企業:真菌性髄膜炎(fungal meningitis):ニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)(米)

2017年9月3日掲載。

ワンポイント:【長文注意】。2012年9月、米国で真菌性髄膜炎の患者が大量発生した。この病気は感染症ではない。ヴァンダービルト大学のエイプリル・ペティット医師(April Pettit)が、ステロイド剤の汚染だと突き止めた。アメリカ疾病管理予防センター(CDC)が調査に乗り出し、原因は、ステロイド剤を製造出荷していたマサチューセッツ州のニューイングランド調剤センター社のズサンな衛生管理だった。結局、米国の20州の753人が真菌性髄膜炎に罹患し、76人が死亡した。会社は倒産し、バリー・カデン社長(Barry Cadden)を含め14人の社員が逮捕された。2017年6月26日、バリー・カデン社長(50歳)に9年の刑務所刑が科されたが、2017年9月2日現在、賠償金額は確定しておらず、他の13人の裁判は終わっていない。汚染医薬品による健康被害では米国史上最悪の事件である。日本に被害者はいない。損害額の総額(推定)は951億5千万円(当てずっぽう)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

ニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)、https://www.bostonglobe.com/metro/2013/12/23/meningitis/E97yWKhnC2LyIHRek4KjKJ/story.html

2012年8月下旬から、米国の特定の州で真菌性髄膜炎の患者が発生し、患者が急速に増加した。

2012年9月初旬、アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は各州健康局や食品医薬品局(FDA)の協力を得て、直ちに調査を開始した。

2012年9月中旬、テネシー州のヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)の感染症専門医・エイプリル・ペティット医師(April Pettit)が、髄膜炎の患者の発病原因を脊椎にステロイド注射をしたためと判定し、最初の「発端患者(index case)」を見つけた。

2012年9月下旬、アメリカ疾病管理予防センターは、米国・マサチューセッツ州フラミンガム(Framingham, Massachusetts)のニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)が、ステロイド剤の酢酸メチルプレドニゾロン(methylprednisolone acetate、写真出典)に真菌(つまり、カビ)を混入させたことを突き止めた。

この汚染薬品を注射された患者が真菌性髄膜炎(fungal meningitis)を引き起こしたのである。

原因を突き止め、配送先に通知、製品を回収、工場を閉鎖、事態は収拾したが、結局、米国の20州(23州?)の753人(778人、800人以上の記載もある)が真菌性髄膜炎に罹患し、76人が死亡した。

汚染医薬品による健康被害が大量発生してケースでは米国史上最大の事件になった。

バリー・カデン社長(Barry Cadden)を含め14人の社員が逮捕され、裁判にかけられた。

2017年6月26日、バリー・カデン社長(50歳)に9年の刑務所刑が科された。

2017年8月26日、検察はバリー・カデン社長に1320万ドル(約13億2千万円)の賠償金を提示したが、2017年9月2日現在、賠償金額は確定していない。

なお、本事件は論文や臨床試験の研究データねつ造・改ざん事件ではない。調剤過程のズボラな製品管理(研究クログレイ)が主な原因なので、事件種を「ズサン」とした。他に、書類の改ざんなども見つかっている。

ニューイングランド調剤センター社事件は、「全期間ランキング」の「歴史上の10大医学スキャンダル:2013年2月20日」の第5位である。

米国・マサチューセッツ州フラミンガム(Framingham, Massachusetts)のニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)。写真出典

