7-66 米国の2020年採択ネカト研究

2020年11月16日掲載 

白楽の意図:米国のネカト研究の現状を知るために、研究公正局が2020年10月1日に発表した「研究公正の研究」に関する採択研究課題3件を概観した。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】Home

省略

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:ORI Awards Six Research Integrity Grants
    日本語訳:研究公正局は6件の研究公正グラントを授与した
  • 著者:Office of Research Integrity (ORI)
  • 掲載誌・巻・ページ:ORI Blog
  • 発行年月日:2020年10月1日
  • 引用方法:
  • DOI:
  • ウェブ:https://ori.hhs.gov/blog/ori-awards-six-research-integrity-grants
  • PDF:

★著者

各課題の内容は申請者が著者と思われる。

●4.【論文内容】

《1》序論 

2020年2月18日、米国・研究公正局(ORI)が研究公募をした。
2020 年6月5日、政府のグラントサイトで公表 → View Opportunity | GRANTS.GOV
2020年9月11日、米国・研究公正局(ORI)は2020年2月18日版を更新 → ORI Releases 3 Funding Opportunity Announcement Forecasts | ORI – The Office of Research Integrity

ネカト研究プログラムは、ネカト行為の原因を理解する、または、研究公正の促進と研究ネカト防止の実証研究に最大150,000ドル(直接および間接資金)を助成する。

研究費額の上限:1件につき15万ドル(約1500万円)
応募締め切り:2020年5月28日
研究開始日: 2020年9月15日
採択予定数:8件

2020年10月1日、米国・研究公正局(ORI)は、研究公正の研究に関する3件のグラントを採択したと発表した。

本記事では、「研究公正の研究」に採択された以下の3件の概略を探る。

《2》クリストファー・ジョーンズ(Christopher W. Jones) 

「COVID-19研究報告でのバイアスをプレプリント論文と査読済み論文で比較(Biased COVID-19 Study Reporting in Preprints Versus Peer Reviewed Publications)」
クリストファー・ジョーンズ(Christopher W. Jones, MD、写真出典
クーパー大学病院(Cooper University Hospital)の救急医学・準教授

過去3年間(2018年以降)の採択研究費:なし
過去3年間(2018年以降)の出版論文(パブメド(PubMed)検索):19報

研究計画

コロナウイルス病(COVID-19)のパンデミックは、生物医学研究者に複数の治療法と予防法を迅速にテストする大規模な取り組み促した。臨床研究の結果をできるだけ早く、他の研究者、政策立案者、医療提供者に伝えるために、多くの研究者は、査読が必要な学術誌への論文投稿をしないで、研究結果をプレプリントとして公開することを選択した。

プレプリントは査読を受けないため、研究結果の公開を大幅にスピードアップできる。これは、COVID-19などの新しい病原体が引き起こすパンデミックの初期には特に重要である。

ただし、このスピードアップは、配布される情報が信頼できる場合にのみ有益である。査読なしで臨床研究結果を公に共有することで、間違った研究成果が医療界に流布される可能性がある。このリスクの大きさは今まで十分研究されていない。

本研究は、COVID-19の臨床研究のプレプリントを横断的に分析し、これらの問題点の解決法を探る。臨床研究のプレプリントが急速に拡大しているが、その中に欠陥論文が含まれていることの理解を深める。

今後、パンデミックの初期段階で迅速かつ正確な臨床研究結果の普及を確実にする重要な知識を医療界に提供する。

《3》エリン・ロスウェル(Erin Rothwell) 

「責任ある研究実施の研修における対象集中教育と道徳義務の役割(The Roles of Targeted Education and Moral Responsibility for Responsible Conduct of Research Training)」
エリン・ロスウェル(Erin Rothwell, PhD, MS.、写真出典
ユタ大学(University of Utah)・研究公正・副学長補佐(Associate Vice President, Research Integrity and Compliance)、準教授:医療倫理学(Associate Professor in the College of Nursing and the Division of Medical Ethics and Humanities at the University of Utah)

過去3年間(2018年以降)の採択研究費:1件: NIH 2018, R01: HDThe Effect of Electronic Informed Consent Information (EICI) on Residual Newborn Specimen Research – Erin Rothwell
過去3年間(2018年以降)の出版論文(パブメド(PubMed)検索):14報。内、ネカト研究論文は0報

研究計画:

研究環境が研究チームの倫理行動に影響するというデータが増えている。このデータは、研究クログレイ(questionable research practices:QRP)行為に関するデータだが、研究ネカト(ねつ造、改ざん、盗用)よりも広範で、より一般的な研究クログレイは、研究公正に広範な害をもたらしていることに注意すべきである。

