特殊事件「学問の自由侵害:被害者」:心理学:スーザン・ポケット(Susan Pockett)(ニュージーランド)

2020年1月7日掲載 

ワンポイント:2019年ネカト世界ランキングの「1」の「7」に挙げられたので記事にした。ネカト事件ではない。オークランド大学(University of Auckland)・非雇用研究員(Honorary Academic)のポケットは、学術誌から依頼されて、高周波の問題点を解説した「2019年のMagnetochemistry」論文を発表した。4か月後の2019 年9月4日(59歳)、学術誌は手のひらを返し、「科学的な貢献がなく、ここは、意見を述べる場ではない」とポケットの論文を撤回した。この撤回は政財界からの弾圧の結果で、「学問の自由」の侵害である。MDPI社と学術誌「Magnetochemistry」編集部がナサケナイ。ポケットは被害者である。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】

スーザン・ポケット(Susan Pockett、ORCID iD:?、写真出典)は、ニュージーランドのオークランド大学(University of Auckland)・非雇用研究員(Honorary Academic)で、専門は心理学(認知科学)である。

この事件は、ネカト事件ではない。ポケットは「学問の自由侵害」被害者である。加害者は政財界からの弾圧に組したMDPI社と学術誌「Magnetochemistry」である。

ポケットは、2000年に212ページの著書『The Nature of Consciousness: A Hypothesis』(日本語訳なし)を出版している(本の表紙出典はアマゾン)。

ポケットは、高周波(ラジオ波、radio frequency emission)が健康に危険だと主張している。

2019 年5月5日(59歳)、ポケットは、学術誌「Magnetochemistry」から招待総説の執筆を依頼され、「2019年のMagnetochemistry」論文を書いた(本ブログでは、総説を論文と記載する)。その論文で、政府が高周波は安全だと報告したのは、利益相反があると主張した。

4か月後の2019 年9月4日(59歳)、学術誌は手のひらを返し、「科学的な貢献がなく、ここは、意見を述べる場ではない」とポケットの論文を撤回した。内実は、政財界からの弾圧を受け、MDPI社と学術誌「Magnetochemistry」編集部が撤回したと理解されている。

砕いて言えば、論文発表への政財界からの弾圧の結果である。「学問の自由」の1つ・「研究発表の自由」への侵害である。ポケットは被害者である。

加害者の学術誌「Magnetochemistry」とその出版社であるMDPI社は何も処分されていない。

この事件は、2019年ネカト世界ランキングの「1」の「7」に挙げられた。

オークランド大学(University of Auckland)。写真出典

  • 国:ニュージーランド
  • 成長国:ニュージーランド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:xx大学
  • 男女:女性
  • 生年月日: 1960年らしい(Susan Pockett)。仮に1960年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:64 歳?
  • 分野:心理学
  • 最初の問題論文発表:2019年(59歳)
  • 問題論文発表:2019年(59歳)
  • 発覚年:2019年(59歳)
  • 発覚時地位:オークランド大学・非雇用研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
  • 大学の透明性:調査していない(Ⅹ)
  • 問題:「学問の自由」の1つ・「研究発表の自由」への侵害。学術誌の不適切処理
  • 問題論文数:1報で1報撤回
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ポケットは被害者なので、ポケットの経歴を詳しく書いても事件の理解や防止に役立たない。単純化した。

  • 生年月日:1960年らしい(Susan Pockett)。仮に1960年1月1日生まれとする
  • xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得
  • xxxx年(xx歳):ニュージーランドのオークランド大学(University of Auckland)・非雇用研究員(Honorary Academic)
  • 2019年5月5日(59歳):「2019年のMagnetochemistry」論文を出版
  • 2019年9月4日(59歳):「2019年のMagnetochemistry」論文が撤回

●5.【被害の経緯と内容】

★高周波の危険性

ニュージーランドの心理学者であるスーザン・ポケット(Susan Pockett、写真出典)は、従来から、高周波(ラジオ波、radio frequency emission)が健康に危険だと主張している。
 → 2019年5月14日の「Stuff」記事:Calls for review of 5G technology amid health concerns | Stuff.co.nz

ポケットは、「査読済みの国際的科学論文の約600報が、高周波が不妊症、糖尿病、さまざまな癌、精神障害に関連していることを示している。現在の状況はすでに悪く、その上に5Gを追加すると、高周波が大幅に増加し、状況はさらに悪化する。この害のある高周波に誰もがさらされる」と述べている。

★問題の経緯

2019 年5月5日、スーザン・ポケット(Susan Pockett)は、学術誌「Magnetochemistry」から招待総説の執筆を依頼され、「2019年のMagnetochemistry」論文(本ブログでは、総説を論文と記載する)(以下の書誌情報)を書き、出版された。

  • Conflicts of Interest and Misleading Statements in Official Reports about the Health Consequences of Radiofrequency Radiation and Some New Measurements of Exposure Levels
    Susan Pockett
    Magnetochemistry 2019, 5(2), 31; https://doi.org/10.3390/magnetochemistry5020031

