7-144 タイ:論文代行・購入に刑事罰

2024年4月15日掲載 

白楽の意図:ネカト処分の甘さが日本の「研究不正大国」の一因になっているので処分の厳罰化が必要だ。タイの例を紹介しよう。「タイの事情:2023年1月のBangkok Post」論文では、買った論文を自分の論文とすると、最長3年の懲役、60,000バーツ(約25万円)以下の罰金だとある。「タイの事情:2023年3月のTimes Higher Education」ではその背景を説明している。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.タイの事情:2023年1月のBangkok Post
3.タイの事情:2023年3月のTimes Higher Education
7.白楽の感想
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●2.【タイの事情:2023年1月のBangkok Post】

★読んだ論文

  • 論文名:Uni ‘plagiarism-for-profit’ probe launched
    日本語訳:大学の「営利目的の盗用」の捜査が開始
  • 著者:Bangkok Post記者たちとあり、著者名不記載
  • 掲載誌・巻・ページ:Bangkok Post
  • 発行年月日:2023年1月11日
  • ウェブサイト:https://www.bangkokpost.com/thailand/general/2479714/uni-plagiarism-for-profit-probe-launched
  • 著者の紹介:Bangkok Post記者たちとあり、著者名不記載なので著者紹介は省略。

●【論文内容】

★論文購入

タイのカセサート大学(Kasetsart University)のウィーラチャイ・プットダウォン準教授(Weerachai Phutdhawong、化学、写真出典)は、10年以上、ネカトハンティング活動を続けているベテランである。

2023年1月8日、チェンマイ大学(Chiang Mai University)の講師がナノマテリアルをテーマにした学術論文を発表したが、それは3万バーツ(約13万円)で買った論文だと、プットダウォン準教授は指摘した。

この講師は、その後、大学に出版報奨金を請求したが買値の4倍の12万バーツ(約50万円)を請求した(もらった?)。

プットダウォン準教授は、この講師は研究を行なう資格がないと糾弾し、大学に業績詐欺を調査するよう要求した。 → 2023年1月8日:มีอาจารย์จากมหาวิทยาลัยเชียงใหม่คนห… – Weerachai Phutdhawong | Facebook 

タイの学術詐欺事件は他にも報道されている。 → 2017年1月29日記事:Bangkok Post – Fake it till you ace it

★最長3年の懲役、25万円以下の罰金

2023年1月、タイの某大学講師グループは、他人に論文を執筆してもらったり、出来上がった論文を購入して、自分の論文として申請し、タイ政府から出版報奨金を得ていた。
 → 2023年1月10日記事:Ministry probes claims that Thai academics are buying theses for promotion
 → 2023年3月18日記事:Thai scholars ‘forced to buy journal papers’ | Times Higher Education (THE)

タイの高等教育・科学・研究・イノベーション省(MHESI)は、この論文代行・購入事件を調査しはじめた。

高等教育・科学・研究・イノベーション省(MHESI) Iのシリレルク・ソンシウィライ事務次官(Sirirerk Songsiwilai)は、同省がこの問題を調査するために大学にチームを派遣した。また、全国の大学の学長に、学術論文の著者が本当は誰なのかを徹底的にチェックするよう指示した。

タイの高等教育・科学・研究・イノベーション大臣のアネク・ラオタマタス(Anek Laothamatas、写真出典)は、論文代行・購入は学術界における重大な規範違反なので、調査の進捗状況を注意深く監視すると発表した。

タイは各領域で国際標準化を目指していて、学術研究も例外ではなく、学術上の不正には厳格に対処する方針である。

研究者が業績詐称のために研究論文を購入した場合、高等教育法(Tertiary Education Act)に基づき、最長3年の懲役、60,000バーツ(約25万円)以下の罰金、またはその両方が科せられる。

白楽は、この法律の原文を探したが、なかなか見つからなかった。

別の記事に同様な記載があった。 → 2023年2月11日:Ministry attempts to end ‘publish at all costs’ culture

高等教育法第70条(Section 70 of the Higher Education Act)が、アカデミックなポストや昇進のための論文代行を明示的に禁止している。最長3年の懲役、60,000バーツ(約25万円)以下の罰金。

高等教育法第70条とのことだが、白楽は、タイの法律そのものを見つけられなかった。

とにかく、タイでは、論文代行・購入は犯罪で、捕まれば、最長3年の懲役、60,000バーツ(約25万円)以下の罰金を科せられる。

●2.【タイの事情:2023年3月のTimes Higher Education】

★読んだ論文

  • 論文名:‘Buy papers or lose your job’: the dilemma facing Thai academics
    日本語訳:‘論文を買うか、仕事を失うか’: タイの研究者が直面するジレンマ
  • 著者:Pola Lem
  • 掲載誌・巻・ページ:Times Higher Education (THE)
  • 発行年月日:2023年3月18日
  • ウェブサイト:https://www.timeshighereducation.com/news/buy-papers-or-lose-your-job-dilemma-facing-thai-academics
  • 著者の紹介:ポーラ・レム(Pola Lem)。2015年、米国のコロンビア大学ジャーナリズム大学院(Columbia University Graduate School of Journalism)を卒業。日本とアラスカの田舎で働き、2021年Times Higher Education (THE) に入社。出典(含む画像):Pola Lem | Times Higher Education (THE)

●【論文内容】

★出版プレッシャー

論文を発表しなければ研究キャリアのルートから外れるというプレッシャーがある。

この出版プレッシャーはタイに限ったものではないが、タイでは、この出版プレッシャーが研究者を極限状態に追い込んでいて、深刻な「論文代行・購入」が起こり、問題になっている。

