●白楽の卓見・浅見25【研究不正の大学ランキング】

2025年6月23日掲載

ワンポイント:数機関が発表している従来の大学ランキングは研究力や教育力など大学の肯定的な指標を数値化しランキングしている。それに対し、2025年6月、ロクマン・メホ準教授(Lokman Meho)は、論文撤回、捕食論文、引用不正などの研究不正の指数として「研究公正リスク指数(Research Integrity Risk Index)」を発案し、世界1,000大学をランキング付けした。いわば、研究不正という大学の悪事的な指標による大学ランキングである。この機会に、研究不正を加味した日本の大学ランキングを考えてみた。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
 ★研究不正の大学ランキング
 ★従来の大学ランキング
 ★白楽の提案
 ==以下は、関連記事の再掲==
 ★日本の国策「世界トップ100に10大学」の大失敗
 ★大学ランキング入りの犯罪的工作
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●【白楽の卓見・浅見25】

★研究不正の大学ランキング

2025年6月初旬、ベイルート・アメリカン大学のロクマン・メホ準教授(Lokman Meho、写真出典)は、論文撤回、捕食論文、引用不正などの研究不正の指数として「研究公正リスク指数(Research Integrity Risk Index)」を発案し、世界1,000大学をランキングした。 → ココ

それを、ネイチャー誌などが紹介した。 → 2025年6月6日:‘Integrity index’ flags universities with high retraction rates

研究公正リスク指数は、その大学が研究不正を起こす構造的傾向を数値で示した指数で、研究不正の観点で大学をランキング付けした世界で最初の大学ランキングである。

世界1,000大学の大学ランキングに日本の20大学が含まれていた。

と言っても、日本の20大学 は、5段階の分類で「最もリスクが低い」枠(853~1,000位)の「出版規範を厳格に順守している」グループに入っている。

それでも、この機会に、この20大学を対象に「日本の研究不正大学ランキング」を作り、大学ランキングそのものを考えてみた。

表1に、この20大学を対象に「撤回論文などの数」が多い順の大学ランキングを示す。その表に、研究公正リスクの順位、ネカト・クログレイ者数の順位を加えた。

  • 従来の大学ランキングは生産性をベースにしている。例えば、論文出版数や被引用数を重視している。
    「研究公正リスク指数」は、論文撤回数と、ScopusおよびWeb of Scienceに索引付けされなくなった学術誌に掲載した論文数で大学をランク付けている。これは、従来のランキングでは見逃されがちな研究システム上の欠陥を反映している。
    なお、今回が初回だが、今後、半年ごとにデータ更新公開し、次回の更新公開は2025年12月の予定である。
  • 「撤回論文などの数」は、撤回監視データベース(Retraction Watch Database)のヒット数である。この数値には、論文訂正など論文撤回以外、また、理由として、研究不正以外の理由も含まれる。
  • 「ネカト・クログレイ者数」(【日本の研究者のネカト・クログレイ事件一覧】)のヒット数である。この数値には、研究不正以外の理由も含まれる。
  • 「撤回論文などの数」と「ネカト・クログレイ者数」のデータ収集は2025年6月10日に白楽が行なった。

表1. 2025年版「日本の研究不正大学ランキング」

順位撤回論文などの数大学名 University Name研究公正リスク指数:世界順位 [日本順位ネカト・グログレイ者数(人)[日本順位
1142筑波大学 University of Tsukuba774 [12]27 [7]
2140東京大学 The University of Tokyo947 [19]64 [1]
3125慶應義塾大学 Keio University 744 [9]37 [4]
486京都大学 Kyoto University885 [14]44 [2]
579大阪大学 The University of Osaka714 [6]38 [3]
60(19+50)東京科学大学(東京工業大学と東京医科歯科大学) Institute of Science Tokyo863 [13]2(6+7)
753東北大学 Tohoku University938 [17]29 [6]
846名古屋大学 Nagoya University967 [20]36 [5]
934北海道大学 Hokkaido University910 [16]23 [10]
1030順天堂大学 Juntendo University522 [3]12
1126熊本大学 Kumamoto University724 [7]23 [10]
1223九州大学 Kyushu University773 [11]27 [7]
1322長崎大学 Nagasaki University906 [15]5
1421岡山大学 Okayama University702 [5]22
1519早稲田大学 Waseda University509 [1]24 [9]
1618神戸大学 Kobe University575 [4]12
1618千葉大学 Chiba University 742 [8]10
1817広島大学 Hiroshima University757 [10]19
1916金沢大学 Kanazawa University511 [2]8
200(5+0)大阪公立大学(大阪市立大学と大阪府立大学) Osaka Metropolitan University946 [18]1(9+3)

