盗修:経営学:ジジェン・リン(Chih-chien Lin、林智堅)(台湾)

2022年11月20日掲載 

ワンポイント:6日後の26日は台湾の統一地方選である。林智堅は、2008年(33歳)に中華大学(Chung Hua University)で経営学の修士号を、2017年(42歳)に国立台湾大学(National Taiwan University)で2つ目の修士号(政治学)を取得した。2014年12月25日から新竹市長だった。2022年7月(47歳)、2022年11月26日の桃園市長選の与党・民進党の公認候補になった。その直後、2つの修士論文の盗用がバレ、2022年8月(47歳)、修士号が剥奪され、桃園市長選に不出馬となった。盗用文字率は約40%(国立台湾大学の修士論文)である。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

【追記】
・2023年2月14日記事:林智堅發長文道歉了! 認「論文寫作瑕疵」將撤回台大訴願

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジジェン・リン(Chih-chien Lin、ジジァン・リン、Zhijian Lin 、*林智堅、*りんちけん、写真出典 )は、2014年12月25日から台湾の新竹市長だった。

登場人物が台湾人なので、以下、本記事では、通常使う名・姓のカタカナではなく、林智堅をはじめ、日本人になじみやすい姓・名の漢字版を使用する。

林智堅は、2008年(33歳)に中華大学(Chung Hua University)で経営学の修士号、2017年(42歳)に国立台湾大学から政治学の修士号を得ていた。

2022年7月(47歳)、桃園市長選の与党・民進党の公認候補になった。その直後、2つの修士論文の盗用がバレた。

2022年8月(47歳)、修士号が剥奪され、桃園市長選に不出馬となった。

230639_medium国立台湾大学(National Taiwan University (NTU))正門。(陳柏州/攝影)。写真出典

  • 国:台湾
  • 成長国:台湾
  • 修士号取得:中華大学と国立台湾大学の2回
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1975年5月27日
  • 現在の年齢:48 歳
  • 分野:経営学
  • 不正論文提出:2008年(33歳)と2017年(42歳)
  • 発覚年:2022年(47歳)
  • 発覚時地位:新竹市・市長
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は黄陽明(ファン・ヤンミン)
  • ステップ2(メディア):「Taipei Times」、「フォーカス台湾」など多数の台湾メディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①国立台湾大学・調査委員会。②中華大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)、実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:2つの修士論文
  • 盗用ページ率:?%
  • 盗用文字率:約40%(国立台湾大学の修士論文)
  • 時期:キャリアの中期
  • 職:事件後に桃園市長選に不出馬(Ⅹ)
  • 処分: 修士号剥奪
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 1975年5月27日:台湾で生まれる
  • xxxx年(xx歳):中華大学(Chung Hua University)で学士号取得:経営学
  • 2008年(33歳):同大学で修士号取得:経営学
  • 2014年12月25日~2022年7月8日(39~47歳):台湾の新竹市長
  • 2017年(42歳):国立台湾大学(National Taiwan University)で修士号取得:政治学
  • 2022年(47歳):11月に行われる桃園市長選の与党・民進党の公認候補
  • 2022年7月5日(47歳):盗修が発覚
  • 2022年8月9日(47歳):国立台湾大学が修士号剥奪
  • 2022年8月12日(47歳):桃園市長選に不出馬発表
  • 2022年8月24日(47歳):中華大学が修士号剥奪

●3.【動画】

【動画1】
「リン・ジジェン」と紹介。
ニュース動画:「Lin Chih-chien at Center of Plagiarism Scandal| 20220705 PTS English News公視英語新聞 – YouTube」(英語)2分19秒。
公視新聞網(チャンネル登録者数 22万人)が2022/07/05 に公開

【動画2】
ニュース動画:「論文門風波後 林智堅現身輔選沈慧虹【最新快訊】 – YouTube」(中国語)2分11秒。
台視新聞 TTV NEWS(チャンネル登録者数 89.2万人)が2022/09/17 に公開

●4.【日本語の解説】

★2022年8月9日:王揚宇、葉素萍、陳至中/編集:楊千慧(フォーカス台湾):統一地方選/台湾大、林氏の論文「盗用」と認定=与党・民進党の桃園市長選候補

出典 → ココ、(保存版) 

(台北中央社)国立台湾大学は9日、林智堅(りんちけん)前新竹市長の修士論文の盗用を認定したと発表した。調査委員会は学位の取り消しを提案した。林氏は11月に行われる桃園市長選の与党・民進党の公認候補。指導教授は同党の陳明通(ちんめいつう)氏で、政府の情報機関、国家安全局の局長を務めている。

続きは、原典をお読みください。

★2022年8月22日:蘇逸修弁護士(黒田日本外国法事務律師事務所):第439回 論文の執筆を代行させた場合の法的責任/台湾

出典 → ココ、(保存版) 

