2019年9月18日掲載
ワンポイント:ライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging-Fritz Lipmann Institute)・所長・医師で、幹細胞学研究者。2016年(47歳)、2001-2016年に出版した11論文がネカト調査の対象になった。2017年6月(48歳)、ライプニッツ協会は8論文に問題があったと結論し(1論文撤回指示、7論文訂正)、所長を解任した。2017年12月(48歳)、今度は、ドイツ研究振興会(DFG)は、3論文に「間違い」があったとした。なお、グループリーダー職はそのままなので研究を続けている。撤回論文は0報。ネカト論文なのに「間違い」と結論した印象がある。所長解任だけでグループリーダー職を保持しているが、どうして、こんなに甘い処分なのか? 国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.白楽の手紙
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
カール・レンハルト・ルドルフ(レンハルト・ルドルフ、Karl Lenhard Rudolph、K Lenhard Rudolph、ORCID iD:、写真出典)は、ドイツのライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)・所長・医師で、専門は幹細胞学だった。
ネカト発覚の発端は不明だが、2014年(45歳)のパブピアの指摘だろう。
2016年(47歳)、ライプニッツ協会とドイツ研究振興会(DFG)が別々にネカト調査を開始した。
2017年6月(48歳)、ライプニッツ協会は8論文に問題があったと結論し、ライプニッツ老化研究所・所長を解任した。グループリーダ職(部長?)を維持させたが、3年間の研究申請締め出し処分を科した。
2017年12月15日(48歳)、ドイツ研究振興会(DFG)は3論文に問題があったと結論し、2年間の研究申請締め出し処分を科した。
2019年9月17日(50歳)現在、撤回論文は0報。
ネカト論文なのに「間違い」論文と結論した印象がある。所長解任だけでグループリーダー職を保持しているが、どうして、こんなに甘い処分なの?
どうして、ライプニッツ協会の調査とドイツ研究振興会(DFG)の調査で問題とした論文数が異なるの? 調査がいい加減(ズサン)なの?
なお、ライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)は、ライプニッツ協会(Leibniz-Gemeinschaft)が抱える95研究所の1つである。
ライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)。写真出典
- 国:ドイツ
- 成長国:ドイツ
- 医師免許(MD)取得:ゲッチンゲン大学
- 研究博士号(PhD)取得:ハノーファー医科大学
- 男女:男性
- 生年月日:1969年1月18日
- 現在の年齢:55 歳
- 分野:幹細胞学
- 最初の問題論文発表:2001年(32歳)
- 問題論文発表:2001-2016年(32-47歳)の17年間
- 発覚年:2014年(45歳)
- 発覚時地位:ライプニッツ老化研究所・所長
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明だが、パブピア(PubPeer)の匿名者と思われる
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ライプニッツ協会・調査委員会。②ドイツ研究振興会(DFG)・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:間違い
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職を続けた(〇)
- 処分:所長の解任(グループリーダ職は維持)。ライプニッツ協会から3年間の締め出し処分。ドイツ研究振興会(DFG)から2年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:ルドルフ研究室に在籍していた(いる?) 森田洋平(Morita Youhei) (元・埼玉医科大学国際医療センター消化器外科・助教)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1969年1月18日:ドイツのブレーメンで生まれる
- 1997年(28歳):ドイツのゲッチンゲン大学(Georg-August-Universität Göttingen)で医師免許(MD)取得
- 1997年(28歳):米国のアルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・ポスドク、4年間
