2025年2月10日掲載
白楽の意図:引用不正を含めた論文出版不正は、ネカトとは範疇が異なるが、研究上の大きな不正行為である。論文出版不正が世界の論文出版界を席巻しているのに、国際的にも各国にも取り締まる組織(と規則)がない。それで、不正者はやり放題である。クラリベイト社(Clarivate)は、問題学術誌をインパクトファクター算出から除外することで対処しているというドーン・アトライド(Dawn Attride)らの「2024年6月のRetraction Watch」論文を読んだので、紹介しよう。この事件は、2024年ネカト世界ランキングの「撤回監視」の「第5位」である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
2.アトライドらの「2024年6月のRetraction Watch」論文
7.白楽の感想
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。
記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。
研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。
●2.【アトライドらの「2024年6月のRetraction Watch」論文】
★読んだ論文
- 論文名:Seventeen journals lose impact factors for suspected citation manipulation
日本語訳:17学術誌は引用操作の疑いでインパクトファクターを失う - 著者:Dawn Attride and Avery Orrall
- 掲載誌・巻・ページ:Retraction Watch
- 発行年月日:2024年6月27日
- ウェブサイト:https://retractionwatch.com/2024/06/27/seventeen-journals-lose-impact-factors-for-suspected-citation-manipulation/
1人目の著者の紹介:ドーン・アトライド(Dawn Attride、写真と経歴の出典)。
学歴:2023年にアイルランドのトリニティ・カレッジ・ダブリン(Trinity College Dublin)で学士号(微生物学など応用科学)、2024年12月に米国のニューヨーク大学(New York University)で修士号(科学・健康・環境報道)。
分野:科学ジャーナリズム。
論文出版時の所属・地位:2024年5月~2024年8月、撤回監視・インターンシップの記者(Reporter Retraction Watch)2人目の著者の紹介:エイブリー・オラル(Avery Orrall)、写真と経歴の出典)。
学歴:2020年5月に米国のニューヨーク大学(New York University)で学士号(英語と米国文学微)。
分野:科学ジャーナリズム。
論文出版時の所属・地位:2024年5月、撤回監視・編集者(Retraction Watch、Newsletter Editor)
●【論文内容】
★インパクトファクター
クラリベイト社(Clarivate)は、学術誌の評価として、その学術誌に掲載した論文が何回引用されたかという数値を算出した指標・インパクトファクター(Journal Impact Factors)を算出している。 → インパクトファクター – Wikipedia
学術界はインパクトファクターが高いほど重要な学術誌だと、ほぼ、認定している。
それで、多くの大学・研究機関は、論文の質ではなく、論文を出版した学術誌の質を評価することでその研究者の業績を評価している。その指標としてインパクトファクターを使っている。
というわけで、クラリベイト社にインパクトファクターを算出してもらえない学術誌は、まともな学術誌とみなされない。
だから、学術誌にとって、インパクトファクターを算出してもらえるかどうかは死活問題である。つまり、除外されると、学術誌への評価は急速に落ちる。評価が落ちれば、投稿数は減少する。収入は減る。
なお、インパクトファクターで研究者を評価するのは問題だとも指摘されている。 → 2016年7月14日記事:With new owner, the hated ‘impact factor’ is overdue for change
2023年、クラリベイト社は4誌の学術誌をインパクトファクター算出から除外した。理由は査読不正である。1誌は自己引用(self-citation)、3誌は引用カルテル(citation cartels、引用リング(citation rings))だった。 → 2023年6月28日記事:“Truly devastating”: Four journals won’t get new Impact Factors this year because of citation shenanigans – Retraction Watch
そして、2024年、17誌の学術誌をインパクトファクター算出から除外した。 → Title Suppressions
2024年に除外された学術誌が17誌と増えたのは、2024年の「Journal Citation Reports」に「Emerging Sources Citation Index (ESCI)」と「Arts and Humanities Citation Index (AHCI)」から7,200誌を加えたことも一因だと、クラリベイト社の広報担当者は述べている。
ここ5年間の除外学術誌数を以下に示しておく。
2020年:33誌
2021年:10誌
2022年:3誌
2023年:3誌
2024年:17誌
★17の学術誌
クラリベイト社の広報担当者は、「学術誌が掲載した論文に過剰な自己引用(self-citation)や相互引用(相互スタッキング、citation stacking、複数の学術誌の関与を含む)などの異常引用(anomalous citation)があると、その学術誌を除外します。なお、異常引用する動機を推測したり、異常引用を非難したりはしていません」、と撤回監視(Retraction Watch)に述べている。
