ファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)(中国)

2019年8月31日掲載 

ワンポイント:パキスタン人のウッラは、2018年(30歳)、中国の南京農業大学(Nanjing Agricultural University)・博士院生の時、2月に出版した「2018年2月のFood Sci Nutr」論文が、9月に盗用という理由で撤回された。もう1論文が盗用という理由で2018年に撤回されている。しかし、2018年末(30歳)、南京農業大学で研究博士号(PhD)を取得できた。2019年、パキスタンに帰国し、パキスタン農業大学(The University of Agriculture, Pakistan)の研究員になった。南京農業大学は調査していないと思う。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。ファヒム・ウッラ事件は、「2018年ネカト世界ランキング」の「3」の5番目の事件である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.白楽の手紙
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ファヒム・ウッラ(Fahim Ullah、ORCID iD:http://orcid.org/0000-0002-3689-8743、写真出典)は、パキスタン生まれ育ちで、パキスタンのシャーワル農業大学で修士号を取得してから、中国の南京農業大学(Nanjing Agricultural University)・博士院生になった。専門は農学(環境と作物)である。

2018年2月(30歳)、「2018年2月のFood Sci Nutr」論文を出版した。

2018年9月(30歳)、「2018年2月のFood Sci Nutr」論文が盗用で撤回された。

2018年12月29日(30歳)、しかし、南京農業大学はウッラに研究博士号(PhD)を授与した。

南京農業大学はネカト調査をしていないと思われる。

2019年x月x日(31歳?)、パキスタンに帰国し、パキスタン農業大学(The University of Agriculture, Pakistan)の研究員になった。

撤回された「2018年2月のFood Sci Nutr」論文は、被盗用論文中のショウガ(ginger)をアスパラガス(asparagus)に変えただけで、他人のショウガ(ginger)論文を自分のアスパラガス(asparagus)論文として出版した、という単純で見事な盗用である。

ファヒム・ウッラ事件は、「2018年ネカト世界ランキング」の「3」の5番目の事件となった。

南京農業大学(Nanjing Agricultural University)。写真出典

  • 国:中国
  • 成長国:パキスタン
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:南京農業大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1988年1月11日
  • 現在の年齢:36 歳
  • 分野:農学
  • 最初の不正論文発表:2018年(30歳)
  • 不正論文発表:2018年(30歳)
  • 発覚年:2018年(30歳)
  • 発覚時地位:南京農業大学・院生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者のスニル・サンサニワル(Sunil K. Sansaniwal)で学術誌・編集部に伝えた。スニル・サンサニワルはインドのサルダール・スワランシン国立再生可能エネルギー研究所(Sardar Swaran Singh National Institute of Renewable Energy)の研究員である。
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②南京農業大学は調査していない(推定)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:発表なし(✖)。調査していない(推定)。
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:2報撤回
  • 盗用ページ率:ほぼ100%
  • 盗用文字率:ほぼ100%
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1988年1月11日:パキスタンで生まれる
  • 2010年(22歳):ペシャーワル農業大学(University of Agricultural University Peshawar)で学士号取得:農学
  • 2013年(25歳):同大学で修士号取得:農学
  • 2013年(25歳):同大学で講師
  • 2014-2018年(26-30歳):中国の南京農業大学(Nanjing Agricultural University)で研究博士号(PhD)を取得
  • 2018年2月(30歳):後で問題となる「2018年2月のFood Sci Nutr」論文を出版
  • 2018年2月(30歳):不正研究が発覚する
  • 2018年9月(30歳):「2018年2月のFood Sci Nutr」論文が盗用で撤回
  • 2019年(31歳):パキスタン農業大学(The University of Agriculture, Pakistan)・研究員

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★キャリア

ファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)は、パキスタン生まれ育ちで、パキスタンのペシャーワル農業大学で修士号を取得してから、中国の南京農業大学(Nanjing Agricultural University)・博士院生になった。

2018年2月(30歳)、「2018年2月のFood Sci Nutr」論文を出版した。

2018年9月(30歳)、「2018年2月のFood Sci Nutr」論文が盗用で撤回された。

2018年12月29日(30歳)、しかし、南京農業大学はウッラに研究博士号(PhD)を授与した。博士論文「果物の脱水と水の蒸留のためのソーラーコレクターの開発と実験的研究(DEVELOPMENT AND EXPERIMENTAL STUDY OF SOLAR COLLECTORS FOR THE DEHYDRATION OF FRUITS AND WATER DISTILLATION)」(2018年第三批授予博士学位人员公示-南京农业大学研究生院

南京農業大学はネカト調査をしていないと思われる。

2019年x月x日(31歳?)、パキスタンに帰国し、パキスタン農業大学(The University of Agriculture, Pakistan)の研究員になった。

