7-116 査読にお金を払う時代?

2023年2月13日掲載

白楽の意図:現在の査読システムは破綻寸前というか既に破綻している(少なくとも部分的には)。査読は投稿論文の学術的価値を、同じ分野の研究者が審査し、論文掲載を左右する作業である。査読でネカトをチェックすると思う人がいるが、基本的にはその機能も義務もない。ただ、データの異常をチェックし、ズサンさの指摘をするので、ネカト検出とは無縁ではない。それで、ネカトの改善に関心がある白楽は、査読の改善にも関心がある。シルビア・グッドマン(Sylvia Goodman)は、「2022年12月のChronicle of Higher Education」論文で、無料ではなく有償の査読システムを模索している状況を解説した。紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.グッドマンの「2022年12月のChronicle of Higher Education」論文
9.白楽の感想
10.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★xxxx年xx月xx日:著者名不記載(学会運営ジャーナル):査読の意味とは?その方法や方式などについても解説

出典 → ココ、(保存版) 

査読の読み方・意味とは

査読とは、投稿された論文をその学問分野の専門家が読んで、内容の査定を行うことです。漢字の読み方は「さどく」で、英語ではpeer review(ピアレビュー)といいます。

査読を行う理由は、主に以下の点です。

・専門家による評価を受けて内容を修正するため
・ジャーナルに掲載する価値があるか編集者が判断するため

査読の方式(仕方)

査読の方式(仕方)について詳しく見ていきましょう。よく用いられる査読の方式に、シングルブラインドとダブルブラインドがあります。

シングルブラインドでの査読
シングルブラインドとは、査読者のみが著者が誰かわかっている査読方式です。著者は査読者が誰か知ることができません。査読者は著者の情報を加味して査読できますが、一方で著者に対しての批判になってしまうおそれもあります。

ダブルブラインドでの査読
ダブルブラインドは、著者と査読者両方がお互いについて知ることができない査読方式です。査読の前に論文の中から著者情報のすべてを削除しなければなりません。削除しても推測できる可能性があります。

続きは、原典をお読みください。

★2018年2月19日:粥川準二(学術英語アカデミー):査読結果や査読者名を公開すべきか?

出典 → ココ、(保存版) 

ジャーナル(学術雑誌)における査読は、一般的には匿名で行われます。しかしながら本誌では以前、著者も査読者もお互いが誰であるかを明らかにして行う「オープン査読」でも、査読の質は下がらない、という研究結果を紹介したことがあります。

また現状の査読は不透明であり、バイアス(偏り)を伴いがちで、非効率であることも指摘され続けています。ある科学者が「査読を科学的なものにしよう」と提言したことを、本誌が紹介したこともあります。

査読の改善を図ろうとしばしば提言されることが「査読のオープン化」です。ただ査読のオープン化といっても、さまざまなものがあります。たとえば上述の「オープン査読」です。また、論文の公表と同時に、査読結果(査読レポート)も公表するという試みも始まっています。

続きは、原典をお読みください。

★2023年2月13日:奈須野太(内閣府科学技術・イノベーション推進事務局統括官)(エコノミストOnLine):論文不正を招く“学術プラットフォーマー”のビジネスモデル

有料記事(以下は無料部分。つまみ食い引用)。出典 → ココ、(保存版) 

二重取りのビジネスモデル。

査読者は出版社との利害関係から独立しており、優れた論文を見いだす金銭的誘因はない。査読は研究者の片手間仕事になっていて、専門的な職業として確立していない。相撲で例えれば、相撲取りが取組の一方から指名されて給金なしで行司役に回るようなものだ。

近年の科学の発展によりさまざまな研究領域が生み出されたことで、学術領域は細分化され、論文投稿数が爆発的に増えた。一方で査読者はその数に追いつかず、不足している。

1円の報酬もなしに中立厳正な査読を要求するのは、アカデミアのうるわしき非営利性の帰結のように見えるかもしれない。しかし、実はこれは出版社の営利的な都合でもある。なぜなら、優れた論文やこれを見いだした査読者に対していちいち報酬を出していたら、ジャーナルの品質が向上すればするほど、もうからなくなってしまうからだ。

