「レイプ」:倫理学:アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)(米)

2020年8月22日掲載 

ワンポイント:【長文注意】。美人白人女性・準教授(既婚)が脳性麻痺の黒人男性患者に恋愛感情を抱き、性行為し、逮捕・投獄された事件。スタブルフィールドはラトガース大学(Rutgers University)・準教授で専門は倫理学だった。既婚で2人の子供がいた。2011年(41歳)、彼女の患者で、脳性麻痺で歩けない話せない知的障害の黒人男性(30歳)に恋愛感情を抱き、性的関係をもったことで、レイプ(強姦)とみなされた。裁判に訴えられた。2015年11月(45歳)、無罪を主張したが、恋愛は妄想とされ、12年間の刑務所刑が科された。2018年5月11日(48歳)、控訴審で司法取引し、有罪を認め、刑務所から出所した。知的障害の男性と「支援伝達(円滑化コミュニケーション、facilitated communication)」で意思疎通していたと主張したが、「支援伝達」の有効性が疑問視された点、悪意のない純粋な恋愛感情からの性的関係をどうとらえるか、ドキュメンタリー小説のような詳細な「New York Times」紙の記事など、米国で大きな反響を呼んだ事件である。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield、写真出典)は、米国・ラトガース大学(Rutgers University)・哲学科・準教授で、専門は倫理学だった。

事件当時、既婚で夫と2人の子供がいた。

2011年(41歳)、脳性麻痺で歩けない話せない知的障害の黒人男性(30歳)が彼女の患者だったが、その患者に恋愛感情を抱き、性的関係をもったことで、レイプ(強姦)とみなされた。

裁判に訴えられた。

2015年11月(45歳)、無罪を主張したが、、恋愛は妄想とされ、12年間の刑務所刑が科された。

2018年5月11日(48歳)、控訴審で司法取引し、有罪を認め、刑務所から出所した。

この事件は、加害者が既婚の知的な白人の女性準教授で被害者が知的障害の黒人の男性という特殊な事件である。

単純な「レイプ」事件で済ませない次の面がある。

1つ目は、知的障害の男性と「支援伝達(円滑化コミュニケーション、facilitated communication)」で意思疎通していたと主張したが、「支援伝達」の有効性が疑問視された。

2つ目に、悪意のない純粋な恋愛感情からの性的関係をどうとらえるか? 人間の愛情と法律・社会道徳に葛藤がある。人種問題、障害者問題など人権や差別の微妙で複雑な面が背景にある。

上記に加え、ドキュメンタリー小説のような詳細な「New York Times」紙の記事を含め、米国で大きな反響を呼んだ。

米国・ラトガース大学(Rutgers University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:イリノイ大学
  • 男女:女性
  • 生年月日: 1970年、米国イリノイ州で、ユダヤ人の親のもとに生まれた。仮に1970年1月1日生まれとする。2011年5月30日に41歳とあるので
  • 現在の年齢:51 歳
  • 分野:倫理学
  • レイプ行為:2011年(41歳)
  • 最初に訴えられた:2011年(41歳)
  • 社会に公表年:2014年(44歳)
  • 社会に公表時地位:ラトガース大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の弟と母親で大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「New York Times」など多数のメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない
  • 大学・処分のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:レイプ
  • 被害者数:1人の男性
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後は辞職・解雇(Ⅹ)
  • 処分・罰:辞職・解雇。12年の刑務所刑(2年後出所)。約4億円の損害賠償金
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

出典の1つ(誤記あり?):Anna Stubblefield Wiki, Age, Bio, Net Worth, Boyfriend, Husband, Kids

