航空・機械工学:サンドラ・トロイアン(Sandra Troian)(米)

2018年2月9日掲載。

ワンポイント:【長文注意】。トロイアン(女性)はカリフォルニア工科大学・教授で航空・機械工学が専門である。2010年(52歳?)、トロイアン教授は、国防総省の研究費で宇宙推進システムの研究開発プロジェクトを主宰し、イスラエルからのポスドクを雇った。このプロジェクトは「武器国際取引に関する規則」の制約を受け、米国政府の承認を得ずにプロジェクトに関する技術データを外国に伝えることが禁止されていた。ところが、イスラエル人ポスドクが機密情報をイスラエルに送付するスパイ行為を働いたのである。トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学に通報したが、大学は適切に対処しなかった。2年後の2012年(54歳?)、FBIが調査に乗り出した。丁度その頃、トロイアン教授は、ユーモア(遊び心)で、学会発表要旨の共著者に猫の名前「プッチ」を付けて提出した。この件をカリフォルニア工科大学は異常なほど過大にとらえ、著者在順の不正だと認定した。2014年(56歳?)、トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学上層部がスパイ事件処理の失敗を隠蔽しようと、トロイアン教授に過大なペナルティを科したと裁判所に訴えた。損害額の総額(推定)は1億1千万円。なお、「人間以外を共著者」にしたいくつかの論文例も記述した。
この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:大学当局のいい加減さ、コクハラ、スパイ事件、戦う姿勢、ユーモア(遊び心)。

【追記】
・猫(F.D.C. Willard)が著者:2016年8月31日記事:A cat co-authored an influential physics paper | Science | AAAS
・猫が著者:2017年8月1日記事:After 35 years, philosophy journal corrects article…by a cat – Retraction Watch
・仮名の著者:2017年10月13日記事:An accomplished philosopher invented a pseudonym. Why? – Retraction Watch
・犬(Grandmother Liboiron)が著者:2018年12月20日記事:Assigning authorship for research papers can be tricky. These approaches can help | Science | AAAS

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

サンドラ・トロイアン(Sandra M. Troian、写真出典)は、イタリア系の米国人で、米国のカリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)・工学/応用科学部(Division of Engineering and Applied Science)の応用物理学(Applied Physics)の教授になった。専門は航空・機械工学(Aeronautics and Mechanical Engineering)である。

1996年(36歳?)、ストレス下での液体の挙動の法則「トンプソン・トロイアンの法則(Thompson-Troian law)」を発見するなど、米国物理学会で著名な研究者である。

2010年(52歳?)、トロイアン教授は、国防総省のダーパ研究費(Pentagon’s Defense Advanced Research Projects Agency)で宇宙推進システムの研究開発をするプロジェクトが採択され、イスラエルからアミール・ガット博士(Amir Gat)をポスドクに採用した。

ところが、このガット博士がスパイ行為を働いて、宇宙推進システムの機密情報をイスラエルの研究者に送付していた。

トロイアン教授はこの点を調査するよう再三再四、カリフォルニア工科大学・関係者に要求したが、関係者は調査しなかった。

2012年(54歳?)、FBIがガット博士のスパイ行為を調査し始めた。

2012年夏(54歳?)、ガット博士のスパイ事件とは別の事件が勃発した。トロイアン教授は、学会発表要旨の共著者に猫の名前“Pucci”を仮に付けて提出した。

カリフォルニア工科大学はトロイアン教授を追い出そうと弱点を探っていたので、学会要旨の共著者に猫の名前を付けた著者在順に対し、異常とも思える過大な処分を科した。つまり、トロイアン教授をネカト行為でクロとした。

2014年(56歳?)、トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学をコクハラだと裁判所に訴えた。

トロイアン教授は、1回目の裁判で敗訴したが、控訴した。

2015年(57歳?)、ストロベル裁判官は、学会要旨で猫を共著者にした点以外、トロイアン教授に対するカリフォルニア工科大学の主張をすべて棄却した(多分)(白楽は、その裁判記録を見ていないので、この結論でいいのか、少し不安)。

2018年2月8日現在(60歳?)、トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学・教授に在職している。Caltech Division of Engineering and Applied Science | Sandra M. Troian

なお、カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)は、「Times Higher Education」の2018年大学ランキングの「機械・航空宇宙工学(Mechanical & Aerospace Engineering)」部門で世界第3位の超名門大学である。World University Rankings 2018 | Times Higher Education (THE)

カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)。写真出典http://topcolleges.admissionsconsultants.com/california-institute-of-technology/

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:コーネル大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日とする。1980年の大学卒業時を22歳とした
  • 現在の年齢:66 歳?
  • 分野:航空・機械工学
  • 最初の不正論文発表:2012年(54歳?)
  • 発覚年:2012年(54歳?)
  • 発覚時地位:カリフォルニア工科大学・教授
  • ステップ1(発覚):数か月前に研究室を突然やめた元・ポスドクのアヌーシェ・ナイアヴァラニ博士(Anoosheh Niavarani Kheiri)が大学に問いわせたことが発端である
  • ステップ2(メディア): いくつかの新聞・テレビ・ウェブ。「If Americans Knew」紙のアリソンウィアー(Alison Weir)記者が秀逸
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①カリフォルニア工科大学・調査委員会。②裁判所
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)。機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:著者在順
  • 不正論文数:1報(約200単語の学会抄録)
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 損害額:総額(推定)は1億1千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が31年間=6億2千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。③院生の損害は不明。額は②に含めた。④外部研究費の額は不明だが、50億円(あてずっぽう)。ほとんど無駄になっていないので②に含めた。⑤調査経費(大学)が5千万円。⑥裁判経費が2千万円。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文ないので損害額はゼロ円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
  • 処分: 3年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

