ムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan)(シンガポール)

2020年10月12日掲載

ワンポイント:チャンは英国の大学の学部と大学院を卒業し、香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)・助教授、そして、シンガポール国立大学(National University of Singapore)・準教授になった。2014年(44歳?)、香港理工大学時代とシンガポール国立大学時代に複数の「重複」論文(盗用)を出版していたことが発覚した。結局、訂正論文は4報、撤回論文は6報になった。それでも、研究職を続け、2020年10月11日(50歳?)現在、オマーンのスルタン・カブース大学(Sultan Qaboos University)・準教授である。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan、Moon-fai Chan、Tony Chan、Tony Moon Fai Chan、 ORCID iD:?、写真出典)は、シンガポール国立大学(National University of Singapore)・準教授だった。医師ではない。専門は看護学である。

チャンは「重複」論文(本記事では盗用とした)を多数出版し、訂正論文は4報、撤回論文は6報と、かなり問題の多い研究者である。

次のような年月で、6報の論文が出版され、撤回された。

「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文が2015年5月に、「2007年9月のMidwifery」論文が2007年9月に、「2009年3月のNurs Health Sci.」論文が2014年9月に、「2009年8月のJ Clin Nurs.」論文が2016年6月に、「2011年2月のJ Clin Nurs.」論文が2011年7月に、「2014年3月のInt Nurs Rev.」論文が2014年5月に、撤回されていた。

6報の撤回論文の理由は、1報が盗用、4報が重複、1報が倫理違反である。重複をここでは「盗用」と分類し、以下「盗用」と扱う。

2014年(44歳?)に盗用が発覚した。

誰が盗用を見つけ追及したのかわからない。また、シンガポール国立大学はどのような調査をしたのかも、わからない。

2014年(54歳?)、チャンはシンガポール国立大学から解雇され(辞職?)、マカオ大学(University of Macau)に移籍した。

2020年10月11日(50歳?)現在、オマーンのスルタン・カブース大学(
Sultan Qaboos University)・医学健康科学カレッジ(College of Medicine & Health Sciences)・準教授に在職している:College of Medicine and Health Sciences > Staff directory > Family Medicine and Public Health Department staff

シンガポール国立大学(National University of Singapore)。写真出典

  • 国:シンガポール
  • 成長国:英国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:英国のノーサンブリア大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。1999年に香港中華大学・研究員になった時を29歳とした
  • 現在の年齢:51 歳?
  • 分野:看護学
  • 最初の不正論文発表:2006年(36歳?)
  • 不正論文発表:2006 – 2014年(36 – 44歳?)
  • 発覚年:2014年(44歳?)
  • 発覚時地位:シンガポール国立大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②シンガポール国立大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:4論文が訂正、0論文が懸念表明、6論文が撤回
  • 盗用ページ率:不明%
  • 盗用文字率:不明%
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に発覚時の地位をやめ、移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:?
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Lui Che Woo College – Associate Master and Chief of Students | Dr. Moon Fai CHAN, Tony
https://lcwc.rc.umac.mo/associate-master-and-chief-of-students-dr-moon-fai-chan-tony/(2020年10月11日現在リンク切れ。保存版なし)

  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日生まれとする。1999年に香港中華大学・研究員になった時を29歳とした
  • xxxx年(xx歳):英国のノーサンブリア大学(Northumbria University)で学士号取得:統計学
  • xxxx年(xx歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:健康、ソーシャルワーク、教育学
  • 1999-2000年(29-30歳?):香港中華大学(Chinese University of Hong Kong)・臨床試験・疫学研究センター(Center for Clinical Trial and Epidemiological Research)・研究員
  • 2000-2001年(30-31歳?):香港大学(University of Hong Kong)・地域医学科(Department of Community Medicine)・講師
  • 2001-2007年(31-37歳?):香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)・看護学部(School of Nursing)・助教授
  • 2007-2008年(37-38歳?):マカオの鏡湖(きんう)看護大学(Kiang Wu Nursing College)・準教授
  • 2008–2014年(38-44歳?):シンガポール国立大学(National University of Singapore)・アリス・リー看護センター(Alice Lee Centre for Nursing Studies)・準教授
  • 2014年(44歳?):盗用が発覚
  • 2014年(44歳?):マカオ大学(University of Macau)・ルイチェ・ウー・カレッジ(Lui Che Woo College)・アソシエイトマスターおよび学生主任(Associate Master and Chief of Students)
  • 2015年(45歳?):マカオ大学(University of Macau)・健康科学部(Faculty of Health Sciences)・準教授
  • 2019年(49歳?)?:オマーンのスルタン・カブース大学(
    Sultan Qaboos University)・医学健康科学カレッジ(College of Medicine & Health Sciences)・準教授
  • 2020年10月11日(50歳?)現在:同大学・準教授に在職:College of Medicine and Health Sciences > Staff directory > Family Medicine and Public Health Department staff

