2021年8月29日掲載
ワンポイント:アラバマ大学(University of Alabama)の博士院生だったシュリーヴスのデータねつ造が2017年(29歳?)に発覚した。ただ、データはシュリーヴスが出したが、論文は指導教授のウィリアム・ハート準教授(William Hart)の単著論文だった。アラバマ大学は調査の結果、院生・フォックス(Fox)(仮名)をネカト犯とした。本記事では、シュリーヴスをネカト犯と明示したが、実は、誰もネカト犯の実名をハッキリとは言っていない。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves、Wyley B. Shreves、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のアラバマ大学(University of Alabama)・心理学科の博士院生で、専門は社会心理学である。
2017年2月21日、オランダのエラスムス・ロッテルダム大学(Erasmus University Rotterdam)のロルフ・スワン教授(Rolf Zwaan)が、アラバマ大学・心理学科のウィリアム・ハート準教授(William Hart)が単著で出版した「2013年のPsychol Sci.」論文のデータが異常だと指摘した。
アラバマ大学がネカト調査し、院生・フォックス(Fox)(仮名)がハート準教授に提供したデータにねつ造があったと結論した。ただ、アラバマ大学は院生の実名を公表しなかった。
問題の「2013年のPsychol Sci.」論文は撤回された。
データ疑惑が生じたので、同じアラバマ大学・心理学科のアレクサ・タレット準教授(Alexa Tullett)は、フォックス(Fox)が関与した自分の論文を精査した。
2017年12月、その結果、タレット準教授は自分の「2015年のCognition」論文を撤回した。
この「2015年のCognition」論文の著者は、タレット準教授とハート準教授の他に「2人の著者」がいた。
タレット準教授は、この「2人の著者」の内の1人・ザカリー・フェッターマン(Zachary Fetterman)はネカト者ではないと否定した。
となると、消去法で残った最後の著者がフォックス(Fox)になる。ということで、白楽は、フォックス(Fox)=ワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves)と推定したのだ。
ところが、この一連の流れの中で、ハート準教授、タレット準教授、アラバマ大学の誰も、フォックス(Fox)=シュリーヴスだとは言わなかった。
これほど曖昧な対処は米国では奇妙である。裁判などが絡むのだろうか? 心理学は科学庁(NSF)系列でもあるので、科学庁(NSF)の隠蔽文化に従ったのだろうか?
でも、曖昧を通した結果、シュリーヴスの他の論文にネカトがあるかどうか精査されていない。
シュリーヴスは2015年(27歳?)に博士号を取得した。白楽が思うに、その博士論文はネカト論文だろう。しかし、それも不問に付されている。
シュリーヴスはこの事件を契機に研究者を廃業したと思われ、それ以降、論文を出版していない。
アラバマ大学(University of Alabama)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:アラバマ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1988年1月1日生まれとする。2006年に大学に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:36 歳?
- 分野:社会心理学
- 不正論文発表:2014~2015年(26~27歳?)
- 発覚年:2017年(29歳?)
- 発覚時地位:アラバマ大学・インストラクター
- ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ分野のオランダのエラスムス・ロッテルダム大学(Erasmus University Rotterdam)のロルフ・スワン教授(Rolf Zwaan)で自分のブログで説明
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アラバマ大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:匿名発表・隠匿(Ⅹ)
- 不正:ねつ造
- 不正論文数:1報撤回。さらに、データを提供したが共著者になっていないもう1論文も撤回された
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:大学から解雇(推定)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
出典:(73) Wyley Shreves | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1988年1月1日生まれとする。2006年に大学に入学した時を18歳とした
- 2006年 – 2010年(18 – 22歳?):アラバマ大学(University of Alabama)で学士号取得:心理学と政治学
- 2010年– 2012年(22 – 24歳?):同大学で修士号取得:社会心理学
- 2012年– 2015年(24 – 27歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:実験心理学
- 2015年8月 – 2016年8月(27 – 28歳?):同大学でティーチング・インストラクター
- 2017年3月(29歳?):不正研究が発覚
- 2017年(29歳?):アラバマ大学から解雇?
●5.【不正発覚の経緯と内容】
この事件は、ネカト者と特定されるまでの経緯がユニークである。
イヤイヤ、公式には未だに特定されていない。ほぼ確実という流れで、白楽が特定した。
★発覚の経緯:ウィリアム・ハート準教授(William Hart)
2017年3月、アラバマ大学(University of Alabama)・心理学科のウィリアム・ハート準教授(William Hart、写真出典)が以下の「2013年のPsychol Sci.」論文を撤回した。
- Unlocking past emotion: verb use affects mood and happiness.
