マーク・シェパー(Mark Scheper)(米)

2015年2月8日掲載、2024年2月20日更新

ワンポイント:シェパーは、メリーランド大学(University of Maryland)・助教授だった2013年5月(44歳)、シェパー の2009年の論文にねつ造・改ざん疑惑が指摘された。メリーランド大学と研究公正局がネカト調査を始めた。その8か月後の2014年1月22日、シェパーは45歳で自然死した。それで、ネカト調査を中止した。国民の損害額(推定)は2千万円(大雑把)。

ーーーーーーー 目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント 
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●1.【概略】

150202 JCarcinog_2011_10_1_2_75723_a8[1]マーク・シェパー(Mark Scheper、Mark A. Scheper、写真出典〈リンクはあるけど写真は削除された〉)は、米国のメリーランド大学(University of Maryland)・助教授・歯科医師で、専門は細胞生物学(がん細胞の細胞情報伝達)だった。

2013年5月(44歳)(推定)、シェパー の「2011年1月のJ Carcinog.」論文にデータねつ造・改ざんがあると「パブピア(PubPeer)」で指摘された。指摘者は、この時、メリーランド大学にネカト疑惑を通報した(推定)。

メリーランド大学が調査委員会を設置し、研究公正局もネカト調査の準備をした。

8か月後の2014年1月22日(45歳)、ところが、シェパーは45歳で自然死した。

メリーランド大学と研究公正局はネカト調査・準備を始めたが、被疑者が死亡したので、調査を中止した。

メリーランド大学(University of Maryland)。写真出典保存版

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 歯科医師免許(DDS)取得:オハイオ州立大学
  • 研究博士号(PhD)取得:メリーランド大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1968年10月7日
  • 没年:2014年1月22日、自然死。享年45歳
  • 分野:細胞生物学
  • 不正論文発表:2006~2009年(37 ~ 40歳)
  • 不正論文発表時の地位:メリーランド大学・助教授
  • 不正発覚年:2013年(44歳)
  • 発覚時地位:メリーランド大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(匿名)は「パブピア(PubPeer)」で指摘し、大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①メリーランド大学調査委員会。途中で調査中止。②研究公正局。途中で調査中止
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:調査終了前に被疑者が死亡したので途中で中止。しかし、論文撤回を要請した(△)。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:撤回論文2報。他に不審論文3報あり
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 処分:なし
  • 特徴:大学がネカト調査を開始して8か月後、被疑者が自然死し、調査中止、というまれなケース
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】 国民の損害額:総額(推定)は2千万円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

経歴出典:不明

  • 1968年10月7日:米国で生まれる
  • 19xx年(xx歳):米国・オハイオ州のザビエル大学(Xavier University)卒業
  • 1995年(26歳):米国・オハイオ州立大学・歯学部(Ohio State University College of Dentistry)を卒業。歯科医師免許取得
  • 19xx年(xx歳):米国・メリーランド大学(University of Maryland)で研究博士号(PhD)取得
  • xxxx年(xx歳):メリーランド大学(University of Maryland)・助教授
  • 2013年5月(44歳)(推定):不正が発覚
  • 2013年5月(44歳)(推定):メリーランド大学はネカト調査委員会を設置
  • 2014年1月22日(45歳):自然死。享年45歳
  • 2014年1月(45歳)(推定):メリーランド大学は調査を中止

●5.【不正発覚の経緯と内容】

150202 saukis[1]

★ジョン・ソーク教授(John Sauk)

シェパーの撤回論文は、「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文と「2011年1月のJ Carcinog.」論文である。

2009年の撤回論文の最後著者はジョン・ソーク教授(John Sauk 写真出典)で、当時、ソーク教授が上司だったと思われる。

ただ、2007年9月4日、ソーク教授は、メリーランド大学(University of Maryland)から米国のルイビル大学(University of Louisville)・歯学部長に栄転した。・・・ネカトと関係はないと思うが・・・。

