7-27.論文出版での脅迫・贈収賄・性的サービス

2019年1月27日掲載

白楽の意図:ネカト論文や捕食論文を出版するのは、論文出版に見返りがあるからである。論文出版の見返りとしての報奨金は、「7-26.論文報奨金」で述べた。今回、明らかに闇と思われる部分を照らしてみよう。論文出版すると得なら、脅迫・贈収賄・性的サービスが絡んでくるだろう。読んだ論文は、雑多だが、サラ・ネッカー(Sarah Necker)の「2014年のSocial Science Space」記事、アリソン・マクック(Alison McCook)の「2017年の撤回監視」記事、キー(Key)の「2010年のChinaHush」記事を挙げておく。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

今回は特定の論文を解説するスタイルではなく、複数の論文を読んで、論文出版での脅迫・贈収賄・性的サービスの実態を理解する。

●2.【書誌情報と著者】

「書誌情報と著者」は各項目ごとに記載した。

●3.【論文内容】

【1.脅迫】

★Publish or Perish(出版か死か)

「Publish or Perish」という言葉は、日本語で「出版か死か」をはじめ、「発表か死か」「出版せよ、しからずんば死を」「発表しないなら去れ」「論文を書け。さもなくば滅びよ」などと訳されている。

「Publish or Perish」という言葉は、1927年に最初に米国で使われ、現在、日本を含め世界の研究界の基本原理である。つまり、90年以上、「Publish or Perish」は世界の研究界の掟となっている。

以下、児玉昌己研究室の文章を引用するが、この掟は、研究者に論文出版を強要し脅迫している。

アメリカのアカデミアには格言がある。「出版せよ、そうでなければ消えてしまいなさい」(Publish or Perish)というものだ。音韻にあわせた表現だ。

5年も論文を出版しない、つまり書かない教員は極めて問題だし、10年も1本も書かいていないというのは、大学人としての義務の放棄であり、研究をしていないことを示すことで、実に現場からの「消滅・退場」Perishに値する。(大学教員への道10 Publish or Perish | 児玉昌己研究室

この掟を非難する研究者は日本にはほとんどいない。

「出版か死か」原理が生きている限り、とにかく論文を出版しなければ、と院生や研究者を駆り立てる。そして、場合によると、ネカト論文や捕食論文でも仕方ない、とにかく論文を出版しようと思わせてしまう。

★院生への脅迫:日本

博士論文提出までに学会での発表を行い、査読付き投稿論文を執筆するといった業績を博士課程在籍中に上げることが、博士論文を提出し審査を受ける要件となっている場合が多い。(博士 – Wikipedia

日本の大学院は、博士論文の提出条件として、少なくとも1報の査読付き論文の出版が必須だとしている大学院は多い。つまり、論文出版がなければ、大学院でいくらまじめに勉強していても、博士号を取得できない。

院生にとって、所定の期限内の「査読付き論文の出版」はハードルが中程度に高い。しかも、最終学年の秋から冬に博士論文審査があるから、その半年前には論文投稿(できれば論文受理)していなければ、卒業時に博士号を取得できない。

卒業時に博士号を取得できなければ、大学院卒業後、まともな就職ができないことにもなる。つまり、研究者になろうと大学院に入ったのに、卒業時点で脱落が確定してしまう。

博士号の条件に「査読付き論文の出版」を要求することで、博士号のレベルを維持できる利点はあるが、必須ということは脅迫でもある。

従って、論文出版できる研究成果を挙げていない一部の院生とその指導教員は、場合によると、「査読付き論文の出版」をしよう・させようと、ネカト論文や捕食論文でもいいから、ともがく可能性がある。また、不正な著者在順(オーサーシップ、authorship)も横行しがちになる。
→ 4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 研究倫理(ネカト、研究規範)

★教員・研究者への脅迫

論文出版は、博士号取得などの資格授与だけでなく、研究職への採用、職位の昇進、研究費と院生・ポスドクの獲得などの研究職上の利得、ノーベル賞を含めた各賞受賞による名声など、論文出版は研究者に富・名声・名誉を与える。