  • 国:米国
  • 集団名:ニューイングランド調剤センター社
  • 集団名(英語):New England Compounding Center
  • 集団の概要:1998年、バリー・J・カデンと妻・リサ・カデンの兄・グレゴリー・コニグリアロ(Gregory Conigliaro)が設立した。
  • 日本法人:なし
  • 事件の首謀者:バリー・カデン社長を含め14人の社員
  • 分野:調剤
  • 不正年:2012年
  • 発覚年:2012年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)の感染症専門医・エイプリル・ペティット医師(April Pettit)
  • ステップ2(メディア): 「New York Times」など多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①アメリカ疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)。②各州健康局。③米国・食品医薬品局(FDA)。④裁判所。
  • 調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正: ズサン
  • 不正論文数:0報。論文データのねつ造・改ざんではない
  • 被害(者):753人(778人、800人以上の記載もある)が真菌性髄膜炎に罹患し、76人が死亡した。
  • 損害額:総額(推定)は951億5千万円。内訳 → ①汚染薬品を注射され亡くなった76人の人生破滅代を1人10億円(当てづっぽう)=760億円。800人の健康被害者に1人平均500万円の損害賠償として40億円(当てづっぽう)。計800億円。なお、ミシガン州の生存患者への示談金が1人平均350万円+全米の生存患者への示談金100億円の一部である。また、バリー・J・カデン社長に13億2千万円の賠償金を科すことが検討されている。②米国の医薬品監督体系の信用失墜と対策に10億円(当てづっぽう)。③裁判経費を1億円。④調査経費(アメリカ疾病管理予防センター、各州健康局、米国・食品医薬品局)が5千万円。⑤カデン社長と逮捕された社員13人とその家族の人生破滅代を1人10億円(当てづっぽう)とし14人x10億円=140億円
  • 結末:バリー・カデン社長に9年の刑務所刑、賠償金額は今後確定。他に社員13人も逮捕され、刑罰は今後確定

●2.【日本語の解説】

日本語の解説は多数ある。

★2012年10月10日:CNN日本版サイト:「米髄膜炎感染、死者12人に 原因の薬は1万3000人に注射か」

出典 → ココ 、(保存版

米国で続発している非伝染性の真菌性髄膜炎による死者は10日までに12人、発症者は120人に上ったことが分かった。米疾病対策センター(CDC)によると、感染源とされる薬の注射を受けた患者は全米で1万3000人に上る可能性があるという。

CDCによると、感染源はマサチューセッツ州を本拠とする医薬品会社、ニューイングランド調剤センター(NECC)が製造した酢酸メチルプレドニゾロン薬で、5月21日~9月24日に1万3000人が同薬の注射を受けた可能性がある。同薬は米国内23州の医療機関75カ所に提供された。

汚染薬で感染した患者が発症するのは、注射の1~3週間後とされる。フロリダ州で死亡した男性は、薬の汚染が明らかになる前に発症した。米食品医薬品局(FDA)や各州当局の追跡調査が進むにつれ、患者数は今後さらに増える可能性がある。

★2012年10月19日:AFP:「米国で拡大の髄膜炎、汚染薬剤から原因菌を確認 米当局」

出典 → ココ 、(保存版

米食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)は18日、米国で拡大している真菌性髄膜炎との関連が疑われていた薬剤に、髄膜炎の原因菌が混入していたことを確認したと発表した。  

米疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)の最新の発表によれば、汚染ステロイド剤の注射が原因とされる髄膜炎を発症した人は254人になり、うち20人が死亡した。この他に3人が関節炎を発症した。

製剤会社ニューイングランド調剤センター(New England Compounding Center、NECC)が製造した未開封の薬剤からは既に真菌類が検出されていたが、時間を掛けた検査の結果、髄膜炎の原因菌「エクセロヒルム・ロストラツム(Exserohilum rostratum)」であると確認されたという。

感染拡大を受け、米国では調剤業者に対する規制強化を求める声が高まっている。中には、製薬会社が自社を「調剤業者」として届け出ることによって、当局による厳しい監視やコストを回避しているとの批判的な指摘もある。患者に合わせた薬剤の調合をする調剤業者は、製薬会社よりも緩い規制が設けられている。  NECCは真菌性髄膜炎の拡大を受け営業を停止し、自社の全製品をリコール(自主回収)した。この問題の立件に乗り出した米検察当局は16日、NECCの施設を捜索した。(c)AFP

