7-107 巨額な研究費ロス

2022年6月27日掲載 

白楽の意図:①ポール・グラショウ(Paul Glasziou)らが、研究費の85%は「無駄に浪費」されていると報じた「2016年1月のBMJ」論文(②元論文の「2009年7月のLancet」論文は書誌情報のみ)、③クーパーの「2019年1月のReform」論文を読んだので、紹介しよう。総務省によると、日本の2020年度の科学技術研究費の総額は19兆円だった。単純に85%を当てはめると、ナント、日本は1年で16兆円の研究費を無駄にした。どの研究にいくら研究費を配分するかより、配分した研究費の「無駄な浪費」・研究費ロスをいかに減らすかが、ずっと重要である。日本政府は研究費ロスの改善に取り組むべきだ。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.グラショウらの「2016年1月のBMJ」論文
3.チャーマーズらの「2009年6月のLancet」論文
4.クーパーの「2019年1月のReform」論文
9.白楽の感想
10.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文」ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。

研究者レベルの人で、元情報を引用するなら、自分で元情報を読んでください。

●1.【日本語の予備解説】

★2022年6月25日:企業:レボチロキシン(Levothyroxine)、ベティ・ドン(Betty Dong)、ブーツ医薬社(Boots Pharmaceuticals Inc.)(米)

ワンポイント:1987年、製薬企業のブーツ医薬社はカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のベティ・ドン(Betty Dong)にレボチロキシン(Levothyroxine)の臨床試験を依頼した。1990年、結果は自社製品に不利だったので、発表を遅らせた。ベティ・ドンの論文は「1997年4月のJAMA」論文として7年後に発表された。臨床試験結果の発表を遅らせたことで、ブーツ医薬社は消費者をだましていたと非難され、数十件の訴訟が起こされた。1997年11月、ブーツ医薬社(当時はクノール医薬社(Knoll Pharmaceuticals))は、この訴訟の解決に約1億ドル(約100億円)を支払った。とはいえ、臨床試験の結果発表を7年間遅らせた間に、同社はこの薬で30億ドル(約300億円)の利益を上げていた。国民の損害額(推定)は300億円(大雑把)。

この事件は臨床試験結果が適切に発表されなかった事件である。それで、国民は安価に買えたハズの医薬品を不当に高く買わされていた。

●2.【グラショウらの「2016年1月のBMJ」論文】

★書誌情報

●【論文内容】

★85%が「無駄に浪費」

私たちは 「2009年のChalmers&Glasziou」論文で、健康研究費の85%が「無駄に浪費」されていると主張した。しかし、多くの人は「85%が無駄に浪費」を信用してくれない。

私たち自身も最初、自分たちの研究結果の「85%」は、「あり得ない」と思った。

85%という数値が異常に高いと思っただけでなく、健康医学研究に世界で年間2,000億ドル(約20兆円)が費やされているので、毎年、1,700億ドル(約17兆円)も「無駄に浪費」しているなんて信じられなかった。

1,700億ドル(約17兆円)という金額は、クウェートのGDPやハンガリーのGDPとほぼ同じ金額である。

「研究費の無駄な浪費」問題は真剣に考えるべき問題である。

そして、「無駄な浪費」を避ける方策をたて、確実に実行する必要がある。

しかし、その前に、「無駄な浪費」がどこでどの程度起こっているのかを知る必要がある。

どこでどの程度起こっているのかを知らないで、「無駄な浪費」を避ける方策は立てられない。

どこでどの程度、「無駄な浪費」起こっているのか? どう算出できるのか?