参考に、かつて白楽が示した2019年までのデータを以下に示す。この表は「事件数」である。「撤回論文などの数」や「ネカト・クログレイ者数」に深く関連しているが、算出基準はそれらと異なる。 → 出典:5C ネカト・クログレイ事件データ集計(2019年):日本編 | 白楽の研究者倫理

2019年の上記の表と今回(表1)の両方で上位5位以内に、筑波大学、東京大学、慶應義塾大学、大阪大学の4大学が入った。

この4大学に「撤回論文などの数」4位の京都大学を加えた5大学が、数値上、日本の「研究不正最悪5大学」とみてよいだろう。

白楽の表1の解釈は以下のようだ。

  1. 研究公正リスク指数の日本の1位は早稲田大学、2位は金沢大学、3位は順天堂大学である。この順位は、日本の研究不正の実態を反映していない。
  2. 日本の大学に関する研究公正リスク指数は、「撤回論文などの数」と「ネカト・クログレイ者数」の大学ランキングとはかなり異なる。
  3. 研究公正リスク指数の日本の1位は早稲田大学だが、それでも世界509位なので、世界的に見て、日本の大学の研究公正リスクは非常に低い。
  4. 上記の1~3から、研究公正リスク指数の世界ランキングは「日本の研究不正大学ランキング」とは大きくずれていて、日本の研究不正の実態を反映していない。
  5. なお、研究公正リスク指数の世界10位以内は、10位に2校あるので11校になるが、ジャワハルラール・ネルー工科大学ハイデラバード校(Jawaharlal Nehru Technological University Hyderabad)など9校がインドの大学である。残りの2校はタイフ大学(Taif University)などサウジアラビアの大学である。
    これらの大学は、もちろん、5段階の分類で最もリスクが高い「レッドフラッグ」(1~124位)グループに入っている。

日本の大学の大きな問題は、研究力が最も優れている大学群・「筑波大学、東京大学、慶應義塾大学、京都大学、大阪大学」に、「論文撤回などの数」が最も多いことだ。

なお、昭和医科大学(2025年改称、旧・昭和大学)の「撤回論文などの数」は140件で、東京大学と並び、日本の2位であるが、本記事では扱わない。

研究力が最も優れている大学群に「撤回論文などの数」が最も多いのは、大学を企業に例えると、大問題だと思う。

つまり、最も優れた製品を生産販売する日本のトップ企業群が、最も多くデタラメな製品を作り、最も多く人をダマすような販売をしている。

なんで、放置しておくのだろう? 研究不正最悪5大学。

★従来の大学ランキング

従来の大学ランキングは、研究成果研究環境、教育の質、産業界への貢献、国際性などの肯定的評価を数値にして作成している。

世界大学ランキングは「QS世界大学ランキング」やアラブ首長国連邦の「CWUR」など数組織が発表しているが、以下、英国の「Times Higher Education(THE:タイムズ・ハイヤー・エデュケーション)」のデータを使用した。

2025年版の大学ランキングを世界13位まで示し、さらに、14位以下に日本の「研究不正最悪5大学」を加え、かつ、「撤回論文などの数」という研究不正の数値を加えたのが以下の表である。

「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」のベスト11大学を英米スイスが占めるが、1大学を除いて全部、「撤回論文などの数」は100件以下である。唯一例外のスタンフォード大学は110件である。