●3.【事件の経過と内容】

【ニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)】

1990年、コニグリアロ(Conigliaro)兄弟がリサイクル会社を創業した。カリスマ的な起業家であるグレゴリー・コニグリアロ(Gregory Conigliaro)と5歳上の兄で麻酔医のダグラス・コニグリアロ(Douglas Conigliaro)兄弟である。

1990年、後にニューイングランド調剤センター社の社長になるバリー・J・カデン(Barry J. Cadden、写真出典)は、ロードアイランド州立大学薬学部(University of Rhode Island’s College of Pharmacy)を卒業し、薬剤師の資格を得た。

バリー・J・カデンは、大学時代に知り合った、コニグリアロ一家の娘・リサ・コニグリアロ(Lisa Conigliaro)と結婚した。

1998年、バリー・J・カデンと妻・リサの兄・グレゴリー・コニグリアロ(Gregory Conigliaro)は、共同で、ニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center:NECC)を設立した。

つまり、コニグリアロ一家はリサイクル会社だけでなく、医薬品の調剤会社も設立したのである。

ニューイングランド調剤センター社は、米国・マサチューセッツ州フラミンガム(Framingham, Massachusetts)に本拠を置く複合薬局で、表向きは、薬剤師のバリー・J・カデンと同じく薬剤師で彼の妻・リサ・カデン(Lisa Cadden)、リサ・カデンの兄・グレゴリー・コニグリアロ(Gregory Conigliaro)の家族経営の事業だった。

ただ、マサチューセッツ州の記録によれば、ニューイングランド調剤センター社の株の65%はグレゴリーの5歳上の兄・ダグラス・コニグリアロ(Douglas Conigliaro)の妻・カーラ・コニグリアロ(Carla Conigliaro)が持っていた。実質的な経営者はダグラス・コニグリアロとその妻・カーラである。

ダグラス・コニグリアロ(Douglas Conigliaro)と妻・カーラ・コニグリアロ(Carla Conigliaro)。http://herald242.rssing.com/chan-7985432/all_p497.html

ダグラス・コニグリアロ(Douglas Conigliaro)は麻酔医で、ニューイングランド調剤センター社の役員ではない。しかし、ニューイングランド調剤センター社の社員の話では、ダグラス・コニグリアロが会社のすべての方針を握っていたとのことである。

ニューイングランド調剤センター社は、医療システムの変化にうまく乗れたこともあって、設立してから10年ほどで、全国の病院、診療所、医院へオーダーメイド薬を供給する主要な会社に成長した。

これらの事業で大儲けをし、コニグリアロ兄弟は大きな財産を築いた。

2005年、バリー・J・カデンと彼の妻・リサは、マサチューセッツ州レンタム(Wrentham)に13室もある180万ドル(約1億8千万円)の邸宅を購入した(上の写真、出典)。

2010年、グレゴリー・コニグリアロと彼の妻・シンシア(Cynthia)は、サウスボロに350万ドル(約3億5千万円)の豪邸を購入した。さらに、2012年、235万ドル(約2億3500万円)の別荘をケープコッドに購入した。

2012年4月、ダグラス・コニグリアロと彼の妻・カーラは、420万ドル(約4億2千万円)の豪邸を購入した。ポルシェ911とメルセデスベンツSクラスも自動車を持っていて、フロリダ州に2軒、マサチューセッツ州デダム(Dedham)に2軒の家を所有している大富豪である。

【真菌性髄膜炎(fungal meningitis)】

真菌性髄膜炎( fungal meningitis )とは深在性真菌症の1つとして起こる疾患である。

真菌性髄膜炎の症状は他の髄膜炎と同様であり頭痛、発熱、項部硬直、嘔吐、意識障害などである。クリプトコッカス性髄膜炎では2~3週間ないし6ヶ月の経過で亜急性に進行することが多い。アスペルギルス性髄膜炎、カンジダ性髄膜炎は患者の免疫状態にも関係しているが急性、亜急性、慢性と様々な発想経過をとる。