- 2001年(32歳):ドイツのハノーファー医科大学(Medizinischen Hochschule Hannover)で研究博士号(PhD)を取得:化学
- 2007年(38歳):ウルム大学・分子医学研究所(Universität Ulm. Direktor des Instituts für Molekulare Medizin)・所長
- 2009-2014年(40-45歳):ドイツ老化学会(Deutschen Gesellschaft für Alternsforschung)・会長
- 2012年(43歳):ライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)・所長
- 2014年7月15日(45歳):パブピアが「2005年のCancer Res.」論文の画像の異常を指摘した
- 2016年(47歳):ライプニッツ協会とドイツ研究振興会(DFG)が別々にネカト調査開始
- 2017年6月(48歳):ライプニッツ協会は8論文に問題があったと結論し、ライプニッツ老化研究所・所長を解任した。グループリーダ(部長?)は維持。3年間の研究申請締め出し処分を科した
- 2017年7月(48歳):エージング研究所・科学顧問
- 2017年12月15日(48歳):ドイツ研究振興会(DFG)は3論文に問題があったと結論し、2年間の研究申請締め出し処分を科した
- 2019年9月17日(50歳)現在:ライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)・グループリーダ職(部長?)を維持している:Organization – Leibniz Institute on Aging (FLI)、 Rudolph Research Group – Leibniz Institute on Aging (FLI)、(2019年9月14日保存版)
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
研究の話の動画:「カール・レンハルト・ルドルフ、老化は病気ですか?(Karl Lenhard Rudolph, Aging: is it a disease?) YouTube」(英語)36秒。
IBSA Foundation for scientific researchが2015/11/28 に公開
【動画2】
研究の風景:「カール・レンハルト・ルドルフ(Prof. Dr. Karl Lenhard Rudolph – Gottfried Wilhelm Leibniz-Preisträger 2009) YouTube」(音楽のみ)1分09秒。
DFG bewegtが2018/07/17 に公開
●4.【日本語の解説】
以下は事件の記事ではない。
★20xx年:生命科学関連特許情報
出典 → ココ
タイトル: 公表特許公報(A)_ヒトおよび動物における生物学的老化、再生能、発癌リスク、加齢性疾患を発症するリスクおよび慢性疾患の予後を測定するための、DNA損傷およびテロメア機能不全を測定するためのマーカー
出願番号: 2011505533
年次: 2011
IPC分類: G01N 33/68,G01N 33/50,C12Q 1/68,C12Q 1/34
特許情報キャッシュ
ルドルフ、レンハルト JP 2011519030 公表特許公報(A) 20110630 2011505533 20090427 ヒトおよび動物における生物学的老化、再生能、発癌リスク、加齢性疾患を発症するリスクおよび慢性疾患の予後を測定するための、DNA損傷およびテロメア機能不全を測定するためのマーカー ルドルフ、レンハルト 510283982 中島 淳 100079049 加藤 和詳 100084995 西元 勝一
以下略
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発端
2012年(43歳)、カール・レンハルト・ルドルフ(Karl Lenhard Rudolph)はライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)の所長に就任した。
2014年7月15日、パブピアが、ルドルフの「2005年のCancer Res.」論文の画像が重複使用されていると指摘した。
- Telomerase-dependent virotherapy overcomes resistance of hepatocellular carcinomas against chemotherapy and tumor necrosis factor-related apoptosis-inducing ligand by elimination of Mcl-1.
Wirth T, Kühnel F, Fleischmann-Mundt B, Woller N, Djojosubroto M, Rudolph KL, Manns M, Zender L, Kubicka S.
