「レイプ」等:心理学:トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)(米)

2020年6月5日掲載 

ワンポイント:【長文注意】。ダートマス大学3教授の院生レイプ事件。名門大学であるダートマス大学(Dartmouth College)は、男性教授3人が、15年以上にわたり、15人以上の女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラし、麻薬吸引させてきたと2017年10月に公表した。2018年6~7月、加害者の3教授は、退職・辞職した。刑事事件になっていない。ダートマス大学は長年の間、まっとうな対処をしなかったことで、被害女性7人が2018年、7000万ドル(約70億円)の賠償金を支払うよう裁判に訴えた。2019年8月6日、示談が成立し、賠償金額は1400万ドル(約14億円)になった。当時の学科長のデイヴィッド・ブッチ教授(David Bucci)は、事件が一段落した2019年10月15日、50歳の若さで自殺した。国民の損害額(推定)は50億円(大雑把)。

【追記】
・2020年7月17日記事:原告被害者は1人75,000ドル(約750万円)受け取る。510 万ドル(約5憶1千万円)は弁護士。残りは65 人の被害女性へ:Settlement in Darmouth Sexual Misconduct Gets Final Approval | New Hampshire News | US News

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

アイビーリーグの一つ、米国の名門大学であるダートマス大学(Dartmouth College)・心理学分野の3人の男性教授が、15年以上にわたり15人以上の女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラしてきた事件で、2017年に発覚した。学園ドタバタ映画の「アニマル・ハウス」はダートマス大学をモデルにした1978年の映画だが、その映画名をもじって、この事件は「21世紀アニマル・ハウス(21st Century Animal House)」事件と呼ばれている。

ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)の3人の男性教授。写真左からトッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)(出典)。

トッド・ヘザートン、ウィリアム・ケリー、ポール・ウェイレンら心理学および脳科学部の3人の教授は、10年以上もの間、「女子学生を誘惑し、身体を触った上、卑猥な行為に及び、かつ薬物を服用させ、レイプした」と主張。「その他にも、教授らは会議をバーで行ったり、自宅に学生を招いて深夜遅くまで混浴パーティを開いたり、薬物中毒についての授業で“実技”の一環として、学生に本物のコカインを服用させた」(出典:2018年11月19日:Rolling Stone Japan:Lilly Dancyger(Akiko Kato訳):アメリカの名門大学で発覚した教授の性的暴行、元生徒らが提訴へ

ダートマス大学(Dartmouth College)は遅くとも2002年に3人の教授の性不正を把握していた。しかし、2017年まで、15年間も、まともに対処してこなかった。

2017年10月31日、女性院生らの訴えを受け、性不正の調査していたダートマス大学(Dartmouth College)は、心理学脳科学科の3人の男性教授、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)の性不正を調査していることと、3教授を休職(有給)処分にしたと発表した。

2018年6~7月、加害者の3教授は解雇でなく、退職・辞職した。

刑事事件にならなかった。

2018年11月15日、7人の被害女性院生は、3人の教授の性不正を申し立てたのにダートマス大学は無視したとして、大学に7000万ドル(約70億円)の賠償金を求める訴訟を起こした。

訴えた被害者7人(1人は匿名)の内6人。順不同:Marissa Evans, Sasha Brietzke, Vassiki Chauhan, AnneMarie Brown, Andrea Courtney, Kristina Rapuano:出典

2019年8月6日、ダートマス大学は原告9人(後で2人増えた)と示談が成立し、原告に1400万ドル(約14億円)の賠償金を支払うことで決着した。

「ダートマス大学3教授の院生レイプ事件」の2017年の告発から裁判まで、ダートマス大学・心理学脳科学科の学科長に在任していたデイヴィッド・ブッチ教授(David Bucci)は、事件が一段落した2019年10月15日、50歳の若さで自殺した。

この事件は米国の多数のメディアが報道した。日本語の解説記事も3つ程あった。

ダートマス大学(Dartmouth College)。写真出典

  • 国:米国
  • 事件名:ダートマス大学3教授の院生レイプ事件
  • 加害者:ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)の3人の男性教授。トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)
  • 事件の内容:15人以上の女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラし、麻薬吸引させてきた
  • 分野:心理学
  • 不正年:2002~2017年の15年間
  • 発覚年:2017年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者である女性学部生・院生・ポスドクが、大学に申し立て、さらに、7人(後に2人追加)が裁判を起こした
  • ステップ2(メディア): 「Dartmouth」紙、米国の多数のメディアが報道。以下は数例。
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①ダートマス大学。②裁判所
  • 不正:レイプ・性的暴行・セクハラ、麻薬吸引
  • 不正論文数:ネカトや論文不正とは無関係
  • 被害(者):少なくとも15人以上の女性学部生・院生・ポスドク
  • 国民の損害額:総額(推定)は50億円(大雑把)。大学の賠償金が14億円、15人の被害女性の被害を15億円とした。3人の教授にかかった育成費・研究費などの損害を10億円とした。調査・裁判・評判ダメージなどを5億円とした。自殺した学科長の損害を6億円とした
  • 結末:1人退職、2人辞職。3教授の逮捕なし・損害賠償なし。大学は1400万ドル(約14億円)の賠償金支払い。学科長の自殺。

●2.【日本語の解説】

日本語の解説記事が数報あった。事件全体は日本語記事だけで理解できる。以下、つまみ食い引用。

★2015年2月2日:Douglas Belkin:強い酒の持ち込み禁止に動く米名門大学-性暴力対策で

出典 → ココ

米ダートマス大学は、ハードアルコール(ウイスキー、ウオッカなどアルコール度数の高い酒)のキャンパスへの持ち込みを禁止し、粗暴だとの悪評で知られるフラタニティ(男子学生の社交団体)に対し、改革しなければ解体を命じると通告した。米国ではこうした性的暴行につながりがちなパーティー文化を取り締まろうとする名門大学の動きが相次いでいる。

★2018年11月19日:Rolling Stone Japan:Lilly Dancyger(Akiko Kato訳):アメリカの名門大学で発覚した教授の性的暴行、元生徒らが提訴へ

出典 → ココ、(保存版

アイビーリーグの一つ、ダートマス大学の教授から性的暴行を受けたとして、同校の卒業生・在学生7名が大学側を相手に訴訟を起こした。

トッド・ヘザートン、ウィリアム・ケリー、ポール・ウェイレンら心理学および脳科学部の3人の教授は、10年以上もの間、「女子学生を誘惑し、身体を触った上、卑猥な行為に及び、かつ薬物を服用させ、レイプした」と主張。「その他にも、教授らは会議をバーで行ったり、自宅に学生を招いて深夜遅くまで混浴パーティを開いたり、薬物中毒についての授業で“実技”の一環として、学生に本物のコカインを服用させた」と主張している。