  • 生年月日:1970年、米国イリノイ州で、ユダヤ人の親のもとに生まれた。仮に1970年1月1日生まれとする。2011年5月30日に41歳とある。なお、1979年2月1日生まれという記事もある
  • 1989年6月(19歳):ロジャー・スタブルフィールド(Roger Stubblefield)(24歳)と結婚
  • 19xx年(xx歳):イリノイ大学(University of Illinois)で学士号取得
  • 1985年(25歳):1人目の子供(息子)誕生
  • 1988年(28歳)?:2人目の子供(娘)誕生
  • 2000年(30歳):イリノイ大学(University of Illinois)で研究博士号(PhD)を取得
  • xxxx年(xx歳):ラトガース大学(Rutgers University)・哲学科・準教授
  • 2005年(35歳):著書・『人種差別に沿った倫理(Ethics along the Color Line)』を出版
  • 2008年(38歳):ディーマン・ジョンソン(DMan Johnson、D.J.)の世話をしはじめる
  • 2011年3~5月(41歳):ディーマン・ジョンソンと恋愛し性行為、またはレイプ
  • 2011年8月(41歳):ディーマン・ジョンソンの母親がラトガース大学に通報
  • 2013年1月(43歳):起訴
  • 2013年(43歳)?:ラトガース大学(Rutgers University)・辞職(解雇)
  • 2013年(43歳)?:ロジャー・スタブルフィールド(Roger Stubblefield)と離婚
  • 2015年10月(45歳):裁判で有罪
  • 2015年11月(45歳):裁判で12年の刑務所刑。無罪を主張し続けた
  • 2018年5月11日(48歳):控訴審で司法取引し、有罪を認め、刑務所から出所

●3.【動画】

【動画1】
裁判で被害者の兄弟が主張する:「Man speaks out against ex-Rutgers professor who sexually assaulted his disabled brother – YouTube」(英語)1分08秒。
NJ.comが2018/05/11に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

わかりやすいように、アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)をアンナと表記し、ディーマン・ジョンソン(DMan Johnson、D.J.)をD.J.と表記することもある。ディーマン・ジョンソンの家族はファースト・ネームや母親Pで表記する。

なお、アンナは少女・青春時代はマーギー・マクレネン(Margie McClennen)という名前で育っている。19歳の時、ロジャー・スタブルフィールド(Roger Stubblefield)と結婚した。事件では、「Marjorie Anna Stubblefield」のミドルネールの「アンナ(Anna)」を使い、アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)という名前が使われている。

★かなり特殊な事件

表題では「レイプ」事件としたが、加害者のアンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)は美人の白人女性準教授である。

被害者のディーマン・ジョンソン(DMan Johnson、D.J.)は、脳性麻痺の歩けない話せない知的障害の黒人男性である。ジョンソンはスタブルフィールドの患者でもある。写真出典

アンナがD.J.と恋愛感情を持ち、性的行為に及んだのだが、ある意味、ほほえましい美談と扱われてもいい話しだ。

ところが、性的暴行(レイプ)で逮捕され、12年の刑務所刑が科された。

当時、アンナは41歳、白人女性で、結婚し2人の子供がいた。167 cm、64 kg、年収約6万ドル(約600万円)。

D.J.は30歳、黒人男性で、一度も女性とデートしたことがない。脳性麻痺で歩けない話せない、知的障害がある。

★研究者としてのアンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)

アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)は母親が盲目の人や障害者を助ける社会活動家だった影響を受け、人生の早い時期から社会奉仕活動をして育った。アンナは、障害について学び、それらの人々を助けることに強い関心を持っていた。

アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)は著書・『人種差別に沿った倫理(Ethics along the Color Line)』(2005年)を出版している(本の表紙出典はアマゾン)。

【動画2】
学術講演動画:「Anna Stubblefield – The Entanglement of Race and Cognitive Disability (Selection) – YouTube」(英語)5分38秒。
University of Alberta Living Archives Projectが2013/03/19に公開

★切っ掛け

D.J.の弟のウェスリー(Wesley)は、ラトガース大学(Rutgers University)で、2009年に修士号(歴史学)を取得し、ラトガース大学(Rutgers University)の博士課程に進んだ。

物語はウェスリー(Wesley)がまだ修士院生の時の2008年に始まった。ウェスリー(Wesley)はアンナの授業を受けていた。

2008年、アンナの授業で2004年のCNNドキュメンタリー「Autism Is A World on Vimeo」の一部が使われた。知能指数29の少女が「支援伝達(facilitated communication)」(後で説明)で大学に進学するまでに回復した物語である。

ウェスリー(Wesley)は、授業が終わってから、アンナに自分の兄D.J.にも「支援伝達(facilitated communication)」ができないだろうかと、相談した。

