7-44 出版プレッシャーでネカトするわけじゃない

2019年11月26日掲載 

白楽の意図:研究者はどうしてネカトするのか? としばしば質問される。白楽は、規則・処罰が甘く「ヤリ得だからする」と答えている。しかし、論文出版のプレッシャーに負けてネカトをすると主張する人が多い。白楽は、この説に否定的だ。プレッシャーに負けて不正するなら、職業を問わず、人間、生きていけないし、言い訳としてもナサケナイ。日本はダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)の研究を知らない人が多い気がする。ファネーリ論文の第一弾として、「2015年6月のPLoS ONE」論文を紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.日本語の予備解説
4.論文内容
5.関連情報
6.白楽の感想
8.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

ネカト行為をする要因は、出版プレッシャー、研究環境、その他の構造的・社会的・心理的要因だと信じられている。研究倫理の政策を決定する際、各要因の重要性をどうとらえるかが重要である。しかし、実際の政策は、科学的な分析結果に基づいていない。政策者の「思い込み」と「思い付き」で政策が決定されている。しかも、その「思い込み」と「思い付き」は問題の多い情報源に依存していることが多い。本論文では、ネカト発生要因を科学的に分析した次の結果を報告する。①研究公正規則の甘い国や論文報奨金を出す国にネカトが起こりやすい。②研究者相互の批判がしにくい研究環境でネカトが起こりやすい。③早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)にネカトが起こりやすい。一方、④男性がネカトしがちだという説は支持されない。また、⑤出版プレッシャーがネカト行為の主な原因だという説は全く支持されなかった。従って、ネカト行為を減らすには、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進、③早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)の指導とトレーニングの強化、をすることが重要である。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

  • 論文名:Misconduct Policies, Academic Culture and Career Stage, Not Gender or Pressures to Publish, Affect Scientific Integrity
    日本語訳:出版プレッシャーではなく、ネカト規則、学術文化、キャリア段階が研究公正に影響を与える
  • 著者:Daniele Fanelli, Rodrigo Costas, Vincent Larivière
  • 掲載誌・巻・ページ:PLoS ONE 10(6): e0127556
  • 発行年月日:2015年6月17日
  • 引用方法:Fanelli D, Costas R, Larivière V (2015) Misconduct Policies, Academic Culture and Career Stage, Not Gender or Pressures to Publish, Affect Scientific Integrity. PLoS ONE 10(6): e0127556. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556
  • DOI: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556
  • ウェブ:https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0127556
  • PDF:https://journals.plos.org/plosone/article/file?id=10.1371/journal.pone.0127556&type=printable
  • プレプリント:

★著者

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  • 第1著者:ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)
  • 本人のサイト: Daniele Fanelli’s webpages
  • 紹介: Daniele Fanelli’s webpages
  • 写真: http://danielefanelli.com/aboutMe.html
  • ORCID iD:https://orcid.org/0000-0003-1780-1958
  • 履歴:Daniele Fanelli’s webpages
  • 国:米国
  • 生年月日:イタリア。現在の年齢:45 歳?
  • 学歴:イタリアのフィレンツェ大学(University of Florence)で2001年に学士号(自然科学)、同大学とコペンハーゲン大学(University of Copenhagen)の共同プログラムで2005年に研究博士号(PhD)(動物行動学・生態学)、ミラノ大学(University of Milan)で2006年に科学コミュニケーションの修士号取得
  • 分野:研究倫理
  • 論文出版時の所属・地位:米国のスタンフォード大学・メタ研究イノベーションセンター・上級研究員。2015年就任:Senior Research Scientist at METRICS – Meta-Research Innovation Center, Stanford University。このセンターはスタンフォード大学医科大学院の一組織として2014年に設置された。2019年10月15日現在、ウェブサイトが閉鎖されていた。

