材料工学:ザイーム・アスラム(Zaeem Aslam)(パキスタン)

2019年8月1日掲載

ワンポイント:2017年(25歳?)、アスラムはラホール工学技術大学(University of Engineering & Technology Lahore)で修士号を取得し、EBRエネルギー社のマネージャーになった。翌年の2018年6月(26歳?)、「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文を出版した。ところが、この論文は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(École Polytechnique Fédérale de Lausanne)の院生・コンラッド・ドマンスキー(Konrad Domansk)らの「2018年のNature Energy」論文のタイトルを変えた全文逐語盗用だったので、論文は撤回された。なお、学術誌・編集長のイワン・ゴードン(Ivan Gordon)の対応がオソマツだと研究者に非難された。大学は調査しない模様。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。ザイーム・アスラム事件は、「2018年ネカト世界ランキング」の「1」の9番目の事件である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説

5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ザイーム・アスラム(Zaeem Aslam、写真出典)は、パキスタンのラホール工学技術大学(University of Engineering & Technology Lahore)で修士号を取得し、2017年(25歳?)、EBRエネルギー社に就職し、マネージャーになった。専門は材料工学(太陽電池)だった。

2018年6月(26歳?)、ラホール工学技術大学・院生時代の研究を「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文として発表した。

発表してすぐ、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(École Polytechnique Fédérale de Lausanne)の院生・コンラッド・ドマンスキー(Konrad Domansk)が、上記論文は、自分の「2018年のNature Energy」論文の全文逐語盗用だと指摘した。

イワン・ゴードン(Ivan Gordon)は学術誌・「Solar Energy Materials and Solar Cells」・編集長に2018年1月に就任した。就任したばかりのゴードン編集長は、盗用の対処に未熟さを露呈し、処理がオソマツだと研究者に非難された。

結局、論文は撤回された。ラホール工学技術大学は調査した気配がなく、ザイーム・アスラムは処分されていない。

この事件の注目すべき点は、イワン・ゴードン編集長(Ivan Gordon)のオソマツ振りである。そのこともあって、ザイーム・アスラム事件は、「2018年ネカト世界ランキング」の「1」の9番目の事件になった。

ラホール工学技術大学(University of Engineering & Technology Lahore:UET)。写真出典

【動画】ラホール工学技術大学(University of Engineering & Technology Lahore:UET)の学生にインタビュー 主にウルドゥー語(推定)、時々英語。

  • 国:パキスタン
  • 成長国:パキスタン
  • 修士号取得:ラホール工学技術大学
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1992年1月1日生まれとする。2014年に大学卒業した時を22歳とした
  • 現在の年齢:29歳?
  • 分野:材料工学
  • 最初の不正論文発表:2018年(26歳?)
  • 発覚年:2018年(26歳?)
  • 発覚時地位:EBRエネルギー社・マネージャー
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者であるスイス連邦工科大学ローザンヌ校(École Polytechnique Fédérale de Lausanne)の院生・コンラッド・ドマンスキー(Konrad Domansk)で、学術誌・編集部に公益通報
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集長。②ラホール工学技術大学は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:2報撤回
  • 盗用ページ率:約100%
  • 盗用文字率:約100%
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

出典:zaeem aslam – Manager Operations – EBR Energy Pakistan (Pvt.) Limited – Lahore, Pakistan

  • 生年月日:不明。仮に1992年1月1日生まれとする。2014年に大学卒業した時を22歳とした
  • 2014年(22歳?):国立コンピュータ・新興科学大学(National University of Computer and Emerging Sciences)で学士号取得
  • 2017年(25歳?):ラホール工学技術大学(University of Engineering & Technology Lahore)で修士号取得
  • 2017年(25歳?):EBR エネルギー社(EBR Energy Pakistan (Pvt.) Limited)・マネージャー
  • 2018年(26歳?):「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文で盗用が発覚

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★盗用発覚の経緯

ザイーム・アスラム(Zaeem Aslam)は、ラホール工学技術大学(University of Engineering & Technology Lahore)所属で、第一著者として、以下の「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文を出版した。この学術誌のインパクト・ファクターは5.018で一流学術誌である。

