ゲイル・デロング(Gayle DeLong)(米)

2020年2月6日掲載 

ワンポイント:2019年ネカト世界ランキングの「4」の「第4位」に挙げられたので記事にした。デロングはニューヨーク市立大学バルーク校・準教授で、専門は経済学(金融学)なのに、子宮頸がんワクチンを接種した女性の妊娠率が低いという「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文を出版した。内容は明らかに専門外である。2019年(61歳?)、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が論文の改ざんを指摘した。論文は撤回された。なお、デロングの2人の娘は自閉症である。そのためだと思うが、デロングはワクチン反対論者である。大学はネカト調査していない。デロングは処分されていない。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ゲイル・デロング(Gayle DeLong、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のニューヨーク市立大学バルーク校 (Baruch College of The City University of New York)・ジックリン経営大学院(Baruch’s Zicklin School of Business)・準教授で、専門は経済学(金融学)である。ただ、論文はワクチン学なので、生命科学の枠に記載した。

日本語に翻訳されていないが、著書に『グローバル・バンキング(Global Banking)』(2012年、ISBN-13: 978-0195335934)がある(本の表紙出典はアマゾン)。

2018年(60歳?)、専門は経済学(金融学)なのに、子宮頸がんワクチンを接種した女性の妊娠率が低いという「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文を出版した。子宮頸がんワクチンはHPVワクチン(HPV=Human Papilloma Virus=ヒトパピローマウイルス)である。

この論文は、基本的にワクチン反対論文である。

2019年(61歳?)、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)が論文の研究計画と解釈に偏り(白楽は改ざんとした)がある、とパブピアで指摘した。

2019年12月10日(61歳?)、論文は撤回された。

なお、デロングの2人の娘は自閉症である。そのためだと思うが、デロングはワクチン反対論者で、ワクチン反対論者としてはそれなりに知られた人物である。

大学はネカト調査していない。デロングは処分されていない。

一般的に、多くのワクチン論文は、ワクチン推進派とワクチン反対派の闘争対象になってしまう。生命科学・学術界はおおむねワクチン推進派なので、ワクチン反対論文は学術的な批判にさらされ、多くは撤回を強いられる。

なお、生命科学・学術界がワクチン推進派なら、ワクチン反対論文がそもそも学術誌に掲載されないが、「J Toxicol Environ Health A」は、元々、ワクチン反対傾向の学術誌なので掲載された。

本事件を一言でいえば、ワクチン反対派のデロングが「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文としてワクチン反対論文を発表したが、多くの研究者に批判された。それで、「J Toxicol Environ Health A」編集部は、デロングの反対を押し切って、論文を撤回した、というストーリーである。

2019年ネカト世界ランキングの「4」の「第4位」に挙げられたので、本事件を記事にした。なお、その8年前の「2011年のJ Toxicol Environ Health A」論文でもデロングはワクチン反対論文を書いていて、データが批判されている。

デロング事件の特筆点は、デロングは医者でもなければ生命科学者でもない。経済学者で専門は金融学である。ただ、2人の娘が自閉症である。自閉症の原因は不明だが、アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)の言説に感化されて、ワクチン接種のせいだと思い込んだ節がある。
 → アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)(英)改訂 | 研究者倫理

ニューヨーク市立大学バルーク校 (Baruch College of The City University of New York)・ジックリン経営大学院(Baruch’s Zicklin School of Business)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ニューヨーク大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日生まれとする。1980年に大学を卒業した時を22歳とした
  • 現在の年齢:44 歳?
  • 分野:経済学
  • 最初の不正論文発表:2011年(53歳?)
  • 不正論文発表:2018年(60歳?)
  • 発覚年:2019年(61歳?)
  • 発覚時地位:ニューヨーク市立大学バルーク校・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)で、デロングの論文の研究計画と解釈に偏り(白楽は改ざんとした)がある、とパブピアで指摘した
  • ステップ2(メディア):エリザベス・ビックのブログ、「パブピア(PubPeer)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ニューヨーク市立大学バルーク校は調査していない
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(✖)
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:2報
  • 時期:研究キャリアの中期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日生まれとする。1980年に大学を卒業した時を22歳とした
  • 1980年(22歳?):アメリカ大学(American University)で学士号取得:経済学
  • 1984年(26歳?):サウスカロライナ大学(University of South Carolina,)で修士号取得:国際ビジネス学
  • 1998年(40歳?):ニューヨーク大学(New York University)の経営大学院(Stern School of Business, NYU,)で研究博士号(PhD)を取得:金融および国際ビジネス
  • xxxx年(xx歳):ニューヨーク市立大学バルーク校 (Baruch College of The City University of New York)・ジックリン経営大学院(Baruch’s Zicklin School of Business)・準教授
  • 2018年(60歳?):「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文を出版
  • 2019年(61歳?):「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文が問題視され、論文撤回