1979年から1989年に日本で報告された真菌の中枢神経感染症129例の内訳はクリプトコッカス髄膜炎116例、カンジダ髄膜炎6例、アスペルギルス髄膜脳炎7例でありクリプトコッカス髄膜炎が真菌性髄膜炎の約90%をしめる。(真菌性髄膜炎 – Wikipedia

ニューイングランド調剤センター社事件で発見された真菌「エクセロヒルム・ロストラツム(Exserohilum rostratum)、写真出典」が、真菌性髄膜炎の原因菌になるのは珍しい。

真菌「エクセロヒルム・ロストラツム(Exserohilum rostratum)」

米国で発生した汚染されたメチルプレドニゾロン酢酸エステル注射が原因の真菌感染症集団発生の患者について詳細が報告された。末梢関節感染が認められない人のうち、中枢神経系感染症は81%であり、また、E. rostratum(エクセロヒルム・ロストラツム)が検出されたのは36%だったことなどが明らかにされた。

米国疾病管理予防センター(CDC)のTom M. Chiller氏らが、症例数が最も多かった6州の患者の診療記録を調査し明らかにしたもので、NEJM誌2013年10月24日号で発表した。なお、主な集団発生関連病原体のE. rostratumが原因の感染症については、その詳細はあまり明らかになっていないのが現状だという。(汚染メチルプレドニゾロン注射による真菌感染症、詳細が明らかに/NEJM|医師・医療従事者向け医学情報・医療ニュースならケアネット

『発熱』+『頭痛』+『意識障害』が三徴だが、すべてが揃うことは全体の2/3以下. 『項部硬直』は全体の7割程度に認めるが、高齢者や乳幼児では確認が難しい. 細菌性髄膜炎の場合、治療開始の遅れは患者の予後に大きな影響を与える(30分を争う内科救急疾患)。出典http://slidesplayer.net/slide/11308713/

【事件の経過】

★発端患者(index case)

2012年10月2日のデニス・グラディ(Denise Grady)記者の「New York Times」記事から事件の発端を探ろう。
→ Meningitis Cases Are Linked to Steroid Injections – The New York Times

2012年9月、テネシー州のヴァンダービルト大学(Vanderbilt University)の感染症専門医・エイプリル・ペティット医師(April Pettit、写真出典)は、彼女の患者(男性)が気になっていた。

患者は2週間前から髄膜炎を患っていたが、理由を理解できなかった。 通常の治療法である抗生物質は役に立たなかったし、通常の原因である細菌も見つからなかった。

2012年9月18日の朝、ペティット医師と同僚が患者を診察し、患者の家族と話していると、携帯電話が鳴った。病院のラボからの連絡で、ようやく答えが見つかった。しかし、困惑するような答えだった。

「患者の脊髄液の培養物から真菌アスペルギルスが見つかりました」。

ペティット医師の患者の例ではない。多くの患者の脊髄液の培養から見つかった真菌「エクセロヒルム・ロストラツム(Exserohilum rostratum)」。写真:60 Minutes。写真出典

患者とはコミュニケーションが取れなくなっていたので、家族と話をした。

「健康な人が髄膜炎になるのは非常に珍しいことなのです。どのようにしてこの感染症にかかったのか理解したいのですが、彼が病気になる数週間前に何か特別なことをしましたか?」と彼女は質問した。

http://michiganradio.org/post/hundreds-fungal-meningitis-patients-reach-105-million-settlement-pain-clinic

家族は「背中の痛みを和らげるために脊髄の部分にステロイド剤を注射をしてもらいました」と答えた。

その答えを聞いて、ペティット医師の頭の中の警報機が鳴りだした。

髄膜炎は人から人へと感染することはない。ペティット医師は、ステロイド薬が真菌に汚染されていると疑った。

背中の痛みを和らげるためのステロイド注射は一般的な治療であり、毎年、米国の何百万人もの人々が注射されている。

ペティット医師は州保健局に電話した。

ペティット医師は、脊椎にステロイド注射をしたために真菌性髄膜炎になった753人の患者の最初の「発端患者(index case)」を見つけた医師と評価されている。

ペティット医師はこの業績で州保健局のマリオン・カイナー医師(Marion Kainer)と一緒に「2012年のテネシー州栄誉賞(2012 Tennesseeans of the Year)」を受賞した。

