ブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman)(米)

2017年8月4日掲載。

ワンポイント:2017年6月19日、研究公正局はNIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所)のポスドク(女性、32歳?)の「2016年のPLoS One」論文がねつ造・改ざんだったと発表した。処分期間は3年である。損害額の総額(推定)は1億8200万円。

【追記】研究公正局は、前回(2017年6月19日報告)の調査が不十分だったため、2018年4月5日に、ボーマンに対する2回目のクロ報告をした。2回目の発表は研究公正局として初めてのケース。処分期間は2年間だが、前回の処分期間前に終了するので増えない。
→ ① 2018年4月5日、研究公正局の報告:Case Summary: Baughman, Brandi M. | ORI – The Office of Research Integrity。② 2018年4月5日、アリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:In what appears to be a first, researcher sanctioned twice by ORI – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman、写真出典)は、米国のNIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所、National Institute of Environmental Health Sciences)・ポスドクで、ボスはスティーブン・シアーズ(Stephen B. Shears)、専門は細胞生物学(細胞情報伝達)だった。

2016年(31歳?)、追及者は不明だが(白楽の推察では同じ研究室の人)、公益通報により「2016年のPLoS One」論文のねつ造・改ざんが発覚した。

2017年6月19日(32歳?)、研究公正局は、ボーマンにねつ造・改ざんがあったと発表した。ボーマンは処分期間3年に調停合意した。

米国のNIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所、National Institute of Environmental Health Sciences)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:テネシー健康科学大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2007年の大学卒業時を22歳とした
  • 現在の年齢:39 歳?
  • 分野:細胞生物学
  • 最初の不正論文発表:2016年(31歳?)
  • 発覚年:2016年(31歳?)
  • 発覚時地位:NIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所)・ポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)(白楽の推察では同じ研究室の人)の研究公正局への公益通報
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①研究公正局。~2017年6月19日
  • 調査報告書のウェブ上での公表:あり
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:論文1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は1億8200万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が4年間=8千万円。⑤調査経費(研究公正局と学術誌出版局)が5千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。
  • 結末:辞職(解雇?)。3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2007年の大学卒業時を22歳とした
  • 2007年(22歳?):オハイオ州の名門大学・ウースター大学(College of Wooster)・化学科を卒業
  • 2008-2012年(23-27歳?):テネシー健康科学大学(University of Tennessee Health Science Center)で研究博士号(PhD)を取得した。指導教授はトーマス・ウェッブ(Thomas R. Webb、写真出典)。
  • 20xx年(xx歳):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)・ポスドク
  • 20xx年(xx歳):NIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所、National Institute of Environmental Health Sciences)・ポスドク
  • 2016年(31歳?):「2016年のPLoS One」論文のねつ造・改ざんが発覚した
  • 2016年(31歳):NIH・NIEHS・ポスドクを辞職(解雇?)
  • 2017年6月19日(32歳?):研究公正局は、ボーマンにねつ造・改ざんがあったと発表した。
  • 2017年11月2日(32歳?):求職:Project Professional Experience resume in Durham, NC, 27707 – November 2017
  • 2018年4月5日(33歳?):研究公正局は、ボーマンにねつ造・改ざんがあったと、2回目の発表をした。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

ブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman) は、2007年(22歳?)、オハイオ州の名門大学・ウースター大学(College of Wooster)・化学科を卒業した。サラ・ソーベック研究室(Sarah J. Sobeck)で卒論をした(PDF)。

2012年(27歳?)、テネシー健康科学大学(University of Tennessee Health Science Center)で研究博士号(PhD)を取得した。

ノースカロライナ大学チャペルヒル校でのポスドクを経て、NIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所、National Institute of Environmental Health Sciences)のポスドクになった。ボスはスティーブン・シアーズ(Stephen B. Shears)だった。

ブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman)(Photo courtesy of Steve McCaw)。写真出典

ネカト発覚の経緯はわからないが、以下の【ねつ造・改ざんの具体例】で述べるように、第三者が指摘できるハズがないデータねつ造・改ざんの指摘である。同じ研究室の研究者またはボスのスティーブン・シアーズ(Stephen B. Shears)が通報者だと思われる。

【ねつ造・改ざんの具体例】

2017年6月19日(32歳?)、研究公正局は、ボーマンの「2016年のPLoS One」論文の11個の図(図2, 3, 4, 5, 6, 8, S1, S2, S3, S4, S5)にねつ造・改ざんがあったと発表した。

「2016年のPLoS One」論文の書誌情報を以下に示す。2017年6月21日に撤回されていた。

★図2

図2のどの部分がどのように不正だったのか、具体的に見てみよう。

研究公正局の説明では、図2の「Z’-factor、%CV、シグナルとバックグラウンド比、阻害剤UNC10225354の量反応滴定実験の10点の測定値」がねつ造・改ざんだとある。