【除外された学術誌1:Climate Change Economics】
除外された学術誌の1つ『Climate Change Economics』(日本語訳:気候変動経済学)のロバート・メンデルソーン編集長(Robert Mendelsohn、イェール・教授、写真出典)は、インパクトファクターの算出されていない学術誌『Environmental Science & Pollution Research』(日本語訳:環境科学と公害研究)からの引用が多すぎたために除外された、と述べた。
さらに、ロバート・メンデルソーン編集長は次のように述べている。
クラリベイト社は、『Climate Change Economics』は経済誌としては普通ではないので、疑わしいと判断しました。
私たちの学術誌は経済学の学術誌ですが、気候変動に焦点を当てていること、そして、経済学の研究を自然科学に結び付けることが重要だと説明しました。それで、経済学の学術誌ですが、なぜ多くの著者が自然科学の論文を引用するのかを説明しました。
しかし、クラリベイト社はそれを理解しないようでした。私たちがやり方を変えるために1年間の猶予をくれました。
しかし、私たちは、自然科学に結び付けた経済学の研究を定着させ続けることが重要だと考えていますので、引用ポリシーは変更しません。
シュプリンガー社の広報担当者は、クラリベイト社がJournal Citation Reportsから『Climate Change Economics』を除外したことに失望し、クラリベイト社の懸念を調査していると述べた。
【除外された学術誌2:Ukranian Journal for Physical Optics】
除外された学術誌の1つ『Ukranian Journal for Physical Optics』(日本語訳:物理光学のウクライナ学術誌)のロスティスラフ・ヴロック編集長(Rostyslav Vlokh、ウクライナの物理光学研究所・所長、写真出典)は、「2023年の『Ukranian Journal for Physical Optics』は学術誌『Optik』からの引用数が異常に多かった(46%)ためである」と述べた。
ただ、彼の学術誌『Ukranian Journal for Physical Optics』は学術誌『Optik』の編集作業を支配していないと、引用不正を否定した。
さらに、ヴロック編集長は次のように述べた。
「相互引用(相互スタッキング、citation stacking)を指示していないが、相互引用していないと証明できないし、否定もできない。というのは、多くの著者が独自に学術誌『Optik』の論文を多数引用した結果、そうなっただけです」と述べ、クラリベイト社の意思決定は「少し性急だ」と批判した。
【除外された学術誌3:Activities, Adaptation & Aging】
【除外された学術誌4:Resources Policy】
【除外された学術誌5:Cuadernos De Economía】
【除外された学術誌6:Library Hi Tech (Emerald Insight)】
上記4誌の対応も記載されているが、白楽が省略した。
以下の8誌は撤回監視(Retraction Watch)の問い合わせに何も返事をしてこなかった。
1. Granular Computing
2. Information Sciences
3. Engineering, Technology & Applied Science Research
4. Exploratory Animal and Medical Research
5. Regional Statistics (Hungarian Central Statistical Office)
6. SOCAR Proceedings (“OilGasScientificResearchProject” Institute of State Oil Company of Azerbaijan Republic (SOCAR))
7. Panminerva Medica, Minerva Medica, and Gazzetta Medica Italiana Archivo Per Le Scienze Mediche (Edizioni Minerva Medica)
8. Annals Of Financial Economics (World Scientific Publishing)
以上を合計すると14誌である。
撤回監視(Retraction Watch)は14誌の反応しか記載していないが、17誌が削除されたはずだ。残り3誌はどうしたんだろう? ← ココは白楽の疑問です。
●7.【白楽の感想】
《1》なんで?
この事件は、2024年、ラリベイト社(Clarivate)が17誌の学術誌のインパクトファクターを算出しないとした事件である。
インパクトファクターが算出される学術誌は約12,000誌(不正確かも)もある。
2024年に初めてインパクトファクター算出に組み込んだ学術誌は544誌もある。 → First Time Journal Citation Reports Inclusion List 2024
約12,000誌(不正確かも)もある学術誌の中で、たった17誌である。2020年には33誌も除外されている。2024年の17誌除外は、ランキング入りにするほど重要な事件とは思えない。
ところが、「撤回監視」は2024年ネカト世界ランキングの「第5位」にした。
なんで?
《2》法的規制
論文出版不正が世界の論文出版界を席巻しているのに、各国にも国際的にも法的規制をしていない。
各国の膨大な研究費(税金)が、どんどん、デタラメ論文業者に流れ込んでいる。
取り締まる組織(と規則)を早急に作り、摘発していかないと、学術文献体系に深く浸潤してしまう。
もう遅い?
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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