教授らの学術的なサポートや指導を受けるには、女子学生はこうしたパーティへ参加しなければならず、研究分野で成果を上げるためには他に選択肢がなかったとも主張している。

2017年、複数の女子大学院生が教授らの行動について大学側に正式な抗議申し立てを行ったが、「ダートマス大学は何もしなかった」ばかりか、このまま教授のもとで研究を続けるよう学生たちを説得したという。その後数カ月にわたって大学側は内部調査を行い、27人の学生が協力を申し出た。調査結果は後日公表され、3人の教授は最終的に退任に追い込まれたが、最初の抗議から15カ月も経った後だった。教授の処分は解雇ではなく、自主退職という形での退任だった。

★2018年11月19日:AFP:教授3人が性的暴行、学生ら米アイビーリーグ名門大を提訴

出典 → ココ保存版

【11月19日 AFP】「アイビーリーグ(Ivy League)」と呼ばれる米名門私立大8校の一角を占めるダートマス大学(Dartmouth College)の卒業生と在校生の女性7人が、長年にわたり女子学生に性的虐待やハラスメント、レイプを行ってきた教授3人を野放しにしていたとして、大学理事会を相手取り7000万ドル(約79億円)の賠償金を求める訴訟を起こした。

いずれも著名で、終身雇用(テニュア)の教授として潤沢な研究費を得ていたトッド・ヘザートン(Todd Heatherton)氏、ウィリアム・ケリー(William Kelley)氏、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)氏の3人は学部所属の女子学生たちを「優に10年以上」「性欲を満たす道具として扱っていた」という。

3人は「女子学生をいやらしい目つきで見つめ、体をまさぐったり、みだらなメッセージを送りつけたりした。レイプされた学生も複数いた」と訴状は主張。また研究指導や学生支援を受ける条件として「アルコール漬けのパーティー」に参加することを学生に求めたといい、さらに「研究室の会合をバーで行い、学生を深夜に自宅に招いて『温浴パーティー』を開いた」ほか、薬物中毒に関する授業の中で「実技」の一環だとして本物のコカインを学部生に吸わせたという。

原告の一人で現在イェール大学(Yale University)博士研究員の女性(30)は、カリフォルニア州での会議に出席した際、ケリー氏から過剰に酒を飲まされ性的暴行を受けたと訴えている。

原告らの主張によると、大学当局は少なくとも2002年には既に教授3人の悪行を把握。また、2017年に大学院生のグループがセクハラと性的暴行の被害を申し立てたが、大学側はただちに対処せず、そのまま教授らの下で研究を続けるよう学生たちを説得したという。4か月近く後の同年10月になってようやく大学は教授3人を休職処分とし、ニューハンプシャー州の司法当局が犯罪捜査に着手した。

しかし大学側は、被害を訴えた学生たちがカウンセリングを受けていることを知らされた後も何もしなかったとされる。一方の大学側は声明で、問題の教授3人は今年に入って解雇され、大学構内への立ち入りも禁じられていると説明。同大には性的不品行の行われる余地はないと主張している。

●3.【事件の経過と内容】

【加害者の3教授】

ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)の3人の男性教授、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)が加害者である。

それぞれどんな人か理解しておこう。

なお、トッド・ヘザートンが2人より6~10歳ほど年長で、ダートマス大学・心理学脳科学科の先輩教員である。但し、院生時代の指導教員ではなく、師弟関係や同門関係はない。

★トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)
経歴:HeathertonCV.2015

  • 写真出典:Dartmouth professors investigated for sexual harassment | Daily Mail Online
  • 研究テーマ:①摂食障害の研究。②思春期の喫煙と映画の関係。子供への映画(オンライン、劇場)鑑賞規制画緩い両親を持つ子供は思春期でより多く喫煙する
  • 論文数:2020年6月4日現在、パブメド( PubMed ))で、トッド・ヘザートン(Todd F. Heatherton)の論文を「Todd F. Heatherton[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の52論文がヒットした
  • 結婚・離婚・子供:情報は見つからなかった。それで、性不正行為をしていた時、独身だったのか結婚していたのか不明である
  • ―――――
  • 生年月日:仮に1962年1月1日生まれとする。カナダ生まれと思われる。1984年に大学卒業した時を22歳とした
  • 1984年(22歳?):カナダのカルガリー大学(University of Calgary)で学士号取得:心理学
  • 1986年(24歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)で修士号(MS)を取得:実験心理学
  • 1989年(27歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:実験心理学
  • 1989年〜1990年(27〜28歳?):米国のケースウエスタンリザーブ大学(Case Western Reserve University)・ポスドク
  • 1990年〜1994年(28〜32歳?):ハーバード大学(Harvard University)・助教授
  • 1994年(32歳?):ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)・助教授。その後、準教授、正教授
  • 2001年(40歳?):ダートマス大学・認知神経科学センター(Dartmouth College, Center for Cognitive Neuroscience)・教授
  • 2002年(40歳?):性不正行為を始めた
  • 2011年(49歳?):人格社会心理学会・会長(Society for Personality and Social Psychology – Wikipedia
  • 2017年10月(55歳?):性不正行為を大学が公表
  • 2018年6月14日(56歳?):ダートマス大学を退職(retire)

★ウィリアム・ケリー(William Kelley)(Bill Kelley)
経歴:Microsoft Word – kelley_cv_4_18.docx

  • 写真出典:Dartmouth professors investigated for sexual harassment | Daily Mail Online
  • 研究テーマ:
  • 論文数: 2020年6月4日現在、パブメド( PubMed ))で、ウィリアム・ケリー(William M. Kelley)の論文を「William M. Kelley [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の52論文がヒットした。トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)と共著論文がある。もっとも古い共著論文は2002年の論文である。
  • 結婚・離婚・子供:情報は見つからなかった。それで、性不正行為をしていた時、独身だったのか結婚していたのか不明である
  • ―――――
  • 生年月日: 1972年6月19日、シカゴに生まれた
  • 1995年(23歳):イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校 (University of Illinois at Urbana-Champaign)で学士号取得:心理学と化学
  • 1999年(27歳):セントルイスのワシントン大学医科大学院(Washington University School of Medicine)で研究博士号(PhD)を取得:神経科学
  • 1999〜2000年(27〜28歳):同大学・ポスドク
  • 2000〜2005年(28〜33歳):ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)・助教授
  • 2005〜2012年(33〜40歳):同大学・準教授
  • 2012〜2018年(40〜46歳):同大学・正教授
  • 20xx年(xx歳):性不正行為を始めた
  • 2017年10月(45歳):性不正行為を大学が公表
  • 2018年6月26日(46歳):ダートマス大学を辞職(resign)。後にテニュアを剥奪された