受賞
◾Institute for Tourism Studies, Residential Research Grant Award (2013)
◾1st Singapore Health & Biomedical Congress, Gold Award (2010)
◾JSPS-NUS Exchange Scientist Program, Research Award (2010)
◾Mitsui Sumitomo Insurance Welfare Foundation, Research Grant Award (2010)
◾International Stillbirth Alliance, International Fellowship Award (2007)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★発覚の経緯と経過

ムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan、写真出典)は盗用を繰り返し、4報が訂正論文、6報が撤回論文がとかなり問題の多い研究者である。

次のような年月で、6報の論文が出版され、撤回された。

「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文が2015年5月に、「2007年9月のMidwifery」論文が2007年9月に、「2009年3月のNurs Health Sci.」論文が2014年9月に、「2009年8月のJ Clin Nurs.」論文が2016年6月に、「2011年2月のJ Clin Nurs.」論文が2011年7月に、「2014年3月のInt Nurs Rev.」論文が2014年5月に、撤回されていた。

6報の撤回論文の理由は、1報が盗用、4報が重複、1報が倫理違反である。重複をここでは「盗用」と分類し、以下「盗用」と扱う。

2014年(44歳?)に盗用が発覚した。

誰が盗用を見つけ追及したのかわからない。シンガポール国立大学はどのような調査をしたのかも、わからない。

2014年(44歳?)、チャンはシンガポール国立大学から解雇され(辞職?)、マカオ大学(University of Macau)に移籍した。

2019年(49歳?)頃と思えるが、マカオ大学も居づらくなったのか、オマーンのスルタン・カブース大学(Sultan Qaboos University)・医学健康科学カレッジ(College of Medicine & Health Sciences)・準教授に移籍した。

2020年10月11日(50歳?)現在:同大学に在職している:College of Medicine and Health Sciences > Staff directory > Family Medicine and Public Health Department staff

【盗用の具体例】

盗用比較図は見つからなかった。

盗用の具体例を探ってみよう。

★「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文

以下に「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文の書誌情報を示す。香港理工大学に所属していた時の論文である。2015年5月に撤回された。

2015年5月19日の撤回告知:Retraction: Wiley Online Library

撤回理由は、以下の「2005年10月のJ Clin Nurs.」論文と内容が「重複」しているからだ。つまり、二重投稿、自己盗用である。

以下に両論文の「結果」の部分を示す。日本語訳にすると英語の単語がつかめないので、原文のまま示す。黄色が同じ単語。

盗用論文(「2006年4月のJ Adv Nurs.」)の「結果」の項を以下に示す(出典:原典)。
Results:
The results showed statistically significant increases for each behaviour: consumption of soy foods (P < 0.001), milk (P < 0.001), more exercise (P = 0.01) and vitamin D/exposure to sunlight (P < 0.001) for the case group compared with the control group. Most participants either disagreed (n = 15, 39.0%) or strongly disagreed (n = 23, 61.0%) that there was not enough information provided in the education programme to motivate them to change. They rated the nurse’s performance as either satisfactory or very satisfactory on presentation, ability to answer their questions and ability to describe each behaviour clearly.

被盗用論文(「2005年10月のJ Clin Nurs.」)の「結果」の項を以下に示す(出典:原典)。
Results.
The results showed significant increases in the reported follow‐up for each behaviour: consumption of soya foods (mean = 4·3, SD = 0·5), milk (mean = 4·2, SD = 0·8), more exercise (mean = 4·3, SD = 0·5) and vitamin D/exposure to sunlight (mean = 4·2, SD = 0·9) for subjects in the case group compared with control group subjects (soya foods: mean = 3·3, SD = 0·9, P < 0·001; milk: mean = 3·0, SD = 0·9, P < 0·001; more exercise: mean = 3·4, SD = 1·0, P = 0·003; vitamin D/sunlight: mean = 2·7, SD = 0·9, P < 0·00). Most of the participants either disagreed (n = 11, 55·0%) or strongly disagreed (n = 9, 45·0%) that there was not enough information provided in the education programme to motivate them to change. On the satisfaction score, they rated the nurse’s performance as either satisfactory (n = 11, 55·0%) or very satisfactory (n = 9, 45·0%) on presentation and ability to answer their questions and either satisfactory (n = 12, 60·0%) or very satisfactory (n = 8, 40·0%) on ability to describe each behaviour clearly.