85%の数字を要素ごとに分けてみよう。

★第1点:研究成果が未発表

理解しやすい「無駄な浪費」は、研究助成期間が終了したのに研究成果を発表しない研究プロジェクトである。

終了した登録臨床試験(registered clinical trials)を追跡してみると、約50%は研究成果が発表されていなかった。

約50%という数値は、国、研究規模、資金源、臨床試験段階が異なっていても、ほとんど変わらなかった[Ross、2012]。

研究結果が発表されていなければ、その医薬品や治療法が適切かどうかを判断することができない。臨床試験の結果を他の研究者に知らせることもできない。

その医薬品や治療法に関する知見・知識がない状態が続くので、別途、研究計画をたて、臨床試験を実施する必要がある。その時間、労力、資金は先の臨床試験とほぼ同額になると思うが、少なくとも、先に配分した研究費は「無駄に浪費」されたことになる。

このように、研究費の「無駄な浪費」を避けるためにも、研究結果の発表は最低限の必須行為である。

しかし、研究結果を発表すれば、十分かというと、そうではない。研究結果を発表しても、研究費が「無駄に浪費」されている状況がある。次の第2点で説明しよう。

★第2点:利用・再現できない研究論文・報告書

研究結果が発表された論文・調査報告書は、他の人が正しく解釈、利用でき、かつ再現できるように、十分に明確、完全、かつ正確でなければならない。しかし、発表された論文・調査報告書の少なくとも50%はこれらの要件を満たしていない[Glasziou、2014]。

欠陥は、①その医薬品や治療法が適切かどうか、臨床試験の結果としての評価が適切に記載されていない。②研究方法とデータが十分に説明されていない。③他の人(研究者、医療専門家、患者)が結論を利用できるように十分に説明されていない。

これらはすべて回避可能な問題なのに、回避されていない。それで、「研究費の無駄な浪費」になる。

★第3点:粗悪な研究設計

一般的に、新しい研究プロジェクトでは、その研究プロジェクトに関する過去の研究結果を参考にし、教訓を学び、理論・知見を体系的に取り入れて、研究を設計する。しかし、現実には、研究プロジェクトの少なくとも50%はそうなっていない。

新しい研究プロジェクトには、その研究プロジェクトに関する過去の研究結果を体系的に検討していないケースがかなりある。そのため、容易に回避できる設計上の欠陥が既に示されているのに、その欠陥を考慮しないで研究を設計している[Yordanov、2015]。

また、適切に研究設計したとしても、研究作業を始めると、たとえば、ランダム化や盲検手順の実装が不十分なために、研究作業が無効になる場合もある。

★「無駄な浪費」は85%

今までの議論をまとめよう。

上記した重要な要素(「アクセス可能な研究発表」、「利用・再現できる研究論文・報告書」、「優れた研究設計」)を考慮し、「研究費の無駄な浪費」の割合を見積もることができる。

例として、100件の研究プロジェクトがあったとしよう。

100件の研究プロジェクトのうち、50件は研究成果が発表された(「アクセス可能な研究発表」)。

発表された50件の研究プロジェクトのうち、25件は「利用・再現できる研究論文・報告書」だった。

そして、この25件のうち、約半分(12.5件)は、重大で回避可能な研究設計上の欠陥はなかった(「優れた研究設計」)。

まとめると、まともな研究行為(「アクセス可能な研究発表」、「利用・再現できる研究論文・報告書」、「優れた研究設計」)の件数は100件の内、12.5件だった。残り87.5件は「研究費の無駄な浪費」になった。

つまり、「無駄な浪費」である研究費ロスは87.5%だった。2009年の論文では、これを85%に切り下げて報告した。

私たちのデータは、主に臨床研究から得たが、前臨床研究でも同じ状況であることが報告されいる[Macleod。 2014]。

さらに、2009年の論文では、どのような臨床研究を行なうかを決定する際の「無駄な浪費」と、研究の規制と実施における非効率性は考慮していなかった。従って、「無駄な浪費」の割合は、87.5%よりも、実際はもっと大きいだろう。

★運輸業者

この「無駄な浪費」を運輸業者に例えて示そう。愕然とする状況がわかると思う。

運輸業者は、輸送中に商品の半分を紛失してしまった。その上、運送できた半分の商品の半分は壊れていた。壊れていなかった半分は商品の設計が悪く、まともに使えた商品は12.5%だった。というわけである。

こんな運輸業は成り立つだろうか? 

