2025年10月21日(火)掲載 随時更新
大学・研究所は所属研究者の研究不正(ネカト)を自律的に調査しない。誰かが告発しないと調査しない。しかし、日本にはネカトハンターがいない。それで、仕方なしに白楽がネカトハンター活動を再開した。
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東北大学・流体科学研究所に所属する太田 信・教授たちの「2020年6月のComplexity」論文が2023年10月4日に撤回された。さらに、「2020年10月のComplexity」論文も2024年1月24日に撤回された。撤回理由は、「出版過程でのシステマティックな操作(systematic manipulation)」である。本件の「システマティックな操作」がどの研究不正に該当するのかわからないが、論文は撤回されているので大きな問題があると思われる。適切な調査・対処をしてくださるようお願い申し上げます。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.【告発とメールのやり取り】
2.【疑惑論文】
7.【白楽の感想】
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- 記述は敬称略。
- 白楽ブログの「5C 日本の研究不正告発 」の意図は、日本の研究者の研究不正(含・疑惑)を具体的に示し、該当する研究機関の調査・対処の実態を公表・情報共有することです。そのことで、日本の研究不正調査・対処の問題点を日本国民・メディア、及び研究機関・研究者が一緒に考え、日本の研究倫理体制をより良い方向に改善することです。
情報共有し改善策を考えるため、メールおよび文書は基本的に公表します。
●1.【告発とメールのやり取り】
==告発1か月14日後 2025年12月4日 白楽 → 東北大学 ==
東北大学・研究推進部研究コンプライアンス推進室御中
メールと調査をありがとうございます。
「該当論文を精査(責任著者へのヒアリングを含む)いたしましたが、論文の内容及び論文投稿のプロセスの過程のいずれにおいても論文撤回が必要となるような研究活動上の不正行為は無いことを確認いたしました。」
上記の結論を受け取りましたが、しかし、現状のままだと、太田 信・教授の2つの撤回論文は、何らかの研究不正があったと国際的には受け止められたままです。
汚名を晴らすために、東北大学は、調査の結果、太田 信・教授の2つの撤回論文に研究不正はなかったとの結論を、①PubPeerに表明する、②学術誌に伝え撤回に対抗する、③その他、などされるよう、お願い申し上げます。
「①PubPeerに表明する」を具体的に書くと、PubPeerのサイトで、「東北大学は該当論文を精査(責任著者へのヒアリングを含む)いたしましたが、論文の内容及び論文投稿のプロセスの過程のいずれにおいても論文撤回が必要となるような研究活動上の不正行為は無いことを確認いたしました。」と同趣旨の文章を掲載する。同時に、もう1つの撤回論文についても同趣旨の文章を掲載する。
https://pubpeer.com/publications/2832ECFE6E0B04A1E2B66F0F7955D4
「②学術誌に伝え撤回に対抗する、③その他」の具体策はわかりませんが、善処をお願いします。
とにかく、研究倫理に関して、所属教員の潔白をはかられるようお願い申し上げます。
白楽ロックビル
==告発1か月12日後 2025年12月2日 東北大学 → 白楽 ==
東北大学研究推進部研究コンプライアンス推進室です。
2025年10月21日 付けメールにてご指摘のあった件について、以下のとおり回答いたします。
当室において、出版社による当該論文のRetractionまでの経緯や出版社との連絡内容・対応状況等を責任著者から聴取し、以下の点を確認いたしました。
①出版社から責任著者へのRetractionの連絡は、「出版過程でのシステマティックな操作(systematic manipulation)の6つの指標(※)に該当した旨のみの説明であり、6つの指標(※)中のいずれに該当したか等の具体的な理由や根拠は開示されず、一方的な連絡のみであったこと。
※1. Discrepancies in scope
2. Discrepancies in the description of the research reported
3. Discrepancies between the availability of data and the research described
4. Inappropriate citations
5. Incoherent, meaningless and/or irrelevant content included in the article
6. Peer-review manipulation
参考:出版社から論文撤回通知
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1155/2023/9761574