主な出典:Troian Research Group

  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日とする。1980年の大学卒業時を22歳とした
  • 1980年(22歳?):ハーバード大学(Harvard University)で学士号取得:物理学
  • 1984年(26歳?):コーネル大学(Cornell University)で修士号取得:物理学。修士論文「多成分フェルミ液体中の流体力学的音(Hydrodynamic Sound in a Multicomponent Fermi Liquid)」
  • 1987年(29歳?):コーネル大学(Cornell University)で研究博士号(PhD)を取得:物理学。博士論文「準十面体準結晶の平均場理論(Mean Field Theories of Icosahedral Quasicrystals)」
  • 1987-1993年(29-35歳?):エクソン・研究工学会社(Exxon Research & Engineering Co.)・ポスドク。後に研究員
  • 1993年(35歳?):プリンストン大学(Princeton University) ・助教授。後に、準教授、正教授
  • 1996年(38歳?):「トンプソン・トロイアンの法則(Thompson-Troian law)」を発見
  • 2006年10月(48歳?):カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)・工学/応用科学部(Division of Engineering and Applied Science)・応用物理学(Applied Physics)・教授。応用物理学科で唯一の女性教授。専門は航空・機械工学(Aeronautics and Mechanical Engineering)
  • 2012年(54歳?):著者在順が発覚
  • 2018年2月8日現在(60歳?):カリフォルニア工科大学・教授に在職:Caltech Division of Engineering and Applied Science | Sandra M. Troian

●3.【動画】

【動画1】
2014年11月14日、ABCテレビのニュース動画(英語)2分5秒。
以下のサイトをクリックすると、動画が出てくる。
Caltech professor sues school over her disclosures to FBI | abc7.com
http://abc7.com/news/caltech-prof-sues-school-over-her-disclosures-to-fbi/395899/

●5.【不正発覚の経緯と内容】

【概要】

2010年(52歳?)、サンドラ・トロイアン教授(Sandra Troian)は、国防総省の国防高等研究計画局(通称ダーパ)の研究費(Pentagon’s Defense Advanced Research Projects Agency)で宇宙推進システムの開発をするプロジェクトが採択され、イスラエルからアミール・ガット博士(Amir Gat)をポスドクに採用した。

ところが、ガット博士がスパイ行為を働いて、宇宙推進システムの機密情報をイスラエルの研究者に送付していた。

トロイアン教授はこの点を調査するよう再三再四、カリフォルニア工科大学・関係者に要求したが、関係者は要求を拒否していた。

2012年(54歳?)、FBIがイスラエル人のスパイ行為を調査し始めた。

2012年夏(54歳?)、イスラエル人のスパイ事件とは別の事件が勃発した。というか、カリフォルニア工科大学はトロイアン教授を追い出そうと、弱点を探っていたと思われる。それでたまたま発生した著者在順に対し、カリフォルニア工科大学は異常とも思える過大な処分を科した。つまり、トロイアン教授をおとしめるためにネカト行為でクロとした。

2014年(56歳?)、トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学のコクハラを裁判所に訴えた。

このように、ネカト事件とは一見別の事件が背景にある。

一般に、別の抗争の道具にネカト事件が使われることがシバシバある。ネカト事件だけを調べていると、その点が見えない。というか、ネカト調査報告書には、裏事情や深読み情報は一切記載されないから、当然と言えば当然である。

本事件は、ネカト事件の裏に本命のスパイ抗争事件があることが、比較的、わかりやすい。

話を「イスラエル人スパイ事件」から始めよう。

【イスラエル人スパイ事件:その1】

以下の内容は、主に2015年1月14日のアリソン・ウィアー(Alison Weir)記者の「If Americans Knew」記事を参考にした。写真の出典も同記事である。
→ Lawsuit says Caltech Provost and others ignored Israeli spying and then retaliated against whistleblower

★国防総省・助成の「エレクトロスプレー・プロジェクト」

サンドラ・トロイアン(Sandra Troian)http://s3-us-west-1.amazonaws.com/www-prod-storage.cloud.caltech.edu/styles/facebook_thumbnail/s3/troian_s_medium.jpg?itok=LN8ErwLJ

カリフォルニア工科大学は、アメリカ航空宇宙局(NASA)との数十億ドル(数千万円)の契約で、ジェット推進研究所(NASA Jet Propulsion Laboratory)を運用している。トロイアン教授は、ジェット推進研究所にも研究室を持っていた。

2010年3月(52歳?)、トロイアン教授は、国防総省のダーパ研究費(Defense Advanced Research Projects Agency (“DARPA”))を受領し、宇宙推進システムの開発をする計画「エレクトロスプレー・プロジェクト」(“Electrospray Project”、正式にはElectrospray Thruster Array Technology Feasibility Study Project)の研究代表者(PI)になった。

この研究プロジェクトの目標は、新しいタイプの宇宙空間マイクロ推進システムを設計することだった。

「エレクトロスプレー・プロジェクト」は「武器国際取引に関する規則(International Traffic in Arms Regulations (ITAR))」の規制を受け、トロイアン教授を含めプロジェクト研究者は、米国政府の承認を得ずにプロジェクトに関する技術データを外国の組織または外国在住者に漏らしたり、送付・輸出することが禁止されていた。