このことを別の視点で見ると、研究者としてまともな研究人生を送りたいなら、論文を出版しなければ、「Perish」するゾ、である。つまり、研究者は、生涯、論文出版せよと脅迫されている。

★2014年末:論文発表しない教授を解雇:日本

「出版か死か」の脅迫は、論文出版を促進する雰囲気を作るためにまことしやかに語られている都市伝説である。

と思って、研究者がノホホンに暮らすと危険である。

助教から准教授、准教授から教授に昇進できないだけでなく、本当に、解雇されたケースが裁判で表面に出ている。

出典 → 2015年5月24日の「日本の科学と技術」記事:10年間で論文20報届かず富山大教授解雇

富山大学は2005年に10年の任期で登用した教授が基準となる20報の論文を出さなかったとして、この研究者を2014年末に解雇したそうです。解雇された元教授は論文数でのみ評価するのは不当だとして2015年1月9日に富山地方裁判所に提訴しています。

  1.  富山大元教授の敗訴確定 地位確認求める (m3.com/共同通信 2017年11月21日 閲覧は要登録):” 富山大大学院の大熊芳明(おおくま・よしあき)元教授が、論文数が少ないことを理由に再任されなかったのは不当として、富山大に地位確認などを求めた訴訟は、元教授敗訴の二審判決が確定した。”
  2. 再任訴訟で元教授敗訴 「基準は明らか」富山地裁 (共同通信 2016年6月30日):”富山大大学院の大熊芳明(おおくま・よしあき)元教授が、論文数が少ないことを理由に 再任されなかったのは不当として、富山大に地位確認などを求めた訴訟の判決で、富山地裁は 29日、原告の訴えを棄却した。広田泰士(ひろた・やすお)裁判長は判決理由で「大学は再任に必要な基準を任期中の論文数と 明示していた」と指摘。”

論文出版しないと解雇というのは、「Publish or Perish(出版か死か)」の実施である。ある意味、脅迫でもある。

★2017年3月7日記事:寄付しないと調査すると脅迫

出典 → 2017年3月7日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視」記事:Pay to play? Three new ways companies are subverting academic publishing – Retraction Watch

論文出版への脅迫ではないが、ネカト絡みで、学術社出版社を脅迫した例。

シュプリンガー・ネイチャー社の研究公正部長のタマラ・ウェルスコット(Tamara Welschot)は、科学研究での研究公正を推進する中国の非営利組織から電子メールを受け取った。

その中国公正組織は研究者と研究機関のネカト教育をしていて、論文にネカトを見つけたら、著者の所属大学・研究機関に通報するだけでなく、中国教育省、科学技術協会(CAST)、中国科学アカデミーに通報するとあった。

そして、電子メールの著者は、「貴社は、私たちの前回の電子メールを無視されましたが、もう一度機会を与えたいと思います。貴社の論文のすべてをネカト調査する前に、私たちのウェブサイトに記載されているサイトを通して、私たちのプロジェクトに2,000 USドル(約20万円)を支援して下さるなら、貴社はこれらの事態の全てを避けることができます」と続けたのだ。

匿名の内部告発者からの通報はたくさんあるので、ウェルスコット研究公正部長は、内部告発の電子メールには驚かないが、脅迫は珍しい。

なお、ウェルスコット研究公正部長は、調査の結果、その中国公正組織のウェブサイトは別人のウェブサイトを盗用したもので、人々の名前と画像は偽物だったそうだ。

【2.贈収賄】

★論文出版での賄賂:2018年「COPE」の事件番号18-12

出典 → 2018年の出版規範委員会(COPE)記事:A pre-submission inquiry with a bribe | Committee on Publication Ethics: COPE

学術誌・編集委員が著者から次のような投稿前の質問を受けた。なお、著者は論文投稿の経験がなく、論文出版のやり方を知らない人だった。

著者は、2つの論文のタイトルを示し、出版してくれるかと、編集委員に問い合わせた。

著者はまた、迅速に査読して欲しいことと、出版できるような修正をしてくれないかと編集委員に依頼してきた。

そして、最後に、著者は、論文出版が承認されたら、感謝の御礼に1,100ドル(約11万円)を編集委員に支払うと伝えてきた。

編集委員は、編集委員を長年務めてきたが、明らかな賄賂の申し出を受けたのは初めてだったそうだ。

編集委員は、出版規範委員会・フォーラムに次の2点を問い合わせた。

1. どうすればよいか?
2. 返信すべきか、無視すべきか?

