ヤ・ワン(王雅、Ya Wang)(米)

2021年10月25日掲載 

ワンポイント:2021年9月15日(61歳?)、研究公正局は、エモリー大学(Emory University)・教授だったワンの1件の研究費申請書、2010~2020年(50~60歳?)の11年間の6報の論文の画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。2021年8月4日から4年間の締め出し処分を科した。なお、ワンは中国で生まれ育ち、中国で研究博士号(PhD)を取得後、米国のトーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)、その後、エモリー大学(Emory University)・教授になった。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ヤ・ワン(Ya Wang、王雅、ORCID iD:、写真出典)は、中国で生まれ育ち、中国の大学で医師免許と研究博士号(PhD)を取得し、渡米した。米国のトーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)、その後、エモリー大学(Emory University)・教授になった。専門は放射線腫瘍学である。

ネカト発覚の時期は不明であるが、2019年12月13日にNIHに提出した研究費申請書がネカトだと指摘されているので、発覚時期は、2020年初旬(60歳?)と推定される。

エモリー大学がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に報告した。

2021年9月15日(61歳?)、研究公正局はワンが1件の研究費申請書、2010~2020年(50~60歳?)の11年間の6報の論文でネカトをしたと発表した。異なる実験なのに、18パネルで同じイムノブロットデータ画像を再利用および再ラベル付けたしたのだ。

2021年8月4日(61歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

エモリー大学(Emory University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:中国の第三医学大学
  • 研究博士号(PhD)取得:中国の医学アカデミー
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。2020年9月1日にエモリー大学を退職した時を60歳とした
  • 現在の年齢:62 歳?
  • 分野:放射線腫瘍学
  • 不正論文発表:2010~2020年(50~60歳?)の11年間
  • 発覚年:2020年(60歳?)
  • 発覚時地位:エモリー大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①エモリー大学・調査委員会。②研究公正局
  • 研究所・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 研究所の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:研究公正局は1件の研究費申請書、2010~2020年(50~60歳?)の11年間の6報の論文。2021年10月24日現在、6報撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから 4年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。約4億円のグラント+1億円。

●2.【経歴と経過】

主な出典: Winship Roundup | August 31, 2020

  • 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。2020年9月1日にエモリー大学を退職した時を60歳とした
  • 19xx年(xx歳):中国の第三医学大学(Third Medicine University)で医師免許(MD)を取得
  • 19xx年(xx歳):中国の医学アカデミー(Academy of Medical Science)で研究博士号(PhD)を取得
  • 1998年(38歳?)以前:トーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)・準教授?
  • 2008年(48歳?):エモリー大学(Emory University)・教授、実験的放射線腫瘍学ディレクター
  • 2020年初旬(60歳?)(推定):不正研究が発覚
  • 2020年9月1日(60歳?):エモリー大学・退職(retire)
  • 2021年9月15日(61歳?):研究公正局がネカトと発表

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
研究説明の動画:「Dr. Ya Wang elaborates on the various Emory NSCOR projects – YouTube」(英語)1分15秒。
CancerQuest-EmoryUniversityが2014/07/25に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究費

ヤ・ワン(Ya Wang)は中国で生まれ育ち、中国の大学で医師免許と研究博士号(PhD)を取得し、渡米した。米国のトーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)・準教授(?)、その後、エモリー大学(Emory University)・教授になった。

「撤回監視(Retraction Watch)」記事によると、ヤ・ワン(Ya Wang)は、1998~2018年の21年間に、NIHから約400万ドル(約4億円)のグラントを得たとある。年平均すると約2千万円/年なので、優秀な研究者である。

白楽も調べた。すると、「Ya Wang」の検索で55件のグラントがヒットした:Grantome: Search

同姓同名の研究者と混同しているかもしれない。それで、所属で絞った。

トーマス・ジェファーソン大学(Thomas Jefferson University)時代にNIHのグラント6件を得ていた。

さらに、エモリー大学(Emory University)時代にNIHのグラント17件を得ていた。以下はその内、新しい方からの6件である。

★ネカト

ネカト発覚の時期は不明であるが、2019年12月13日にNIHに提出した研究費申請書にネカトがあったと指摘されているので、発覚時期は、2020年初旬(60歳?)と推定される。

ネカト発覚の経緯も不明である。

ただ、ワンの論文の画像に異常があると以前から指摘されていた。それで、エモリー大学(Emory University)の研究倫理官が注意していて見つけたと思われるが、確証はない。

エモリー大学(Emory University)がネカト調査し、クロと認定し、研究公正局に報告した。

2021年9月15日(61歳?)、研究公正局はワンが1件の研究費申請書、6報の発表論文でネカトをしたと発表した。異なる実験なのに、18パネルで同じイムノブロットデータ画像を再利用および再ラベル付けたしたのだ。

2021年8月4日(61歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

1件の研究費申請書は以下の通り。以下は研究公正局の発表のママ。

  • R21 HL154577-01, “GPRC5A Inhibits Error-Prone Repair to Maintain Lung Genomic Integrity,” submitted to the National Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI), NIH, on December 13, 2019.

