7-80 どうして研究不正するのか?

2021年10月18日掲載

白楽の意図:研究倫理トレーニングは、米国などでは30年以上の歴史がある。そして、このトレーニングは効果がないと繰り返し批判されてきた。それでも、トレーニング賛成派のジョナサン・ヘリントン(Jonathan Herington)は改善を試み、ネカトする理由を14人の研究者に質問し、「2021年9月のResearch Ethics」論文にまとめた。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、理解しやすいように白楽が色々加え、さらに、白楽の色に染め直してあります。

研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読んだ方がいいと思う。

●1.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:A phenomenographic study of scientists’ beliefs about the causes of scientists’ research misconduct
    日本語訳:研究者が思う研究不正行為の原因に関する現象記述学的研究
  • 著者:Aidan C Cairns, Caleb Linville, Tyler Garcia, Bill Bridges, Scott Tanona, Jonathan Herington, James T Laverty
  • 掲載誌・巻・ページ:Research Ethics Volume: 17 issue: 4, page(s): 501-521
  • 発行年月日:2021年9月1日:Article first published online: September 1, 2021; Issue published: October 1, 2021
  • 指定引用方法:
  • ウェブ:https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/17470161211042658
  • PDF:https://journals.sagepub.com/doi/pdf/10.1177/17470161211042658
  • 著作権:CC BY-NC 4.0:作品を複製、頒布、展示、実演を行うにあたり、著作権者の表示を要求し、非営利目的での利用に限定する(クリエイティブ・コモンズ – Wikipedia

★著者

  • 連絡著者:ジョナサン・ヘリントン(Jonathan Herington)
  • 紹介: 2021 OHRP EXPLORATORY WORKSHOP | HHS.gov
  • 写真:同上
  • ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-9507-8331
  • 履歴:Jonathan Herington
  • 国:米国
  • 生年月日:オーストラリア。現在の年齢:40 歳?
  • 学歴:オーストラリアのクイーンズランド大学(University of Queensland)で2006年に学士号(微生物学)、オーストラリア・ナショナル大学(Australian National University)で2013年に研究博士号(PhD)(哲学)取得
  • 分野:哲学
  • 論文出版時の所属・地位:米国のロチェスター大学・助教授(Assistant Professor of Philosophy at the University of Rochester)

ロチェスター大学(University of Rochester)。写真出典

●2.【日本語の予備解説】

この課題は研究倫理問題ではポピュラーなので、日本語の予備解説はあるが、ココへの掲載は省略。

●3.【論文内容】

「Responsible Conduct of Research (RCR)」は日本語では「責任ある研究実施」「責任ある研究活動」「責任ある研究行為」と訳されている。白楽ブログでは「責任ある研究実施」を使っている。ブログ内では統一した方がよいという観点から「責任ある研究実施」の訳を使う。

《1》序論 

米国では、「責任ある研究実施」(RCR)を理解し実行するため、研究倫理トレーニングを30年以上も標準的に行なっている。

しかし、研究倫理トレーニングは、米国および他の国での長い歴史があるにもかかわらず、このトレーニングは効果がないと繰り返し批判されてきた(Anderson et al.、2007 ; Antes et al.、2009 ; Kalichman、2014 ; Kornfeld、2012 ; Phillips et al.、2018)。

従って、真剣に「責任ある研究実施」トレーニングを開催、あるいは受けようと、多くの研究者は思わない。

ただ、一般論を言えば、トレーニングに効果があると思えば、人間はトレーニングを受ける(Albrecht and Karabenick、2018)。

この観点に従えば、研究倫理トレーニングの有効性を向上させれば、研究者は「責任ある研究実施」トレーニングを受けるだろう。トレーニングに効果を持たせる1つの方法は、研究者にとって適切な研究倫理トレーニングを考案することだと考えた。

今まで、研究倫理トレーニングの改善法を研究した研究者はいる。非倫理的な行動を引き起こす原因を研究した研究者もいる。しかし、研究者自身が研究規範に違反する原因についてどう考えているのかを研究した論文は以下の2論文以外にはない。

1つは「Buljan et al.、2018」論文で、この論文は、生物医学コミュニティに焦点を当て、研究者に非倫理的な行動を引き起こす要因を質問している。

もう1つは「Holtfreter et al.、2020」論文で、この論文は、非倫理的な行動を引き起こすと考えられる原因リストを研究者に示し、どれが重要かを評価させた論文である。この場合、原因リストを示すので、参加した研究者がそれ以外の原因だと思っても、その原因は最初から除外されている。

