ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi)(米)

2024年5月15日掲載

ワンポイント:2024年4月4日(37歳?)、研究公正局は、カナダ出身でユタ大学(University of Utah)・助教授になったブリジディの4件の研究費申請書、1報の発表論文、1件のポスター発表、1件の研究発表の、約40画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。2024年3月24日から5年間の締め出し処分を科した。5年間は少し重い処分である。ブリジディは研究職を廃業した(推定)。記事執筆時点では、撤回論文はゼロ。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

【追記】
・2024年10月4日記事:A scientific fraud. An investigation. A lab in recovery. | The Transmitter: Neuroscience News and Perspectives

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi、G Stefano Brigidi、ORCID iD:、写真出典)は、カナダで育ち、米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California San Diego)・ポスドクになり、2021年(34歳?)、ユタ大学(University of Utah)・助教授になった。専門は神経生物学である。

ネカト発覚の時期と経緯は不明であるが、2020年1月のユタ大学での発表にネカトがあったとされた。それで、見つけた人はユタ大学の研究者で、発覚した時期は、2021年(34歳?)頃だと思われる。

カリフォルニア大学サンディエゴ校とユタ大学がネカト調査を終え、クロと判定し、2023年8月(36歳?)、ブリジディはユタ大学を辞職させられた。

2024年4月4日(37歳?)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ユタ大学(University of Utah)・助教授だったブリジディの4件の研究費申請書、1報の発表論文、1件のポスター発表、1件の研究発表の、約40画像にねつ造・改ざんがあったと発表した。

2024年3月24日(37歳?)から5年間の締め出し処分を科した。5年間の締め出し処分は少し重い処分である。

ユタ大学(University of Utah)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:カナダ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのブリティッシュコロンビア大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:
  • 不明。2011年4月にブリティッシュコロンビア大学から第一著者で最初の論文を出版している(PubMed)。この時、院生2年目の24歳とした。それで、1987年1月1日生まれとした
  • 現在の年齢:37 歳?
  • 分野:神経生物学
  • 不正文書作成:2015~2023年(28 ~36歳?)の9年間
  • ネカト行為時の地位:カリフォルニア大学サンディエゴ校・院生・ポスドク・助教授、ユタ大学・助教授
  • 発覚年:2021年(34歳?)(推定)
  • 発覚時地位:ユタ大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明。ユタ大学の研究者?
  • ステップ2(メディア):「Transmitter」、「Salt Lake Tribune」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カリフォルニア大学サンディエゴ校・調査委員会とユタ大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正文書数:研究公正局は4件の研究費申請書、1報の発表論文、1件のポスター発表、1件の研究発表の、約40画像にねつ造・改ざん。2024年5月14日現在、撤回論文はない
  • 時期:研究キャリアの初期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから 5年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:G. Stefano Brigidi, PhD – Faculty Details – U of U School of Medicine – | University of Utah

  • 生年月日:不明。2011年4月にブリティッシュコロンビア大学から第一著者で最初の論文を出版している(PubMed)。この時、院生2年目の24歳とした。それで、1987年1月1日生まれとした
  • 2009年(22歳?)?:カナダのマギル大学(McGill University)で学士号を取得:分子生物学
  • 2015~2023年(28 ~36歳?):この9年間、研究費申請書、発表論文、ポスター発表、研究発表の、約40画像をねつ造・改ざんした
  • 2016年(29歳?)? :カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)で研究博士号(PhD)を取得:神経科学。NIHグラントのF32は個人ポスドクのグラントで、2015年8月に申請している。それで、2016年に29歳で博士号を取得したと推察した。
  • 2016年(29歳?)?:カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California San Diego)・ポスドク、その後、助教授
  • 2021年1月(34歳?):ユタ大学(University of Utah)・助教授
  • 2021年(34歳?):「NIH所長新人イノベーター賞(NIH Director’s New Innovator Award)」を受賞:2021 Awardees | NIH Common Fund
  • 2021年(34歳?):不正が発覚(推定)
  • 2021年6月15日(34歳?):ユタ大学(University of Utah)医科大学院の研究室リストから削除された:Lab Index – U of U School of Medicine – | University of Utah
  • 2023年8月(36歳?):ユタ大学(University of Utah)・助教授職の契約終了。実質上の雇用
  • 2024年4月4日(37歳?):研究公正局がネカトと発表