Hart W.
Psychol Sci. 2013 Jan 1;24(1):19-26. doi: 10.1177/0956797612446351. Epub 2012 Nov 12.
論文を出版後、オランダのエラスムス・ロッテルダム大学(Erasmus University Rotterdam)の心理学者であるロルフ・スワン教授(Rolf Zwaan、写真出典)がデータに問題があると指摘した。
→ 2017年2月21日のスワン教授のブログ記事:Rolf Zwaan: Replicating Effects by Duplicating Data
スワン教授は「2013年のPsychol Sci.」論文を再現しようとしたが再現できなかった。そして、データを精査していくと、194件のデータの内70件以上が重複していること(つまり、データねつ造)に気がついた。
ハート準教授は、スワン教授に指摘されたことを自分で調べると、指摘が正しいことがわかった。
ただ、データは別の研究プロジェクトで院生が得ていたデータを使っていた。
アラバマ大学はネカト調査をし、院生が提供したデータがねつ造だったと結論した。ただ、アラバマ大学は院生の名前を公表しなかった。
スワン教授も院生の名前をフォックス(Fox)と仮名で呼び、実名を示さなかった。
「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、ハート準教授はその院生の名前を言わなかった。
また、院生を共著者にしていない理由を問われ、院生はただデータを集めただけで論文執筆に関与していないので、著者にしなかったと弁解した。
なお、「2013年のPsychol Sci.」論文には「謝辞」の節がないので、「データ収集をしてくれた〇〇さんに感謝する」などの記載はない。それで、データ収集者(ネカト院生)の特定はできなかった。
★発覚の経緯:アレクサ・タレット助教授(Alexa Tullett)
ハート準教授と共著論文があり、同じアラバマ大学(University of Alabama)・心理学科の同僚であるアレクサ・タレット準教授(Alexa Tullett、写真出典)もこの事件に巻き込まれた。
ハート準教授からデータねつ造の話を聞き、タレット準教授はフォックス(Fox)が絡んだ自分の論文を精査した。
その結果を、タレット準教授はスワン教授のブログ記事で次のように述べている。
論文を精査すると、案の定、重複したデータが見つかりました。ただ、重複は偶然に起こった間違いではないか、と思いたかったのです。フォックス(Fox)が故意にねつ造したと認めるまで、ねつ造だと信じたくありませんでした。しかし、結局、フォックス(Fox)は、データねつ造したことを認め、大学のネカト調査もそれを確認するにいたりました。
フォックス(Fox)は、データねつ造を認め、私に謝罪に来ました。
彼は、データねつ造を始めた理由を次のように話してくれました。
データセットを分析していた時、いくつかのデータを重複させ、いくつかのデータを削除すると、p値を0.5未満にできることに気がつきました。そのねつ造データを研究協力者(ハート準教授やタレット準教授)に示すと、彼らは重要な結果が得られたと喜びました。私(フォックス)は彼らに役に立てたことが嬉しく、データ加工をさらに続けたのです、と。
「撤回監視(Retraction Watch)」が質問すると、タレット準教授は、
受理されたけどまだ出版されていないフォックス(Fox)が共著の「European Journal of Social Psychology」論文を撤回したこと、そして、その論文以外に、どれだけの論文を撤回することになるのか、今はわからない、と答えた。
2017年12月、そして、ハート準教授とタレット準教授と他2人が著者の「2015年のCognition」論文が撤回された。
- Fueling doubt and openness: experiencing the unconscious, constructed nature of perception induces uncertainty and openness to change.
Hart W, Tullett AM, Shreves WB, Fetterman Z.
Cognition. 2015 Apr;137:1-8. doi: 10.1016/j.cognition.2014.12.003. Epub 2015 Jan 12.