論文の要旨をつまみ食いすると以下のようだ。

政府(西欧過各国)への科学者の報告書は、高周波の人体への害は「触れた部分が熱くなること」だけだという教義を繰り返している。これらの報告書は、国民がさらされる高周波の本当の害から目を背けさせ、国民の懸念を和らげようとしている。本論文では、「触れた部分が熱くなること」だけという妄想の起源を最初に示した。次に、ニュージーランド政府への2018年の報告書を例に、この妄想の裏に、金銭的な利益相反と意図的な誤解があることを明らかにした。最後に、高周波の測定値をオークランド市と他の都市と比較した。結論:西洋世界の政治家は、明白に利益相反がある人からの報告を受け入れず、国民の健康と安全を真剣に考え始めるべきだ。

論文原稿を受け取った段階で、学術誌「Magnetochemistry」・編集者は内容を強化するために、いくつかのデータを追加するよう彼女に依頼した。

それで、スーザン・ポケットは高周波測定器を購入し、オークランド市のバス停周囲の高周波を測定した。

この測定に少なくとも1人の読者(身元不開示)が苦情を申し立て、学術誌に論文の削除を促した(と学術誌が説明した)。

2019 年9月4日、学術誌「Magnetochemistry」は、ポケットの「2019年のMagnetochemistry」論文を撤回した。撤回公告で、「この研究は科学的な貢献を含んでおらず、学術誌「Magnetochemistry」はこの種の「意見」を述べる場ではない」と書いている。
 → 2019 年9月4日の撤回公告:Magnetochemistry | Free Full-Text | Retraction: Conflicts of Interest and Misleading Statements in Official Reports about the Health Consequences of Radiofrequency Radiation and Some New Measurements of Exposure Levels. Magnetochemistry 2019, 5, 31 | HTML、(保存版

学術誌「Magnetochemistry」は、ポケットの主張を知りつつ招待総説の執筆を依頼した。ところが、そのポケットの主張が理由で、総説を撤回したのである。編集者は双極的な行動をした。

学術誌「Magnetochemistry」は、捕食出版社の可能性があるスイスのMDPI社 (Multidisciplinary Digital Publishing Institute)が出版している。

http://wirelessestimator.com/articles/2019/journal-retracts-paper-alleging-rf-dangers-coverup-author-says-big-wireless-made-them-do-it/

★ポケットの説明

ポケットはもちろん、撤回に同意していない。「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように答えている。

私は、論文を投稿するよう突然、招待されました。掲載料を免除するというので、捕食学術誌ではないと判断し、出版された総説の「要旨」と同じ「要旨」を彼らに送りました(公式報告書の金銭的な利益相反と意図的な誤解を指摘した部分を含んでいます)。 その「要旨」に対して、彼らは、自分たちの学術誌にふさわしくないとは言わなかったし、私の総説を出版したいと強く望んでいるように思えました。

ポケットは「ほぼ完成の原稿」を学術誌「Magnetochemistry」に送信した。「ほぼ完成の原稿」は査読され、受理された。

その後のやり取りは以下のようだ。

「ほぼ完成の原稿」は、オークランド市の環境高周波の測定値を加えた方がよいとアドバイスされた。ポケットはこのアドバイスに同意した。というのは、ICNIRPプレイブックには、単なる意見表明の論文は無視されるとあったので、実際の測定値を追加した。

論文は出版され、学術誌のサイトによると、「2019年のMagnetochemistry」論文は約3,000の異なるIPアドレスでダウンロードされた。

そして、「Magnetochemistry」誌は、正体不明の読者からコメントを受け取ったというメールを私に送信してきました。コメントは意見であって科学的ではありませんでした。私の論文では、1平方センチメートルあたりのミリワットを報告しているのですが、この匿名のコメントは、1平方メートルあたりのミリワットを報告したと、高周波レベルに関する数字をひどく誤って引用していました。まったく無意味に思える議論をしていましたまた、書かれている証拠データはインターネットのFacebookのツリ記事から得たものだったのです。

「Magnetochemistry」誌・編集部がこのコメントの内容を真剣に受け止めるなら、著者の名前と所属を付け、適切な科学的測定手法を「Magnetochemistry」誌にコメントとして公開し、私がそれに返事をするという対応を、「Magnetochemistry」誌・編集部に提案しました。しかし、「Magnetochemistry」誌は、その提案に応答してきませんでした。

それから、「Magnetochemistry」誌の別の編集者が、編集長は私の論文をサポートしないこと伝えてきて、私にメールでコメントして欲しいと言ってきました。それで、私はコメントしました。

その後、数週間は何も起こりませんでした。そして、突然、一方的に、学術誌は論文を撤回しました。

科学研究の発表への政財界からの干渉の結果ということは明白だと思います。「学問の自由」の1つ・「研究発表の自由」への侵害です。

この論文の内容に不都合な大組織(政府、規制当局、ビッグワイヤレス社(Big Wireless))のどこかが干渉してきたのです。「Magnetochemistry」誌を出版するMDPI社は、要するに、撤回された論文が問題視したまさにその種の利益相反を自ら犯したようです。

