7-99 大学は不正行為の隠蔽を止めよ!

2022年4月5日掲載 

白楽の意図:英国、米国、カナダなどの大学教員は、横領、性不正、アカハラ、差別、研究不正、その他多くの不正行為を働いても、大学は評判を気にして、申立て者に守秘義務契約(NDA)を科し、不正行為に関する発言を禁止している。悪徳教員は保護され、のうのうと別の大学に移籍する。守秘義務契約(NDA)の使用廃止を訴えたジュリー・マクファーレン名誉殊勲教授(Julie Macfarlane)の「2022年1月のTimes Higher Education」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。

研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読むべし。

●1.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

  • 単著者:ジュリー・マクファーレン(Julie Macfarlane)
  • 紹介:ウィンザー大学の名誉殊勲教授で、ゼルダ・パーキンス(Zelda Perkins)と共同で、守秘義務契約(NDA: Non-disclosure agreements)を禁止する「沈黙は買えない(Can’t Buy My Silence )」キャンペーンを創設した
  • 写真出典: https://www.uwindsor.ca/law/tags/julie-macfarlane?page=1
  • ORCID iD:
  • 履歴:
  • 国:カナダ
  • 生年月日:現在の年齢:65 歳?
  • 学歴:1979年に英国のダラム大学(Durham University)で学士号(xx学)、1998年に研究博士号(PhD)取得
  • 分野:法学
  • 論文出版時の所属・地位:ウィンザー大学の名誉殊勲教授(emerita distinguished university professor at the University of Windsor)

ウィンザー大学(University of Windsor)。写真出典

●2.【日本語の予備解説】

7-98 守秘義務契約の使用廃止:英国の大学 | 白楽の研究者倫理

白楽の意図:性不正、アカハラ、その他の嫌がらせの申立てを受けた際、英国の大学の3分の1は、申立て者の口封じのために、申立て者に守秘義務契約を強要していた。英国政府はその契約を使用しない方向に舵を切ったミシェル・ドネラン高等教育大臣(Michelle Donelan)の「2022年1月のGOV.UK」論文を読んだので、紹介しよう

★守秘義務契約(Non-Disclosure Agreements (NDAs))

出典 → 秘密保持契約 – Wikipedia

以下、つまみ食い的に引用。

秘密保持契約(ひみつほじけいやく、(non-disclosure agreement、略称: NDA)とは、ある取引を行う際などに、人の間(法人や自然人)で締結する、営業秘密や個人情報など業務に関して知った秘密(すでに公開済みのものや独自にないし別ソースから入手されたものなどを除外することが多い。)を第三者(当該取引に関連する関連会社や弁護士、公認会計士などを除外することが多い。)に開示しない(行政庁や裁判所の要求する場合、その他法律上開示義務がある場合などが除外されることが多い。)とする契約。機密保持契約、守秘義務契約ともいう。

一般に、被雇用者には業務上知り得た情報について守秘義務が課されると解されているが、雇用契約の際に雇用契約書内に守秘義務規定を明記しておく、または別に守秘義務の履行を確約させる目的で誓約書を取り交わす場合もある。

法律で定められた守秘義務とは異なり、契約上の義務である。

●3.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

★ドネラン誓約(Donelan’s pledge)

2022年1月18日、英国政府のミシェル・ドネラン高等教育大臣(Michelle Donelan)は、学内で起こった不正行為を、英国の大学が、守秘義務契約(NDAs:Non-Disclosure Agreements)で隠蔽してきたのを廃止させると発表した。 → 2022年1月18日:Universities pledge to end use of non-disclosure agreements – GOV.UK

セクハラ被害者に守秘義務契約(NDA)で黙らせ、セクハラ加害教員であることを知らない大学に、ババ抜きのように、加害教員を移籍させた例がたくさんある。

大学は、不正行為を発見しても、加害教員を解雇しない。守秘義務契約(NDA)を使うことで、加害教員の不正行為を隠蔽し、被害学生・教職員が学内外の人々に情報公開できないようにしてきた。その結果、加害教員は処罰を受けないことが多かった。

一部の大学は、申立ての処理を開始する時に、先制的に守秘義務契約(NDA)を要求した。この場合、通常、その後、被害者は大学の調査にまったく関与できない状態になる。被害者抜きで、大学は加害者と直接、取引・交渉してきた。

多くの大学では、加害者に対して大学はどのよう処分したか、申立人は大学の最終決定を確認できない。

申立人が被害を受けた当事者の場合、「自分自身を守る」ために守秘義務契約(NDA)に「署名しなければならない」と言われる。これは不正確で、ウソである。

守秘義務契約(NDA)に署名することで、彼らを傷つけた加害者を保護することにつながる。しかし、彼らを傷つけた加害者を保護する義務は被害者にはない。

ドネラン高等教育大臣が大学に守秘義務契約(NDA)の使用をやめるよう求めるのは、セクハラに限定されない。これは、当然である。

横領、性不正、アカハラ、差別、研究不正、その他多くの不正行為を犯した者が守秘義務契約(NDA)で保護されてきたのを見てきたが、この慣行は、英国だけでなく、カナダ、米国、そしておそらく他の多くの国でも実施されている悪しき慣行だ。しかし、ようやく、流れが変わろうとしている。