★ポール・ウェイレン(Paul Whalen)
経歴:Paul WHALEN | PhD, Professor | Dartmouth College, NH | Department of Psychological and Brain Sciences

  • 写真出典:Dartmouth professors investigated for sexual harassment | Daily Mail Online
  • 研究テーマ:
  • 論文数: 2020年6月4日現在、パブメド( PubMed ))で、ポール・ウェイレン(Paul J. Whalen)の論文を「Paul J. Whalen [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の54論文がヒットした。トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)と共著論文がある。もっとも古い共著論文は2008年の論文である。
  • 結婚・離婚・子供:情報は見つからなかった。それで、性不正行為をしていた時、独身だったのか結婚していたのか不明である
  • ―――――
  • 生年月日:仮に1966年1月1日生まれとする。1993年に研究博士号(PhD)を取得した時を27歳とした
  • 1987年8月〜1993年7月(21〜27歳?):バーモント大学(University of Vermont)で研究博士号(PhD)を取得:心理学
  • 1995年9月〜2005年7月(29〜39歳?):マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)・助教授
  • 1999年7月〜2005年7月(33〜39歳?):ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin–Madison)・助教授
  • 2005年7月(39歳?):ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)・準教授、その後、正教授
  • 20xx年(xx歳):性不正行為を始めた
  • 2017年10月(51歳?):性不正行為を大学が公表
  • 2018年6月26日(52歳?):ダートマス大学を辞職(resign)。後にテニュアを剥奪された

【ダートマス大学の心理学】

★ダートマス大学・心理学脳科学科

本事件は、ダートマス大学・心理学分野の3人の男性教授が、15年以上にわたり15人以上の女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラしてきた事件で、2017年に発覚した。

ダートマス大学を理解しておこう。

ダートマス大学(英語: Dartmouth College)は、アメリカ合衆国ニューハンプシャー州ハノーバー市に本部を置くアメリカ合衆国の私立大学である。1769年に設置された。

アイビー・リーグのメンバーで、全米の大学の中で13番目に長い歴史を持つ。

ダートマス大学は2007年、USニューズ&ワールド・レポート社によるアメリカ国内の大学ランキング(大学院課程を除く)でコロンビア大学やシカゴ大学と並ぶ9位にランク付けされた。しかし、ダートマス大学は学士課程(学部)を重視していることから、同大学が上記のランキング内において「研究大学(大学院重視の大学)」のカテゴリに入れられている点を不公平ではないかと疑問視する声もある。ただし、2006年度版のカーネギー教育振興財団による格付け(別称:高等教育機関分類)によると、ダートマス大学は、「学部生が大多数を占め、芸術と科学の分野を重視しており、研究活動が極めて盛んな大学院をも擁する国内唯一の教育機関」と分類されている。(ダートマス大学 – Wikipedia

学部生は4,459人、院生は2,149人、教員は943人、 管理職員は2,938人(正規)、328人(パート)である(出典:Dartmouth College – Wikipedia)。

ダートマス大学の心理学は、事件発覚前の2016-2017年の「Times Higher Education」の大学ランキングは米国第82位の大学だった(World University Rankings 2016-2017 | Times Higher Education (THE))。一流とは言えないが上位の大学だ。

ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)。写真出典

心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)の教員は、サイトを見ると、 2020年6月4日現在、26人いる。 → People | Department of Psychological and Brain Sciences、(2020年6月4日保存版

標準的な規模の学科であるが、26人の教員の内、正教授は6人である。心理学脳科学科は、心理学と脳科学という2つの領域の学科なので、心理学と脳科学が半々なら、正教授は各3人である。事件当時も同じ人数体制なら、心理学の3人の正教授の全員が共謀して性不正事件を起こしていたことになる。

こうなると、学科内で批判する教授がいない。被害者の女性学部生・院生・ポスドクにとって、相談できる心理学の教授はいなかったということになる。また、格下の助教授や準教授が3人の正教授に注意や警告をするのは、かなりの覚悟がいる。助教授や準教授にも相談できなかっただろう。

心理学脳科学科の学部生数は不明だが、大学院生は、2019年に13人入学している(以下の写真出典、(2020年4月23日保存版))。

13人の大学院生の内、女性が9人、男性が4人である。心理学と脳科学で半々とすると、女性は4.5人である。大学院は3年間なので、3倍すると女性院生は 13.5人である。女性ポスドクを6.5人とすると、心理学に常時、女性院生・女性ポスドクは約20人いただろう。15年間で在籍した女性院生・女性ポスドクは90人程度だろう。

その90人が、本事件の被害者になっていたと想像される。そして、その内の15人が訴えた。一般に、性不正の被害にあっても、被害者は告発しないケースが多い。ダートマス大学・心理学脳科学科のほぼ全女性院生・女性ポスドクが被害にあっていたのではないだろうか。

【性不正事件の経過と内容】

★大学が事件を公表:2017年10月

2017年10月、学術界とは無関係だが、米国の映画界で、ハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)の性不正行為が暴露され非難され始めた。

丁度その頃、ダートマス大学の3教授・性不正事件が公表された。社会現象ともなった#MenToo事件の学術界版としては、とても早い。

2017年10月25日、ダートマス大学(Dartmouth College)は、心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences)の3人の男性教授、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)の性不正を調査し始め、3教授を休職(有給)処分にした。
 → 2017年10月25日の「Dartmouth」記事:Three psychology professors under investigation for ‘serious misconduct’ | The Dartmouth

2017年10月31日、ダートマス大学(Dartmouth College)のフィリップ・ハンロン学長(Philip J. Hanlon – Wikipedia、写真同)は、3教授の名前を挙げて、性不正調査の件を発表した。

2017年10月31日、大学が発表したその日、ニューハンプシャー州の検事総長(New Hampshire Attorney General’s office)、グラフトン郡の検察官と保安官の事務所、ハノーバー警察は犯罪捜査を開始した。

