アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)(米)

2018年8月29日掲載

ワンポイント:2018年7月24日、退役軍人局・研究監視室(Office of Research Oversight)は、チャベス=ドーザル(33歳?)がネカトをしたと発表した。チャベス=ドーザルはメキシコで学士号、米国で修士号と研究博士号(PhD)を取得し、2012年(27歳?)、米国のニューメキシコ・退役軍人局・医療制度(New Mexico VA Health Care System)のポスドクになった。2015年12月(30歳?)、ボスのサムエル・リー(Samuel Lee)がネカトを見つけ、告発した(推定)。国民の損害額(推定)は3億3200万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal、写真出典)は、メキシコで学士号、米国で修士号と研究博士号(PhD)を取得し、米国のニューメキシコ・退役軍人局・医療制度(New Mexico VA Health Care System)のポスドクになった。医師ではない。専門は感染症(菌類カンジダの生物学)だった。

2015年12月(30歳?)、ボスのサムエル・リー(Samuel Lee)がチャベス=ドーザルのネカトを見つけ、告発した(推定)。

2018年7月24日(33歳?)、退役軍人局(Department of Veterans Affairs)・研究監視室(Office of Research Oversight)は、チャベス=ドーザルがネカトをしたと発表した。締め出し期間は4年間を科した。

ニューメキシコ・退役軍人局・医療制度(New Mexico VA Health Care System)。写真出典:https://www.albuquerque.va.gov/banners.asp

  • 国:米国
  • 成長国:メキシコ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ニューメキシコ州立大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。メキシコで生まれる。2011年にニューメキシコ州立大学・院生として最初の論文(第1著者)を発表している。この時を26歳とした
  • 現在の年齢:39 歳?
  • 分野:感染症
  • 最初の不正論文発表:2015年(30歳?)
  • 発覚年:2015年(30歳?)
  • 発覚時地位:ニューメキシコ・退役軍人局・医療制度のポスドク
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は研究室のボスのサムエル・リー(Samuel Lee)。退役軍人局・研究監視室に通報
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②退役軍人局・研究監視室が調査
  • 所属機関・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 所属機関の事件への透明性:退役軍人局・研究監視室が実名でウェブ公表(官報に発表)(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:3報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:退役軍人局の研究から 4年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億3200万円。内訳 ↓

  • ①研究者をやめたと仮定し、研究者になるまで5千万円。
  • ②大学・研究機関が研究者にかけた経費(給与・学内研究費・施設費など)は年間4500万円。3年在職x4500万円=1億3500万円。損害額は1億3500万円。
  • ③外部研究費。判明しない。損害額は0円とした。
  • ④調査経費。第一次追及者の調査費用は100万円。ニューメキシコ・退役軍人局・医療制度の調査費用は1件1,200万円、退役軍人局・研究監視室は1件200万円、学術出版局は1件の学術誌あたり100万円が2件なので200万円。小計で1,700万円
  • ⑤裁判経費は2千万円。裁判はなかったので損害額は0円。
  • ⑥論文撤回は1報当たり1,000万円、共著者がいなければ100万円。撤回論文は共著が3報なので損害額は3,000万円。
  • ⑦アカハラ・セクハラではない。損害額は0円。
  • ⑧研究者の時間の無駄と意欲削減+国民の学術界への不信感の増大は1億円。
  • ⑨健康被害:不明なので損害額は0円とした。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。メキシコで生まれる。2011年にニューメキシコ州立大学・院生として最初の論文(第1著者)を発表している。この時を26歳とした
  • 2007年(22歳?)?:メキシコのチワワ自治大学(Autonomous University of Chihuahua)で学士号取得
  • 2009年(24歳?)?:米国のニューメキシコ州立大学(New Mexico State University)で修士号取得:生物学
  • 2012年(27歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:生物学。指導教授はミシェル・ニシグチ教授(Michele Nishiguchi)
  • 2012年(27歳?):米国のニューメキシコ・退役軍人局・医療制度(New Mexico VA Health Care System)・ポスドク。ボスはサムエル・リー(Samuel Lee)
  • 2015年12月(30歳?)?:不正研究が発覚する
  • 2015年12月(30歳?)?:ニューメキシコ・退役軍人局・医療制度を辞職
  • 2016年(31歳?)?:ニューメキシコ州立大学のミシェル・ニシグチ教授(Michele Nishiguchi)・研究室員
  • 2018年7月24日(33歳?):退役軍人局・研究監視室(Office of Research Oversight)がネカトと発表
  • 2018年8月28日(33歳?):院生時代を過ごした米国のニューメキシコ州立大学のミシェル・ニシグチ教授(Michele Nishiguchi)研究室で、「Visiting College Professor」として在籍している(下記写真)
ニシグチ研究室の2017-2018年室員。チャベス=ドーザルは前列右から2人目。https://nishsymbiosislab.com/current-members/

