪判決を受けた。その28年前の1990年(34歳)、ニューヨーク州立大学オールバニ校(University at Albany, The State University of New York)・助教授(推定)だった時、論文を盗用をした。大学は盗用をもみ消した。国民の損害額(推定)は1億1200万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アラン・カロエロス(Alain E. Kaloyeros、写真出典 リンク切れ)は、レバノンのベイルート出身である。ネカト事件は1990年(34歳)、米国のニューヨーク州立大学オールバニ校(University at Albany, The State University of New York)の助教授(推定)だった時に起こした。その後、ニューヨーク州立工科大学(SUNY Polytechnic Institute)を設立し初代学長に就任した。専門は物理学(物性物理学)である。200報以上の論文、7冊の書籍を出版し、米国特許を13件持っている。

この事件は、ネカトと犯罪の両方なので、記事は「自然科学・工学」枠に書いたが、「犯罪事件」枠の表にもリストした。

カロエロスは学者としての業績も大きいが、ニューヨーク州の州都・オールバニ市(Albany)の活性化に尽力した功績が大きい。カロエロスだけの力ではないが、2008年の住民が9万3539人と衰退していたオールバニ市をハイテク都市に変え、9倍の人口を擁する85万7592人の都市に発展させた。

急速に発展させた都市開発に伴い、カロエロスは、いくつかの不正を行なったようだ。

2016年9月(60歳)、工費7億5千万ドル(約750億円)のニューヨーク州のバッファロー・ビリオン建設計画(Buffalo Billion project)で談合したことで起訴され、大学から無給の停職処分を受けた(2018年6月22日記事:Corruption trial, Tesla cutbacks cloud project in Buffalo)。そして、2018年7月12日(62歳)、マンハッタンの連邦裁判所で、「通信詐欺(Wire Fraud)」と「共謀罪(conspiracy)」で有罪判決を受けた。刑罰は2018年10月に宣告される。

本記事の主眼はネカトで、上記事件の詳細に立ち入らない。ただ、上記事件に伴い、28年前の1990年(34歳)、カロエロスが論文盗用事件を起こしていたことが掘り返された。その盗用事件について記載する。

ニューヨーク州立大学オールバニ校(University at Albany, The State University of New York)。写真出典:https://www.suny.edu/campuses/albany/

  • 国:米国
  • 成長国:レバノン
  • 研究博士号(PhD)取得:イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
  • 男女:男性
  • 生年月日:1956年にレバノンのベイルートに生まれる。仮に1956年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:68歳?
  • 分野:物理学
  • 最初の不正論文発表:1990年(34歳)
  • 発覚年:1990年(34歳)
  • 発覚時地位:ニューヨーク州立大学オールバニ校・助教授(推定)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はコロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)のクレイグ・テイラー教授(推定)で、退学に公益通報した
  • ステップ2(メディア): 「Times Union」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ニューヨーク州立大学オールバニ校は調査委員会を設けたかどうか不明
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:1報。撤回
  • 盗用ページ率:不明
  • 盗用文字率:不明
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億1200万円。内訳 ↓

  • ①研究者になるまで5千万円。研究者を辞めていないので損害額は0円。
  • ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費など)は年間4500万円。研究者を辞めていないので損害額は0円。
  • ③外部研究費。ネカトによる外部研究費の損害は不明である。盗用なので、損害額を0円とした。
  • ④調査経費。第一次追及の調査費用は100万円。学術出版局は1件100万円が1件なので100万円とした。小計で200万円
  • ⑤裁判経費は2千万円。裁判ないので損害額は0円。
  • ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は共著者がいる1報なので損害額は1,000万円。
  • ⑦研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
  • ⑧健康被害:不明なので損害額は0円とした。

●2.【経歴と経過】

  • 1956年:レバノンに生まれる。仮に1956年1月1日生まれとする
  • 19xx年(xx歳):レバノンのレバノン大学(Lebanese University)で学士号取得
  • 1980年(24歳):米国のマイアミ大学(University of Miami)・大学院に入学
  • 1987年(31歳):米国のイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校(University of Illinois at Urbana-Champaign)に転学し、研究博士号(PhD)を取得
  • 1988- 2009年(32- 53歳):米国のニューヨーク州立大学オールバニ校(University at Albany, The State University of New York)・助教授。その後、準教授、正教授
  • 1990年(34歳):盗用が発覚
  • xxxx年(xx歳):ニューヨーク州立大学ナノスケール理工学カレッジ(CNSE:: College of Nanoscale Science and Engineering)・副学長
  • xxxx年(xx歳):ニューヨーク州立工科大学(SUNY Polytechnic Institute)・教授
  • 2015年1月13日 – 2016年10月11日(59-60歳):ニューヨーク州立工科大学(SUNY Polytechnic Institute)・初代学長
  • 2016年9月(60歳):ネカトと別事件で起訴され、大学から無給の停職処分
  • 2018年7月12日(62歳):ネカトと別事件の「通信詐欺(Wire Fraud)」と「共謀罪(conspiracy)」で有罪判決

●3.【動画】

ネカト事件の動画はみつからなかった。

【動画1】
スピーチ動画:「本日のフォトニック・イベントにつていアラン・カロエロス博士の挨拶(Dr. Alain E. Kaloyeros speaks at today’s photonics event) – YouTube」(英語)2分20秒。
News10NBCが2015/07/27 に公開

