企業:学術業(academic business):科学研究出版社(SCIRP:Scientific Research Publishing)(中国)

2018年12月4日掲載

ワンポイント:科学研究出版社(SCIRP:Scientific Research Publishing)はビール・リストに載っている捕食学術社で、中国の武漢に本部がある世界企業である。2007年に武漢大学のファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou)が設立し、現在も活発に活動を続けている。捕食学術の内容は既に記載してきたので、今回は、論文発表の多い日本の大学別ランキングを調べた。東京大学が第一位で476報の論文を発表していた。国民の損害額(推定)は100億(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】

科学研究出版社(Scientific Research Publishing)は、ビール・リストに載っていて、捕食学術社とされている。中国語だと「科研出版社」だが、本記事では英語の直訳に近い「科学研究出版社」を使う。英語の略、SCIRPもしばしば使用される。

2007年にファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou)が設立した。米国の南カリフォルニアに住所があるが、実務は、中国の武漢市で行なわれている。2014年時点の従業員は約160人だった。

2014年12月31日時点で、科学研究出版社は244学術誌を発行し、41,981報の論文を出版していた。100万人の読者がいた。編集委員が5,057人いて、年間約1万報の論文を出版した。

2018年12月1日時点で、200誌以上の学術誌を発行し、約6千人の編集委員を抱え、約78,480報の論文を出版していた。2018年の1年間に90回の国際会議を開催した(含・予定)。

捕食学術の内容は既に記載してきたので、今回の記事では、科学研究出版社に捕食論文を発表した研究者が所属する日本の大学別ランキングを白楽が調べ、別の大学別ランキングと比較した。東京大学が第一位で476報の論文を発表していた。

2018年12月1日現在、日本を含め、世界のどの国も、詐欺的な捕食学術をした科学研究出版社を、また発表した研究者を裁判にかけていない。

科学研究出版社(Scientific Research Publishing)の米国の住所は郵便局の私書箱。15642 Sand Canyon Ave, Irvine, CA 92619-9998, USA (post office)。写真は、グ―グルマップで白楽が作成。

科学研究出版社(Scientific Research Publishing)の中国・武漢の住所の航空写真。建物が見つからない。Tangxun Lake North Road #38, Wuhan 430223, Hubei Province, China。写真は、グ―グルマップで白楽が作成。

  • 国:中国。拠点が中国の武漢市にある世界企業
  • 集団名:科学研究出版社
  • 集団名(英語):Scientific Research Publishing 。英語の略、SCIRPもしばしば使用される。
  • ウェブサイト(英語):www.scirp.org
  • 集団の概要:2007年にファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou)が設立した。米国の南カリフォルニアに住所があるが、実務は、中国の武漢市で行なわれている。2014年時点の従業員は約160人。
  • 事件の首謀者:中国の武漢大学(武汉大学)のファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou)。中国語:周怀北
  • 分野:捕食学術
  • 不正年:2007年
  • 発覚年:2012年
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は特定しにくい。有力な人物として、ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)が捕食学術と指摘した。
  • ステップ2(メディア):ドイツのハンブルク応用科学大学(Hamburg University of Applied Sciences)のディーター・ショルツ教授(Dieter SCHOLZ)が調査し、まとめ、ウェブにアップした
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①
  • 不正:捕食学術
  • 不正数:200誌以上の学術誌、約78,480報の論文、毎年約90回の学術集会が捕食的(推定)
  • 被害(者):10万人以上の著者、100万人以上の読者
  • 国民の損害額:総額(推定)は100億(大雑把)

●3.【捕食学術社の内容】

科学研究出版社(Scientific Research Publishing)は、ビール・リスト (Beall’s List)に載っていて、捕食学術社とされている。中国の武漢大学(武汉大学)のファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou)が2007年に創設した。

★ファイベイ・チョー(Huaibei Zhou)

ファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou、中国語:周怀北、写真出典)の経歴。

  • 生年月日:1964年2月生まれ(周怀北_百度百科)。仮に1962年2月1日生まれとする。
  • 1980 – 1987年(16 – 23歳):中国の武漢大学(Wuhan University)で学士号・修士号取得:宇宙物理学
  • 1987 – 1990年(23 – 26歳):中国科学院(Chinese Academy of Sciences)で博士院生:宇宙物理学
  • 1990 – 1994年(26 – 30歳):米国のメリーランド大学カレッジパーク校(University of Maryland at College Park)で研究博士号(PhD)を取得:宇宙物理学
  • 1994 – 1995年(30 – 31歳):アメリカ国立標準技術研究所(National Institute for Standard and Technology)・ポスドク:計算機生物学
  • 1995 – 1998年(31 – 34歳):米国のゼネラル・エレクトリック社(General Electric)・上級エンジニア
  • 1998 – 2002年(34 – 38歳):米国のネクステル・コミュニケーションズ社(Nextel Communications)・上級マネージャー
  • 2002年(38歳)-現?:中国の武漢大学(Wuhan University)・教授。2018年12月1日時点では退職している?
  • 2002年(38歳)-現?:中国の武漢大学(Wuhan University)に科学技術先端研究センター(Advanced Research Center for Science and Technology)を創設し所長。2018年12月1日時点では退職している?
  • 2007年(43歳)-現:科学研究出版社(SCIRP、Scientific Research Publishing)を創設し社長

チョー教授の研究分野は、電波伝搬(radio wave propagation)を中心に、無線通信、ソフトウェアエンジニアリング、バイオインフォマティクスなどで、学術誌と国際会議で60以上の論文を発表している。

★科学研究出版社(Scientific Research Publishing)

2010年、科学研究出版社は、著者を変えただけのまったく盗用の論文を学術誌「Journal of Modern Physics and Psychology」に出版してしまい、問題だと指摘された。
→ 2010 年1月13日のキャサリン・サンダソン記者(Katharine Sanderson)の「Nature」記事:Two new journals copy the old : Nature News
→ Improbable Research » Blog Archive

科学研究出版社は、再度、学術誌「Psychology」でも盗用論文を出版した。指摘されて、チョー教授は単純な間違いだったと弁解した。

2013年、科学研究出版社は、学術誌「Open Journal of Pediatrics」で、福島第一原発事故後の2011年に、米国西部で生まれた赤ちゃんの甲状腺疾患者数は、前年の2010年に比べ16%増加したという論文を掲載した。この研究は、赤ちゃんの甲状腺疾患数は2011年は通常だが、2010年だけ特別少なかったという事実を考慮していないと、批判された。科学研究出版社は、この批判論文の無料掲載を拒否した。
→ 2015年5月16日の「Ottawa Citizen」記事:Spears: ‘Universe is Like Space Ship’ — and the problem with ‘predatory’ science journals | Ottawa Citizen

コロラド大学のジェフリー・ビール(Jeffrey Beall、写真出典)は「批判論文の無料掲載を拒否した」点で、捕食学術誌の危険性を指摘した。

このような間違いは、無料でも訂正されないと、風評被害が起こるし、間違った施策が実行されてしまう。

2014年、さらに科学研究出版社の学術誌「Advances in Anthropology(人類学の進歩)」の編集委員が大量に辞表を出した。元・編集長のファティマ・ジャクソン(Fatimah Jackson)によると、学術誌の査読プロセスに編集委員を関与させないなど、中国の編集スタッフによる巧妙で非倫理的行為が理由だと述べている。ジェフリー・ビール(Jeffrey Beall)によると、編集委員の大量辞任はオープンアクセス学術誌始まって以来の規模だったという。

結局、デタラメさの程度は掲載された論文によってイロイロだろうが、捕食学術誌とされた。

なお、科学研究出版社の論文は急成長を遂げている。
→ 以下の図の出典:2015年4月8日最終校正のディーター・ショルツ教授(Dieter SCHOLZ)のまとめサイト:Advances in Aerospace Science and Technology (AAST)

2014年12月31日時点で、科学研究出版社は244学術誌を発行し、編集委員は5,057人を抱え、41,981報の論文を出版していた。この年、約1万5千報の論文を出版した(上図)。100万人以上の読者に無料で論文閲覧を提供した。