②責任著者は、出版社に対してRetractionについて同意しない旨の意思表示を行ったが、出版社からは「不同意を記録した」との返信以降、現時点で、出版社から追加の説明や対応は示されていないこと。
③責任著者としては、引き続き、Retractionに同意しない旨及び撤回理由の説明を出版社に求める意向であること。
④同時期に出版社が大規模な論文撤回を行ったとされる記事が公表されていること。
以上を踏まえ、本件は、出版社側の査読・編集プロセス、または同時期の多数の論文撤回の対応に関連する可能性があり、責任著者の論文がその影響を受けたと考えられます。
※出版社側の査読・編集プロセス上の問題については、以下の関連記事を参照。
(Hindawi大量論文撤回)
https://retractionwatch.com/2023/12/19/hindawi-reveals-process-for-retracting-more-than-8000-paper-mill-articles/
(Hindawiの対応に関する論文)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/74/7/74_267/_pdf/-char/ja
なお、当室にて、本件が、本学の研究不正の調査等の手続きを規定している「研究活動における不正行為への対応ガイドライン」の受理要件を満たしているか否かの確認、及び上記6つの指標の観点から該当論文を精査(責任著者へのヒアリングを含む)いたしましたが、論文の内容及び論文投稿のプロセスの過程のいずれにおいても論文撤回が必要となるような研究活動上の不正行為は無いことを確認いたしました。
出版社には、撤回に至った具体的な根拠や判断過程を責任著者に開示し対話をするなど、適切な説明責任と対話を果たすことが望まれます。また、責任著者に対して誤解が生じている現状を踏まえ、出版社におかれては、適切な情報発信を通じて研究者の名誉と信頼の維持に配慮いただくことを期待いたします。
上記のとおり、本件は、出版社側の査読・編集プロセス、または同時期の多数の論文撤回の対応に関連する可能性があり、責任著者の論文がその影響を受けたと考えています。
今回、貴殿から指摘のあった内容(※)は、責任著者に対する誤解を生じさせる可能性があるため、掲載に当たりご配慮くださるようお願いいたします。
(※)
「システマティックな操作(systematic manipulation)」とは、出版規範委員会(Committee on Publication Ethics)によると、「査読評価に影響を与えたり、著者を偽ったり、捏造または盗用した研究を発表するなど、不正な手段を使って論文の出版を確実に行なう個人またはグループです(原文:Systematic manipulation involves individuals or groups using dishonest practices to ensure publication, such as influencing peer assessments, misattributing authorship, and publishing fabricated or plagiarized research.)」。 「システマティックな操作」がどの研究不正に該当するのかわからないが、論文は撤回されているので大きな問題があると思われる。
東北大学研究推進部研究コンプライアンス推進室
==告発10日後==
10日経過したが、何も返事がない。
==251021 研究不正疑惑 告発した==
東北大学・研究推進部研究コンプライアンス推進室御中
件名:研究不正疑惑
研究者倫理の研究をしている白楽ロックビル(お茶の水女子大学名誉教授)と申します。
貴大学・流体科学研究所に所属する太田 信・教授たちの「2020年6月のComplexity」論文が2023年10月4日に撤回された。さらに、「2020年10月のComplexity」論文も2024年1月24日に撤回された。撤回理由は、「出版過程でのシステマティックな操作(systematic manipulation)」である。
「システマティックな操作(systematic manipulation)」とは、出版規範委員会(Committee on Publication Ethics)によると、「査読評価に影響を与えたり、著者を偽ったり、捏造または盗用した研究を発表するなど、不正な手段を使って論文の出版を確実に行なう個人またはグループです(原文:Systematic manipulation involves individuals or groups using dishonest practices to ensure publication, such as influencing peer assessments, misattributing authorship, and publishing fabricated or plagiarised research.)」。
本件の「システマティックな操作」がどの研究不正に該当するのかわからないが、論文は撤回されているので大きな問題があると思われる。適切な調査・対処をしてくださるようお願い申し上げます。
