2‐2 盗用のすべて

2020年9月30日改訂

ワンポイント:【長文注意】。盗用について日本で最良の解説(のつもりで書いた・・・が、読み直すとマダマダ。でも、長文なので、このへんで)。

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目次(赤字をクリックすると内部リンク先に飛びます)
1.盗用の種類
2.盗用ルール
 《1》盗用の基本ルール
 《2》自己盗用ルールと博士論文
 《3》大学の盗用ルール
 《4》学会の盗用ルールと解説
3.盗用の検出・証拠提示法
 《1》盗用検出
 《2》盗用証拠の提示法
4.盗用の具体例
5.盗用の許容範囲
 《1》盗用の許容範囲:一般論
 《2》盗用の許容範囲:ミゲル・ローチ
6.盗用の根本的に難しい点
7.白楽の感想
8.コメント
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【最初にガツンと一発】
盗用(とうよう、英語: Plagiarism)は、「研究不正(research misconduct)」(ネカト)の3つの内の1つである。大学教員、研究者、技術者、高校生・学部生・院生・ポスドクは、決して「してはいけない」。してしまうと致命的である。汚名は生涯にわたる。

●1.【盗用の種類】

文部科学省のルールでは、「盗用」を「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」と定義している。

文部科学省は「盗用の種類」について何も触れていない。日本の盗用のほぼすべての解説でも「盗用の種類」について何も触れていない。

実際の盗用で最も多いのは、文章(テキスト)の盗用である。他に、データ、画像、図表、研究成果(含・遺跡発掘品など)の盗用もある。他人の論文を丸ごと盗用した事件もそこそこある。

最も多い「文章(テキスト)の盗用」を主軸に、以下、盗用の種類を頻度順(推定)に述べる。

ウィキペディア日本語版(盗用 – Wikipedia)、英語版( Plagiarism – Wikipedia)、ドイツのヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)に、他の研究者の論文・見解(スティーブン・シェーファー(Steven Shafer)オリビア・バルデス(Olivia Valdes)デボラ・ヴィーバー=ヴルフ(Debora Weber-Wulff)マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)、その他)を加えて、白楽が整理した。

  1. 逐語盗用(コピペ:verbal plagiarism、direct plagiarism、copy and paste、word-for-word plagiarism、原典提示なし):数行、1文節、数ページ、数十ページのテキストを一字一句同じまま、原典を示さず、引用部分を示す「カギかっこ」「インテンド」「着色」「別フォント」などなしに、流用する。「数行」でも盗用だとされているが、「数行」の盗用が告発され、その後に盗用と認定されたケースはなかったと思う。
  2. 全文盗用(原典提示なし):逐語盗用の極端なケースで、著者や著者連絡先などを変え、他人の論文をほぼ全部、原典を示さず(当然ですが)、自分の論文として発表する。
  3. 言い換え盗用(paraphrase plagiarism、paraphrasing plagiarism)=加工盗用(ロゲッティング:rogeting)(原典提示なし):①原典の単語を同じ意味の別の単語に言い換える、②用語や単語の順序を変える、などの加工をし、原典の数行、1文節、数ページ、数十ページ、を原典を示さず流用する。
  4. モザイク盗用(mosaic plagiarism、原典提示なし)=パッチワーク盗用(patchwork plagiarism)=コラージュ盗用(collage plagiarism):引用符や原典を示さず、別の文章から、数行、1文節(ある部分は逐語的コピー、ある部分は言い換え)を集め、つなぎ合わせ、自分が書いた文章とする。
    例えば、科学英語に不自由な人が、自分の書きたいことを英語論文でどう書かれているのか、インターネットで英文を探し、その部分をコピペする。1つの論文から一部をコピペし、別の論文から別の部分をコピペし、さらに別の論文と、たくさんの論文の部分部分をつなぎ合わせ、自分の論文にする。勿論、あちこちの日本語論文から日本語文章の部分を集め、つなぎ合わせ、自分の日本語論文を完成する場合も該当する。
  5. 曖昧盗用(ポーン・サクリファイス pawn sacrifice、捨て駒盗用、原典提示あり):出典は書いてあるが、どの部分が流用した文章なのか文章中にわかるように示しておらず、結果として、自分の文章のように記述している。
  6. 研究室内盗用(intra-institutional plagiarism):同じ研究室の修士論文・博士論文を後輩が盗用する。論文が外部に公表されないと盗用検出は困難。
  7. 翻訳盗用(translation plagiarism、原典提示なし):例えば、英語論文を日本語に訳し、原典を示さず、自分の文章として使用する。英語と限らず、全ての言語間の翻訳に適用される。
  8. 要約盗用(compression plagiarism、原典提示なし):論文・書籍・出版物の長い文章を短く要約し、原典を示さず自分の論文として発表する。参考:マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)
  9. 知的盗用(intellectual plagiarism):他人が出版した論文のアイデアを、引用しないで、自分のアイデアとして発表する。①洞察力に富んだ分析(copying an insightful analysis from another paper)、②独特で優れた比喩的表現(using an unusual and clever metaphor developed by another author)。参考:スティーブン・シェーファー(Steven Shafer)

     

    ーーー以下は[「罰せられる盗用」ではない場合がある]ーーー

  10. 自己盗用(self-plagiarism、原典提示なし)[規則違反ではない?]:逐語盗用や言い換え盗用の1つのケースで、既に発表した自分の文章、研究結果を、原典を示さず他の出版物に発表する。 → 自己盗用は規則がバラバラなので、2章で詳細に説明する。

     

    ーーー以下は[「罰せられる盗用」ではない]ーーー

  11. ウッカリ盗用(accidental plagiarism、偶然盗用)[規則違反ではない]:①出典を間違えた、②出典をウッカリ記載し忘れた(痕跡などで確認可)、ことにより、偶然、結果的に盗用になった。原因は、時間切れで作成した論文、ズサンな執筆計画、重大な不注意などである。盗用の意図はなかったとしても、「ウッカリ盗用」と証明できなければ(認定されなければ)、「罰せられる盗用」になる可能性は高い。
  12. 技術的盗用(technical plagiarism)[規則違反ではない]: スティーブン・シェーファー教授が指摘した。技術的盗用は字句の流用ではなく、原著者を適切にクレジットしていない行為である。著者は原典を引用しているので、原著者のアイデアや概念を盗むつもりはなかったと思われる。しかし、文章で原著者にクレジットを与えていないので、結果として、技術的に盗用したことになる。
    例示しよう。先行研究のAlkire教授の洞察をAlkire教授の論文(1)を引用して、「意識下の経験は、真っ暗闇な中での経験であっても、とても有益な情報になる(1)」と書いたとする。著者はAlkire教授の論文を「(1)」と引用しているので、盗むつもりはなかったのだろう。しかし、この文章は、「技術的盗用」に該当する。というのは、この文章では、文言でAlkire教授にクレジットを与えていない。本来は、「Alkire教授が指摘したように、意識下の経験は、真っ暗闇な中での経験であっても、とても有益な情報になる(1)」と書くべきなのだ。参考:スティーブン・シェーファー(Steven Shafer)
  13. 逆盗用(reverse plagiarism)[規則違反ではない]:著者ではない人に誤って著作権を与えた場合、または、情報源ではない論文・人を誤って情報源とすること。「ズサン」「不注意」「間違い」である。参考:ロイ・ピーター・クラーク(Roy Peter Clark)

1つの論文に上記の複数種の盗用を混用するケースもある。

一般的に、盗用事件で告発されるのは1番目の逐語盗用がほとんどである。2番目の全文盗用も告発されるが、事件数は少ない。

盗用検出ソフトで検出可能なのは、基本的に、1番目の逐語盗用と2番目の全文盗用だけだが、3番目の言い換え盗用も類語辞典を装備したソフトだと、検出する可能性はある。ただ、逐語盗用 や全文盗用であっても、PDF化された文書は検出できない。

マイケル・ドハティ(Michael Dougherty)の2020年9月刊の著書『Disguised Academic Plagiarism(変装している学術盗用)』では以下の盗用種も挙げている(3ページ目、出典:https://www.amazon.com/Disguised-Academic-Plagiarism-Researchers-SpringerBriefs/dp/3030467104/)。

上記のドハティの盗用種の最初の2種「翻訳盗用(translation plagiarism)」と「要約盗用(compression plagiarism)」は白楽が整理した13件の盗用種リストに入れてあるが、他の4種は入れてない。今後、様子を見て、加えるかもしれない。