【動画2】
記者発表動画:「シュナイダーマンがニューヨーク州立工科大学・元学長に対する刑事訴訟を発表(A.G. Schneiderman Announces Criminal Charges Against Former SUNY Poly President) – YouTube」(英語)13分34秒。

New York Attorney General – Archivedが2016/09/22 に公開

●4.【日本語の解説】

ネカト事件の日本語解説はみつからなかった。

★2017年8月24日:Brendan O’Connor:アンドリュー・クオモ知事の元補佐官2名が連邦破産告発を訴えた

出典 → ココ (保存版)

連邦検察局(UIA)は9日、米ニューヨーク州の経済発展計画「バッファロー(Buffalo Billion)」が賞賛された贈収賄と倒産罪で、アンドリュー・クーモ知事の内務委員9人に対して腐敗告発を発表した。

79ページの刑事告発によれば 、長年にわたる連邦政府の調査では、「国家契約やその他の公的州の給付に数億ドルを贈与する際の贈収賄、汚職、詐欺を含む2つの重複する犯罪制度」が明らかになった。被告は、ジョージ・ペルココ(Marc Cuomoの政権下で働いていたので、知事の親友)である。 トッド・R・ハウ、ロビイスト、そして長年のCuomo家族の信者。 SUNYポリテクニック研究所の社長兼CEOであるアラン・カロエロス(Alain Kaloyeros)

アラン・カロエロス(Alain Kaloyeros) Photographer: Louis Lanzano/Bloomberg https://www.usabreakingnews.net/tag/alain-e-kaloyeros/

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★盗用か間違いか

カロエロスが米国の材料科学学会(The Materials Research Society)の学術誌に1990年に出版した論文が盗用論文だった。

コロラド鉱山大学(Colorado School of Mines)のクレイグ・テイラー名誉教授(Craig Taylor、写真出典https://physics.mines.edu/faculty-and-staff/)は、当時、その学術誌の編集員だった。

当時、ニューヨーク州立大学オールバニ校(University at Albany, The State University of New York)の教授陣が、カロエロスの1990年論文の盗用疑惑を知っていたにもかかわらず、カロエロスにテニアを与えたと、テイラー名誉教授は非難した。

ところが、ニューヨーク州立大学オールバニ校の当局者は、「論文にレイ教授のデータが挿入してしまったのは、“誠実な間違い”でした」と1999年の手紙に書いている。

つまり、ニューヨーク州立大学オールバニ校の当局者は、カロエロスの盗用疑惑を知っていた、というか、知っていて、盗用を否定した。「カロエロスは盗用していない。他の教員が彼の才能と隆盛に嫉妬してイジメていた。盗用騒動はそのイジメの一環だ」と。

一方、被盗用者のドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学(Friedrich-Alexander-Universität)のローサ―・レイ教授(Lothar Ley、写真出典https://www.laserphysics.nat.fau.eu/person/lothar-ley/)は全く別の見方をしていた。

新聞記者にカロエロスの件について尋ねられたレイ教授は、「“誠実な間違い”というレベルではなく、これは私が今までに遭遇した盗用事件の内でもっとも露骨な盗用行為だ」と述べている。

★盗用の内容

盗用論文は

カロエロスの1990年の盗用論文がどういう理由かわからないが、上記のように、21年後の2011年2月25日にオンライン版で出版された。
→ 論文:The Low-Temperature Metal-Organic Chemical Vapor Deposition (Ltmocvd) Route to Amorphous Silicon Semiconductors | MRS Online Proceedings Library (OPL) | Cambridge Core

カロエロスはドイツのフリードリヒ・アレクサンダー大学(Friedrich-Alexander-Universität)のローサ―・レイ教授(Lothar Ley)の論文のX線とシリコンを描いた一連の図を盗用していたのだ。

カロエロスは、論文のコピーを示され、盗用を認め(多分)、論文を撤回した。

盗用ページ率と盗用文字率は不明だが、被盗用者が「露骨な盗用」と述べているので、丸ごとに近い盗用だったのだろう。

なお、白楽は被盗用論文を特定できていない。盗用分析表を見ていない。具体的な盗用具合を把握していない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略。

●7.【白楽の感想】

《1》ネカト者は他の犯罪を犯す

ネカトをする研究者に特徴的な性格・生き方があると思う。その性格・生き方がネカト以外の事件も引き起こすのではないだろうか?

つまり、ネカト者は他の犯罪も犯す傾向が強いのではないだろうか?

今回のアラン・カロエロス(Alain Kaloyeros)もそうである。他にもある。
→ ネカトと犯罪「横領」:アレキサンダー・ノイマイスター(Alexander Neumeister)(米)
→ ネカトと犯罪「不同意堕胎」:エドワード・エリン(Edward Erin)(英)2017年12月2日

ただ、ネカト者の犯罪率を網羅的に調査研究した論文や報告書を白楽は見たことがない。

誰か調査研究してほしい。

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Alain E. Kaloyeros – Wikipedia
② 2018年4月18日のリック・カールリン(Rick Karlin)記者の「Times Union」記事:Decades-old plagiarism accusation continues to dog Kaloyeros – Times Union、(保存版)
③ 2016年9月22日の「New York Times」記事:Physicist in Albany Corruption Case Was a Geek With Big Goals – The New York Times

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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