全体は、原典をお読みください。

●2.【グッドマンの「2022年12月のChronicle of Higher Education」論文】

★書誌情報と著者情報

  • 論文名:Is It Time to Pay Peer Reviewers?
    日本語訳:査読者にお金を払う時が来ましたか?
  • 著者:Sylvia Goodman
  • 掲載誌・巻・ページ:Chronicle of Higher Education
  • 発行年月日:2022年12月1日
  • 指定引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:https://www.chronicle.com/article/is-it-time-to-pay-peer-reviewers
  • PDF:
  • 著者の紹介:シルビア・グッドマン(Sylvia Goodman、写真出典)は、2022年に米国のノースウェスタン大学(Northwestern University)で学士号(ジャーナリズム学)を取得した。論文出版時の所属・地位は、クロニクル( The Chronicle)のレポーティング・フェロー。出典:Sylvia Goodman | LinkedIn

●【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。
方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

★査読の問題1

査読は通常、匿名で行ない、無報酬である。

オスロ大学(ノルウェー)のジョナス・クンスト教授(心理学、Jonas R. Kunst、写真出典)は、研究キャリアの初期の頃、査読は必ずしも重荷ではなく、出版前に自分の分野の論文を評価するプロセスを楽しんでいた。

新しい論文を読むことができ、学術界に貢献していると感じ、楽しいと思っていた。そして当時、勤務時間内に査読を済ませることができた。

しかし、クンスト教授を含め大多数の研究者にとって、そのような共存共栄は長くは続かない。

研究者としてのキャリアを積み上げるにつれ、膨大な数の査読依頼が来るようになる。

この変化は劇的である。

クンスト教授は、増え続ける査読依頼の山に対応するため、多大な時間を費やさねばならず、勤務時間外にも査読をするようになった。

同時に、専門外の論文査読をたくさん依頼されるようになった。

専門外の論文査読を断わっているが、「どうして、私に査読を依頼するのか、不思議に思っています。専門外の論文は査読できません。なぜ私に依頼し続けるの?」、とクンスト教授は不満を述べている。

★査読の問題2

同じ専門分野の研究者による査読が学術論文の出版審査での標準になった数十年前以来、査読は学術出版のバックボーンである。

最高の学術論文を選ぶ方法として、学術誌・編集者は、その分野の専門家から複数の査読者(通常は2人または3人)を選び、彼らの批評を基に論文原稿の採否を検討する。

査読者は論文原稿に記載された他の研究者の研究成果を評価するが、その作業(労働)は無料奉仕である。

1980年代から2020年にかけて、世界中の学術出版物の数は5倍近く増加したが、大学の研究者の増加数は3倍だった(出典:以下の論文)。

To WM and Yu BTW. Rise in higher education researchers and academic publications [version 1; peer review: 2 approved]. Emerald Open Res 2020, 2:3 (https://doi.org/10.35241/emeraldopenres.13437.1)

クンスト教授と彼の同僚の多くは、学術出版界が査読者の無料奉仕に依存していること、そして、多くの研究者が黙って無料奉仕していることに幻滅していた。

★改革

クンスト教授は学術出版システムを変えようと行動を起こした。

2022年10月、クンスト教授は「アドバーンシス・イン社(Advances.in)」という新しい学術出版社を設立した(以下の画像はそのサイトから)。

このアドバーンシス・イン社は、編集者と査読者の両方にお金を払う方式で査読作業を行なっている。

アドバーンシス・イン社は、今のところ、1つの学術誌「Advances.in Psychology」しか出版していないが今後、多くの分野の学術誌を出版する予定だそうだ。