●2.【盗用ルール】

盗用ルールの基本は「2 ネカト」に書いた。ここでは一部再掲しつつ、詳しく見ていこう。

《1》盗用の基本ルール

★文部科学省の盗用ルール

再掲するが、文部科学省のルールでは、「盗用」を「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」と定義している。

文部科学省に恨みはないが、文部科学省のルールの完成度はイマイチである。基本的には優れているのだが、ツメが甘い。以下、批判的に書くが、内容を深く理解するためである。

まず、「1章.【盗用の種類】」でたくさんの盗用の種類を示した。しかし、文部科学省のルールは、どの種類の盗用を指すのか示しておらず、全くわからない。

また、文部科学省のルールの、「アイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文」の範囲がわからない、「用語」は何を指すのか、「適切な表示」とは具体的に何をどのようになのか、「流用」はどの程度の量なのか、わからない。

現場の研究者は困惑する。大学・研究機関がネカト調査をする場合、判断の振れ幅が大きく、ネカト調査委員の胸先三寸で決まる部分が大きい。これでは、定義もルールも価値が低い。威厳がない。

これらの問題点を意識しつつ、盗用の詳細を見ていこう。

まず、文部科学省のルールの上位にある著作権法である。まず、それを読み解こう。 

★著作権法

日本の法律に著作権法があり、違反すると逮捕され、10年以下の懲役、または1,000万円以下の罰金が科される。もちろん、文部科学省のガイドラインより上位の効力がある法律である。

本記事では解説しないが、勿論、米国にも著作権法があり、(著作権法 (アメリカ合衆国) – Wikipedia)、各国に著作権法(copyright law)がある(Category:Copyright law by country – Wikipedia

参議院文教科学委員会調査室の平田容章(にらた ひろあき)が述べたように、「盗用」は、通常、法が禁じる犯罪には該当しない。ただし、「著作権及び著作者人格権」を侵害するなど顕著な場合は法に抵触すると述べている。

著作権及び著作者人格権を侵害した場合、著作権法上の差止請求、損害賠償請求、名誉回復等に必要な措置の請求を受け、罰則を科される可能性がある。

ただし著作権法の保護の対象は「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条)であるため、他の研究者等の研究成果やアイデアに基づく記述が論文にあったとしても、他者の著作物と同一又は実質的に同一の表現である、又は翻案であると認められない限り、著作権及び著作者人格権の侵害にはならない。(出典:平田容章:「研究活動にかかわる不正行為」、立法と調査、10 No.261、112-121(2006) https://www.sangiin.go.jp/japanese/annai/chousa/rippou_chousa/backnumber/2006pdf/20061027112.pdf

なお、文部科学省のルールではアイデアを盗用の対象にしているが、著作権法では対象外である。

学説やアイデアというようなものがどれほど独創的なものであっても,そのアイデア自体は,著作権法上は保護の対象外ということになります。(2013年9月25日:横浜地方・家庭裁判所川崎支部長 判事 髙部 眞規子:「著作権法の守備範囲」)。

★引用すれば盗用ではない

著作権法」の関連項目を見ていこう。

第三十二条(引用)
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。

日本の著作権法では、批評や研究の著作物(論文、著書、他)は、引用すれば、他人の著作物を合法的に利用できる。

科学界・技術界・学術界での規則・規範も、引用すれば他人の著作物を利用してよいとしている。

★“無断引用”というヘンな用語

どういうわけか、一般社会では「無断引用」だと非難する文章がかつてはたくさんあった。

「無断引用」は「撞着語法 – Wikipedia(どうちゃくごほう)」で、現在はこの用語を使って非難する人は少なくなったが、使われている悪弊を、今でも時々、見かける。

科学・技術・学術に関して発表・提出した文書に他人の著作物を利用する場合、「本人に断って」引用することはあり得ない。ほぼ、100%、「無断」で「引用」する。「無断」で「引用」するのは、合法で、不正でもなく、通常である。

楊井人文の指摘。

STAP細胞論文に疑惑の目が向けられている。メディアの報道が熱を帯びる中、「無断引用」という表現が飛び交っている。結論からいえば、これは間違った表現だ。元来、「引用」は無断でできる。とりわけ学術論文で先行研究の引用は欠かせないが、すべて無断だ。だから「無断引用」なる表現自体がおかしい。こうした表現が流布すると、無断で引用することが不適切なこと、違法なことだと誤解する人が出てきかねない。(出典:2014年4月3日の楊井人文の記事:「無断引用」は誤用か、メディアの造語か | GoHoo

西原史暁 (Fumiaki Nishihara)の指摘。

「無断引用」という表現が各所で用いられているが、この表現は正確でなく誤解を招きやすいので、使うのはやめるべきだと思う。・・・中略・・・。引用という行為は、引用の作法を守っているかぎり、法的にも倫理的にも何ら問題のない行為である。そして、引用は基本的に無断で行われる。わざわざ出典の著者の許可をとらないのである。つまり、無断で行われる引用は全く正常な行為であり、研究上の不正ではない。。(出典:2014年3月16日の西原史暁 (Fumiaki Nishihara)の記事:「無断引用」という表現はやめよう|Colorless Green Ideas、(保存版))

★共著論文の盗用

間違える人がいるといけないので述べておく。

共著論文の著者であっても、自分が執筆していない共著論文中の文章に著作権はない。

以下の文章・内容はほぼ全文、白楽ブログから流用した。出典 → 5A 名古屋大学・博士論文の盗用疑惑事件 | 白楽の研究者倫理

2020年8月、名古屋大学・公正研究委員会は次のような、奇妙な判定をした。文言をわかりやすくしたが、要するに以下のようだ。

共著論文で分担の記載がなければ、共著者の誰もが共著論文の「研究内容と文章」を「自分の研究内容と文章」としてよい。つまり、「他人の」ではないので、「自分の」論文に使っても「盗用」に該当しない。

しかし、著作権法の第二条(定義)で、著作者は「著作物を創作する者をいう」とある。

つまり、文章を書いた人が著作者である。共著論文でも、自分が書いていない部分は著作者ではない。つまり、「他人の文章」である。

共著論文で訂正、編集、上書きなどで、複数の共著者による混然一体の文章になった場合は、著作権法第六十四条(共同著作物の著作者人格権の行使)が次のように定めている。

共同著作物の著作者人格権は、著作者全員の合意によらなければ、行使することができない。

つまり、複数の共著者による混然一体の文章の著作権を行使するには、著者全員の許諾が必要である。

あるいは、責任著者(Corresponding author)が代表者になって著作権を行使することができる。

つまり、共著者の誰もが共著論文の「研究内容と文章」を「自分の研究内容と文章」としてよいことにはならない。

基本は、自分が書いた文章に著作権はあるが、他人が書いた文章には著作権はない。共著論文でもそれは同じということだ。

★米国の盗用ルールと日米比較

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本節の文章と内容はほぼ全部、「盗用 – Wikipedia」(最初の文章は白楽が書いた)を利用した。ほぼ全部なので、個々の引用部分を示さなかった。

米国は、2000年12月6日、大統領府科学技術政策局(OSTP: Office of Science and Technology Policy)が連邦政府規律(Federal Research Misconduct Policy)を発表した。この規律が米国の基本で、米国のすべての政府機関はこの連邦政府規律に従う。

これを米国政府のルールとしよう。 → Federal Register / Vol. 70, No. 94 / Tuesday, May 17, 2005 / Rules and Regulations、のページ28,386「§ 93.103 Research misconduct」。

英語の文章

  • 93.103 Research misconduct.

Research misconduct means fabrication, falsification, or plagiarism in proposing, performing, or reviewing research, or in reporting research results.
(a) Fabrication is making up data or results and recording or reporting them.
(b) Falsification is manipulating research materials, equipment, or processes, or changing or omitting data
(c) Plagiarism is the appropriation of another person’s ideas, processes, results, or words without giving appropriate credit.