スタンフォード大学医科大学院(Stanford University School of Medicine)。写真出典

●3.【日本語の予備解説】

★2010年04月26日:JST科学技術情報プラットフォーム、著者不明:「論文発表プレッシャーが論文の質に及ぼす影響(論考紹介)」

出典 → ココ、(保存版) 

研究者への論文発表プレッシャーが論文の質に及ぼす影響について考察した”Do Pressures to Publish Increase Scientists’ Bias? An Empirical Support from US States Data“が、(2010年)4月21日、PLoS oneに掲載された。著者は英エディンバラ大学INNOGENISSTIのDaniele Fanelli氏。

(Abstract前半試訳)
アカデミアでは競争が激化し”publish or perish”という風土が育っているが、これは研究の客観性(objectivity)と健全性・完全性(integrity)と相容れぬものである。なぜなら、科学者は何としてもpublishable(発表に相応しい)結果を生むように強いられるからである。論文はネガティブなすなわち検証済仮定(tested hypothesis)を支持しない結果を報告すれば発表・引用される可能性が低くなる。従い、論文発表プレッシャーが科学バイアスを増大させると、競争的・生産的学術環境の下、論文ではポジティブな結果となる頻度が高くなる。本稿は、連絡先が米国となっている著者の論文を無作為に大量抽出してポジティブな結果の頻度を測定することにより、この仮説を立証する。一人当たりの学術論文数の多い米国(典拠はNSFデータ)に著者が在住する場合、全ての分野において、論文は検証済仮説を支持する傾向が強かった。

[ニュースソース]
How pressure to publish impacts research quality – CORDIS, 2010/4/22

★2018年02月20日:粥川準二(県立広島大学准教授(社会学)):「研究不正の原因は「プレッシャー」か?」

出典 → ココ、(保存版) 

以下加工引用。

英語圏でも日本でも、研究不正が起こる原因や背景としてしばしば挙げられるのは、「論文発表せよというプレッシャー」である。

今回の事件(白楽加筆:2018年1月の京都大学iPS細胞研究所・助教のネカト事件)でも、当事者の助教に任期が迫り、一流ジャーナルで論文発表しなければならないと焦っていたのではないか、と。英語圏ではそうしたプレッシャーを「論文発表せよ、さもなければ滅びよ(publish or perish)」と表現することもある。だが2015年、そうしたプレッシャーは研究不正の原因にはなっていない、と指摘した研究が発表され、論争になった。

論文が撤回される国、されない国

スタンフォード大学のデニエレ・フェナーリらは、それまでのプレッシャー仮説を支持してきた研究はすべてアンケートかグループインタビューでの調査であり、限界があるものだと退ける。彼らは、撤回された論文611件と訂正がなされた論文2226件の著者の国などの情報を、撤回や訂正がない論文と比較した。

その結果、不正行為があるという申し立て(要するに公益通報)に対応するポリシー(政策方針)がある英国などの国や、特にそれが法制化されている米国などでは、撤回の可能性が低く、逆に論文発表したという業績が現金で報酬を受けるような中国などでは撤回の可能性が高いことがわかった。これらはそれまでの仮説に一致するという。ところが、論文発表したという業績が個々人のキャリアにつながるドイツなどや、その研究機関への予算支出を決定するオーストラリアなどでは、撤回の可能性は変わらないか低かった。

この結果は「プレッシャー仮説に反する」とフェナーリらは書く。

反論があった。

ワシントン大学のフェリック・ファンが方法論的な問題があると述べた上で、研究不正をした科学者たち自身がその原因として論文発表や雇用などのプレッシャーを挙げていることが無視されている、と指摘する。さらに「論文発表せよというプレッシャーと科学的不正行為との間には強い相関がある」ことを明らかにした最近の研究が引用されていない、という。