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「ゲイル・デロング」と紹介。
講演動画:「HPV vaccine and lowered fertility: worldwide reaction and further research – YouTube」(英語)45分31秒。
AutismOne Mediaが2019/06/03 に公開

【動画2】
「ゲイル・デロング」と紹介。
講演動画:「HPV vaccine and lowered fertility: worldwide reaction and further research – YouTube」(英語)11分31秒。
Mercolaが2015/11/15 に公開

●4.【日本語の解説】

★2018年06月12日:みかりん:HPVワクチン接種により妊娠率低下 アメリカ

出典→ ココ、(保存版) 

Gayle DeLong
Received 05 Aug 2017, Accepted 14 May 2018, Published online: 11 Jun 2018
https://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1080/15287394.2018.1477640?journalCode=uteh20#.Wx7f1gPpuoY.twitter

上記の論文、海外のツイッターから流れてきました。

解析結果としては、HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)を接種した女性は妊娠率が下がるという内容。

★2019年08月19日:Gigazine:ワクチン接種反対派が発表した「誤った論文」の問題点を科学者が指摘して非難する

出典 → ココ、(保存版) 

写真は省略。抜粋引用。

ワクチンの接種は感染症を防ぐ有効な手段ですが、近年ではワクチンの接種が病気を引き起こすといった反ワクチン派の活動が活発化しており、2019年には世界保健機関(WHO)がワクチン忌避の流行を健康に対する主要かつ世界的な脅威と位置づけています。そんな反ワクチン派の人物が2018年、「子宮頸がんワクチンの接種が不妊を引き起こす」という論文を発表しましたが、科学者からは多くの問題点が指摘されています。

Bogus Paper Claims HPV Vaccine Causes Infertility, Scientists Shred It to Pieces
https://www.sciencealert.com/bogus-paper-claims-the-hpv-vaccine-causes-fertility-problems

子宮頸がんなどの発生に関係する特定のヒトパピローマウイルスの感染を予防するHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)は、子宮頸がんを予防するための有効な手段であり、アメリカ疾病予防管理センターも安全で効果的なワクチンだと認めています。長年にわたって科学者らによる副作用の調査も行われており、不妊などの悪影響は確認されていません。

ところが、反ワクチン派の中には「近年アメリカにおける出生率が低下しているのは、HPVワクチンのせいだ」と考える人が依然として少なくないとのこと。その1人が反ワクチン活動家であり、ニューヨーク市立大学バルーク校ジックリンビジネススクールで経済・金融の准教授を務めるGayle DeLong氏です。

「経済・金融の准教授」とある通り、Delong氏は医学の専門家ではありませんが、2011年に自閉症とワクチン接種の関連性を主張する論文を「Journal of Toxicology and Environmental Health Part A」にて発表。内容がこれまでに積み重ねられた研究結果と矛盾するものだったため、自閉症の専門家らから非難を浴びました。

Delong氏は2014年には、家族にがん発症者がほとんどおらず自分自身が健康的な生活を送っているにもかかわらず乳がんになったことについて、「2人の自閉症の子どもを育てたストレスによるものだ」と主張。これも、専門家から非難されました。

★2019年12月18日:まなみのブログ:にわかに忙しそうな村中璃子氏ら推進派達

出典→ ココ、(保存版) 