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
実験方法の解説動画:「Immunoprecipitation and ABE: Protein Palmitoylation |Protocol Preview – YouTube」(英語)2分00秒。1分30秒にブリジディが登場する。

JoVE (Journal of Visualized Experiments)が2022/09/13に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi)は写真家でロジャー・ウィリアムズ大学(Roger Williams University)のステファン・ブリジディ教授(Stephan Brigidi、写真出典)の息子である。

親のことは重要ではなかった(多分)。

息子のジャン=ステファノ・ブリジディの事件だ。

ブリジディは、カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)で研究博士号(PhD)を取得し、米国のカリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California San Diego)のブレンダ・ブラッドグッド準教授(Brenda Bloodgood、写真 by Erik Jepsen, CC BY-SA 4.0、出典 )のポスドク、その後、助教授になった。

2021年1月(34歳?)、ユタ大学(University of Utah)・助教授になった。

2021年(34歳?)、ユタ大学・助教授の時、「NIH所長新人イノベーター賞(NIH Director’s New Innovator Award)」を受賞している:2021 Awardees | NIH Common Fund

2024年4月5日(37歳?)のカリ・マクマリー(Calli McMurray)記者の「Transmitter」記事では、ブリジディを「スター」科学者と紹介していた。優秀な若手研究者と評価されていたのだ。

ネカト発覚の時期と経緯は不明であるが、2019年の論文や2020年1月のユタ大学での発表にネカトがあったとされた。それで、見つけた人はユタ大学の研究者だと思われる。

ブリジディの最新の論文は2021年5月に出版されているが、この論文はカリフォルニア大学サンディエゴ校時代の研究成果である。

2021年6月15日(34歳?)には、ユタ大学(University of Utah)の研究者リストに掲載されていない。助教授職は維持していたが、研究室が閉鎖されたと思われる:Lab Index – U of U School of Medicine – | University of Utah

これらを総合的に判断して、ネカトが発覚した時期は、2021年(34歳?)頃だと思われる。

2021年(34歳?)にネカトが発覚し、研究室が閉鎖され、論文出版がなくなった。しかし、法的問題でユタ大学(University of Utah)はブリジディを解雇できなかった(推定)。

2023年8月(36歳?)、ユタ大学(University of Utah)は助教授職の契約を更新しないことで、実質的にブリジディを解雇した。

★獲得研究費

ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi、G Stefano Brigidi)は、NIHから2016~2021年に4件、計1,485,460ドル(約1億4854万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Gian-Stefano Brigidi

以下にその4件を示す(出典は上記)

★研究公正局

2024年4月4日(37歳?)、研究公正局はブリジディが4件の研究費申請書、1報の発表論文、1件のポスター発表、1件の研究発表の、約40画像をねつ造・改ざんしていたと発表した。

2024年3月24日から5年間の締め出し処分を科した。5年間の締め出し処分は少し重い処分である。

4件の研究費申請書は以下の通り。研究公正局の発表を張り付けた。2015~2023年8月のグラント。F32は個人ポスドクのグラントなので、以下の2番目にリストした最初のF32は、申請した年月が2015年8月である(白楽下線)。この時、博士号を取得予定だったと推定される。

  • DP2 NS127276-01, “Decoding neuronal activity history at the genome through the spatially segregated inducible transcription factors,” submitted to NINDS, NIH, on August 20, 2020, Awarded Project Dates: September 15, 2021-August 1, 2023.
  • F32 MH110141-01, “Regulation of excitatory-inhibitory balance by the local translation of the immediate early gene Npas4,” submitted to NIMH, NIH, on August 10, 2015.
  • F32 MH110141-01A1, “Regulation of Excitatory-Inhibitory Balance by Local Translation of the Immediate Early Gene Npas4,” submitted to NIMH, NIH, on December 8, 2015, Awarded Project Dates: August 1, 2016-July 31, 2018.
  • F32 MH110141-01A1S1, “Regulation of Excitatory-Inhibitory Balance by Local Translation of the Immediate Early Gene Npas4,” submitted to NIMH, NIH, on December 8, 2016, Awarded Project Dates: December 1, 2016-July 31, 2017.