この「最近の研究」とは、アムステルダム自由大学のジューリー・K・タイディングらが2014年に発表した研究である。

「プレッシャー説」からの反論

タイディングらは、ベルギーやオランダの医学研究者を対象に、論文発表せよというプレッシャーと研究不正の経験についてアンケートした。その結果、回答者314人の15%は過去3年間で捏造や改ざん、盗用をしたことがあると答え、25%が仮説を強化するためにデータや結果を抹消したことがあると答えた。72%はこうしたプレッシャーが「強すぎる」と答え、61%はこのプレッシャーが医学の信頼性や有効性に悪影響を及ぼしていると答えた。プレッシャーの強さと研究不正の深刻さとの間には相関があった。

以下閲覧有料。省略

●4.【論文内容】

《1》序論 

ネカトをする原因は、出版プレッシャー、研究環境、その他の構造的・社会的・心理的要因にある。最も一般的に指摘されているのは次の6要因である。

  1. 規則と仕組み:国レベル・大学(含・研究所)レベルで、ネカト行為を検出・処罰し、研究公正を促進する規則と仕組みが強く機能していれば、研究者は自分の研究倫理を自分で修正する。そのことで、研究者の無責任な行為が抑止される [2-4]。
  2. 文化:ネカトは社会文化に大きな影響を受ける[ 5 ]。 2010年、LeeとSchrank[ 6 ]は、検証可能な次の仮説を提唱している。彼らは、ドイツの高等教育制度を導入した階層的で自由度が低い「発展途上」(例えば、規制を犠牲にしてでも経済成長を優先する)国でネカトの発生が最も高い、と主張した。この場合、英米の高等教育モデルを採用した「規制」優先国ではネカト発生率が最も低くなるハズだ。というのは、これらの国では、研究者は自分たちの行動に責任を持ち、権威よりも相互批判を尊重するからである。中国、韓国などが前者の例であり、英国、米国が後者の例である。ドイツ(規制国)などが中間の代表である[ 6 ]。
  3. 研究者間検証:透明で開かれた研究者間のコミュニケーションと相互批判は、研究者が自分の行動を自分で修正する力の重要な要素である。従って、研究者間の検証が欠落している場合、例えば、指導者が院生・ポスドクなどの研修生を十分に指導できていない場合、共同研究者が互いの研究作業を確認・批判しにくい・できない場合に、ネカト・クログレイは発生しやすい[ 7 ]。
  4. 論文出版プレッシャー:研究が活発な国では、研究職と研究費の獲得競争が激しく、研究キャリアで成功するのは研究成果で決る。それで、事実上すべての研究者に「論文出版プレッシャー」がかかる[ 8 ]。いくつかの国では、論文出版数が研究職の維持・昇格の基準になっているので、研究者は自分の研究キャリアを維持・高めるためには、継続的に論文を出版する必要がある[ 9 ]。 さらに、多くの国では、研究者が獲得できる研究費は論文出版数に応じるので、研究者は日常的に論文出版プレッシャーがかかっている。さらに、大学(含・研究所)は所属教員の論文出版数に応じて外部からの運営資金の多寡が決まってくるため、所属教員に多くの論文を出版するよう、論文出版プレッシャーをかける[ 10、11 ]。 また、いくつかの国では研究者に論文を出版した見返りに報奨金(現金)を支給するので、研究者は、なるべくたくさんの論文を出版しようと励む。これも論文出版プレッシャーになっている。ただ、論文報奨金は論文プレッシャーというより、むしろ腐敗の原因になっていると言われている[ 12 ]。
  5. 早期キャリア研究者:院生やポスドクなど若い研究者は、相互に関連する少なくとも2つの理由でネカトを犯すリスクが特に高いと考えられる。1つ目の理由は、彼らは研究の精神と原則を完全に内面化していない点である [ 13 ]。2つ目の理由は、彼らはまだ専門家としての評判が確立していないので、ネカトが発覚しても失うものが少なく、発覚しなければ大きなものが手に入ると考える点である [ 14 ]。
  6. 性別:米国・研究公正局がネカトでクロとした研究者に男性が多いと、少なくとも2つの論文が報告した。この仮説は、攻撃性、競争力、昇格欲望、リスクテイクなどの心理的特性は女性より男性に高く、そのことで男性は女性よりネカトを犯しがちだという推測に合致している[ 15、16 ]。 ただし、他の解釈をすれば、強いネカト要因とは思えない[ 17 ]。

