2020年12月17日掲載
ワンポイント:ウーストハイゼンはクイーンズ大学(Queen’s University)・機械材料工学科・名誉教授だった。同学科のモート・シルカンザデ準教授(Mort Shirkhanzadeh)は、2005年からネカトハンター活動「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」をはじめ、2013年(76歳?)に、ウーストハイゼンの「2007年のProceedings of・・・」論文が盗用だと指摘し、大学に通報した。しかし、クイーンズ大学は、ネカト調査をしなかった。代わりに、27年間務めたシルカンザデ準教授を教育上の問題という理由で、2016年9月、解雇した。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen、Patrick H Oosthuizen、写真出典)は、カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・機械材料工学科(Department of Mechanical and Materials Engineering)・名誉教授で、専門は流体工学である。
日本語に翻訳されていないが『圧縮性流体概説(熱伝達)(Introduction to Compressible Fluid Flow (Heat Transfer))』(2013年)など数冊の著書がある(本の表紙出典はアマゾン)。
同学科のモート・シルカンザデ準教授(Mort Shirkhanzadeh)は、2005年からネカトハンター活動をはじめ、ウェブサイト「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」を運営していた。
2013年(76歳?)、シルカンザデ準教授は、ウーストハイゼンの「2007年のProceedings of・・・」論文が盗用だとで指摘し、大学に通報した。
しかし、クイーンズ大学は、ネカト調査をしなかった。
2016年9月(79歳?)、代わりに、クイーンズ大学は、27年間務めたシルカンザデ準教授を教育上の問題という理由で、解雇した。
カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)。写真出典
- 国:カナダ
- 成長国:南アフリカ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:南アフリカのケープタウン大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1937年1月1日生まれとする。1959年に大学を卒業した時を22歳とした
- 現在の年齢:87 歳?
- 分野:流体工学
- 最初の不正論文発表:2007年(70歳?)
- 不正論文発表:2007年(70歳?)
- 発覚年:2013年(76歳?)
- 発覚時地位:クイーンズ大学・名誉教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ学科のモート・シルカンザデ準教授(Mort Shirkhanzadeh)で、大学に公益通報
- ステップ2(メディア):「Little Office of Research Integrity (LORI)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①クイーンズ大学・調査委員会? 調査していない?
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。 調査していない?
- 大学の透明性:調査していない(✖)
- 不正:盗用
- 不正論文数:1報
- 盗用ページ率:不明%
- 盗用文字率:ほぼ100%(?)
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Curriculum Vitae
- 生年月日:不明。仮に1937年1月1日生まれとする。1959年に大学を卒業した時を22歳とした
- 1959年(22歳?):南アフリカのケープタウン大学(University of Cape Town)で学士号取得:機械工学
- 1963年(26歳?):同大学で修士号取得:機械工学
- 1967年(30歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)で修士号取得:航空宇宙工学
- 1968年(31歳?):南アフリカのケープタウン大学(University of Cape Town)で研究博士号(PhD)を取得:機械工学
- 1968-1970年(31-33歳?):カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・助教授
- 1970-1976年(33-39歳?):同大学・準教授
- 1976-2004年(39-67歳?):同大学・教授
- 2004年(67歳?):同大学・名誉教授
- 2013年(76歳?):盗用が発覚
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚の経緯
パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)の盗用を告発したのは、カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・機械材料工学科(Department of Mechanical and Materials Engineering)のモート・シルカンザデ準教授(Mort Shirkhanzadeh)である。
しかし、この告発活動(正式には別の理由)で、シルカンザデ準教授は、後に大学を解雇された。
2005年、シルカンザデ準教授はカナダの研究公正を保持するためにウェブサイト「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」を設け、活動を開始した。
カナダの工学系研究者(特にクイーンズ大学教員)に絞ってネカトを告発する活動を、2005- 2016年の11年間にわたって行なっていた。
2013年2月22日(76歳?)、「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」がウェブサイトで、パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)の盗用を指摘した。
この時、ウーストハイゼンはクイーンズ大学(Queen’s University)・名誉教授で、既に退職した身である。
クイーンズ大学は盗用調査をしなかった。
●【盗用の具体例】
以下の盗用例は、「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」のウェブサイトから数点を転載した。 → Little Office of Research Integrity (LORI) – Home
★「2007年のProceedings of・・・」論文
「2007年のProceedings of・・・」論文の書誌情報を以下に示す。2020年12月16日現在、撤回されていない(と思う)。
- “TEACHING THE HISTORY OF ENGINEERING: REASONS AND POSSIBLE APPROACHES“,
Patrick Oosthuizen and Jane T. Paul
Proceedings of the 3rd International CDIO Conference, MIT, Cambridge, Massachusetts, June 11-14, 2007.