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★不正発覚の経緯

アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)はメキシコで生まれ育ち、メキシコのチワワ自治大学(Autonomous University of Chihuahua)に進み、生物学の学士号を取得した。

その後、米国のニューメキシコ州立大学(New Mexico State University)で修士号取得、2012年(27歳?)、同大学で生物学の研究博士号(PhD)を取得した。指導教授は日系米国人(?)のミシェル・ニシグチ教授(Michele Nishiguchi)である。

ミシェル・ニシグチ教授(Michele Nishiguchi)。http://nishsymbiosislab.com/wp-content/uploads/2017/07/Nishiguchi-on-inspiring-students.jpg
サムエル・リー(Samuel Lee)。https://www.doximity.com/pub/samuel-lee-md-1b05

2012年(27歳?)、米国のニューメキシコ・退役軍人局・医療制度(New Mexico VA Health Care System)の感染症部門のポスドクになり、菌類のカンジダの生物学を研究した。ボスはサムエル・リー(Samuel Lee)である。

ネカトと指摘された論文は、次項に示すが、2015年出版の2論文、2016年出版の1論文、それに研究室内での2回の発表である。

「研究室内での2回の発表」でのネカトが指摘されているので、同じ研究室の人がネカトを見つけたハズだ。ボスのサムエル・リー(Samuel Lee)が見つけたと思える。それで、サムエル・リー(Samuel Lee)を第一追及者とする。

最新のネカト論文は2016年1月の電子版で発表された「2016年のCurr Genet(2016)62:911」論文である。一方、2015年の2報は2015年12月に撤回された。この時間軸で考えると、ネカトの発覚は2015年12月で、直ぐに撤回の手続きをし、他方、「2016年のCurr Genet(2016)62:911」論文は原稿取り下げ処理が間に合わず、2016年1月に出版されたということだろう。

アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)http://nishsymbiosislab.com/congratulations-to-alba-chavez-for-receiving-a-broadening-participation-award/

★退役軍人局・研究監視室のネカト発表

2018年7月24日(33歳?)、退役軍人局・研究監視室(Office of Research Oversight)は、アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)が、2015年出版の2論文、2016年出版の1論文、それに研究室内での2回の発表でねつ造・改ざんしたと発表した。処分として、退役軍人局での研究を4年間禁止とした。

(1)研究室内での2回の発表で酵母のEND3突然変異株の生成および特徴付けのデータをねつ造した。
(2)「2015年のEukaryot Cell(2015)14:1228-39」論文のサザンブロット像(図1A)をねつ造した。論文は撤回された。
(3)「2015年のEukaryot Cell(2015)14:1228-39」論文の図6Aは、「2015年のEukaryot Cell (2015) 14:684-97」論文の図9Aと同じである。つまり、同一のタンパク質ゲルを用いて2つの異なる実験データとした改ざんである。後者の論文も撤回された。
(4)「2015年のEukaryot Cell (2015) 14:684-97」論文の図4A(液胞の特徴付け)、図6(細胞増殖)、図9B(リパーゼ分泌)は、報告された条件と異なる条件でなされたデータなので、改ざんである。
(5)「2015年のEukaryot Cell(2015)14:1228-39」論文の図7、図8、図9の顕微鏡画像は報告された条件と異なる条件でなされたデータなので、改ざんである。
(6)「2016年のCurr Genet(2016)62:911」論文は、上記の改ざん画像を再掲した。論文は撤回された。

★「2015年のEukaryot Cell(2015)14:1228-39」論文

上記(2)で指摘されたように、退役軍人局・研究監視室はサザンブロット像(図1A)をねつ造したと指摘した。図1Aを原典からコピペすると以下のようだ。どのバンドをねつ造したのか、白楽はわからなかった。

上記(3)で指摘されたように、さらに、退役軍人局・研究監視室は、図6Aは、その画像の下に示す別の論文の画像(「2015年のEukaryot Cell (2015) 14:684-97」論文の図9A)を再利用したとされた。

最初に図6Aを示し、その下に他論文の図9Aを示す。条件が異なるのに、同一の画像を使用している。ねつ造である。

★「2015年のEukaryot Cell (2015) 14:684-97」論文

上記(4)で指摘されたように、退役軍人局・研究監視室は、図4A(液胞の特徴付け)、図6(細胞増殖)、図9B(リパーゼ分泌)は、報告された条件と異なる条件でなされたデータである。改ざんである。

図4A(液胞の特徴付け)、図6(細胞増殖)、図9B(リパーゼ分泌)を順に画像を並べた。画像自身のねつ造・改ざんではなく、条件の改ざんなので、画像を見ていても、改ざん部分はわからない。