これらの要因のいくつかをピックアップし、それを最も重要だと思い込んで、各国の研究・教育政策とネカト政策が立てられている。例えば、ドイツとオランダは、論文出版数の多さへの期待が研究公正への主要な脅威だと思い込んで、研究者の評価基準を改訂した[ 18、19 ]。そして、世界中の大学・研究機関が同じ思い込みでネカト行為に対処する規制と仕組みを制度化している[ 3 ]。

米国などは、早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)が最もネカト行為をしがちなので、米国の大学は、早期キャリア(院生やポスドクなど)に対する特定のネカト教育が必要だと思い込み、責任ある研究実施(responsible conduct of research)の教育をしている[7、14]。

しかし、そのネカト政策とその根底にある信念(思い込み)を裏付ける証拠は何なのか?

論文出版プレッシャーなどの6要因をネカト行為を結びつけた研究結果は、限定的なアンケート調査や特定グループの調査から得たデータに基づいている[9、10、13、16、20、21]。

研究者との面談を分析して論文にするのはそれなりに有用だが、基本的には、論文著者の信念と研究者との面談で受けた個人的印象を反映している。ほとんどの場合、被面談者の実際の行動そのものは抽出できない。 さらに、ネカト行為に関するアンケート調査は、アンケート方法と出版バイアスに調査結果が大きく影響される[ 22 ]。

[白楽注:出版バイアス:否定的な結果が出た研究は、肯定的な結果が出た研究に比べて公表されにくいというバイアス(偏り)(出典:出版バイアス – Wikipedia

ネカト行為に関する間接的な証拠は、出版バイアスのかかった文献調査から得ている。 その結果、ポジティブな結果とネガティブな結果の比率が研究分野間で不均等に分布し [ 23 ]、ほとんどの研究分野および国でポジティブな結果が増え[ 24、25 ]、国際共同研究[ 26 ]と研究が活発な国[ 27 – 29 ]ではポジティブな結果が高い。

これらの論文は、論文出版プレッシャーなどの6要因をネカト行為を結びつけたアンケート調査の結論を支持することになる。というわけで、出版バイアスのかかった研究は、実際のネカト行為の影響を、意識的または無意識のバイアス、編集上の決定、さらには、執筆スタイルなど、研究公正とはまったく関係のない要因から切り離すことができない[22、30]。

一方、ネカト行為の証拠のもっと有望な情報源は論文撤回である。というのは、論文撤回の多くは、データのねつ造、改ざん、盗用の結果、つまり、ネカト行為の結果だからだ[ 31 ]。

しかし、論文撤回に関する今までの研究は、重要な交絡因子を特定できず、決定的な結果を示せていない。 メドライン(Medline)の論文撤回の分析研究は、ネカト行為が増えており、特に影響力の強い学術誌でネカト行為が多く見られ[ 32、33 ]、データ改ざんは国際共同研究[ 34 ]に多い、ことを示唆せただけである。

これらの結論は、国、機関、研究分野、学術誌によって大きく異なる可能性がある政策、構造、文化の影響を無視しているため、誤った方向に導かれる可能性がある[ 35 ]。

例えば、論文撤回数が最近増加した理由は、論文を撤回し始めた学術誌の数が増加したことで完全に説明できる。ネカト行為が増加したわけではない[ 35 ]。

論文撤回数のもう1つの主要な交絡要因は「多数論文撤回者」がいることだ。1人の研究者が複数(多数)の論文撤回をするケースが増えたことを無視すると、分析結果が歪められる可能性がある[ 36 ]。