クンスト教授は、お金を払うことでより良い査読が得られると語った。

編集者は、「Advances.in」の基準に至らない査読を却下したり、修正を求めることで、編集力を発揮できる。

クンスト教授によると、優れた査読、徹底的な査読がされ、それにお金が払われる出版市場を作ることで、査読者は自分の査読が高く評価されたと感じるようになる。

★査読への報酬

概念としての査読は、17 世紀のヨーロッパまでさかのぼることができるが、それは、今日の査読とは全く異なっていた。

その頃の査読は、編集者と著者の間の手紙による友好的なやり取りだった。

その後、論文結果を検証するために外部の専門家が導入されたが、19世紀まで、論文原稿そのものを評価したのは編集者だけだった。

「査読(ピアレビュー、仲間の評価 “peer review”)」という用語自体、20世紀になるまで登場しなかった

そして、査読(ピアレビュー)のために同じ専門分野の研究者が駆り出された。査読は自分たちの研究上の義務だと研究者が認識する文化が確立していった。

そのシステムが確立したことで、商業出版社は査読の利益を得つつも、研究者の無料奉仕を正当化でき、論文出版市場を支配できたのである。

「2021年のRes Integr Peer Rev」論文によると、2020年に米国の研究者が無料奉仕した査読時間をお金に換算すると15億ドル(約1500億円)だったそうだ。この15億ドル(約1500億円)は控えめに換算された額である。

Aczel, B., Szaszi, B. & Holcombe, A.O. A billion-dollar donation: estimating the cost of researchers’ time spent on peer review. Res Integr Peer Rev 6, 14 (2021). https://doi.org/10.1186/s41073-021-00118-2

一部の研究者は、査読にお金を払うシステムが動き始めるまでこれほど長い年月がかかったのは驚くべきことだと述べている。

しかし、依然として多くの研究者は、査読によって、仲間の研究者の研究成果を評価できるのは特権だと感じている。

「Pediatric Neurology」誌のアリエル・ライオンズ=ウォーレン編集委員(Ariel M. Lyons-Warren、写真出典)は、他人の研究成果の質を評価するのに私の意見が重要だと編集委員が考えたことは、研究者にとって特別なことに思えて、とても嬉しいことなのだ指摘している。

ただ、現実には、査読依頼は特別なことではない。

すべての論文に2~3人の査読者が必要だとすると、普通に考えて、研究者は論文を1本投稿するたびに他の研究者の2~3本の論文を査読しないと、サイクルを永続的に回せない。

それほど、査読は普通で、かつ需要が大きい。

そして、ほぼすべての研究者は査読の必要性を認識している。

2018年の世界的な調査では、回答者の98%が査読は「重要」または「非常に重要」だと述べている。 → Publons-Global-State-Of-Peer-Review-2018.pdf

しかし、同じ年の調査で、ほとんどの編集者は、査読者を見つけることが仕事の中で最も難しいと述べていた。

研究者は査読遂行を業績として履歴書にリストすることができるし、しばしばそうしている。

しかし、査読をしても、教員のテニュア採択、昇進、学術界での地位にまったく影響しない。追加の給与もない。

オタワ(カナダ)の学術誌学研究所(Centre for Journalology)のデイヴィッド・モハー所長(David Moher、写真出典)は、教員のテニュア採択と昇進の考慮項目に、大学は査読遂行を正式に認める必要があると主張している。

モハー所長は、査読を仕事の一部として認め、査読する時間を教員に与えるべきだ、と述べている。

大学は、教員の論文出版数 (と学術誌の質) を重視している。

しかし、モハー所長は、査読を通じて研究の質を守ることは、研究実施、つまり、論文出版数 (と学術誌の質) と同じくらい重要で、査読を対象にいれた評価システムにすべきだと主張している。

★メリット

学術誌「Headache」のエイミー・ゲルファント編集長(Amy A. Gelfand、写真出典)は、1年半前に比べると、研究者は査読依頼を断るようになってきたと述べている。

それで、学術誌「Headache」は査読者を引き付けるために、2021年の社説で査読のメリットを説明した。

Advancing our commitment to our peer reviewers.
Halker Singh RB, Bobker SM, Roberts JL, Charleston L 4th, Robbins MS, Pradhan A, Sprenger T, Pozo-Rosich P, Orr SL, Powers SW, Houle TT, Turner DP, Gelfand AA.
Headache. 2021 Oct;61(9):1299-1301. https://doi.org/10.1111/head.14211:  Epub 2021 Oct 13.