これが英国の臨床試験で起こっている。本当にひどい「無駄な浪費」である。

ただ、「良いニュース」もある。視点を変えると、サルベージ作業をすれば莫大な利益があるということだ。

沈没した臨床試験を海底から救助し、損傷した臨床試験を修理することで、廃棄物の最大75%を回収できる可能性がある(設計不備は遡及的に修正できない)。

回収と修理作業は、「オール・トライアルス・キャンペーン(AllTrials campaign)」で提案されているが、「無駄な浪費」を改善する最も費用対効果の高い方法である。

しかし、その回収と修理作業を迅速に押し進める必要がある。というのは、臨床試験データは、年7%の割合で永久に失われているからだ[Vines、2014]。

●3.【チャーマーズらの「2009年6月のLancet」論文】

この論文は「2.【グラショウらの「2016年1月のBMJ」論文】」の元論文で、内容は上記と重複するので省略する。

★書誌情報

  • 論文名:Avoidable waste in the production and reporting of research evidence.
    日本語訳:研究証拠の作成と報告における回避可能な無駄
  • 著者:Chalmers I, Glasziou P.
  • 日本語付加著者:イアン・チャーマーズ(Ian Chalmers)とポール・グラショウ(Paul Glasziou)
  • 掲載誌・巻・ページ:Lancet. 2009 Jul 4;374(9683):86-9
  • 発行年月日:2009年6月15日
  • DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(09)60329-9
  • ウェブ:https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(09)60329-9/fulltext

●4.【クーパーの「2019年1月のReform」論文】

★書誌情報

●【論文内容】

★8兆5千億円が「無駄に浪費」

医学研究について質問は、通常2つある。

1. どんな病気の研究をしているの?
2. 研究するのにお金はいくらかかるの?

見過ごされがちなのは3番目の質問で、

3. この研究は病気治療や健康維持に貢献するの?

3番目の質問に対する答えは、多くの場合、「いいえ」です。

研究者が研究結果を公表しないという理由だけで、世界中で毎年850億ドル(約8兆5千億円)もの貴重な医学研究費が無駄になっている。

この数字には、英国の大学とNHS信託病院(NHS Trusts)が実施した何百もの臨床試験が含まれいる。その多くは公的資金で行なわれている。

英国のNHS(National Health Service)とは:
国民保健サービス(こくみんほけんサービス、英語: National Health Service, NHS)または国民医療サービス、国立医療サービスとは、イギリスの国営医療サービス事業をさし、患者の医療ニーズに対して公平なサービスを提供することを目的に1948年に設立され[1][2]、現在も運営されている。NHSにはイギリス国家予算の25.2%が投じられている[3]。
出典:国民保健サービス – Wikipedia

★臨床試験結果が発表されない

2018年5月、英国のサム・ジーマー大学大臣(Sam Gyimah)は臨床試験結果を公表するよう英国の全大学に要請した。 → 2018年5月15日記事:“Sort it out”: Pressure grows on universities to report all clinical trial results

キングスカレッジロンドン(King’s College London)、ノッティンガム大学(Nottingham)、カーディフ大学(Cardiff)など、一部の大学はこの問題に取り組み、臨床試験結果の発表で大きな改善をしてきた。

2019年1月24日に発表された報告書によると、英国の大学だけで約800件の臨床試験が実施された。しかし、その研究結果が発表されず、「無駄な浪費」となる可能性が非常に高い。 → 2019年1月24日レポート:Clinical Trial Reporting by UK Universities: Progress Report January 2019。その解説記事:2019年1月24日記事:More than 1,600 clinical trials run by UK universities violate reporting rules

英国全体で1,671 件の臨床試験結果が発表されていない。大学に関しては、27大学のうち19大学が臨床試験結果を発表していない(以下の図)。 → 2019年1月24日記事:More than 1,600 clinical trials run by UK universities violate reporting rules

