2016年12月23日改訂。
ワンポイント:ドイツの非営利組織が運営。ドイツ語圏の博士論文及び教授資格論文(教格、Habilitationsschriften)での盗用を数十人の大学教授・研究者が調査分析し、告発するドイツ語のサイト。2011年3月18日に開始し、178人の有力な政治家、著名な学者・研究者の盗博を告発した(2016年12月22日現在)。盗博発覚後、ドイツの現職大臣が数名辞任した。強力なネカトハンター組織。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の要点
2.日本語の解説
3.運営者
4.活動内容と利用法
5.活動成果
6.白楽の感想
7.過去の保存版、他の情報源
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●1.【ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の要点】
ドイツ語圏の博士論文及び教授資格論文(教格、Habilitationsschriften)での盗用を数十人の大学教授・研究者が調査分析し、告発するドイツ語のサイト。ドイツの非営利組織が運営。
ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)の盗博分析図(説明は4章)。出典
- サイト名:ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)
- サイト:http://de.vroniplag.wikia.com/
- 閲覧:無料
- 言語:ドイツ語
- 現在の活動:とても活発
- 活動概要:ドイツ国内の大学に提出した博士論文及び教授資格論文(教格、Habilitationsschriften)の盗用を告発する
- 発覚数:盗用発覚数は178人(2016年12月22日現在)。内訳:165博士論文、11教格(Habilitationsschriften)、1修士論文、1科学入門書
- 組織:非営利
- 運営者:白楽は把握できていない。ドイツの学者(推定)
- スタッフ総数:不明
- 連絡先:白楽は把握できていない。
- フェイスブック:白楽は把握できていない。
- ツイッター: https://twitter.com/VroniPlagWiki 1,109人がフォロー(2016年12月19日現在)。不活発。
- 参加者:不特定多数の数十人の大学教授・研究者(?)が参加名で貢献。有力な参加者は、デボラ・ヴィーバー=ヴルフ・教授(Debora Weber-Wulff、参加名「WiseWoman」)、ゲアハルト・ダンネマン・法学教授(Gerhard Dannemann、参加名「PlagProf. Academic」)など
- 特徴:①「ウィキ(Wiki)」システムを使いククラウドソーシング(不特定多数の人の共同プロジェクト、クラウドソーシング )で調査分析するという独自の方法論を開発している。②盗用量を5色のバーコードからなる盗博分析図で表示し、バーコードをサイトにリンクするという独自の表示法を開発している。
- 活動期間:2011年3月18日に開始し、13 年8 か月 3 日経過
●2.【日本語の解説】
★2013年2月10日の純丘 曜彰(すみおか てるあき)・大阪芸術大学芸術学部教授のブログ記事 :「バカ発見器の次はパクリ発見器」
出典 → バカ発見器の次はパクリ発見器 – INSIGHT NOW!プロフェッショナル
9日、ドイツのメルケル首相の側近シャヴァン教育研究相がクビになった。理由は、33年も前の学位論文における盗用疑惑。彼女だけではない。2011年3月には、グッテンベルクお坊ちゃま国防大臣も、同じ理由で辞めさせられて、米国に逃げてしまっている。この調子で、政治家たちが次々に討ち取られている。
重要なのは、その発覚の原因だ。ウィキペディアの中心として有名なジミー・ウェールズなんかが剽窃発見器を作っちまったこと。ヴロニプラーク・ウィキと言う。論文をぶち込むと、あらすごい、たちどころに既存の論文や書籍との平行箇所を洗い出し、DNA鑑定のようにバーコードで表示して、盗用疑惑率をはじき出してくれる。まあ、専門の学者なら、こいつ、怪しいな、と思うやつを見かけたことはあるだろうが、よほど個人的な恨みでもなければ、いちいち手間をかけて検証したりしない。だが、このヴロニプラークを使えば、一発でわかる。
このシステムは、もともとバイロイト大学のアイディアで、現行稼働はドイツ語と英語だけだが、すぐにほとんどすべての言語で使えるようになるだろう。ドイツではとくに社会的地位に学位が必須であるために、まずは著名政治家が狙い撃ちになっているが、遠からず世界中の一般の研究者の論文もすべて精査される。当然、小説やエッセイ、ノンフィクションなども。それも、新規の著作だけではない。スキャナーOCRや電子図書化の発達で、数十年、数百年も昔の盗用が暴き出されることになる。
これは大変なことだ。先述のように、著名な作家や学者の中にも、前から疑わしいとウワサになっているやつらは少なくない。ただ、業界内での権力のおかげで、つつかれずに済んでいるだけ。しかし、このパクリ発見器は、そんなもん知ったこっちゃない。放り込めば、まったく無慈悲に機械的な結果を出す。
★2016年11月18日の「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」記事 :「博士尊ぶドイツ、「偽物」は許さない」
