7-34.捕食会議は踊る

2019年3月28日掲載。

白楽の意図:今や、営利企業による捕食会議(“Predatory” conferences)の開催数は、真正な学術団体の会議数を上回っていると述べる、2017年10月のジャック・グローブ(Jack Grove)の「Times Higher Education」記事を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

記事なので、概要省略。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

TSL staff. Jack Grove. 14th August, 2013. Photo: Eleanor Bentall Tel: 07768 377413
  • 単著者:ジャック・グローブ(Jack Grove)https://twitter.com/jgro_the
  • 写真:https://www.timeshighereducation.com/content/jack-grove-0
  • 履歴:
  • 国:英国
  • 生年月日:英国(?)。現在の年齢:44 歳?
  • 学歴:英国のブリストル大学(University of Bristol)、学士号取得:英語学
  • 分野:高等教育キャリア
  • 論文出版時の地位・所属:ライター。タイムズ・ハイアー・エデュケーション社:Reporter — Times Higher Education.

タイムズ・ハイアー・エデュケーション社:THE World Universities Insights Limited、26 Red Lion Square、London WC1R 4HQ。グーグルマップで白楽が作成

●3.【論文内容】

★序論

世界中で捕食会議(“Predatory” conferences)が開催され、その開催数は、真正な学術団体が開催する会議の数を上回るようになった、と研究者は警告している。

この問題を研究している日本の大東文化大学・経営学科のジェームス・マクロスティー准教授(James McCrostie、写真出典)は、数万人の研究者が今や価値の疑わしい捕食会議で論文を発表するためにお金を払っている、と指摘する。というのは、国際会議での研究発表が「信じられないほど強く求められ」、多くの場合、国際会議での発表という業績があるかないかで、研究者としての採用や昇進が決まってくるからである。

「私は日本で開催される捕食会議に、ほぼ毎週、出席できます」とマクロスティー准教授が皮肉るほど、日本でもたくさんの捕食会議が開催されている。

★ワセット社(Waset)の国際会議

2017年10月初め、英国のサイバーセキュリティ研究者(男性)が、デンマークのコペンハーゲンで開催されたワセット社(Waset:WEngineering and Technology)主催の国際会議に参加した。タイムズ・ハイアー・エデュケーション社(Timeorld Academy of Science, s Higher Education)の記者は、そのサイバーセキュリティ研究者を取材した。
→ 企業:学術業(academic business):ワセット社(WASET:World Academy of Science, Engineering and Technology)(トルコ)2018年11月28日掲載

この会議は「第19回政治心理学国際会議(19th International Conference on Political Psychology)」という名称の国際会議で、この分野の「研究者、実務家、教育者のための学際的なプラットフォームである」と宣伝されていた。

しかし、デンマークの国際会議に参加した英国のサイバーセキュリティ研究者は、とてもがっかりしたと述べている。研究発表は1日目の朝に2時間と2日目の朝の1時間に圧縮されていた。そして、1つの会場での参加者はわずか10人ほどだった。

彼以外の講演者は、ロボット、太陽エネルギー、イスラム金融、食品の安全性などの多様な課題を取り上げて発表した。つまり、「複数の会議」が「1つの会場」で行なわれた。

「私は会議登録料の450ユーロ(約54,000円)に加えて、飛行機代と2泊分の宿代で400ポンド(約56,000円)が無駄になった」と彼は憤慨した。

彼はその後、2017年だけで、ワセット社(Waset)の国際会議の参加者リストに153人の英国の研究者が登録されていることを見つけた。彼らが同じ支払いをしたなら、ワセット社(Waset)は68,850ユーロ(約826万円)の会議登録料を得たことになる。

そして、ワセット社(Waset)は、2018年にアラブ首長国連邦で183回の国際会議を開催する予定を発表している。2030年末まで、ほぼ毎日、国際会議の開催が予定されている。

★餌食

マクロスティー准教授が説明する。

「研究者がなぜこのような国際会議へ参加するのか、多くの人は疑問に思うかもしれません。しかし、経験の少ない研究者は、捕食会議のウェブサイトは従来の真正な国際会議とほぼ同じなので、簡単にだまさせてしまうのです」。

「少し調べれば、いい加減な捕食会議だとわかったはずだと指摘する人が多いのですが、「少し調べる」のは、疑念を抱いたからなのです。多くの研究者は疑念を抱かずに参加してしまうのです」と述べた。

マクロスティー准教授の米国の共同研究者たちは、この国際会議「政治心理学国際会議(International Conference on Political Psychology)」は、真正な学会である国際政治心理学会(International Society of Political Psychology)が主催した国際会議だと信じていたそうだ。