同じ単語がたくさん使われていて、逐語盗用と思える。しかし、軽く見た程度だと、統計値の数値は一致していないので、似た論文だけど、内容が同じどうか判断できない。

チャンは英国で学部・大学院を過ごしている。生まれた国は不明だが、香港か英国だろう。英語がネイティブと思われる。

こういう研究者が、言葉巧みに、同じ内容の論文を、別論文にすると、「重複」と指摘するのは、なかなかむつかしいだろう。

ただ、両方の論文の共著者になっている「Ko CY」は、「重複」だと確実に気付くはずだ。どうして、指摘しなかったのだろう。「Ko CY」は、自分の論文が増えて得すると思って、黙認したに違いない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年10月11日現在、パブメド( PubMed )で、ムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan)の論文を「Moon Fai Chan[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の90論文がヒットした。

「Chan MF」で検索すると、1965~2021年の57年間の266論文がヒットした。2020年10月11日の検索なのに、「2021年」の論文がヒットする理由がわからないが、ヒットする。未来の論文が既に出版されている? なんか、ヘンだ。

2020年10月11日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文、「2009年3月のNurs Health Sci.」論文、「2009年8月のJ Clin Nurs.」論文、「2014年3月のInt Nurs Rev.」論文の4論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2020年10月11日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan)を「Chan, Moon Fai」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のSci Rep」論文・4論文が訂正、0論文が懸念表明、6論文が撤回されていた。

「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文が2015年5月に、「2007年9月のMidwifery」論文が2007年9月に、「2009年3月のNurs Health Sci.」論文が2014年9月に、「2009年8月のJ Clin Nurs.」論文が2016年6月に、「2011年2月のJ Clin Nurs.」論文が2011年7月に、「2014年3月のInt Nurs Rev.」論文が2014年5月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年10月11日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan)の論文のコメントを「Chan, Moon Fai」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》不明:その1 

チャン事件はよくわからない。

どういう状況で盗用したのか、わからない。

誰が盗用を見つけ追及したのか、わからない。

シンガポール国立大学はどのような調査をしたのか、わからない。

その調査結果も、わからない。

ネカトが発覚しても、しかし、チャンは衣食住を満たし生きていかなくてはならない。国を超えて、マカオ大学、そして、オマーンのスルタン・カブース大学に移籍と生きている。チャンは学術界で生きる力が強い。

《2》不明:その2 

チャンの6撤回論文は、次のような年月で、出版され、撤回された。

「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文が2015年5月に、「2007年9月のMidwifery」論文が2007年9月に、「2009年3月のNurs Health Sci.」論文が2014年9月に、「2009年8月のJ Clin Nurs.」論文が2016年6月に、「2011年2月のJ Clin Nurs.」論文が2011年7月に、「2014年3月のInt Nurs Rev.」論文が2014年5月に、撤回されていた。

最初の「2006年4月のJ Adv Nurs.」論文は2015年5月に撤回された。ということは、2015年までの9年間は、誰も不正を指摘しなかった。

それは、同じ内容の論文を、言葉巧みに別論文にしたためだと思われる。そのような論文を、「重複」、二重投稿(自己盗用)と指摘するのは、なかなかむつかしい。

ただ、それなら逆に、誰がどうして9年後に、二重投稿(自己盗用)だと指摘したのだろう?

チャンの昇進に関する人事委員会が論文を精査したのだろうか?

チャン事件はよくわからない。

講演するムーンファイ・チャン(Moon Fai Chan)(2018年12月9日)。所属はマカオ大学(University of Macau)で、職位はアソシエイトマスターおよび学生主任である(Associate Master and Chief of Students)。https://mlc.rc.um.edu.mo/mlc-activity-highlights-dining-etiquette-workshop-by-dr-tony-m-f-chan/
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●9.【主要情報源】

① 2015年7月14日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Major overlap” forces retraction of osteoporosis paper – Retraction Watch
② 2015年9月23日のロス・キース(Ross Keith)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Investigation ups nursing researcher’s retraction count to 3 – Retraction Watch
③ 2015年11月4日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:More retractions, errata discovered for nursing researcher – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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