★「沈黙は買えない(Can’t Buy My Silence )」

ゼルダ・パーキンス(Zelda Perkins、画像はGettyの無料非商用使用)は、米国の映画プロデューサーの性不正者のハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)との守秘義務契約(NDA)を最初に破った女性である。
Embed from Getty Images

マクファーレン教授は、ゼルダ・パーキンス(Zelda Perkins)と共同で、守秘義務契約(NDA: Non-disclosure agreements)を禁止する世界的なキャンペーン「沈黙は買えない(Can’t Buy My Silence)」(ロゴ出典)を創設した。

白楽注:「Can’t Buy My Silence」をどう日本語にするとよいのか? 多分、ビートルズの名曲「Can’t buy me love」をもじっていると読んだ。「Can’t buy me love」は日本語で「キャント・バイ・ミー・ラヴ」と訳されている。

タイトルを直訳すると「(お金は)私に愛を買い与える事ができない」→こなれた感じにすると「(お金じゃ) 愛は買えない」となります(出典:<歌詞和訳>Can’t Buy Me Love – The Beatles 曲の解説と意味も | LyricList (りりっくりすと)。とある。「 愛は買えない」をもじって「沈黙は買えない」とした。

マクファーレン教授たちは性不正や研究不正に守秘義務契約(NDA)を適用しない法律の制定を要望している。アイルランド共和国、イングランド、ウェールズで制定検討中です。カナダのプリンスエドワードアイランド州(Prince Edward Island)ではすでに制定され、カナダの他の3つの州の議員が制定を検討している。

世論の反応は素晴らしいほど大きく、守秘義務契約(NDA)に署名したことで自分が受けた苦しい経験を多くの勇敢な個人が公表している。

2022年4月4日現在57人が自分の経験を公表しているが、全員、トラウマを抱え恐怖の下で生きてきた。

守秘義務契約(NDA)は、家族、友人、プロのセラピストにも話すことを禁止している。自分自身以外の誰にも相談できない・話せない。このことは地獄の苦しみである。

★守秘義務契約(NDA)の普及は広範

英国のデータ協力組織である「堂々発言革命(Speak Out Revolution )は、職場でのハラスメントやいじめを報告した人から調査データを収集している。

その調査データによると、教育分野の回答者の3分の1以上は守秘義務契約(NDA)に署名しなければならなかったと回答した。別途14%は「法的な理由で発言できなかった」と回答した。合わせて、守秘義務を科された申立人の合計は50%に及んだが、その95%は守秘義務契約(NDA)が彼(女)らの精神を蝕んだと回答した。

★大学教員はすべての学生を危害から守る責任がある

著者のマクファーレン教授は英国とカナダの両方で、大学教員として40年間働いてきた。その間、多くの前向きな改善を見てきた。

しかし、教員の不正行為に対して、現在も、大学は守秘義務契約(NDA)を使って被害者を黙らせるという陰湿な仕打ちを続けている。

マクファーレン教授は、この点を改善することが、残された重要な責務だと感じている。

マクファーレン教授は、当時所属していた大学と解雇された教員との紛争に巻き込まれたことがある。その時の紛争は、大学が関係者(含・マクファーレン教授)に守秘義務契約(NDA)を科したために起こった。

解雇された教員は他大学に移籍しようとした。移籍予定先の大学から、マクファーレン教授は、彼の信用照会を求められた。この時、マクファーレン教授は、守秘義務契約(NDA)を破って、嘘をつくことを拒否した。

教育者なら、自大学だけでなく移籍先の大学の学生に起こりうる危害から学生を守る責任があることは、当然で、これは根本的に明白な教育者の規範である。そしてこの場合、マクファーレン教授は、解雇された教員の危険性について多くのことを知っていた。