★発覚の経緯

2018年2月21日(30歳)、「2018年2月のFood Sci Nutr」論文を出版した。

  • Experimentally investigated the asparagus (Asparagus officinalis L.) drying with flat-plate collector under the natural convection indirect solar dryer.
    Ullah F, Kang M, Khattak MK, Wahab S.
    Food Sci Nutr. 2018 Feb 21;6(6):1357. doi: 10.1002/fsn3.603

この論文は下記の「2015年のJournal of Mechanical Engineering and Sciences」論文の大規模な盗用だった。

  • Analysis of ginger drying inside a natural convection indirect solar dryer: An experimental study
    S. K. Sansaniwal and M. Kumar
    Journal of Mechanical Engineering and Sciences. 2015;9:1671-1685 DOI 10.15282/jmes.9.2015.13.0161

被盗用者のスニル・サンサニワル(Sunil K. Sansaniwal、写真出典)が気が付いて、学術誌・編集部に伝えた。スニル・サンサニワルはインドのサルダール・スワランシン国立再生可能エネルギー研究所(Sardar Swaran Singh National Institute of Renewable Energy)の研究員である。

2018年9月(30歳)、「2018年2月のFood Science & Nutrition」論文は盗用が理由で、著者のファヒム・ウッラも了解し撤回された。

なお、ファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)はもう1つの論文・「2018年のDesalination」論文が、2018年7月、盗用で撤回されていた。
 → RETRACTED: Performance analysis of solar water distillation cum drying unit with the assessment of Flat Plate Solar Collector – ScienceDirect

  • 盗用論文
    Performance analysis of solar water distillation cum drying unit with the assessment of Flat Plate Solar Collector
    Ullah F, Khattak MK, Kang M.
    Desalination, 438(Int. J. Eng. Sci. Technol. 19 1 2016), 1-9, 2018
    https://doi.org/10.1016/j.desal.2018.03.017

  • 被盗用論文
    Experimental investigation of a solar water distillation-cum-drying unit’ by Himanshu Manchanda & Mahesh Kumar (DOI: 10.1080/15435075.2016.1261706) published in International Journal of Green Energy, 2017, 14:4, 385-394

【盗用の具体例】

★盗用比較図

以下に盗用比較図を示す(原著論文から白楽が作成)。タイトルこそ違え、中身はほぼ全部同じなので、比較図と言っても、なんですが・・・。

以下は要旨部分である。左側がファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)の盗用論文で右が被盗用論文である。黄色部分が同じ、ピンク色はほとんど同じである。

白楽が下線を引いたが、ショウガ(ginger)をアスパラガス(asparagus)に変え、実験年月、実験大学を変えている。逐語盗用と加工盗用で、実質、100%の盗用率である。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2019年8月28日現在、パブメド(PubMed)で、ファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)の論文を「Fahim Ullah [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2005~2018年の14年間の10論文がヒットした。

「Ullah F[Author]」で検索すると、1995~2019年の25年間の184論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多いと思われる。

2019年8月28日現在、「Ullah F[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。本記事で問題にした「2018年2月のFood Sci Nutr」論文である。

  • Experimentally investigated the asparagus (Asparagus officinalis L.) drying with flat-plate collector under the natural convection indirect solar dryer.
    Ullah F, Kang M, Khattak MK, Wahab S.
    Food Sci Nutr. 2018 Feb 21;6(6):1357. doi: 10.1002/fsn3.603

★撤回論文データベース

2019年8月28日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)を検索すると、1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。本記事で問題にした「2018年2月のFood Sci Nutr」論文である。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2019年8月28日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ファヒム・ウッラ(Fahim Ullah)の論文にコメントはない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》見事な盗用 

ショウガをアスパラガスに変えただけで、他人のショウガ論文を自分のアスパラガス論文として出版した、という単純で見事な盗用である。

このような全盗用は昔からある。1980年に発覚したアルサブティ事件はとても有名だ。それから40年近く経過した2018年でも通用していることに驚いた。ネカト対策が機能していないということなのだ。
 → エリアス・アルサブティ (Elias Alsabti)(米)

ファヒム・ウッラは、パキスタンから中国の南京農業大学(Nanjing Agricultural University)・大学院に入学して、撤回された「2018年2月のFood Sci Nutr」論文を出版した同じ年(2018年)の12月に博士号を取得している。

ファヒム・ウッラの博士論文に盗用があると思えるが、南京農業大学は調査している様子がない。他の論文にもネカトがあると想定して、調査すべきでしょうね。

南京農業大学は知らないかもしれない? 

それは、マズないでしょう。

ネカト通報は、ネカト研究者の所属する大学に通報するのが基本である。学術誌は論文を撤回する前に大学に伝えたハズだ。

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●9.【主要情報源】

① 2018年10月29日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:When is asparagus not asparagus? Why, when it’s ginger, of course! – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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