2016年8月19日掲載。
ワンポイント:学歴詐称で博士号がはく奪され、大学を解雇(辞職?)されたのに、韓国で最初の裁判で無罪判決。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
オクラン・キム、金玉浪(Ok-Rang Kim、写真出典)は、韓国・檀国(タングク)大学(Dankook University)・経営大学院・芸術経営学科・教授で、東崇(ドンスン)アートセンター長(DongSoong Art Centre)だった。専門は公演芸術学だった。
2007年8月(62歳)、経歴詐称が発覚した。裁判では無罪になったが、博士号ははく奪され、大学は解雇(辞職?)された。
この事件の日本語解説がたくさん(3つ以上)あった。「朝鮮日報」「中央日報」「livedoorニュース」「朝鮮日報のキム・ジン記者」の文章を本文に引用した。
なお、檀国(タングク)大学(Dankook University)は、私立大学で、「Times Higher Education」の大学ランキング(2015-2016年)で韓国第24位以内に入っていない(World University Rankings 2016 | Times Higher Education)。
韓国・檀国(タングク)大学(Dankook University)。写真出典
- 国:韓国
- 成長国:韓国
- 研究博士号(PhD)取得:韓国・成均館(ソンギュングァン)大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1945年1月1日とする。2007年8月23日(62歳)から推察
- 現在の年齢:79 歳?
- 分野:公演芸術学
- 最初の不正:1998年(53歳)? 韓国・成均館(ソンギュングァン)大学・大学院入学時? もっと早い?
- 発覚年:2007年(62歳)
- 発覚時地位:檀国(タングク)大学(Dankook University)・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。どこに通報したかも不明
- ステップ2(メディア):新聞・テレビ・ウェブ?
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①韓国・檀国(タングク)大学。②韓国・成均館(ソンギュングァン)大学が修士号・博士号の調査。③ソウル中央地裁刑事14部
- 不正:ねつ造、学歴詐称
- 不正数:中学、高校、大学の学歴詐称。米非認証大学卒で大学院入学した
- 時期:キャリアの初期から?
- 結末:解雇(辞職?)
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1945年1月1日とする。2007年8月23日(62歳)から推察
- 19xx年(xx歳):韓国・京畿(キョンギ)女子中学・高校・卒業→ 後に、ねつ造とバレる
- 19xx年(xx歳):韓国・梨花(イファ)女子大学・英語英文学科・卒業→ 後に、ねつ造とバレる
- 1984年(39歳):米国・パシフィック・ウエスタン大学を卒業→ 後に、米非認証大学とバレる
- 2000年(55歳):韓国・成均館(ソンギュングァン)大学で修士号を取得。公演芸術学
- 2003年8月(58歳):韓国・檀国大学(Dankook University)・経営大学院芸術経営学科・教授
- 2004年(59歳):韓国・成均館大学で研究博士号(PhD)を取得。公演芸術学
- 2007年8月(62歳):学歴詐称疑惑が浮上
- 2007年8月23日(62歳):ソウル地検に召喚
- 2007年8月26日(62歳):成均館大学は修士号と研究博士号(PhD)をはく奪
- 200x年(6x歳):檀国大学・教授を解雇(辞職?)