★真菌性髄膜炎の大発生

2012年8月下旬から、真菌性髄膜炎の患者が報告されたが、真菌性髄膜炎は珍しい病気で、しかも感染の原因が汚染医薬品という死角だったので、臨床医は2012年9月下旬まで、状況がつかめなかった。

前述したように、ヴァンダービルト大学のエイプリル・ペティット医師(April Pettit)が最初の「発端患者(index case)」を見つけ、事態収拾のめどがついた。

結局、2012年5月12日~2012年9月24日にニューイングランド調剤センター社(NECC)が製造した3つのロットの酢酸メチルプレドニゾロン薬が汚染されていた。

http://www.wcvb.com/article/ex-tech-for-meningitis-linked-pharmacy-necc-got-greedy-1/8178749

当局の調査官は、ニューイングランド調剤センター社に、汚れたマットや食品、漏れやすいボイラー、薬瓶に浮遊する暗い破片、一部の製品を適切に殺菌できていない証拠を見つけた。さらに驚いたことに、クリーンルームに昆虫やネズミの形跡も見つけた。

https://www.consumeraffairs.com/meningitis-outbreaks

2012年10月9日、ニューイングランド調剤センター社は酢酸メチルプレドニゾロン薬を米国内の23州の75か所の医療機関に出荷していた。アメリカ疾病管理予防センターは、酢酸メチルプレドニゾロン薬を注射された患者は約1万4000人に及ぶと査定した。

2012年10月12日、アメリカ疾病管理予防センターは、真菌性髄膜炎の患者は23歳~91歳で、平均年齢は68歳だったと発表した。69%は女性で、症状は81%が頭痛、34%が発熱、30%が吐き気、10%が光恐怖症だった。

感染とその発生源が特定されても、しかし、真菌性髄膜炎はまれな疾患のため、ほとんどの臨床医は治療法を知らなかった。

アメリカ疾病管理予防センターは、推奨される治療ガイドラインを作成するための専門家会議を招集した。

2012年10月23日、アメリカ疾病管理予防センターは、「ステロイド製剤による硬膜外麻酔または傍脊髄内注射を受けた無症候性患者の管理に関する公式保健指導(CDC HAN: Issuance of Guidance on Management of Asymptomatic Patients Who Received Epidural or Paraspinal Injections with Contaminated Steroid Products)」を発表した。

https://www.bostonglobe.com/metro/2017/03/13/jury-set-deliberate-trial-new-england-compounding-center-pharmacist/NWDhmgNpodDlixMIb0KsPL/story.html

2012年10月、マサチューセッツ州医薬理事会はニューイングランド調剤センター社の閉鎖を命じた。

2012年11月15日、アメリカ疾病管理予防センターは、患者85人の84人に真菌「エクセロヒルム・ロストラツム(Exserohilum rostratum)」が、1人に「アスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)」が見つかったと発表した。

2012年12月21日、ニューイングランド調剤センター社は破産申請を行なった。債務は約234万ドル(約2億3400万円)だった。 倒産後、ロイターの財務調査で、2012年にはトップ・エグゼクティブとプライベート・エクイティ投資家に2200万ドル(約22億3000万円)を超える支払いをしていたことが明らかになった。これは不正な資産隠しと思われる。