アメリカ時間の2019年12月17日にChildren’s Health Defenseより重要な記事が投稿されていたので、ここに紹介します。
https://childrenshealthdefense.org/news/hpv-article-withdrawn-without-detailed-explanation-by-journal-of-toxicology-and-environmental-health/

2019年12月17日
Journal of Toxicology and Environmental Healthによる詳細な説明なしで撤回されたHPV論文

CHD寄稿者、Gayle DeLong著

私の、「HPVワクチン接種を受けた25-29歳の女性の妊娠確率の低下」という論文の、Journal of Toxicology and Environmental Healthによる突然の撤回について。

・・・中略・・・

白楽注:この記事は長いので、抜粋引用である。以下、論文に対する批判にデロング自身が回答している部分を主に引用した。

主な出版後の批判-Kacew編集長によって確認されたという-は私の返答とともに、次のとおりです。

・方法論的問題:経済の低迷、妊娠の延期などの社会的傾向、労働力の女性の増加、避妊薬の使用の変化、避妊失敗率など、潜在的な交絡因子は考慮されないか、単に無視されている。これらの要因はすべて妊娠に影響を及ぼすが、取り上げられていない。

この批判で言及された傾向は、全体的な出生率の低下として取り上げられています。
私の研究の価値は、各観察結果から、女性がHPVワクチンを接種されたかどうか、そしてその女性が妊娠していたかどうかが識別されるということです。全体的な傾向が結果に影響を与えていないことを確認するために、統計分析に時間の傾向を追加しましたが、結果は残りました。HPVワクチンを接種した女性は妊娠可能性が低くなりました。

・データの誤解:ワクチンに起因する妊娠の数は根拠がなく、検証なしで自己報告された有害事象に依存するVAERSデータベースを使用する著者の研究からの知見によって裏付けられているという結果の外挿は、結果を疑わしくしている。

私が使用しているデータは、米国に住む人々の非ランダムな調査である国民健康栄養調査(NHANES)からのものです。設計上、各観測は、調査対象の個人よりもはるかに多くの人々を表しています。 NHANESの本質は、観測から一般化することであり、データベースには各観測の特定の重みが含まれています。

ワクチン有害事象報告システム(VAERS)に関するコメントは関係ありません。私は VAERSを用いている著者を引用していますが、引用は単に背景として機能するだけであり、分析には大きな役割を果たしません。

・妥当性の疑わしい:選択バイアス、米国およびヨーロッパでの同様の観察の欠如、弱い生物学的妥当性、および用量反応に関する不正確な記述の問題はすべて、データに関する疑念を引き起こす要因である。

「分析に使用されるデータは、米国政府からのものです。 米国政府が後援する全国調査の過程で尋ねられた質問への回答が有効でない場合、なぜ質問をするのですか?」

これらの批判は完全に間違っています。
選択バイアスは存在しません:私は調査に使用するすべての質問に対する回答が調査対象者に含まれるすべての観察結果を使用しています。ヨーロッパでも同様の所見があります。別の研究で、私はHPVワクチンプログラムが広く普及しているヨーロッパ諸国で出生率が低下していることを示しています。その研究はここにあります。
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/21645515.2019.1622977
生物学的妥当性が存在するだけでなく、ワクチンが誘発する可能性のある自己免疫と不妊の問題との間のリンクを指摘する研究が公開され続けています。論文中の用量反応に関する記述は正しいです:私は2人の独立した統計学者と私の解釈を確認しました。

・統計分析:このパッケージは質問の妥当性を判断できないため、この場合のSASパッケージの使用は適切ではない。特に、この統計モデルは避妊薬使用などのNHANESデータの変数を除外するため、変数の選択は偏っている。著者は、重要な変数を含めるまたは除外するための基準を提供していない。

分析に使用されるデータは、米国政府からのものです。米国政府が後援する全国調査の過程で尋ねられた質問への回答が有効でない場合、なぜ質問をするのですか?