本研究では、幅広い基礎科学の研究者を対象に、直接的および間接的な方法の両方を使って、彼らが不正行為を引き起こすと信じているものを調査する。

《2》文献レビュー 

[白楽注:この論文の文献レビューは7ページもあり、広範で詳細で素晴らしい。でも、大きく割愛した]

★「責任ある研究実施」トレーニングの有効性

「責任ある研究実施」トレーニングに効果があるという証拠がほとんどないことは驚くべきことではない。

Kornfeld(2012)は、「この取り組みが効果的であったことを示唆する証拠は見つかりませんでした」と見解を要約している。

受講した研究者の倫理的「知識」を増やしたけれど、倫理的「行動」を増やせなかった。

★研究者が研究規範に違反する理由

研究者が研究規範に違反する理由に関する従来の研究では、次のように多数の要因が指摘されている。

プレッシャー(Belle and Cantarelli、2017 ; Davis et al.、2007:200; Kornfeld、2012 ; Sovacool、2008)、利得(Belle and Cantarelli、 2017 ; Boes et al.、2017)、精神的/感情的状態(Davis et al.、2007)、性格(Belle and Cantarelli、2017 ; DuBois and Antes、2018 ; Kornfeld、2012 ; Ruiz-Palomino and Linuesa-Langreo、2018 ; Sovacool、2008)、喪失嫌悪(Belle and Cantarelli、2017)、健康/家族のトラブル(Davis et al.、2007)、人間関係(Davis et al.、2007)、競争(Boes et al.、2017)、機会(Adams and Pimple、2005)、文化的要因(Davis et al.、2007)。

これらの研究では、これらの要因の影響度の強弱を示していない。研究規範に違反する要因であると示しているだけだった。

★研究規範に違反する理由についての研究者の意見

前述したように、「Buljan et al.、2018」論文と「Holtfreter et al.、2020」論文の先行研究が2つある。

この2論文の内容をここで紹介しているが、白楽ブログでは省略する。

★理工医学以外の分野での非倫理的な行動

研究規範に違反する行為は、STEM(理工医学)以外の他の研究分野でも起こる。

[白楽注:“STEM”は一般的に“Science, Technology, Engineering and Mathematics”の略語なので、日本語では理工数学に相当する。ただ、MathematicsではなくMedicineとする説もあり、医学にネカトが多いことを考え、本論文の論旨から、ここでは、理工医学とした]

Boes et al.(2017)は、ビジネス界では、競争と金銭的利益が商取引における非倫理的行動への主な要因だとし、倫理的な心構えというより、職業上の心構えを持つことが、倫理的行動に大きな違いをもたらすと結論付けた。

人文科学では、研究不正行為が蔓延しているという論文は、今までなかった。しかし、2021年の論文では、「倫理学・哲学の研究者の調査で、回答者の91.5%は、研究不正行為が増加していると答えた。63.2%は、示した不正行為のうち少なくとも3つは普通に起こっていると答えた」(Feenstra et al.、2021)。

《3》方法 

★現象記述学的(phenomenographic)アプローチ

研究者の信念を解明するために、現象記述学的(phenomenographic)アプローチを採用した(Marton、1986)。

白楽は、現象記述学(フェノメノグラフィー、phenomenography)の意味ががわからない。白楽が探したら、小玉博昭の以下の説明が見つかった。

Marton (2015)は現象記述学(Phenomenography)の立場から、学習すべき対象・現象はそれ単体では世界に存在しておらず、必ずそれが存在する文脈上にあるとするが、一度その文脈から切り離して、そして再び文脈に戻す作業をすることで学習は進むとしている。例えば、虹を理解するためには、虹を構成する七色の光線の一つ一つを理解している必要がある。しかし、個々の光線を理解しているだけでは虹を理解するのに十分ではなく、それが集まり、特徴的な形状となって初めて虹という概念が完成する。(小玉博昭(香港大学博士課程)、日本学刊、24号、68-80頁、2021 年:「効果的な教え方とは何か―授業の構造に注目して―

現象記述学的アプローチは、人々が特定の現象を経験または理解する方法を特定するのに特に優れている。

現象記述学的アプローチは、特定の現象を誰もが異なって経験する一方で、その現象を知覚するセットは限られているという基本的な仮定を立てている(Marton、1986)。この研究では、研究の不正行為という現象に対する研究者の認識に焦点を当てた。

この研究では、研究者が非倫理的な行動の原因についてどのように考えているかを知ることで、学習者を念頭に置いて将来の研究倫理トレーニングのプログラムを設計できるようになる。