臨床試験の実行には数百万ポンド(数億円)の費用がかかっている。この透明性の欠如による損害は、臨床試験自体への無駄な投資をはるかに超えている。

悪名高い事件はロルカイニド事件である。

1993年、ロルカイニド(Lorcainide)という薬には致命的な副作用があることが、臨床試験の初期段階でわかった。ところが、その臨床試験の結果は公表されず、ロルカイニドが市場から撤退されるまで10万人以上の患者が殺され続けた。 →  2015年1月2日論文:The true lorcainide story revealed | The BMJ

別のタミフル事件もある。タミフル(Tamiflu)に効能がないことを明らかにした臨床試験の結果が公表されなかったため、英国NHSは、タミフルという薬に4億2400万ポンド(約700憶円)の「無駄な浪費」をした。 → 2017年4月28日論文:Clinical Trial Transparency: A Key to Better and Safer Medicines

それから数年経ったが、臨床試験の透明性を義務とする規則が施行されていないため、英国NHSは、依然として医薬品や医療機器の利点と害を正確に評価できていない。 → 2018年6月27日記事:TranspariMED – Clinical Trial Transparency policy solutions (June 201…

★改善策

2018年10月、英国下院議会の科学技術委員会(UK’s House of Commons Science & Technology Committee)は、英国政府に反発した。英国で実施されているすべての臨床試験の結果を報告するよう強く求めた。

科学技術委員会のノーマン・ラム委員長(Norman Lamb、写真出典)は、「臨床試験の多くは公的資金で賄われている。納税者は公的資金の恩恵を受ける権利があるので、臨床試験の結果は、規則通り、全部公表されなければならない」と述べた。ラム委員長は40以上の大学に手紙を書き、学内のシステムを整え、全部公表するよう指示した。

科学技術委員会は、また、シンプルでありながら効果的な解決策を提案した。

英国の医療研究機構(Health Research Authority)は、すべての臨床試験を追跡し、世界保健機関(World Health Organisation)が設定した12か月の期限内に試験結果をレジストリにアップロードされたかどうかを確認し、アップロードしていない大学・研究機関に罰金を科すべきだとした。

現在はデジタル時代で、すべての臨床試験を追跡する技術的な課題はごくわずかである。英国の運転免許庁(UK Driver and Vehicle Licensing Agency)は定期的に3,770万台の車両を追跡している。英国NHS(National Health Service)自体が5,500万人の個々の患者の健康記録を管理している。それに比べれば、1年に2,000件未満の臨床試験を監視するのは、朝飯前のはずだ。

医学研究への公的投資が無駄にならないようにするためのコストは、大規模な臨床試験1件のコストよりも安い。

その上、重要なのは、医療研究機構(Health Research Authority)がすでに必要なすべての記録を持っているので、新たに赤い目印をつける必要はないということだ。

米国では、法律により、米国の製薬会社や大学が、臨床試験の結果を公表することを怠った場合、毎日11,000ドル(約110万円)を支払う必要がある。ただ、問題はこの法律を何年も実施してこなかったのだ。しかし、米国当局はようやく、この規則を実施する準備をしている。

2019年2月下旬、英国政府は科学技術委員会の提案に対応する予定である。

英国NHS(National Health Service)に対する財政的圧力が日ごとに高まっているため、公的資源の浪費をぼんやり眺めている選択肢はない。

●9.【白楽の感想】

《1》臨床試験 

本論文で、英国の研究者が臨床試験の結果を発表していないケースが多数あることを報じているが、その英国の実態に驚いた。そしてそれを長年放置していた英国政府にも信じられないと思うほど驚いた。

クーパーの「2019年1月のReform」論文の最後に記載していた、2019年2月下旬の英国政府の対応がどうなったかを、白楽は把握していない。

また、日本や米国ではどうなっているのかも、白楽は、十分把握していない。

米国当局も、臨床試験結果を発表しないことに対する処罰を科してこなかった。ようやく、この規則を実施する準備をしている。このことにも驚いた。

日本は、どうなっているんだろう?