- 2007年11月17日(62歳):ソウル中央地裁刑事14部は無罪判決
●4.【日本語の解説】
★2007年8月10日:朝鮮日報「学歴詐称:金玉浪教授の修士・博士論文に疑惑浮上」
出典 → [mixi]学歴詐称:金玉浪教授の修士・博士論文に疑 – 韓流なんていらない in mixi | mixiコミュニティ (保存版)
「京畿女子高卒業・梨花女子大学在学」という学歴が嘘であることが明らかになった東崇アートセンター代表の金玉浪(キム・オクラン)檀国大学経営大学院芸術経営学科教授(62)=写真=が成均館大学で修士・博士号を取った過程についても疑惑が巻き起こっている。
金教授は成均館大学で公演芸術学を学び、2000年に修士号、04年に博士号を取得、02年9月に檀国大学経営大学院芸術経営学科の客員教授として迎えられた。
金教授が理事長を務める玉浪文化財団で理事をしていた李相日(イ・サンイル)成均館大学名誉教授(74)が、金教授の修士論文審査委員や博士論文の審査委員長を務めていたことが明らかになった。
李名誉教授は04年に書かれた金教授の博士号論文「文化空間としての東崇アートセンターの役割と意味に関する研究」の審査で委員長を務めた。
また、李名誉教授は97年から00年まで金教授の修士論文指導教授で、修士論文審査委員も務めていた。
★2007年8月28日:中央日報「学歴詐称の大学教授20人を捜査」
出典 → 学歴詐称の大学教授20人を捜査 | Joongang Ilbo | 中央日報 (保存版)
検察はこの日、檀国(タングク)大教授で東崇(ドンスン)アートセンター代表の金玉浪(キム・オクラン、62)容疑者を業務妨害の疑いで在宅起訴した。米非認証大学の卒業証明書を提出し、檀国大教授に任用された疑い。学歴詐称をめぐる波紋以降初の起訴となる。検察によると、金容疑者は非認証大学・米パシフィックウエスタン大の卒業証書(84年)を根拠に、檀国大・芸術経営学科の待遇教授(02年9月)と専任教授(03年)に任用された。
また、同学位で成均館(ソンギュングァン)大大学院で2000年と04年に、それぞれ公演芸術学の修士号・博士号を取っている。検察側は「金容疑者の場合、履歴書で▽京畿(キョンギ)女子高卒業▽梨花(イファ)女子大学入学--などと学歴を詐称し、パシフィックウエスタン大の学位が正常な学士号でないことを知っていながらも、大学院の入学と教授任用に使ったことから、業務妨害の疑いが認められる」と説明した。
★2007年8月26日:livedoorニュース「芸能界のうわさ!!:学歴詐称:ソウル地検、前金泉科学大教授を召喚」
出典 → 芸能界のうわさ!!:学歴詐称:ソウル地検、前金泉科学大教授を召喚 (保存版)
検察は、東崇アートセンター代表で檀国大教授の金玉浪(キム・オクラン)氏(62)が日本から帰国した事実を確認、早ければ23日にも召喚する方針だ。
検察は金教授に対し、23日に出頭するよう通告した。学歴詐称疑惑が高まるや日本へ向かった同教授は、19日に船で釜山を経て帰国した。その後、ソウル市内の某病院に入院、甲状腺の異常などを訴え検察に診断書を提出していたことが分かった。同教授はこれまで京畿女中・高と梨花女子大英文科を卒業したと公表してきたが、学校側は「入学した記録はない」とコメント。これを受け、同教授が修士・博士学位を取得した成均館大は、同教授の学位を全て取り消した。李吉星(イ・ギルソン)記者
(引用 livedoorニュース)
★2007年11月17日:朝鮮日報のキム・ジン記者「学歴詐称:檀国大元教授の金玉浪被告に無罪判決」
出典 → 学歴詐称:檀国大元教授の金玉浪被告に無罪判決 | Chosun Online | 朝鮮日報
檀国大の教授に採用される際に学歴を偽ったとして起訴された、東崇アートセンター代表の金玉浪(キム・オクラン)被告(62)に無罪判決が下された。今回の判決は、今年7月に発覚したシン・ジョンア元東国大助教授による博士学位でっち上げ事件をきっかけに、相次いで発覚した有名人による学歴詐称に関する初の判決だったが、無罪判決を受け検察が反発するなど、波紋が広がっている。
ソウル中央地裁刑事14部の安省俊(アン・ソンジュン)判事は15日、米国で大学として認められていない「パシフィック・ウェスタン大学」を卒業した、と称して成均館大大学院の修士・博士課程に進み、卒業後に檀国大の教授に採用されたとして、教授の採用業務を妨害した罪で起訴された金被告に対し、「檀国大が学歴についてきちんと審査しなかったものであり、被告が教授の採用業務を妨害したのではない」として、無罪を言い渡した。