研究者の経験と、彼らが研究において非倫理的な行動を引き起こすと考えていることを理解することで、研究倫理トレーニングの内容が彼らの興味に近いものにできる。

★参加者

この研究では、電子メール、口コミ、スノーボール手法で、フェローシップ主催者による招待を通じ、米国の大学で実際に研究している研究者を募集した。

応募者の中から、15人の研究者を選んだ。

性別や学問的地位の多様性を増やす意図があり。結局、3人の女性と12人の男性になった。4人はテニュア前教員で11人はテニュア後教員にだった。化学から3人、生物学から6人、生化学から2人、物理学から3人、地質学から1人だった

★データ収集と分析

2019年夏に15人の参加者と1対1で約1時間、1回インタビューしデータを収集した。

各参加者には、研究倫理、自分の研究室で発生する倫理的問題、研究不正絡みの短い物語を示し、一般的な質問をした。

インタビューはビデオ録画し、インタビューの終了後にインタビュアーは補足メモを書いた。

データの分析では、15人のインタビュイ―のうち14人のデータを使用した。実は、1人は、将来、論文著者の研究室に進学したいという希望者だったので、バイアスがかかる可能性があり、分析から除外した。

《4》結果.全体像 

インタビュイーの現象記述学的分析により、研究不正する原因を9つのサブカテゴリーに分類した。これら9つのサブカテゴリーは、発生源から、性格(Character)、構造的(Structural)、知的能力(Capacity)のカテゴリーに分類した。

これらのカテゴリー(サブカテゴリー)は、すべてのインタビュイーの発言の総数、およびそのカテゴリー(サブカテゴリー)内で少なくとも1回発言したインタビュイー数とともに表1にまとめた。

表1. 研究不正する原因:参加者が重複する原因を指摘する場合もあるので、数字は相互に排他的ではない。(英語のママでスミマセン)

《5》結果1.性格(Character) 

インタビューしたすべての研究者(10割、14人中14人)は、研究者が研究規範に違反するのは、その研究者の性格に欠陥があるためだと述べた。これら性格(Character)は、その研究者個人の悪徳(貪欲、怠惰、不道徳心など)という性格である。

【利得(Gain)】

ほとんどのインタビュイー(8割、14人中11人)は、個人的な利益追求が研究不正行為の原因だ、と述べた(表1)。

金銭、昇進、名声などを多く得ることを望むことが不正行為の動機という見方である。

(インタビュイー2)「彼らは仕事やお金、または名声を得ようとして不正をする。仕事やお金、または名声は彼らにとってより重要です」

(インタビュイー13)「・・・とはいえ、より大きな理由は、個人的利益、個人的またはグループ、イヤイヤ、やはり、主に個人的利益のためだと思います」

【ズル(Convenience)】

一部の参加者(3割、14人中4人)はまた、間違ったデータや有害なデータであっても、時間、労力、精神的、肉体的労力を節約するため、データをねつ造・改ざんし、研究規範に違反する行為をする、と述べた。

(インタビュイー2)「ズルするほうが楽なので、真剣に考えないで、ズルしてしまうんでしょう」

【道徳的欠陥(Moral deficiency)】

一部の参加者(3割、14人中4人)はまた、研究不正行為をする研究者は本質的に道徳(モラル)心に欠けている人々で、それが、研究不正行為の原因だ、と述べた。

(インタビュイー3)「・・・研究規範に根本的に対処できない人はいません。研究規範への対処は何回かの試行錯誤で変われます」

(インタビュイー4)「人間という生き物は、欠陥がある生き物なんです」

《6》結果2.構造的(Structural) 

インタビューした多くの研究者(8割、14人中11人)は、研究者が一般的に研究規範に従って行動したいと思っていても、社会的または制度的圧力によって、研究不正をしてしまうことがある、と述べた。

社会的または制度的圧力というのは、研究キャリア、生計(収入)、人間関係の維持・保護などである。

【プレッシャー(Pressure)】

参加者の半数以上(6割、14人中8人)が、研究は一般的にストレスの多い行為だが、特に、影響力の大きい学術誌に論文出版することのストレスとプレッシャーは大きく、これが研究規範に違反する原因である、と述べた。

「プレッシャー(Pressure)」が原因とする発言は20回もあった(表1)。これは、「利得(Gain)」と同じ数だった。

(インタビュイー15)「多くの場合、研究者はなんとか研究を終了させたい。手持ちの研究データだけでは必ずしも結論を支持していない。それでも、研究データを論文にまとめて発表したい。なぜなら、私たち全員が知っているように、それは研究界は「出版か死か(Publish or Perish)」の文化だからです・・・」