なお、臨床試験にはいろいろ問題がある。

  1. 日本の臨床試験は製薬会社と医学界が長年、黒い関係を保ってきた。 → ディオバン事件-研究者と企業の倫理
  2. 7-87 臨床試験での研究不正 | 白楽の研究者倫理
  3. 7-62 臨床研究の参加者(治験者)が嘘をついたら | 白楽の研究者倫理

《2》研究費 

日本では、研究費はもらい得である。数千万円でも数億円でも、もらうまでの審査はあるが、一旦、もらってしまえば、使い方に関して、厳密な監視はない。

さらに言うと、申請・採択時にも金額に対する妥当な審査がない。

採択された研究プロジェクトは、申請額の一律7割とか8割とか、いい加減な算定がされる。それで、申請額の上限近くの額を申請する研究者が多い。官僚は、確保した予算額がピッタリ消費されることを望んでいる。

研究以外の事業と比較してみよう。

グラショウらが運送業と比較しているので、運送業と比較してみよう。

1000個の物品をA市からB市まで運送するとしよう。ある運送業者がその運送を50万円で請け負った。マズ、運送する前に50万円をもらえない。A市からB市に1000個の物品を運び、無事運んだことを確認されてから、50万円がもらえる。50万円を受け取った後で、なにか異常が見つかれば、謝罪とお金の返却も要求される。従わなければ裁判になる。

ところが、研究費の場合、コレコレの研究をするので2千万円の研究費を下さいと申請した。採択されたが8掛けされ、1600万円で請け負った。この請け負った時点で1600万円もらえる。つまり、研究する前に全額もらえる。

そして、研究が終えた時、無事、約束した研究が達成されたという確認はされない。約束した研究をチャンとしなかったので、1600万円のうち、300万円分は返せ、ということもない。

なにか異常が見つかっても、約束した研究をチャンとしなくても、不正行為さえしなければ、謝罪もお金の返却も要求されない。裁判になることもない。

研究費配分は、入り口が厳格で出口は超甘い、というシステムである。研究結果をまとめて報告する最後の段階が確認されないから、「無駄な浪費」が大きくなる。

《3》日本は16兆円の研究費を無駄にしている? 

本論文によると、研究費の85%が「無駄に浪費」されている。

総務省によると、日本の2020年度の科学技術研究費の総額は19兆円である(https://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/youyaku/pdf/2021youyak.pdf)(保存版)。単純に85%を当てはめると、ナント、日本は2020年度の1年で16兆円の研究費を無駄にした。

と概算して良いか?

日本の食品ロスは11兆円と算出されているので、研究費ロスを16兆円とすると、食品ロスより研究費ロスの方が多い。 → 2017年3月8日:著者名不記載(女性セブン):日本の食品ロス 1世帯年間6万円、全体では11兆円、(保存版

グラショウらの「無駄な浪費」85%は登録臨床研究を対象にしている。

登録臨床研究は特定の医薬品や治療法が適切かどうかを判断する研究なので、答えは、「適切」「不適切」「不明」の3つしかない。

「適切」か「不適切」かをハッキリさせる研究なので、研究すれば、結果が出ると、白楽は思っていた。

それが、85%も「無駄な浪費」だと指摘されているので、驚いた。

根拠のない印象で言うが、登録臨床研究で「無駄な浪費」はせいぜい10%以下にすべきだ。

一方、基礎研究は「適切」「不適切」「不明」の答えを出す研究ではない。研究計画を練り、研究結果を期待するが、期待した研究結果が得られる保証はない。これは基礎研究の特徴である。だから、ある意味、「無駄な浪費」と換算される研究費の割合は多くなるだろう。ただ、それが「無駄」な研究だったかと言えば、通常は、「無駄」ではない。必要な「無駄」なのだ。

それでも、どのような研究も、「優れた研究設計」は必要で、研究プロジェクトが終了すれば、「アクセス可能な研究発表」、「利用・再現できる研究論文・報告書」も必要だ。

グラショウらが指摘する問題点は基礎研究を含めすべての研究プロジェクトに当てはまる。

日本の科学技術研究費の総額19兆円には運送業のような確定した業務だけではない結果の予想困難な研究が含まれる。

だから、85%が「無駄な浪費」ということはないだろう。

では一体、「無駄な浪費」の割合は、基礎研究なら、何%が妥当なのか?