Cancer Res. 2005 Aug 15;65(16):7393-402. Erratum in: Cancer Res. 2018 Oct 15;78(20):6026
図3の黄色枠の画像、青色枠の画像がそれぞれ同じ画像を使用していた。図が小さくてゴメン。表をクリックすると表は2段階で大きくなる。本ブログの図表は基本的に全部拡大できる。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/07C2E5569526E4A6C57CB91B1AC612#
2018年10月15日、最初に指摘されてから4年後、メタロセア・ユークロステス(Metallothea Eucrostes)が「2005年のCancer Res.」論文を訂正したとパブピアに書き込んだ。
なお、メタロセア・ユークロステス(Metallothea Eucrostes)という名前は論文の著者名には無い。著者の1人の仮名と思われる。
★経緯
上記した2014年(45歳)のパブピアでの指摘が発端になって、カール・レンハルト・ルドルフ(Karl Lenhard Rudolph)のネカト調査を始めたものと思われる。それで発覚年を、2014年(45歳) とした。
しかし、よくわからない。
というのは、ネカト調査はパブピアが指摘してから2年後の2016年と、2年も遅いからだ。
なお、ネカト調査と関係するかどうか不明だが、ネカト調査を開始する前年の2015年5月、ルドルフが所長のライプニッツ老化研究所(Leibniz Institute on Aging – Fritz Lipmann Institute)に、大規模な動物福祉の違反と横領の疑いで警察の捜査が入った。すべての実験動物の使用が禁止された。2017年5月にマウスの使用が認められたが、ルドルフ研究室では13,000匹のマウスを無駄に殺した。
→ 2016年5月11日記事:„Fehlerhafte Anmeldung von Tierversuchen“: Durchsuchungsaktion in Jena im Institut für Altersforschung und dem UKJ | JENAhoch2 | Omnichannel-Media für Stadt und Region
話しをネカト調査に戻す。
2016年(47歳)、ライプニッツ老化研究所の上部組織であるライプニッツ協会とルドルフが研究助成を受けていたドイツ研究振興会(DFG)が、それぞれ調査委員会を設けて、ルドルフの論文のネカト調査を始めた。
★ライプニッツ協会
2017年6月15日(48歳)、ライプニッツ協会は、2001-2016年に出版したルドルフの 11論文中(Cell、Nature Cell Biology、EMBO Journalなど)の8論文に問題があったと結論した。処罰として、ルドルフのグループリーダ職(部長?)を奪わなかったが、ライプニッツ老化研究所・所長を解任した。2015年の大規模な動物福祉の違反に対する処罰も含まれていたかもしれない。
また、ルドルフ及びルドルフ指導下の研究者に対して競争的資金の申請を3年間締め出した。
問題視した8論文については、ルドルフに1論文を撤回し、他の7論文を訂正するよう要請した。
以下は調査した11論文のリスト(出典)だが、問題の8論文はどの論文なのか示されていない。どうして、ライプニッツ協会はこういう中途半端なことをするのだろう?
Publikationsliste-Rudolph-UA
ルドルフは「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように答えている。
調査委員会は、私がデータねつ造・改ざんをした証拠はないと述べています。私は、指摘されたすべての間違いを厳密に調べ、訂正版を学術誌に掲載致します。 同時に、将来、私の研究グループにこのような間違いが発生しないように対策を講じたいと思います。 このプロセスは現在進行中ですが、2017年11月1日までにライプニッツ協会に報告する事になっています。この間、私は研究所長を退き、科学者としての責任を果たすことに全面的に取組みます。その間、研究グループと研究所のすべての同僚を保護したいと思います。
ただ、ライプニッツ協会のネカト調査で、ルドルフは生データと実験ノートを紛失したと弁明している。なんということだ!
また、ライプニッツ協会はネカト論文なのに「間違い」論文と結論した印象がある。
★ドイツ研究振興会(DFG)
2017年12月15日(48歳)、今度は、ドイツ研究振興会(DFG)がルドルフの3論文に「間違い」(ネカトではない)があったとし、研究費の申請を2年間締め出すと発表した。
→ 2017年12月15日のプレスリリース記事:DFG, German Research Foundation – Scientific Misconduct: Written Reprimand and Two-Year Ban on Submitting Proposals
但し、ドイツはいつもだが、調査報告書を公表しない。どの論文が「間違い」論文と結論したのかも示さない。
レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事によると、2017年12月19日にドイツ研究振興会(DFG)・広報官のマルコ・フィネッティ(Marco Finetti )が以下の3論文だとシュナイダーに連絡してきたそうだ。:Karl Lenhard Rudolph barred from DFG funding for 2 years, as supportive peers flock to his conference – For Better Science
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(1) Wang J et al., A differentiation checkpoint limits hematopoietic stem cell self-renewal in response to DNA damage. Cell 2012; 148:1001-14. Erratum 2014.
(2) Missios P et al., Glucose substitution prolongs maintenance of energy homeostasis and lifespan of telomere dysfunctional mice. Nat Commun. 2014; 5:4924. Mr Rudolph offered to journal an Erratum.