★アミール・ガット博士

アミール・ガット博士(Amir Gat)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

2010年3月(52歳?)、トロイアン教授は、「エレクトロスプレー・プロジェクト」のポスドクとしてイスラエルからイスラエル人のアミール・ガット博士(Amir Gat)を採用した。ガット博士(1979年7月29日生まれ、30歳)はイスラエルのイスラエル工科大学(Technion – Israel Institute of Technology)のダニエル・ワイス教授(Daniel Weihs)の弟子で、研究博士号(PhD)を2010年に取得したばかりだった。

トロイアン教授は上司として、ガット博士に「武器国際取引に関する規則」を遵守させる責任があった。もちろん、ガット博士は「武器国際取引に関する規則」を遵守するという書類にサインしている。

しかし、ガット博士は「エレクトロスプレー・プロジェクト」の研究を始めるとすぐに、「武器国際取引に関する規則」に違反し始めた。

ダーパや「武器国際取引に関する規則」の要求に応じて、計算、数値シミュレーション、デバイスの技術を詳細にかつ適切に記録して、その内容を外部に漏らさないのがルールである。しかし、ガット博士はそのルールを守らなかったのだ。

★ガット博士のスパイ行為

ガット博士はさらに、「エレクトロスプレー・プロジェクト」に関連する研究開発ファイルや技術情報を自分のパソコンに多量に集めだした。これらの情報は研究所のコンピュータに保存する義務があり、個人のパソコンに保存してはいけない規則だった。

ガット博士はまた、トロイアン教授や他の研究者から明確な指示されていたにもかかわらず、プロジェクトのシミュレーションを実行するときに誤った番号を設計ソフトウェアコードに繰り返し入力した。

2010年5月25日(52歳?)、トロイアン教授のコンピュータネットワークがウイルスで攻撃され、何百ものプロジェクトファイルが学外の未知のIPアドレスに送られた。カリフォルニア工科大学はトロイアン教授のコンピュータネットワークを数日間遮断した。

トロイアン教授は、この事故(意図的な犯行?)を調べ、ガット博士のコンピュータに問題のウイルスがあったことを突き止め、カリフォルニア工科大学の関係者にこの事実を通知した。

ウイルス攻撃の前にガット博士に「どのサイトにアクセスしたのか?」とトロイアン教授がガット博士に質問しても、ガット博士はアクセスしたサイトの公開を拒否した。

2010年5月28日(52歳?)、トロイアン教授がさらに詰問すると、驚いたことにというか、予想通りというか、ガット博士は、「エレクトロスプレー・プロジェクト」の詳細をイスラエルのダニエル・ワイス教授(Daniel Weihs)に送付していたことを認めた。

ダニエル・ワイス教授(Daniel Weihs)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

ダニエル・ワイス教授は、ガット博士の大学院時代の指導教授である。イスラエルのイスラエル工科大学(Technion – Israel Institute of Technology)・教授で、イスラエルの宇宙インフラ科学委員会のメンバー、イスラエルの宇宙研究委員会委員長、科学技術省のチーフ・サイエンティストである。つまり、イスラエルの宇宙開発技術を担当する中枢人物である。

これは明白なスパイ行為で、「武器国際取引に関する規則」の重大な違反だった。そして、トロイアン教授が要求しても、ガット博士は漏洩した情報の内容と程度の開示を拒んだのである。

2010年6月3日(52歳?)、トロイアン教授は、ガット博士が入構権限のない実験所内を1人で、無許可で歩き回っているのを見つけた。どうして入構できたか疑問だが、トロイアン教授が「何をしているか?」と詰問すると、ガット博士は、「カリフォルニア工科大学で進行中の他の航空宇宙プロジェクトがどのようなものであるかを見て回るようにと、ワイス博士から指示されたからだ」と説明した。

ガット博士は、自分が米国を離れてイスラエルに帰国した後、イスラエル工科大学は自分の雇用を望んでいると語った。

★大学への報告と大学の無対処

2010年夏(52歳?)、トロイアン教授は、ガット博士が米国政府の承認なしに重要機密情報を外国に転送していた懸念が高いと、カリフォルニア工科大学・工学/応用科学部(Division of Engineering and Applied Science)の事務に報告した。

マリオン・エパレ(Marionne Epallé)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

2010年6月4日(52歳?)、トロイアン教授は、工学/応用科学部(Division of Engineering and Applied Science)の事務官のマリオン・エパレ(Marionne Epallé)と会い、ガット博士が「武器国際取引に関する規則」に違反していることを明らかにするよう要請した。

アレス・ロザキス博士(Ares Rosakis)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

2010年6月14日(52歳?)、トロイアン教授は、エパレだけでなく、工学/応用科学部の学部長のアレス・ロザキス博士(Ares Rosakis)にも、ガット博士に対する懸念を繰り返し伝え、その記録を文書化するように要請した。

トロイアン教授以外に、NASAジェット推進研究所の少なくとも2人の上司は、ガット博士のスパイ行動について、スパイ行為問題を扱う特別プログラム安全保障部長にガット博士の明らかな違法行為を報告していた。

しかし、トロイアン教授の知る限りでは、カリフォルニア工科大学はガット博士のスパイ行動について調査しなかった。

つまり、トロイアン教授とNASAジェット推進研究所の上司が、ガット博士は「武器国際取引に関する規則」に違反している、と何度も訴えたのに、カリフォルニア工科大学は何ら行動を起こさなかった。

2010年のこの期間、カリフォルニア工科大学はNASAジェット推進研究所(NASA Jet Propulsion Laboratory)の運用で、NASAとの数十億ドル(数千万円)の契約の更新時期だった。