6報の発表論文は2010~2020年(50~60歳?)の11年間の6論文である。以下は研究公正局の発表のママ。

  1. miR-21-Mediated Radioresistance Occurs via Promoting Repair of DNA Double Strand Breaks. J Biol Chem. 2017 Feb 24;292(8):3531-40; doi: 10.1074/jbc.M116.772392 (hereafter referred to as “J Biol Chem. 2017”). Retraction in: J Biol Chem. 2020 May 1;295(18):6250; doi: 10.1074/jbc.W120.013725.
  2. Distinct Roles of Ape1 Protein, an Enzyme Involved in DNA Repair, in High or Low Linear Energy Transfer Ionizing Radiation-Induced Cell Killing. J Biol Chem. 2014 Oct 31; 289(44):30635-44; doi: 10.1074/jbc.M114.604959 (hereafter referred to as “J Biol Chem. 2014”). Retraction in: J Biol Chem. 2020 May 1;295(18):6249; doi: 10.1074/jbc.W120.013724.
  3. OCT4 as a Target of miR-34a Stimulates p63 but Inhibits p53 to Promote Human Cell Transformation. Cell Death Dis. 2014 Jan 23;5(1):e1024; doi: 10.1038/cddis.2013.563 (hereafter referred to as “Cell Death Dis. 2014”).
  4. MicroRNA-21 Modulates the Levels of Reactive Oxygen Species by Targeting SOD3 and TNFα. Cancer Res. 2012 Sep 15;72(18):4707-13; doi: 10.1158/0008-5472.CAN-12-0639 (hereafter referred to as “Cancer Res. 2012a”).
  5. RNAi-Mediated Targeting of Noncoding and Coding Sequences in DNA Repair Gene Messages Efficiently Radiosensitizes Human Tumor Cells. Cancer Res. 2012 Mar 1; 72(5):1221-8; doi: 10.1158/0008-5472.CAN-11-2785 (hereafter referred to as “Cancer Res. 2012b”).
  6. Over-Expression of miR-100 is Responsible for the Low-Expression of ATM in the Human Glioma Cell Line: M059J. DNA Repair (Amst). 2010 Nov 10;9(11):1170-5; doi: 10.1016/j.dnarep.2010.08.007 (hereafter referred to as “DNA Repair 2010”).

【ねつ造・改ざんの具体例】

2021年9月15日(61歳?)の研究公正局の発表では、異なる実験なのに、同じイムノブロットデータ画像を再利用および再ラベル付けたしたと指摘されている。

しかし、言葉で説明されてもわかりにく。2論文を適当に選んで研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見よう。

★「2017年2月のJ Biol Chem」論文

研究公正局がネカトと発表した1番目の論文である。「2017年2月のJ Biol Chem」論文の書誌情報を以下に示す。2020年5月1日、撤回された。

パブピア(PubPeer)の指摘を以下に示す。出典:https://pubpeer.com/publications/EE6997F1FB6F9335BD0551EE7D3636

図5Bの黄色枠内のバンドが同じ。

図5Cの色枠内のバンドが同じ。

図4Dの色枠内のバンドが同じ。他にもあるけど、ここでやめておく。

★「2014年10月のJ Biol Chem」論文

研究公正局がネカトと発表した2番目の論文である。「2014年10月のJ Biol Chem」論文の書誌情報を以下に示す。2020年5月1日、撤回された。

パブピア(PubPeer)の指摘を以下に示す。出典:https://pubpeer.com/publications/EE6997F1FB6F9335BD0551EE7D3636

図4Bの色枠内のバンドが同じ。

図5Cの色枠内のバンドが同じ。他にもあるけど、ここでやめておく。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2021年10月24日現在、パブメド(PubMed)で、ヤ・ワン(Ya Wang)の論文を「Ya Wang [Author]」で検索した。1979~2021年の43年間の 1,468論文がヒットした。

所属をエモリー大学に絞って、「(Ya Wang [Author]) AND (Emory University[Affiliation])」で検索すると、2008~2021年の14年間の64論文がヒットした。

2021年10月24日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。

所属をエモリー大学に絞らずに「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、2021年10月24日現在、3論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2021年10月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでヤ・ワン(Ya Wang)を「Ya Wang」で検索すると、6論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2021年10月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ヤ・ワン(Ya Wang)の論文のコメントを「Ya Wang」で検索すると、206論文にコメントがあった。