「責任ある研究実施(responsible conduct of research:RCR)」教育は、研究全体を通じて訓練することで成り立つ。ただし、「責任ある研究実施」訓練に必要なもの、そして、それをどのように提供するか、およびその有効性については、コンセンサスがない。 「責任ある研究実施」訓練の内容、提供方法、および結果に関して大きな振れがあるので、大学はどのように研究倫理教育をすれば良いのか戸惑っている。 「責任ある研究実施」訓練は一般的には教室で行なわれるが、オンラインコースや非公式の面談方式もある。

最近のデータによると、研究環境に対処し、適切な研究活動の中で「責任ある研究実施」訓練をすることが有効だと示唆されている。さらに、「責任ある研究実施」教育方法にはさまざまな概念モデルがある。

一部の学者は、道徳の強化が研究倫理向上に効果的だと主張している。「責任ある研究実施」を促進し研究クログレイを減らすためのこれら2つの異なるアプローチの効果は不明である。

本研究では、1)研究チーム内の「責任ある研究実施」教育が従来の教室形式とどう異なるのか、2)道徳教育と「責任ある研究実施」教育を比較する。

《4》セルジオ・リテフカ(Sergio Litewka) 

「研究公正に関するラテンアメリカの規則の目録作成と分析(Inventory and Analyses of Latin American Policies on Research Integrity)」
セルジオ・リテフカ(Sergio G. Litewka, MD, MPH、写真出典
マイアミ大学医科大学院(University of Miami School of Medicine)、外科・準教授

過去3年間(2018年以降)の採択研究費:なし
過去3年間(2018年以降)の出版論文(パブメド(PubMed)検索):2報。内、ネカト研究論文は0報

研究計画:

このプロジェクトは、ラテンアメリカ、特に米国連邦研究資金を受け取っているスペイン語圏の国々を対象とする。それらの国々の生物医学研究の研究公正を保持および促進する政府および大学の規則を特定し、評価し、その規則を米国の規則と比較する。

このプロジェクトで行なう具体的研究は以下の3点である。1)アルゼンチン、コロンビア、コスタリカ、メキシコ、ペルーでの研究公正を促進し、ネカト行為を防止・管理するための規則の目録を作成し、これらの資料のオンラインリポジトリを作成する。 2)これらの規則を米国の規則と比較する。 3)かつて研究公正局の資金の助成を受けたラテンアメリカの学術研究者、教育者、および管理者の学際的なネットワークを構築し、彼らの所属する大学でのネカト行為と研究クログレイに関する懸念を特定し、これらの規則と問題を米国と比較する。

●6.【白楽の感想】

《1》研究計画がわかりにくい 

研究費申請書の研究計画がわかりにくい。この問題は日本も同じだと思うが、困ったもんだ。

本記事では、憶測を加えて書いた、間違えているかもしれない。

研究費申請書は、基本的に、①重要だと訴えることで採択を狙う、しかし、②採択されたら、後で、計画通り進んでいないと非難されたくない。それで、意図して過大に書き、同時に意図して曖昧に書く。だから、わかりにくい。

《2》ガッカリ 

米国の2020年ネカト研究の採択者3人の力量は、2019年よりもベターと感じるが、依然として米国の人材がとても貧弱だと感じた。正直、ガッカリである。

基本的な不満は、副業的にネカト研究をしている人しかいないということだ。本業としては生命科学研究をしているが、そのついでのネカトに関心があり、それなりにネカトについても調べたので研究費ももらおう、という副業研究だ。だから本気度に欠ける。

そもそも、ネカト防止界で活躍している人たちは誰も出てきていない。

2020年ネカト研究の採択者3人の採択課題と人では、ネカト防止に有効な施策を打ち出せないだろう。ケチつけるつもりはないのだが、正直、ガッカリである。

もっと、ネカト防止に有効な人・組織に国民の金を配布すべきだと思う。多分、申請書の審査員も同じ感想を抱いていると思う。つまり、ハッキリ言って、米国の人材はとても貧弱だ。

では、日本はどうなのかというと、失礼ながら、米国よりさらに悪い。日本医療研究開発機構(AMED)の「研究公正高度化モデル開発支援事業」に採択された課題では、盗用者までいた。 → 白楽ブログの被盗用事件 | 白楽の研究者倫理

どうしてか?

ハッキリしている。

人材育成してこなかったからだ。そして今でも育成していない。

人材育成では、米国は日本より少しマシで、日本はほぼゼロに近い。国・大学が無策の中でごく一部の研究者と一般人が「研究公正の研究」に自発的に取り組んできただけだ。今も大学院レベルの組織を設置していない。大学院コースを今作っても、育つのに10年はかかるだろうから、今後、少なくとも10年は期待できない。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●8.【コメント】

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