プリンストン大学やカリフォルニア工科大学はともに25件でとても少ない。

英米スイスのベスト大学と比べると、日本の「研究不正最悪5大学」は「撤回論文などの数」が多い。ザっと見比べて、2~3倍多い。

「研究不正最悪5大学」なのだから「撤回論文などの数」が多いのは当然かもしれないが、これら5大学は、日本の最優良大学群でもある。

もっとも、中国のベスト大学は世界ランキングの12位と13位なのに、「撤回論文などの数」も170件と240件と多い。

しかし、日本は中国と同質ではない。

というのは、中国のベスト大学は研究不正最悪大学ではない。

中国の大学の「撤回論文などの数」を適当に調べたら、鄭州大学(Zhengzhou University)は543件、華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)は412件もあった。

つまり、中国のベスト大学の2~3倍の「撤回論文などの数」がある大学が中国には複数見つかった。

以上の事から、日本のベスト大学群は国際的な研究規範から逸脱している何かがある。

本質的か結果論なのかわからないが、日本のベスト大学群が英米スイスのベスト大学群と肩を並べたいなら、研究成果や教育の質の向上だけでなく、「撤回論文などの数」を半分~3分の1にする対策が必要に思える。

★白楽の提案

大学ランキングは研究成果など大学の肯定的なプラス面を中心にランキングしている。

しかし、そこで学ぶ学生、勤める教員にとって、アカハラや性不正などは、極力避けたいマイナスポイントである。さらに、同じ大学の学生・教職員が麻薬使用や性犯罪を起こすような大学に入学したいとは思えない。

それで、大学ランキングには、研究不正の発生率を含め、このような負の事象を加えた評価にすべきである。

日本では、ベネッセコーポレーション(株)が「日本大学ランキング」を発表している。 →  大学ランキング|THE 日本大学ランキング

この「日本大学ランキング」は、「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」のランキングを土台に「教育力」に焦点を当ててランクしている。

評価項目に「教育リソース」「教育充実度」「教育成果」「国際性」の4項目がある。各項目の点数をどうつけたのかは企業秘密なのだろうが、各大学が提供した資料を基にしていると思われる。

また、朝日新聞出版(編集)も「別冊・ムック:大学ランキング 2025」を発表している。

こちらの評価項目も肯定的な生産性だけである。

このような日本の大学ランキングに、今後、アカハラや性不正、麻薬や犯罪などの件数を加えた「負の面」を数値化し、「マイナス点」として考慮していただきたい。

ちなみに、「研究不正最悪5大学」で、かつ、研究力が最も優れている大学群・「筑波大学、東京大学、慶應義塾大学、京都大学、大阪大学」の性不正・アカハラ者数(人) [日本順位]は、白楽の集計では、筑波大学6件、東京大学29件 [1位]、慶應義塾大学4件、京都大学20件[3位]、大阪大学14件[6位]だった。 → 出典元:【研究以外の個人のネカト・クログレイ事件一覧(日本)】

日本では、「研究不正最悪5大学」で、かつ、研究力が最も優れている大学群に性不正・アカハラ者数が最も多い傾向である。

世間的には最良の大学なのに、地獄のような場所で学ぶ学生、教育・研究を行なう教員が最多だというのは、なんともやりきれない。

抜本的な改善が必要に思える。

==以下は、関連記事の再掲==

以下は、アイ・コヤナギ(Ai Koyanagi、小柳 愛)(スペイン)で書いた「●7.【白楽の感想】」の再掲である。但し、本記事に合わせて若干修正・加筆した。

★日本の国策「世界トップ100に10大学」の大失敗

2013年、安倍首相が日本の世界大学ランキング入りを国策で進めた。  

文部科学省は国立大学改革プランを発表した。第3期中期目標期間(2016年度から2021年度)には各大学の特色を生かした機能強化を推進、今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上のランクインを目指す。(2013年11月27日記事:文科省、10年間で世界大学ランキングTOP100入り10校を目標 | リセマム保存版