すべての大学教員は、学生、学生の保護者、将来の学生に対して、この責務を負っている。この責務は決して破棄できない。だからこそ、大学教員への信頼がある。

高等教育界は、互いに競争している各大学の単なる集合体ではない。「オープン、議論、学習」という価値観を共有するより広いコミュニティの一部である。

マクファーレン教授は、次のように述べた。

私の同僚は私と同じ学部にいる教員という存在だけではありません。各大学の教員はお互いに、教員の真実を伝え、そのことに透明でなければなりません。

教員が犯した不正行為の詳細をその大学が故意に隠すことは間違っています。

ところが、私の大学の経営陣は、元教員が嫌がらせで解雇された後、彼への詳細な申立て記録を消去しただけでなく、彼に推薦状を与えました。

守秘義務契約(NDA)は、高等教育界に深く根付いた隠蔽文化の一部です。

私たちは皆、不正行為の開示、被害者・関係者の発言、透明性の重要性を知っています。

そして、告発や発言をすると、おかしなことに、報復されるという代償がある。

この代償は、多くの場合、大学で最も脆弱で無力なグループ、つまり、学生たちにとって深刻です。学生は、守秘義務契約(NDA)に署名するよう求められ、署名すると孤立することを知っています。それで、被害にあっているのに、被害を申立てません。

被害にあう多くの学生は、これからキャリアを構築していく若者です。不正を隠し、他人の不正を通報しないことが、人間として正しい道徳的選択であると大学に躾けられるわけです。

しかし、不正を隠し、他人の不正を通報しないことは、正しい道徳的選択でしょうか? 正しいわけがありません。悪弊です。

大学は若い人たちの人間形成に決定的です。

大学という組織は規範を示す社会的リーダーでもあるので、優れた説明責任と開放性(accountability and openness)の基準を設定・実施する必要があります。その基準は、他大学、そして、学生が就職した企業が見習うような基準です。

守秘義務契約(NDA)を放棄しない大学は、社会的リーダーとは思えません。

ドネラン誓約(Donelan’s pledge)は、大学が有害な慣行を拒否し、変化に対して前向きな決定を下すことができるということを示しました。

ご自分の大学がドネラン誓約に署名するよう、あなた自身の大学に働きかけて下さい。

●4.【関連情報】

  • 「2022年のAccountability in Research」論文(閲覧有料)が大学・研究機関側の不正行為を指摘している(以下)。

「研究機関側の不正行為:それは何? それはどのくらい普及? そして、私たちはどうすべき?」Misconduct in research administration: What is it? How widespread is it? And what should we do about it?
 Accountability in Research, Published online: 06 Jan 2022
Jason Scott Robert (2022) 
 DOI: 10.1080/08989621.2021.2020110

論文閲覧が有料なので、以下は要約から。

ネカト・クログレイに関するほぼすべての論文は、研究者の不正行為について、その理由、改善、防止、規制の強化など、研究者に焦点を当てている。
焦点を当てれていないのは、大学・研究機関側の不正行為である。 この論文は、大学・研究機関側の不正行為について論じる。
私は、大学・研究機関の研究管理における公正欠如が、研究者のネカト・クログレイと同じように、科学の進歩、研究者のキャリア、大学・研究機関の評判を危険にさらていることを強く指摘したい。
従って、私は、研究者の研究不正を管理・監視・処分するのと同じように、大学・研究機関の研究管理における不正を管理・監視・処分することを求める。

●5.【白楽の感想】

《1》大学の隠蔽体質 

後半の文章はココから流用した → 7-98 守秘義務契約の使用廃止:英国の大学 | 白楽の研究者倫理

米国の研究者倫理事件で、加害者の教員が大学と和解し、他大学に移籍するケースを何度も見てきた。そして、大学はその和解内容を公表しないし、関係者の誰も公表しない。ただ、リークはソコソコある。

欧米の性的暴行事件やアカハラ事件ではこのような和解ケースが多い気がするが、米国のネカト事件でもソコソコあった(把握したので1割? 実際はもっと多い?)。

情報公開法で調査報告書の開示を求めても、拒否される、または、クロ塗り書類が送られてくる。

著者のジュリー・マクファーレン名誉殊勲教授(Julie Macfarlane、写真出典)は、横領、性不正、アカハラ、差別、研究不正、その他多くの不正行為を働いた悪徳教員が守秘義務契約(NDA)で保護されてきたのを見てきた、とある。

大学は、評判を恐れ、この慣行を続けている。

日本の大学には守秘義務契約(Non-Disclosure Agreements (NDAs))はないと思う。少なくとも、守秘義務契約「書」はない。

しかし、実際は、かん口令が布かれ、書類は無くても、契約はある。

日本は言葉では「説明責任と透明性(accountability and transparency)」は重要だと言いながら、現実の対応は真逆である。

大学の性不正事件では、悪事を働いた加害者を匿名にし、「被」害者よりも「加」害者を守る事に熱心である。

日本の大学に、学内から性不正、アカハラ、研究不正を排除する本気度をまるで感じない。これらの悪事を本気で排除する施策・実行は全くない。被害を申立てられると、その都度、対処するだけである。加害教員は特定されないように匿名で保護され、処分は停職が多く、素知らぬ顔で復職できる。

ネカト排除の改善をしてこないので研究不正大国のままだが、同じように考えると、いずれ、性不正大国・アカハラ大国になるのではないかと心配している。ウン? もうなっている?

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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