論文撤回に加えて、研究公正に関する証拠の情報源は論文訂正である。今までのネカト研究者は論文訂正を分析対象としてこなかった。論文訂正は、論文撤回とは異なり、研究者に「汚名」をそそがず、出版業績に影響しないため、研究者のキャリアに直接的な影響はない。訴訟や長期にわたる調査を伴うことが多い論文撤回とは異なり、論文訂正は一般的に友好的なプロセスであり、論文の著者が自発的に要請することが多い。

撤回と訂正の違いは、その歴史と現在の頻度をよく反映している。撤回は、ネカト行為に関する学術誌の強化施策と並行して増加した非常に最近の現象である。一方、訂正は少なくともここ半世紀の間、すべての研究分野で一定の割合で行なわれてきた。そして、訂正の頻度は撤回の頻度の約30倍も高い[ 35 ]。

訂正は研究公正の何を示しているのだろうか?

訂正は間違いの結果なので、「ズサン」を反映している。

厳密には、著者は論文を訂正する義務を負わない。訂正しなかったとしても罰を受けない。言い換えれば、訂正は、研究を完成させ、評判を保護し、同僚を誤解させないようにすることを望む研究者の行為で、公的処罰を受けない行為である。

そのため、訂正は研究公正を推進する姿勢の現れと見なされる。 従って、訂正に対する社会的または心理的リスクはほとんどなく、むしろ、積極的に訂正しようという、リスクとは逆の作用があると思われる。

本論文では、上記の6つのリスク要因を反映した研究特性によって、論文撤回または論文訂正の発生を予測できるかどうかを検証した。出版論文を使って15個の予測を設定しテストした。 分類方法は、主観を排除するため、過去の論文が使用した分類方法に従った(表1)。

この研究は、研究公正を脅かす可能性のある要因を直接かつ独立に検証した研究である。

表1。[白楽注:この時点ではこの表は解釈不能です]。ネカト行為を犯す6リスク要因とパラメーター。パラメーターと撤回または訂正の予測値と観測値の関係。論文の複数撤回著者を選択したが、複数撤回著者と認定できない場合、第一著者または最後著者を選択した(すべての数値結果は別のファイル「S1 File」に示した)。https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556.t001

《2》方法 

★一般的な解析

2010年と2011年の撤回論文と訂正論文の完全な書誌データのセットを収集した。それらを対照論文と比較した。

分析は論文ごとに1人の著者に限定した。可能な限り、論文の中で最も多く撤回をした著者を各論文から選択した。撤回論文は少ないので、この方法は、ネカト行為の責任者を特定することになる可能性が高い。著者の中の誰も複数の撤回をしていない論文では、第一著者または最後著者を選んだ。

分析では、サンプルに複数回登場した著者でも、1論文だけを選んでいる(ランダムに)ので、「多数論文撤回者」によるバイアスは回避されている。そいう分析をした最初の論文である。

分析は条件付きロジスティック回帰分析(conditional logistic regression analysis)と組み合わせることで、研究分野や学術誌の編集方針の違いなど、過去の分析を制限していた重要な交絡要因を回避することができた。

[白楽注:条件付きロジスティック回帰分析(conditional logistic regression analysis)とは?
対応のあるデータやマッチングデータについて二項ロジスティック回帰分析を行う場合、この条件付きロジスティック回帰分析を用います。目的変数と説明変数のほかにペアやクラスターを識別する層のデータを指定して実行します。層のデータは番号でも文字列でも構いません。

目的変数は事象(イベント)が起こった場合を1、起こらなかった場合を0とする2値型データとしてください。以下省略(出典:条件付きロジスティック回帰分析 | 統計解析ソフト エクセル統計]

ウーン、白楽、日本語の説明を読んでも、「条件付きロジスティック回帰分析」をしっかり把握できない。ここで、方法論の検証に早くも挫折!