再更新条件の1つに、従業員と請負業者が米国政府のセキュリティ規制に違反していないことを証明する必要があった。つまり、カリフォルニア工科大学・関係者はガット博士のスパイ行動を隠蔽したかったのだ。

ロザキス学部長は、ガット博士のスパイ行動を知った初期の1人である。後に、FBIがトロイアン教授にガット博士のスパイ行動について調査に来た後、ロザキス学部長は、「あなたの行動が、カリフォルニア工科大学と工学/応用科学部にとって危険なものになっている」と、トロイアン教授に警告した人物である。

2010年8月3日(52歳?)、トロイアン教授はガット博士を「エレクトロスプレー・プロジェクト」からはずした。彼女はガット博士にプロジェクトで収集したすべての資料を返すように指示したが、ガット博士はそれを拒否し、プロジェクトの作業を続けると脅した。

トロイアン教授にはガット博士を解雇する権限がなく、自分の研究グループから彼を完全に排除することができなかった。

2010年8月4日(52歳?)、ガット博士はNASAジェット推進研究所の上司に電子メールを送り、トロイアン教授のプロジェクトまたはNASAジェット推進研究所の他の航空宇宙プロジェクトの研究開発を継続する許可を求めた。上司はガット博士の要請を拒否し、トロイアン教授にガット博士の所有するすべての資料を確保するよう指示した。

2010年8月8日(52歳?)、「エレクトロスプレー・プロジェクト」からガット博士をはずした1週間後、ガット博士が2010年3月22日以降、このプロジェクトに関る情報をウェブサイトで公開していたことをトロイアン教授は見つけた。世界中の人がこのサイトにアクセスしていた。ガット博士は無許可で65記事以上もオンライン投稿していた。重要機密であるマイクロ推進装置の主要な動作原理も公開し、「武器国際取引に関する規則」に明らかに違反していた。

アダム・コクラン(Adam Cochran)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

トロイアン教授は、ガット博士の不正なオンライン投稿を直ちに、学部事務官のマリオン・エパレ、NASAジェット推進研究所の上司、カリフォルニア工科大学・人事担当部長のエイプリル・ホワイト(April White)、カリフォルニア工科大学・副顧問のアダム・コクラン(Adam Cochran)に報告した。

2010年8月から9月まで、トロイアン教授は、ガット博士の仕事関連の資料と電子ファイルの確保・拘束、事務所と建物の鍵の返却、そして、キャンパスIDを没収するために、カリフォルニア工科大学に一連の申請書を提出した。

★モルテザ・ガリブ副学長(Morteza Gharib)

ジュリア・マカリン(Julia McCallin)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

トロイアン教授は、ロザキス学部長、カリフォルニア工科大学・上級人事コンサルタントのSusan Connor、カリフォルニア工科大学の人事担当副学長のジュリア・マカリン(Julia McCallin)、カリフォルニア工科大学・副学長であるモルテザ・ガリブ(Morteza Gharib)博士などにも連絡を取った。

2010年8月16日(52歳?)、トロイアン教授は、ガリブ副学長と会った。 ガリブ副学長はガット博士の「武器国際取引に関する規則」違反の可能性を調査し、ガット博士の収集情報を確保する責任者である。

トロイアン教授は、ガット博士の誤った行動を説明し、ガット博士が「武器国際取引に関する規則」に違反してイスラエルのダニエル・ワイス博士に機密情報を送付したことを認めたと説明した。

モルテザ・ガリブ(Morteza Gharib)http://ifamericaknew.org/us_ints/sp-caltech.html

ただ、トロイアン教授は、ガット博士が不正を文書にしてくれなかったことと、ガット博士がパソコンにアクセスすることを拒否したため、漏洩した機密情報の範囲を知らないと説明した。

トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学が直ちにガット博士を解雇し、ガット博士が持っている「エレクトロスプレー・プロジェクト」に関するすべての資料を確保するように主張した。

驚いたことに、ガリブ副学長は「私は関係ない」とトロイアン教授に言ったのである。彼はさらに、トロイアン教授に、「自分(ガリブ副学長)はガット博士とイスラエルのダニエル・ワイス博士の「親友」で、彼らの味方だ」と述べた。 そして、「ガット博士を自分の研究室のポスドクとして雇うことにした」と述べたのである。

トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学はガット博士が持っている「エレクトロスプレー・プロジェクト」に関するすべての資料を確保するようにと、カリフォルニア工科大学の人事担当副学長のジュリア・マカリン(Julia McCallin)に伝えた。

2010年8月19日(52歳?)、学部事務官のマリオン・エパレはガット博士の元のオフィスに行き、急いで彼の研究資料をすべて段ボール箱に入れた。トロイアン教授は、彼女の行動がそのような行動は「武器国際取引に関する規則」に違反していることを彼女に伝え、やめさせようとした。 エパレは、「研究資料を集め、ガット博士に渡すようにと直接の命令を受けています」と答えた。トロイアン教授はエパレの行為を物理的にやめようとしたが、ガット博士の資料を持ってオフィスから逃げ出した。

カリフォルニア工科大学の誰も、ガット博士に研究ファイルを返却させていなかった。 数週間後、ガット博士はオフィスの鍵をようやく返却した。ガット博士はトロイアン教授から、「エレクトロスプレー・プロジェクト」を辞めさせられた後、不適切で不正にウェブに公開していたプロジェクト関連の情報を削除した。

ガット博士は2010年8月から2012年7月までカリフォルニア工科大学のカルテックのモルテザ・ガリブ(Morteza Gharib)の研究グループで働いた。

その後、ガット博士はイスラエルに帰国し、イスラエル政府機関であるイスラエル工科大学(Technion – Israel Institute of Technology)の機械工学の助教授になり、モルテザ・ガリブと共著で、活発に研究を続けている。