★非衛生な環境

ニューイングランド調剤センター社と同じ敷地にコニグリアロ(Conigliaro)兄弟が創業したリサイクル会社もあった。その場所はゴミためのように汚い(下の写真)。
→  Sterility Found Lacking at Drug Site in Meningitis Outbreak – The New York Times

http://www.jewishworldreview.com/0415/Killer_Pharmacy.php3

さらに、ネズミがあちこちはいずりまわっていた。

http://framinghammatters.blogspot.jp/2014/04/

★個々の患者の健康被害:動画

【動画】
事件ニュース:「NECC犠牲者:薬薬剤師たちが私のクオリティ・オブ・ライフを奪った(NECC Victim: Pharmacists ‘Stripped Me Of My Quality Of Life’) 」(英語)2分48秒
CBS Boston が2014/12/18 に公開
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【動画】
事件ニュース:「5局の調査:NECCの幹部は裁判を待っている間、州外に旅行できる(5 Investigates: NECC executives travel out-of-state while awaiting trial) 」(英語)2分48秒
WCVB Channel 5 Boston が2016/06/22 に公開
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★示談

2016年3月27日、ミシガン州では19人が死亡しているがミシガン州の生存患者300人以上は、集団訴訟で1050万ドル(約10憶5千万円)の示談に応じた。300人として1人平均350万円の額になる。ただし、全米の示談額1億ドル(約100憶円)からも賠償金が支払われるが、いついくら支払われるか、この時点では不明である。
→ 2016年3月27日の「Michigan Radio」記事:Hundreds of fungal meningitis patients reach $10.5 million settlement with pain clinic | Michigan Radio

★逮捕・裁判

2014年9月4日、香港に逃亡しようとしたニューイングランド調剤センター社の安全管理担当の薬剤師・グレン・チン(Glenn Adam Chin, 46歳、上の写真出典)がボストンの空港で逮捕された。

バリー・カデン社長の逮捕。http://abcnews.go.com/Health/pharmacists-charged-murder-2012-fungal-meningitis-outbreak/story?id=27661506

2014年12月17日、バリー・カデン社長(48歳)を含め14人の社員が逮捕され、裁判にかけられた。

以下、カデン社長を除く13人である(英語のまま)。数字は2014 年12月17日時点の年齢である。

•Doug Conigliaro 前出
•Carla Conigliaro 前出
•Gregory Conigliaro 前出
•Glenn A. Chin, 46, of Canton グレン・チン
•Gene Svirskiy, 33, of Ashland
•Christopher M. Leary, 30, of Shrewsbury
•Joseph M. Evanosky, 42, of Westford
•Scott M. Connolly, 42, of East Greenwich, R.I.
•Sharon P. Carter, 50, of Hopkinton
•Alla V. Stepanets, 34, of Framingham
•Robert A. Ronzio, 40, of North Providence, R.I.
•Kathy Chin, 42, of Canton
•Michelle Thomas, 31 of Cumberland, R.I.
. →  ① 2014 年12月17日の記事:Dedham Couple Charged in Relation to Deadly Meningitis Outbreak – Dedham, MA Patch、② Criminal Investigations > December 17, 2014: 14 Indicted in Connection with New England Compounding Center and Nationwide Fungal Meningitis Outbreak

裁判所に向かうバリー・カデン社長。写真出典

検察はカデン社長に死亡者のうち25人の死亡に責任があるとし、2級殺人罪(殺意をもって故意に人を殺害したが、計画的ではない殺人。出典:コトバンク)(最高刑は終身刑)を主張した。

「カデン社長は工場の施設、特に衛生設備を適切に保つことをしないで、利益を得ていた。それは私の心の中では殺人と同じです」と妹のダイアナ・リード(Diana Reed)を真菌性髄膜炎で亡くした59歳のボブ・バージェソン(Bob Bergeson)は憤慨している。

一方、カデン社長は無罪を主張した。カデン社長の弁護団は、薬物がどのように汚染されたのか検察官が示していない。患者の死亡でのカデン社長の役割を特定していない、と主張した。

2017年6月26日、バリー・カデン社長(Barry Cadden、50歳)に9年の刑務所刑が科された。2級殺人罪は無罪で、罪状は「違法行為による金もうけ(racketeering)」と「通信詐欺(Wire Fraud)」だった。
→ Owner of New England Compounding Center Sentenced for Racketeering Leading to Nationwide Fungal Meningitis Outbreak | OPA | Department of Justice