出典 → 博士尊ぶドイツ、「偽物」は許さない – グノシー(保存版)
元典 → Doctor Who? Germans Wage Vigilante Campaign Against Fake Ph.D.s – WSJ(保存版)
ドイツでは、学術称号の不正使用は1年の懲役刑か厳しい罰金刑に処させることがある。さらには、学歴詐称や学術論文での剽窃行為など学問の世界の不届き者を探し回る匿名の自警団も誕生した。
ドイツでは何十人もの学者が自分の時間を費やして引用が怪しい論文を徹底的に調査している。こうした自警団はこれまでに学者やちょっとした有名人、主要な政治家を調査、その多くが「VroniPlag Wiki(ブロニプラーク・ウィキ)」というサイトで告発された。
中には、5万本の医学論文をダウンロードして、60件を超える重大な剽窃行為を暴露した人や、3月間、フルタイムで1本の論文の調査に取り組んだ人もいる。
ベルリン技術経済大学のメディア・コンピューター担当教授のデボラ・ヴィーバー=ヴルフ博士は論文調査について「始めたらやめられない。趣味のようなもの」と話す。自身も「WiseWoman(賢い女性)」の名前で論文を調査している。
ブロニプラーク・ウィキは2011年に開設された。当時、メルケル首相の後継者と目されていたカール・テオドール・ツー・グッテンベルク国防相が博士論文で他人の論文を一部盗用していたという疑惑が浮上し、ドイツ中で抗議デモが行われた。
1000人を超えるネット自警団が盗用を立証したところ、国防相は他の資料をまねたことは認めたが、意図的ではなかったとして剽窃を否定した。ツー・グッテンベルク氏は国防相を辞任、大学は同氏の博士号を取り消した。
2012年にはツー・グッテンベルク氏の剽窃を激しく批判したアンネッテ・シャバン教育相が狙われた。大学はシャバン氏の博士号を取り消した。シャバン氏は剽窃を否定し、法廷で争ったが敗訴した。教育相を辞任し、現在はバチカン大使を務めている。
職場で博士号の称号をどう扱うかについては厳しい規則がある。ドイツの連邦労働裁判所は1984年、従業員の学術称号を間違えたり、正式な肩書を使用しなかった場合、従業員の人格権の侵害に当たるとの判断を下した。
●3.【運営者】
白楽は把握できていない。
●4.【活動内容と利用法】
★活動内容
ドイツの盗博(盗用博士論文)を数十人の大学教授・研究者(?)が参加名で調査・分析し、告発しているウェブサイトで、ドイツ語で書かれている。
議論に参加する注意点
→ VroniPlag Wiki:Forum | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
議論に参加するには、登録が必要(無料)
→ Erstelle ein neues Wiki | Fandom powered by Wikia
盗用の判定は盗用検出ソフトを使用している。白楽は具体的解析方法を把握できていない。
盗用文章と被盗用文章を併記して、盗用の証拠を示し、博士論文の盗用ページ率を%表示している。盗用文字率も概算している。
★閲覧する
閲覧は、無料・無登録で誰でもできる。
盗博者の全リスト
→ Übersicht | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
上記リストのカラムの左から3つ目の青色が、盗博者の略号(名前と姓の頭文字)で、クリックすると、該当する盗博ページが開く。次項に盗博ページの解読を示す。
全盗博者の略号のリスト(アルファベット順)もある。以下は2016年12月22日現在の全盗博者178人の略号リストである。クリックすると、該当する盗博ページが開く。
Alle Dokumentationen (Home)
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【解析結果の解読方法】
例として、リスト1番のヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の解析結果を説明する。
上記リストのヴェロニカ・サスの略号「Vs」をクリックすると以下のサイトが出てくる。
→ Vs | VroniPlag Wiki | Fandom powered by Wikia
――――
Eine kritische Auseinandersetzung mit der Dissertation von Veronica Saß: Regulierung im Mobilfunk
Eingereicht am Fachbereich Rechtswissenschaft der Universität Konstanz. Tag der mündlichen Prüfung: 29. Oktober 2008. Gutachter: apl. Prof. Dr. Georg Jochum, Prof. Dr. Kay Hailbronner. Veröffentlicht: Berlin 2009. → Nachweis Deutsche Nationalbibliothek → Voransicht Google Books → ISBN 978-3-8258-1976-7. Bekanntgabe Aberkennung des Doktorgrades: 11. Mai 2011. → Urteil des Verwaltungsgerichts Freiburg, 1 K 58/12, 23. Mai 2012.