タイでは出版プレッシャーが近年とても強くなってきた。

論文を買った疑いのある研究者の事件がメディアの注目を集め、教育省は厳しく監視している。

2023年2月の調査で、8大学の研究者33人が論文購入したと全国ニュースが報じた。

メディア報道によると、プリンス・オブ・ソンクラ大学(Prince of Songkla University)だけでも12人の研究者が論文購入の疑いを受けた。

発覚したのは、氷山の一角にすぎないと考えられている。

★背景

スラナリー工科大学(Suranaree University of Technology)のデイヴィッド・ハーディング準教授(David Harding、専門は化学、写真出典)によると、タイでは近年、論文購入が急増している。

年に数本の論文しか発表していなかった研究者が突然、年に50~100本の論文を発表したケースもあった。

「職を失うかもしれない現実に直面すると、愚かなことをする誘惑に駆られるのでしょう」とハーディング準教授は述べた。

タイから発表した論文数は、2012年の1万2,400報から2022年には2万7,500件へと2倍以上に増えた。このように、研究成果はこの10年間で大きく増えたが、研究費はほとんど増えていない。「研究者たちは研究に必要な資金を得るのに苦労している」とハーディング準教授は指摘した。

チェンマイ大学(Chiang Mai University)のピンケウ・ラウンガラムシ準教授(Pinkaew Laungaramsri、専門は社会学、写真出典)もハーディング準教授の意見に同意し、次のように述べた。

「「出版か死か(Publish or Perish)」の学術界で、タイの大学の研究者にとって、論文出版は生き残るための唯一の手段となっています。昇給も含め、すべては、スコーパス(Scopus)に索引付けされた学術誌に、論文を出版することなのです。この狂ったシステムは裏目に出てしまいました。論文詐欺の増大を招いてしまったのです」。

チュラロンコン大学(Chulalongkorn University)・政治科学部のパンディット・チャンロチャナキット教授(Pandit Chanrochanakit、写真出典)は、一部の大学では新任教員全員に、さらに、一部の院生に、スコーパス(Scopus)学術誌への論文出版を義務付け、問題をさらに悪化させていると述べた。

「私たちは薄給なのに、さらに余分な任務を課され、過酷な状況下で研究している。研究者は論文出版の目標を達成しなければならないという重圧にさらされています」と付け加えた。

★出版報奨金

チャンロチャナキット教授は、「システムを破壊しているのは出版報奨金制度です」と指摘した。

研究者が論文を出版すると出版報奨金を受け取れる。通常は論文を1本出版すると、25,000バーツ~250,000バーツ(約10万円~100万円)もらえる、と述べた。

この出版報奨金の本来の意図は、国際学術誌に論文を出版することで、タイの大学の国際的知名度を高めることだった。

それが、副作用として捕食学術誌に餌を与える結果につながった。

とにかく論文を出版しなければならので、研究者は論文代行・購入にはしっている。

出版報奨金制度が学術詐欺をはびこらせる環境を作った、とチャンロチャナキット教授は批判した。

「出版論文数だけで評価するシステムは、あらゆる研究分野の研究倫理を完全に破壊しています」、とチャンロチャナキット教授は加えた。

★学術詐欺集団

同じチュラロンコン大学(Chulalongkorn University)・政治科学部のヴィエングラート・ネティポ準教授(Viengrat Nethipo、写真出典)は、「論文工場・論文売買」は地域全体の研究者のネットワークが関与していることが多いと述べた。

「論文工場・論文売買」組織は、タイの大学教員だけでなく他のアジア諸国の多数の大学教員が関与している。

「タイの大学教員も100人以上関与していますが、大半は中国とベトナムの大学教員です。彼らは、論文工場で作ったすべての論文が確実に売れるために、確実に出版され、確実に引用もされるように、交代で著者・査読者・編集者になっています。ただし、彼らは実際はまともな執筆・査読・編集をしていません」とネティポ準教授は指摘した。

多くの場合、大学上層部はこの問題を知っているが、問題を解決しようとしない。

「売春、麻薬、人身売買など、タイの他の多くの悪行と同様、権力者はこれらの組織から利益を得ているので、問題を解決するつもりはないのです」とネティポ準教授は述べた。

●7.【白楽の感想】

《1》論文購入に刑事罰 

白楽はタイの研究不正事情をあまり知らなかったので、タイ政府が論文代行・購入に刑事罰を科していることに驚いた。

研究者が業績詐称のために研究論文を論文代行・購入した場合、高等教育法(Tertiary Education Act)に基づき、最長3年の懲役、60,000バーツ(約25万円)以下の罰金、またはその両方が科せられる。

一般に、厳格な処罰を科すことで不正や犯罪を抑制できる。学術上の不正も同様なので、日本もタイに導入されている刑事罰を見習ったらどうかと思った。

なお、白楽は、タイ社会での大学教員の地位、研究公正文化を十分把握していない。ただ、タイ出身者が欧米でネカト事件を起こしたケースは少ない。

2024年3月5日現在、「生命科学」(米国)で研究不正事件を起こした772人の内、中国育ちは38人いたが、タイ育ちは0人だった。ちなみに、日本育ちは17人もいた。 → 生命科学のネカト・クログレイ事件一覧(世界) | 白楽の研究者倫理

タイ人研究者の研究公正観は高い。

https://m.facebook.com/RIT2019/

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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