疑惑論文の連絡著者:太田 信(おおた まこと)
部署:東北大学・流体科学研究所
職位:教授
詳しくは、以下の記事で説明しております。
太田 信 (Makoto Ohta)(東北大学)
https://haklak.com/page_Makoto_Ohta.html
よろしくお願い申し上げます。
白楽ロックビル
お茶の水女子大学名誉教授
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●2.【疑惑論文】
=====【疑惑論文の連絡著者】======
太田 信 (オオタ マコト、Makoto Ohta):写真出典
以下出典:https://nrid.nii.ac.jp/ja/nrid/1000020400418/
所属 (現在):2025年度: 東北大学, 流体科学研究所, 教授
所属 (過去の研究課題情報に基づく):
2017年度 – 2025年度: 東北大学, 流体科学研究所, 教授
2011年度 – 2016年度: 東北大学, 流体科学研究所, 准教授
2007年度 – 2009年度: 東北大学, 流体科学研究所, 准教授
2006年度: 東北大学, 流体科学研究所, 助教授
他の紹介サイト:
東北大学・流体科学研究所。写真出典:https://www.youtube.com/watch?v=AxFy9eOjfTU
=====【疑惑の全体像】======
2025年10月20日現在、太田 信 (Makoto Ohta)が連絡著者になっている2020年出版の2論文が撤回されている。2論文とも科研費などの助成を受けた研究成果である。
学術誌が示している撤回理由は、「出版過程でのシステマティックな操作(systematic manipulation)」とある。
「システマティックな操作(systematic manipulation)」とは、出版規範委員会(Committee on Publication Ethics)によると、「査読評価に影響を与えたり、著者を偽ったり、捏造または盗用した研究を発表するなど、不正な手段を使って論文の出版を確実に行なう個人またはグループです(原文:Systematic manipulation involves individuals or groups using dishonest practices to ensure publication, such as influencing peer assessments, misattributing authorship, and publishing fabricated or plagiarised research.)」。
なお、2つの論文の第一著者はHaoran Wangで、2022年3月25日に東北大学で博士号を取得した。 → https://cir.nii.ac.jp/crid/1910865335624852992
博士号取得後にこの2論文が撤回されているが、この2論文は博士論文提出の1年余り前に出版された。博士論文の主たる内容がこの2撤回論文だとすると、博士論文の判定を再考(博士号剥奪?)した方が良い可能性が生じる。この件も調査して下さるようお願いします。 → https://www.ifs.tohoku.ac.jp/nanoint/jpn/members/wang/index.html
=====【論文1】=====
「2020年6月のComplexity」論文。
この論文は2023年10月4日に撤回された(撤回公告)。
- A Hemodynamic-Based Evaluation of Applying Different Types of Coronary Artery Bypass Grafts to Coronary Artery Aneurysms
Complexity (2020)
doi: 10.1155/2020/9359340 issn: 1076-2787 issn: 1099-0526
Haoran Wang , Hitomi Anzai , Youjun Liu , Aike Qiao , Jinsheng Xie , Makoto Ohta
連絡著者は太田 信で、所属は①東北大学・流体科学研究所、②東北大学大学院・医工学研究科、③東北大学・日仏ジョイントラボラトリー(ELyTMaX)の3箇所である。
研究助成金(日本関係を抽出):
①安西 眸(第二著者)が研究代表者で日本学術振興会の研究助成を受けている (Grant number: 18K18355)。4,290千円を使用した。
②JSTの「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」の研究助成を受けている 。助成金額の記載はないので不明。
ーーー論文1の問題点ーーー
「撤回公告」によると、出版社が調査し撤回した。
撤回理由は、出版過程でのシステマティックな操作(systematic manipulation)の兆候(6件のうち1つ以上)があったため、論文内容に信頼性が欠けるので撤回する、とある。