テレビのニュースは刑の軽さを非難した。

【動画】
事件ニュース:「NECCの社長は髄膜炎大量発生で9年間の刑務所刑(NECC Owner Sentenced To 9 Years In Prison For Meningitis Outbreak) 」(英語)3分00秒
CBS Boston が2017/06/26 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

しかし、ボストン大学(Boston University)のケビン・アウターソン・法学・教授(Kevin Outterson)は、「検察は、出荷されたバイアルが感染を引き起こす原因となったり、人を殺したりすることをバリー・カデン社長が知っていたことを証明しなければなりません」と指摘している。

アウターソン教授は、「ズサンな作業をする低級な作業場だったことは確かでしょう。資金を節約のためにバリー・カデン社長は、不衛生な滅菌設備と知りつつ放置していたのかもしれない。しかし、そのことと、バイアルが汚染されていることを知って出荷したのとはまったく異なります」と述べている。

2017年8月26日、検察はバリー・カデン社長に1320万ドル(約13億2千万円)の賠償金を提示したが、2017年9月2日現在、賠償金額は確定していない。
→ 2017年8月26日の「boston.com」記事:In NECC case, prosecutors seek $13 million from former co-owner

バリー・カデン社長(Barry Cadden、50歳)2017年6月26日。AP Photo/Stephan Savoia。写真出典

ニューイングランド調剤センター社の安全管理担当のグレン・チン(Glenn Adam Chin)の裁判は、2017年9月に予定されている。

そして、他の12人は、グレン・チンの裁判が済んでからである。

ニューイングランド調剤センター社事件の始末がつくには、まだ、何年もかかる。

★医薬品品質保証法

ニューイングランド調剤センター社事件が起こった背景には国の医薬品監督システムの欠陥も指摘された。

議会の聴聞会で、食品医薬品局・長官(FDA Commissioner)のマーガレット・ハンバーグ(Margaret Hamburg 、写真同)は、規制当局である食品医薬品局とマサチューセッツ州医薬理事会はどうして何年も前にニューイングランド調剤センター社に対して適切な措置を講じなかったのかと質問した。

そして、議員たちは、食品医薬品局が調剤会社の直接監督をマサチューセッツ当局に任せる義務があったと指摘した。

食品医薬品局のハンバーグ長官は、「公衆衛生への脅威の証拠が増えていることに照らして、議会に対し、非伝統的調剤の基準を強化するよう、議会に要請する」と述べた。

2013年11月27日、上院は、食品医薬品局に調剤薬の製造を規制し監視する権限を付与する法案である「医薬品品質保証法」(Drug Quality and Security Act、H.R. 3204)を可決した。

●4.【白楽の感想】

《1》刑が軽すぎないか?

ニューイングランド調剤センター社事件で、753人が真菌性髄膜炎に罹患し、76人が死亡した。

一般的に、事件では、被害者にスキがある場合と、被害者にスキはなく、全く悪くない場合がある。

例えば、詐欺の被害者は、通常ではありえない金銭的な得をしようとして相手の言葉を信じ、被害にあうなど、被害者にスキがある場合がある。ところが、医薬品の被害者にスキはなく、全く悪くない。

全く悪くない753人が罹患し、全く悪くない76人が死亡した。

http://www.wcvb.com/article/necc-owner-to-be-sentenced-nearly-5-years-after-meningitis-outbreak/10220558

それなのに、バリー・カデン社長(Barry Cadden、50歳)は2級殺人罪が無罪で、「違法行為による金もうけ(racketeering)」と「通信詐欺(Wire Fraud)」の罪で9年の刑務所刑である。

刑が軽過ぎないか?

ボストン大学(Boston University)のケビン・アウターソン・法学・教授(Kevin Outterson)は、カデン社長が資金を節約するために適切な衛生設備を設けなかったとしても、汚染医薬品と知って出荷したわけではないと、2級殺人罪を科せないことを説明している。

それはそうだ。

現在の法体系では、裁判長の判断は適切に思える。

では、76人の死の責任は誰がとるのか?