Wichtige Seiten
- Die Galerie zeigt einige aussagekräftige Beispiele
- Zum Diskutieren, Austausch, Informieren, Koordination der Arbeiten: http://webchat.freenode.net/?channels=vroniplag
- Pressespiegel zum Fall Vs
Die Fragmente
- Fragmente: einzeln oder Alle in Einem
Seiten mit Plagiaten (Phase 1 – Suche nach Plagiaten)
Funde auf neuen Seiten, die noch nicht im Barcode sind, können hier für die Anzeige im Barcode eingetragen werden.
Seite 1 – 99
- Seite 4 – Vs/Fragment 004 17-19
以下略
――――
サイトの文章をコピぺしたので、上記文章(除・図)の赤色のドイツ語はサイトにリンクしている。
- 表題に盗博者名と博士論文のタイトルが記載されている:Eine kritische Auseinandersetzung mit der Dissertation von Veronica Saß: Regulierung im Mobilfunk
- 論文提出大学:コンスタンツ大学の法学部に提出・・・Eingereicht am Fachbereich Rechtswissenschaft der Universität Konstanz.
- 論文口頭試験の日: 2008 年 10 月 29 日・・・Tag der mündlichen Prüfung: 29. Oktober 2008.
- 審査員: ジョージ・ヨッフム・助教授・博士、ケイ ・ハイルブロナー・教授・博士・・・ apl. Prof. Dr. Georg Jochum, Prof. Dr. Kay Hailbronner
- 公開: ベルリン 2009 年 → ドイツ国立図書館の論文記録(クリックすると書誌情報がでる)→ 論文が出版されていて、クリックするとGoogle の ISBN 978-3-8258-1976-7のブックサイトがでる・・・ Berlin 2009. → Nachweis Deutsche Nationalbibliothek → Voransicht Google Books → ISBN 978-3-8258-1976-7.
- 博士号はく奪: 2011年5 月11 日 → フライブルク行政裁判所、1 K 58/12、2012 年 5 月 23 日判決・・・Bekanntgabe Aberkennung des Doktorgrades: 11. Mai 2011. → Urteil des Verwaltungsgerichts Freiburg, 1 K 58/12, 23. Mai 2012.