最近、台湾中の注目を集めている「政治家の林智堅氏(以下、林氏)が他人の論文を盗用した」問題について、新たな進展がありました。報道によりますと、「林氏は自身の論文の執筆をアシスタントに代行させたのであって、林氏自身が他人の修士論文を盗用したわけではない」とのことです。

本件の概要は次の通りです。林氏は2022年11月26日に投開票が行われる統一地方選挙で桃園市長候補として出馬する予定でしたが、先日、何者かが「林氏の台湾大学国家発展研究所の修士論文は、余正煌氏(以下余氏)という別人の修士論文を盗用したものだ」と告発しました。林氏は台湾での知名度が非常に高く、良いイメージを持たれているため、当該論文盗用問題は社会全体の高い関心を集め、台湾大学が盗用の事実の有無を調査することとなりました。

台湾大学は、1カ月余りの調査を経て、22年8月10日、「林氏の論文とそれよりも早く発表されている余氏の論文の内容は、誤字を含め、高度な重複が存在している」、「台湾大学は林氏に対し説明会への参加を3回要請したが、林氏はいずれも出席を拒否した」等の理由により、林氏が余氏の論文を盗用した情状は重大であると認定し、同日、林氏の修士学位を取り消しました

続きは、原典をお読みください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★人気政治家

与党・民進党の桃園市長候補の林智堅は台湾の人気政治家で将来を嘱望されていた。

人気政治家なので写真と動画はたくさんある。例えば → 林智堅(@lin_chihchien) • Instagram写真と動画林智堅 | Facebook

★発覚の経緯

2022年7月5日(47歳)、野党・国民党の台北市議会議員の王鴻薇(ワン・ホンウェイ、Wang Hung-wei、写真出典)が、桃園市長選の与党・民進党の公認候補となった林智堅の修士論文の盗用を指摘し、ネガティブキャンペーンを展開した。

同じ2022年7月5日、政治評論家の黄陽明(黄扬明、ファン・ヤンミン、Huang Yang-ming、写真出典 )が林智堅の盗修をウェブで指摘しているので、黄陽明が盗用を最初に見つけた人物だと思う。本記事では第一次追及者を黄陽明(ファン・ヤンミン)とした。

黄陽明が林智堅の盗修を台北市議会議員の王鴻薇(ワン・ホンウェイ)に教えたのだと思う。

与党・民進党の林智堅が 2008年7月に中華大学に提出した修士論文は、1か月前に発行された新竹サイエンス パーク管理局の報告書の大部分と完全に一致していて、タイプミスも同じだった。

上記の王鴻薇(ワン・ホンウェイ)は「事実上、一字一句同じで、タイプミスさえも同じです。林智堅は修士論文を盗用し、不正に修士号を取得したのです。中華大学は調査し、盗用だと声明を発表し、林智堅の修士号を取り消すべきです」と批判した。

林智堅の国立台湾大学での指導教授の陳明通(ちんめいつう)は、現在、教授ではなく官僚というか政治家というべきか、政府の情報機関、国家安全局の局長である。所属政党も与党・民進党なので、林智堅の盗修事件は政治抗争の一端である。

こうなると、ことは単純な盗修事件ではなくなってくる。

★その後

2022年8月9日(47歳)、盗修騒動が始まって約1か月後、国立台湾大学が調査の結果、林智堅の修士論文に盗用があったとし、修士号を剥奪した。 → 2022年8月9日記事:NTU committee determines ex-Hsinchu mayor plagiarized thesis – Focus Taiwan

国立台湾大学は、林志堅の指導教授だった陳明通(ちんめいつう)に、研究公正の倫理規範が欠如していたとして、職務怠慢の疑いがあると述べた。

林智堅は国立台湾大学の発表があった後、記者会見を開き、自身は潔白だと訴えた。調査結果は受け入れられないと主張した。

2022年8月12日(47歳)、国立台湾大学が修士号を剥奪した3日後、林智堅は桃園市長選に不出馬とした。

2022年8月24日(47歳)、中華大学も、林智堅の修士論文に盗用があったとし、修士号を剥奪した。

【盗用の具体例】

国立台湾大学の修士論文は同じ研究室で先に卒業したYu Cheng-huangの修士論文を盗用していた。コンピュター分析で盗用文字率は40%だった。

2022年7月5日、政治評論家の黄陽明(黄扬明、ファン・ヤンミン、Huang Yang-ming)がFaceboookで林智堅の盗修を指摘した。

以下の盗用図の出典 → 2022年7月5日記事:岛内媒体人加码:林智坚台大硕士论文也涉嫌抄袭 – 热点人物 – 华夏经纬网

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

研究者ではないし、盗用は修士論文なので、省略。

●7.【白楽の感想】

《1》政治家の盗修・盗博 

政治家の盗修・盗博は欧州では多い。しかし、アジアでは珍しい。日本では、今のところほぼない。

日本では、修士号や博士号が政治家の箔にならないからだ。これは、ある意味、とても残念である。日本では修士号や博士号が尊敬されない。つまり、「日本の学者軽視文化」の一面なのである。