ニューヨーク大学はヘザートンの客員教授の身分を取り消した。

以下は検事総長の記者発表(2ページ)の冒頭部分(出典:同)。全文は → https://communications.dartmouth.edu/sites/communications.dartmouth.edu/files/1852410.pdf

 

【動画1】
性不正事件のニュース動画:「Why Are These Dartmouth Professors Being Investigated? – YouTube」(英語)0分38秒。
Wochit Newsが2017/10/31に公開

★2017年11月18日:15人の女性学部生・院生・ポスドクが被害を公表

2017年11月18日、ダートマス大学・心理学脳科学科の15人の女性学部生・院生・ポスドクは、「3人の教授によるセクハラが常態化していて敵対的な環境だった」と3人の教授を非難した。
 → 2017年11月18日のエリン・リー(Erin Lee)記者とレイ・ルー(Ray Lu)記者の「Dartmouth」記事:Fifteen students allege three professors created ‘hostile academic environment’ | The Dartmouth

以下は15人の女性学部生・院生・ポスドクの訴えの全文(出典:同)。全文は → https://www.thedartmouth.com/article/2017/11/fifteen-students-allege-three-professors-created-hostile-academic-environment

ヘザートンの弁護士ジュリー・ムーア(Julie Moore)は、「ヘザートンは大学の規則に一度も違反していません。学生と性的関係になったことは一度もありません」」との声明を発表した。

他の2人の教授、ケリー教授、ウェイレン教授は、ダートマス大学が電話や電子メールで繰り返しコメントを求めたが、返答をしなかった。

心理学脳科学科のデイヴィッド・ブッチ学科長(David Bucci、写真出典)はメディアにノーコメントだった。

★2018年6~7月:3教授の退職・辞職

2018年6月14日、ヘザートン教授(56歳?)はダートマス大学を引退(retire)した。ヘザートンはキャンパスの敷地に入ることと大学のイベントに参加することを禁じられた。
Fifteen students allege three professors created ‘hostile academic environment’ | The Dartmouth

2018年6月26日、ウェイレン教授(52歳?)がダートマス大学を辞職(resign)した。
 → 2018年6月26日記事:Whalen resigns amidst review for alleged sexual misconduct | The Dartmouth

2018年7月17日、ケリー教授(46歳)がダートマス大学を辞職(resign)した。
 → 2018年7月17日記事:Kelley resigns, concluding sexual misconduct investigation | The Dartmouth

【性不正の具体例】

ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)の3人の男性教授、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton、写真左)、ウィリアム・ケリー(William Kelley、写真右下)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen、写真右上)が加害者である。

3人の男性教授。https://heavy.com/news/2018/11/todd-heatherton-william-kelley-paul-whalen/

女性院生は沢山のお酒を飲むパーティでは性的にルーズになり、身体を触っても女性院生が気にしないことを、3人の教授は学んでいた。

それで、3人の教授は、教授の自宅でお酒を飲むパーティに女性院生を招待した。研究の検討をするラボミーティングをお酒を飲むバーで行なった。教授の自宅の深夜のホットタブ・パーティ(“hot tub parties”)に女性院生を招待した。さらには、薬物中毒のクラスでは心理学的な経験の一環として院生に本物のコカインを吸わせた。そして、泥酔した女性院生をレイプした。

もう滅茶苦茶である。

しかし、心理学の3教授が集団で行なっていたので、女性学部生・院生・ポスドクが簡単に拒否できる状況ではなかった。参加しないと単位をもらえないと言われ、研究遂行、学年進級に差しつかえると脅された。

教員に相談しようにも、相談にのってくれる教員はいなかった。相談にのってくれる教員がいないどころ、ダートマス大学に訴えても、大学は対処しなかった。

こうなると、行き場がない。なすがママ、きゅりがパパ。

★クリスティーナ・ラプアノ(Kristina Rapuano):2012年9月 – 2018年4月(22 –28歳?)に院生
 → 2018年11月15日の「Honolulu Star-Advertiser」記事:Dartmouth College sued following professor misconduct allegations | Honolulu Star-Advertiser
 → 2018年11月15日のアネモナ・ハートコリス(Anemona Hartocollis)記者の「New York Times」記事:Dartmouth Professors Are Accused of Sexual Abuse by 7 Women in Lawsuit – The New York Times
 → 2018年11月19日のアマンダ・アーノルド(Amanda Arnold)記者の「CUT」記事:Dartmouth Professors Sexually Assaulted Students: Lawsuit

クリスティーナ・ラプアノ(Kristina Rapuano)は7人の原告の1人で、2012年9月 – 2018年4月の5年8か月、ダートマス大学・院生だった。2020年6月4日現在、イェール大学(Yale University)・ポスドクである(写真出典)。経歴:Kristina Rapuano | LinkedIn

2014年3月14日、ラプアノ(24歳?)は大学院の進級試験があったので、ウェイレン教授のオフィスで研究の相談をしていた。すると、ウェイレン教授にパンティの中に手を入れれられた。やめるように拒絶したが、ウェイレン教授は何度も手を入れてきた。

2015年3月28日、ラプアノ(25歳?)は、サンフランシスコでの認知神経科学学会の年次大会で、ケリー教授にレイプされた。ケリー教授に一緒に飲もうと誘され、ホテルの部屋で飲んだことは覚えているが、翌朝、目を覚ました時、何が起こったのか覚えていなかった。ケリー教授は「2回セックスしたよ」と彼女に言った。つまり、ケリー教授はラプアノを酔わせてレイプしたのだ。なお、訴状ではその時、彼女が警察にレイプ被害届を出したかどうかを述べていない。

その後、ケリー教授は彼女にセックスしようと再三誘った。ラプアノが拒否すると、ケリー教授は敵対的になり、彼女への学問上の指導をやめ、彼女が抵抗すると学業で報復するぞと脅かし始めた。

ラプアノは、「私は窮地に陥りました。逃げることができない状況でした。それから離れれば、一生懸命努力してきた研究キャリアを捨てることになるからです」と、新聞記者に語った。

★ヴァシキ・チャウハン(Vassiki Chauhan):2015年9月 – 現(22 –歳?)に院生
 → 2018年11月15日のクリス・スパルゴ(Chris Spargo)記者の「Daily Mail Online」記事:Dartmouth College professors ‘raped, sexted and groped students, invited cocaine use in class’ | Daily Mail Online