「私たちはグーグル検索で、この国際会議を見つけました。ニッチな国際会議を探していてそれが見つかった時、正常な国際会議と思いました。一般的に、教授たちは、博士課程の院生に国際会議で講演する機会を与えたいと思っています。しかし、権威が高い国際会議に院生を行かせるのは早すぎる。それで、適当な国際会議に院生を発表させたい。そして、ワセット社が開催するような捕食会議の実態を、教授たちは何も知らないのです」。

ロンドンで行なわれた最近のワセット社の国際会議は2017年10月19日にホリデイインで開催された(白楽注:記事は2017年10月26日)。ワセット社のウェブサイトによると、この日、387個の別々の会議が開催されることになっていた。

マクロスティー准教授は「私は捕食会議の知識がありませんでした。大学はこれらの捕食会議についてもっと知る努力をし、所属の教員・院生に伝えるべきです」と大学も無対処を批判した。

なお、タイムズ・ハイアー・エデュケーション社(Times Higher Education)はここで取り上げたワセット社に取材を申し込んだが、取材できなかった。

マクロスティー准教授は、「ワセット社のように、さまざまな分野を組み合わせて1つの会議にまとめる学際的なイベントは、危険・警戒の赤信号です。しかし、捕食会議を知らない研究者・院生もいます」。だから、英国の研究者・院生たちが捕食会議の餌食になったことに驚かないそうだ。

★アクション

「大学、特に大学院は、この問題に対する意識を高めるための努力を何もしていません。問題は、国際会議の招待状を受け入れ、発表論文を提出する前に、その国際会議の開催者を調査していないことです」。

「研究者たちは、どの国際会議に参加するかの選択では、時期と場所の考慮に多くの時間を費やすが、開催組織の背後の組織についてはほとんど調べません」。

マクロスティー准教授は、「今や、営利企業による捕食会議(predatory conferences)の開催数は、真正な学術団体が開催する会議数を上回っています。捕食会議の主催者は需要を満たすために、猛烈で上手な営業活動をしています」。

「学術の質を維持するためには、今、何らかの行動をとるのが急務です」、とマクロスティー准教授は警告している。

●4.【関連情報】

①【捕食学術リスト】
捕食学術誌への悪ふざけリスト(1)
捕食学術の記事リスト(1)

②日本語記事(目についたのを適当に)

③英語記事(目についたのを適当に)

https://www.japantimes.co.jp/community/2016/05/11/issues/predatory-conferences-stalk-japans-groves-academia/#.XIywwCj7Rdg

●5.【白楽の感想】

《1》担当部署

今回紹介した論文は2017年10月26日の記事で、「学術の質を維持するためには何らかの行動をとるのが急務だ」と警告している。

それから1年半経過した2019年3月27日現在、日本は、何らかの行動をとっているのか?

毎日新聞の鳥居記者が熱心に記事にしたおかげか、いくつかの大学(の図書館)は捕食「論文」についての警告を発している。一方、捕食「会議」については、どうだろう。

捕食「論文」は大学図書館のテリトリーだが、捕食「会議」は大学図書館のテリトリーではない。それで、図書館は動かない。大学の動きは鈍い印象である。

《2》共依存

捕食論文の記事で何度か書いたが、研究者・院生が捕食学術誌の餌食ではなく、共依存という説が大きい。

捕食学術誌と知っていて論文原稿を投稿する研究者・院生が、実は、かなり多い。

同じように、研究者・院生は捕食会議と知っていて、参加する。

捕食会議は世界の有名な観光地で開催される。研究者・院生は研究費から参加費と旅費を得る。だから、いい加減な会議で自分が15分程度発表し、あと、3日くらい遊んで帰国する。会議主催者はこれを承知でアリバイつくりに協力してくれる。実際、会場で参加者が発表している写真を撮ってくれ、ウェブに会議録と共にアップしてくれる。これが、研究発表した証拠になる。

つまり、かなり多くの研究者が研究費で遊んでいるのが実態のようだ。

もっとも、真正な国際会議でも、会議中に遊ぶプログラムが組まれ、懇親という名目でご馳走を食べる晩餐会・懇親会はある。

《3》データ

今回紹介したジャック・グローブ(Jack Grove)の「2017年のTimes Higher Education」記事は、営利企業による捕食会議(“Predatory” conferences)の開催数は、真正な学術団体の会議数を上回っていると述べている。

しかし、この事は事実かどうか疑わしい。記事中で証明していない。マクロスティー准教授の“印象”をそのまま使っただけだ。

白楽は、世界中で開催している学術会議(真正と捕食)の数、参加者数、参加費の統計的データを見たことがない。

データがどこかにあるのだろうか? どこかが把握しているのだろうか?

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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