ここまでが、盗博分析図の上に書いてある文章である。
次に、盗用解析をした5色のバーコードからなる盗博分析図がある。博士論文は数百ページの及ぶ長文なので、左から右に、論文全体の解析作業と盗用の程度を5色のバーコードで示している。以下に再掲しよう。
バーコードの上部に[VS 2009]とあり、ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の2009年版解析を示している。右端の53.98%は盗用ページ率である。
盗用ページ率の算出は次の通り。分母=分析対象ページ数(表題、目次、表、図、文献、付録などを除いた部分)。分子=盗用ページ数。
バーコードの下部の数字は博士論文のページ番号である。
5色のバーコードは各ページの論文全体の解析作業と盗用の程度を示している。色の意味は以下の通り。
- 青:表題、目次、表、図、文献、付録で、計算に含めない
- 白:盗用なし
- 黒:盗用が50%以内
- 暗い赤:盗用が50%~75%未満
- 明るい赤:盗用が75%以上
黒、暗い赤、明るい赤は、論文の盗用文章にリンクしている。クリックすると、以下のサンプルに示すように、文章の類似部分が具体的に対比されている(左が盗用、右が元の文章。色は類似性の高い語群)。但し、ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)などの初期の盗博分析図では盗用文比較表にリンクしていない。画面ではなく説明文になっている。
サンプル(ヴェロニカ・サスのケースではない。出典:画面)。左カラムが盗用文で右カラムが被盗用文である。盗用部分を同じ色で示してある。
●5.【活動成果】
●【被告発者の全体像】
後に具体例として挙げる3人の被告発者は政治家(またはその娘)だが、政治家だけでなく、医師・歯科医師、いろいろな研究分野の大学教授・研究者の盗博が告発されている。
★被告発者は約30人/年
2016年12月22日現在、盗用発覚数は178人である。内訳は、165博士論文、11教格(Habilitationsschriften)、1修士論文、1科学入門書である。
2016年12月22日現在の告発数である178人を活動期間の5年9か月で割ると、31と出た。31人/年の盗博を告発した計算になる。
ブログ初版記事の2014年6月5日時点では、3年3か月の活動で、95人の盗博を告発していた。その時点で、30人/年の盗博を告発した計算なので、その後も告発ペースが落ちていない。
本ブログ「研究倫理(研究ネカト)」で解説した事件は以下のサイトで示した。
★教授資格論文
盗用は博士論文だけでなく、教授資格論文(Habilitationsschriften)もある。ここでは、博士論文と合わせ、盗博としてまとめる(ことが多い)。
教授資格(ハビリテーション、habilitation)は日本や米国にはない称号・資格である。博士号よりも上位で、ずっと難しい称号・資格である。教授資格論文は、大学で教授できる資格を取得するための論文である(①KAKEN – ドイツ大学の大学教授資格試験(Habilitation)に関する歴史的研究(61510130)(保存版)、②ヴァイス ゲオグ (G.S. Weiss) 「ドイツの大学―改革の研究職と研究費」(保存版))。
★被告発者の男女比
2014年6月5日時点でヴロニプラーク・ウィキが告発した盗博者95人は、男性が66人、女性29人、で男女比=2:1だった。
2016年12月22日現在の盗博者178人では、男性が66+47人=113人、女性29+36=65人、で女性率が上がったが、マー、男女比=2:1だ。
ドイツ全体の博士号取得者の男女比を調べていないが、男女比=2:1は博士号取得者の男女比を反映しているのだろう。
★被告発者の有名人
被告発者に有力政治家が多数いる。
ヴロニプラーク・ウィキは有名人を狙い撃ちにしているという批判がある。
ヴロニプラーク・ウィキは、有名人かどうかにかかわらず告発しているが、メディアが有名人しか報道しないので、そのような印象を与えるだけだと、述べている(出典、ゴメン。忘れました)。
以下は、「【ドイツ】ガウク大統領、新教育相に数学博士のヴァンカ氏を任命」(2013年2月15日)の記事である(ライブドアニュース)保存版。
ドイツのヨアヒム・ガウク大統領は、14日、ヨハンナ・ヴァンカ(Johanna Wanka)氏(CDU)を新しい教育相に任命した。シュピーゲル誌オンライン版が14日、報じた。
前任のアネッテ・シャーヴァン(Annette Schavan)氏(CDU)は、1980年に提出した博士論文の盗作疑惑により、5日、デュッセルドルフ大学から博士号をはく奪され9日、大臣職を辞任した。2011年6月、シルヴァーナ・コッホ=メーリン(Silvana Koch-Mehrin)氏(FDP)も、欧州議会議員だった当時、論文盗用疑惑でハイデルベルク大学から博士号をはく奪された。