金被告はパシフィック・ウェスタン大学の卒業証明書を成均館大に提出し、同大大学院で修士・博士の学位を取得した。韓国で初めての「公演芸術学」博士であった。その後、2002年8月に檀国大に対し、産業経営大学院芸術経営学科の客員教授採用を申請した際、履歴書に「京畿女子中学・高校、梨花女子大学英語英文学科卒業」と記した。だが、金被告は履歴書に記した中学・高校・大学に在籍していないことが判明した。金被告は檀国大に、パシフィック・ウェスタン大学の成績証明書や成均館大の学位授与証明書なども提出し、客員教授を経て03年8月に専任教授に採用されていた。
裁判所は「大学院は被告の実務経歴や対外活動の能力などを学生選抜の基準としているのであって、学歴については念頭に置いておらず、従って学歴の審査も行っていなかった」とした上で、「大法院(日本の最高裁判所に相当)の判例によれば、担当者が十分な審査を行ったものの、書類が偽物であることを見抜けずに申請を受理した場合に限り、業務妨害罪が成立する。被告は虚偽の書類を提出したが、檀国大側が書類の審議についての審査も特に行わなかったため、業務妨害罪は成立し得ない」と述べた。
だが、この日の判決に対し、検察は強く反発している。金被告を起訴したソウル中央地検特捜3部の李明宰(イ・ミョンジェ)検事部長は「話にならない。業務妨害罪は可能性さえあれば成立する罪なのに、具体的な犯行の事実がなければならないと勘違いしているようだ。本人が"申し訳ないことをした"と陳述しているのに、無罪になるというのはおかしい」と述べ、控訴する意向を明らかにした。
一方、大韓弁護士協会の関係者は「裁判所は檀国大側が金被告を採用する際、学歴ではなく名声を重視したため、審査業務を妨害したものではない、と判断したのだろう。学歴のでっち上げに関する他の裁判でも、弁護人たちは同じような主張をしている」と話している。
今回の判決は今後、似たような事件の裁判にどれほど影響をおよぼすのか注目されている。シン・ジョンア被告の場合、今年9月に1回目の逮捕状を請求した際には、学歴のでっち上げで東国大の業務を妨害したという容疑が追加されたものの、裁判所は「証拠隠滅や逃亡の可能性は低い」として棄却しており、現在は横領容疑などを追加して起訴し、公判を行っている。
同じ業務妨害容疑であっても、シン被告は国民の間に広く知られ助教授になったという点で、形式的に未認可大学の成績証明書を提出した金被告とはやや事情が違う。シン被告は美術館関係者の間でのみ名前が売れていた状態で、青瓦台(大統領府)のビョン・ヤンギュン前政策室長の権力を利用して学歴でっち上げの疑惑ももみ消そうとし、「助教授採用」という賄賂を受け取っていた罪で起訴されており、その点で金被告とは事情が違うというわけだ。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
オクラン・キムは、20代-50代前半に何をしていたのかほとんど情報がない。唯一、39歳の時に米国・パシフィック・ウエスタン大学を卒業したとある。なお。20代と思われるが、韓国・梨花(イファ)女子大学・英語英文学科を卒業したことになっている。
2003年8月(58歳)、オクラン・キムは、韓国・檀国大学(Dankook University)・経営大学院芸術経営学科・教授に就任するのだが、その3年前の55歳の時、成均館(ソンギュングァン)大学で修士号を取得した。また、2004年(59歳)に研究博士号(PhD)を取得した。修士号・博士号の取得が55歳・59歳とかなり高齢ですね。
大学院に入学して修士号・博士号を取得するには、大学卒の資格が必要である。
しかし、オクラン・キム教授が卒業したという米パシフィック・ウエスタン大学は非認可大学で、韓国の学術振興財団や全米高等教育機関基準認定協議会(CHEA)は同大学の学位を認めていない。 さらに、韓国・梨花(イファ)女子大学・英語英文学科・卒業が嘘だとバレてしまった。
つまり、成均館大学はオクラン・キム教授が大学院入学の資格がないのに、入学させてしまい、挙句の果てに、修士号・博士号を授与してしまった。オクラン・キムが学歴詐称し、成均館大学がそれを見抜けなかったのだ。
これらの経歴詐称がどういう経緯で発覚したのか、第一次追及者は誰だったのか、どこに通報したのかは、不明である。2007年8月に「経歴詐称」が発覚したミヒ・チャン、(Mi-hee Jang)事件と同じように流れだったのだろう。
→ 「芝居映像学:「経歴詐称」:ミヒ・チャン、장미희、張美嬉、張美姫(Mi-hee Jang)(韓国)」
2007年4月、ジョンア・シンの経歴詐称事件が発覚した。その後、韓国の有名人の経歴詐称が、次々と暴露され、政治家、俳優、学者、宗教家など多数の有名人の経歴詐称が発覚したのである。韓国社会に経歴詐称の嵐が吹き荒れた。
