●【概略】
マーク・シェパー(Mark A. Scheper)は、米国・メリーランド大学(University of Maryland)・助教授・歯科医師で、専門は細胞生物学(頭部がん細胞の細胞情報伝達)だった。写真出典
2014年、2009年発表の論文にデータ改ざんが発覚した。
2014年1月22日、シェパーは45歳で病死した。研究公正局が調査開始したばかりだったが、被疑者が死亡したので、調査を中止した。
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:米国・メリーランド大学(University of Maryland)
- 男女:男性
- 生年月日:1968年10月7日
- 没年:2014年1月22日、病死。享年45歳
- 分野:細胞生物学
- 最初の不正論文発表:2009年(40歳)
- 発覚年:2014年(45歳)
- 発覚時地位:米国・メリーランド大学(University of Maryland)・助教授
- 発覚:匿名の公益通報
- 調査:①メリーランド大学調査委員会。②研究公正局
- 不正:改ざん
- 不正論文数:撤回論文1報。他に不審論文3報あり
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:
●【経歴と経過】
- 1968年10月7日:米国で生まれる
- 19xx年(xx歳):米国・オハイオ州のザビエル大学(Xavier University)卒業
- 1995年(26歳):米国・オハイオ州立大学・歯学部(Ohio State University College of Dentistry)を卒業。歯科医師免許取得
- 19xx年(xx歳):米国・メリーランド大学(University of Maryland)で研究博士号(PhD)取得
- xxxx年(xx歳):メリーランド大学(University of Maryland)・助教授
- 2014年1月22日(45歳):病死。享年45歳
- 2014年(45歳):死後、不正研究が発覚する
●【不正発覚・調査の経緯】
撤回した論文は、「Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」誌の2009年の論文である。撤回論文の最終著者はジョン・ソーク教授(John Sauk 写真出典)で、ソークが上司と思われる。
2007年9月4日、ソーク教授は、米国・メリーランド大学(University of Maryland)から米国・ルイビル大学(University of Louisville)歯学部長に栄転している。・・・不正発覚と関係があるのだろうか?
ーーーー
2013年秋(推定)、メリーランド大学は、シェパーの論文に研究ネカトがあるとの匿名の公益通報を受け、調査委員会を発足し、調査を始める一方、研究公正局にも通知した。
調査委員会を発足した後に、シェパーが死亡した(2014年1月22日)。
2014年12月、メリーランド大学の調査とは別に、「Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol.」誌編集長が、2009年のシェパーの論文にデータ改ざんがあると判断し、論文を撤回した。論文共著者(ソーク教授?)はシェパーが単独で改ざんしたと述べている。ただ、シェパーは改ざんを認めていないまま死亡した。
シェパーはNIHグラントを2件(DE13118 と DE12606)受給していたので、米国・研究公正局も調査を開始した。しかし、研究公正局は、シェパーが死亡したとの通知を受け、調査未了のまま、調査を終えた。
2015年1月29日、フェルナンド・ペソア(Fernando Pessoa)は、2009年論文以外に、シェパーの以下の3論文にデータ改ざん疑惑がある、と指摘した。
- https://pubpeer.com/publications/647271173699AD33378C24F373F9F7
- https://pubpeer.com/publications/287B636EF762DEE83472CADFF5B792
- https://pubpeer.com/publications/D47ACDF5910C04D399C400E656BFF7
メリーランド大学調査委員会も、2009年論文以外に不正論文があると述べている。論文名をまだ公表していないが、ペソアが指摘した論文と同じだろう。
●【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、マーク・シェパー(Mark A. Scheper)の論文を「Scheper MA[Author]」で検索すると、2005年~2014年の10年間の40論文がヒットした。
2015年1月31日現在、1論文が撤回されている。
- The oncogenic effects of constitutive Stat3 signaling in salivary gland cancer cells are mediated by survivin and modulated by the NSAID sulindac.
Nikitakis NG, Scheper MA, Papanikolaou VS, Sauk JJ.
Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol Endod. 2009 Jun;107(6):826-36. doi: 10.1016/j.tripleo.2008.12.054. Epub 2009 Mar 9.
Retraction in: Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2014 Dec;118(6):746.
撤回論文の最終著者はジョン・ソーク教授(John Sauk)である。シェパーは第二著者である。
論文内容を精査していないが、第二著者のシェパー1人に不正の罪をかぶせている印象がある。死人に口なしということだろうか? いつもヘンに思うが、第一著者か最終著者のどちらにも責任がないのは、ナンカ変だ。
●【白楽の感想】
《1》 死亡者の扱い
研究公正局は、調査委員会を発足した後に、対象者のシェパーが死亡した(45歳)ので調査を中止した。研究ネカトした研究者が、調査途中や調査以前に死亡した場合、調査すべきかを考えてみる。
★調査対象は研究か研究者か?
リー・ルドルフ(Lee Rudolph)は、研究公正局は、「研究」の公正を調べる機関であって、「研究者」の公正を調べる機関ではない。死亡した研究者の「研究」(成果、論文)は調査すべきだと主張している。
発表された論文は誰もが読むことができる。著者の生死にかかわらず、データねつ造・改ざん論文を撤回させないと、いつまでも「正しい研究結果」と思われかねない。つまり、「研究」(成果、論文)の公正性が保てない。
そうかもしれないが、調査にはヒト・カネ・時間がかかる。不審な論文は膨大にある。費用対効果を考えれば、不審論文の公正性をどこまで調査すべきかは、単純に結論できない。
研究者の世界では、従来、研究者が追試し、訂正・賛否を表明してきた。しかし、データねつ造・改ざんの視点では検討していない。調査委員会がデータねつ造・改ざんの視点で調査すると、権限、方法、費用が大きく異なる。
白楽は、現時点ではどうすべきかという答え見出せない。ゴメン。
なお、一般的に、研究公正局と研究機関は、「研究上の不正行為」の疑惑が発生した時、「研究」(成果、論文)と「研究者」の両方を調査している。
★欧米でも「死者に鞭打たない」?
「死者に鞭打たない」(死屍(シシ)に鞭打たない)、つまり、死んだ人の言行を非難しないのは、東洋的風習である。昔(春秋時代・呉)の中国の「伍 子胥(ご ししょ)」という、政治家、軍人が残した言葉である。
この東洋的風習は、事件を大きくゆがめるので、白楽は、大嫌いである。
欧米でも「死者に鞭打たない」風習があるのだろうか?
●【主要情報源】
① 2015年1月29日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:Fraud retraction appears for deceased Maryland dental researcher – Retraction Watch at Retraction Watch