結果の堅牢性を確保するために、第一著者、最後著者、またはランダムな著者を単純に選んで、すべての分析を繰り返した。

以下略。

白楽は「条件付きロジスティック回帰分析」をしっかり把握できない。それで、以下の方法論の記載を省略した。つまり、この論文の方法論の妥当性を白楽は検証できない。

《3》結果1.「要因4:論文出版プレッシャー」はネカト発生の要因ではない 

注意:白楽は上述したように、この論文の方法論の妥当性を判断できない。以下は、結論のつまみ食いである。

方法論を理解していないが、図1は、論文撤回(○)と論文訂正(●)を比較している。

図1。著者の住む国と論文撤回または論文訂正との関連性の条件付きロジスティック回帰分析。カッコ内の数字は、各国の撤回論文数と訂正論文。パネルAの米国は(N:1979 – 449)である。 https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556.g001

まず、「要因1:規則と仕組み」について見ていこう(図1 A)。

「ネカト規則と仕組み」は国によって異なるので、各国を米国と比較した。

論文訂正(●)は各国とも 0 近傍に分布しているが、オーストラリア、ドイツ、中国、韓国、トルコの論文撤回(○)は 1.0~1.5に分布している。つまり、オーストラリア、ドイツ、中国、韓国、トルコは、米国と比較して撤回論文の著者が多い。

ネカト行為の規則と仕組みを持つ国でも強弱は幅があるが、ネカト規則が法的に定義または制度化されている場合、論文撤回数は低かった(図1B)。

結論:「要因1:規則と仕組み」が機能していないことがネカト発生の要因になっている。

「要因4:論文出版プレッシャー」について見ていこう(図1C)

論文報奨金を出す国は論文撤回が多い。つまり、論文報奨金はネカト発生の要因になっている。

しかし、論文出版数が研究職の維持・昇格と研究費獲得の基準になっていることや、大学が出版論文数に比例して運営資金を獲得できることは、論文撤回数とは無関係だった。つまり、ネカト発生の要因になっていない(図1C)。

「要因4:論文出版プレッシャー」での「論文出版プレッシャー」という場合、論文報奨金は真のプレッシャーとは言えず、一般的には、研究職の維持・昇格と研究費獲得という後者の2つが本来の「論文出版プレッシャー」の概念である。

つまり、分析の結果は、「要因4:論文出版プレッシャー」がネカト発生の要因になっている説を支持しない。

結論:「要因4:論文出版プレッシャー」はネカト発生の要因ではない。

「要因2:文化」について見ていこう(図1D).

英米の高等教育モデルを採用した「規制」優先国(angro-reg)ではネカト発生率が低かった。

「発展途上」(例えば、規制を犠牲にしてでも経済成長を優先する)国(german-dev)と、両者の中間国(intermediate)はネカト行為が発生しやすかった。

結論:「要因2:文化」はネカト発生の要因に関係している。

《4》結果2.別の分析でも「要因4:論文出版プレッシャー」はネカト発生の要因ではない 

次に、以下の図2の結果の解釈である。

図2。https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556.g002

「要因3:研究者間検証」について見ていこう(図2 peer control).

研究者間で論文内容の検証が行なわれた度合いを、論文の共著者数で検証した。共著者が多ければそれだけ研究者間で論文内容が相互批判される度合いが高いと考えたのである。

分析結果は、共著者の多さは、論文撤回の重要な要因ではなかった。ただ、共著者が多いと、論文訂正は多いので、研究者間検証は有効である(図2 peer control)。

結論:「要因3:研究者間検証」はネカト発生の要因とは無関係であるが、論文訂正には有効である。

「要因5:早期キャリア研究者」について見ていこう(図2 career length)。

早期キャリア研究者(院生やポスドクなど若い研究者)を出版履歴が短い研究者とし.判定は最初の論文の出版時と訂正/撤回時の論文出版時の年数ギャップが少ない者とした。

分析の結果、早期キャリア研究者は、撤回論文が多かった。但し、訂正論文が多いという結果ではなかった(図2 career length)。

結論:「要因5:早期キャリア研究者」はネカト発生の要因になっている。

「要因4:論文出版プレッシャー」をもう一度取り上げよう。仮説としては、論文出版数が多い研究者やインパクトの高い学術誌に多く論文出版する研究者は「論文出版プレッシャー」が高いと考えられる。