出版規範委員会・フォーラムは次の2点をアドバイスした。

  • 一般的に、この種の問い合わせは無視して良い。 必要ならスパムメールとみなして良い。
  • 学術誌は、編集委員の全員がこの様な個人的謝礼をまったく受け入れられないという編集方針を認識していることを確認する必要がある。別の選択肢として、学術誌はこの問題に対する社説を出版し、投稿者の倫理意識を高める。

★論文出版での賄賂:リチャード・ホルト(Richard Holt)

出典 → 2017年3月7日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視」記事:Pay to play? Three new ways companies are subverting academic publishing – Retraction Watch

学術誌「Diabetic Medicine」の編集長で英国・サウサンプトン大学・教授(University of Southampton)のリチャード・ホルト(Richard Holt、写真出典)は、中国の論文編集会社から次のような電子メールを受け取った。

中国の研究者は英語に不慣れなため、英語で学術論文を出版するのはとても難しい。私たち中国の論文編集会社はその難点を克服するために、学術誌の編集者・編集長に「共同事業」のパートナーを求めています。

「編集者・編集長はその立場を利用して、投稿原稿を迅速かつ首尾よく出版するのを助けることができる」ので、編集者・編集長にそのような協力を有償でお願いしたい。

私たちは、投稿原稿が論文として出版されたら、1論文につき、1,000ドル(約10万円)を、あなたに支払います。

リチャード・ホルト教授は、以上の申し出を受けたが、これは非倫理的だと判断し、出版規範委員会(COPE)に通報した。

―――【白楽の感想】

世の中にはお金を払うと論文を書いてくれる代筆(ゴーストライター、ghost writing)という行為がある。学術誌に出版する臨床医学の論文・総説では、かなり頻繁に利用されている。非倫理的ではあるが、合法である。
→ 4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating) | 研究倫理(ネカト、研究規範)

学術界ではないが、同じ行為として、スピーチライターに(お金を払って)演説草稿を書いてもらう人たちがいる。例えば、米国の大統領などで、大統領はスピーチライターの演説草稿を自分の話として演説する。日本の閣僚は、官僚に答弁草稿を作ってもらい(国民がお金を払って)、国会で答弁している。これらは、合法である。非倫理的だとの非難もされない。

また、日本でも海外でも、論文代行業者は、学生・院生・留学生からお金をもらって、授業課題のレポート、卒業論文、修士論文、博士論文などの執筆を請け負う。非倫理的ではあるが、合法である。

論文代行業者とはいくぶん異なるが、日本の院生・研究者は、論文添削業者にお金を払って(私費・研究費で)、論文原稿の英語を添削してもらってから、投稿することが多い。日本では、この需要がどのくらいあるのかわからないが、かなり膨大な依頼があると思う。マズイ英語を直してもらうのだが、もちろん、英語だけでなく、学術誌に採択されやすいように編集作業もしてもらう。合法である。非倫理的だとの非難もされない。

上記のような現実があるので、中国の論文編集会社が編集者・編集長に論文の校閲を有料で依頼しても不思議ではない。

ただ、編集者・編集長が自分の学術誌に投稿した論文の修正をし、内密に1,000ドル(約10万円)を受け取れば、贈収賄の臭いがする。多分、欧米では違法だろう。

ただ、日本では贈収賄ではない。日本国などの賄賂罪は贈賄先が公務員(法律上のみなし公務員規定により、公務員として扱われる民間人を含む)であることが要件である(賄賂 – Wikipedia)。

なお、1,000ドル(約10万円)の受け取りを学術誌が公認していたらどうなのだろうか? そんな学術誌はないと思うかもしれないが、論文掲載料は、ある意味、編集作業に対する公認の手数料である。正当な労働報酬である。

なお、編集者・編集長が他の学術誌への論文原稿を修正・添削する場合、コンサルタント料として受け取っても、倫理的にも法的にも問題はないのだろうか?