【ネカト事件】

イスラエル人スパイ事件の約2年後になる。

スパイ事件とは全く別の話である。

頭を一度切り換えてください。

★プッチ“Pucci”

サンドラ・トロイアン教授(Sandra Troian)の母語はイタリア語である。イタリアでは、“Pucci”という姓はありふれた姓である。例えばイタリアの有名なファッション・デザイナーにエミリオ・プッチ(Emilio Pucci)がいる。

そして、トロイアン教授はしばしば、プッチ教授(Professor Sandra “Pucci” Troian)と呼ばれていた。

http://www.superdramatv.com/line/humantarget/cast/

トロイアン教授の愛称“プッチ(Pucci)”は、テレビドラマの「ヒューマン・ターゲット(Human Target)」シリーズで、最新のテクノロジーを備えたハイテク探偵のチームを率いるイルザ・プッチ(Ilsa Pucci)からきている(演じてい女優はインディラ・ヴァルマ(Indira Varma))。

若いハイテク研究者と共に謎を追うイルザ・プッチにトロイアン教授が似ているという冗談の中で、友人がトロイアン教授に“プッチ(Pucci)”というニックネームを付けたのだ。

そして、トロイアン教授は面白がって、「プッチ」というニックネームを彼女の愛猫に付けた。なお、獣医師の記録によれば、トロイアン教授の猫の法的な名前は「キティ・ウィッティ(Kitty-Witty)」である。

され、これからが本題である。

★ヌーシェ・ナイアヴァラニ(Anoosheh Niavarani Kheir)

2011年6月、トロイアン教授は、サーマルスリップ(thermal slip)のコンピュータシミュレーションを研究するポスドクとして、アヌーシェ・ナイアヴァラニ博士(Anoosheh Niavarani Kheiri、写真も)を雇った。

ただ、ナイアヴァラニ博士はサーマルスリップ(thermal slip)の研究経験がなかったので、トロイアン教授は、練習として、すでに科学論文として発表されている結果を再現するようナイアヴァラニ博士に指示した。その再現実験を通して、新しい問題に取り組めるよう訓練しようと考えた。

ところが、ナイアヴァラニ博士は練習問題であるシミュレーション実験で、誤った結果をもたらした。

トロイアン教授は、2011年11月から数回、ナイアヴァラニ博士にシミュレーション実験が誤った結果になっていると伝えた。しかし、ナイアヴァラニ博士は科学論文に記載されている結果を再現できなかった。

それで、仕方なしに、トロイアン教授は、ナイアヴァラニ博士とは異なる計算アルゴリズム、手法、ハードウェアを使って、自分で、プロジェクトに関する独自のコンピュータシミュレーションを開始した。

2012年6月初旬(54歳?)、ちょうど一年前に採用したポスドクのナイアヴァラニ博士は、突然、トロイアン教授研究室を去った。この時、去る理由をトロイアン教授に説明していなかった。

後に理由をモルテザ・ガリブ教授に説明したが、ナイアヴァラニ博士自身が個人的な問題を抱えていたこと、それに、カリフォルニア工科大学の研究環境になじめなかったことが理由だそうだ 。

トロイアン教授は、斬新な問題に取り組むためにナイアヴァラニ博士を雇ったのに、ナイアヴァラニ博士はサーマルスリップ(thermal slip)のシミュレーション実験を全く進歩させることができなかった。

2012年7月(54歳?)、トロイアン教授は、その年の11月の米国物理学会・年会で研究発表する要旨を、丁度、準備していた。

トロイアン教授は、その学会では、サーマルスリップ(thermal slip)とは別の研究テーマで自分が第一著者として発表する予定だった。

ナイアヴァラニ博士に割り当てたサーマルスリップ(thermal slip)の研究テーマで、ナイアヴァラニ博士は研究を進められなかった。

プロジェクトが採択されていて、研究が進まないでは責任問題になる。それで、トロイアン教授自身がナイアヴァラニ博士とは異なる計算アルゴリズム、手法、ハードウェアを使って、それなりに研究を進め、学会発表するレベルの成果を得ていた。

しかし、同じ人が2回の研究発表ができない。それで、トロイアン教授は、サーマルスリップ(thermal slip)のテーマは、新たに雇う予定のポスドクに発表させようと考えた。

2012年8月2日(52歳?)、新たに雇う予定のポスドクはまだ決まっていなかったので、サーマルスリップ(thermal slip)の発表の第一著者に、とりあえず、自分が飼っている愛猫の名前「プッチ(Pucci, M.)」を第一著者、そして自分を最後著者として提出した。つまり、以下の講演要旨である。

Thermal Resistance and Temperature Jumps at Liquid/Solid Interfaces: Insights from Molecular Dynamics Simulations 
Pucci, M.; Troian, S. M.
APS Division of Fluid Dynamics (Fall) 2012, abstract #D30.006

ところが、ポスドクだったナイアヴァラニ博士は、自分の関与した研究に自分の名前が載らず、「プッチ(Pucci, M.)」という知らない名前が載っていたので、カリフォルニア工科大学に問い合わせた。

すると、トロイアン教授は、愛猫の名前「プッチ(Pucci, M.)」だと述べた。

★リフォルニア工科大学の調査委員会

トロイアン教授が猫を共著者にした行為に、カリフォルニア工科大学は厳格というか、ある意味、異常な対応をした。

4人の教授と1人の弁護士からなるネカト調査委員会を設置し、「プッチ(Pucci, M.)」を共著者にしたのはネカトではないかという調査を始めたのだ。

トロイアン教授は、共著者に愛猫の名前を使用したのは、ユーモア(軽いジョークのようなもの)である。それに、今までの科学者(物理学者)がハムスター、ネコ、パソコンなどを共著者にした例(後述する)を挙げ、自分のユーモア行為は最初ではないし唯一のものでもないと主張した。