だれか、算出して欲しい。

《4》研究費ロスに光を! 

どの研究テーマにいくら研究費を配分するかより、配分した研究費の無駄、つまり、研究費ロスをいかに減らすかが、もっとずっと重要だと思う。

今まで、ここに光をあてていないので、大きなリカバリーが得られると思う。

また、ネカト防止は研究費ロス防止につながる。

しかし現実は、政府も研究者も研究費ロスを問題視する意識が低い。

日本の科学技術研究費の総額19兆円の85%が「無駄な浪費」ということはないだろう、と書いた。しかし、では、実際はどれほどの金額がどういう理由で「無駄な浪費」となっているのか、だれか推計しているのだろうか? 

会計検査院が調査しているとは思えないが、「会計検査院検査報告データベース」で「研究費」を検索すると277 件がヒットした。「不当事項の分類」を「補助金」に絞ると、10件しかヒットしない。

国やメディアが事件として問題視するのは、いわゆる「研究費の不正使用」が多い。例えば、 → 研究機関における不正使用事案:文部科学省。 → 「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)(令和3年2月1日改正) https://www.mext.go.jp/content/210201-mxt_sinkou02-1343904_21_1.pdf

本論文で述べている「アクセス可能な研究発表、利用・再現できる研究論文・報告書、優れた研究設計」の欠如による「無駄な浪費」はほとんど報道されない。

政府は問題視していない。本気で調査している研究者は日本にいない? ライフワークの研究テーマになりそうな課題なんだけど。

研究費ロスにもっと関心を!

《5》ネカトで研究費ロス 

実際のところ、どれだけの研究結果に再現性があるかということについては、情報が乏しいのが現状です。過去の研究では、心理学では40%、がん生物学では10%という数字が示されたこともあります(ただし心理学については反論もあります)。 → 2016年7月5日、粥川準二・記者の記事:「研究 再現性 の危機」 – nature、1500人を調査 

論文結果の再現性がない主な理由は、データねつ造・改ざん、ズサン研究だろう。そのために失われる研究費はどのくらいの金額なのだろう?

ネカト・クログレイ疑惑の調査費、ネカト・クログレイ対策費なども関連経費である。

日本はネカト・クログレイで何兆円くらい無駄にしているのだろうか?

《6》日本の科研費 

以下は改変引用です。出典:https://haklak.com/page_dis-1.html/comment-page-1/#comment-29888

ーーーー
日本の科研費の支給を受けた場合、報告書を提出しないペナルティは、基本、次の研究費が交付されないだけで、所属大学からの懲戒処分はありません。

ただ、2010年の記事では以下なので、日本学術振興会は基本を守っていなかった。交付していたんですね。

科学研究費補助金を支給された研究者のうち、593人(164研究機関)が提出期限を過ぎても研究成果報告書を提出していないことが会計検査院の調査で明らかになった。さらにこれら長期未提出者593人のうち、69人に対しては日本学術振興会が昨年、新たに科学研究費補助金(総額2億8,167万円)を支給していたことも明らかになった。https://web.archive.org/web/20210514074523/https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20100622_01/index.html

それで、未提出だと、研究費の返還を要求するぞ、所属大学名の公表をするぞ、「するぞ、するぞ」と脅しています。以下は、2020年・2021年だが、多分毎年。

ということは、いまだに、未提出者が多数いるということです。そして、未提出者の氏名、所属大学名などのデータを公表していません。

なお、政府は大学名や氏名の公表を脅す手段に使いますが、これって、異常な気がします。罰として公表するというのは、何を期待しているかというと、国民・社会からのリンチを期待している気がします。

公表は、そうではなく、関係者・関係予定者である国民が対処するとか被害を受けないための情報だと思うのですが。

ーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●10.【コメント】

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