ヴァシキ・チャウハン(Vassiki Chauhan)は7人の原告の1人で、唯一、留学生である。インドのムンバイのセント・ザバーズ大学(St. Xavier’s College)を2013年に卒業し、イタリアのトレント大学 (Università degli Studi di Trento) で2015年に認知科学の修士号を取得し、2015年9月にダートマス大学・院生になった。2020年6月4日現在もダートマス大学・院生である(写真出典と経歴:Vassiki Chauhan | LinkedIn

2017年4月24日、チャウハン(24歳?)は、ウェイレン教授の自宅でレイプされた。その夜、ウェイレン教授の自宅でパーティがあり、チャウハン(24歳?)は、大量のお酒を飲まされた。

ウェイレン教授はチャウハンの身体を性的に触り始めた時、チャウハンは触らないようにと言い、強く拒否した。チャウハンは階下に降りて何度か家を出ようとした。しかし、その都度、ウェイレン教授に捕まって、帰らせてもらえなかった。

その後、ウェイレン教授はチャウハンを無理やりレイプした。その時、チャウハンは少なくともコンドームを使うようにと言ったが、ウェイレン教授は笑って「そのつもりはないよ」と彼女に言った。

翌日、ウェイレン教授はチャウハンに、セックスは同意の上で行なったことと、秘密にして誰にも話さないようにと要求した。

チャウハンは性的暴行(レイプ)されたことで、肉体的な苦痛があった。それで、彼女はダートマス大学の医療施設を訪れ、医師の診察を求めた。医師はチャウハンを診察した後、強要されたか性交かどうか尋ねた。記事には答が書いてない。流れからして、「強要された」とチャウハンは答えた(と白楽思う)。

チャウハンは別件で医師に治療をしてもらいたかっただけで、レイプはチャウハンの被害妄想だよと、ウェイレン教授は反論している。

★サーシャ・ブリエツケ(Sasha Brietzke):2016年8月 – 現(22 –歳?)に院生
 → 2018年11月15日のレイチェル・デサンティス(Rachel Desantis)記者の「New York Daily News」記事(写真出典同):Students say Dartmouth ignored professors’ sexual harassment in lawsuit that alleges ‘hot tub parties,’ cocaine in class – New York Daily News

サーシャ・ブリエツケ(Sasha Brietzke)は7人の原告の1人で、2016年8月にダートマス大学・院生になった。2020年6月4日現在もダートマス大学・院生である(経歴:Sasha Brietzke | LinkedIn

2017年3月、学会開催地で夜にカラオケバーに行った。酔っ払ってカラオケバーから出てきたとき、ヘザートン教授がブリエツケ(23歳?)の身体を触ってきた。

「私は大学院の1年生だったので、明らかに屈辱を覚えました。私は自分を性的対象としてみてほしくなかったのです。これは非常に単純な要求だと思うのですが」とブリエツケは新聞記者に語った。

ヘザートン教授に身体を触られ、ブリエツケは超アタマにきた。学科内の他の人々と話し合った。

2017年4月、ブリエツケは他の被害院生と一緒にダートマス大学に性不正の告発をした。

★シミーヌ・ヴァジール(Simine Vazire)(当時21歳):2002年:ヘザートン(40歳)
 → 2017年11月13日のダニエル・エンガー(Daniel Engber)記者の「Slate」記事:Dartmouth professor Todd Heatherton accused of groping a woman in 2002.

今まで、原告の内、3人の院生の性的被害を具体的に書いてきたが、それより15年も前の2002年に性不正が行なわれていた。シミーヌ・ヴァジール(Simine Vazire)は原告ではないが、2002年の経験を以下に示す。

シミーヌ・ヴァジール(Simine Vazire)は当時21歳で、ダートマス大学・院生だった。現在はカリフォルニア大学デービス校(University of California–Davis)の心理学・教授である(写真出典)。

2002年初頭、ジョージア州サバンナのウォーターフロントのホテルで人格社会心理学会(Society for Personality and Social Psychology – Wikipedia)の年次総会が開催された。1,300人ほどの会員が集まっていた。

21歳のヴァジールは、大きな学会に参加したのは、この年次総会が初めてだった。

そして、バンケットホールの外で、学生と教員の輪の中に立っていると、そばにいたヘザートン(40歳、ダートマス大学・正教授)は、一言も言わずに、他人に見えないようにヴァジールの後ろに手を伸ばしお尻を触った。

ヴァジールはヘザートンをダートマス大学・教授だとは知っていたが、紹介されていない見知らぬ人である。しかし、たいして動転しなかった。「お尻を触られたけど、それはほんの一瞬のことだったので(just kind of a blip on the radar)」と。

ヴァジールは、「自分の経験は学術界の悲惨なセクハラ被害とは同じではないと思う。しかし、学術界に蔓延するありふれた性的暴力の私の最初の経験として、いろいろな思いが詰まっているので、自分の経験を人々と共有したい」と述べた。

【ダートマス大学の不作為:裁判】

★裁判:全体的経過

ダートマス大学(Dartmouth College)は遅くとも2002年に3人の教授の性不正を把握していた。しかし、15年間も、まともに対応してこなかった。

2017年、複数の女子大学院生が教授らの行動について大学側に正式な抗議申し立てを行ったが、「ダートマス大学は何もしなかった」ばかりか、このまま教授のもとで研究を続けるよう学生たちを説得したという。その後数カ月にわたって大学側は内部調査を行い、27人の学生が協力を申し出た。調査結果は後日公表され、3人の教授は最終的に退任に追い込まれたが、最初の抗議から15カ月も経った後だった。教授の処分は解雇ではなく、自主退職という形での退任だった。(2018年11月19日:Rolling Stone Japan:Lilly Dancyger(Akiko Kato訳):アメリカの名門大学で発覚した教授の性的暴行、元生徒らが提訴へ:ココ保存版

経時的な出来事を「Dartmouth」紙のエイミー・フー(Amy Hu)記者が以下の図にした(2019年8月30日の「Dartmouth」記事:Sexual misconduct lawsuit against Dartmouth: a timeline of events | The Dartmouth)。

上記の図の内容は以下に示す。

  • 2018年11月15日、ダートマス大学・心理学脳科学科の卒業生・在学生7名は、3人の教授の性不正を申し立てたのにダートマス大学は無視した。それで、大学に7000万ドル(約70億円)の賠償金を求める訴訟を起こした。
  • 2019年1月3日、ダートマス大学は学内の性不正環境改善のためのC3Iイニシアティブを発足した。
  • 2019年1月3日、ダートマス大学は、3人の教授を“即座に”処置するとした。
  • 2019年5月1日、訴訟の原告に匿名の被害者2人が加わった。
  • 2019年5月14日、ダートマス大学は、2人の新しい原告が匿名では論点を議論できないと異議を申し立てた。
  • 2019年5月24日、原告とダートマス大学は調停の協議に入った。
  • 2019年8月6日、損害賠償額が1400万ドル(約14億円)で、正式に和解が成立した。