しかし、カリフォルニア工科大学の調査委員会の教授/弁護士はトロイアン教授の行為は、カリフォルニア工科大学の優れた評判を大きく損なったと結論した。トロイアン教授を処分(戒告処分相当?)をするよう勧告した。

エドワード・ストルパー(Edward Stolper)http://www.qrigroup.com/edward-stolper Provost

つまり、調査委員は御用委員で、任命した教務局長(プロヴォ-スト、provost、学長に次ぐ権力者)のエドワード・ストルパー(Edward Stolper)と副・教務局長のモルテザ・ガリブ副学長(Morteza Gharib、前出)の意向に沿った結論を出したのである。

最終的に、ストルパー教務局長は、トロイアン教授に、「猫を共著者にしたのをネカトだと認めれば、混乱は簡単に解消します。しかし、もし認めなければ、次の2年間、あなたにとって悲惨な日々になるでしょう」と告げた。

ところが、トロイアン教授は降伏を拒否した。

★コクハラ訴訟

2014年11月13日(56歳?)、トロイアン教授はストルパー教務局長をロサンゼルス郡上級裁判所(Los Angeles County Superior Court)に訴えた。訴訟の理由は、コクハラである。

トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学管轄下のNASAジェット推進研究所(NASA Jet Propulsion Laboratory)の違法行為をFBIに告発した。しかし、その告発を不快に感じたカリフォルニア工科大学上層部は、トロイアン教授が愛猫を共著者にした行為をネカトと断定し、トロイアン教授に報復したのである。

トロイアン教授は、「猫の共著者は不正(ネカト)に該当しないと裁判所が裁定するに違いない」、と思っていた。

ところが、ロサンゼルス郡上級裁判所(Los Angeles County Superior Court)のマリー・ストローベル判事(Mary Strobel)は、共著者に人名をリストしてもよいが猫の名前はいけないと裁定した。つまり、ストローベル判事はカリフォルニア工科大学の処分を支持したのだ。

ただ、ストローベル判事は、 “Pucci”は猫の愛称でもあるが、トロイアン教授自身の愛称でもあったという事実を無視していた。なお、カリフォルニア州法には、人の名前をどのようにも呼ぶことができるという規則がある。必ずしも親が付けた悪い名前に一生縛られることはない。

トロイアン教授は、裁判所のすべての審理が最終的に終了した後に、ストローベル判事が事実上の誤りを犯したことを指摘し、カリフォルニア工科大学の処分を撤回してもらう訴訟を連邦控訴裁判所に訴えることにした。

弁護士事務所の推測では、すべての裁判手続きが完了するまでに、カリフォルニア工科大学は弁護士費用として2百万ドル(約2億円)以上を費やすと思われる。

カリフォルニア工科大学は、イスラエルの「武器国際取引に関する規則(International Traffic in Arms Regulations (ITAR))」の違反に対しては無関心だったのに、学会抄録で猫を共著者にしたことに異常なほどの厳格さで規則を適用したことは、とても対照的です。

【イスラエル人スパイ事件:その2】

最初の出だしのイスラエル人スパイ事件に戻ろう。

2010年、サンドラ・トロイアン教授(Sandra Troian)は、国防総省の研究費で開発中の機密をイスラエル人がスパイ行為をしているので調査するようカリフォルニア工科大学に訴えた。しかし、カリフォルニア工科大学は何も対応しなかった。と説明したその後である。

2012年6月28日(54歳?)、それから2年後、トロイアン教授はロサンゼルス郡・スパイ防止活動部局のFBI捜査官、ケリー・サリバン(Kelly M. Sullivan)とデビッド・ツァン(David Tsang)に、カリフォルニア工科大学のNASAジェット推進研究所(NASA Jet Propulsion Laboratory)でいくつかの国家安全セキュリティの侵害があり、輸出法違反やスパイ詐欺の可能性を捜査していると伝えられた。

2012年(54歳?)、一方、トロイアン教授は、猫を共著者としたことで、カリフォルニア工科大学からに戒告処分を受けていた。

2014年11月(56歳?)、サンドラ・トロイアン教授(Sandra Troian)はカリフォルニア工科大学をロサンゼルス郡上級裁判所(Los Angeles County Superior Court)に訴えた。訴訟の理由は、コクハラである。トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学管轄下のNASAジェット推進研究所(NASA Jet Propulsion Laboratory)の違法行為をFBIに告発したが、その告発でカリフォルニア工科大学から報復されたと訴えたのである。

NASAジェット推進研究所は、研究所として、イスラエル人ポスドクが連邦輸出法に違反している可能性があるとFBIに告発したが、カリフォルニア工科大学は「トロイアンを大学から追い出し、破滅させろ!」とトロイアン教授をコクハラしてきたのだ。これは大学の告発者保護規則に違反していた。

訴状では、①カリフォルニア工科大学の契約違反、②コクハラという州労働法違反、③不誠実な行動、の3点を訴えた。

2014年11月13日。左はトロイアン教授。右はダン・ストーマー弁護士(Dan Stormer)。(photo credit: AP/Christopher Weber)https://www.timesofisrael.com/israeli-entangled-in-caltech-whistleblower-scandal/