(d) Research misconduct does not include honest error or differences of opinion. 
— Federal Register / Vol. 70, No. 94 / Tuesday, May 17, 2005 / Rules and Regulations、28,386ページ

白楽が上の盗用の部分(c)関連部分(最初の2行とd)、以下に愚訳した。

盗用は、他人のアイデア、作業過程、結果、語群を、適切なクレジットなしに自分のものとし、自分の研究の提案、実行、評価、結果発表に使うことである。ただし誠実な間違い及び意見の相違は含まれない。

訳しても、用語を説明しないとわかりにくい。

ミシガン大学名誉教授のゲイル・ダマー(Gail M. Dummer)が、院生向けに上記の「盗用の定義」を解説した(保存版)。その解説を借りよう。

  •  「適切なクレジット」とは
    ①オリジナル文書(原典)の著者、作者、研究者、学者の名前を示すこと
    ②他の研究者が原典を探せるための書誌情報を記述すること
    ③その研究分野の標準的な引用規範に従うこと
    ④直接の引用は引用符で囲むこと
    である。
  • アイデア」とは、学会発表、非公開の機密書類の審査などで得たオリジナルな情報・考案である。
  •  「作業過程」とは、他の研究者が書いた方法(実験法・分析法・研究法など)で、まだ、その分野の共通知識となっていない方法である。
  •  「結果」とは、他の研究者の研究結果であるデータ、図、表、分析、解釈である。
  •  「語群」の「盗用」とは、4~6個以上の連続した単語の複製、フレーズの編成替え、大幅な言い換えである。

研究公正局の「盗用の定義」(ORI Policy on Plagiarism | ORI – The Office of Research Integrity)は上記を踏まえ次のようである。

  • 公衆衛生局(PHS)の「盗用の定義」を踏襲するが、「盗用」の扱いに少しあいまいな点があるので、研究公正局の考えを示す。
  • 盗用は、「知的財産の盗み・横領」、そして、「他人の研究成果を実質的に出所不明にして複製する」ことである。著者在順や研究成果所有権に関する問題は対象外である。
  • 「知的財産の盗み・横領」は、研究費申請書の審査や投稿論文の査読など、特権的立場で得たアイデアや分析・解析方法を含む。
  • 「他人の研究成果を実質的に出所不明にして複製する」は、他人の文書のセンテンスやパラグラフを一字一句、あるいはほぼ一字一句、出所不明にして複製し、誰が著者なのかに関して、通常の読者を誤解させる行為である。研究公正局は、「通常使用される実験法」や「先行研究」の文章と同じフレーズ、あるいは、ほとんど同じフレーズの限定的使用は問題視しない。そういう使用が、読者に重要な誤解を与えるとは考えないからである。
  • 後に、「研究費申請書の審査や投稿論文の査読など、特権的立場で得たアイデアや分析・解析方法」であっても、引用すれば「盗用」ではないと改訂した。

「盗用の定義」に関して、研究公正局(ORI)のユニークな点は次の2点だ。

  • 著者在順や研究成果所有権に関する問題は対象外。
  • 「通常使用される実験法」や「先行研究」の文章と同じフレーズ、あるいは、ほとんど同じフレーズの限定的使用は、問題視しない。

この2点は、現実的でとても良い。日本のルールも見習ってほしい。

★盗用ルール:インド

盗用ルールは米国の研究公正局のルールが世界に通用するが、国、出版社、組織によってかなり異なる。

異なる1例として、以下にインドの基準を示す。

インドでは、大学助成委員会(UGC:University Grants Commission、写真出典)が盗用ルールを決めている。 → Welcome to UGC, New Delhi, India

 2018年7月23日、独創性を促進しネカトを罰する規則「高等教育機関での盗用の防止と研究公正の推進:Promotion of Academic Integrity and Prevention of Plagiarism in Higher Educational Institutions)」を制定した。(背景などは → インドの研究ネカト問題 | 白楽の研究者倫理

そのインドの盗用ルールは、「10%以下の盗用は許容する。処罰なし」である。

「コア部分の文章から連続した10単語を流用する場合、引用する」。

「40単語以上の文章を流用する場合、イタリックにし、引用符(“_”)で囲む」。

白楽が思うに、「10%以下の盗用は許容する。処罰なし」は、現実的で優れている。

《2》自己盗用ルールと博士論文

★自己盗用(self-plagiarism)は盗用か?

この項目の文章は「スティーヴン・マシューズ(Stephen Matthews)(カナダ) | 白楽の研究者倫理」の再掲です。

ここでの根本的問題は、「自己盗用(self-plagiarism)は盗用なのか?」ということだ。

日本では、この問題を検討し適切な基準を設けて十分に説明している組織(政府・大学・学会)がない。従って、文部科学省の規則にも言及がない。

白楽の意見を先に述べるが、自己盗用(self-plagiarism)を盗用と区別すべきだと考えている。いくつかの手順を踏んた自己盗用(self-plagiarism)は盗用ではないし研究クログレイでもないと考える。

特に、“総説(review)”の場合は、過去の出版物のまとめなので、データはほぼすべて既出だ。となれば、文章はどう書いても酷似する。再使用文章を引用符で囲うのは文章としては読みにくいし、自己盗用なら不要だろう。文献として引用するだけで問題ない。

原著論文でも、論文の本質的な部分でなければ、文章を再使用しても問題ない。他人の論文でも、文献を引用し、「材料・方法」「文献」をそのまま使用しても良いと考える。「序論」もかなり使用しても良いだろう。自分の文章の再使用(自己盗用)がいけない学術的な理由は思いつかない。

自己盗用が規範違反という理由は、著作権違反ということになるが、これは、出版社の収入が減るという出版社の利権問題であって、研究公正性とは次元が異なる。

自分で書いた文章を一定の範囲内で本人が再使用し、自己盗用しても、研究内容に間違いや誤解が生じることは一切ないので、学術システムが崩壊する危険性はない。

いずれにせよ、学術界は議論し、ルールを決め、研究者や大学院生に周知させるべきである。

米国・研究公正局は、著者本人の過去の学術出版、論文、書籍に使ったアイデア・文章・図表・結果を著者本人が引用しないで自己盗用しても、「盗用」扱いにしていない。著者以外の人が引用しないで発表した時だけを盗用としている(Alan R. Price (2006). “Cases of Plagiarism Handled by the United States Office of Research Integrity 1992-2005”. Ann Arbor, MI: MPublishing, University of Michigan Library 1)。

米国の研究倫理学者のデイビッド・レスニック(David Resnik)は、「自己盗用は不誠実な行為だが、盗みではないと述べている(Resnik, David B. (1998). The Ethics of Science: an introduction, London: Routledge. p.177, notes to chapter six, note 3. Online via Google Books)。

白楽は、自己盗用を「不誠実な行為」とも思わない。新たな文章やデータを無駄に作る方がバカバカしいと思う。何度も言うが、研究論文は、小説などの文芸作品とは異なり、重要なのは発表する研究結果の中身である。文章はそれを適切に伝えるための道具であって、オリジルかどうかはどうでもいい。芸術的な美しさはあっても良いが必須ではない。

facultyPhoto2米国・カリフォルニア大学のパメラ・サムエルソン(Pamela Samuelson、写真出典)教授は、知的財産を専門とし、盗用や自己盗用に関する法的、倫理的規制の権威である。

彼女は、1994年に、文書(論文など)が自己盗用されても許容される4条件を書いている(Samuelson, Pamela (August 1994). “Self-plagiarism or fair use?“. Communications of the ACM 37 (8): 21?5. doi:10.1145/179606.179731)。

  1. 新しい文書(論文など)の新しい成果は、先行文書(論文などを土台にしていること。
  2. 新しい文書(論文など)の新しい証拠や議論のために先行文書(論文など)を再記述しなければならない場合。
  3. 新たな読者・聴衆は、以前、先行文書(論文など)で研究成果を伝えた読者・聴衆とは大きく異なり、同じ内容の研究成果を伝えても、重複しないこと。新たな読者・聴衆に伝えるためには、同じ内容の文書を別の場(研究ジャーナルなど)で発表をしなければならない場合。
  4. 最初の文章がとても良く書けていて、次回の文書で、文章を大きく変える意味がない場合。

★自己盗用(self-plagiarism)

上記と重複するけど、なんか整理できずに・・・。

文部科学省の盗用ルールは、「他の研究者の・・・」とあるので、自分の文書、データ、図、表を再利用する自己盗用は、文部科学省としては不正ではない。

研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)も、自己盗用を不正ではないとしている。

しかし、自己盗用を不正とする学術誌や大学・研究機関はかなりある。

研究者が出版社に論文原稿を投稿し、受理されると、出版社は論文を学術誌に掲載する。この際、一般的に、研究者は出版社に著作権を譲渡する。そして、出版社こが得た論文の出版権は排他的・独占的な権利なので、他の出版社は、その論文を出版できない。