私が含めた変数–年齢、収入、教育、人種/民族性–は、標準的な人口統計であり、妊娠確率に影響を与える可能性のある社会経済的要因です。

避妊に関しては、NHANESデータベースには断片的なデータが含まれています。調査には3種類の避妊に関する質問のみが含まれており、多くの女性は質問に回答していません。確かに、避妊薬の使用が結果に影響を与えるかどうかを判断するための追跡調査が必要ですが、このデータベースと論文の範囲を超えています。確かに、さらなる研究が必要です。

詳細については、gayle.delong@baruch.cuny.eduにお問い合わせください。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

【日本語の解説】で引用した「Gigazine」の記事がワクチン推進派の記事として、また、「みかりん」の記事がワクチン反対派の記事として優れている。是非、原文をお読み下さい。白楽が加筆する必要はないほど全容が記載されている。

でも、少し加筆。

★2人の娘が自閉症

ゲイル・デロング(Gayle DeLong、写真出典)の2人の娘は自閉症である。2015年の記事でジェニファー(Jennifer)が18歳、フローラ(Flora)が14歳で、発病から10年が経過しているとあった。 → 2015年の記事:Sisters face autism, 10 years later

夫のジョナサン・ローズ(Jonathan Rose)は、ドリュー大学(Drew University)の歴史学・教授である。

デロング事件の特筆点の1点は、デロングは経済学者で専門は金融学である。医者でもなければ生命科学者でもないのに、生命科学の論文を発表した。

もう1点は、2人の娘が自閉症ということだ。娘さんの自閉症の原因は不明だが、アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)の言説に感化されて、ワクチン接種のせいだと思い込んでいる節がある。
 → アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)(英)改訂 | 研究者倫理

★問題点の指摘

2018年1月11日(49歳?)、ゲイル・デロング(Gayle DeLong)は「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文で、25〜29歳の既婚女性は、ワクチンを接種しなかった既婚女性と比較して、妊娠する可能性が低いと報告した。端的に言えば、「子宮頸がんワクチンを接種した女性の妊娠率は低い」と主張した。

2019年8月11日(61歳?)、出版から1年7か月後、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がデロングの「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文の問題点を8点、パブピアで指摘した。 → PubPeer(commented August 11th, 2019 3:40 AM and accepted August 11th, 2019 3:40 A)

少し長いけど、要点を全部、以下に引用しよう(3の地図も含まれていた)。

  1. 要旨では、800万人の米国女性の研究結果を示唆しているが、700人の調査結果だった(つつまり、解釈の改ざん)。これは誤解を誘導している。
  2. 比較した2つのグループ、子宮頸がんワクチン接種グループ(118人)と非接種グループ(582人)は、サイズが5倍も異なる。
  3. 2つのグループは、大卒の割合という非常に重要な交絡因子が異なる。接種グループの女性は、非接種グループよりも大卒の割合が有意に高い。そして、大卒の女性の平均初産年齢は30.3歳で、大卒ではない女性の平均初産年齢の23.8歳よりも6.5歳も歳上である。以下は、この違いを図に示したの2016年の国立健康統計センターの図(出典:https://www.nytimes.com/interactive/2018/08/04/upshot/up-birth-age-gap.html)。
  4. この論文では、大卒の女性の平均初産年齢である30.3歳よりも低い25〜29歳の女性に限定して研究を行なっている。30歳未満の女性に限定すると、大卒の平均女性にはまだ最初の赤ちゃんがいない。そのような年齢層を対象に、予防接種状況と出産の相関をとるにはヘンである。
  5. 他の人が指摘したように(以下の①、②)、この研究ではこれら2つのグループの避妊率を報告していません。これはもう一つの交絡因子である。
    ①:A dumpster fire of a study about HPV vaccination and female fertility, courtesy of Gayle Delong – RESPECTFUL INSOLENCE
    ②:Gayle DeLong tries to correct her anti-vaccine article by blogging
  6. 著者は、子宮頸がんワクチン接種が妊娠率の低下を引き起こすメカニズムについてどのような可能性があるかを説明していない。
  7. 著者は医学や生物学の素養がない。また、ワクチン反対論者として知られている人である。ワクチンが安全で効果的であるという科学的・医学的データの大部分と矛盾している主張をしてきた。もちろん、大多数の人が真実として受け入れている説に反対の意見を持つことは問題ない。しかし、その主張にはそれなりの証拠が必要だが、この論文には、それがない。
  8. 表2では、「身長」のデータは年齢データと重複していると思う。 女性の平均身長がわずか2フィート(61センチメートル)とは思えない。ここは、単純な間違いだろう。