1報の発表論文は以下の通り。2019年(29歳?)の1論文である。

  • Genomic Decoding of Neuronal Depolarization by Stimulus-Specific NPAS4 Heterodimers. Cell. 2019 Oct 3;179(2):373-391.e27. doi: 10.1016/j.cell.2019.09.004 (hereafter referred to as “Cell 2019”).

1件のポスター発表は以下の通り。年月不記載のユタ大学での発表

  • Genomic mechanisms linking neuronal activity history with present and future functions. Poster for “The Brigidi Lab – a neuronal activity lab in the Department of Neurobiology at the University of Utah” (hereafter referred to as the “UU Department of Neurobiology poster”).

1件の研究発表は以下の通り。2020年1月のユタ大学での発表

  • Decoding neural circuit stimuli into spatially organized gene regulation. Presentation presented to the UU Department of Neurobiology & Anatomy on January 23, 2020 (hereafter referred to as “UU Department of Neurobiology presentation”).

【ねつ造・改ざんの具体例】

2024年4月4日(37歳?)の研究公正局の発表に、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。

出版され無料閲覧できる以下の論文を選んで研究公正局の指摘箇所を詳しく見よう。

★「2019年10月のCell」論文

「2019年10月のCell」論文の書誌情報を以下に示す。カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California San Diego)・ポスドク時代の論文である。2024年5月14日現在、撤回されていない。

研究公正局の指摘箇所を以下に見ていこう。

――――以下は図1(出典:原著論文)。
1A, 1C, 1F、1H, 1L, 1Pの共焦点画像を改ざんした。
1B, 1D, 1E, 1G, 1I, 1Jはデータを組み合わせていた。

 

――――以下は図2(出典:原著論文)。
2H, 2I, 2K, 2Pはデータを組み合わせていた。

――――他もあるが、省略

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。

★パブメド(PubMed)

2024年5月14日現在、パブメド(PubMed)で、ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi、G Stefano Brigidi)の論文を「G Stefano Brigidi [Author]」で検索した。2011~2021年の11年間の10論文がヒットした。

2024年5月14日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2024年5月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi、G Stefano Brigidi)を「Brigidi」で検索すると、0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2024年5月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi、G Stefano Brigidi)の論文のコメントを「G Stefano Brigidi」で検索すると、1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》不明 

ジャン=ステファノ・ブリジディ(Gian-Stefano Brigidi、写真出典)がなぜ、どのような状況でネカトをしたのか、研究公正局の発表では全くわからない。

能力不足なのか、研究に熱心ではなかったのか、2011~2021年の11年間に出版した論文数は、10論文と、少ない。

その10論文のうちの1報だけがネカトとされたが、他の9論文は大丈夫なのだろうか?

2016年(29歳?)頃、カナダのブリティッシュコロンビア大学(University of British Columbia)のシェルナズ・バムジ準教授(Shernaz Bamji)の指導下で研究博士号(PhD)を取得した。

この2016年はネカト行為中なので、博士論文にもネカトがあると思う。ブリティッシュコロンビア大学は博士論文を含めブリジディの全論文のネカト調査をすべきである。

《2》「撤回監視(Retraction Watch)」

2024年5月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」はブリジディ事件を報道していない。 → Search Results for “Gian-Stefano Brigidi” – Retraction Watch

撤回論文がゼロだからなのか?

イヤイヤ、「撤回監視(Retraction Watch)」は、研究公正局がクロと発表した場合、撤回論文がゼロでも記事にしている。

10年も活動を続けているので、疲れがでてきたのだろうか?

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】

①  研究公正局の報告:(1)2024年4月4日:Case Summary: Brigidi, Gian-Stefano | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2024年4月10日の連邦官報:2024-07575.pdf。(3)2024年4月10日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2024年4月19日:NOT-OD-24-108: Findings of Research Misconduct
② 2024年4月5日のカリ・マクマリー(Calli McMurray)記者の「Transmitter」記事:‘Star’ neuroscientist faked data in paper and grant applications, U.S. government finds | The Transmitter: Neuroscience News and Perspectives
③ 2024年4月27日のコートニー・タナー(Courtney Tanner)記者の「Salt Lake Tribune」記事:University of Utah researcher faked data for years, according to investigators

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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