2013年11月の文部科学省の「国立大学改革プラン」(保存版)によると、以下の目標が設定された。

2013年当時、世界大学ランキングトップ100に東京大学と京都大学の2校しかランクインしていなかった。それを10年間で10校にする計画である。

2022年時点で、達成できないのは確実だった。

というのは、2022年時点で、9年前と同じ2校しかランクインしていない。9年間、全く成果があがっていない。10校のランクインが無理なのはハッキリしている。

結果は表題の通り、目標達成は非常に厳しく、東大が35位、京大が61位、その他大学は100位まで程遠い位置にいます。」 → 2022年4月12日記事:【最新2022年】世界大学ランキング、安倍内閣の目標「世界トップ100に10校ランクイン」は達成出来そうにない 

ランキング入りのために、日本政府は、10年間でどれだけ国民の税金を投入したか、白楽は調べていない。

しかし、10年かけても全く前進していない。前進どころか、東京大学が23位→35位、京都大学が52位→61位へと、むしろ、後退している。

2025年時点では、前項で示したように、東京大学が28位、京都大学が55位で、ほぼ変化なしである。

日本政府の誰がどう責任を取るのか?

2025年時点、誰も責任を取っていない。

メディアは批判・追及しない。政府も大学も、関係者はみな黙っている。なんかヘンだ。

イヤイヤ、毎日新聞は 2022年4月の記事で取り上げた。→ 2022年4月11日記事:「世界トップ100に10校を」安倍政権が描いた大学成長戦略の現状は | 毎日新聞

しかし、それ以降、記事にしていない。

他の主要メディアは正面からも斜めからも記事にしていない。

★大学ランキング入りの犯罪的工作

そもそも、「世界大学ランキング入りが国策」って何かヘンだ。

ランキングに載るかどうかは、結果であって、目的・目標ではなく。本来、優れた大学にすることが目的・目標でしょう。本末転倒である。

もちろん、「世界大学ランキング入り」の活動、そのものは不正ではない。

しかし、国策となると(国策とならなくても?)、不正な手段を使ってでも目標を達成しようとする大学がでてくる。 → 2025年3月24日記事:「腐った根性から正せ」世界大学ランキングの評価を上げようと韓国の名門大学が商品券を…1年間の除外処分|サーチコリアニュース

サウジアラビアの大学は外国の優秀研究者(高被引用者)をカネで釣って、第一所属をサウジアラビアの大学に変えてもらっていた。 → 7-138 サウジの大学ランキング危機 | 白楽の研究者倫理

サウジアラビアの手法は単純な所属偽装である。

ただ、もっと単純な手法は、「大学ぐるみ」で数値データを改ざんすることだ。

米国のテンプル大学(Temple University)のように、大学の担当者が、優れた評価を得られるように自大学のデータを改ざんしてランキング企業に送ればよい。

大学:大学ランキング(school’s ranking):テンプル大学(Temple University)(米)

2022年9月、コロンビア大学も大学ランキング不正していた。 → 2022年9月12日の記事: Columbia University Drops From No. 2 to No. 18 in U.S. News Rankings – The New York Times

テンプル大学やコロンビア大学はバレたけど、多分、米国の多くの大学は改ざんデータを送っている。

インドの大学も自大学に都合の良いデータを送っていた。 →  ① 2024年9月27日記事:IIM Mumbai: Are the institution’s high rankings based on inflated numbers?
② 2025年6月16日記事:NIRF rankings: How reliable are the rankings of India’s top IITs and IIMs?

多分、日本の大学も改ざんデータを送っている。

2021年2月、筑波大学が改ざん(数値の水増し)データを送っていたのが、竹谷悦子教授に指摘された。 → 2021年2月10日記事:外国人学生数の調査要望 筑波大、学長選考批判の教授ら:朝日新聞デジタル

大学ランキングの数値データは第三者がチェックできない内部情報が多いので、誰も検証しない(できない?)。

検証できない状況では、多くの人は、不正を承知で利得行為をする。人間のサガのようです。

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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