この例でわかるように、著者に著作権があるからと言って、同じ文章をあちこちに出版することはできない。つまり、重複出版や自己盗用は禁じられている。

では、論文そっくりではなく、論文の一部である数行、1文節ではどうだろうか? 数ページでは? という問題が生じる。

ウィキペディアの「自己盗用 – Wikipedia」(最初の文章は白楽が書いた)を以下に流用する。

自己盗用(じことうよう、英: Self-plagiarism)とは、自分の文書(学術出版、論文、書籍、レポート、申請書など)やデータ、図、表と全く同じもの、あるいは、少し改変したものを、原典の引用なしに、自分で再使用し、発表・文書化する行為である。原則的には盗用とみなされ、研究公正・研究倫理違反とされる。しかし、違反としない人・機関もあり、問題点が多い。

研究者は、学会の口頭発表では、オリジナルな結果を発表することになっている。従って、全く同じ内容を別々の学会で何度も発表するのは倫理違反である。しかし、過去のスライドを何割までなら再発表してよいのか? 8割は多すぎる、5割以下だ、などの議論や規定はないし、チェック・システムも、公式なペナルティもない。ただ、「いつも同じ発表をしている」と、研究者仲間の評判を落とす。

では、論文ではどうだろう。研究者は、自分のデータ、図、表、文章、研究結果などを、引用せずに、あたかも自分が新たに書いた(新たに発見した)かのように、何度も何度も別の論文に記述し、発表してよいのだろうか?

引用せずに、自分の文章を別の出版物に自分の文章として再発表することは、研究倫理違反なのかどうか、日本では、ほとんど論じられていない。

デイヴィッド・レスニック(David B. Resnik)は「自己盗用は不誠実な行為だが、盗用ではない」と述べている。 →  Resnik, David B. (1998). ”The Ethics of Science: an introduction”, London: Routledge. p.177, notes to chapter six, note 3. :http://books.google.co.uk/books?id=zMn2KxPQyk8C&lpg=PA177&dq=%22self-plagiarism%22&lr=&pg=PA177 Online via Google Books

さらに、言語を変えて自分の文章を再発表することの是非、つまり、自分の英語文章を自分の日本語文章にして出版する行為、その逆に、自分の日本語文章を自分の英語文章にして出版する行為を、自己盗用の視点ではあまり議論していない。議論しないまま、規則化している日本の機関も少しある。

★博士論文と自己盗用

日本語で書いた博士論文の構成と内容を英語の学術誌に論文として発表してよいか?

逆に、日本語や英語の学術誌に論文として発表した論文の構成と内容を、日本の大学に提出する博士論文にしてもよいか?

この問題は微妙である。ルールは、国、出版社、組織によってかなり異なる。現在、日本の大学の統一ルールがない。

しかし、大きな変化は、2013年、日本の博士論文はインターネットで公表するのが原則になったことだ。

学術誌に日本語の論文として発表した論文を逐語流用し、日本の大学に提出する博士論文とし、その博士論文がインターネットで公表されると、原則的に、著作権法違反になる。

名古屋大学は後述する京都大学のような指導をしていないためだと思うが、著作権違犯になりそうな博士論文事件が起こっている。 → 5A 名古屋大学・博士論文の盗用疑惑事件 | 白楽の研究者倫理

自分が書き、学術誌に発表した論文の著作権は著作者にあるが、契約で、著作権を出版社に譲渡している場合が多い。

それで、博士論文を提出する(した)大学と論文を発表する(した)学術誌の両方の規則を順守する必要がある。

東京大学は、この問題を丁寧に説明している。 → 2014 年 4 月 7 日:博士論文と著作権(第3版)、(保存版

一方、京都大学は、「学術誌に発表した根拠論文をコピペして博士論文とするな」、としている。つまり、自己盗用はダメだとしている。 → 論文目録・履歴書作成上の注意事項、(保存版

京都大学の説明の一部を以下に貼り付けた。

論文の内容について

Q.学位論文はなぜ根拠論文の「コピー&ペースト」ではいけないのでしょうか?

A.学位論文は学位申請者の単著論文です。申請者自身の考えに基づき作成する論文です。従って、根拠論文とは本文や図表が同一でないのは当然です。

Q.学位論文の作成にあたっては、根拠論文に含まれているデータを当然含めて作成します。根拠論文の「コピー&ペースト」ではなく、かつ「単著論文である博士学位論文として適切な記述と図表」とはどのような記述と図表なのでしょうか?

A.以下のような点に留意すればよいでしょう。
例1:根拠論文では補遺になっているデータを、学位論文の「結果」の中で示し、記述する。
例2:必要に応じて適切な形で、根拠論文にはない図表を加え、記述する。具体例としては、序論に背景説明の図表を加える、図表を用いて方法を説明する、申請者の修士課程時代のデータまたは博士後期課程時代の未発表データを加えて記述する、あるいは考察にモデル図を加えて議論するなどです。指導教員と議論して検討して下さい。

Q.どのような場合に根拠論文の「コピー&ペースト」であると判断されるのでしょうか?

A.以下のような場合は根拠論文の「コピー&ペースト」であると判断され、学位論文とは認められません。あくまで例であり、以下の場合が全てではありません。
例1:序論、結果、考察、方法など、根拠論文の英文を学位論文に章単位でほぼ丸写しした場合。
例2:図表内のアイテム、図表のレイアウト、そして図表の点数が、根拠論文と全く同じ図表のみから構成されている場合。すなわち、完全な複製。

京都大学の基準は、かなり厳しく、現状と合わない気もするが、この方針が正しいのが現実だ。とはいえ、白楽は、学術界と出版界が協議して、もっと現実的なルールを策定した方がよいと思う。

《3》大学の盗用ルール

教育の場での盗用は、学部生・院生の研究レポート・学会発表・学術論文などの研究関連文書が対象になるが、盗用は研究論文などの学術的文章に限定されるものではない。

学部生・院生が、授業で提出するレポート、学部生の卒業論文、院生の修士論文・博士論文も対象になる。

これらの文書に、他人の文章、データ、図、表、画像、研究結果、コンピュータ・ソースコードなどを、あたかも自分が書いた・作った・得たかのように使うことは「盗用」である。

但し、学生実験などの共同作業で、チーム内の他人が共同作業として得たデータ、図、表、画像、研究結果、コンピュータ・ソースコードなどを自分(のチーム)の成果としてレポートに使用するのは「盗用」にあたらない。

教育の場での盗用は、米国ではカンニングと並ぶ重大な学則違反で、高校生・学部生・院生が大きな盗用をすれば、ほぼ退学処分になる。

日本では、学部生・院生が研究成果を外部に発表する研究関連文書(研究レポート・学会発表・学術論文)は問題視されたが、学内提出レポートや卒業論文レベルだと、従来は、問題視されなかった。高校ではまったく問題視されなかった。

教育の場での盗用は、カンニングと同レベルの「してはいけない」行為だが、日本の高校・大学は「盗用」を充分検討してこなかったので、学則で禁止していた高校・大学は少なかった。従って、「してはいけない」規則として高校生・学部生・院生に教育と注意を十分には喚起してこなかった。

しかし、最近、学則で禁止する事項として取り上げられ、「けん責」、「停学」、「退学」処分されるようになった。

以前、日本全国の大学を調査した時、大学の規則に「盗用」という用語がなく、当然、「盗用」の説明がない大学がいくつもあった。つまり、大学によって盗用に対する姿勢は大きく異なっていた。

規則を定めている大学の盗用ルールは、当然ながら、文部科学省のルールと著作権法の範囲内で盗用ルールを定めている。

そして、文部科学省のルールと著作権法よりも圧倒的に具体的で、わかりやすく、現場に沿った立場で解説している大学もある。

早稲田大学(私立大学、1920年設立)と広島大学(国立大学、1949年設立)は特に優れていた。両大学の例を一部抜粋して以下に挙げる。

★広島大学

広島大学は「研究倫理案内」をウェブで公開している。この「研究倫理案内」は日本語だけでなく、英語版、中国語版がある点が優れている。

◆ 盗用

取り上げる研究テーマにおいて先行する論文や著作(文章・図表・写真など)を参照する場合,それらを「引用」というかたちで自分の文章と明確に区別し,参照した論文・著作のタイトル・著者・発表年・出版元・該当箇所(ページなど)を明記しなければなりません。