トロイアン教授の弁護を担当したダン・ストーマー弁護士(Dan Stormer)は、カリフォルニア工科大学の一連のコクハラには、トロイアン教授がネカトをしたと誤って告発したこと、ネカトでクロと誤って結論したこと、大学内の委員会、イベント、講義への参加を認めなかったこと、100万ドル(約1億円)以上の研究助成金をフイにしたことも含むと述べている。

ストーマー弁護士は、「カリフォルニア工科大学は今、悪循環に陥っています。自分たちの不正行為を隠蔽するためにトロイアン教授を攻撃し続けなければならないのです」と述べた。

トロイアン教授は「国家安全保障に直接違反する行為を私が報告したことで、カリフォルニア工科大学は私に報復しています。このようなカリフォルニア工科大学の卑劣な行為をとても珍しいことです。カリフォルニア工科大学の歴史的な黒い汚点です」と語った。

一方、カリフォルニア工科大学は、トロイアン教授に報復したことを否定する声明を発表した。

同大学によれば、「学会要旨の共著者に彼女の猫をリストしたことに学内調査委員会は最近調査結果を発表しました。トロイアン教授は、その結果に不満を抱いているようです。トロイアン教授に報復しておりません。カリフォルニア工科大学は、大学が輸出管理法やその他の法律を遵守していると確信しており、FBIなどの政府機関と定期的に協力しています」と述べている。

トロイアン教授は、「あなたたちカリフォルニア工科大学上層部は、猫を共著者にしたという些細な行為に対して調査委員会を設けたが、私がさんざん訴えたイスラエル人のスパイ行為には調査委員会を設けず、灯台下暗しで、どうしてイスラエル人のスパイ行為を無視したのでしょうか」と反論した。

トロイアン教授は、「私は私の魂と人生をカリフォルニア工科大学に捧げています。私は法律に違反していません。そして、米国民を守る法律にイスラエル人ポスドクが違反していると私が警告したにもかかわらず、カリフォルニア工科大学は、反対に、私のキャリアを台無しにしようとしています。とても許することができません」と訴状を発表する場で、声明で述べた。

2014年(56歳?)、トロイアン教授は、1回目の裁判で敗訴したが、控訴した。

CaltechResponse

 

2015年(57歳?)、控訴審では、ストロベル裁判官は、学会要旨に猫を共著者にした点以外、トロイアン教授に対するカリフォルニア工科大学の主張をすべて棄却した。

トーマス・ローゼンバウム・学長(Thomas Rosenbaum 、2014年7月1日に学長に就任)は、トロイアン教授が訴訟で述べた情報は 「全く真実ではありません」とパサデナ・スター・ニュース新聞で批判した。

2018年2月8日現在(60歳?)、カリフォルニア工科大学は、トロイアン教授がポスドクを虐待した(学会要旨の共著者に入れなかった)ことを理由にしては、トロイアン教授を懲戒処分できなかったのである。

依然として、トロイアン教授はカリフォルニア工科大学上層部と対立しているが、トロイアン教授は、カリフォルニア工科大学・教授に在職している。
→ Caltech Division of Engineering and Applied Science | Sandra M. Troian

そして、問題の発端となったイスラエル人ポスドクのアミール・ガット博士(Amir Gat、38歳)は、イスラエルに帰国し、イスラエル工科大学(Technion – Israel Institute of Technology)の助教授になっている。
→ Amir Gat | Mechanical Engineering Faculty

●6.【論文数と撤回論文】

省略

●7.【白楽の感想】

【人間以外の共著者】

人間であっても、研究に貢献していない人を共著者にするのは著者在順に違反する。

ましてや、人間以外の動物や物品を共著者にするのは著者在順に違反する。固いことを言えばだが・・・。

共著者になった人間はそのことで不当な得をする。一方、共著者になった動物や物品はそのことで不当な得をしない。というか、不当も正当も、とにかく得はない。だから、ジョークですと受容され、糾弾されない。通常は。

具体例を示そう。

★処分を科されなかった例。

【ヘザーリントン教授】

1975年、ミシガン州立大学のヘザーリントン教授(Jack H. Hetherington、男性)とウィラード(Felix Domesticus Chester Willard)は物理学でトップクラスの学術誌・フィジカル・レビュー・レターズ(Physical Review Letters)に論文を発表した。しかし、驚いたことに、実は、ウィラードはヘザーリントン教授のペットのシャム猫の名前だった。

ヘザーリントン教授はこの論文の別刷りを配るとき、彼のサインの隣に猫の肉球印を押していた。ミシガン州立大学・物理学科の教授たちはこのジョークを楽しんで、ウィラード(シャム猫)を優良客員教授に任命するが、その要請をウィラード博士に打診して欲しいと、ヘザーリントン教授に依頼した。

返事は、どうだったのか、ニャア?