アンナはワークショップで、キーボードを使って意思の疎通をする「支援伝達(facilitated communication)」を学んでいたので、支援することを了承した。一度、兄D.J.を連れて、研究室にくるように伝えた。

少し後の土曜日、ウェスリー(Wesley)と母親PはD.J.を連れて、アンナの研究室を訪れた。

アンナは雑誌から切り出しカードに貼った写真をD.J.に示した。 彼女は、「ガスコンロはどの部屋にありますか?」と尋ね、キッチン、ベッドルーム、バスルーム、ランドリールームを示す4枚のカードを並べた。

D.J.は自分で示せなかった。それで、アンナはワークショップで学んだ「支援伝達(facilitated communication)」を試してみた。

アンナはD.J.の腕を安定させるためにD.J.の肘の下に手を置き、この助けを借りて、彼がキッチンの写真を示せることを発見した。

それからD.J.はアメリカ大統領のバラク・オバマを、彼女のサポートを得ながらも示すことができた。

アンナは、「D.J.がアルファベットを知っていて、簡単な言葉を綴ることができるのは明らかだ」とウェスリー(Wesley)と母親Pに伝えた。

母親Pは隔週土曜日にD.J.を連れてはラトガース大学のアンナの研究室を訪れた。そして、ついに、自宅に来て指導してくれないかと頼んだ。

2009年、アンナは、D.J.の家族の要請により、「支援伝達(facilitated communication)」と呼ばれる方法でD.J.の援助を始めた。

アンナは、D.J.の肘の下に手を入れ、D.J.が絵を指さすのを補助し、次に手紙を指さすのを手伝った。

最終的には、内蔵スクリーンを備えたハンドヘルド・キーボードのボタンを指さすまでになった。アンナに支えられたD.J.の手が、彼の30年に渡る沈黙を破り、ついに、自分の意思をタイプしたのである。

https://www.nj.com/essex/2018/05/ex-rutgers_professor_anna_stubblefields_sexual_ass.html

★親密に感じる

アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)には、19歳の時に結婚した夫・ロジャー・スタブルフィールド(Roger Stubblefield)と、15歳の息子、12歳の娘がいた。

アンナは徐々にD.J.を親密に感じるようになった。

そして、アンナはD.J.にロマンチックな気持ちを持っていることに徐々に気づき始めまた。

アンナはまた、D.J.の家族との関わりを深めていった。

D.J.の母親Pが歩行肺炎にかかり、緊急の治療が必要になったとき、アンナは病院にお見舞いに行った。ある時は、母親Pがアンナの家族のためにパイを焼いた。アンナはD.J.の家族の一員のようになった。

2010年10月15-16日、アンナとD.J.と母親Pは、ミルウォーキーでの学術集会に参加した。そこでD.J.が発表した論文をアンナの父親が声を出して読み、最終的には査読付きの学術誌に掲載された。 → AutcomNLWinter2011.pdf

AutcomNLWinter2011-1

 

その秋、D.J.はアンナが企画したラトガース大学の授業にも参加し始めた。アンナは、後に警察の取り調べに対し、「何を読んだかは言えませんが、D.J.はほとんどの本を読みました。そしてD.J.はその情報をタイプしました」と述べている。

D.J.が大きく変わってきたとアンナが感じるようになったにもかかわらず、D.J.と家族との関係はあまり変化がなかった。

1つの問題は、アンナが「支援伝達(facilitated communication)」でD.J.と意思疎通を図っているというが、ウェスリー(Wesley)と母親P が同じ「支援伝達(facilitated communication)」をしても、D.J.はタイプできなかった。

彼らは何時間もトレーニングしたが、2人共「支援伝達(facilitated communication)」が成功しなかった。アンナはD.J.と入力できても、ウェスリー(Wesley)と母親Pは常に失敗した。