投稿は2018年3月7日で、論文出版は2018年6月7日だった。

  • Ageing effects of perovskite solar cells under different environmental factors and electrical load conditions
    Zaeem Aslam, Hifsa Shahid and Zeeshan Mehmood
    Solar Energy Materials and Solar Cells
    Oct 2018

2018年6月x日、出版後まもなく、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(École Polytechnique Fédérale de Lausanne)の院生・コンラッド・ドマンスキー(Konrad Domansk、写真出典)は、自分たちの「2018年のNature Energy」論文が、タイトルこそ違え、中身は「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文とそっくり同じであることに気が付いた。この学術誌「Nature Energy」のインパクト・ファクターは46.859で超一流学術誌である(About the Journal | Nature Energy)。

ドマンスキーらの「2018年のNature Energy」論文は、投稿が2017年6月28日で、論文出版は2018年1月1日だった。つまり、出版の2か月後にアスラムは論文を投稿しているので、十分盗用する時間があった。

★対処

被盗用者のドマンスキーは、エルゼビア社の学術誌「Solar Energy Materials and Solar Cells」の編集長に連絡を取った。

ところが、編集長は「事件は非常にゆっくりと進行します。決着がつくまで最大1年かかる可能性があります」、と伝えてきた。

ドマンスキーは怒った。というより、怒りを通り越し、あきれ驚いた。このデジタル時代に、しかもエルゼビア社の一流学術誌ともあろうものが、盗用の対処に1年もかかるとは。

この盗用事件と編集長の対応がSNSで炎上し、編集長はようやく、「緊急性が最も高い」と判断し、できるだけ早く解決すると、態度を変えた。

結局、2018年10月、学術誌「Solar Energy Materials and Solar Cells」は、ザイーム・アスラムの論文を盗用と結論し、撤回した。
→ 2018年10月の撤回告知記事:RETRACTED: Ageing effects of perovskite solar cells under different environmental factors and electrical load conditions – ScienceDirect

実は、「Solar Energy Materials and Solar Cells」誌の編集長の問合せに、盗用者のザイーム・アスラムは「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文の研究結果が前回の査読中に盗まれ、「Solar Energy Materials and Solar Cells」誌に掲載される前に、別の人に「Nature Energy」論文として発表されてしまったと主張していた。

編集長は、真偽のほどを検証する事と並行して、ザイーム・アスラムに自分の論文が盗用されたことを証明する機会を与える必要があると考えていたそうだ。それで、「事件は非常にゆっくりと進行します。決着がつくまで最大1年かかる可能性があります」とドマンスキーに伝えてしまったらしい。

勿論、ザイーム・アスラムは自分の論文が盗用されたことを証明できなかった。

それで、編集長は論文を撤回した。また、ザイーム・アスラムの所属していたラホール工学技術大学にザイーム・アスラムを処罰するよう通知した。

しかし、全文盗用なら、査読を依頼する前に盗用検出ソフトで簡単に検出できただろう。盗用検出ソフトはどうなっている?

また、査読者はどうなっている?

被盗用論文の学術誌「Nature Energy」のインパクト・ファクターは46.859で、超一流学術誌である。この分野の研究者なら誰でも知ってる論文のハズだ。盗用論文を掲載した学術誌「Solar Energy Materials and Solar Cells」のインパクト・ファクターは5.018でこちらも一流学術誌である。つまり、まともな査読者がまともな査読作業をしていれば、査読時点で盗用だと気が付いたハズだと、誰もが思う。

編集長は以下のように謝罪している。

もちろん、この論文はそもそも出版すべきものではありませんでした。今では、私たちはそれを十分に認識しております。原稿を編集した編集者も、論文を査読した3人の査読者も、これが既存の論文の単なるコピーであることに気づきませんでした。心から謝罪します。私はこのような事件が二度と起こらない内部対策を講じました。

「撤回監視(Retraction Watch)」のこの記事へのコメントは30回もある。もし「コメントの多さランキング」があれば、多分、5位以内に入るほどの多さだと思われる。

なお、被盗用者のドマンスキーがリンクトイン(LinkedIn)で顛末を書いている。「Solar Energy Materials and Solar Cells」誌の編集長もそのサイトで説明している。