しかし、そのような研究者は、予測に反して、撤回論文数は少なかった。なお、訂正論文数は多かった(図2 pub. rate、pub. impact)。

結論:結果1で「要因4:論文出版プレッシャー」はネカト発生の要因ではないとしたが、別の分析でも「論文出版プレッシャー」はネカト発生の要因ではなかった。

「要因6.性別」について見ていこう(図2 gender)。

著者の性別は、今回実施したどの分析でも、論文撤回または論文訂正の要因ではなかった(図2 gender)。

結論:「要因6.性別」はネカト発生の要因とは無関係である。

《5》考察 

★論文出版プレッシャーがネカトの主要な要因だという「神話」

全体として、我々の調査結果は、国家政策、社会文化的条件、研究環境(共著者数を含む)、状況要因(例えば、研究キャリアの段階)がネカトの重要な要因であると示した従前の考え方を支持した。

一方、男性がネカトを起こしやすいという説を支持しなかった。また、論文出版プレッシャーがネカトの主要な要因で、研究公正への重大な脅威になっているという説も支持しなかった。

思うに、論文出版プレッシャーがネカトの主要な要因だという説は、単なる「神話」ではないだろうか[ 43 ]。 しかし、もしそうなら、なぜこの神話が広く信じられているのだろうか?

理由を考えてみた。多分、大きなネカト事件に人々の関心が特に集中することが原因だろう。

私たちの分析サンプルでは、学術誌のインパクトファクターは低いのに、「多数論文撤回者」という極端なケースが論文生産性の最も高いパーセンタイルに落ちる傾向があった(図3)。[うーん、白楽、図3を解読できない]。

図3。作成者ごとの撤回数(チームおよび個人の特性別)。https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556.g003

「多数論文撤回者」という極端な事件が、ネカト事件の典型例とされ、研究界やマスメディアの注目を集める傾向が高く、ステレオタイプを強化してしまう。 興味深いことに、「多数論文撤回者」の著者に男性が多かったので、「男性がネカトをしがち」という性別ステレオタイプをも強化していると思われる( 図3 )。

論文撤回の増加は学術誌のネカト方針を変更したことで説明されたように[ 29 ]、「多数論文撤回者」の増加は、国家のネカト対策強化で説明される。

特定の国の研究者は、一人当たりの撤回論文数の平均値が高かった(つまり、「多数論文撤回者」である可能性が高かった)。一方、責任ある研究行為を動機化した国の研究者は、透明性の圧力もあり、一人当たりの撤回論文数が少ない(図4)[うーん、白楽、図4も解読できない]。 ただし、この分析は、非常に粗雑なので、今後、この仮説を検証する必要がある。

図4.国別著者の論文撤回数。https://doi.org/10.1371/journal.pone.0127556.g004

★まとめ

第一、我々の結果は従前の考えの一部を否定し、一部を支持した。論文を出版した見返りに報奨金(現金)を支給する論文報奨金制度はネカトの要因とみなされているが、我々の結果も、研究公正に有害な影響を与えることを示した。他方、一般的にネカトの要因とみなされている他の論文出版プレッシャーは、ネカト行為を増加させるとは言えず、ゼロ、場合によるとプラスの効果さえあることを、我々の結果は示した。

第二、論文生産性が高く学術界に大きな影響を与える研究者は平均以上に研究公正に注意しているのでネカト率は低く、むしろ、目立たない学術誌や平凡な研究者の方に多くのネカトが見つかっている。

第三、ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みがまだ十分ではない国は、ネカト行為をするリスクが高い。ネカト行為を検出・処罰し、研究公正を促進する規則と仕組みを構築することが緊急に必要である。 実際、我々の調査結果は、発展途上国においてネカト行為が多いとする最近の証拠を裏付けている[ 44、45 ]。