―――【白楽の感想】終る

★企業からのキックバック

2016年2月24日:Sneha Kulkarni記者の「Editage Insights」記事:バイオサイエンス企業の「謝礼金」戦略に学術界はうんざり

出典 → ココ、(保存版

「我が社の製品をあなたの論文に引用してください。ジャーナルのインパクトファクターに応じて100ドル以上をお支払いします!」

2015年の夏、このような件名のEメールを多くの学術関係者が受け取りました。差出人のCyagen Biosciences Inc.はカリフォルニアに拠点を置く開発業務受託機関で、生命科学研究者に遺伝子組み換え動物のモデルやその他サービスを提供する細胞関連製品メーカーです。

Cyagen社は2015年6月以降、研究者に露骨な賄賂的戦略を仕掛けています。同社のウェブサイトには、簡潔に「PCRの新たな意味合い。それは出版(Publish)・引用(Cite)・報酬 (Reward)です」と述べられています

もちろん、この見返りを不快に感じる人は多い。

ルール的には、ベン・ゴールドエーカー(Ben Goldacre)が言うように「誰かが(企業から)支払いを受け、自分の論文でその企業の製品について論じているならば、論文でそのことを明記しなければならない」。

一方、この申し出には問題がないと考える研究者もいます。この中には、Cyagen社の製品を引用した164本の論文の著者、ヴィンセント・クリストフルス(Vincent Christoffles)氏とニール・シュビン(Neil Shubbin)氏も含まれます。アムステルダム大学(オランダ)の発生生物学者であるクリストフルス氏は、Cyagen社の策略がおかしいとは考えていません。彼はその理由について「これは実験装置や抗体、遺伝子組み換えサービスなどを購入する際によくある割引と同じだと思います。

Cyagen社の賄賂的戦略は学術関係者の間に様々な反応を引き起こしました。非難されるべきだと思う研究者もいれば、その利益を否定しない研究者もいます。また、研究に影響はなく、関心がないという意見もあります。

日本では、この手のキックバックはどれほどあるのだろうか?

白楽は7年前に生命科学研究から離れたが、在職中にはこの手のキックバックに遭遇したことはない。ただ、勧誘・宣伝は何度も見たことがある。

★博士号の謝礼金(贈収賄?)事件

論文出版絡みの贈収賄と近いが、別次元の話。

博士論文を提出し、審査が無事に通り、博士号を授与してもらう時の話。

審査員の教授にお金を包む。イヤイヤ、博士号取得でお世話になったので感謝の気持ちから礼金を包む。あるいは、研究室の慣例として、博士論文の審査員である教授に数十万円のお金を渡す。

まず、1958年の古い話。

出典:博士号謝礼事件 – クール・スーサン(音楽 芸術 医学 人生 歴史) 

昭和33年(1958年)、医学博士の学位論文審査で、三重県立大学(三重大学)医学部の教授6人が警察の取り調べを受けた。論文提出者から謝礼金を受け取ったことが警察に内部告発されたのである。三重県立大医学部の今村豊医学部長をはじめとして、解剖学、産婦人科、口腔外科、公衆衛生、病理の各教授が次々に警察に出頭を命じられた。

この事件は、取り調べを受けた医学部教授だけでなく、医学界の事情を知る多くの医師を驚かせた。それはどの医学部でも、学位審査には多少の謝礼は当たり前とされていたからで、学位の謝礼金はお中元、お歳暮と同じような社会的常識と思われていた。

次に、2008年の事件を報じた産経新聞の記事を示す。

出典:2008年4月28日記事:当ブログに対する不可解なアクセスについて | 正義は誰に帰するか

◎博士号で収賄の名市大元教授有罪

名古屋市立大大学院の博士課程の論文審査をめぐる贈収賄事件で、学位申請をした医師13人から現金を受け取ったとして収賄罪に問われた元教授、伊藤誠被告(68)に対する判決公判が8日、名古屋地裁で開かれ、村田健二裁判長は懲役2年、執行猶予3年、追徴金270万円(求刑懲役2年、追徴金270万円)の判決を言い渡した。