何かが悪いから死んだ(殺された)のだ。何が悪かったといえば、汚染ステロイド剤品を出荷したニューイングランド調剤センター社しかない。汚染医薬品と知らなくても、責任という意味では、社長に責任があるだろう。

死者の家族にとって、9年の刑務所刑では刑が軽すぎないか?

被害者はやり切れないだろう。

ただ、9年間の刑務所刑でもバリー・カデン社長にどんな更生を望めるのだろうか?

被害者と社会は、バリー・カデン社長を罰して単に留飲を下げるだけだろう。その場合、刑を重くすれば、どういう点で今後、類似の事件が防げるかと言えば、その効果はあまりないだろう。

どのような処罰が適切なのか? 難しい。

《2》財産没収

753人が罹患し、76人が死んでいる。罹患者は死なないまでも、「一生後遺症を抱えさせられ、いわば終身刑を科されたようなものだ」と述べている。

一方、加害者のバリー・カデン社長(50歳)は9年の刑務所刑である。恩赦があるので、実際はもっと短いハズだ。50代後半には出所するに違いない。賠償金でかなりのお金を払わなければならないだろうが、それでもソコソコ豊かな暮らしができるだろう。

もちろん加害者の人生もそれなりに尊重すべきだが、加害者がノホホントと暮らし、被害者は死亡、あるいは後遺症を抱えて生きていかなければならないのは不公平だ。

こういう事件でいつも思うのだが、バリー・カデン社長の資産のほぼ全部を没収できないだろうか?

バリー・カデン社長以外の13人の社員の資産のほぼ全部も没収する。

特に、コニグリアロ兄弟(グレゴリー・コニグリアロとダグラス・コニグリアロ)の悪質度は高いように思える。

セルヴィエ社事件でも書いたが、加害者の没後、全財産を没収するのでもいい。没収したお金は、薬害死亡者と健康被害者に回し、また、薬害防止の研究や制度改革に使う。そういう法律を作ったらどうでしょう。
→ 製薬企業:糖尿病薬・メディアトール(Mediator):セルヴィエ社(Servier)(仏) | 研究倫理(ネカト)

《3》制度改革

ニューイングランド調剤センター社事件から学んで米国は、2013年11月27日、新しい法案「医薬品品質保証法」(Drug Quality and Security Act、H.R. 3204)を制定した。

エライ!

結局、個人にもそれなりに問題はあったが、それを防ぐには、法律制定(改定)でシステムとして対処する。

日本のネカト対策も法律制定で対処してほしい。「ネカト防止法」

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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:New England Compounding Center meningitis outbreak – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:New England Compounding Center – Wikipedia
③ 2012年10月2日のデニス・グラディ(Denise Grady)記者の「New York Times」記事:Meningitis Cases Are Linked to Steroid Injections – The New York Times(保存版)
④ 2012年10月10日のデイヴィッド・モーガン(David Morgan)記者の「ロイター」記事:House, Senate lawmakers seek meningitis briefings(保存版)
⑤ 2014 年12月18日のデニス・ラボワ(Denise Lavoie)記者の「CBC News」記事:Murder charges laid in deadly 2012 U.S. meningitis outbreak – World – CBC News(保存版)
⑥ 2015年4月16日のカート・アイゼンヴァルト(Kurt Eichenwald)記者の「Newsweek」記事:Killer Pharmacy: Inside a Medical Mass Murder Case(保存版)
⑦ 2017年3月22日のジェス・ビッドグッド(Jess Bidgood)記者の「New York Times」記事:Compounding Pharmacy Owner Not Guilty of Murder After 60 Meningitis Deaths – The New York Times、保存済
⑧ 「Gettyimages」のニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)写真群:New England Compounding Center Stock Photos and Pictures | Getty Images
⑨ ニューイングランド調剤センター社(New England Compounding Center)事件の記事はたくさんある:New England Compounding Center – Google 検索
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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