大きなメリットは、医師免許を維持するために必要な「継続的な医学教育(continuing medical education)」の単位になるということだ。

また、学術誌「Headache」では、査読の程度に応じて、「ゴールド」会員や「プラチナ」会員の認定もしている。すべての査読者は学術誌に名前が掲載されるが、「ゴールド」会員や「プラチナ」会員の認定は一部である。

ただ、「著者になるなら、査読者にもなる必要があると思います。査読システムが成り立つには、それが必須だからです。しかし、重要なサービスである査読が無料奉仕なら、査読者にクレジット(credit)を与えるにはどうすればよいのでしょうか? 学術機関での昇進および昇進委員会が、査読遂行を業績としてどのように考慮しているかは、はっきりしていません」と、ゲルファント編集は述べている。

一部の出版社は、閲覧が有料な論文を無料で閲覧できるクーポンを査読者に提供したり、査読者の次回の投稿料を割引いたりしている。

★高い収益性

アリゾナ州立大学・教授で学術誌「Journal of Public Administration Research & Theory」のメアリー・フィーニー編集委員(Mary K. Feeney、写真出典)は、現在の論文出版モデルは何年も前から死に近づいていると指摘した。

「研究者は出版社の利益率の高さに驚き、大きな不満を抱いています。大儲けしているのに、研究者に無料奉仕を強いる学術誌市場に参加したくありません。それで、多くの研究者は査読依頼に「ノー」と答えています」とフィーニー教授は述べている。

とはいえ、どこに論文を投稿するかでは、研究者の選択の余地はとても少ない。

「2020年の調査」(以下)によると、論文出版業界の50%は、SAGE、Elsevier、Springer Nature、Wiley-Blackwell、Taylor & Francisの5社(営利出版社)が握っている。

2020年の調査:The money behind academic publishing | Tidsskrift for Den norske legeforening

これら5社が出版する学術誌(Nature、Lancet、Cellなど)は、インパクト・ファクターが高く、影響力も大きく、最も権威がある学術誌なのだ。

そして、信じられないほど高い収益性がある。

「2017年のガーディアン」記事によると、学術出版業は2017年に世界で190億ポンド (約244 億ドル、約2兆4400億円)以上の収益を得ていた。その収益はレコード業界や映画業界に匹敵するほど巨額だった。 → 「2017年のガーディアン」記事:Is the staggeringly profitable business of scientific publishing bad for science? | Science | The Guardian

収益の巨額さだけに驚いてはいけない。利益率も驚くほど高いのである。

例えば、エルゼビア社(Elsevier)の2019年の利益率は37.1%だった。

この利益率はアップル社(37.8%)やアマゾン社(41%) などの優良企業の利益率に匹敵している。

「ところが、ほとんどの研究者は無料で査読することを不快に感じてはいない。けれども、無料奉仕した査読によって、出版社が巨額の利益を得ていることには不快に感じている。その利益が著者や学術界に配分されるなら、研究者の感じ方は変わると思います」とフィーニー教授は述べた。

★オープン査読:ケイオス(Qeios)

学術界の通貨はお金だけではない。

研究界での評判の良さ、影響力のある編集者との良好な関係、より広い学術コミュニティでの存在感などが、研究者として重要な価値だとされる。

多くの学術誌は査読者リストを公開しており、時には、「優れた査読者」と「多数査読者」を氏名を挙げて顕彰している。これらの顕彰は、学術界への貢献の証拠として履歴書に記載できるが、大学の委員会や同僚から実質的に良い評価を得られることはほとんどない。.

査読は匿名であるべきだという従来の理論も、10年以上にわたって議論されている。

オープン・サイエンスの人工知能プラットフォームである「Qeios (「ケイオス」と発音)」を、2019年に共同創設したガブリエレ・マリネロ社長(Gabriele Marinello、写真出典)は、査読者の氏名を開示する「オープン査読」自体がインセンティブになると考え、ケイオス(Qeios)ではすべての査読に査読者の氏名を開示している。

「非開示査読システム(blind review system)で運営している学術誌・編集者は、大多数の研究者は非開示査読システムを好むと言いますが、これは真実ではありません」と、マリネロ社長は批判した。