★恋に落ちた

2011年3月、アンナはD.J.をラトガース大学に招き、授業で、彼の障害について発表させた。

受講生はD.J.に質問した。

「あなたの希望と夢は何ですか?」
D.J.は、「大学に行き、作家になり、障害者活動に取り組みたい」とタイプした。

「恋愛したいですか?」
D.J.は、「今は、何よりもそれをしたい」と答えた。 「しかし、私のような障害を持つ者が可能かどうかはわかりません」

アンナは自分の気持ちを自分の中に閉じ込めておけないことを知った瞬間だった。

後に彼女は、「私は、こう言いたかったのです。 愛してるよ、と」、と証言した。

1週間後の午後のプログラムで、アンナはついにD.J. に、「私もあなたを愛しています」とタイプした。

アンナは彼女の弁護士の要請で2人の関係を報告書に書いた。その中に、「アンナがとても深く熱心に私(D.J. )を愛している」と書いている。

こまかいプロセスと状況を省くが、結局、アンナは段階的に性的関係を深めていった。D.J.にキスし、オーラルセックスをし、彼女のオフィスで性交をした。

★決裂

2011年5月30日(月曜日)(41歳)、米国の休日・戦没将兵追悼記念日(Memorial Day)に、アンナはD.J.の家を訪れた。

到着したとき、D.J.の弟のウェスリー(Wesley)は庭で働いていたので、彼女はD.J.と母親Pと、しばらくの間、食卓で雑談をしていた。

そして、ウェスリーが戻ってきた時、アンナはD.J.の手を握り、「私たちはあなたに言うべきことがあるのです。私たちは恋に落ちました。セックスもしました」と発表し、2人の前でキスをした。

母親Pの顔色がサッと変わり、「恋に落ちました、って、どういうこと?」と発した。ウェスリーは気分が悪くなった。

母と弟が動転したのは、アンナが41歳でD.J.が30歳だったことでも、アンナが白人でD.J.が黒人だったことでもなかった。

アンナは話すことができるが、D.J.は話すことができない。アンナはラトガース大学・準教授の知的な人間だが、D.J.は幼児レベルの精神的能力しかないことだった。要するに、人間としてまともなコミュニケーションが成り立っていないと思えたのだ。

アンナは、D.J.と一緒の人生を始める準備ができていたと述べた。現夫と離婚し、5年以内にD.J.と結婚し、彼と一緒に彼女の人生を再開するという文書に署名すると、ウェスリーと母親Pに話した。

しかし、ウェスリーと母親Pは事態がおかしい、異常であると感じた。

そして、ウェスリーと母親Pは、アンナに息子D.J.との接触するのをやめるように言った。しかし恋に落ちたアンナはD.J.との接触を続けた。

2011年8月(41歳)、それで、ウェスリーと母親Pは、ラトガース大学に電話で問題を申し立てた。

ラトガース大学はエセックス郡検察庁(Essex County Prosecutor’s Office)に連絡を取った。

2013年1月(43歳)、エセックス郡検察庁は、アンナを性的暴行で逮捕し、起訴した。

そして、その後、刑事裁判とは別に、100万ドル(約1億円)の損害賠償を求める民事訴訟も始まった。

「支援伝達(facilitated communication)」が科学的に妥当な意思伝達方法かどうかに関係なく、アンナは職業倫理に違反していた。

D.J.はアンナの患者である。つまり、彼が同意してもしなくても、アンナは彼と複雑な関係を持つべきではなかった。

クライアントとの性的またはロマンチックな関係は言語道断な非倫理的行為で、一切禁止されている。アンナは、職業規範の最も厳しい原則に違反した。

https://www.nytimes.com/2015/10/25/magazine/the-strange-case-of-anna-stubblefield.html?_r=1

★支援伝達(facilitated communication:FC)

アンナは、D.J.の家族の要請により、「支援伝達(facilitated communication)」(後で説明)と呼ばれる方法でD.J.の意思を表現させることを始めた。

アンナは、D.J.の肘の下に手を入れ、D.J.が絵を指さすのを補助し、次に文字を指さすのを手伝った。最終的には、内蔵スクリーンを備えたハンドヘルド・キーボードのボタンを指さすまでになった。

アンナに支えられたD.J.の手が、彼の30年に渡る沈黙を破り、ついに、自分の意思をタイプしたのである。

そして、ついに、アンナの助けを借りて、D.J.はアンナと恋愛関係になり、キスとセックスを望み、その行為に満足した、とアンナに伝えた。

しかし、D.J.が「支援伝達(facilitated communication)」で伝えたことは、本当にD.J.の意思だったのか、アンナの妄想でアンナがタイプした、ということだったのか?