(インタビュイー3)「研究は非常に競争の激しい世界で、すべての人に強いプレッシャーをかけているから、不正をするのです」

【人間関係(Relationship)】

一部の参加者(4割、14人中6人)は、研究者の人間関係を守るとか、関係者に利益の提供があるなどで、研究規範に違反することもある、と述べた。

(インタビュイー4)「ケーススタディで示したくれたように、研究指導してくれる教員がテニュアを取得できないで、大学から追い出された場合、それは学生たちにとっても悲劇だということが、わかります」

(インタビュイー3)「この大学に新しく移籍してきた研究者は、おそらく研究費を得るのに必死だったと思う。その時、論文を出版すれば、研究助成金を得るのに役立つでしょう・・・」

(インタビュイー11)「他の人の研究に少し貢献させて、論文共著者にすることでその人の業績リストの論文数が増え、研究キャリアを前進させられるなら、私はそうします。それは寛大さであり、研究室員を助けるためでもあります」

【失う恐れ(Fear of loss)】

一部の参加(4割、14人中6人)は、大学教員が研究キャリアや研究資金を失う恐れがある時、失う恐怖のために、研究規範に違反する行動をする、と述べた。

(インタビュイー12)「・・・人、アイデア、地位などを失いそうな時、それを守ろうとする」

(インタビュイー5)「ねつ造データで書いた研究費申請書を提出したくないですよ。でも、自分の研究キャリアがその研究費申請書に依存しているんです」

《7》結果3.知的能力(Capacity) 

最後に、ほとんどの参加者(9割、14人中12人)は、構造的なプレッシャーがなくて、研究規範に違反するつもりがなくても、研究規範に違反してしまう場合があると指摘した。それは、無意識の偏見、研究規範の無知、技術的限界などのため起こる、と述べた。

[白楽注:白楽はこの節を正確に理解できていない]

【無意識の偏見(Unconscious bias)】

多くの参加者(4割、14人中9人)は、無意識の偏見が、非倫理的な行動につながる可能性がある、と述べた。

(インタビュイー11)「次のことを、私は人々に話したり自分自身に言うのが好きです。「期待する結果を言わないでください。これは信じられないほど抵抗するのが難しいのですが、期待している結果を言えば、その期待にそうように実験し、データを操作してしまうでしょう」

(インタビュイー7)「私が問題だと思ったケースでは、彼らはあまり客観的ではなかった。自分の妄想を正しいと思い込んでいたんですね・・・」

(インタビュイー3)「問題のある研究者は、研究規範に違反しているのに、研究規範に違反していることに気づいていないと思います。つまり、少なくともほとんどの場合、人々は意識的に研究規範に違反しようとしているとは思えません」

【無知(Ignorance)】

参加者の半数(5割、14人中7人)は、研究規範の理解が欠如しているのが非倫理的な行動の原因である、と述べた。

(インタビュイー13)「2つの理由があると思います。1つは無知です。研究規範に違反していることを知らないのです・・・」

(インタビュイー7)「・・・そして、それを正確な解釈だと思ってしまう。ところが、実際は、観察した結果は、研究者が理解していない現象からの寄与があって、混乱している。このようなことが、かなり頻繁に起こると思います」

【技術的限界(Technology)】

参加者の半数(5割、14人中7人)は、研究規範を完全に守ることの技術的限界についても述べた。

(インタビュイー13)「時々あなたは被験者を欺く必要がある。そうしないと有効なテストにならないからだ」

(インタビュイー4)「それは複雑なのですが、実際に患者に状況を説明すると、患者に質問する意味がなくなってしまう研究がある」

《8》議論 

議論は4ページと長い。省略した。

●4.【関連情報】

【動画1】
研究発表動画:「Jon Herington – Measuring Fairness in an Unfair World – YouTube」(英語)19分20秒。
AI and Human Valuesが2020/05/26に公開

【動画2】
研究発表動画:「Putting Theory to Practice: A Discussion of Data Feminism – YouTube」(英語)1時間31分52秒。
Mellon Fellowsが2021/04/27に公開

●5.【白楽の感想】

《1》根本的 

この手の研究を白楽ブログで何報も紹介してきた。しかし、実のところ、根本的な問題がある。

研究者は、①ネカトしていない研究者、②ネカトした研究者、の2大別ができる。

そして、この手の研究はほぼすべて「①ネカトしていない研究者」の意見を聞いている。

「① ネカトしていない研究者」に「ネカトする理由」を質問している。

窃盗という犯罪に例えると、①窃盗したことのない一般社会人、②窃盗罪で逮捕・有罪になった一般社会人、と2大別すると、「①窃盗したことのない一般社会人」に「人はどうして窃盗するのか?」と質問しているのと同じだ。