第四、早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)、相互批判が妨げられている状況で研究している研究者は、ネカト行為を犯すリスクが高くなる。

私たちは、科学的な分析結果から次の提言する。

現在いくつかの国のネカト政策として採用されている論文出版プレッシャーを軽減する政策は有効ではない。ネカト行為を減らすには、①ネカト行為の告発・処理の規則と仕組みの強化、②研究者間の透明性と相互批判の促進、③早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)の指導とトレーニングの強化、をすることが重要である。

●5.【関連情報】

《1》動画 

【動画1】
講演動画:「Daniele Fanelli – Science Fraud: How is it done? Why is it done? And what can we do about it? – YouTube」(英語)21分51秒。
Eos Wetenschapが2013/05/22に公開

【動画2】 

【動画3】 

【動画4】 

《2》「撤回監視(Retraction Watch)」記事 

「撤回監視(Retraction Watch)」記事のコメントも面白い → 2015年6月10日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Pressure to publish not to blame for misconduct, says new study – Retraction Watch

2件、つまみ食いしよう。

  • レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
    論文出版プレッシャーが原因でネカトをするという説を、私は元々、信じていません。私が知っているネカト者は、ねつ造・改ざんするのに“プレッシャー”がなかったようで、ネカトする・しないは、1つは個人の規範と誠実さの問題です。もう1つは、派手な論文を発表し、それで大きな研究資金を獲得できるというシステムに、ネカト行為がリンクしていることです。この場合、ネカト関係者全員がハッピーになれるのです。ただし、科学は苦しみます。そして、最終的に、彼らは論文、資金、職を失うんです。
  • ケン・ピンプル(Ken Pimple)
    ネカト行為の要因に論文出版プレッシャーを挙げる意味がない。生産的な研究者は論文出版プレッシャーを受けているけど、彼らの多くはネカトをしない。

●6.【白楽の感想】

《1》正統派 

白楽はこの論文の方法論・図表を理解できず、検証できないが、ネカト問題への正攻法の研究であることは十分理解できる。つまり、この論文は、ネカトを正面から科学的に研究している。

日本にこういう研究がない。研究者がいない。こういう研究者を育成する大学・研究室もない。こういう研究が日本に必要なんだけど・・・。

日本の研究ネカトの国家政策(文部科学省や内閣府の政策)は、日本の研究がないから、日本の実態を把握しない(できない)で進めている。シンクタンクのおざなりの報告書、官僚の忖度、政府委員の自分の経験、政府委員の勘で方針を決めて、数十億円のお金を使っている(推定)。

米国の制度・施策をソックリ真似る方がマシな気もする。イヤイヤ、正統派の研究者を育て、科学的分析に基づいたまともなネカト施策を立案・実施して欲しい。早急に。

《2》日本のネカト実態は米国と異なる 

ダニエル・ファネーリ(Daniele Fanelli)の本論文「2015年6月のPLoS ONE」は、早期キャリア研究者(院生やポスドクなど)がネカト3要因の1つなので、早期キャリア研究者のネカト指導とトレーニングの強化はそれなりに有効だと述べている。

実際、米国の研究公正局のデータでは早期キャリア研究者にネカトが多い。

しかし、日本のネカト事件は、米国とは異なり、主に教授が起こしているのである。

だから、日本政府が早期キャリア研究者にネカト教育をするのは妥当な施策とは思えない。して悪くはないが、有効な施策ではないことが明らかだ。

しかし、そういう科学的知見に基づいた施策ではなく、政策者の「思い込み」と「思い付き」で、2012年から2017年までの5年間、文部科学省は、数億円かけて、大学院生の研究倫理教育「研究者育成の為の行動規範教育の標準化と教育システムの全国展開(CITI Japan プロジェクト)」を支援してきたのである。そして、現在の日本も、その流れの中から抜け出せない。

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