以下の図の出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5063353/figure/pone.0164378.g002/

ねつ造・改ざんと指摘された「Z’-factor」は図2C、「%CV」は図2D、「シグナルとバックグラウンド比」は図2E、「阻害剤UNC10225354の量反応滴定実験の10点の測定値」は図2Fに相当する。

つまり、図2の6個の小図の内、4個の小図がねつ造・改ざんである。ただし、これらは数値なので、グラフを見ても第三者にはどこがねつ造・改ざんなのかわからない。

そして、元データとの比較や説明がないから、どのようにねつ造・改ざんされているのかもわからない。

なお、図3も同様な図で、同様にねつ造・改ざんされたと記載されている。

★図6

図6のどの部分がどのように不正だったのか、具体的に見てみよう。

研究公正局の説明では、図6の「UNC10112646およびUNC10225498によるPPIP5Kの阻害のメカニズムの分析」がねつ造・改ざんだとある。以下の図の出典:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5063353/figure/pone.0164378.g006/

図6は測定値をグラフにした図なので、グラフを見ていても第三者には「どこ」が「どのように」ねつ造・改ざんなのかわからない。

一般的に、測定値のデータねつ造・改ざんは、第三者にはわからない。つまり、ネカトと指摘した人は同じ研究室の研究者だと思われる。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2017年8月3日現在、パブメド(PubMed)で、ブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman)の論文を「Brandi M. Baughman [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2017年の11年間の12論文がヒットした。内、1論文は撤回公告なので実質11論文である。

2017年8月3日現在、1論文が撤回されていた。具体的には、「2016年のPLoS One」論文が2017年6月21日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2017年8月3日現在、「パブピア(PubPeer)」ではブランディ・ボーマン(Brandi M. Baughman)の「2016年のPLoS One」論文に内容上のコメントはない。論文撤回されたことと研究公正局でクロと判定されたことがコメントされている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》余罪

「2016年のPLoS One」論文は、ブランディ・ボーマンが31歳の時に出版した論文である。その若さでネカトをしているのだから、それ以前からネカトをしてきたと思われる。

大学院生時代あるいは研究初期に、研究規範を習得できていないということだ。

ブランディ・ボーマンの場合、NIH・NIEHS(国立環境健康科学研究所)から発表した「2016年のPLoS One」論文だけが調査され、ねつ造・改ざんがあったとされた。

それで十分だろうか?

院生として過ごしたテネシー健康科学大学での2論文と博士論文、NIH・NIEHSのポスドク以前にポスドクだったノースカロライナ大学チャペルヒル校での5論文でも、ねつ造・改ざんしている可能性がかなり高い。調査すべきだろう。

《2》研究公正局はまだ生きている?

米国の研究公正局は、2017年6月19日にブランディ・ボーマン事件を発表したが、それ以前の9か月間、事件の発表がなかった。それ以外にも「研究公正局が崩壊している」と思えるフシがあり、白楽は心配(白楽が心配しても意味ないんですけど)していた。
→ 1‐3‐3.米国の研究ネカト問題 | 研究倫理(ネカト)

ブランディ・ボーマン事件を発表した10日後、2017年6月29日、フランク・ザウアー(Frank Sauer)のネカトを発表した。この2つの事件発表で、研究公正局は再建しつつあると受け取っていいのだろうか?

イヤイヤ、かつて研究公正局で働いていた人「RetiredRIO」が、ブランディ・ボーマン事件のコメント欄に「研究公正局は死んでいる(ORI is dead now dead)」と2017年6月19日に書いている。

1つ2つ事件の発表で、研究公正局の再起を期待するのは甘いかもしれない。

ただ、ブランディ・ボーマン事件の調査と発表は迅速だった。

ブランディ・ボーマンがねつ造・改ざんした「2016年のPLoS One」論文は、2016年10月に出版されている。

ネカトの発表が2017年6月19日なので、論文出版から9か月で、ネカトを受理し、調査を終え、発表したことになる。ブランディ・ボーマンはNIHの研究者なので、調査は大学ではなく、研究公正局が直接行なった。

従来、研究公正局はグズ・ノロと批判されてきたが、今回の事件はソコソコ迅速だった。エライ!

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●8.【主要情報源】

① 2017年6月19日、研究公正局の報告:(1)Case Summary: Baughman, Brandi | ORI – The Office of Research Integrity、(2)82 FR 28078 – Findings of Research Misconduct
② 2017年6月19日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:NIH researcher doctored 11 figures in 2016 paper, says ORI – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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