そうすると、「①窃盗したことのない一般社会人」は、世間に起こっている窃盗事件をニュースなどで知り、「想像」で、「窃盗する理由」を答えるだろう。

つまり、「①ネカトしていない研究者」の意見は、研究者のネカト事件を読んで、「想像」で、「ネカトする理由」を答えている。

コレって、根本的に間違っていると思う。

「① ネカトしていない研究者」が「想像」した「ネカトする理由」を集めても、他の人が推定した理由を座学で学んで、答えているだけである。空虚である。

インタビューするなら、「①ネカトしていない研究者」ではなく、「②ネカトした研究者」の方が、真実に近い。

あるいは、実際のネカト事件から、ネカトの理由をデータとして抽出する。

そういう視点から、白楽は実際に起こったネカト事件をたくさん調べている。実際の事件から、ネカトの動機や原因を解析すべきだと、強く思うからである。

ただ、ネカト事件を調べても、「どうしてネカトしたのか?」というネカトの理由をデータとしては示すのは容易ではない。そもそも、大学のネカト調査ではそういう調査を、真剣にはしていない。

《2》論理が甘い

文献レビューはシッカリしているまともな論文だと、最初は思った。

しかし、結果を読んでいくと、だんだん、浅さを感じてしまった。

まず、ネカトする理由を大きく、「性格(Character)」「構造的(Structural)」「知的能力(Capacity)」の3つのカテゴリーに分けた点はママよい。ただ、最期の「知的能力(Capacity)」は疑問である。

白楽も卓見・浅見1で【悪行の2要素は「苗(なえ)」と「たんぼ」】と指摘している。

そして、さらに読み進む。

カテゴリー内に、【ズル(Convenience)】【道徳的欠陥(Moral deficiency)】【プレッシャー(Pressure)】【人間関係(Relationship)】などなどの要因を挙げているが、これは、論理が甘いと感じた。

ほぼどれも、【利得(Gain)】を目的とする諸過程であって、各要因は独立してない。

突き詰めれば、要因は2つで、1つは研究規範の詳細を知らなかった【無知(Ignorance)】と、もう1つは、【利得(Gain)】に集約される。

【無知(Ignorance)】はマレなケースである。白楽の推察では「ほぼない」ケースだと思う。

ただ実際のネカト事件で「そのような規則だとは知らなかった」と弁解するケースはそこそこある。本当は知っていたけど、知っていてネカトをしたら処分は重いので、「知らなかった」と弁解するのである。

ネカト調査での聞き取り調査、また、新聞記者のインタビューに対して、ネカト者が「知らなかった」と答える。しかし、それを真に受けてはいけない。単なる弁解だと、白楽は思う。

なので、結局、ほとんどの要因は【利得(Gain)】に尽きると思う。

例えば、【プレッシャー(Pressure)】を考える。【プレッシャー(Pressure)】というのは、何とかして論文を出版せねばならないというプレッシャーである。なぜ、プレッシャーを感じるか? 院生なら博士号取得や就職、研究員なら研究費を獲得したり昇進したい。これらは、突き詰めれば、結局、【利得(Ga in)】を目的としているわけだ。

つまり、この論文でネカトの理由として挙げた要因が、表面的すぎる。浅すぎる。

《3》正確性と客観性 

この手の研究の特徴だが、インタビューした人が14人と少ないのは、かなり気になる。1人の意見が結論に大きく影響する。

その上、インタビューなので、論文著者が会話をどう解釈するかで、結論が変わる。

本論文でも、インタビュイーとの会話内容が記載されているが、かなり間接的な発言を、論文著者は【無知(Ignorance)】とか【プレッシャー(Pressure)】とかに分類している。

つまり、正確性や客観性が大きく欠ける。

本論文の著者ジョナサン・ヘリントン(Jonathan Herington、写真出典)は研究倫理教育の賛成派である。

文献レビューで、多くの論文が、研究倫理教育は役に立たないと報告しているのを紹介している。研究倫理教育は役に立たないと多くの報告があることを承知の上で、研究倫理教育を何とか改善できないかと摸索している。

この姿勢は悪くないが、研究倫理教育が必要で有効だという数値を高めに出している印象を受けた。

特に、「結果3.知的能力(Capacity)」の数値が高すぎる。ハッキリ言えば改ざんされている印象を受けた。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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