判決理由で村田裁判長は「受け取った現金も1人当たり20万から30万円と高額。以前から謝礼を受け取っており、常習的な犯行」と指摘。一方で「博士学位の重みや信頼を損なわせたが、反省している」と述べた。
産経新聞 平成20年7月8日 より全文引用

状況はともかく、博士号審査での金銭の授受は違法(贈収賄)です。

では、通常の御礼との線引きはどこにあるのだろう? 品物やお金は5千円以下ならOK? 数十万円のお金を渡す時期が、審査前は違法だが審査後は合法?

審査後に料亭で、お酒と料理(数万円)で御礼したら違法? もし違法なら、卒業後の謝恩会でお酒と料理(~1万円)の接待をしたら、違法?

線引きがよくわかりません。明確なルールが示されていない。

ウン? 白楽が無知なだけ? どこかに示されている?

★教授選での賄賂事件

出典→ 東京医科歯科大教授選汚職 – クール・スーサン(音楽 芸術 医学 人生 歴史) 

論文出版での贈収賄とはハッキリずれるが、博士号の謝礼金事件を書いたので、教授人事で贈収賄があったという話。

1983年、東京医科歯科大の第1外科教授選考に絡んだ贈収賄事件を、朝日新聞がスクープした。現金を受け取ったのは東京医科歯科大麻酔科教授・池園悦太郎で、現金を贈ったのは教授選に立候補していた畑野良侍(東京医科歯科大)と酒井昭義(東京大医科学研究所)の2人であった。

以下略

★二重所属

出典 →  2011年12月9日「Science」記事:Saudi Universities Offer Cash in Exchange for Academic Prestige

論文出版での贈収賄とはズレるが、別の大学にも所属し、毎月約60万円のエキストラ収入。

サウジアラビアのキング・アブドゥルアズィーズ大学(King Abdulaziz University)は、被引用率の高い論文を出版している約60人のトップクラスの研究者とアルバイト契約を結んだ。論文を発表する時、第二の所属としてキング・アブドゥルアズィーズ大学を記載してもらう契約だ。

この契約で、キング・アブドゥルアズィーズ大学は過去4年間で国際ランキングが数百位に上った。

契約を結んだ研究者はキング・アブドゥルアズィーズ大学からいくらもらったのか? 無料閲覧できる記事部分には記載がない。研究費としてもらったのか、個人的収入なのか、キング・アブドゥルアズィーズ大学で講演し、その謝金や接待休暇なのか? 白楽はわかりません。

で、少し調べた。条件がわかった。

月給6,000USD(約60万円)を支払うこと,年間3週間KAUで働くこと,ビジネスクラス航空券代金や五ツ星ホテル滞在費を含めて必要経費はすべて支払うこと,KAUのローカルな研究者と共同研究しなければならないこと,などと共に,最後に,KAUに所属していることを明示してISIジャーナルに論文を発表することが明示されている.(世界大学ランキングをお金で買う:7位へ躍進したサウジアラビアの大学 | Chase Your Dream !

そして、数学分野では全くの無名の大学だったキング・アブドゥルアズィーズ大学が、突如、世界大学ランキングで第7位にランクされた。

英国の大学評価機関「クアクアレリ・シモンズ社」が発表した2019年の世界大学ランキング(QS World University Rankings)では、以下に示すように、キング・アブドゥルアズィーズ大学は総合第231位になった。作戦は大成功である。

出典:https://www.topuniversities.com/node/9743/ranking-details/world-university-rankings/–2018

定評のある英国の「Times Higher Education」の大学ランキングでもキング・アブドゥルアズィーズ大学は2019年の総合ランキングで世界201‐250位である:King Abdulaziz University World University Rankings | THE