★発覚

2013年5月(44歳)(推定)、「パブピア(PubPeer)」で匿名の人が、シェパー の「2011年1月のJ Carcinog.」論文にデータねつ造・改ざんがあると指摘した。指摘者は、この時、メリーランド大学にネカト疑惑を通報した(推定)。

★調査

メリーランド大学は、シェパーの論文にデータねつ造・改ざんがあるとの公益通報を受け、ネカト調査委員会を設置した。

シェパーはソーク教授が受給した2件のNIHグラント(DE13118 と DE12606)の共同研究者だったので、メリーランド大学は、研究公正局にも通知した。研究公正局も調査を始める準備をした。

★被疑者の死亡

メリーランド大学がかなり調査し、研究公正局も調査の予定を組んだ頃、2014年1月22日(45歳)、シェパーは死亡した。

自然死(natural causes)とのことだが、45歳なので老衰ではない。事件や事故でなければ、病気か自殺?

この時、メリーランド大学はネカト調査を終えていたのかどうか、正式には不明だが、実質的にはほぼ終了していたと思われる。というのは、その後、ネカトとの理由でシェパーの論文を撤回するよう学術誌に要請したからである。

なお、論文共著者(ソーク教授?)はシェパーが単独でデータをねつ造・改ざんしたと主張していた。一方、シェパーはねつ造・改ざんを認めないまま死亡した。

研究公正局は、シェパーが死亡したとの通知を受け、調査未了のまま、調査を終えた。

★論文撤回

「パブピア(PubPeer)」で最初にネカト疑惑が指摘された「2011年1月のJ Carcinog.」論文は2015年2月23日に撤回された。

それより前の2014年12月(没後11か月)、「Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」誌編集長が、2009年のシェパーの論文を撤回した。

メリーランド大学からネカトなので論文を撤回するよう要請されたからである。

2015年1月29日(没後12か月)、ネカトハンターのフェルナンド・ペソア(Fernando Pessoa)は、「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文以外に、シェパーの以下の3論文にデータ改ざん疑惑がある、と指摘した。

  1. https://pubpeer.com/publications/647271173699AD33378C24F373F9F7
  2. https://pubpeer.com/publications/287B636EF762DEE83472CADFF5B792
  3. https://pubpeer.com/publications/D47ACDF5910C04D399C400E656BFF7

メリーランド大学調査委員会は、「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文以外に不正論文があると述べている。論文名を公表していないが、ペソアが指摘した論文と同じだろう。

【ねつ造・改ざんの具体例】

★「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文

以下の「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文は、2014年12月1日に撤回された。

最後著者はジョン・ソーク教授(John Sauk)である。シェパーは第二著者だが、第一著者と第二著者は論文への貢献が同等だと論文に記載されている。

メリーランド大学調査委員会も研究公正局もどの部分がネカトだとは指摘していない。

撤回公告では、編集長の判断で撤回したとある。メリーランド大学はねつ造・改ざんがあると述べているが、どの部分なのかを示していない。

「パブピア(PubPeer)」でも、ねつ造・改ざん部分を示していない。

それで、白楽は、具体的なねつ造・改ざん部分がわからなかった。

白楽は、論文内容を精査していないが、第二著者のシェパー1人に不正の罪をかぶせている印象がある。

死人に口なしということだろうか? いつもヘンに思うが、第一著者か最後著者のどちらにも責任がないのは、ナンカ変だ。

★「2011年1月のJ Carcinog.」論文

以下の「2011年1月のJ Carcinog.」論文は2015年2月23日に撤回された。 → 撤回公告

「パブピア(PubPeer)」で複数の電気泳動バンドが重複していると指摘された(https://pubpeer.com/publications/287B636EF762DEE83472CADFF5B792)。図出典は原著論文。

以下に図 4abを示す。

  • 図 4bのTraf 2とActinが極似である。露出を変えた 水平鏡像。
  • 図 4aの Caspase 2 が 図 4bのCaspase 3 と同じ。
  • 図 4bの Bcl XL は露出を変え 180度回転させてBax。

