ピーター・リトルフィールド(Peter Littlefield)(米)

2018年3月8日掲載。

ワンポイント: 2015年8月(28歳?)、2014年の2論文について、研究公正局がネカトと発表した。締め出し期間は標準の3年間。カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)の院生で、医師ではない。推定だが、2015年初旬、ボスのナタリア・ジュラ助教授(Natalia Jura)がデータねつ造・改ざんに気が付いて大学に通報した。損害額の総額(推定)は1億3700万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ピーター・リトルフィールド(Peter Littlefield、写真出典)は、米国のカリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)の院生で、医師ではない。専門は生化学(細胞内情報伝達)だった。

2014年(27歳?)、ネカト論文を発表。

推定だが、2015年初旬、ボスのナタリア・ジュラ助教授(Natalia Jura)がデータねつ造・改ざんに気が付いて大学に通報した。

2015年8月(28歳?)、研究公正局がネカトと発表した。締め出し期間は標準の3年間を科した。

University_of_California_San_Francisco_School_of_Medicine_UCSF_5655751カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2005年の大学入学時を18歳とした
  • 現在の年齢:37 歳?
  • 分野:生化学
  • 最初の不正論文発表:2014年(27歳?)
  • 発覚年:2015年(28歳?)
  • 発覚時地位:カリフォルニア大学サンフランシスコ校・院生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は、推定だが、ボスのナタリア・ジュラ助教授(Natalia Jura)で、大学に通報した。
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カリフォルニア大学サンフランシスコ校・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:2報。内1報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は1億3700万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究になる直前なので損害額は4500万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が、研究者になっていないので損害額はゼロ円。④外部研究費の額は不明で、額は①に含めた。⑤調査経費(大学と学術誌出版局と研究公正局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: NIHから 3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

出典:(2) Peter Littlefield | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1987年1月1日生まれとする。2005年の大学入学時を18歳とした
  • 2005-2009年(18-22歳?):米国のウエスタン・ワシントン大学(Western Washington University)で学士号取得:生化学
  • 2009年9月-2011年8月(22-24歳?):ワシントン大学(University of Washington)・生化学研究室で研究員
  • 2011年9月(24歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)で研究博士号(PhD)コースの院生
  • 2014年(27歳?):ネカト論文を発表
  • 2015年(28歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校がネカトと結論した(推定)
  • 2015年(28歳?):カリフォルニア大学サンフランシスコ校を退学(推定)
  • 2015年8月(28歳?):研究公正局がネカトと発表した
  • 2015年?(28歳?):学生教育支援企業「AJ Tutoring」の職員に就職:Bay Area SAT Tutoring | 1 on 1 Academic Tutoring | AJ Tutoring

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★学部と卒後2年間

ピーター・リトルフィールド(Peter Littlefield )はウエスタン・ワシントン大学卒業後、2年間、ワシントン大学(University of Washington)・生化学研究室で研究員として働いた。

それから、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)の研究博士号(PhD)コースの院生になった。

第一著者ではないが、ウエスタン・ワシントン大学・学部生の時の論文を2010年に1報出版した。

ワシントン大学(University of Washington)・生化学研究室で研究員として働いた時の論文も、第一著者ではないが、2011年と2012年に計2報出版した。

かなり優秀な学生・研究員だったと思われる。

★大学院生

2011年9月(24歳?)、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San Francisco)・大学院に入学した。

研究室のボスはナタリア・ジュラ助教授(Natalia Jura、写真出典)で、細胞外の増殖刺激を細胞内に伝達する生化学仕組みを研究していた。

2012年2月(25歳?)、研究室でランチに出かけた写真に写っている(以下、左端)。

2014年8月(27歳?)の研究室ハイキングでも写っている。右から2人目。

研究公正局が問題視した論文は、「2014年4月のChem Biol.」論文と「2014年12月のSci Signal.」論文である。

ということは、ネカトの発覚は「2014年12月のSci Signal.」論文が出版された後の2015年初頭だと思われる。

発覚の経緯は不明だが、推定すると、2015年初旬、研究室仲間がデータねつ造・改ざんに気が付き、ボスのナタリア・ジュラ助教授に相談した。または、ジュラ助教授自身が気が付いた。多分、後者だろう。そして、ジュラ助教授が大学に通報した(推定)。

【ねつ造・改ざんの具体例】

研究公正局が問題視した論文は、「2014年4月のChem Biol.」論文と「2014年12月のSci Signal.」論文である。

★「2014年4月のChem Biol.」論文

「2014年4月のChem Biol.」論文の書誌情報を以下に示す。2015年9月1日に訂正された。2018年3月7日現在、撤回されていない。

研究公正局が指摘したねつ造・改ざんは以下の3点である。図は原論文から流用した。

1.図5Bで、意図した結果を得るためにHER3タンパク質濃度を操作した。

2.図6Cで、EGFRおよびHER3の両方がキナーゼドメインおよび完全なJMセグメントを含むと改ざんした。
3.図6Dで、キナーゼアッセイの統計的有意性を高めるためにエラーバーを操作した。

このデータ改ざんは、出来上がった図を見ていてもどこをネカトされたかわからない。ねつ造・改ざんは生データを知る共同研究者しかわからない。

★「2014年12月のSci Signal.」論文

「2014年12月のSci Signal.」論文の書誌情報を以下に示す。2017年7月に撤回された。

研究公正局が指摘したねつ造・改ざんは以下の3点である。図は原論文から流用した。

1.図3Cは、仮説に合うようにデータの数値を10-20%改ざんした。

2.図4Aは、データの改ざんとエラーバーの操作。
3.図4Bは、データの数値を〜15%改ざんした。

このデータ改ざんは、出来上がった図を見ていてもどこをネカトされたかわからない。ねつ造・改ざんは生データを知る共同研究者しかわからない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年3月7日現在、パブメド(PubMed)で、ピーター・リトルフィールド(Peter Littlefield)の論文を「Peter Littlefield [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2010~2017年の8年間の7論文がヒットした。内1論文は撤回公告である。

2018年3月7日現在、「Peter Littlefield [Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。つまり、「2014年のChem Biol.」論文が2017年7月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2018年3月7日現在、「パブピア(PubPeer)」はピーター・リトルフィールド(Peter Littlefield)の論文にコメントしていない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》大学院・研究初期のネカト

白楽は、院生の論文を研究公正局レベルの事件にしてしまうのは、指導教員がおかしいと思う。ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)(米)の記事の【白楽の感想】にその思いを具体的に書いた。そちらを読んでほしい。

一方、院生の時にネカト行為を見つけて、早々と研究界から排除する米国のシステムは優れていると思う。グズグズしていると、知識・スキル・経験が積まれ、なかなか発覚しにくくなるし、ネカト行為の影響が大きくなる。被害が大きくなる。

《2》その後の人生

2015年(28歳?)、ネカト事件発覚後、リトルフィールドはカリフォルニア大学サンフランシスコ校を退学し、「AJ Tutoring」という学生教育支援企業に勤めた。
→ Bay Area SAT Tutoring | 1 on 1 Academic Tutoring | AJ Tutoring

2018年3月7日(31歳?)現在、チームリーダになっている。

成功を祈る。

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●8.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2015年8月31日:Federal Register, Volume 80 Issue 168 (Monday, August 31, 2015)、(2)2015年8月31日:https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2015-08-31/pdf/2015-21421.pdf
② 2015年8月25日以降の「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Peter Littlefield | Retraction Watch
③ 2015年(?)の「AJ Tutoring」記事:Peter Littlefield | AP Chemistry and Biology Tutor | AJ Tutoring、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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