上記の経時的な出来事を、2019年8月30日の「Dartmouth」記事に従って見ていこう。

★2018年11月15日:7000万ドル(約70億円)の裁判

2018年11月15日、ダートマス大学・心理学脳科学科の卒業生・在学生7名は、3人の教授の性不正を申し立てたのにダートマス大学は無視したとして、大学に7000万ドル(約70億円)の賠償金を求める訴訟を起こした。

我々全員が一番に求めているのは、大学の方針を変えることです。被害者のためにすみやかな措置を取り、被害がもれなく報告されることです」と語るのは、原告の1人で現在もダートマス大学の大学院に通うサーシャ・ブリエッキ氏。「今回の訴訟は、学術研究機関のあり方を問うものです。研究機関は昔ながらのやり方で成り立っています。大学院生にとって、指導教官は自分たちの全てを握っている。完全に頼らざるを得ない。それが搾取につながっているのです。学会全体が、これまでの権力構造を見直すべきだと思います」(出典:2018年11月19日:Rolling Stone Japan:Lilly Dancyger(Akiko Kato訳):アメリカの名門大学で発覚した教授の性的暴行、元生徒らが提訴へ:ココ保存版)。

訴えた被害者7人(1人は匿名)の内6人。順不同:Marissa Evans, Sasha Brietzke, Vassiki Chauhan, AnneMarie Brown, Andrea Courtney, Kristina Rapuano:出典

訴えを起こした卒業生・在学生は、賠償金の獲得が主眼ではなく、ダートマス大学が学内の性不正行為に適正に対処しなかったことを問題視した。ダートマス大学が制度を改革し、二度とこのようなことが起きないよう求めた。
 → 2018年11月15日のアネモナ・ハートコリス(Anemona Hartocollis)記者の「New York Times」記事:Dartmouth Professors Are Accused of Sexual Abuse by 7 Women in Lawsuit – The New York Times

★2019年5月1日、訴訟の原告に匿名2人が加わった

2019年5月1日、事件は大きく進展し、2人の原告が匿名で新たに集団訴訟に加わった。修正訴状には、3人の教授による強制的な性交、セクハラ、強制的行動、不適切な性的関係があったとことが追加された。また、匿名Aは学部生だったが、心理学脳科学科での性不正のヒドイ被害を受け、心理学脳科学科を辞めた。匿名Bは院生・ポスドクだったが、心理学脳科学科での性不正のヒドイ被害を受け、研究分野を変えざるを得なかったと述べた。

2019年5月14日、被告のダートマス大学は、2人の新しい原告が匿名では論点を議論できないと異議を申し立てた。

裁判所がこの申立てを採択した場合、最初の1人、そして追加の2人、計3人の原告の匿名性を剥奪することになり、全国的な注目を集めた。

ニューヨーク・タイムズ紙は、被告側のこの法的戦略は「問題が敏感な時、原告を保護するとした長年の法的慣行」に反するものだと批判した。

ダートマス大学で2019年3月に研究博士号(PhD)を取得しダートマス大学・ポスドクのイツェル・ロハス(Itzel Rojas、写真出典)は、「匿名性に挑戦するのは、脅迫的な戦術だ。それは不必要で有害である」と非難した。

それに応じて、「性差別と性的暴力に反対するダートマス・コミュニティ(DCGHSV:Dartmouth Community against Gender Harassment and Sexual Violence)」は、地元のマーサ・ヘネシー上院議員(Martha Hennessey – Wikipedia)、アニー・クスター下院議員(Ann McLane Kuster – Wikipedia) や、大統領候補者のバーニー・サンダース (Bernie Sanders)、カーステン・ギリブランド (Kirsten Gillibrand)、エリザベス・ウォーレン(Elizabeth Warren)など有力な政治家を含め、600人を超える署名を集め、匿名性を剥奪するダートマス大学の申し立てを非難する請願書を発表した。  → 2019年6月28日の「Dartmouth」記事:Anonymity petition to be delivered | The Dartmouth

★2019年8月6日、損害賠償額が1400万ドル(約14億円)で、正式に和解が成立

2019年5月24日、原告とダートマス大学は調停の協議に入った。

2019年8月6日、損害賠償額が1400万ドル(約14億円)で、正式に和解が成立した。

「性差別と性的暴力に反対するダートマス・コミュニティ(DCGHSV)」は、原告の「英雄的な努力」を称賛した声明を発表した。

「この和解が、性的暴行とセクハラを根絶する制度と透明性をもたらす新しい時代の到来を告げ、制度と透明性が確立されることを願っている」と述べた。

また、「意味のある変化を求める」ことを再度強調し、ダートマス大学は「被害者ファーストのアプローチをすべきで、心理学脳科学科で起こったレイプ・性的暴行・セクハラの全責任を負わなければならない」と述べた。

「性差別と性的暴力に反対するダートマス・コミュニティ(DCGHSV)」は、ダートマス大学が対処しなければならないと改善リストを、上記の声明に添付した。なお、改善リスト(2019年1月2日)の作成にはイツェル・ロハス(前出)が大きく貢献した。 → 2019年1月10日の「Dartmouth」記事:Dartmouth community stands in solidarity and demands sexual misconduct reform | The Dartmouth

もちろん、和解に反対の人もいた。ダートマス大学をもっと徹底的にこらしめ、性差別と性的暴力を根絶させるべきだという主張である。

【ダートマス大学のその後】

★2018年にレイプ数が41%以上増加

ダートマス大学が2019年10月に発表した年間統計によると、ダートマス大学で報告されたレイプの数は、2018年に41%以上増加した。
 → 2019年10月3日のジョーダン・クデミ(Jordan Cuddemi)記者の「Valley News」記事: Valley News – Sexual assault reports increase at Dartmouth College

関係者によると、この増加は、キャンパスの安全性が低下したのではなく、#MeToo運動の影響で、被害者がより安心してレイプを報告するようになったからだと述べている。