【ゼイルバーガー教授】

1993-2014年、ラトガース大学の数学者・ドロン・ゼイルバーガー教授(Doron Zeilberger、男性)は、32報の査読論文を「Shalosh B. Ekhad」と共著で発表した。実は、「Shalosh B. Ekhad」は、彼のパソコンの型式のヘブライ語名で、「コンピュータは非常にたくさん私の研究の発展に協力してくれた」と説明している。
→ http://sites.math.rutgers.edu/~zeilberg/ekhad/papers.html

アンドレ・ガイム(Andre Geim )。By Holger Motzkau 2010, Wikipedia/Wikimedia Commons (cc-by-sa-3.0), CC BY-SA 3.0, Link

【アンドレ・ガイム】

2001年、2010年のノーベル物理学賞受賞者のアンドレ・ガイム(Andre Geim 、男性)は、2001年の論文で、ペットのハムスター「H.A.M.S. ter Tisha」を共著者にした。そう言われ、共著者名の綴りを素直に読めば、共著者名は「ハムスターのティシャ」と書いてある。
→ 2009年10月記事:This Month in Physics History: October 2009

★一方、小さい処分だけど処分された例もある。

【ポリー・マッチンガー】

1978年、ポリー・マッチンガー(Polly Matzinger、女性)は免疫学(生命科学)の研究者で、「1978年のJ. Exp. Med.」論文で愛犬「ガラドリエル・ミルクウッド(Galadriel Mirkwood)」を共著者にした。

共著者「ガラドリエル・ミルクウッド(Galadriel Mirkwood)」が愛犬だと知った編集長は、自分が死ぬまで「J. Exp. Med.」誌はポリー・マッチンガーの論文を受理しないと宣告した。

マッチンガーは当時、カリフォルニア大学サンディエゴ校の院生だったが、その後、博士号を取得し、NIH・NIAIDの室長になったので、学術界から追放されていない。研究キャリアーは阻害されなかったと思える。

【ネッド・ニコロフ】

2016年、米国・森林局の研究員である気象学者のネッド・ニコロフ(Ned Nikolov)は、ユニークな仮名で論文発表した。仮名がバレ、論文は撤回された。公式にはネカトではないとされ、解雇されなかったが、研究上の制約を幾分受けた。
→ 気象学:ネッド・ニコロフ(Ned Nikolov)(米) | 研究倫理(ネカト)

以下が通常の【白楽の感想】

《1》ユーモア(遊び心)

サンドラ・トロイアン(Sandra Troian)https://www.princeton.edu/pr/pwb/99/0419/tenure.htm

百歩譲って、人間以外の名前を共著者にすることが不正だというなら、サンドラ・トロイアン教授(Sandra Troian)が、猫の名前を共著者にしたことで、一体、どんな困ったことが起こったのか? 被害者がいるなら誰がどんな被害を受けたのか?

その是非は置いておいて、少なくとも、実害がほとんどないなら、ユーモアの精神・行為を学術界に強く温存したいと、白楽は思う。

新発見や研究行為にユーモア(遊び心)の精神は必要でしょう。

昔の学者は、生物の和名や解剖学名に「面白い」「なるほど」と思える名前を付けた。タツノオトシゴ、カブトガニ、リュウゼツラン、人差し指、親知らず、・・・。

そして、科学の法則名にも独特の名称をつけた。

《2》御用委員

カリフォルニア工科大学の調査委員会の教授/弁護士は、トロイアン教授が猫を共著者にした行為を、カリフォルニア工科大学の優れた評判を大きく損なったと結論した。

各メディアが指摘しているが、この調査委員会は任命者である教務局長(プロヴォ-スト)のエドワード・ストルパー(Edward Stolper)と副・教務局長のモルテザ・ガリブ(Morteza Gharib)の意向に沿って、結論を出したのである。つまり、調査委員は典型的な御用委員だった。

日本はほとんどすべてが典型的な御用委員だし、米国でもどこの国でも、専門家の委員会や識者からなる第三者機関のほとんどは当局に都合がいい御用委員がたくさんいる。

日本では当局(官僚)が委員会の委員を人選するので、委員が御用委員になるのは当然である。当局(官僚)が決まった段階で、当局の意向に沿う意見を持つ委員を選び、委員に委嘱する。委員会の結論は最初から決まっている。

ただ不思議なことに、世間の一部(大半?)は、専門家の委員会や識者からなる第三者機関というと、当局とは独立して客観的な正義を下す機関だと誤解している節がある。「ちがうだろー」と叫んでおく。

マスメディアはチャンと報道して欲しいが、マスメディアも大口収入源は大事なので、配慮しながらしか、記事にできない。

それで、御用意見でない意見は、骨のある記者が書くか、小規模なマスメディアが発信するか、個人がブログで書くしかない。困った。

困ってばかりいないで、解決法を考えよう。

大学や研究機関の委員会や第三者機関が審議結果を発表する時、少なくとも、誰が委員なのかウェブに公表させる。できれば、誰がどんな意見を述べたのかという記録をウェブに公表させる。このルールを日本の文化慣習に固定させる。

そうすれば誰がどんな意見を述べたか、国民は知ることができる。自分の意見が国民に知られ、批判されると、御用委員といえども、プライドを気にする。この方策は、日本を少し良くできると思う。

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●8.【主要情報源】

① サンドラ・トロイアン(Sandra Troian)本人のウェブサイト:Troian Research Group(保存版)
② 2014年11月13日の「CBS Los Angeles」記事:Caltech Professor Alleges Retaliation For Alerting Feds To Suspected Violations At JPL « CBS Los Angeles(保存版)
③ 2014年11月15日のフィリップ・ワイス(Philip Weiss)記者の「mondoweiss」記事: Caltech prof says Israeli scientist passed NASA rocket secrets to his government 、(保存版)
④ 2015年1月13日のピーター・グイン(Peter Gwynne)記者の記事:Whistleblower sues over retaliation、(保存版
⑤ 2015年1月14日のアリソン・ウィアー(Alison Weir)記者の「If Americans Knew」記事:Lawsuit says Caltech Provost and others ignored Israeli spying and then retaliated against whistleblower(保存版)
⑥ 2017年1月17日のスキップ・ヒッカムボトム(Skip Hickambottom)記者とデール・グローネミエ(Dale Gronemeier)記者の「LA Progressive」記事:Caltech’s Cat on an Abstract – LA Progressive(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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