「支援伝達(円滑化コミュニケーション、Facilitated communication – Wikipedia):FC」について以下の説明がある。

以下は「Facilitated communication 裁判所による否定的結論」の文章を少し改変して流用した。

1つ目の裁判における申し立てでは、アルスター郡に住む発話不能の16歳の自閉症女性が、継続的に父親と祖父から性的虐待を受けているという告発をファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)で行った。。その申し立てを裏付ける物的証拠はなく、その他の証拠もなかった。この両親は、ともに刑事責任を問われた--父親は当該虐待行為に対して、母親は父親の行為を届け出なかったことに対してである。裁判での審理は10ヶ月以上に渡った。

9月15日、K. K. Peters裁判官は判決を下し、FCを使って語られた主張は、不正行為を行ったとされる人間を告発するに十分な信頼性を欠いていると述べた。

・・・中略・・・

アメリカ精神遅滞協会 (AAMR) 運営委員会により1994年1月に採択された、Facilitated communicationに対するアメリカ精神遅滞協会の公式声明は以下の通り。

それゆえ、ファシリテイテッド・コミュニケーション(FC)とは、意志の疎通に障害のある個人がキーボードまたはタイピング装置を使うときにその腕または手をファシリテイターが補助する方法である。この方法は自閉症や精神遅滞を持つ個人の意志の疎通を可能にすると主張されている。

相当数に上る客観的臨床評価および十分にコントロールされた研究によれば、現在のところファシリテイテッド・コミュニケーションによって補助される障害者から有効なメッセージが得られたという結果は示されていない。(出典:2008/03/01更新、「奇跡の詩人」検証文献翻訳班@2ちゃんねる: Facilitated communication 裁判所による否定的結論

★裁判

2013年2月、ウェスリーと母親Pは裁判を起こす。被告はアンナとラトガース大学である。後に、ラトガース大学は被告からはずされた。

アンナは当初から、D.J.と性的関係をもったことを否定しなかった。

彼女はD.J.が性的関係を同意するのに十分な精神的能力があったと主張した。

アンナは「支援伝達(facilitated communication)」を通じて、D.J.が2人の関係に同意したと主張した。 つまり、アンナの手の援助を受けながらも、D.J.はポータブル・キーボードで自分の言葉を打ち、意思を伝えたのだと。

しかし、ウェスリーと母親Pは、「アンナは精神的に異常なねじれた空想(twisted fantasy)を持っていた」とし、自分の研究キャリアを促進するために、D.J.をアンナの研究のモルモットとしていたと主張した。

そして、裁判では、アンナの「支援伝達(facilitated communication)」はデタラメで、D.J.が自分の意志で自分の言葉をポータブル・キーボードで打ったのではなく、アンナがアンナの言葉を打たせたのだ、と裁定された。つまり、アンナが抱いたD.J.とのロマンスはアンナの妄想である、と。もし、妄想でないなら、状況を知っていて行なった詐欺だ、と。

2015年10月(45歳)、刑事裁判で有罪となった。

2015年11月(45歳)、刑事裁判で刑期12年の刑務所刑が科された。

2016年10月(46歳)、民事裁判でウェスリーと母親Pは400万ドル(約4億円)の損害賠償金を獲得した。 → 2016年10月25日記事:Rutgers prof convicted in sex assault of disabled man ordered to pay $4M – nj.com

★控訴

2017年6月9日(47歳)、2年前の裁判はフェアではなかったので、別の裁判官による裁判をするよう裁定された。
 → 2017年6月10日記事:Convictions overturned for professor accused in sex assault of disabled man – nj.com

以下は2017年6月9日公開法廷文書の冒頭部分(出典:同)。全文(22ページ)は → https://www.njcourts.gov/attorneys/assets/opinions/appellate/published/a2112-15.pdf

2018年3月19日(48歳)、エセックス高等裁判(Essex Superior Court)のジョン・ズニック裁判長(John Zunic)は、既に2年ほど刑務所暮らしをしてきたアンナに司法取引を提案した。