→ 「美術史:「経歴詐称」:ジョンア・シン、신정아、申貞娥(Jeong-ah Shin)(韓国)」
2007年8月、オクラン・キムもその流れで経歴がチェックされ、経歴詐称が暴かれたと思われる。
しかし、ミヒ・チャン事件と異なり、オクラン・キムは2003年8月教授就任、2004年研究博士号(PhD)取得していて、2007年8月に事件発覚時点で、5年経過していない。時効は5年というルールなので、ソウル中央地検特捜3部は、刑事事件としてオクラン・キムを起訴した。
2007年11月15日、ところがなんと、ソウル中央地裁刑事14部の安省俊(アン・ソンジュン)判事は、無罪を言い渡したのである。
教授の採用業務を妨害した罪で起訴された金被告に対し、「檀国大が学歴についてきちんと審査しなかったものであり、被告が教授の採用業務を妨害したのではない」として、無罪を言い渡した。
ソウル中央地検は強く反発したが、当然だろう。
●6.【論文数と撤回論文】
2016年8月18日現在、グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)で、オクラン・キム、金玉浪(Ok-Rang Kim)の論文を「Ok-Rang Kim」で検索すると、19論文がヒットした。
論文タイトルから判断して、ほとんどは、ここのオクラン・キムの論文とは思えない。
「author ” Ok-Rang Kim “」で検索すると、0論文がヒットした。
オクラン・キムは、英語論文を発表していないと思われる。つまり、研究活動はしていないと思われる。
●7.【白楽の感想】
《1》調査は不毛
以下、以前と同じ文章(自己盗用)。
この事件では、本人が意図的に経歴詐称しているが、韓国全体に詐称文化がまん延しているので、個々の事件がなぜ起こったのかを調べても、研究ネカト改善のヒントは得にくい。
《2》同級生や教員が気が付かない?
中学・高校・大学の卒業がねつ造だとすると、オクラン・キムは高校も卒業していないのだろうか? 別の高校を卒業したけど、京畿(キョンギ)女子中学・高校・卒業と履歴をねつ造したのだろうか? 同じように、別の大学を出たけど梨花(イファ)女子大学・英語英文学科・卒業と履歴をねつ造したのだろうか?
どちらにせよ、韓国人が韓国国内の中学・高校・大学の卒業を詐称すれば、同級生や教員が気が付くと思うのだが、どうなっているのだろう?
《3》学術キャリア形成が遅い
それにしても39歳で、米国・パシフィックウエスタン大学を卒業、55歳で韓国・成均館(ソンギュングァン)大学で修士号を取得と学術キャリアの形成が遅い。20代・30代は何をしていた人なのだろうか?
58歳で、韓国・檀国大学(Dankook University)・経営大学院芸術経営学科・教授に就任し、翌年の59歳で研究博士号(PhD)を取得というのも、日本の感覚ではありえない。
韓国では大学教授になりたい博士号所持者は余っているハズだ。教授就任時に博士号を持っていない人は文系では珍しくない。しかし、教授に昇進ではなく新採用で58歳である。表に出てこない(出せない)、特別の理由があるのだろうか?
《4》裁判官の判断に疑問
裁判所の判決に、白楽ごときが疑念を表明するのは、不遜であるが、審判の判定に疑念を表明してしまう。
裁判官も審判も人間である。間違いはあるし、偏見・知識不足はある。
日本の裁判での一般論だが、裁判官は、科学技術や学術研究に対して偏った意見・間違った知識を持っている人が「とても」多い。生命科学がらみの裁判で、あり得ない判決に、しばしば驚くことがある。
「法律的な正義」と言いくるめようが、自然界の法則は変えられない。人間が生きていくには、「法律的な正義」や社会ルールよりも自然法則を優先するしかない。社会ルールは自然法則に矛盾しない形で制定するしかない。そのことが理解できないらしい。
オクラン・キム事件では、学歴詐称が明白で、修士号・博士号がはく奪された。それらの学歴が正しい前提での教授就任である。学歴をちゃんとチェックしなかった大学にも責任の一端はあるだろう。しかし、何が悪いかといえば、もともと、オクラン・キムが意図的に学歴詐称をしたから事件になっているのだ。その出発点の根本の不正行為を糾弾しないとは、裁判官は何を勘違いしたのだ。
裁判官にも学歴詐称人間がいて、発覚した時に有罪になるのを恐れて、学歴詐称事件の最初の判決で、オクラン・キムを無罪にしたっていうことだろうか? と、ゲスの勘繰りをしたくなる。
●8.【主要情報源】
本文中に引用した。
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。