2011年7月、欧州議会議員のヨルゴ・チャツィマルカキス(Jorgo Chatzimarkakis)氏(FDP)は、インターネットで論文盗作を指摘され、ボン大学から博士号をはく奪。
2012年4月、当時、自由民主党のアドバイザーだったマルガリータ・マチオポロス(Margarita Mathiopoulos)氏(FDP)は、博士号を失った。ボン大学の決定に対し、マチオポロス氏はケルン行政裁判所に訴訟を起こしたが、昨年12月却下された。氏は控訴を表明している。
アネッテ・シャーヴァン(女性)は別サイトの「SchavanPlag」(日本語参考)で告発されたが、シルヴァーナ・コッホ=メーリン(女性)、ヨルゴ・チャツィマルカキス(男性)、マルガリータ・マチオポロス(女性)の3人は、ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)で告発された人たちである(VP番号3、4、7)
●【脚光を浴びた盗博事件】
★2011年2月、グッテンベルク事件(Causa Guttenberg – Wikipedia)
2011年2月12日、ドイツ・ブレーメン大学のフィシャー‐レスカノ(Fisher-Lescano)教授が、ドイツのグッテンベルク国防相(男性、当時39歳)の博士論文のレビューを書いているうちに、グッテンベルクの博士論文中に引用しないで他人の文章を流用している部分を発見した。グッテンベルクは2007年、ドイツのバイロイト大学から博士号を授与されていた。
盗博と関係ないが、グッテンベルクの人となりを理解する1つとして、グッテンベルクの妻・ステファニー(1976年生まれ)は鉄血宰相オットー・ビスマルクの4代目である(グッテンベルクとその妻:写真出典、夫、妻)。
フィシャー‐レスカノ(Fisher-Lescano)教授は、人気政治家であるグッテンベルク国防相の博士論文の盗用疑惑をどこに相談しようか迷った末、ドイツの代表的新聞の1つ南ドイツ新聞(Süddeutsche Zeitung)に連絡した。
2011年2月16日、南ドイツ新聞は「グッテンベルク国防相の博士論文は盗用だった」と公表し、ドイツ政界は騒然となった(Plagiatsvorwurf gegen Verteidigungsminister – Guttenberg soll bei Doktorarbeit abgeschrieben haben – Politik – Süddeutsche.de)(保存版)。
《動画》ドイツ語「ドイツ連邦下院で盗用問題に答えるグッテンベルク国防相」
2011/02/23 にhausmitteilungenがアップロード
グッテンベルクは「大きな間違をしたが、盗用はしていない」と主張した。しかし、発覚1週間後の2011年2月23日、バイロイト大学はグッテンベルクの博士号を取り消した。発覚後1週間とは、動きが素早い。
「人気の独国防相に論文盗用疑惑、辞任要求強まる 」(YOMIURI ONLINE(読売新聞)保存済
【ベルリン=三好範英】ドイツで現在最も人気がある政治家で、メルケル首相の後継とも目されているグッテンベルク国防相(39)(キリスト教社会同盟=CSU)の博士論文に盗用と疑われる箇所が多数あることが分かり、野党などからは辞任を求める声が強まっている。
独各メディアによると、盗用疑惑は国防相が2007年にバイロイト大学から博士号を取得した際の論文で持ち上がった。
米国と欧州連合(EU)の憲法の発展をテーマとする475ページの論文の中で、有力紙「フランクフルター・アルゲマイネ」掲載の寄稿論文など計15文献の記述が、脚注などに適切な表示をすることなしに引用されていた。1ページ半にわたりほぼ原文通りに引用されている箇所もあった。
(2011年2月19日21時37分 読売新聞)
グッテンベルク(正式には、カール=テオドール・フライヘア・フォン・ウント・ツー・グッテンベルク、ドイツ語: Karl-Theodor Freiherr von und zu Guttenberg, 1971年12月5日‐)は、ドイツの政治家。所属政党はキリスト教社会同盟(CSU)。2009年2月よりアンゲラ・メルケル内閣で経済・科学技術相を、同年10月より国防相を務めたが、博士論文盗用が明るみに出て2011年3月に辞任した。(カール=テオドール・ツー・グッテンベルク – Wikipedia)
グッテンベルクは盗用事件発覚後13日目の2011年3月1日に国防相を辞任し、公衆の前にでることなく、米国で静かに過ごした。この間、執筆活動をしていたようだ。発覚後9か月過ぎた2011年11月、米国から帰国し、ドイツでの政治活動に復帰し、現在(2014年6月5日)も政治家として活動している。