医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors)のガイドラインによれば、「Magnetochemistry」誌の行為は科学の信用を失墜させます。従って、MDPI社はもはや信頼できる学術出版社として扱われるべきではない、と提案します。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

論文総数は調べていない。

★撤回論文データベース

2020年1月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでスーザン・ポケット(Susan Pockett)を「Pockett, Susan」で検索すると、本記事で問題視された「2019年のMagnetochemistry」論文・1論文がヒットし、1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年1月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、スーザン・ポケット(Susan Pockett)の論文のコメントを「Pockett」で検索すると、本記事で問題視された「2019年のMagnetochemistry」論文・1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》学術誌不正の調査 

この事件はヒドイ。

政財界の意向で、学術論文が撤回されるとは、ナンタルことだ。これでは、学問は成り立たない。

この撤回は、「学問の自由」の1つ・「研究発表の自由」への侵害である。

公的機関がMDPI社と学術誌「Magnetochemistry」編集部を調査して、実際にヒドイことをした人を特定し、排除すべきだ。

といっても、このような学術誌の不正を調査し処分する公的機関がないのが実情だ。

《2》白楽の不器用 

この事件で思い出したが、白楽は何度か学術誌とトラブルになっている。

昔のことだが、月刊誌「実験医学」に日本人研究者の事件(日本の主要新聞に実名が出た事件)を解説した原稿を送ったことがある。ところが、その研究者は編集長の知人とのことで、原稿は没になった。強い口調で決して掲載できないと通知された。とてもオドロイタ。今でも理不尽に感じている。なお、月刊誌「実験医学」には大変お世話になっている。

また、これも昔のことだが、未知の研究者から日本薬学会(白楽は非会員)の学術誌に研究ネカトの総説を書いてくださいと依頼されたことがある。白楽の文章を読んで気に入っているとのことだった。完成原稿を送ると、編集長(依頼してきた人とは別の人。編集長に就任したばかりの教授。大学名は忘れた)が原稿にイチャモンを付けてきた。イチャモンの内容を省略するが、基本、私の執筆方針へのイチャモンで、検閲に近い印象を受けた。私の文章を了解している人なら決して言わないイチャモンである。結局、完成原稿は没になった。

他にも数度あるが、結局、出版側と白楽の執筆方針が合わないとも言えるが、「学問の自由」の1つ・「研究発表の自由」への侵害であるとも言える。

政治的な圧力を受けたと感じたこともあった。例えば、お茶の水女子大学・学長が、学内の懇談会の会場で、ワイングラスを片手に近づいてきて、「文科省の偉い人があなたの記事を気に入らないと言ってましたよ」と言われたことがある。

さらに昔である。、白楽は、1995年、文部省在外研究員として米国の研究費配分制度を研究し、在米中に『アメリカの研究費とNIH』(1996年、共立出版、絶版)を執筆した。

image10当時、この本は、文部科学省(当時は文部省)、経済産業省などの研究費配分部局のバイブルと称され、たくさんの官僚が研究室に来訪された。白楽は自民党本部で2回も講演し、政治家にも会った。そして、この本で提案した「プログラムオフィサー」「利益相反」「審査報告書」などがその後、日本の研究費配分制度に導入された。

本が出版されてすぐの学術講演会で、白楽は日本の研究費制度の問題点を話した。もう1人の講演者は、当時、文部科学省の研究費担当の課長(?)だった。講演終了後の帰り際、その研究費担当者から「日本の研究費制度の問題点を指摘するんじゃない! 今後、先生の状況がどうなりますかね」と、恫喝されたことがある。

つまり、出版社を通す書籍や雑誌記事に書く時は、なんだかんだと、編集者・大学・官僚の意向を忖度せざるを得ず、窮屈に感じる。現役時代は、大学教授の身分、研究費の獲得、教え子の発展確保もあり、必ずしも白楽の意見をそのまま記述できなかった。

現在すでに大学を退職し、身分も研究費も考えなくていいのだが、習い性になってしまった。

それで、ここ数年、私がブログでネカトを書き、本や雑誌に書かないのは、自分の執筆方針に合わない記事を書きたくないからである。

本ブログの記事はセンセーショナルに書いていない。それで、一般受けしない。本来は必要な国民・研究者・学部生・院生への伝わり方が弱い。この点は残念である。だからこそ、読んでくださったあなたに「とても」、感謝しています。

ーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●9.【主要情報源】

① 哲学者情報・英語版:Susan Pockett
② 2019年9月9日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘No scientific contribution’: Journal pulls paper alleging radiation coverup – Retraction Watch
③ 2019年9月11日の「Wireless Estimator」記事:Journal retracts paper alleging RF dangers coverup; author says ‘Big Wireless’ made them do it | Wireless Estimator
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します

Subscribe
更新通知を受け取る »
guest
0 コメント
Inline Feedbacks
View all comments