ダートマス大学3教授の院生レイプ事件で、加害者の教授の処分が甘いことを受け、レイプが増えているのかもしれない。

【デイヴィッド・ブッチ学科長の自殺】

ダートマス大学3教授の院生レイプ事件の渦中、ダートマス大学・心理学脳科学科の学科長だったデイヴィッド・ブッチ(David Bucci、写真出典)は、和解が成立した2か月後の2019年10月15日、50歳の若さで自殺した。
 → Dartmouth Mourns Loss of Professor David Bucci | Dartmouth News

ブッチはダートマス大学3教授の院生レイプ事件の加害者ではない。しかし、当時、学科長だったことから、事件を防止できなかった責任、処理の不手際を感じていたのだろう。

事件に絡んだ自殺である。今後、こういう悲劇が起きないように、状況を述べておこう。できれば予防策も考えたい。

写真出典 https://www.thedartmouth.com/article/2020/01/nyt-former-pbs-chair-grew-distressed-after-mentioned-in-lawsuit

★ブッチ学科長の経歴

ブッチ学科長の経歴を述べておく。出典:①:David J. Bucci、②:Obituary | David J. Bucci of Norwich, Vermont | Knight Funeral Homes & Crematory

  • 生年月日:仮に1968年11月28日、米国・ニューヨーク州に生まれた
  • 1998年(29歳):ノースカロライナ大学チャペルヒル校(University of North Carolina at Chapel Hill)で研究博士号(PhD)を取得:神経生物学
  • 1998年〜2001年(29〜32歳):ブラウン大学(Brown University)・ポスドク
  • 2001年〜2004年(32〜35歳):バーモント大学(University of Vermont)・助教授
  • 2004年(35歳):ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)・助教授
  • 2008年(39歳):同・準教授
  • 2013年(44歳):同・教授
  • 2016年(47歳):同・学科長
  • 2017年10月(48歳):性不正行為を大学が公表
  • 2019年10月15日(50歳):自殺

★自殺

2017年4月、3人の院生が3教授の性不正行為をブッチ学科長に通報した。ブッチ学科長は大学の担当部署に通知し、ダートマス大学は調査を開始した。ここは妥当な行動だ。

2018年11月15日、先に述べたように、ダートマス大学・心理学脳科学科の卒業生・在学生7名は、3人の教授の性不正を申し立てたのをダートマス大学は無視したとして、大学に7000万ドル(約70億円)の賠償金を求める訴訟を起こした。

この裁判で、調査と訴訟の時に学科長だったブッチは3人の教授の性不正を知っていたのに、犠牲者を保護するための十分な行動をしなかった、と原告に非難された。訴状ではまた、ブッチが学科会議を召集し、「被害者を非難し、法的措置を講じるのを思いとどまらせようとした」と原告は主張した。

ブッチ学科長は、31回も裁判所で追及され、同僚に敬遠され、地元の商店の女将から「嫌なヤツ」と嫌われた。

ダートマス大学は、2019年1月15日の裁判所の提出書類で、原告の主張の多くに異議を唱え、ダートマス大学当局者は故意に性不正行為を許したことはないと反論した。原告はブッチ学科長を非難してないとした。但し、この都合の良い提出書類の草案を、ブッチ学科長が書いていたのだ。

2019年5月上旬、2人の元院生が匿名で原告に加わった。その時提出した原告の修正訴状では、匿名院生の1人は、2017年10月に性不正の調査についてブッチ学科長から連絡を受けたと述べた。その時、ブッチ学科長は、「アナタ(匿名院生)が元教授と不適切な性的関係があることを承知している」と匿名院生に言った。つまり、ブッチ学科長は性不正があることを知っていて、適切な対応をしなかったのだ。

そして、ブッチ学科長は、事件が一段落した2019年10月15日、和解が成立した2か月後、50歳の若さで自殺した。

妻のケイティ・ブッチ(Katie Bucci、写真出典)は、「夫がなぜその日に自分の命を奪ったのか私にはわかりません。しかし、夫がこの裁判を経験しなければ、自分の命を奪うことはなかったと、断言できます。ただ、誰のせいで自殺したと、その人を指さすことはしたくありません」と新聞記者に語った。

ブッチ学科長は世間の批判から自分自身を守ることができなかった。

ダートマス大学の広報担当官のダイアナ・ローレンス(Diana Lawrence、写真出典)は、ブッチ学科長は「模範的な」学科長だったと述べている。

「ブッチ学科長はダートマス大学を無条件に支え、3人の悪徳教授の問題行動を報告した院生にまっとうに対応しました。ダートマス大学コミュニティ全体が、素晴らしい同僚、学者、教員、メンターの悲劇的な喪失を悼んでいます」と哀悼の意を表した。

なお、ブッチ学科長の自殺の原因を、訴訟を起こした9人の女性のせいにしたニューヨークタイムズ紙の記事に対して、ダートマス大学の30人以上の教授が強く反発した。悪いのは訴訟を起こした側でなく、性不正を放置した側だというわけだ。正論です。
 → Over 30 professors criticize New York Times’ coverage of suicide | The Dartmouth

●4.【白楽の感想】

《1》処分が大甘

加害者は3人の男性教授で、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)である。

ダートマス大学・心理学脳科学科(Department of Psychological and Brain Sciences at Dartmouth College)の3人の男性教授は、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)である。写真は左からヘザートン、ケリー、ウェイレン(出典)。

指導する女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラした事件である。被害者だと実名とあげて裁判に訴えたのは以下の6人で、15年以上にわたり15人以上の被害者が申しでた。

訴えた被害者7人(1人は匿名)の内6人。順不同:Marissa Evans, Sasha Brietzke, Vassiki Chauhan, AnneMarie Brown, Andrea Courtney, Kristina Rapuano:出典

しかし、この種の事件の性質として、もっと被害者は多く、もっとヒドイ状況があっただろうと推察される。例えば、被害者に自殺者はいなかったのか? 精神を病んで訴えに参加できなかった人はいなかったのか? 