ただ、電気泳動バンドだけでなく、細胞像やグラフまでいろいろねつ造・改ざんしたことがわかる。

図4A(液胞の特徴付け)

図6(細胞増殖)

図9B(リパーゼ分泌)

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年8月28日現在、パブメド(PubMed)で、アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)の論文を「Alba Chavez-Dozal [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2016年の6年間の16論文がヒットした。

「Chavez-Dozal A[Author]」で検索しても上記と同じ結果になった。

16論文の内、最初の3報を含めた6報は、院生として過ごしたニューメキシコ州立大学の指導教授・ミシェル・ニシグチ(Michele Nishiguchi)が最後著者である。

結婚する前の名前は「Alba Chavez」と推察して、「Alba Chavez[Author]」でも検索した。2013年の1論文がヒットした。この論文は上記リストに含まれていない。

2018年8月28日現在、「Alba Chavez-Dozal [Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

  1. The exocyst in Candida albicans polarized secretion and filamentation.
    Chavez-Dozal AA, Bernardo SM, Lee SA.
    Curr Genet. 2016 May;62(2):343-6. doi: 10.1007/s00294-015-0553-3. Epub 2016 Jan 13. Review. Retraction in: Curr Genet. 2016 Oct 3.
  2. Functional Analysis of the Exocyst Subunit Sec15 in Candida albicans.
    Chavez-Dozal AA, Bernardo SM, Rane HS, Lee SA.
    Eukaryot Cell. 2015 Dec;14(12):1228-39. doi: 10.1128/EC.00147-15. Epub 2015 Oct 9. Retraction in: Chavez-Dozal AA, Bernardo SM, Rane HS, Lee SA. Eukaryot Cell. 2015 Dec;14(12).
  3. The Candida albicans Exocyst Subunit Sec6 Contributes to Cell Wall Integrity and Is a Determinant of Hyphal Branching.
    Chavez-Dozal AA, Bernardo SM, Rane HS, Herrera G, Kulkarny V, Wagener J, Cunningham I, Brand AC, Gow NA, Lee SA.
    Eukaryot Cell. 2015 Jul;14(7):684-97. doi: 10.1128/EC.00028-15. Epub 2015 May 22. Retraction in: Chavez-Dozal AA, Bernardo SM, Rane HS, Herrera G, Kulkarny V, Wagener J, Cunningham I, Brand AC, Gow NA, Lee SA. Eukaryot Cell. 2015 Dec;14(12).

★パブピア(PubPeer)

2018年8月28日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)の論文のコメントはない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》モッタイナイ

アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)は、メキシコから米国に渡り、研究博士号(PhD)を取得し、ポスドクになった。6年間に16報も論文を発表し、とても優秀である。

それが、30歳前後でネカトで有罪となった。多分、研究者を廃業せざるを得ないと思う。モッタイナイ、というのが白楽の最初で大きな感想である。

アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)。Alba Chavez, a doctoral student in the biology department at New Mexico State University, poses for a photo near the Sydney Opera House. Chavez flew to Australia recently where she researched vibrio bacteria. (Courtesy photo) JAN12/2012。https://newscenter.nmsu.edu/Articles/view/8358

《2》大学院・研究初期

大学院・研究初期で、研究のあり方を習得するときに、研究規範を習得させるべきだった。

アルバ・チャベス=ドーザル(Alba Chavez-Dozal)の場合、人生最初の論文を発表し、研究博士号(PhD)を取得した米国のニューメキシコ州立大学(New Mexico State University)の指導教員・ミシェル・ニシグチ教授(Michele Nishiguchi)が規範をしっかり躾けていれば、「研究上の不正行為」をしない研究人生を過ごせたかもしれない。

法則:「ネカト癖は院生時代に形成されることが多い」。

それとも、大学学部時代を過ごしたメキシコで、ズルして生きる人生処方術を身に着けてしまっただろうか?

《3》院生時代の論文

ポスドクでネカトがあった場合、それ以前のニューメキシコ州立大学(New Mexico State University)の院生時代に発表した論文にもネカトがあると考えた方が妥当である。

院生時代の研究で6論文を発表しているが、これらにネカトはないのだろうか?

現状では、ニューメキシコ州立大学が調査に踏み出すとは思えない。所属機関・大学にネカト調査を任せる現在のシステムの欠陥である。

提案:「FBIがネカトを捜査せよ」

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●8.【主要情報源】

① 2018年7月24日、退役軍人局の報告:Federal Register :: Findings of Research Misconduct、(保存版)
② 2018年7月24日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former VA postdoc committed misconduct, banned from agency research for four years – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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