実は、このグッテンベルク事件では、「ウィキ (Wiki)」システムを使ったサイト「グッテンプラーク・ウィキ(GuttenPlag Wiki)」(ドイツ語)が情報収集・分析に重要な役割を果たしていた。
★2011年3月:ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)事件
「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」は、グッテンベルク事件で重要な役割を果たした「グッテンプラーク・ウィキ(GuttenPlag Wiki)」(ドイツ語)の人々が集まって、2011年3月18日に開始した。
「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」として最初に告発した博士論文はヴェロニカ・サス(Veronica Saß、女性)の論文だった。
ヴェロニカ・サスは後述するが、ドイツの有力政治家の娘である。告発サイトの名称の「ヴロニ(Vroni)」は、「ヴェロニカ(Veronica)」のドイツ語での愛称である。ヴェロニカ・サスの盗用問題が終わっても、以後、ドイツの博士論文の盗用告発サイトとして、この名称が固定した(VroniPlag Wiki – Wikipedia)。
- 1977年生まれ。女性。ドイツ人。(写真:出典)
- 有力政治家の娘で、3人兄妹の2番目で長女。
- 2008年10月29日(31歳) コンスタンツ大学で法学・博士号取得。
- 2011年3月18日告発(34歳)。盗用ページ率は53.98%
- 2011年5月11日 コンスタンツ大学が博士号取消。
ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)は著名な政治家・エドムント・シュトイバー(Edmund Rudiger Stoiber)の娘で、2008年にコンスタンツ大学で法学の博士号を取得した。
エドムント・シュトイバー(Edmund Rudiger Stoiber、1941年9月28日 – )は、ドイツの政治家、法学博士。1993年から2007年までバイエルン州首相、1998年から2007年までキリスト教社会同盟(CSU)党首(議長)を務めた。2002年のドイツ連邦議会選挙では連邦首相候補として現職のゲアハルト・シュレーダーに挑んだが、僅差で敗れた。(エドムント・シュトイバー – Wikipedia)
2011年3月18日、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」がヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の博士論文が盗用だと告発した。2011年5月、コンスタンツ大学は博士号を取り消した(①Stoibertochter Veronica Saß unterliegt in Plagiatsfall vor Gericht – SPIEGEL ONLINE、(保存版)②Debora Weber-Wulff教授のCopy, Shake, and Paste: Veronica Saß loses court case(保存版))。
ヴェロニカ・サスは裁判で、博士論文の約30%に他人の文章を使用したと盗用を認めたが、大学が論文の書き方を教育してくれなかったと大学のせいにした。主張は通らず、敗訴した。
ヴェロニカ・サス(Veronica Saß)の盗用解析は「4章 解析結果の解読方法」で例示したので、再掲しない。
★2011年7月:マルガリータ・マチオポロス(Margarita Mathiopoulos)事件
- 1956年5月17日生まれ。女性。ギリシャ系ドイツ人。(写真:出典)
- 著名な政治学者。
- ドイツ自由民主党、政府外務大臣のアドバイザー。ポツダム大学名誉教授。
- 1986年11月5日(30歳) ボン大学で博士号取得。
- 2011年7月12日告発(55歳)。盗用ページ率は46.31%。
- 2012年4月18日(55歳) ボン大学が博士号取消。
- ボン大学・学術職を失職。
参考資料
- Government Advisor Margarita Mathiopoulos’ Doctorate Rescinded Due to Plagiarism | Greek Reporter Europe(保存版)
- Margarita Mathiopoulos – Wikipedia
- Prof. Dr. Margarita Mathiopoulos(保存版)
●6.【白楽の感想】
《1》盗用の基準
2014年6月5日版で書いたが、「ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)」は盗用の基準をどう設定しているのだろう?