本記事では、

2017年10月31日、大学が発表したその日、ニューハンプシャー州の検事総長(New Hampshire Attorney General’s office)、グラフトン郡の検察官と保安官の事務所、ハノーバー警察は犯罪捜査を開始した。

と書いた。

白楽は、しかし、警察による捜査のその後がわからない。どうやら、刑事事件にならなかったようだ。裁判になっていない。

3人の教授の1人は退職、2人は辞職で、逮捕がなければ、損害賠償もされなかった。ダートマス大学は1400万ドル(約14億円)の賠償金支払いを命じられたが、加害者の3教授は賠償金の支払いどころか、全く処罰がない。

事件を調べて、白楽は唖然とした。加害者が全く処罰されない。これじゃ、レイプを含め性不正はヤリ得だ。

《2》恋人や親兄弟

ダートマス大学の男性教授3人が、15年以上にわたり、15人以上の女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラしてきた事件だが、この事件の加害教授はヒドイ。

15年以上にわたり、女性研修生(院生・ポスドクなど)をレイプしたり、麻薬を吸わせたりした。

それで、大学を解雇ではなく、単なる退職・辞職である。刑事事件になっていない。

こういう事件があるたびに、処分が大甘だと思う。だから事件は無くならない。

もし、在米中に白楽の恋人や姉妹、あるいは娘が、こんな3教授の性欲の犠牲になったら、白楽は多分、3教授を拳銃で撃ち殺したと思う。

犠牲者の恋人や親兄弟は、激怒しないのだろうか?

《3》ヒドイ、暗澹

3人の男性教授のうちのどの教授か全教授か明記していないが、薬物中毒の授業で経験しておいた方が良いと、受講生に麻薬(コカイン)を吸引させた。

心理学の授業で教授が言うと、なんとなく、ダマされてしまう論理かもしれない。しかし、殺人犯の心理を理解するのに経験しておいた方が良いと、殺人させるかい? 許さん!

米国でも麻薬は違法である。

ダートマス大学3教授の院生レイプ事件で、コカイン吸引で刑事事件にならないのはどうしてなんだろう? 日本だと、レイプ事件より麻薬事件の方が大きく取り上げられる。

もっとも、コカインは米国の学部生の間に蔓延していて、1980-1995年に大学を卒業した人の約20%は在学中にコカインを吸飲した経験があるとのことだ(Cocaine – Wikipedia)。

《4》大学もかなりヒドイ

この事件の加害教授はヒドイけど、大学もかなりヒドイ。大学がヒドイと言っても、大学そのものは単なる組織体だから、担当した人物がヒドイということだ。

だから、ダートマス大学(Dartmouth College)の歴代の担当者を刑罰に処すべきだ。

大学は7000万ドル(約70億円)の賠償金を払うよう裁判に訴えられ、示談で1400万ドル(約14億円)の賠償金になった。

それなら、歴代の担当者の私有財産を5割没収し、大学の賠償金支払いの穴埋めをさせよ。

なお、性不正事件では日本の大学は米国の大学よりも、ヒドイ。何もしないどころか、加害教授の名前を隠蔽し、性不正者を擁護している。文科省もそれを看過・擁護している。それなのに、どうして、日本の被害者・両親は、大学や文科省を訴えないのか? 

白楽は、不思議に思う。

《5》リーダー

15年以上にわたり15人以上の女性学部生・院生・ポスドクをレイプ・性的暴行・セクハラしてきた事件で、7人の現・元・院生が2017年に裁判所に訴えた。

7000万ドル(約70億円)の賠償金を払うよう、まともに対処しなかったダートマス大学を裁判に訴えた。そして、示談で1400万ドル(約14億円)を得た。ダートマス大学はルールを改訂した。全米の多くの大学は性不正に向き合った。

この訴えを、誰がどのように組織化したのか?

性不正の事件は被害者が実名で被害を訴えるのは米国でも容易ではない。7人の内1人は匿名である。後で訴訟に加わった2人も匿名である。

レイプ・性的暴行・セクハラ事件で、被害者の組織化は難しい。二次被害も想定される。それを上手にまとめた手腕は大きい。そして、裁判、メディアへの対応もある。誰がどのように統括したのだろう? 学ぶ点が多いと思う。

《6》防ぐ方法

加害者は3人の男性教授で、トッド・ヘザートン(Todd Heatherton)、ウィリアム・ケリー(William Kelley)、ポール・ウェイレン(Paul Whalen)である。

年齢と経歴から推察して、最初、ヘザートン教授が性不正を始めたと思う。

その後、順番は不明だが、ケリー教授、ウェイレン教授が加わった。この後から加わる過程はどんなだったのだろう。

同僚教授の悪行を知った時、通常、悪行に加わるより、悪行をただす方向に人間は行動すると思う。それが、どうして加わる方向になったのか? 3人の教授の関係なのか、各教授の性格・性情なのか、このような性不正の連帯加害行為を知ることは、その防止策を考えるうえで重要である。

しかし、公表された情報からは、状況が見えてこない。

同じように、ダートマス大学(Dartmouth College)の担当者がどうしてまともな対処しなかったのか、防止策を考えるうえで重要である。

しかし、こちらも、公表された情報からは、状況が見えてこない。

3人の加害者男性教授の妻や子供など家族の情報は入手できなかった。教授の自宅でお酒を飲むパーティに女性院生を招待し、レイプしている。妻や子供がいれば、20代の女性院生を泥酔させレイプする行為のブレーキにならなかったのだろうか?

さらには、教授は自宅で深夜のホットタブ・パーティ(“hot tub parties”)をしている。ホットタブ・パーティは水着を着ているのか全裸なのか書かれていない。どちらにせよ、妻や子供がいれば、20代の女性院生と以下のような混浴へのブレーキにならなかったのだろうか? 写真は今回の事件とは無関係だがホットタブ・パーティの感じをつかむために掲載した(非営利目的での再使用が許可された画像)。出典https://www.flickr.com/photos/joeshlabotnik/2204410433

しかし、公表された情報からは、教授の家族の状況が見えてこない。

《7》自殺

ダートマス大学3教授の院生レイプ事件の渦中、ダートマス大学・心理学脳科学科の学科長だったデイヴィッド・ブッチ(David Bucci)は、事件が一段落した2019年10月15日、50歳の若さで自殺した。

この自殺を、防げなかったのだろうか?

ダートマス大学の管理者側のマズさを指摘する記事もあった。白楽は、ブッチ学科長のケースを具体的に分析していないが、自殺を防げただろうと思う。

https://news.dartmouth.edu/news/2017/01/why-dont-even-start-doesnt-work-teenagers

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●5.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Todd Heatherton – Wikipedia
② 一連の「Dartmouth」記事:Advanced Search | The Dartmouth
③ 2018年6月13日の「Dartmouth」記事:Heatherton retires following sexual misconduct allegations | The Dartmouth
④ 2018年10月16日の「AFPBB News」記事:教授3人が性的暴行、学生ら米アイビーリーグ名門大を提訴 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News
⑤ 2018年11月15日の「Heavy」記事:Todd Heatherton, William Kelley, and Paul Whalen: 5 Fast Facts | Heavy.com
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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