意図的に引用元を明記しないこと,また区別を曖昧にしたり加工したりすることはもちろん,たとえ不注意で引用し忘れた・該当箇所を書き忘れたとしても,それは「盗用」の中の「剽窃」に当たります。学術論文での引用には,細心の注意を払わなければなりません。

◆ 論文中に用いる写真やグラフなどの不適切な掲載

論文中に掲載する写真は,作今のデジタル化の発達に伴い,デジタル写真を用いる事ができますが,その画像を修正する場合にも注意が必要です。共焦点レーザー顕微鏡などは,取り込んだデータを重ね合わせてシグナルを強調させることなどができます。このように現在の機器は,多様な修飾をする事が可能になっています。例えばデータを重ね合わせる場合でも,実験区と対象区でその重ね合わせの数を変えれば,差の無いデータでも,簡単に差のあるように示すことができます。主に下記のようなことは行ってはいけません。
 ・都合の良いように写真の形態を変えたり,明るさを部分的に変える等の行為
 ・異なる実験データや写真を,一つの実験結果のように結合する行為
 ・画像の一部分のみに修正を加える(ゴミと言われるものの削除などもこれにあたる)
 ・電気泳動のうすいバンドを,明るさを修正することにより消す操作

ただし,全ての操作で修正処理前のデータを保存してあり,かつ,実験区と対象区を同じように直線的に,いつでも元に戻せる修正を行うことが可能な場合には,そのような操作を行った事を論文の方法の所で明らかにすれば,許されている場合が多いようです。

★早稲田大学

大学全体では、早稲田大学・メディアネットワークセンター(2014年3月31日廃止)の『アカデミックリテラシー2008』が日本語・英語で丁寧に記載している。

「第3章 情報倫理」の62頁「文書作成と著作権」で以下の説明がある。

文章について、他者の書いた文章を自分の文章の中に取り込むことは、引用という方式なら認められています(著作権法第32 条)。ただし、引用として認められるには以下の条件をすべて満たしている必要があります。

• その著作物を引用する必然性がある。
• 自分の著作物と引用部分が明確に区別できる。
• 引用された著作物の出典、著作者名などが明記されている。
• 自分の著作物と引用する著作物の主従関係が明確にされている。
• 原則として原形を保持し、改変して使用する場合はその旨を明記する。

「必然性がある」とは、脈絡なく引用していいわけではないということです。引用する必然性もなしに、これは引用だと言い張れば、何でも複製できることになってしまうからです。「自分の著作物と引用部分が明確に区別できる」とは、例えば短い文章であれば括弧でくくる、という方法が良いでしょうし、少々長い文章であれば段落を変え、字下げをして前後の段落から少し引用文章の段落を離してやるといった方法がよくとられます。

・・・中略・・・

さて、出所の明示ですが、最後にまとめて参考文献としてあげるのでは不十分です。それぞれの引用部分に対応して出所を明示する必要があります。つまり、文章のうちどの部分が、どの文献から引用されているのかが明らかになっていなければいけません。この表示の仕方は学問分野や学会によって様々に異なります。

第6 章「レポート・論文と作成支援」の111頁「6.5 これだけはやるな」で盗用(剽窃)は処分されると警告している。

早稲田大学では、(試験の代わりに行われる)レポート(論文考査)、卒業論文、修士論文、博士論文などで剽窃が明らかになった場合、試験での不正行為と同様に扱います。この場合、不正行為が行われていた時点で履修しているすべての科目を無効とするほか、3ヶ月の停学を基準とする処分が学部等の各箇所で行われることになっています(2005 年12 月学部長会申し合わせ、2007 年10 月教務主任会確認)。

また卒業後に卒業、修士、博士論文等において不正が発覚した場合でも、学位が取り消される場合があります。

さらに部局でも説明している。一例をあげる。「早稲田大学政治経済学部 <重要>レポートにおける盗用・剽窃行為について」(2014年5月9日閲覧、2020年8月29日リンク切れ。保存版をご覧ください)。

レポートとは、課題図書、参考文献、資料などを読み、調べ、必要に応じてその内容を整理し要約した上で、自分の文章で自分の考えを述べたものです。書物やウェブ上のサイトからの、他人の文章の抜書きや丸写しは、レポートではありません。

もちろん、ウェブ上の他人の文章をそのままコピー&ペーストしただけのもの、あるいは一部でもそうした部分を含むものをレポートとして提出することは許されません。これは、試験におけるいわゆるカンニング(他人の答案や持込の禁止されている資料を写すこと)と同様、不正行為に当たります。

ただし、他人の文章やアイディアをまったく利用してはならない、ということではもちろんありません。「引用」と「盗用」あるいは「剽窃」とは違います。

レポートのなかで他人の文章をそのまま借用したり、あるいはレポートの中心になる重要なアイディアを他人の文章に頼ったりした場合は、その文章の出所を(つまり、だれがどこに書いた文章であるかを)、引用や参照のルールにのっとって示し、その部分は自分の書いた文章(あるいは自分で考えたアイディア)ではなくて、誰かから借りたものであることを明らかにする必要があるのです。

この要件を満たせば、「引用」といえます。他人から借りた文章やアイディアの出所を示さずに、自分の書いたものとして(自分の名前と学籍番号を書いて)提出すると、「盗用」または「剽窃」となるのです。

《4》学会の盗用ルールと解説

ここの文章は「2‐1 ねつ造・改ざんのすべて | 白楽の研究者倫理」と同じ文章である。

学会のルールを少しだけ示す。ルールには「ねつ造・改ざん」も入ったネカト規則である。

★日本の学会のネカト規則

日本の学会はネカト規則を定めて公表している学会、ネカト規則を定めていない学会などさまざまである。つまり、学会によってネカトに対する姿勢は大きく異なっている。

以前調査した時、日本化学会は特に優れていた。日本化学会の例を以下に挙げる。

以下は、日本化学会の「会員行動規範」のネカト規則の部分である。

 1.論文の著者として

1)著者の主要な義務は、行った研究の正確な説明とその意味の客観的な議論を提示することである。論文に記載するデータの偽造、ねつ造や他の著者の文献からの盗用を行ってはならない。

2)著者はその研究の背景となる以前の研究や、その研究を他の研究者が繰り返すために必要な情報の出所を明らかにしなければならない。また、関連する他者の重要な貢献を無視するような不適切な引用を行ってはならない。

3)研究に使う物質、装置、手順に特別な危険の怖れがある場合にはそれらを明示しなければならない。

4)本質的に同じ研究を報告した論文原稿を複数の雑誌に投稿してはならない。

5)論文の共著者は、その研究に重要な科学的寄与をし、結果に対して責任と説明義務を共有するすべての者とすべきである。

●3.【盗用の検出・証拠提示法】

《1》盗用検出

盗用は、デジタルツールである程度、検出できる。

盗用検出ソフトには、有料ソフトと無料ソフトがある。

有料ソフトの代表的なのは、アイセンティケイト(iThenticate)で、2004年に導入されてから盗用(の発覚)は急速に上昇した。 → IThenticate – Wikipedia

無料ソフトは興亡が早い。グーグル検索すると、「Plagiarism Checker」、「Dupli Checker」、「PaperRater」などがヒットしたが、白楽はソフトの有効性を検証していない。 → free plagiarism software – Google 検索

盗用検出ソフトは、基本的に、文字(単語)のテキスト類似性を検出するソフトである。

従って、逐語盗用は検出できるが、他の種類の盗用はほぼ検出できない。逐語盗用もPDF化された文章の盗用・被盗用を検出できない。

また、盗用検出ソフトは、すべての論文、出版物、文章にアクセスできるわけではない。

また、言い換え盗用(paraphrase plagiarism)を検出しにくい弱点を悪用し、原文を「グーグル翻訳」などで外国語に翻訳し、それを再び自国語に再翻訳することで、逐語盗用のスキを突くなど、確信犯的な盗用行為者も出てくる。

そして、盗用の検出は、現状では、盗用検出ソフトは初歩的な補助でしかない。結局のところ、人間が盗用文章・被盗用文章を詳細に分析することになる。

ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の盗用ハンターたちは、盗用検出ソフトに頼ることなく、地道な努力で盗用者を摘発している、と述べている。