「撤回監視(Retraction Watch)」が質問すると、タレット準教授は、「この論文は、上記したように論文を精査した結果、撤回することになった論文で、今回の騒動でタレット準教授が著者の最後の撤回論文です」と答えた。
「撤回監視(Retraction Watch)」が他2人の共著者である「Shreves WB」「Fetterman Z」のことについて質問すると、
ザカリー・フェッターマン(Zachary Fetterman)は、データねつ造に一切関与していません。彼は卒業したのでアラバマ大学(University of Alabama)・心理学科にはもういません。論文の「謝辞」に記載しているように、フェッターマンはデータの収集や分析には関与していませんでした。
と答えた。
となると、消去法で、ネカト者はワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves、写真出典)しか残っていない。
なお、ハート準教授、タレット準教授、アラバマ大学・研究コンプライアンス責任者らの誰も、ネカト犯はシュリーヴスですとは言わなかった。
「撤回監視(Retraction Watch)」がシュリーヴスにメールしても返事はない。
シュリーヴスはこの事件を契機に研究者を廃業したと思われる。それ以降、論文を出版していない。
なお、白楽のこの記事では、ややこしいことは抜きにして、タイトルにシュリーヴスがネカト者であることを示した。
●【ねつ造の具体例】
アラバマ大学(University of Alabama)は調査の結果、匿名・院生が「2013年のPsychol Sci.」論文のデータをねつ造したと結論したが、ネカト調査報告書を公表していない。
スワン教授は、194件のデータの内70件以上が重複していると指摘した。
それ以上、具体的な記載がない。
省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
分野が社会心理学なので、全論文を網羅していないかもしれない。
2021年8月28日現在、パブメド(PubMed)で、ワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves、Wyley B. Shreves)の論文を「Wyley B. Shreves [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2014~2017年の4年間の3論文がヒットした。
と言っても、1報は撤回告知である。
「2014年9月のCognition」論文と「2015年4月のCognition」論文を出版し、「2015年4月のCognition」論文が2017年12月に撤回された。
★撤回監視データベース
2021年8月28日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves、Wyley B. Shreves)を「Wyley B. Shreves」で検索すると、本記事で問題にした「2015年4月のCognition」論文・ 1論文が2017年9月21日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2021年8月28日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves、Wyley B. Shreves)の論文のコメントを「Wyley B. Shreves」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》不作為の罪
共同研究者も大学もネカト者が誰かを明言しない、米国のネカト事件では珍しいケースである。
心理学は科学庁(NSF)系列でもあるので、科学庁(NSF)の隠蔽文化に従ったのだろうか(科学庁の事件は匿名・匿大学が普通)?
ワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves、写真出典)の他の論文にもデータねつ造があると思うが、大学がこのような隠蔽をしていると、曖昧なままである。
ネカト論文はシュリーヴスの博士院生時代と重なるので、博士論文もネカト論文だと思われる。
大学がこういう曖昧なことをすると、国民と心理学分野の被害は広がる。
「撤回監視(Retraction Watch)」が記事にしたから、実態が公表されたが、「撤回監視(Retraction Watch)」が記事にしなかったら、何もなかったようにことが進んでしまった。
かなり、マズイ対処の例である。
《2》著者在順
このシュリーヴス事件は、データねつ造事件だが、著者在順違反も明るみに出ている。
ウィリアム・ハート準教授(William Hart)の単著論文にデータの異常があった。その異常はデータねつ造だったということがわかってから、実は、データは別の研究プロジェクトで院生が得ていたデータを使っていた、と公表した。
チョッとおかしくないですか?
単著論文なんだから、著者がデータを収集し、分析したと、誰もが思う。
院生が得たデータを使ったなら、院生を共著者にすべきでしょう。
コレ、著者在順違反ですね。
院生ではなく、学部生がデータ収集をしても学部生を著者に入れるべきです。 → 7-74 研究に貢献した学部生や実験助手を共著者にせよ | 白楽の研究者倫理
《3》どこに欠陥が?
ワイリー・シュリーヴス(Wyley Shreves)は、アラバマ大学の学部・大学院とストレートに進んで、博士2年生で1報、3年生で1報と、心理学科の院生としてそれなりに順調なコースを進んでいるように見えた。
どうして、データねつ造をしたのかは不明だが、本人の性情や能力の問題だったのだろうか? それとも、ウィリアム・ハート準教授(William Hart)の指導に問題があったのだろうか?
どこに欠陥があったのか?
そういう点が見えてこないと、防止策が練れない。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2017年2月7日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Study about words’ effect on mood to be retracted after investigation finds evidence of data manipulation – Retraction Watch
② 2017年3月7日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Hindsight’s a bitch:” Colleagues dissect painful retraction – Retraction Watch
③ 2017年10月4日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Second retraction for psychologist reveals clues about culprit behind misconduct – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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