二重所属の方法は、非倫理的だが、合法である。そして、効果絶大だ。

なお、ランキング上位を狙ってではないが、二重所属を強いる有名な組織として米国のハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)がある。

ハワード・ヒューズ医学研究所は、建物や研究設備をもつ通常の研究所とは異なる。そういう建物はなく、あるのは事務組織だけである。

そのハワード・ヒューズ医学研究所は、300人以上の研究者に、最低5年間、高額の資金を提供し、論文の著者所属欄に現所属に加え「ハワード・ヒューズ医学研究所(Howard Hughes Medical Institute)」を併記させる。

トップクラスの研究者に対して重点的に多額の資金提供を行っている。資金提供は研究助成金(グラント)の授与ではなく、大学等に所属する研究者を在籍のまま同研究所の研究員として雇用するかたちで行われる。(ハワード・ヒューズ医学研究所 – Wikipedia

この二重所属の方法で、ハワード・ヒューズ医学研究所から、既に30人ほどノーベル賞受賞者を輩出している。

なんか、人をダマすような方法である。白楽は非倫理的だと思う。

【3.性的サービス】

論文出版に大きな価値があるなら、論文出版に伴い、性的サービスの提供、あるいは逆に、要求はあるのか・ないのか?

あるなら、誰が誰に、そして、性的サービスの種類と頻度はどのようなものか?

と書いたが、「性的サービスの種類」を具体的にココに書くのは、なんかマズい印象です。すみません、「性的な行為」とし、立ち入りません。引用文に書いてあればそのまま引用しますが、白楽が赤裸々に書くことは控えます。

★セクハラ

学術界では、長い間、セクハラが横行していた。白楽は2005年に、学術界にセクハラが横行していると既に学会で発表していたが、当時もその後もほとんど関心を持たれなかった。
→ 白楽ロックビル (2005) 「日本の科学研究者の事件」、科学技術社会論学会、第4回年次研究大会予稿集 71~72頁

学術界のセクハラが問題視されるようになったのは、ごく最近(2016年頃から)である。

セクハラの典型例は、中高年の男性教授が論文出版・博士号・就職・昇進・研究費などの権限をちらつかせ、優位な立場を利用して、若い女性の院生・研究者に性的な行為をする。勿論、女性教授が若い男性の院生・研究者にすることもある。セクハラは、非倫理的で、違法である。
→ As a young academic, I was repeatedly sexually harassed at conferences | Education | The Guardian

有名なセクハラ事件のいくつかを、本ブログの記事にした(以下)。しかし、記事にしていない事件も多い。そして、事件にならなかった「性的な行為」はもっとずっと多いだろう。

セクハラの背景に、論文出版がある可能性は、十分にある。

つまり、中高年の教授が論文出版してあげるかから、論文の共著者にしてあげるから、という理由で、若い院生・研究者に性的サービスを要求する。逆に、若い院生・研究者が性的サービスを提供するから、ギブ・アンド・テイクで、中高年の教授に論文出版、共著者になること、第一著者などを要求する。

そういう性的サービスが横行しているためと思われるが、オーストラリアの大学では教員間の性的な行為、及び教員と論文指導中の院生・学生の間の恋愛と性的な行為が2018年に禁止された。
→ 2018年8月1日記事:Universities ban academics from having sex with students doing thesis – NewsFeed
→ Sex between university faculty members and students should be banned, academics say – ABC News (Australian Broadcasting Corporation)

★論文出版でセックス

論文出版に伴い、性的サービスの要求、あるいは逆に、提供はあるのか・ないのか? 直接的に調べた論文やレポートはないのか?

2014年7月25日、経済学分野での研究不祥事の割合に関する論文が出版された(S.Necker (2014): Economists Behaving Badly Linked to Pressure to Publish)。

著者のサラ・ネッカー(Sarah Necker、写真出典)はドイツのフライブルグ大学の経済政策学・制度派経済学(Department of Economic Policy and Institutional Economics at the University of Freiburg)のポスドクだった。

→ 2014 年8月7日の記事:Survey finds that some European economists admit to unethical behavior
→ 2014 年8月7日の記事:European economists ‘swap sex for promotion’ | Times Higher Education (THE)
→ 2016年3月14日の「世界変動展望」記事:経済学の不正調査、昇進等のために贈収賄や体を売るという強烈な結果も!