《2》盗用証拠の提示法

★盗用図

盗用の証拠を示す最もシンプルな提示法から入ろう。

盗用論文の盗用部分を色付ける方法である。

具体例を示すが、被盗用論文はコレコレと明記し、盗用論文の盗用部分を黄色で示す。以下は有料の盗用検出ソフト(Blackboard SafeAssign)の例示を流用したが、製品を推薦する意図はない。出典:Plagiarism Reports for Individual Papers – Faculty Portal

★盗用比較図

上記の盗用図はシンプルだが、盗用比較図の方が説得力がある。

盗用比較図は盗用文章と被盗用文章を併記するので、誰が見ても、盗用だとわかる。盗用証拠を示す方法の基本はこの盗用比較図としたい。世界中の多くの盗用事件で使用されている。

以下に盗用比較図の実例を示す(出典:白楽ブログの被盗用事件 | 白楽の研究者倫理)。

左側が盗用文章、右側が被盗用文章である。同じ語句を着色した。

何色を使用するかなど着色方法には統一基準はない。同じ字句であることが分かりやすければよい。

上記では1つの被盗用文章に別の色を使用した。おなじ色を使用してもよい。

複数の被盗用文章を使用する「モザイク盗用(mosaic plagiarism)」では、被盗用文章ごとに特定の色を使う方がわかりやすい。

「言い換え盗用(paraphrasing plagiarism)」と「逐語盗用」を色で区別して示す盗用比較図もある。

★盗用の定量化

盗用量を算出する場合、盗用論文の盗用部分を定量化する。

ここでは、論文の「表題、目次、文献、謝辞、付録」を除外した部分を対象とする。これを「本文」と呼ぼう。

  • 盗用ページ率
    盗用したページが何ページあるかを%で表記した数字である。
    盗用論文の「本文」を50ページとする。20ページ分にあれば、盗用ページ率は40%である。
  • 盗用文字率
    盗用した文字数(外国語では単語数)が何文字あるかを%で表記した数字である。
    盗用論文の「本文」の文字数(外国語では単語数)を20,000字とする。3,000文字が盗用されていれば、盗用文字率は15%である。盗用文字率では、文字数(外国語では単語数)で算出するので、「本文」中の「表、図、そのタイトル(title)と凡例(legend)」は含めない。

ここでのポイントは、盗用文字率が何%以下なら盗用としない、などの盗用ルールを設けている国・大学があることだ。従って、盗用文字率がかなり重要になる。

★盗用全ページ図

盗用比較図と盗用文字率で盗用の証拠提示はほぼ完成する。

しかし、さらに詳細な証拠と盗用量を示すために、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は、盗用全ページ図も作っている。

以下は、「盗博VP113:アレキザンダー・モシュコビッシュ(Alexander Moschkowitsch)(ドイツ) | 白楽の研究者倫理」から修正転用した。

以下はページ毎に色分けしたイラスト表示である。

盗用の色分けは、灰色= 逐語盗用(コピペ、文献提示なし)、赤色 = 言い換え盗用(ロゲッティング、文献提示なし)、黄色 =曖昧盗用(文献提示あり)、 青色 = 翻訳盗用、である。

★盗博分析図

ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は盗博分析図も示している。

博士論文は数百ページに及ぶ長文が多い。盗用全ページ図では冗長である。それで、一目でわかるように盗博分析図を示している。

盗博分析図は盗用博士論文の分析結果を示すのに使用されるが、作業量が膨大なので、一般的ではない。

以下は、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki) | 白楽の研究者倫理」から修正転用した。

盗用解析をした5色のバーコードからなる盗博分析図である。博士論文は数百ページの及ぶ長文なので、左から右に、論文全体の解析作業と盗用の程度を5色のバーコードで示している。140606 600px-Sass_plag_graphic_201105251552[1]

バーコードの上部に[VS 2009]とあり、盗博者・ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の2009年版解析を示している。右端の53.98%は盗用ページ率である。

バーコードの下部の数字は博士論文のページ番号である。

5色のバーコードは各ページの論文全体の解析作業と盗用の程度を示している。色の意味は以下の通り。

  • 青:表題、目次、表、図、文献、付録で、計算に含めない
  • 白:盗用なし
  • 黒:盗用文字率が50%以内
  • 暗い赤:盗用文字率が50%~75%未満
  • 明るい赤:盗用文字率が75%以上

黒、暗い赤、明るい赤は、論文の盗用ページにリンクしている。上図ではリンクしていないが、本物は該当ページにリンクしているので、クリックすると、該当ページの盗用比較図が現れる。

●4.【盗用の具体例】

★日本の盗用事件:論文

盗用事件はどういうものか?

報道や解説で知ることができる。

2014年2月24日の朝日新聞の報道を引用し具体例を示す。出典は「研究公正」の2014年3月23日の記事である。

名古屋外大の学科長、論文盗用か 17ページほぼ丸写し

名古屋外国語大学(愛知県日進市)は24日、現代国際学部国際ビジネス学科長の井戸一元(かずもと)教授(58)=会計学=が2012年に発表した論文に盗用の疑いがあるとして、学内に調査委員会を設置した。井戸教授は盗用を認めているという。

名古屋外大によると、問題の論文は、井戸教授が2012年に学内の研究誌に発表した「日本の財務報告と会計規制をめぐる課題と解決策」。A4判全28ページのうち17ページが、高知工科大学(高知県香美市)の村瀬儀祐教授の論文をほぼ丸写ししていたという。村瀬教授から今年2月上旬に指摘を受けて発覚した。

名古屋外大の高橋誠事務局長は「あってはならないこと。特に学科長という指導的立場にあった井戸教授が盗用したことを重く見ている」と話す。井戸教授の過去の論文なども調べて年度内に結果を出し、処分を決める方針だ。

大学の聞き取りに対して井戸教授は「公務と教育、研究のはざまにあって、業績に対する焦りがあった」と話しているという。

そして、2014年3月29日、名古屋外国語大学は盗用者を停職6か月の懲戒処分にした。盗用者は2014年3月31日付で退職願い提出し、受理された。(出典:「教員の懲戒処分について | 名古屋外国語大学」)。

上記の事件は、
①実名報道された。
②被盗用者が気付いて告発した。
③刑罰は課されないが、所属機関から処分された。
④教授・学科長という指導的立場の人が盗用した。
⑤学内の研究誌というさほど重要と思われない学術雑誌の論文で盗用事件を起こした。

上記5点は、盗用事件に見られる典型的な属性である。

なお、日本では、実名でない匿名報道の場合が数割ほどある(外国では匿名報道はほぼ皆無)。無処分の場合も、割合は不確かだが、ある。

★米国の有名な盗用事件:アルサブティ事件

有名な盗用大事件の1つである。

エリアス・アルサブティ (Elias Alsabti)は、21~22歳の時、イラクで医師免許を取得した。1977年9月(23歳)、ヨルダンを経て、米国に留学し、テンプル大学やジェファーソン医科大学を転々とした。転々とした1978-79年(24-25歳)のわずか2年間に、約60報の論文を出版した。論文出版数から推察して、天才的科学者である。

ところが、しかし、約60論文の全論文は盗用だったのだ。

天才的科学者ではなく、天才的盗用者だったのだ。

盗用は「全文盗用(原典提示なし)」、つまり、他人の論文の著者や著者連絡先などを変え、論文をそのまま全部、自分の論文として発表した。天才的である。

アルサブティ事件を詳しく知りたい方は → エリアス・アルサブティ (Elias Alsabti)(米) | 白楽の研究者倫理

★盗博

ドイツやロシアでは、博士論文の中に盗用文章がしばしばみられる。修士論文でもある。これらは学術誌に出版した論文での盗用と幾分異なる。それで、区別して、白楽は、「盗博」「修博」と呼んでいる。

ドイツのヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は200人以上の盗博を摘発している。 → ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki) | 白楽の研究者倫理

ロシアのディザーネット(Dissernet)は数万人の盗博を摘発している。 →  ディザーネット(Dissernet) | 白楽の研究者倫理

有名な事件では、

もちろん、米国や日本や他国にも「盗博」「修博」はある。有名な事件では、

日本には、「盗博」「修博」を問題視し、追及する盗博ハンターがいない。それで、日本の「盗博」「修博」者は少ないのか、多いのか、わからない。

★盗用事件データベース

白楽ブログの「5A 事件集」の「事件一覧」には、日本の研究者の盗用事件が約200件、リストされている。外国の研究者の盗用事件は約600件、リストされている。

その内のかなりの事件は白楽ブログで解説した(している)。

●5.【盗用の許容範囲】

《1》盗用の許容範囲:一般論

再掲するが、文部科学省のルールでは、「盗用」を「他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を当該研究者の了解又は適切な表示なく流用すること」と定義している。

では、一行でも「流用」すると盗用として罰せられるのか?