(3) Meena JK et al., Telomerase abrogates aneuploidy-induced telomere replication stress, senescence and cell depletion. EMBO J 2015 May 12; 34(10):1371-84. Corrigendum October 2017
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なお、ライプニッツ協会の調査とドイツ研究振興会(DFG)の調査で問題とした論文数は、8論文と3論文で異なるの? どちらか、または両方が、いい加減(ズサン)な調査をしたということなのか?
調査報告書も公表せず、ドイツは透明性に大きな問題がある。
★論文の訂正と撤回
前述したが、ライプニッツ協会は、2001-2016年の17年間に出版した11論文中(Cell、Nature Cell Biology、EMBO Journalなど)の8論文に問題があったと結論した。 ルドルフに1論文を撤回し、他の7論文を訂正するよう要請した。
2019年5月23日時点、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が指摘しているように、6論文は訂正したが、1論文は訂正されていない。また、撤回とした1論文はいまだに撤回されていない(以下の図出典)。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2019年9月17日現在、パブメド(PubMed)で、カール・レンハルド・ルドルフ(Karl Lenhard Rudolph)の論文を「Karl Lenhard Rudolph [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の43論文がヒットした。
「Rudolph KL[Author]」で検索すると、1999~2019年の21年間の163論文がヒットした。
2019年9月17日現在、「Rudolph KL[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
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★撤回論文データベース
2019年9月17日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでカール・レンハルド・ルドルフ(Karl Lenhard Rudolph)を検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2019年9月17日現在、「パブピア(PubPeer)」は、カール・レンハルド・ルドルフ(Karl Lenhard Rudolph)の4論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》不透明
ドイツのネカト事件の対処は、米国・研究公正局や日本とかなり異なる。
- 調査報告書が公表されない
- どの論文のどのデータがネカト(今回は「間違い」)なのか公表されない
- ネカト者(今回はルドルフの「間違い」)は研究界から排除されない
- 2001-2016年の17年間の論文が疑惑ということは、最初の疑惑論文は17年間も放っておいた
- 「間違い」と結論しておきながら処罰を科す
そして、権力争いをするようにライプニッツ協会とドイツ研究振興会(DFG)が別々に調査した。その結果、問題とした論文数が両者で異なった。調査報告書が公表されていないので、調査プロセスが不透明だし、問題の論文もわからない。
ヒョッとすると、どちらか、または両方が、いい加減(ズサン)な調査をしたのかもしれない。公表されない調査結果は、権威のある公的機関の調査といえども、一般的に、信用できない。
白楽は調査委員ではないので、印象でしかないが、ネカト論文なのに「間違い」論文と結論した印象を受けた。もし本当に「間違い」論文なら、処罰すること事態がおかしい。ルドルフはどうして抗議しないのだ。調査委員とルドルフの出来レース(「間違い」にしてもらった代わりに処罰を受ける)だったのだろうか?
この状況は、日本より悪い。
マー、悪いと言っても、調査報告書を公表しない大学、信用できない公的調査結果を発表する大学は日本にもたくさんある。五十歩百歩ではある。
ただ、ルドルフ事件で、さらに悪いのは、撤回勧告の出た論文が撤回されていないことと問題論文が公式発表されなかったことだ。
撤回勧告の出た論文は、学術誌に撤回を要請していないと思われる。
問題論文は、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がブログで記載した。しかし、公式発表はなかったので、シュナイダーが個人ブログで記載しなければ、学術界は信用できない論文がどの論文なのかわからない。ルドルフの全論文が信用を失うことになりかねない。
ルドルフ事件を調べると、ドイツって公正意識が高く制度もしっかりしていると思っていたが、ガッカリである。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア・ドイツ語版:Karl Lenhard Rudolph – Wikipedia
② 2017年6月20日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:German institute sanctions director after finding him guilty of misconduct – Retraction Watch
③ レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Karl Lenhard Rudolph – For Better Science、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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