その論文に、研究者の「1~2%は、論文共著、データ・アクセス、あるいは、昇進と引き換えに、カネ、セックスの受入れ・提供をした(原文:Having accepted or offered gifts in exchange for (co-)authorship, access to data, or promotion is admitted by 3 percent. Acceptance or offering of sex or money is reported by 1 to 2 percent.)」とあった。

「カネ」は前章の増収賄で述べた。それで、「セックスの受入れ・提供をした」ケースに絞りたい。この手の論文は他にないのかを、調べた。

しかし、サラ・ネッカーの論文以外、ウェブ上にデータが見つからない。微妙な問題だからデータないのか、白楽の探し方が下手なのか、見つかりません。

見つからないけど、「論文共著、データ、昇進と引き換えに」、カネ、セックスのどちらかの「受入れ・提供をした」人が「1~2%」である。セックスに限定した場合を、10~20分の1の0.1%としよう。

米国には2014年に研究者が135万人いて、日本には2016年に66万人いた。
→ 科学技術指標2017・html版 | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)

0.1%はそれぞれ、米国で1,350人と日本で660人である。研究者の1,350人とか660人が「論文共著、データ、昇進と引き換えに、セックスの受入れ・提供をした」となると、これは、非常に多い。

★学術界の枕営業

しつこく調べた。

日本には枕営業という言葉がある。

枕営業(まくらえいぎょう)とは、業務上で付き合いのある人間同士が、性的な関係を築くことによって、物事を有利に進めようとする営業方法のことである。(枕営業 – Wikipedia

対応する英語は「casting couch」(キャスティング・カウチ)だそうだ。

「キャスティング・カウチ(カウチはソファのこと)」といって、映画プロデューサーが、新人女優などを自分の部屋やホテルに呼び、カウチの上でセックスをさせたら、役を与えるという風習がある。(2017年12月15日の津山恵子記者の記事:迫されながらも裏を取り続けた。セクハラ報道した記者たちが明かす舞台裏 | BUSINESS INSIDER JAPAN

もう1つ、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein )が性的サービスの関連用語となっていいる。

ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein )は元々は人物名である。

米国映画界の実力者として、業界内で非常に大きな影響力を持ち、業界の人々から恐れられ、逆らいがたい存在となっていた(そしてそれを悪用し、女優など多数の女性に対し、セクシャルハラスメント性的暴行を長年にわたり繰り返していたが、被害者らはワインスタインによる報復を恐れ、被害届を出せずにいた)。

だが、2017年10月頃から、ワインスタインが女優など多数の女性に対しセクハラや性的暴行を長年に亘って行っていたことが、ようやく、次々と明るみに出て、様々な役職を剥奪された。また、この事件は「ワインスタイン効果」(en:Weinstein effect)やMeToo運動(en:Me Too (hashtag))と呼ばれる社会現象を引き起こした。(ハーヴェイ・ワインスタイン – Wikipedia

以上が予備知識で、「学術界の枕営業」を探ると以下の記事がヒットした。
→ 2017年11月1日のコリーン・フラハティ(Colleen Flaherty)記者の記事: Professors on three campuses face disciplinary action or resign over harassment allegations

コロンビア大学・法学教授のキャサリン・フランケ(Katherine Franke、写真出典)が、「学術界のキャスティング・カウチ(academic version of the casting couch)はすべての大学でよく知られている研究上の災難で、コロンビア大学も例外ではない」と述べている。そして、引き合いに出した事件は、コロンビア大学・歴史学教授だったウィリアム・ハリス(William V. Harris)の事件だった。

ウィリアム・ハリスの事件は、まだ本ブログの記事にはしていないが、「セクハラ」事件である。

今探しているのは、「セクハラ」ではなく、納得ずくで、「性的な行為」をし、論文出版、論文の共著者(さらに、博士号取得、研究員採用、昇進、研究費獲得、受賞)などを得ることがどれだけ学術界で起こっているかを知りたいのだ。