マリネロ社長は、さらに、ケイオス(Qeios)では査読者は2人または3人という古いやり方を避けているとも指摘した。

ケイオス(Qeios)では、人工知能(AI)を使ってウェブスクレイピング(Web scraping)し、投稿論文に似た論文を見つけ、その著者を査読者として自動的に招待する。

この方式では、基本的に、仲介者である編集委員は不要になり、人工知能(AI)を使って、プレプリントの査読に直行できる。

マリネロ社長によると、1つの投稿論文の審査が終わるころには、20~25人の適格な研究者による査読が期待できるとのことだ。

ケイオス(Qeios)のサーバーへの論文投稿と更新は無料で、人工知能(AI)を使った査読者募集サービスの料金は月額24.99ポンド(約 30.61 ドル、約3千円)である。

「査読システムは発足から約150年が経ったが、今でも同じ分野の研究者2~3人に査読を依存しています。私たちのケイオス(Qeios)では6倍の研究者数の査読を受けることができます。そしてレシピは、まさにオープンな査読です」とマリネロ社長は説明した。

査読は論文と一緒に掲載され、査読にも独自のDOI(Digital Object Identifier)が付与される。「DOI」はウェブ上に掲載された論文や文献に固有の番号(文字と数字からなる)を付与したもので、恒久的である。

査読にDOIを付与すると、査読そのものも論文と同じように引用や検索が可能になり、「Google Scholar」の検索登録も容易になり、査読担当者により多くのクレジットが提供される。

マリネロ社長によると、このシステムにより、査読者はより広いコミュニティで良い (または悪い) 評判を生み出すことができるし、また、著者と査読者が編集についてやり取りする機会も与えられる。

しかし、「非開示査読システム(blind review system)」と「オープンな開示査読システム」に対する研究者の意識調査を、「Winnower」がアンケート調査した結果、自分の名前を開示したいと思う人はわずか3%しかいなかった。 → The Winnower | A brief survey on peer review in scholarly communication

大多数の研究者は、査読で自分の氏名を公開するのは、皆が公開するならそれに倣うという程度だった。

なお、テニュア委員会と昇進委員会が査読を業績とみなすなら、努力する価値はあるとも述べた.。

また、多くの研究者は、査読を公開にすれば、査読の際の論文原稿への批評がより建設的で包括的になり、過度に批判的でなくなるので、良いことだと述べている。

ある回答者は、「査読が公開されていれば、際限のない実験を要求する査読が行なわれなかったと思います」と書いていた。

★British Medical Journal

ケイオス(Qeios)は、査読プロセスを公開した最初のプラットフォームではない。学術誌「British Medical Journal」(以下「BMJ」)は、20 年以上前に、段階的だが、査読の匿名性を廃止した。 

Groves T, Loder E. Prepublication histories and open peer review at The BMJ
BMJ 2014; 349 :g5394 doi:10.1136/bmj.g5394

「BMJ」は、多分、この方式を取り入れた最初の学術誌である。

現在、「BMJ」のウェブサイトでは、2014年以降に発行された論文の投稿原稿、編集者と査読者のやり取り、著者の回答、など論文出版前の完全な履歴を見ることができる。

学術誌の多くは編集者用のデータベースを持っていて、その1つに過去の査読者リストがあり、査読の適時性、応答性、専門知識を考慮したランキングが付けられている。

それでも、「BMJ」の臨床疫学編集者でハーバード大学医科大学院のエリザベス・ローダー準教授(Elizabeth W. Loder、写真出典)は、最良の査読者を見つける方法は、BMJ.com にアクセスして、過去の査読状況を見ることだと述べている。

デラウェア大学(University of Delaware)の研究担当副学部長で、 学術誌「Perspectives on Public Management and Governance」の編集者であるキンバリー・アイセット(Kimberley R. Isett)は、個人の査読記録もヒントになると述べている。

アイセットは、査読を一度も引き受けたことのない研究者が自分の論文原稿を投稿し査読を求めるのをどう思うか、仲間と議論したことがあった。

アイセットは、査読に貢献しない学術誌に出版する権利はない、という意見に賛成だと述べている。

「査読システムは、お互いの研究論文を査読し合うという相互扶助・合議性に基づいています。自分だけ他人の時間・エネルギー・知恵を受け取るだけで、他人には貢献しないのは問題だと思います」と批判した。