★ 1単語で「盗用」

米国マサチューセッツ州 ボストンの私立大学・サフォーク大学(Suffolk University)の学生・ティファニー・マルティネス(Tiffany Martínez)は「Hence」という1単語を使ったことを、教授から「盗用」だと非難された(以下の写真出典)。 → ①2016年10月28日の記事:A Professor Circled “Hence” On A Latina Student’s Paper And Wrote “This Is Not Your Word”、②2016年11月1日の記事:Student accused of cheating for writing ‘hence’ | Fusion保存版))。

さすがにこれは非難された。

では、どのくらいの文字量(単語量)を引用なしで流用すると「罰せられる盗用」になるのか?

文部科学省は示していない。

米国の研究公正局も明示していない。

★ インドは10%、パキスタンンは19%

1章で述べたようにインドの盗用ルールは、「10%以下の盗用は許容する。処罰なし」である。

つまり、10%以下なら原典を示さずに流用してよい。イヤイヤ、「よい」とは言ってない。「処罰しない」と言っているだけだ。「罰せられる盗用」は盗用文字率が10%以上である。

パキスタンの数学の学術誌「Punjab University Journal of Mathematics」は、19%を超えると「罰せられる盗用」になる、と指示している。 → Up to 19% plagiarism is just fine, journal tells authors – Retraction Watch

インドやパキスタンでは参考にならない?

というなら、ドイツを示そう。

★ドイツ は5%

ドイツのヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は「罰せられる盗用」の盗用文字率を明示していない。 → ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki) | 白楽の研究者倫理

しかし、ヴロニプラーク・ウィキは200人以上の盗博を摘発した。それで、摘発した中で最も少ない盗用ページ率と盗用文字率を探した。

最も少ない盗用ページ率は166番のモハマド・ジャバ・ミルザヤン(Mohammad Javad Mirzayan)の 10.9%である。 → Mjm | VroniPlag Wiki | Fandom

ただ、ミルザヤンは、文章ではなく、他人の図を盗用したので、ミルザヤンの盗用文字率を引き合い出すのは不適切だ。

2番目に少ない盗用ページ率は39番のアンドレア・バウスト( Andrea Baust)の15.4 %で、バウストの盗用文字率は5%だった。 → Ab | VroniPlag Wiki | Fandom

白楽が結論しよう。

ドイツのヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)は盗用文字率5%以上を「罰せられる盗用」と判定している。

なお、バウストは2006年に博士号を取得し、盗博は2013年に発覚した。

それでも、2020年現在、博士号を授与したハイデルベルク大学はバウストの博士号をはく奪していない。ヴロニプラーク・ウィキは盗用文字率5%以上を「罰せられる盗用」と判断したが、ハイデルベルク大学はそう判断していないということだ。

ドイツの例もいいけど、日本が参考にしたいのは米国だろう。

米国はどうなってる? 

1単語で「盗用」という事件はわかったが、まともな検討をしていないのか?

《2》盗用の許容範囲:ミゲル・ローチ(Miguel Roig)

米国の研究公正局(ORI、Office of Research Integrity)のサイトでミゲル・ローチ(Miguel Roig)が盗用の許容範囲を具体的に示している。

ある意味、研究公正局(ORI)が推奨している見解(米国連邦政府の見解)とも受け取れる。

研究公正局の「盗用の定義」のページ末尾に関連ページとして、ミゲル・ローチ(Miguel Roig)の63ページの文書「盗用、自己再発表、疑念文章:規範的な文書の書き方(Avoiding plagiarism, self-plagiarism, and other questionable writing practices: A guide to ethical writing)」がリンクされている。

2020年9月現在、ミゲル・ローチ(Miguel Roig)の文書は第2版(2015年版)で71ページある。この節は、第1版(2013年5月15日版)について数年前に書いた白楽の記事を少し修正して使用した。それで、2020年9月現在と若干異なるかもしれない。

ミゲル・ローチ(Miguel Roig、右の写真)(1956年生まれ、米国・セント・ジョーンズ大学・心理学教授)は「盗用」問題の専門家である。

★「ローチの指針26条」(第2版は28指針)

 ミゲル・ローチ(Miguel Roig)著「盗用、自己再発表、疑念文章:規範的な文書の書き方(Avoiding plagiarism, self-plagiarism, and other questionable writing practices: A guide to ethical writing)」(2013年5月15日版)を紹介する、つもりだったが、ファイルを開けて読み進めると、63ページの文書で内容が多く、かいつまみ切れない。

本人も量が多すぎると思ったに違いない。ポイントを26指針にまとめている(26 Guidelines at a Glance on Avoiding Plagiarism)。

そのうち指針1~9が「盗用」に関する指針で、10~13が「自己盗用」、14~26が「疑念文章」に関する指針である。「盗用」部分の指針9か条だけ以下にリストしよう。 「ローチの盗用指針9か条」

  1. 執筆では、利用した文献とアイデアの出所を「常に」記載(acknowledge)する。
  2. 文章を一字一句流用したときは引用符で囲む。
  3. 自分の文章に、言い換え、要約、一字一句(引用符)で利用したら、どの場合も、常に、出典を明記する。
  4. 要約とは、かなりの量の文章を自分の言葉で短い文章にすることである。
  5. 要約でも言い換えでも、常に、情報源を提示しなければならない。
  6. 要約でも言い換えでも、原文に記述されているアイデアや事実を、自分の言葉と構文で、正確に再現しなければならない。
  7. 原文を大きく変更して適切に言い換えるためには、原文に使用されているアイデアと用語を十分に理解しなければならない。
  8. 言い換える時、できる限り自分自身の言葉で書くことが規範であり、使用したアイデアや語群の著者にクレジットすることも規範である。
  9. 記載する概念や事実がその分野の常識かどうかわからないときは、引用する。

ついでに、シメの第26条も示す。

第26条:学術界での学術ゴーストライターは規範上、禁則行為である。

指針は詳細である。というより、クドイ、しつこい、重複している。

しかし、言葉でクドク、しつこく書かれても、定量的な基準はわからない。

★米国は6%~73%の間

白楽は、盗用文字率で示す「罰せられる盗用」基準をかなり探したが、見つけるのはとても困難だった。一般的に、国、大学・研究機関、学術誌、組織に、定量的に「罰せられる盗用」基準を示す規則や解説はない。

運よく、「ローチの指針26条」の最後に、どの程度、言い換えたら「罰せられる盗用」になるか、ミゲル・ローチが具体例を示し、判定し、説明していた。

このミゲル・ローチの具体例は「盗用文字率」を示していないが、 白楽が算出した。

 以下は、ミゲル・ローチの具体例を“流用”したが、「盗用文字率」は白楽が加えた。

【原文】

文章の原典は、Balas M, Adams ES. “Intraspecific usurpation of incipient fire ant colonies”. Behav Ecol 8:99-103, 1996で、単語数は「91単語」ある。 140526 ori

 

【言い換え例1】 → 「罰せられる盗用」と判定。

91単語が99単語になったが、79単語は原文の単語を使用している。盗用文字率は80%。盗用文字率が高いだけでなく、構文の流用も多い。 以下:赤字は原文と同じ単語。 140526 pla1

 

【言い換え例2】 → 「罰せられる盗用」と判定。

91単語が95単語になったが、74単語は原文の単語を使用している。盗用文字率は78%。盗用文字率が高いだけでなく、言い換えで、原文の意味が変化している。 以下:赤字は原文と同じ単語。 140526 pla2

 

【言い換え例3】 → 「罰せられる盗用」と判定。

91単語が107単語になった。単語の順序を変えた部分を含めると、78単語は原文の単語を使用している。盗用文字率は73%。盗用文字率が高いだけでなく、言い換えで、原文の意味が変化している。 以下:赤字は原文と同じ単語。青で囲った部分は原文の単語の順序を変えた部分。 140526 pla3