https://web.archive.org/web/20150217030140/http://www.cdio.org/files/document/file/T3A1Oosthuizen.pdf
以下に盗用比較図の一部を示す。同じ単語を赤色で示したが、明白な逐語盗用である。赤色としなかった部分も言い換え盗用なので、例示した部分は盗用率100%に近い盗用である。被盗用文章は複数の論文である。
★「・・・」論文
ウーストハイゼンのどの論文なのか、白楽は、よくわからなかった。
以下の2つの図は左が被盗用図、右が盗用図である。上段の右図ではねつ造データも指摘している。図の出典:Little Office of Research Integrity (LORI) –
★「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」
前述したように、パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)の盗用を告発したのは、カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・機械材料工学科(Department of Mechanical and Materials Engineering)のモート・シルカンザデ準教授(Mort Shirkhanzadeh)である。
2005年、シルカンザデ準教授はカナダの研究公正を保持するためにウェブサイト「小さな研究公正局(Little Office of Research Integrity (LORI))」を設け、活動を開始した。
シルカンザデ準教授はネカト疑惑のある論文を見つけては、告発メールを大学に送付した。
この告発活動はカナダの大学人から歓迎されたが、クイーンズ大学からは歓迎されなかった。
2011年5月10日、クイーンズ大学はシルカンザデ準教授に告発メールを送付しないよう警告した(以下)。
出典:Professor’s academic freedom violated, report finds | The Journal
2015年8月18・19・20日、シルカンザデ準教授は、3日間の無給停職処分が科された。正式な理由は職場でアカハラをしたという理由だが、本当の理由はネカト告発だと思われる。 → 2015年8月19日の「Queen’s Journal」記事:Breaking: Professor suspended for three days for workplace harassment | The Journal
2016年9月、クイーンズ大学は27年間務めたシルカンザデ準教授を教育上の問題という理由で解雇した。上述したが、解雇の本当の理由はネカトハンター活動と思われる。 → 2016年9月2日の「Queen’s Journal」記事:Whistle-blower Morteza Shirkhanzadeh fired | The Journal
シルカンザデ準教授は解雇されて間もなく、「小さな研究公正局」活動を止めた。
2020年12月16日現在、ウェブサイト「小さな研究公正局」は閉鎖されていないが、活動していない。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★論文数
2020年12月16日現在、パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)のウェブサイト(All Publications)に、1961~2015年の55年間の721論文がリストされていた。
★撤回監視データベース
2020年12月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでパトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)を「Patrick Oosthuizen」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年12月16日現在、「パブピア(PubPeer)」では、パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)の論文のコメントを「Patrick Oosthuizen」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》カナダのネカト対処文化
ネカト対処は国によって異なる。
カナダは米国の隣国で民主的な印象はあるが、体質は古い。
モート・シルカンザデ準教授(Mort Shirkhanzadeh)が2005年からネカトハンター活動をはじめ、2013年(76歳?)、パトリック・ウーストハイゼン(Patrick Oosthuizen)の盗用を告発したのだが、クイーンズ大学(Queen’s University)はウーストハイゼンのネカト調査をせず、告発したシルカンザデ準教授の方を処分してしまった。
研究公正への道は遠い。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2012年5月29日のトッド・ペティグルー(Todd Pettigrew)記者の「Macleans.ca」記事:New site aims to keep academics honest – Macleans.ca
② 2013年2月22日記事:Little Office of Research Integrity (LORI) – plagiarism I
③ 2013年4月18日手紙:E-Mail_to_steven_Liss_April_18_2013.108192609.pdf
④ 2016年9月2日の「Queen’s Journal」記事:Whistle-blower Morteza Shirkhanzadeh fired | The Journal
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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