●9.【白楽の感想】

《1》無料奉仕 

査読は何年(何十年?)も前から問題視されているのになかなか改善されない。

無料奉仕はヘンだと白楽も思う。

白楽も現役時代に日本の学術誌から何度も依頼され何度も査読した。

一度だけ、査読終了後、千円(2千円?)をもらったことがあった。当時は原稿を郵送する時代で、国内の書留郵便(簡易書留?)・速達で送付した。その郵便代だったと思う。

ポスドクで米国に滞在中、一度だけボスに依頼されて査読をした。勿論、無料奉仕である。いい経験だとその時は感謝した。しかし、ボスが満足する査読ではなかったのだろう。2度と依頼されなかった。トホホ。

別の見方をすると、ポスドク滞在中、お蔭で査読に時間を取られず、自分の研究に集中できてよかったのかもしれない。

査読なんかしなくても、出版前の掲載予定論文(プレプリント)がウジャウジャ手に入り、最新情報にあふれていた。

《2》ハウツウ 

白楽の現役時代、米国の査読と日本の査読に大きな差があると感じた。

日本の編集者や査読者は査読のイロハを知らなさ過ぎる。

例はたくさんあって、書ききれないが、一例をあげる。

白楽は、トロポニンの発見者である江橋節郎の「重要な研究は日本の学術誌で発表する」哲学に惹かれ、意図的に日本の学術誌に論文(英語)を投稿した。

日本の学術誌に論文を投稿して1か月ほどした時、査読者(大阪大学の著名な教授)から直接、手紙をもらった。手紙の内容を詳しくは書けないが、投稿論文の内容に関する問い合わせだった。

ビックリした。

①査読者が誰だか著者にバレた。②査読者と著者が直接の連絡をした。の2点は、当時でもルール違反だったと思う。

2022年に起こった友田明美事件(福井大学・教授)の査読偽装はヒドイものだが、要するに日本の研究者は査読のイロハを知らなさ過ぎる人が多い(かった)。

日本では研究者として育つ過程で査読のノウハウを学ぶ機会も教育される機会もない。白楽は、英語のスタイルマニュアルを数冊買って独学で勉強した。

現代の研究者は査読のハウツウをどこで、どうやって学んでいるのだろう?

編集者は最低限、出版規範委員会(Committee on Publication Ethics:COPE)の基準を守ってもらいたいが、この「COPE」基準に違反する日本の学術誌がかなりある。編集者自身が出版規範を知らない・勉強していないのだと思う。 → 1‐5‐7 出版規範委員会(COPE) | 白楽の研究者倫理

一例をあげるだけのつもりだったが、白楽は書籍の編集者とも何度かトラブっている。

論文ではないが、大手出版社が学術書を出版する時、平気で盗用する編集者に出くわしたことがあったのだ。

白楽が著作権法違反になると指摘しても、「一介の研究者が何を言うか」という態度だったので、「では、執筆しません」と執筆を拒否した。

数年後、編集者が変わり、本は出版された。

《3》改善 

シルビア・グッドマン(Sylvia Goodman、写真出典)の今回の論文が示しているように、白楽は査読にお金を払うべきだし、査読も研究業績にカウントすべきだと思う。

方法として、クンスト教授の「アドバーンシス・イン社(Advances.in )」やガブリエレ・マリネロの「Qeios (「ケイオス」と発音)」も優れていると思う。

ただ、多数の研究者は保守的である。そして、世界の独占的な5学術出版社が現在の査読ビジネスモデルを強く維持しようとしている。

それで、一部の研究者が論文出版の改善策を述べても、なかなか普及しない。

大きく儲けることができ、多くの研究者を惹きつける新しい論文出版システムでなければ、独占的な5学術出版社を打ち負かせない。

なお、日本の研究者は保守的で、かつ、学術出版の問題に無関心である。それで、学術出版の改善策を述べても、日本ではまともな議論にならない。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少する。科学技術は衰退し、国・社会を動かす人間の質が劣化してしまった。回帰するには、科学技術と教育を基幹にし、堅実・健全で成熟した人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させる。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●10.【コメント】

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