178人の内、盗用ページ率の最多は100%でVP74、VP92、VP113の3人がいる。最少はVP39の15.4%だ。
盗用ページ率15.4%、これを15%として、15%を盗用の判定基準にしてよいか? つまり、15%以上を盗用とし、以下を盗用ないでよいか? 答えは「ノ―」だろう。
盗用ページ率15.4%の博士論文でも、盗用部分のバーコードの「明るい赤:盗用が75%以上」を見ると、文章の流用は明白である。単純に全体に占める割合では判定できない。
ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)が告発すると、多くの大学は博士号を取り消した。しかし、少数の大学は、盗用と認めなかった(博士論文の40~70%のページが他人の文章と酷似していても)。
ウルズラ・フォンデアライエンは、1990年にハノーバー医科大学から授与された研究博士号(PhD)が盗用ページ率43.5%の盗博だった。全62頁の博士論文の27頁(27頁目ではない)に盗用があった。
しかし、現職のドイツの国防大臣だったためと思われるが、2016年3月、なんと、ハノーバー医科大学は「過失があったが、意図的な不正ではない」として、博士号をはく奪しなかった。
→ 独国防相の博士号取り消さず 論文盗用疑惑で出身の医科大「意図的な不正ではない」 – 産経ニュース(保存済)
この場合、ハノーバー医科大学側のネカト専門家(または弁護士?)とヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)側(こちらも法的専門家がいるに違いない)の「盗用」の判断が異なる。
つまり、ドイツの盗用の公式基準が不明確だということだ。ドイツと書いたが、米国でも日本でも不明確だ。
米国マサチューセッツ州 ボストンの私立大学・サフォーク大学(Suffolk University)の学生は1単語で盗用とされ、さすがにこれは非難された(2016年11月1日の記事:Student accused of cheating for writing ‘hence’ | Fusion(保存版))。
インドでは、10単語連続で同じ場合を盗用と定義しようという話がある。
もちろん、そういう基準を明確にしたくない勢力があるに違いない。盗用と判定するかどうか、裏側で、盗用判定をダシに、カネと権力と体面のぶつかり合いの陰謀策術・権謀策術のバトルがあるのに違いない。
《2》日米英の政治家の盗博
日本の政治家で博士号を持っている人はごくわずかなので、日本の政治家が盗博で告発されることはほとんどないだろう。今まで事例がない。
修士論文を調査・分析できれば、政府官僚も対象になるが、修士論文を入手するのは簡単ではない。また、修士論文を博士論文と同等に扱うかどうか、確立していない。ヴロニプラーク・ウィキでも盗用を問題視した修士論文は1件だけである。
日本での盗博の主な対象者は元・院生、大学教員・研究者である。
米国と英国の政治家は告発対象になりにくい。博士号を持っている人が少ないからである。
2011年の『エコノミスト』誌によると、メルケル首相を含めドイツ連邦下院議員の20%、114人が博士号を持っている。一方、米国議会は3%の18人しか、英国議会・庶民院は650議員の3.2%の21人しか博士号を持っていない。(2014年5月23日のBill Bowringの「openDemocracy」記事:「Putin’s dissertation and the revenge of RuNet 」、(保存版))
イヤ、人数が少ないので、全員を徹底的に調べてしまう? それがいいかも。
《3》日本は導入しないのか?
ドイツの盗博事態は深刻だが、日本は「対岸の火事」として良い状況ではない。日本はヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki)のような告発システムを持っていない。
盗用と限らず、ねつ造・改ざんを含めた研究ネカトを告発するシステム(ヴロニプラーク・ウィキのようなシステム)が日本に生まれると研究公正はよりよく保たれるだろう。しかし、日本にはない。
盗用を含め、研究ネカトの定義・判定基準について、日本国内ではあまり議論がない。ドイツより、もっと、悪い状況に置かれている気がする。
日本では、2013年4月1日以降、博士論文はウェブ上に公表することが義務化された。盗博のチェックは容易になった。
●7.【過去の保存版、他の情報源】
- 過去の保存版:2014年6月8日掲載、2016年12月11日保存:1‐4‐10.独 ヴロニプラーク・ウィキ(VroniPlag Wiki) | 研究倫理(研究ネカト)
- ヴロニプラーク・ウィキのサイト(ドイツ語):VroniPlag Wiki
- ウィキペディア英語版:VroniPlag Wiki – Wikipedia, the free encyclopedia
- デボラ・ヴィーバー=ヴルフ教授のサイト(英語):①Copy, Shake, and Paste: VroniPlagWiki Scorecard – Part I、②Copy, Shake, and Paste: VroniPlag Wiki Scorecard – Part II
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