 

【言い換え例4】 → 「罰せられる盗用」と判定。

91単語が96単語になった。単語の順序を変えた部分を含めると、71単語は原文の単語を使用している。盗用文字率は74%。盗用文字率が高いだけでなく、言い換えで、原文の意味が変化している。 以下:赤字は原文と同じ単語。青で囲った部分は原文の単語の順序を変えた部分。 140526 pla4

 

 

【言い換え例5】 → 「罰せられる盗用」ではないと判定。

91単語が109単語になった。原文の単語は7単語しか使用していない。盗用文字率は6%。原文の構造は保存されている。 以下:赤字は原文と同じ単語。 140526 pla5

 

 

【言い換え例6】 → 「罰せられる盗用」ではないと判定。

91単語が98単語になった。原文の単語は6単語しか使用していない。盗用文字率は6%。「言い換え例5」と違う点は、原文の構造も変え、自分の文章で書いていることで、「言い換え例5」よりも優れている。 以下:赤字は原文と同じ単語。 140526 pla6

 

ミゲル・ローチ(Miguel Roig)の6つ「言い換え」例文を、白楽が「盗用文字率」で解析すると、6例文は以下のようだ。

  • 「罰せられる盗用」・・・80%、78%、73%、74%
  • 「罰せられる盗用」ではない・・・6%、6%

つまり、「盗用文字率」が73%以上だと「罰せられる盗用」で、6%以下だと「罰せられる盗用」ではない。

これじゃ、中間部分が広すぎる。「盗用文字率」が60%だと「罰せられる盗用」なのか、そうではないのか? 50%では、40%では、30%では? どこに線を引くか? この答えが欲しい。

なお、文章の構造まで持ち出されると、チェックする人の判断に依存することになり、「罰せられる盗用」かどうかを機械的に判定できない。そういう判定をなるべく採用すべきではない。

「盗用文字率」が6%で、盗用ではないとされた「例5」「例6」は、しかし、そこでの「言い換え」は誰もが簡単にできるレベルのワザではない。

ここまで言い換えのは相当な理解力・単語力・文章力が必要だし、言い換えに時間もかかる。学術論文にそういうことが必要だろうか?

白楽が単純化した結論を言えば、米国では盗用文字率73%以上が「必ず罰せられる盗用」、6~73%は「罰せられる可能性のある盗用」、6%以下は「罰せられない盗用」である。

●6.【盗用の根本的に難しい点】

110804-1 カバー表1&背白楽ブログの【執筆方針】は

  • 誰もがインターネットで検証できるように、出典はインターネットの無料サイトの記事に極力限定する。有料のサイト/図書/論文の引用は極力避ける。

なので、自分の書籍も示さないようにしてきた。

それでも、同じ人間だから、今まで何度も同じことを書いてきた。

この6章は(も?)、内容が大きく重複するので、ご勘弁願って、自著を引用したい。 → 白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413

この本は、10年余りの調査研究を経て、明治7年(1874年)~平成21年(2009年)、136年間の日本の「研究者の全事件」データベースを作り、2011年9月に講談社から、『科学研究者の事件と倫理』を出版した。 

以下は。上記の『科学研究者の事件と倫理』と基本的内容(文章もある程度)が同じである。面倒くさいので、数か所コピペした。

★「罰せられる盗用」の日本語例

有吉佐和子の『複合汚染』は「朝日新聞」に連載された作品だが、連載中の1975年5月5日、科学啓蒙書からの「無断引用」が問題になった。

三重大学助教授(当時)の大川博徳が、自著『生活の恐怖 お母さん! 台所が危険です』(KKベストセラーズ、1977年)の記述やデータが無断で使用されていると告発したのである。

「無断引用」されたとする箇所をひとつ対比してみよう。

左側が有吉佐和子の盗用疑惑文、右側が大川博徳が被盗用文である。同じ単語を黄色で示した逐語盗用と、その周辺の文章の言い換え盗用である。出典:栗原裕一郎『〈盗作〉の文学史』(新曜社、2008年)

有吉佐和子の字数が75字 中、52字が大川博徳の文字と同じである。盗用文字率は52字/75字=69%である。

盗用文字率69%は普通に考えれば「罰せられる盗用」である。

しかし、「ジフェニール」を簡単に説明する時、「毒性」「PCB」「化学構造」「数個の塩素」「ジフェニール」という専門用語(に近い言葉)を使わないで説明するの至難である。というか不可能に近い。

学術論文は小説や科学啓蒙書よりも専門用語が多い。というか、全文、専門用語だらけである。それを、別の言葉に言い換えるのは不可能に近いし、芸術的文章ではないので、そうする意味はない。

★真似て学ぶ

以下、「白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413」の118-119頁をコピペした。

★研究の独創性は「盗用」から生まれる

白楽は、研究の独創性はアイデアの“盗用”から生まれる、と考えている。この“盗用”は研究上の不正である盗用とは若干違うニュアンスもあるが、一括りで「盗用」としておく。

現在の「盗用」ルールをアイデアにも厳格に適用すると、独創性が落ちる。

以下、「白楽ロックビル(2011):『科学研究者の事件と倫理』、講談社、東京: ISBN 9784061531413」の120-121頁をコピペした。

上記の盗用行為は、本記事のあちこちで記述した低俗で犯罪的な実際の盗用行為とは質的に異なるが、留意しておいた方がよいだろう。

●7.【白楽の感想】

《1》学術論文の著作権・盗用規則

根源的な疑問だが、白楽は、学術論文では他人の文章を流用してどうしていけないのか理解できない。

もちろん、1章の「2.全文盗用(原典提示なし)」はマズいと思う。盗用文字率が50%も、マズいと思う。

しかし、学術論文に重要なのは、発見・発明・記録の重要性である。文章はそれを正確に伝えるだけだ。セクションによっては、他人の文章をゴッソリ流用しても、原著者にクレジットすえれば、それは良いと思う。例えば「序論」「方法と材料」に新規性はない。

「原著者にクレジット」と書いたので、この場合、公式には、盗用ではないが、考え方は以下のようだ。

盗用は基本的に小説などの芸術表現を対象にしてきた。だから「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」にも芸術性を感じる。この一行を自分の文章のように使うのは、小説では盗用だろう。

しかし、学術研究の場合、重要なのは発見・発明の新規さであって、表現のオリジナリティや芸術性はどうでもよい。

学術論文の文章に芸術性を求めるのは間違いだ。

しかし現在、世界中で、「盗用」は重大な不正研究だから、発覚すれば、学生は停学・退学・学位取消、研究者は実質的な研究者廃業になる。

著作権はビジネスで、カネになる。だから、小説などの文芸作品の扱う商業出版社は出版の権利を独占し、排他的になる。この価値観は、紙媒体で文章を売る商業出版の権利思想・ビジネスモデルだ。

しかし、重ねて言うが、学術論文に重要なのは、発見・発明・記録の重要性である。その点がカスならゴミ論文なので、文章が名文であろうが美文であろうが、学術的価値はないし、商業的価値もない。つまり、売れない・買わない。

学術出版のビジネスモデルは、「盗用」よりも、論文の質である。それは、白楽が言わなくても、学術出版社は十分認識している。

「盗用」は排除すべきだが、「ゴミ論文」の排除も重要ではないだろうか。ゴミ論文は、審査、出版、維持に無益な時間、経費、労力をかけ、読む側にも無益な時間、経費、労力をかける。それ以上に、論文投稿までの研究費の無駄も大きい。

そういうゴミ論文(とその著者)は論文公害なので、追放してほしい。ただ、誰がどういう基準でゴミ論文と判断するのか? 「定義と説明」「検出法」は「盗用」よりもヤッカイナ気がする。

「盗用」からズレたので止める。

結論として、文芸作品を対象にした現在の著作権・盗用規則とは別に、学術論文の著作権・盗用規則を制定すべきだ、といいたい。

米国の研究公正局も以下のように述べているORI Policy on Plagiarism | ORI – The Office of Research Integrity

研究公正局は、「通常使用される実験法」や「先行研究」の文章と同じフレーズ、あるいは、ほとんど同じフレーズの限定的使用は問題視しない。そういう使用が、読者に重要な誤解を与えるとは考えないからである。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【コメント】

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