★結局

子宮頸がんワクチンは、世界中の子宮頸がんのほとんどを予防し、数百万人の命を救う可能性を秘めている。このワクチン接種で、膣がん、肛門がん、陰茎がんの大部分も予防できる。しかし、それは親が子供に子宮頸がんワクチンの接種をした場合だけである。

ところが、子宮頸がんワクチンを不安視する人が増えている。

東京都保健医療公社と大阪大学などの2019年の論文(以下)は、日本の子宮頸がんワクチン接種率が約70%から1%に低下した、と警告している。

  • HPV vaccination in Japan: what is happening in Japan?
    Ikeda S, Ueda Y, Yagi A, Matsuzaki S, Kobayashi E, Kimura T, Miyagi E, Sekine M, Enomoto T, Kudoh K.
    Expert Rev Vaccines. 2019 Apr;18(4):323-325. doi: 10.1080/14760584.2019.1584040. Epub 2019 Feb 22. No abstract available.

ゲイル・デロング(Gayle DeLong)は、子宮頸がんワクチンを接種した25〜29歳の既婚女性は、ワクチンを接種しなかった既婚女性と比較して、妊娠する可能性が低いと指摘した。

ワクチン反対派にはウケる論文だったが、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)などに複数の問題点が指摘され、2019年12月10日(61歳?)、論文は撤回された。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年1月30日現在、パブメド(PubMed)で、ゲイル・デロング(Gayle DeLong)の論文を「Gayle DeLong」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2019年の9年間の4論文がヒットした。

2020年1月30日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文・1論文が2019年12月10日に撤回されていた。

★撤回論文データベース

2020年1月30日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでゲイル・デロング(Gayle DeLong)を「Dahlman-Wright」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文・1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年1月30日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ゲイル・デロング(Gayle DeLong)の論文のコメントを「Gayle DeLong」で検索すると、本記事で問題にした「2018年のJ Toxicol Environ Health A」論文と「2011年のJ Toxicol Environ Health A」論文の2論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》ニセ科学 

ゲイル・デロング(Gayle DeLong)の専門は経済学・金融学である。いくら大学の準教授でも、その人が全く専門外の生命科学の論文を発表するなんて馬鹿げている。

どうしてそんな論文を書いたのか?

調べてみると、2人の娘が自閉症だそうだ。自閉症の原因は明白ではないが、【動画1】の講演では、司会者にワクチン接種で問題があったかと問われて、(あいまいに)否定している。

自閉症の原因は不明だが、アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)の言説に感化されて、ワクチン接種のせいだと思い込んだ節がある。
 → アンドリュー・ウェイクフィールド (Andrew Wakefield)(英)改訂 | 研究者倫理

世間受けする説としてワクチン接種が自閉症の原因だとするインチキ説が横行している。

今回のデロング論文は不妊症だが、なぜ、ワクチン接種に原因を求めるのか、白楽は理解できない。しかし、ワクチン有害というニセ科学を信じる信者は多い。

ワクチン反対論者にウケる話があるからだろうか? 例えば、こんな話も公表されている。 → 2019年11月26日記事:日本の産婦人科医で自分の娘に子宮頸がんワクチンを接種したのは0%!日本の産婦人科医の優秀さが証明された|坂崎文明|note、(保存版

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●9.【主要情報源】

① 2019年8月11日のエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)の「Science Integrity Digest」記事:Concerns about a paper on HPV vaccination and pregnancy rates – Science Integrity Digest
② 2019年8月17日のカーリー・カッセッラ(Carly Cassella)記者の「Science alert」記事:Bogus Paper Claims HPV Vaccine Causes Infertility, Scientists Shred It to Pieces
③ 2019年12月31日のクリストファー・ワンジェク(Christopher Wanjek)記者の「Live Science」記事:Take That Back: The Top Scientific Retractions of 2019 | Live Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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