2018年12月1日時点で、200誌以上の学術誌に累積で約78,480報の論文を出版していた。2018年の1年間に90回の国際会議を開催した(含・予定)。

ファイベイ・チョー(Huaibei Zhou)http://yjsw.hzau.edu.cn/info/1026/3189.htm

以下は、ファイベイ・チョー(Huaibei Zhou)の講演スライドです。白楽はサイズをうまく調整できません(ゴメン)。

★日本の大学ランキング

2018年12月1日現在、科学研究出版社(Scientific Research Publishing)は約78,480報の論文を出版している。日本の大学別の論文数を白楽が調べた。

方法:サイト https://www.scirp.org/journal/Articles.aspx で検索サイトを出す。下記の図のように、赤丸した「Affiliation」「Complete Matching」にチェックを入れる。大学名を英語で入力し(図ではKyushu University)、橙色の「Search」をクリックすると、検索できる。検索後、最下段の「Last」をクリックし、ページ数当たり20報とし、最後のページの端数を数え加算した。

2015年12月のデータと並列した。
→ 2015年12月18日のデータ、名古屋大学宇宙地球環境研究所の奥村曉:「まともではない論文誌」への投稿数が最多の日本の大学は? – 宇宙線実験の覚え書き

 大学名 2015年12月 2018年12月(白楽)

  1. 東京大学 107        476 ①
  2. 九州大学   99         105
  3. 東北大学   94                    145  ④
  4. 北海道大学  90                    121
  5. 新潟大学   84                    144  ⑤
  6. 京都大学   78                    116
  7. 金沢大学   77                    104
  8. 日本大学   72                    123
  9. 大阪大学   71                    181  ②
  10. 名古屋大学  69                    151  ③

2018年12月1日時点での白楽の調査では、東京大学が第1位である。第2位が大阪大学、第3位が名古屋大学である。東京大学、大阪大学、名古屋大学はこの3年間で2~4倍と急伸している。

なお、以下の毎日新聞のデータとは、対象学術誌が異なるためか、数値も順位も異なる。

結論として言えることは、捕食論文は国立私立を問わず、日本の一流大学の教員に幅広く浸透しているということだ。特定の大学ではない。特定の分野でもない(ここでは示していないが)。

【追記】2019年4月12日、匿名希望の読者から以下のご指摘を受けました。

東京大学が第一位とのことですが、当該出版社の検索システムにUniversity of Tokyoと入れた場合、Complete Matchingで検索しても、”xxx University, Tokyo, Japan”という表記の所属もヒットするので、実際の完全一致の数(200程度)よりも多い結果となります。この3年で急増したわけではありません。

●「ハゲタカジャーナル」に名大と新潟大が対策 閲覧有料
毎日新聞2018年10月10日
https://mainichi.jp/articles/20181010/k00/00m/040/164000c

毎日新聞の鳥井真平記者は、2018年10月10日の記事で、2003年~2018年5月末の捕食論文数を数え、大学別ランキングを掲載した(以下の図:出典)。なお、「ハゲタカ」という用語は止めて欲しい。「捕食」です。

毎日新聞の記事では、327誌を調べたとある。

どの出版社の学術誌なのか書いていないが、出版社は科学研究出版社(Scientific Research Publishing)の可能性が高い。というのは以下の記事があるから。

日本国内の大学で一番寄稿数の多い所はどこだろう? という疑問から、SCIRPのデータを解析して問題提起をしたのが、和歌山大学の和田俊和教授でした。(出典:【追記あり】海外のエセ論文誌に一番多く寄稿している日本の大学はどこ? | ギズモード・ジャパン

2016年7月28日、知識連鎖も関連記事を書いている。
→ 偽学術論文誌を悪用している日本の大学ランキング 驚きの1位は? – 知識連鎖

●4.【白楽の感想】

【捕食学術に関する白楽の記事リスト】

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●5.【主要情報源】

① Scientific Research Publishing – Wikipedia
② 2015年4月8日最終校正のディーター・ショルツ教授(Dieter SCHOLZ)のまとめサイト記事:Advances in Aerospace Science and Technology (AAST)、(保存版
③ 2012年8月3日の「南方日报」記事:美国科研出版社疑为野鸡学术网注册地为武汉_文化读书频道_新浪网
④ 2014年11月19日、ファイベイ・チョー教授(Huaibei Zhou)の発表スライド:Open Access Publishing The Future of Academic Publishing Dr. ZHOU,Huaibei Scientific Research Publishing November 19 th ppt download

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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