さらに探した。

中国の「学術界の枕営業」が出てきた。
→ 2010年3月10日のキー(Key)記者の「ChinaHush」記事:Communication University professor’s casting couch affair | ChinaHush、、(保存版
→ 元記事(写真は表示されない):2010年3月10日記事:广院女生遭潜规则曝光与教授床上艳照(组图)|社会新闻|半岛网

読んでみると、論文出版、論文の共著者ではないが、「学術界の枕営業」に近い赤裸々な話である。ただ、虚構も盛られている印象はある。

中国の放送・メディア分野で最高の大学である中国伝媒大学(Communication University of China、中国コミュニケーション大学、前身は北京伝媒学院(Beijing Broadcasting Institute))に入学するには、至難である。志願者が6,000人もいるのに、合格者は17人だそうだ。

それで、高校を卒業する18歳の女性・ウーシエ・スー“Siwuxie” (思无邪)は40歳の中国伝媒大学・映画テレビ芸術学のナンナン・ソー(Song Nannan、宋南男)教授と「学術界の枕営業」をした。

無事合格した。

中国伝媒大学を卒業する時、彼女は、メディア業界に就職したかった。それで、ソー教授に再び彼女の身体を与えた(英語で「gave her body away」とかなり直接的に書いてある )。そして、彼女はメディア業界にスムーズに就職できた。

2010年、ウーシエ・スー“Siwuxie” (思无邪)は、ソー教授との関係が終わったので、「学術界の枕営業」の顛末を写真付きでネットに公開した。

以下の写真の出典は上記記事。この「学術界の枕営業」の現場写真、誰が撮影したのだろう? 目線がカメラを向いていないけど、自撮りですかね。

本当はこのような個別の事例よりも、「学術界の枕営業」の統計値が欲しかったのだが、見つかりませんでした。

なお、「学術界の枕営業」は非倫理的だが、合法である。

●4.【関連情報】

なし

●5.【白楽の感想】

《1》合法でも非倫理的

7-26.論文報奨金」に書いたが、研究界では論文出版に対する見返りがある。一般的に、論文を出版することで、博士号取得などの資格授与、研究職への採用、職位の昇進、特許申請で金銭的利得、研究費と院生・ポスドクの獲得で研究職上の利得、ノーベル賞を含めた各賞受賞による名声など、論文出版は研究者に富・名声・名誉を与える。学術界と社会はこの仕組を当然視した制度設計をしている。

この仕組みを増強する方策として、大学・研究機関は論文を出版した研究者に論文報奨金、つまり、お金を支給している。

だから、場合によると(あるいは研究者によると)、ネカト論文や捕食論文でもかまわないから論文を出版しようと思うだろう。

今回、さらに社会通念として許容スレスレ(と非許容)である脅迫・贈収賄・性的サービスのケースを書いた。これらも、ネカト論文や捕食論文の出版を促進すると思われる。

論文出版は、基本的に、人間の欲得とそれを満たす行為、に関連している。

研究者は人間なので、研究者の欲得を刺激することで研究者の研究意欲を高めることはできる。それで、研究者に成果を出させる研究システムに利用している。このことは当然と言えば当然である。

研究システムの中で、「人間の欲得を満たす行為」の1つ1つが、倫理、法律とどう折り合うのか?

倫理的にOKで合法な場合は良い。非合法であれば、勿論マズイ。論外である。問題は、合法でも非倫理的と思える場合である。

例えば、セクハラ問題など、国・宗教・男女により異なる。また時代と共に大きく変化してきた。現在でも、合法で非倫理的と非難されない国もある。

現代日本で、論文出版に伴う性的サービスの要求・提供は、ありえないと考えたい。しかし、誰が誰に対し、どの状況で、どのくらいの頻度で起こっているのか? 白楽は実態を把握できていない。

《2》捕食学術に関する白楽の記事リスト

捕食学術に関する白楽の記事リストのページ「捕食学術の記事リスト(1)」を作りました。ご利用ください。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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