林智堅の盗修事件で林智堅が堂々と身の潔白を訴えている。悪事が明白なのに潔白を訴える姿は、誠実さを欠如している日本の政治家と重なった。

盗修という明確な証拠があるのに、よくもまあ、堂々とシロと主張するなあ。日本の政治家も旧統一教会との関係を問われ、よくもまあ、堂々とシロと主張するなあ、である。

研究者もそうだけど、政治家に重要なのは「信用」だと思うんですけど。

では、林智堅の盗修事件を防ぐにはどうすべきだったか?

2008年(33歳)に中華大学(Chung Hua University)に修士論文を提出した時点で、その修士論文の盗用を指摘し、修士号を授与しないことが第一である。そうすれば、2回目の2017年(42歳)提出の修士論文の盗用は防げただろう。

ただ、その場合、新竹市長 選で敗れ、2014年12月25日に新竹市長になれなかったかもしれない。

記者会見で潔白を訴えるジジェン・リン(Chih-chien Lin、林智堅) 。写真出典

《2》改革ポーズ

林智堅の盗修事件を教訓に、国立台湾大学は「国立台湾大学の博士号および修士号の学位試験規則」に以下の新しい項目を導入した。

学位論文提出時に盗用検出ソフトで学位論文と他の資料との類似度(%)を測定し、類似度(%)を提出する。許容できる類似度(%)の上限は各研究科で決める。盗用は院生の責任だが、指導教員にも責任を科す。

出典 → ①2022年10月15日記事:台大修改規章 要求碩博論文須比對原創性 | 生活 | 中央社 CNA、②2022年10月15日記事:National Taiwan University to tighten thesis supervision after political scandals | Taiwan News

こういう規則って、官僚的な「対策しましたポーズ」で、実質的には盗用防止の効果がない(と思う。あっても、効果は限定的だ)。

日本にもこの「対策しましたポーズ」がゴマンとある。

しかし、どうしてこうなってしまうのだろうか?

《3》台湾では違法

林智堅の盗修事件で、日本が学ぶことは、以下の点だ。

林智堅は修士論文をアシスタントに書いてもらったらしい。台湾では、学位論文の代行は違法なので、アシスタントは罰金や科料の刑事罰が科される。

当該アシスタントは30万台湾元以上100万元以下(約140万~450万円)の過料に処されます。その法的根拠は学位授与法第18条第1項第2号「次に掲げる状況のいずれかに該当する場合、行為者または責任者を30万元以上100万元以下の過料に処するものとし、かつ1回ごとに処罰することができるものとする。二、論文、作品、業績証明、書面報告、技術報告または専門実務報告につき、実際に執筆を代行した場合、または書き写せるよう口述、映像等によるカンニング行為をした場合」です。

また、当該アシスタントが余氏等の論文を盗用したのであれば、他人の著作権を侵害したという刑事責任も発生します。法的根拠は著作権法第91条第1項(無断で複製の方法をもって他人の著作財産権を侵害した場合、3年以下の有期懲役、拘留に処し、または75万元以下の罰金を科しまたは併科する)です。

台湾で論文の執筆代行、盗用は道徳的な問題であるばかりでなく、違法行為でもありますので、特にご留意ください。(第439回 論文の執筆を代行させた場合の法的責任/台湾 – ワイズコンサルティング@台湾

日本も学位論文の代行を違法としましょう。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Lin Chih-chien – Wikipedia
② ウィキペディア中国語版:林智坚 – 维基百科,自由的百科全书
③ ウィキペディア中国語版:林智坚论文抄袭案 – 维基百科,自由的百科全书
④ 2022年7月25日のChen Yun, Lin Liang-sheng and Liu Tzu-hsuan / Staff reporters, with staff writerの「Taipei Times」記事:Lin explains thesis events, denies plagiarism – Taipei Times
⑤ 2022年8月9日の王揚宇、葉素萍、陳至中/編集:楊千慧の「フォーカス台湾」記事:台湾大、林氏の論文「盗用」と認定=与党・民進党の桃園市長選候補 – フォーカス台湾
⑥ 2022年8月12日のブライアン・ヒオエ(Brian Hioe)記者の「New Bloom Magazine」記事:Lin Chih-chien Withdraws from Taoyuan Mayoral Race Over Plagiarism Charges | New Bloom Magazine

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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