【盗用の具体例】

★盗用比較図

以下に盗用比較図を示す。タイトルこそ違え、中身は全部同じなので、比較図と言っても、なんですが・・・。

以下は要旨部分である。左側がザイーム・アスラムの盗用論文で右が被盗用論文である。着色部分の文章が同一である(出典:【主要情報源】①)。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2019年7月31日現在、リサーチ・ゲイト(Research Gate)で検索すると、5論文(撤回告知の1論文を含む)がヒットした。 → Research works produced by Zaeem Aslam | University of Engineering and Technology, Lahore, Lahore (UET) and other places

論文撤回は本記事で問題にしている「2018年のSolar Energy Materials and Solar Cells」論文である。

  • Ageing effects of perovskite solar cells under different environmental factors and electrical load conditions
    Zaeem Aslam, Hifsa Shahid and Zeeshan Mehmood
    Solar Energy Materials and Solar Cells
    Oct 2018

★撤回論文データベース

2019年7月31日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでザイーム・アスラム(Zaeem Aslam)を検索すると、上記撤回論文を含め、2論文がヒットし、2論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2019年7月31日現在、「パブピア(PubPeer)」はザイーム・アスラム(Zaeem Aslam)の1論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》防ぐ方法:盗用

ザイーム・アスラム(Zaeem Aslam)が、タイトルを変えただけで、他人の論文を全文逐語盗用し、編集長から指摘されたら、自分の論文がオリジナルで、自分の論文が査読中に盗用されたのだと主張した。

このような主張をする盗用者の盗用行為をどうすると防止できるのだろうか?

「盗人猛々しい(ぬすっとたけだけしい)」人に、もちろん、「盗用はイケマセン」と指導する意味は全くない。

所属していたラホール工学技術大学がむち打ちの刑(?)などの手痛い処罰を科すべきである。授与した修士号は当然はく奪すべきである。ところが、ラホール工学技術大学は調査している気配がない。従って、むち打ちの刑(?)を科した気配はない。

パキスタンでは修士号保持者は上級国民だろう。白楽は、パキスタンに滞在したことがないので勝手な妄想だが、パキスタンの巷ではネカトがひれ伏すような立派な不正が横行しているに違いない(妄想です)。

このような国の研究公正をどうするといいのだろうか?

《2》防ぐ方法:学術誌編集長

ザイーム・アスラム事件で学術誌「Solar Energy Materials and Solar Cells」の編集長が不適切な対応をした。

どんなアホだ、顔を見てみたいと、あなた、思います? 学術誌のサイトに写真がありました。編集長はベルギーのイワン・ゴードン(Ivan Gordon)です。
→ Ivan Gordon – Editor-in-Chief – Crystalline Silicon and Silicon Thin Film Solar Cells – Solar Energy Materials & Solar Cells

編集長への就任は2018年とある。ザイーム・アスラム事件で前・編集長がヤメて、後任として就任したのかもしれない。

イエイエ、イワン・ゴードン(Ivan Gordon)は2018年1月に編集長に就任し、ザイーム・アスラム事件に対処しています。就任したばかりですが、その対処を見ると、「イワンのバカ」ってところでしょうか。

トルストイの「バカのイワン」は純朴愚直でも最後は幸せをつかむのですが、編集長のイワンは、「純朴」かどうか知りませんが「愚」ではあります。そして、不評をつかんでます。

(今日の白楽はどうしたんでしょう? むち打ちの刑だのアホだのバカだの不穏当な発言が目立ちます。冗談っぽく書いたんですが・・・、熱中症でしょうか?)

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ザイーム・アスラム(Zaeem Aslam)。https://www.rozee.pk/people/4589636/zaeem.aslam

●8.【主要情報源】

① 2018年8月23日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:UPDATED: Elsevier retracts a paper on solar cells that appears to plagiarize a Nature journal. But the reason is…odd. – Retraction Watch
② 2018年10月頃のスシル・クマール(Sushil Kumar)の「apni Physics」記事:Retracted Research Paper & Publication Ethics | Apni Physics
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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