なお、中国人に同姓同名のヤ・ワン(Ya Wang)はたくさんいるので、本事件のワン(Ya Wang)のコメントは以下の17件だと指摘されている。Zebedeeのコメント:February 24, 2020 → 2020年2月24日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:George Iliakis, the pride of Ruhrgebiet – For Better Science

1. https://pubpeer.com/publications/7C72D7E9C8A890CEB3047CFC589551
2. https://pubpeer.com/publications/EE6997F1FB6F9335BD0551EE7D3636
3. https://pubpeer.com/publications/066655B948187638D608BD75D1B50D
4. https://pubpeer.com/publications/18A0E30C6D4205E360B669E22FF51A
5. https://pubpeer.com/publications/AFBB0B94FDAB595CC55B1749C1D3F3
6. https://pubpeer.com/publications/2F179E20A4CCC0F24F6967A12C60D5
7. https://pubpeer.com/publications/3BBE9AC981E17776992228B6853F13
8. https://pubpeer.com/publications/98D85BC9346DAC066C712EA71BA0C8
9. https://pubpeer.com/publications/61FD90D5A9980A4FC629A25A0E398B
10. https://pubpeer.com/publications/8E0171A08C96EB7E1A87CD8DBAB867
11. https://pubpeer.com/publications/FD1029AC5D8F9576E6E74A5DFD4619
12. https://pubpeer.com/publications/D3BAD4F56E914C444ED0287839AF92
13. https://pubpeer.com/publications/6776A10A9EFF5FC9B56F44B7BA4B9B
14. https://pubpeer.com/publications/806266B39DC76070FCED5B21B50E7A
15. https://pubpeer.com/publications/7499ABC79483C2B03875C70103743A
16. https://pubpeer.com/publications/DC2564045814E6CDC89A7A980291C4
17. https://pubpeer.com/publications/FD71866CC27696DA5AB6FFADAD76B6

●7.【白楽の感想】

《1》退職手段 

米国の大学教授のネカト処分は60歳以上が多い。退職金などを安くして退職(解雇)させるために、60歳以上の教授のネカト調査をし、示談で退職させているのかと、勘ぐってしまうほど多い。

でも、1件のネカト調査に大学は5千万円の経費が掛かる。となると、計画的にネカトで退職させる意図はない? イヤ、ある? 大学のトップシークレット? わかりません。

《2》2021年の3件目 

研究公正局は毎年、10件程度、クロと発表している。 → 1‐5‐2 米国・研究公正局(ORI、Office of Research Integrity) | 白楽の研究者倫理

今年は、1月28日に「イビン・リン(Yibin Lin)」事件を1件発表し、その後、半年間、発表がなかった。8月16日にようやく2件目の「ヴァイラヴース・イン(Viravuth Yin)(米)」事件を発表した。

そして、今回のヤ・ワン(王雅、Ya Wang、2014年の写真出典)の事件は今年3件目で2021年 9月15日の発表だった。

2021年10月24日現在、4件目の発表がない。今年の残りあと2か月間にクロを7件発表できるだろうか?

今年は、2021年6月7日に、エリザベス・ハンドリー局長(Elisabeth Handley)が在任期間1年10か月弱で退任した。その後、新局長は就任していない。

それ以前から、研究公正局は、何かとゴタゴタしていた。

現在もゴタゴタしているのだろうか?

研究公正局は1件のネカト調査に数年もかけているので、長年、グズ、のろま、と批判されてきた。

ネカト調査に数年もかけては、結果がシロであれクロであれ、被告発者とその研究室員、及び所属大学は宙ぶらりんのママを強いられるので、おかしくなってしまう。

現在のゴタゴタが「グズ、のろま」をさらに増長しないといいのだが、普通に考えれば、増長するだろう。コマッタもんだ。と言っても、局員が怠惰というわけではなく、システムの問題と言われている。米国政府はシステムを改善すべきなのだ。

なお、研究公正局のクロ発表数が減ったのは、米国のネカト行為数が減ったためだ、という可能性は、まず、ないでしょう。白楽が関知する米国のネカト事件数は研究公正局のクロ発表件数の数十倍あり、減っていません。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)2021年9月15日:Case Summary: Wang, Ya | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2021年9月20日の連邦官報:2021-20268 FRN Ya Wang.pdf 。(3)2021年9月20日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct
② 2020年2月24日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:George Iliakis, the pride of Ruhrgebiet – For Better Science
③ 2021年9月16日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Emory division director committed misconduct, says federal watchdog – Retraction Watch
④ 2021年9月17日記事:已经功成名就!杰出学者王雅不做/少做实验,伪造数据,被抓学术不端,将被撤回多篇高水平文章-微信文章-仪器谱
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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