ジョン・ズニック裁判長(John Zunic)、写真出典https://www.nj.com/essex/2018/05/anna_stubblefield_sentenced_for_second_time.html

2018年5月11日(48歳)、アンナは司法取引に応じた。認識能力がない男性と性的関係を結んだ罪で有罪を認めた。その代わり、残りの人生を仮釈放の監督下で過ごし、刑務所から出所するという人生を選んだ。 → 2018年5月11日記事:No more prison for ex-Rutgers professor who sexually assaulted disabled student – nj.com

なお、アンナはミーガン法の下で性犯罪者として登録される。また、D.J.及びD.J.の家族と接触することは禁じられた。

https://www.nj.com/essex/2018/05/ex-rutgers_professor_anna_stubblefields_sexual_ass.html

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》法律の方がオカシイ?

スタブルフィールド事件で、アンナ・スタブルフィールド(Anna Stubblefield)に悪意はないし、相手を傷つける意図はみじんもない。歩けない話せない脳性麻痺で知的障害の男性を助けたいと思い、人生を共にしようと思い始めた。

相手が若い男性で、恋人として相手の性欲を満たしてあげたいと性行為に及んだ。

このような温かい気持ちの行為を、どうして、罪としてしまうのか? レイプとする法律の方がオカシイのではないだろうか?  

という面と、ディーマン・ジョンソン(DMan Johnson、D.J.)がアンナに恋心を抱いているというのは、アンナの妄想で、妄想で拒否できない相手を無理やり性行為した(つまり、レイプした)のは明確な犯罪である、という面がある。

アンナが意思伝達方法に使った「支援伝達(facilitated communication:FC)」は、現在、法的には無効とされている。

《2》職業倫理

本文に書いたけど、「支援伝達(facilitated communication)」が科学的に妥当な意思伝達方法かどうかに関係なく、アンナは職業倫理に違反していた。

D.J.はアンナの患者である。D.J.の治療で収入を得ていないので、正確には患者というのはヘンだが、自分の専門の倫理学の学術研究の一環として、脳性麻痺のD.J.の意思表明を改善しようとしていた。

つまり、D.J.はアンナの患者である。その場合、D.J.が同意してもしなくても、アンナは、治療の枠を大きく逸脱するような性的関係をD.J.と持つべきではなかった。

職業倫理としては、クライアントとの性的またはロマンチックな関係は言語道断な非倫理的行為で、一切禁止されている。アンナは、職業規範の最も厳しい原則に違反した。

出典不明。ゴメン

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●8.【主要情報源】

① 2014年4月20日のトーマス・ザンビット(Thomas Zambito)記者の「nj.com」記事:Rutgers-Newark philosophy chairwoman fights criminal sexual assault charges – nj.com
② 2014年4月23日のコリーン・フラハティ(Colleen Flaherty)記者の「Inside Higher Ed」記事:Rutgers philosophy professor accused of sexually assaulting disabled research partner
③ 2015年10月20日のダニエル・エンガー(Daniel Engber)記者の「New York Times」記事:The Strange Case of Anna Stubblefield – The New York Times、(保存版
④ 2017年4月11日のダニエル・エンガー(Daniel Engber)記者の「Slate」記事:Will Anna Stubblefield get a new trial in her facilitated communication case?
⑤ 2017年5月4日のビクトリア・スターン(Victoria Stern)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: After researcher is convicted of sexual assault, journal retracts her co-author’s paper – Retraction Watch
⑥ 2018年5月11日(2019年1月30日更新)のアレックス・ナポリエロ(Alex Napoliello)記者の「nj.com」記事:No more prison for ex-Rutgers professor who sexually assaulted disabled student – nj.com
⑦ 2018年4月5日のダニエル・エンガー(Daniel Engber)記者の「New York Times」記事:The Strange Case of Anna Stubblefield, Revisited – The New York Times
⑧ 2017年論文:Kevin Mintz (2017) Full article: Ableism, ambiguity, and the Anna Stubblefield case, Disability & Society, 32:10, 1666-1670, DOI: 10.1080/09687599.2017.1356058

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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