ただ、本論文の問題は6件のうちのどれなのかを示していない。
=====【論文2】=====
「2020年10月のComplexity」論文。
この論文は2024年1月24日に撤回された(撤回公告)。
- Hemodynamic-Based Evaluation on Thrombosis Risk of Fusiform Coronary Artery Aneurysms Using Computational Fluid Dynamic Simulation Method
Complexity (2020)
doi: 10.1155/2020/9359340 issn: 1076-2787 issn: 1099-0526
Haoran Wang , Hitomi Anzai , Youjun Liu , Aike Qiao , Jinsheng Xie , Makoto Ohta
連絡著者は太田 信で、所属は①東北大学・流体科学研究所、②東北大学・日仏ジョイントラボラトリー(ELyTMaX)の3箇所である。
研究助成金(日本関係を抽出):
①安西 眸(第二著者)が研究代表者で日本学術振興会の研究助成を受けている (Grant number: 18K18355)。4,290千円を使用した。
②JSTの「産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム」の研究助成を受けている 。助成金額の記載はないので不明。
③Aike Qiao(中国)が研究代表者で所内対応教員が太田 信の令和2年度東北大学流体科学研究所国際連携公募共同研究採択課題(J20R001)。助成金額の記載はないので不明。
ーーー論文2の問題点ーーー
「撤回公告」によると、出版社が調査し撤回した。
撤回理由は、「論文1」と同じである。
●7.【白楽の感想】
《1》適正な対処を
科研費などの助成を受けた研究成果の集積である論文が撤回されている。それも2論文もである。
東北大学として研究不正調査をし、不正と認定したら、適正な処罰を科し、東北大学として次の研究不正を防止する策を講じてください。そして、それらの顛末を公表してください。
研究不正疑惑者として連絡著者の太田 信を代表として挙げたが、実際のネカト行為者は共著者の誰かかもしれない。
もちろん、論文の著者は全員、実際のネカト行為者でなくとも、その論文に不正が見つかれば、不正者としての責任がある。ただ、研究室主宰者や連絡著者の責任はより重い。
《2》東北大学は文部科学省の指示に従ってください。そして、文部科学省はガイドラインに書いたことを守らせてください
冒頭に書いたが、現在の日本の「大学・研究所は所属研究者の研究不正(ネカト)を自律的に調査しない。誰かが告発しないと調査しない。」
今回の東北大学も自律的に調査していないようだ。1つ目の論文は2023年10月4日に撤回されたので、撤回から2年以上が経過しているのに、東北大学は自律的に調査したふしはない。
このことは、文部科学省が書いている管理責任とは真逆である。 以下出典 → 研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(平成26年8月26日文部科学大臣決定)p5
つまり、文部科学省は「不正行為に対する対応は、・・・科学コミュニティ、研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされなければならない。」とガイドラインに書いている。

上記引用文に「自律・自浄作用の強化」とあるけど、「強化」も何も、日本の大学・研究所は所属研究者の「不正行為に対する対応」での「自律・自浄作用」はほぼゼロである。
文部科学省はこの矛盾した状態を(政治家などに国会で)指摘されたら困らないのだろうか?
文部科学省は、自律・自浄作用のない大学・研究所(自律的に調査しない大学・研究所)に行政指導やペナルティを科して、ガイドラインに書いたことを守らせたらどうだろう。
《3》自律的に調査させる方法
日本の大学・研究所に所属研究者の研究不正(ネカト)を自律的に調査させる1つの方策は、論文が撤回された時、研究者に所属機関への報告を義務付けることだ。
論文撤回は、研究業務という業務上のミスや不正などである。
ほとんどの職業で、業務上のミスなら、上司や所属機関に報告する。
研究者の場合、ミスのうち「誠実な間違い」は処罰されないが、ほとんどの職業では、業務上のミスでも、内容や程度に応じてそれなりの処罰が科される。
なお、業務上の不正は上司や所属機関へ報告されないだろうが、論文撤回を報告された所属機関がミスか不正を判断すればよい。
それで、各大学は論文撤回を報告しなかった研究者には懲戒処分を科すと規則に加え、所属研究者の論文撤回をすべて把握できるようにしてはどうか。
これで、大学・研究所は所属研究者の研究不正(ネカト)を自律的に調査できるようになるだろう。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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