以下に図 5abを示す。

  • 図 5aのActinは、図 5bのActinの露出を変えた 水平鏡像。
  • 図 5aの Caspase 2 は、図 5bのCaspase 2 の露出を変えた 水平鏡像。 

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2024年2月19日現在、パブメド(PubMed)で、マーク・シェパー(Mark Scheper、Mark A. Scheper)の論文を「Mark A. Scheper[Author]」で検索すると、2005年~2014年の10年間の37論文がヒットした。

「Scheper MA」 で検索すると、2005年~2014年の10年間 の41論文 がヒットした。

2024年2月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文 と「2011年1月のJ Carcinog.」論文の2論文が撤回されていた。 

★撤回監視データベース

2024年2月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマーク・シェパー(Mark Scheper、Mark A. Scheper)を「Mark A. Scheper」で検索すると、上記と同じ2論文が撤回されていた。

「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文は2014年12月1日に、「2011年1月のJ Carcinog.」論文は2015年2月23日に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年2月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マーク・シェパー(Mark Scheper、Mark A. Scheper)の論文のコメントを「”Mark A. Scheper”」で検索すると、4論文にコメントがあった。 

●7.【白楽の感想】

《1》もっとたくさん 

シェパーの撤回論文は、「2009年6月の Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」論文と「2011年1月のJ Carcinog.」論文である。

ネカト指摘は2013年である。

シェパーは、2005年~2014年の10年間 に41論文 も出版している。

となると、もっとたくさんのネカト論文があるハズだ。

ネカトの法則:「ネカトはその人の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」。

2009年6月と 2011年1月に出版した2論文だけがねつ造・改ざん論文と考える方がおかしい。ネカト論文はもっとたくさんあると思えるのに、メリーランド大学は調べていない。

《2》死亡者の扱い 

研究公正局は調査を準備した後に、対象者のシェパーが死亡した(45歳)ので調査を中止した。研究ネカトした研究者が、調査途中や調査以前に死亡した場合、調査すべきかなのか? 調査を中止すべきなのか?

★調査対象は研究か研究者か?

リー・ルドルフ(Lee Rudolph)は、研究公正局は、「研究」の公正を調べる機関であって、「研究者」の公正を調べる機関ではない。死亡した研究者であっても、その人の「研究」(成果、論文)は調査すべきだと主張している。

発表された論文は誰もが読むことができる。著者の生死にかかわらず、データねつ造・改ざん論文を撤回しないと、いつまでも「正しい研究結果」と思われる。つまり、「研究」(成果、論文)の公正が保てない。

一方、ネカト調査にはヒト・カネ・時間がかかる。不審な論文は膨大にある。不審論文をどこまで調査するかは、費用対効果を考えるべきだ、という見方も理解できる。

白楽は、後者に賛成である。

しかし、まず、ネカト者の論文のほぼすべてに、懸念表明を付ける。その後、不審論文をすべて調査するのではなく、経年数、被引用数などを考慮して、影響力の高い論文を調査する。その他は懸念表明を付けたままにする。というのはどうでしょう。

なお、一般的に、研究公正局と大学・研究機関は、「研究上の不正行為」の疑惑が生じた時、「研究」(成果、論文)と「研究者」の両方を調査している。

そして、調査にはヒト・カネ・時間がかかるので、両者とも、できれば調査したくないハズだ。

★「死者に鞭打たない」

「死者に鞭打たない」(死屍(シシ)に鞭打たない)、つまり、死んだ人の言行を非難しないのは、東洋的風習である。昔(春秋時代・呉)の中国の「伍 子胥(ご ししょ)」という、政治家、軍人が残した言葉である。

ネカト調査では、死者も生者も同等に扱うべきで、死者を特別扱いすると、事件が大きく歪み研究公正はないがしろにになる。白楽は、嫌いである。

欧米でも「死者に鞭打たない」風習があるのだろうか?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の協力もあり、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

①  2015年1月29日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Fraud retraction appears for deceased Maryland dental researcher – Retraction Watch at Retraction Watch 
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作Categories品ではありません。

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